著者
内田 雄介
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

動く視覚刺激を視認する際、野球選手は一般人よりも眼球運動発現までの時間が短く、眼球運動速度が速いことが示された。また、網膜上に投射された視覚刺激の像を知覚する能力には野球選手と一般人の差がないことが明らかになった。これらのことから、野球選手の優れた動体視力は、網膜上に映る像を知覚する能力ではなく眼球を対象物に対して適切に動かす能力に支えられていることが示唆された。
著者
薗部 佳史
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究においては、抗ミッドカインRNAアプタマーによる実験的自己免疫性脳脊髄炎(Experimental autoimmune encephalomyelitis : EAE)抑制機序の解明を目的として研究を行った。その結果、ミッドカインは制御性樹状細胞において、Src homology region 2 domain-containing phosphatase-2を介してIL-12の産生を誘導させることで、制御性T細胞(Treg)の分化を抑制することが明らかとなった。また、EAEマウスに抗ミッドカインRNAアプタマーを投与したところ、所属リンパ節における制御性樹状細胞及びTregの数が上昇し、EAEの臨床症状が抑制された。さらにミッドカイン産生細胞について検討したところ、CD4陽性T細胞をはじめとする様々な炎症細胞がミッドカインを産生することが明らかとなった。本研究から、ミッドカインは制御性樹状細胞におけるIL-12の誘導を介して、Tregの分化を抑制していることが明らかとなった。したがって、抗ミッドカインRNAアプタマーによるEAEの抑制メカニズムとして、制御性樹状細胞の誘導を介したTregの誘導が関与しているものと考えられる。
著者
樋渡 雅人
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究では,ウズベキスタンの農村地域のコミュニティ(マハッラ)を対象に,家計調査によって収集したネットワーク・データを用いて,コミュニティに内在する社会ネットワーク(互助関係,血縁関係,その他の社会関係)の構造や効果を分析した.空間自己回帰モデルを用いた計量分析によって,社会ネットワークが農村家計の多様な経済活動(移民,就業,生産,相互扶助)に及ぼすネットワーク効果(ピア効果)を明らかにした.また,ダイアディック回帰分析を通して,コミュニティ内の現金や財貨の流れが社会関係的要因に強く依存することを示した.
著者
清末 愛砂
出版者
島根大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究を進めるために必要となるデータや資料を収集するために、2008年度にイギリスでフィールドワークを2回実施した。本フィールドワークにおいては、大英図書館やLSE(London School of Economics)の図書館における文献調査のほか、市民的自由の問題に取り組んできた人権団体や複数のムスリム団体等を訪問し、イギリス社会におけるムスリム住民(難民、移民を含む)に対する人権侵害、およびイギリス政府の立法情報に関するインタビュー調査を行った。この結果、イギリスの対テロ法によって引き起こされた様々な人権侵害がムスリム住民に集中していること、また、統計的にムスリム住人が白人に比べると警察による職務質問を受ける割合がはるかに高いこと、9.11、および7.7のロンドンにおける同時爆破事件以降のイギリス社会でイスラーム・フォビアが著しく台頭していること、イスラーム・フォビアにおけるジェンダー差別の問題等が明らかとなった。2009年度は、これらのフィールドワークによって得られたデータ、および日本国内での文献調査等から得られたデータをもとに研究課題に関する分析を行った。その分析結果を日本平和学会2009年度春季研究大会(2009年6月13日から14日)の自由論題部門で「9.11以降のイギリスの対テロ法とイスラーム・フォビアの台頭-宗教差別・レイシズム・市民的自由の観点から-」と題して報告することができた。また、討論者や参加者から受けた欧州人権条約に関する示唆深いコメントやその他の質問をその後の論文化の作業にいかすことができた。2009年度末には、同学会の大会における報告をもとにしてまとめた論文「9.11&7.7以降の英国の対テロ法の変容とイスラーム・フォビア-宗教差別とレイシズムの相乗効果(上)」(『国際公共政策研究』(大阪大学大学院国際公共政策研究科、第14巻第2号、2010年3月、17-28頁)を発行することができた。
著者
伊東 剛史
出版者
東京外国語大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

欧米諸国の中でイギリスは、いち早く動物福祉を整備した国であると考えられてきた。本研究はこの「動物福祉の先進国」としてのイギリス国家像を再検討することだった。具体的には、動物を資源として活用する社会基盤が整備される一方、人道主義ネットワークに基づく動物保護運動が隆盛したことを考察した。そして、動物の処遇に関する法制度の展開を検証し、国家、市場、チャリティの間の複合的な関係のもとで、動物福祉の理念と制度が構築されたダイナミックな歴史的過程を明らかにした。
著者
野口 武悟
出版者
専修大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、これまで詳らかでなかった特別支援学校における学校図書館の現状と課題を、全国の特別支援学校を対象とした質問紙調査とそれを踏まえて行った訪問調査により明らかにした。その結果、現状には、(1)特別支援学校と小学校、中学校、高等学校の学校図書館とを比べると大きな開きがあること、(2)特別支援学校の校種間、本校と分校の間、そして設置者(国立、公立、私立、及び公立であれば設置している都道府県)の間で、それぞれ、大きな開きが生じていることが明らかとなった。とりわけ、知的障害児を対象とする特別支援学校の学校図書館は著しく低い水準にとどまっており、その改善が急がれる。
著者
永井 潤
出版者
長崎大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

