著者
上田 新也
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

今年度は、前年度以前にベトナム中部のフエ周辺域で収集した感じ・チュノム史料の整理、サマリーの作成をおこない、以下の事実が判明した。ベトナム・フエ周辺域においても、ベトナム北部と同様に「亭(ディン)」と呼ばれる施設が存在しており、現在も土地台帳・人丁簿・納税関連文書などの史料群が保管されていることから、村落行政の中心的施設であったことを窺わせる。これは、村落運営の面で亭が中心的役割を果たしていたベトナム北部と同様である。しかし、集落内に存在する「勅封」と呼ばれる史料群を考察すると、フエ周辺域の集落に存在する亭で祀られる神位は単に「タインホアン」を祀っているといわれるのみで、ベトナム北部のように「~~之神」のような固有名称を持ち合わせていない。このように、フエ周辺域の集落においても亭が行政的な中心だったのは間違いないが、進攻面では非常に貧弱である。一方で各氏族の始祖は同時に開耕神とされ、亭に祀られているケースも多く、ベトナム北部に比べると血縁集団の勢力ははるかに強い印象を受ける。フエ周辺域の集落に存在する亭は、村人の信仰に基づいて自発的に建設されたものというよりは、19世紀の阮朝期以降に行政側の主導により整備されていった可能性が高い。また、今年度は如上のようなベトナム中部地域社会の研究を進めると同時に、これまでまったく目録が作成されてこなかった漢喃研究院所蔵の碑文史料の整理作業をおこない、『Tong tap thac ban Han Nom』に収録されている各碑文を地域ごとに分類して目録を作成し、出版した。
著者
宇都 義浩
出版者
徳島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究目的は,従来のニトロイミダゾール型低酸素細胞放射線増感剤にp53を"一過的かつ可逆的"に阻害する機能を付加することにより低酸素腫瘍細胞の放射線感受性を高めつつ,腫瘍組織周辺に存在する正常細胞の細胞死(副作用)を低減するバイファンクショナル低酸素細胞放射線増感剤の開発である.本年度は,TX-2004,TX-2071及びTX-2072を用いて,野生型p53を組み込んだH1299/wtp53細胞と変異型p53を組み込んだH1299/mp53細胞に対する温熱死の防護効果を調べた.コントロール化合物としてpifithrin-αおよびpifithrin-βを用いた.その結果,H1299/wtp53細胞において,TX-2004はpifithrin-αおよびpifithrin-βと同等のp53依存的細胞死の防護が見られた.しかしながら,H1299/mp53細胞においても細胞死が見られたことから,p53特異的な作用機構であるとは決定できなかった.次に,更なる構造活性相関としてTX-2004のメチレンリンカーの長さを変化させたTX-2088(メチレン鎖=3)及びTX-2112(メチレン鎖=4)を合成し,同様にp53依存的細胞死の防護を調べた.その結果,H1299/wtp53細胞の温熱処理による細胞死に対して,TX-2088はTX-2004よりも高い防護効果を示した.よって,標的部位は不明であるが,イミノチアゾール骨格と2-ニトロイミダゾール骨格の間の距離にはある程度の自由度があり,メチレン鎖が3つのTX-2088の方がより空間的相互作用が有利に働くと考えられる.これらの結果は本研究にて初めて得られたものであり,本研究目的である「p53の阻害を介して正常細胞へのダメージを軽減する低酸素細胞放射線増感剤の開発」に対して極めて重要な知見であることが示唆された.
著者
松本 佳彦
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

漸近的対称空間にはさまざまな種類があるが、本研究においてもっとも基本的な対象となるのは漸近的複素双曲空間(ACH空間)である。初めの課題としたのは、ACH空間であってアインシュタイン方程式を満たすようなもの、すなわちACHアインシュタイン空間に存在すると考えられる、一種の複素構造(正確には概複素構造)についての考察であった。候補となるような数種類の概複素構造に関する直接的な検討を行い、また研究協力者との議論を行っている。それと並行して、作業仮説を検証するためのテストケースとして用いることを意図して「ACHアインシュタイン空間であって、特に大きな対称性を持つものを構成する」というアプローチに取り組み、これには明確な進捗があった。構成にあたり生じる困難を具体的に把握するために、漸近的双曲アインシュタイン空間(AHアインシュタイン空間)も合わせて考えることにして、複数の手法を検討したところ、AHアインシュタイン空間についてはある手法が特に有効であることがわかり、結果としてPedersenによる構成(1986年)の高次元化が得られた。ACHアインシュタイン空間には現時点ではより原始的な手法しか通用せず、その効力も限定的なのであるが、引き続き研究を進めている。この他、ACHアインシュタイン空間に関する研究の世界的な状況について、韓国多変数関数論シンポジウム報告集にサーベイ論文を寄稿した。また、国内およびアメリカ(2017年8月より滞在)の複数の大学のセミナーや、メキシコで開かれた「The Third Pacific Rim Mathematical Association Congress」、東京で開かれた「Geometric Analysis in Geometry and Topology 2017」において、関連する内容の講演を行った。
著者
江田 真毅
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

