著者
安部 友佳
出版者
昭和大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

顎口腔系に破壊的な作用をもたらす睡眠時ブラキシズムは補綴歯科治療の予後を左右する重要なリスクファクターであるが、その発症メカニズムは明らかでない。本研究では、研究代表者が過去に示した遺伝子多型リスクアレルを指標に、睡眠時ブラキシズム特異的 iPS細胞を樹立して神経細胞を誘導してその表現型の電気生理学的特性を明らかにすることを目的としている。2016年度までの時点で、セロトニン2A受容体遺伝子(HTR2A)のrs6313(T102C)の一塩基多型(SNP:single nucleotide polymorphism)の解析を行い、睡眠ポリグラフ(PSG)検査を用いた睡眠時ブラキシズムの診断とリスクアレルであるC alleleの有無が合致する被験者(睡眠時ブラキシズム群3名、コントロール群3名)を選定してiPS細胞から神経細胞を分化誘導した。2017年度には、それらの誘導した神経細胞の中からセロトニン2A受容体発現神経細胞を識別するため、Venusを挿入したレポーターレンチウイルスを作成して浮遊培養開始後12日目に神経細胞に感染させた。その結果、レポーター蛍光反応を示す細胞が識別可能であることを確認した。さらに、電気生理学的検討を行っていくために、睡眠時ブラキシズム患者由来の神経細胞と、コントロール群由来の神経細胞からそれぞれ、前述の方法にてセロトニン2A受容体発現神経細胞を選択し、ホールセルパッチクランプを行った。その結果、生体の神経細胞と同様の、静止膜電位と、電圧負荷をかけた際の活動電位の発生を確認した。
著者
田島 悠来
出版者
同志社大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究では、日本全国の特定の地域(場所)に根ざした活動を行う「ご当地アイドル」について、フィールド調査を実施し、持続的かつ実効性の高い地域振興のあり方を探った。具体的には、いくつかの資料によって選出した「ご当地アイドル」のうち、継続的な活動を実施しているグループを対象にして、インタビュー調査および関連性のあるイベントでの参与観察を通じて、活動拠点となる地域側にいかなる効果があると言えるのかを考察した。以上の結果、「ご当地アイドル」のパフォーマンスは、若い世代が主体となった地域振興の可能性を提示していること、持続性のために地域外部の資本や技術を補完的に導入する必要があることが明らかとなった。
著者
井手 香織
出版者
東京農工大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

犬において腸管型アルカリフォスファターゼ(iALP)は、結腸よりも十二指腸の粘膜上皮細胞で多く存在し、かつ活性を有していることが明らかとなった。さらに、、細菌由来内毒素であるリポ多糖類(LPS)を脱リン酸化するという腸粘膜防御機構として重要な作用も有していることが証明された。便中 iALP濃度は犬の炎症性腸疾患症例のうち、臨床スコアの高い重度な症例において、健常犬よりも高い傾向が認められた。
著者
松尾 雅博
出版者
滋賀医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

「眠気」は主観的に表現されるが、その実態は十分に解明されていない。実際、「眠気が強い」状態ですぐに眠られず、「自覚的な眠気がない」状態ですぐに寝てしまうことがある。本研究では、「眠気」の本質について生理学的な手法・心理学的な手法を統合的に用いて解析した。生理学的な手法としては、実際に眠てしまうまでの時間だけでなく、脳波、心電図なども用い、心理学的な手法としては「注意機能タスク」のほか、各種質問紙を用いている。この結果、「主観的な眠気」が実際の睡眠と十分に関連しないが、「注意機能」と関連する事が明らかとなった。眠気が「睡眠」だけでなく他の認知機能の評価になる可能性を示す、重要な研究となった。
著者
小野 永貴
出版者
日本大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

教育センターのWebデータベース上で公開されている学習指導案を収集し、横断検索可能なプロトタイプシステムを開発した。そのために、都道府県教育センターの学習指導案公開状況を網羅的に調査したうえで、学習指導案の執筆法に関する図書や実際の学習指導案データのサンプルを分析し、初等中等教育の学習指導案に特化した検索化手法の検討を行った。その結果、「見出し語シソーラスによる同義語検索」「見出し出現位置範囲による重みづけ」「見出し項目名と項目値の近傍検索」の3つを有効な手法として提案した。
著者
松永 慎史
出版者
藤田保健衛生大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