家禽(ニワトリ、シナガチョウ、アヒル)の飼育は、新石器時代の中国北部で最初に始まったとされ、とくにニワトリの飼育は約10,000年前まで遡るとされてきた。本研究では、家禽化プロセスの解明のために、中国中部・北部の新石器時代と青銅器時代を中心に計23遺跡から出土した鳥類骨を調査した。その結果、新石器時代前期および中期の遺跡ではニワトリの可能性のある骨は皆無であり、また新石器時代後期や青銅器時代の遺跡でもニワトリの可能性のある骨の出土は稀だった。このことは、新石器時代前期や中期におけるニワトリの飼育を否定するとともに、青銅器時代においてもニワトリの利用は稀であったことを示唆すると考えられた。
著者
池田 富士雄
出版者
高知工業高等専門学校
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

分数階微分(Fractional Calculus)を用いた数理モデルである分数階微分方程式モデル(FCモデルとよぶ)に基づく制御系は、従来の整数階微分方程式モデルに基づく制御系に比べて、本質的に非線形要素に対してロバストであることが理論的に明らかにされつつあり、実験的にもその有効性が確認されている。本研究での目的は、非線形要素の種類を陽に考慮することなく設計することができ、かつ調整も容易な、FCモデルに基づく制御系設計法を提案することである。そして非線形要素の一種であるアンプの飽和や、ギアのバックラッシ、摩擦などに対してFCモデルを適用し、計算機シミュレーションおよび実験的検証により、提案した設計法の有効性を示すことである。昨年に引き続き本年度は、当初の研究計画に従い以下の研究を実施した。1.従来の制御系設計法を拡張することにより、制御対象の非線形系に対して適切なFCモデルに基づく制御器による設計法を提案し、具体的なアルゴリズム、設計手順を開発した。2.製作した実験装置に対して制御実験を行い、さらにより良い性能が得られるためのパラメータの調整等を行い、制御器の改良を進めた。3.学術論文への投稿および掲載(1件)、国際会議等での発表(2件)を行った。
著者
石戸谷 重之
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

陸上植物活動に伴う酸素・二酸化炭素交換比(ER)を森林生態系の呼吸・光合成量の分離評価に応用することを目標とし、飛騨高山落葉広葉樹林サイトにおいて土壌チャンバーおよび葉チャンバーにより土壌呼吸および光合成+葉呼吸による ER を観測した。併せて大気中酸素濃度の高精度連続観測装置を開発し、森林内大気中濃度変動における ER を観測した。得られた ER と森林内酸素/二酸化炭素収支の 1 box model とを用いた解析により大気-森林間フラックスにおける ER を推定し、森林内大気中濃度変動における ER との関係を明らかにした。今後は、森林生態系の呼吸・光合成量の分離評価のため、大気-森林間フラックスにおける ER の直接観測による導出が課題となる。
著者
静間 俊行
出版者
独立行政法人日本原子力研究開発機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

レーザー光と高エネルギー電子との相対論的コンプトン散乱よって生成される準単色ガンマ線ビームを用いて、カリウム39の光反応断面積測定を行った。光核反応実験は、兵庫県立大学・高度科学技術研究所の電子蓄積リング施設(ニュースバル)において行った。エネルギー約1GeVの蓄積リング電子とNd : YAGレーザーを用いて、約17MeVの最大エネルギーをもつ準単色ガンマ線ビームを生成し、塩化カリウム標的に照射した。使用したガンマ線の強度は、毎秒約0.5〜1×10^6個であった。このガンマ線ビームを、直径15mm、厚さ20mm(2.2g/cm^2)の塩化カリウム標的に照射し、光核反応によってカリウム39を放射化し、ベータ崩壊の後に放出されるカリウム38のガンマ線を、ゲルマニウム検出器を用いて測定した。Eu-152、Y-88標準線源を用いて、ゲルマニウム検出器の検出効率の校正を行った。また、GSOシンチレーション検出器を用いて、入射ガンマ線の強度測定を行った。さらに、モンテカルロシミュレーションコードEGS4を用いて、入射ガンマ線のエネルギー分布を評価した。その結果、カリウム39からカリウム38の基底状態への光核反応断面積として、ガンマ線平均エネルギー15.9MeVに対して、0.5〜1mbが得られた。今後、入射ガンマ線強度のより精密な評価や標的材によるガンマ線の吸収の効果を考慮し、光核反応断面積のより正確な評価を行う予定である。
著者
浅川 誠
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本年度は2年計画の最終年度としてサイクロトロンレーザ発振実験及び実験結果の解析を行い、以下の成果を得た。●サイクロトロンレーザー発振実験(1)自発放射光のスペクトルを測定した。今回の実験条件である磁束密度1T、磁場長3m、電子ビームエネルギー150MeVでは、電子はソレノイド磁場を通過する間に半回転しかサイクロトロン旋回しない。サイクロトロン共鳴波長は100μmであるにも関わらず、自発放射光はテラヘルツ波帯からミリ波帯にかけて非常に広帯域なスペクトルを示した。(2)光共振器を構築し発振実験を行った。電子ビーム伝送系のミスマッチングのためレーザー光は飽和には至っていないが、自発放射光強度の500倍程度にまで出力が増大した。●数値シミュレーションによる実験結果の解析(1)自発放射光の時間波形及びスペクトルを計算し、実験で得られたスペクトルと比較した。半回転のサイクロトロン旋回を行う電子からのサイクロトロン放射光は、共鳴周波数にかかわらず電子ビームのパルス幅と同程度の時間幅を持つ半周期電磁波を発生することが分かった。半周期電磁波とは通常の電磁波のように電場が正負の値をとらず、正値(あるいは負値)のみを取る電磁波の事を言う。シミュレーションで得られたスペクトルは、実験結果とよく一致しており、観測した放射光は半周期電磁波であると考えられる。(2)一次元の増幅シミュレーションコードを開発した。このコードにより、放射光が電子と相互作用するたびにそのパルス幅を狭めてゆき、飽和レベルに達する時には1psの極短パルスになることが分かった。この時スペクトルはより高周波側に広がり、相当量のテラヘルツ成分を持つようになることが分かった。以上の結果は超相対論的な電子ビームからのサイクロトロン放射を利用することでテラヘルツ帯の超短パルス/大出力光源が実現可能であることを示すものである。
著者
石川 享宏
出版者
公益財団法人東京都医学総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

小脳は運動学習において重要な役割を担っていると考えられ、学習すなわち入出力関係の調節は、下オリーブ核から小脳皮質に投射する登上線維入力によって制御される。したがって登上線維入力の生成メカニズムを明らかにすることができれば、小脳を介して適応的に運動を調節・制御する脳内メカニズムの理解が大きく前進すると期待される。本研究の目的は下オリーブ核に情報を伝達する神経回路と、それらの情報によって登上線維入力が生成される生理学的なメカニズムを解明することである。当該年度においては、小脳の中でも特に大脳皮質との間にループ状の神経回路を形成する大脳小脳に注目し、まず始めにマウスを用いて大脳運動野や末梢神経の電気刺激に対する応答を調べた。その結果、大脳小脳の一部であるCrus Iにおいて、両方の刺激に対して登上線維入力に伴う複雑スパイクが生じるプルキンエ細胞が多数観察された。刺激から応答までの潜時がほぼ同じ(12 msec)であることから、Crus Iに登上線維を送る下オリーブ核の一部(主オリーブ核)において中枢および末梢からの入力が同一の細胞に収束していると考えられる。そこで脊髄の一部(C5-7)に順行性の神経トレーサーを注入したところ、主オリーブ核の一部に直接投射していることが確認された。従来、主オリーブ核は主たる入力を大脳皮質から赤核経由で受けるとされてきたが、実際には脊髄からの直接入力も受けており、電気生理実験の結果が示すように大脳小脳において運動時には運動指令と感覚フィードバックのいずれに対しても登上線維入力が生成されうることが示された。
著者
金村 久美
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

日本語の長音と短音の区別は、外国人にとって習得しにくい。この研究では、長母音と短母音の区別のあるタイ語の母語話者は、母語の正の転移の影響を受け、日本語の母音の長短を容易に習得できるのかどうかを、母音の長短の区別のないベトナム語話者を比較対象として調査した。その結果、タイ語母語話者は日本語母語話者とは異なるパターンで日本語の長さの対立を知覚しており、母音の長短の習得上特に有利であるとはいえないことが明らかになった。
著者
辛 星漢
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究開発では、既存のパスワード認証方式を理論的に分析した上、効率がよくてかつ厳密な安全性証明ができる新しいパスワード認証方式を提案する理論研究とともに国際標準団体でのその標準化活動を行った。理論研究の成果としては、既存のパスワード認証方式の安全性を分析し、新たな(匿名)パスワード認証方式を提案した。国際標準化活動の成果としては、IKEv2 へ適用したパスワード認証方式(AugPAKE)の仕様が国際標準団体IETF より新たな規格 Experimental RFC 6628 として承認・発行された。
著者
伊藤 清亮
出版者
金沢大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