これまでの研究結果から, 炭酸リチウムはアルツハイマー型認知症の認知機能障害の進行を抑制する効果が示唆されている。2015年度に, 我々は既報のランダム化比較試験の系統的レビューとメタ解析を行い, 炭酸リチウムがアルツハイマー型認知症に対して認知機能障害の進行抑制効果を持つ可能性があることを報告した。これらの結果を踏まえ, 我々は日本人のアルツハイマー型認知症を対象とした, 炭酸リチウムの有効性, および安全性に関する二重盲検, プラセボ対照, ランダム化比較試験を開始した。現在, 本試験は症例登録中である。
著者
平石 界
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

実験経済学で用いられる経済ゲームでの行動の個人差を双生児データを収集し、遺伝と環境の影響を検討した。統計分析に必要となる多量の双生児データを収集するためにWebサイトを用いて、戦略型の公共財ゲーム実験を実施した。282名の双生児を対象とした実験からは、他者の協力度が低いときの行動には遺伝、家族で共有する環境の影響とも小さいこと、他者の協力度が高いときの行動には、家族の共有環境の影響が大きいことが示唆された。また遺伝的個人差の進化にかんして、パーソナリティが内的環境として働き行動に影響するとした内的環境仮説を提唱し、他者一般への信頼感が、パーソナリティによって影響されることを明らかにした。
著者
池田 真介
出版者
政策研究大学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

非可逆的な意思決定である自殺行動を、広義の人的資本の毀損が最大になるような最適停止問題としてモデル化し、自殺権の経済学的価値を、経済的なパラメータの明示的な関数として表現できることを示した。そして1990年以降の日本経済のデータを基に、当該モデルを特定化し、そのようなモデルが現実の生産年齢の日本男性の平均的自殺率の動向を再現できることを確認した。これと並行して、市区町村別の自殺データに、全国消費実態調査の市区町村別データを組み合わせ、各調査年度ごとの繰り返し横断データベースを作成した。特に、本邦で2005年から2007年にかけておこった大規模合併による市区町村区分の推移を慎重に反映させた。
著者
黒木 千晴
出版者
鹿児島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

TRPA1が呼吸ガス中の酸素濃度を体内に取り込む前に感知し、呼吸調節を引き起こす早期警告系としての役割を持っているのではないかという仮説を検証した。鼻腔三叉神経でのTRPA1による軽度低酸素の感知は重度低酸素となる前に、生体防御反応としての覚醒と呼吸の活性化を引き起こし、早期警告系としての役割をもっていることが明らかとなった。
著者
ローベル 柊子
出版者
静岡大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では外国語で執筆する越境作家が出身地の言語的文化的要素をいかに別の言語で表現し、外国においていかに作家としてのアイデンティティを形成したかを検討した。特にミラン・クンデラのケースに注目し、これをもとに他の作家との比較検討を行った。外国語執筆の契機は亡命、移民、旧植民地出身、個人的な選択など多様だが、多くの越境作家において地域に根差した表現が顕著に見られ、越境の経験が創作の源となっている。クンデラにおいては世界的に読まれることへの意識が強く、ローカルな要素の表現に抑制が見られた。国内外での学会発表、ワークショップ、著作を通して成果を広く公開した。
著者
近藤 祐介
出版者
九州歯科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

フレイルとは高齢者の筋力や活動が低下している状態であり,歯科口腔領域においては食環境の悪化から始まる筋肉減少を経て生活機能障害に至るものをオーラルフレイルと呼ぶ.オーラルフレイルを引き起こす要因は様々であるが,加齢に伴う唾液腺の機能低下も一因となる.超高齢社会に突入した本邦ではフレイルに陥る高齢者は飛躍的に増加することが予想される.そこで我々は,高齢者における唾液腺機能低下のメカニズムを解明し治療法を開発することにより,オーラルフレイルを予防することを目的とし,本研究を立案した.研究には16週齢と48週齢の老化促進モデルマウスであるSenescence-Accelerated Mouse Prone 1 (SAMP1) を用いた.In vivo 解析において16週齢と48週齢のSAMP1を比較すると,耳下腺唾液量は同等であったが,顎下腺唾液量は48週齢で有意に低下した(p=0.005).Ex vivo顎下腺灌流モデルにおいても,副交感神経刺激による顎下腺からの分泌量は48週齢で有意に低下したが(p=0.036),副交感神経刺激と交感神経刺激を同時に行ったところ唾液分泌量は16週齢と48週齢で同等であった.一方,細胞内Ca2+濃度を評価したところ,副交感神経単独刺激および副交感神経,交感神経同時刺激のいずれにおいても16週齢と48週齢で同等であった.HE染色においては,顎下腺では48週齢でのみリンパ球浸潤の増加が確認され,耳下腺では16週齢と48週齢いずれにおいてもリンパ球浸潤は認めなかった.免疫組織化学では耳下腺,顎下腺ともに16週齢と48週齢においてAQP5,NKCC1,TMEM16Aそれぞれの発現に明らかな差はみられなかった.
著者
小野 永貴
出版者
日本大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究は、日本の高校教育の高度化の動向に応じ、図書館連携による高校生への学習支援可能性を検証することを目的としている。特に本研究では「学校図書館と大学図書館・専門図書館の連携」という枠組みに注目し、今まで検証されてこなかったその実態や効果を分析することを予定する。高度な学習を行う高校生に対し、大学図書館や専門図書館の資料利用権も与えることで、有効な支援となり得るのではないかという仮説を検証し、次代の高校教育を支える新たな連携モデルを構築することを目指す。研究初年度の平成29年度は、国内外における高大図書館連携の事例動向調査を開始した。特に、スーパーグローバルハイスクールや国際バカロレア等の指定・認定をうけている学校は、これらの枠組みの中で高大連携や図書館活用が強く促進されている場合があるため、これらの学校および枠組みに特化し報告書や専門書の収集と分析を行った。国内においては図書館連携にフォーカスして言及している文献は少ないものの、海外の専門書では高等学校図書館を大学図書館での学術活動への導入機能として捉え、シームレスに接続するための高度機能が必要との言及が早期から見受けられた。そのほか今年度は、日本の高校生の学習活動における大学図書館専門的資料のニーズ調査を実施するために、調査協力機関への交渉や相談を開始している。貸出履歴情報を活用するための各種手続きをすすめるほか、貸出履歴データの統計処理手法に関する先行事例調査も進めている。
著者
冨家 直明 田山 淳 小川 豊太 村椿 智彦
出版者
北海道医療大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では成人の肥満に対する認知行動療法の効果をシステマティックレビューを用いて明らかにすることである。レビューのデータベースにはThe Cochrane Library、MEDLINE、PsycINFO、CINAHLが活用され、認知行動療法、リラクセーション法を用いて体重をアウトカムにした論文が調査の対象になった。メタアナリシスが実施され、11研究が対象になった。認知行動療法は有意に体重を減少させた。リラクセーション法に関しては十分な研究数が集まらなかった。認知行動療法は成人肥満の体重減少にともに効果的であるといえた。
著者
神戸 悠輝
出版者
鹿児島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

うつ病患者の3分の1は現行の抗うつ薬に耐性であり, 新規のターゲットの創出は急務である. 研究代表者は, うつ病におけるミトコンドリアの障害仮説に焦点を当て, うつ病への関与を検討した. マウスに対し慢性的にストレスを与えることで, うつ病モデルマウスを作成すると, このマウスの脳ミトコンドリアに障害がある可能性が推察された. さらに, ミトコンドリアの障害に関わる5種類の遺伝子の発現は全てうつ病モデルマウスで上昇し, これらの遺伝子発現とうつ病の指標は全て正に相関した. このことから, ミトコンドリアの障害はうつ病に強く関連し, 創薬ターゲットとなる可能性が示された.
著者
神江 沙蘭
出版者
関西大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

平成29年度の春から夏にかけて、欧州の通貨・金融分野において、金融市場での欧州単一パスポートの導入や共同通貨ユーロの導入等の市場創出的統合が加速したのに対して、監督規制改革等の市場修正的な統合がなぜ遅れたかという点を、1990年代のグローバルな国際金融規制(バーゼル委員会での議論等)の流れを踏まえて分析した。そこでは特に米国等の域外の経済大国との競争的関係が、域内で必要とされた金融ガバナンスの構築にどう影響したかを検証している。その成果の一部は、6月に香港で開催された国際問題研究学会(International Studies Association:ISA)で報告し("Germany and Japan: Great or Middle Powers in Global Banking Regulation?")、共著本(『Middle Powers in Europe and Asia』eds. Giacomello and Verbeek)の執筆担当章の草稿に取り入れた。当該年度の秋からはユーロ導入によってインフレ調整や経済政策の調整がより困難になった点をECBの設立が市場での期待形成に与えた影響という観点から分析し、これが分権的な金融監督体制の下にあった欧州金融市場でのリスク膨張に繋がった可能性について検討した。また、ユーロ危機を経て、ECBが金融安定化や市場回復に積極的な役割を担う等、ユーロ圏においてサプライサイド政策を重視する従来の傾向に一定の変化が生じた点に着目し、その背景/影響としてドイツ国内政治に生じた変化や摩擦について検討した。2月19日~3月7日にケルンのマックス・プランク研究所(社会科学)において客員研究員として現地調査を行い、セミナー報告、関連機関へのヒアリング調査を行い、その成果を単著原稿『統合の政治学』の草稿の執筆に取り入れた。
著者
渡邉 智明
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