クリオグロブリン(Cryo)血症性糸球体腎炎のモデルマウスを作成することを本研究の目的とし、Cryo血症患者よりCryo活性を持つIgM型モノクローナルRF(Cryo+IgM mRF)産生ハイブリドーマを樹立し、Balb/cマウスに投与した。その結果、尿中アルブミンの増加が認められた。腎組織の検討では、管内増殖およびメサンギウム細胞の増殖、Cryo+IgM mRFの糸球体への沈着を認めた。腎組織の変化は軽度であったが、Cryo血症性腎炎モデルマウス樹立の基礎となるデータが得られた。
著者
中野 亮
出版者
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

モモ、クリ果実の主要害虫であるモモノゴマダラノメイガ(以下本種)において、オスが超音波からなる短いパルスと長いパルスを交尾に用いることを明らかにした。短いパルスは、食虫性のキクガシラコウモリが捕食時に発する超音波とパルス構造が極めて似ており、交尾の競合相手となる他個体のオスの接近を阻害した。また、短いパルスは多様なチョウ目害虫(アワノメイガ、ノシメマダラメイガ等)の飛翔をも効率よく抑制した。聴神経の電気生理実験の結果とあわせ、周波数40-60 kHz、パルス長20-30 ms、パルス間間隔(静音部)25-45 msの超音波が、チョウ目害虫の飛来を効果的に阻害することを突き止めた。
著者
池島 信江
出版者
大阪市立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

疲労状態を客観的に定量化することは未だに確立されていない。ラット疲労モデル動物において疲労負荷により下垂体での形態異常が見られることから、疲労負荷を与えたラットの末梢血中における下垂体ホルモン変化を調べたところ、α-Melanocyte stimulating hormone(α-MSH)の上昇が認められた。この結果をさらにヒトへと発展させ、著しい疲労感を呈する慢性疲労症候群(Chromatic Fatigue syndrome ; CFS)についてα-MSHの血漿中濃度を調べたところ、CFS群は健常者群より有意にα-MSHの値が高いことが示された。α-MSHは過労のバイオマーカーの一つになることが明らかにされた。
著者
中村 和正
出版者
福島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

天然物由来および人工物由来の原料より、環境負荷を考慮して、新規浄化材料に適用可能な磁性多孔質カーボンナノファイバーおよび磁性多孔質バルク体炭素材料を作製した。それらの材料は、原料段階にて磁性流体を用い、磁性微粒子を添加することにより、高保磁力を有した。磁性多孔質カーボンナノファイバーは、原料へのヨウ素処理の有無で、細孔制御の可能性が示唆された。また、磁性多孔質バルク体炭素は、より粒子径の小さい熱可塑性ビーズを添加することにより、表面および断面ともに多数の気孔を生成させることが可能となった。
著者
竹下 文雄 村井 実
出版者
熊本大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

ハクセンシオマネキのオスにおける複数の求愛シグナルの適応的意義について研究を実施した。メスは時間あたりの求愛音の発音回数が多いオスを好んだ。餌の利用可能性が高いオスではattraction waveの頻度および血漿ラクトース濃度が増加した。近隣オスの妨害行動によりペア形成率は低下した。物理的な障害物によりメスの配偶者選択に要する時間は増加した。オスの甲と大鉗脚における色の変化パターンは異なった。これらの結果より、オスの各シグナルはメスの配偶者選択の基準として用いられる可能性が高いが、その機能は異なり、それぞれの個体が置かれた社会的・物理的環境下で各シグナルの有効性は異なる可能性が示唆された。
著者
山本 長紀
出版者
木更津工業高等専門学校
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究課題である「高専における語彙学習を促進するタスクベースカリキュラムの開発」を目的とし、平成29年度は「タスクの理論的枠組の提唱」を目標に文献研究や国内外の調査を行った。語彙学習に関しては、瀬川・山本・岩崎・荒木・小澤(2018)などの実証研究を行った。タスクの理論的枠組みに関しては、藤田(2017)や杉浦(2009)のように高専におけるニーズ分析を行う必要性を本研究に組み込むことを確認し、次年度実施するよう計画している。当初計画に加えて研究推進のための手法が増えたものの、本研究は概ね順調に進行している。
著者
伊藤 穣
出版者
独立行政法人日本スポーツ振興センター国立スポーツ科学センター
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は,低酸素環境と高酸素環境との組み合わせを用いて,スプリント競技や球技など比較的高強度のスポーツ種目に対して効果的なトレーニング(低酸素、高酸素複合トレーニング)プログラムについて体系的に明らかにすること,およびオリンピック等の国際大会における日本選手のさらなる飛躍に向け,世界に先駆けて実践することである。この目的を達成するため,本研究では,以下の課題を設定している。【研究課題1】低酸素、高酸素複合トレーニングプログラムの開発 課題1-1負荷特性の相違の検討 課題1-2トレーニング効果の検討課題1-3個人差の検討【研究課題2】低酸素、高酸素複合トレーニングプログラムの実践 このうち,平成19年度は,平成17〜18年度の結果を受け,低酸素環境下における高強度運動時の負荷特性ついて再検討した。具体的には,男子大学生8名を対象として,低酸素環境下(標高3000m相当)または常酸素環境下において自転車エルゴメータを用いた30秒間の全力ペダリング運動を実施させ,運動の前後に,筋バイオプシー法による筋サンプルの連続採取を実施することによって筋中エネルギー基質の変化を比較した。ここで,筋サンプル採取のタイミングは,運動前,運動終了直後,30秒後,1分後,2分後および5分後とした。その結果,外界の酸素濃度に差があるにも関わらず,発揮パワーには環境間で差が認められなかったこと,および筋中乳酸濃度が低酸素環境下で高値を示す傾向が認められたことから,低酸素環境下における全力ペダリング時には,筋エネルギー代謝がシフトしている可能性も考えられた。本研究の結果は,低酸素環境を用いたトレーニングによってスプリント能力を向上させることができる可能性を示した点において,高強度な運動形態を有する多くの競技現場に対して有益な示唆を与えるものと考えられる。
著者
金子 寛
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

エリスロポエチン(EPO)は赤血球造血を亢進させるサイトカインであり、低酸素刺激に応答してその発現量は増強される。しかし、近年、上皮系細胞の一部では、EPO遺伝子の発現がGATA転写因子群によって抑制されていることが示された。本研究では、遺伝学的および薬理学的手法によるGATA因子の機能抑制が、EPO発現の抑制を解除し、酸素濃度に依存せずに、異所性にEPO発現を誘導することを明らかにした。本研究成果は、EPO産生量低下に起因する腎性貧血治療の新しい創薬標的を切り開くものである。
著者
島田 ひろき
出版者
金沢医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

13年度の研究成果より,マウスにおいてパラコート(PQ)解毒系として,肝臓の薬物代謝系酵素(NADPH-cytochrome P450 reductaseおよびCYP3A,2B)が働いていることがin vivo実験で明らかとなった。そこで,本年度はPQ代謝経路がどの様に関わっているかを更に詳細に明らかにするため,マウス肝ホモジネートよりポストミトコンドリア画分,ミクロソーム画分およびサイトゾルを調製し,in vitroでのPQ代謝活性を測定した。マウス肝ホモジネートをPQとNADPHとともに反応させると,PQが減少し,代謝中間体であるparaquat-monopyridone(PM)が生成した。CYP3A阻害剤であるtroleandomycinはPQの減少を抑制し,PMを増加させた。また,PMはミクロソーム画分ではなくサイトゾルで生成していた。フェニトインによってマウス肝のCYP3Aおよび2Bを誘導すると,ポストミトコンドリア画分でのPM生成が減少したが,サイトゾルでは変化が見られなかった。これらの結果より,PQはサイトゾルでPMとなった後,小胞体薬物代謝酵素系によって水酸化解毒されることが明らかとなった。これまでに我々はPQ毒性発現がミトコンドリアにおけるフリーラジカル生成によるものであること,細胞膜透過性フリーラジカルスカベンジャーが毒性を抑制することを明らかにしている。そこで次に,リファンピシンやフェニトイン処理によってCYPを誘導したマウスにPQを投与し,引き続きフリーラジカルスカベンジャーであるα-トコフェロール(α-T)を繰り返し静注投与した。その結果,PQ単独投与では生存率が40%だったのに対し,CYP誘導とα-T投与によって100%にまで回復した。以上のことから,PQ中毒においてCYP誘導とα-T投与が有効な治療となりうることが強く示唆された。