平成29年度は、主に、EU のグリーン公共調達や環境認証制度など、本研究の基礎となる部分について確認するため、文献収集の作業を行った。また、海外における大会の参加による関係者とのネットワークの構築、さらには一部関係へのインタビューを行うことができた。このうち、海外調査に関しては、6月にスイス・ジュネーブで開催されたISEAL(国際社会環境表示連合)の年次総会に参加して、参加した欧州のNGO関係者と意見交換を行い、今後の研究への示唆を得ることができた。また、9月には、マレーシア・マラッカで開催された、アジア太平洋持続可能な消費と生産ラウンドテーブル(APRSCP)」の年次大会に参加し、欧州のSwitch-Asiaの政策コーディーネーターと意見交換を行った。この中では、欧州レベルの環境ラベルの多元化状況、それを踏まえてSwitch-Asiaプログラムを展開している現状を確認することができた。また、合わせて、日本の協力機関であるIGESの関係者との知遇を得て研究の方向性について有益な意見を伺うことができた。また、11月の末には、ベルギー・ブリュッセルを訪問し、EUの当局者に対して聴き取りを行うことができた。この中で明らかになった限りでは、標準化部門や環境総局は、Switch-Asiaプログラムには関係していないことが明らかになり、むしろ開発部門が主導していることが伺われた。これを踏まえて、次年度以降は、EUの開発部門や開発NGOなどに焦点をあてた調査を行っていきたいと考えている。なお、これまでの一連の考察は、11月東アジア国連システム・セミナー(於北九州市)において一部を発表し、参加者から有益なコメントを得ることができた。
著者
堀井 里子
出版者
国際教養大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究は、国境なき医師団と移民オフショア支援基地(MOAS)という二つの非政府組織(NGO)が欧州難民危機という文脈において開始したボートピープルの捜索救援活動を事例に、NGOがEU国境管理政策において果たす役割を明らかにすることが目的である。初年度にあたる平成29年度は、年度前半にイギリス・バッキンガム大学に客員研究員として滞在していた立地上の優位性を背景に、先行文献と関連資料の収集、専門家との意見交換および現地調査を行った。まず、イギリス・オックスフォード大学難民研究所主催のセミナーに参加し、移民をめぐる政策においてNGOと国家の関係性を研究するMollie Gerver氏(ニューカッスル大学)を初めとする専門家と意見交換を行った。また、イギリス・ケンブリッジ大学において犯罪学の専門家であるパオロ・カンパーナ氏と面会し、同氏より地中海域での移民の密入国と国際犯罪ネットワークについて知見を得た。さらに、イタリア・シチリア島での現地調査では、カタニア大学で地中海域を中心としたEU国境管理やNGOの活動を研究するDaniela Irrera氏およびRosa Rossi氏との意見交換を行い、またOxfamとDiaconia Valdeseという二つのNGOが設立した移民・難民サポートセンターにおいて職員およびシリア難民に会い聴き取り調査を行った。また、バッキンガム大学をプラットフォームとして、資料の収集を精力的に行った。これらの活動は以下の点で有益であった。まず、NGOによるボートピープルの捜索救助活動をめぐる論点が明らかになった。第二に、NGOによる捜索救助活動に関する事実的また時系列的な情報を入手することができた。第三に、現地コミュニティでの難民の受入態勢、姿勢を学ぶことができた。次年度はこれらの知見を活かし研究をさらに進める予定である。
著者
坂本 邦暢
出版者
東洋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

研究計画にそって、16世紀から17世紀にかけての、プロテスタント圏での形而上学・神学の展開を、幾人かの著述家の著作の分析を通して追跡した。まず年度前半には、プロテスタント圏での哲学・神学教育をおおきく決定づけたフィリップ・メランヒトンの著作を分析し、彼が哲学を、神の存在を証明するための重要な集団として位置づけていたことを確認した。次世代のルター派哲学者のヤーコプ・シェキウスも、哲学が神学に寄与できると考えていたが、寄与の内実については、メランヒトンと異なる想定をしていた。シェキウスにとって対処せねばならなかったのは、三位一体論を否定する「異端」の存在であった。この異端を論駁するためには、哲学が不可欠だとシェキウスは説いたのだった。以上の成果は、「聖と俗のあいだのアリストテレス スコラ学、文芸復興、宗教改革」(『Nyx』第4号)として発表した。年度後半は、シェキウスがターゲットとした反三位一体論側の著作を検討した。ファウスト・ソッツィーニは、聖書解釈上の権威を教会がもつことを否定し、理性と文献学にのっとって聖書を読む必要を唱えた。その結果、三位一体と自然神学を否定する学説に到達したのだった。調査の結果、彼の神学は、やがてアルミニウス派の教説の一部と合流し、デカルトの新哲学が現れるにあたっての背景を形成するにいたったことが、明らかとなった。以上の成果は、「デカルトに知られざる神 新哲学とアレオパゴス説教」(『白山哲学』第52号)として発表した。
著者
三浦 綾希子
出版者
中京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

フィリピン系ニューカマー第2世代とその母親たちに対するインタビュー調査を行った。対象者たちには2010年より断続的にインタビュー調査を行っており、今回の調査もその延長上にある。青年期へ突入した対象者たちのインタビューからは、フィリピン人母との関係性が成長するにつれて変化していることが分かった。特に、男女交際等について母親から干渉されることが多くなっており、それに対して反発する者もいれば、うまく交渉しつつやり過ごしている者もおり、その対応の仕方にはバリエーションが見られた。しかし、いずれの場合も母親と娘たちは親密な親子関係を築いており、フィリピン社会の特徴とされる「家族中心主義」が維持されている様相が見て取れた。また、コミュニティ内の人間関係が母親たちの娘への干渉を強める動機にもなっていることも明らかとなった。母親たちはコミュニティ内で早期に妊娠した者たちのことを念頭におき、娘たちが同様のことをしないよう、厳しく管理する。一方で娘たちは、コミュニティ内のメンバーと自らをうまく差異化することによって母親からの干渉にうまく対応しようとしていた。思春期以降、特に女性たちは親から性行動に対する干渉を受けることが海外の先行研究でも明らかにされているが、類似の傾向が日本でも見て取れた。ただし、日本の場合、両親というよりも母親からの干渉が強いことが特徴的であり、国際結婚家庭が多い日本の状況を反映したものであるといえそうである。
著者
石黒 澄衞
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

花粉の飛散をコントロールすることは、遺伝子組換え植物の花粉が環境に放出されるのを防ぐために必須の技術であるとともに、現代病ともいえる花粉症を防ぐためにも欠かせない技術である。本研究では次の3つの研究を行い、それぞれ成果を挙げた。1.葯の裂開に異常を示し、花粉の飛散が起きないようなシロイヌナズナの突然変異体をスクリーニングし、15個の突然変異体を単離することができた。そのうち6個について原因遺伝子を同定した。原因遺伝子はDAD1,AOS, OPR3,COI1で、いずれもジャスモン酸の生合成・シグナル伝達に関与する既知の遺伝子座であったが、異なるエコタイプをバックグラウンドに持つアリルを手に入れることができた。これらのアリルは、今後サプレッサー変異等のスクリーニングを行うのに有用なツールである。2.dad1突然変異体と野生型の蕾を用い、蕾の成熟に伴ってDAD1依存的に発現が上昇する遺伝子の検索をDNAマイクロアレイを用いて行った。91個の遺伝子を同定した。3.ジャスモン酸は、リパーゼの働きで生成したリノレン酸を出発物質として生合成される。シロイヌナズナの蕾ではDAD1がリパーゼとして働いて満の裂開に必要なジャスモン酸を供給するが、ジャスモン酸の傷害誘導に関与するリパーゼは未同定である。これを同定することを目的として、DAD1類似遺伝子の解析を行った。その結果、DAD1自身が、DAL6とともに傷害誘導時のジャスモン酸生成にも大きく寄与しているらしいことがわかった。一方、DAL2,DAL3,DAL4の関与も疑われ、この点に関してはさらに解析が必要である。