申請者らが確立してきた線維筋痛症(FM)モデルでは、下降性抑制を介したモルヒネ鎮痛が減弱している。神経障害性疼痛時のモルヒネ鎮痛欠如にはMOP遺伝子のエピゲノム性発現低下が観察されるが、FMモデルでの責任脳領域においてMOP遺伝子変化は観察されなかったことから、異なる機構を介することが示唆された。一方、脂質メディエーターは痛みの制御因子として知られており、TOF-MSやLC-MS/MSを用いた発痛および鎮痛脂質メディエーターの定量系の確立に成功した。本定量系を用いた下降性抑制機構に関わる複数の領域での発痛メディエーター量には変化はないため、上行性あるいは情動系等の他の経路の関与が強く示唆された
著者
小川 基彦
出版者
国立感染症研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

ツツガ虫病の起因菌Orientia tsutsugamushiはリンパ球や血管内皮細胞など細網内皮系細胞に主に感染する.その結果,ヒトには免疫応答など様々な生体反応が誘発され,発熱,発疹,CRP,肝酵素の上昇などの症状が起きる.また,一部の患者は播種性血管内凝固(DIC)をおこし重症化する.そこで,本研究ではツツガ虫病の免疫応答と病態の関係に注目し解析をおこなった.まず,患者の発生状況や臨床所見に関して行った調査票による疫学調査の中で,特に免疫応答に関連するリンパ球を含む白血球減少,DICなどの所見に注目し疫学的な解析をおこなった.その結果,主に春に発生が多くGilliamおよびKarp株の感染が多い東北・北陸地方は白血球減少およびDICをおこす頻度が高く,重症度が高いこと,一方で秋に発生が多くKawsakiおよびKuroki株の感染が多い関東および九州地方では頻度が低く,症状が軽いことが明らかになった.これらの結果から,本菌の血管内皮細胞やリンパ球への感染による免疫応答が病態と密接に関係している可能性が示唆された.次に,ヒト臍帯内皮静脈細胞(huvec)に病原性の強いKarp株を感染させ,免疫応答のメディエーターであるサイトカインの誘導を解析した.huvecにKarp株を感染後,感染細胞からRNAを抽出しRT-PCRによりmRNAレベルでサイトカインの発現を解析した.その結果,感染後72時間でIL-6,8,GMCSF, MCP-1,RANTES, TNFαの発現がみられた.また,同様の解析をヒト単球セルラインU937で行ったところ,IL-1β,8,RANTES, TGFβの発現がみられた.また,U937にはKarp株への感受性が高かったが,別の単球セルラインのK562は感受性が低かった.また,huvecを用いた血管透過性の解析では,およびを用いて,Transwellメンブレン上のモノレイヤーの感染後の電気抵抗の変化をEndohmにより解析した.その結果,Karp株の感染およびTNFα(陽性対照)により透過性が亢進した.今後,産生されるサイトカインの役割,内皮透過性,単球への感受性,病原性の異なる株による違いに注目した解析を行い,各細胞のin vitroにおける役割・応答を解析するための基礎データが蓄積できた.
著者
太田 匡彦
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本年度も、地方公共団体が公的扶助を負う意味に関する研究を進めた。第1に、公的扶助事務の一部であるケースワーク活動を行政指導論の分析枠組みの中で位置づける試みを行った。その際、むしろ行政指導の分析枠組みを改めて考えて、行政指導を行政指導たらしめるコンテクストの分析を行う必要とその際に多極的な利益構造を考慮する必要を意識すると同時に、ケースワークは敢えて利益構造を単純化させ行政と被保護者の二極関係と考えることに意味があることを認識した。第2に、従来のいわゆる「三位一体改革」や現下の地方分権推進改革などの動きも踏まえながら、公的扶助活動の社会保障全体における位置付けとそれを担当する団体のあり方を検討した。公的扶助が自由な政治社会を成立させるために基礎的な(原始的な)社会保障として必ず用意されねばならないこと、国と地方公共団体の分担については、単純なナショナルミニマム論ではこの問題を制御しきれず、シャウプ勧告に基づく分離型と利益帰属の観点からの分担型との間の整序が必要なこと、その際には一般的な財政法・行政法原理を踏まえなければ制度の透明性を欠く危険が高まることを認識した。第3に、地方公共団体の公的扶助を規律する生活保護法が、住民に対するサービスではなく、住民か否かを問わずサービスを地方公共団体に義務付けることを意識した作りになっていることを踏まえ、地方公共団体の住民であることの要件である住所規定の意義を改めて考える必要があること、これが近時ホームレスの住所の問題を考える基礎を提供すること、この観点から見ると地方公共団体は開放的強制加入団体ともいうべき性格を示し、このことを踏まえて地方公共団体の公的扶助活動を位置付けねばならないことを認識した。以上の結果のうち、第2の成果については、ジュリスト2008年5月1・15日合併号と6月1日号に、第3の成果については月刊地方自治2008年6月号に公表される予定である。第1の成果についても平成20年度中にはある論文集の一編として公表される予定である。
著者
西田 一豊
出版者
千葉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究事業では福永武彦を文化史中で捉え直す作業を行った。結果として、福永武彦と戦後の雑誌を中心とするメディア史、または文化史との関連として以下のことが判明した。福永武彦は1956年に加田伶太郎として探偵小説を発表するが、そこには当時の探偵小ブームを背景とし、新たな週刊雑誌の創刊など活字メディアの隆盛の中で、新しい書き手として要望されたものであった。また小説の精読を通じて、福永武彦のロマン主義的要素を解明し、論文にまとめた。さらに未発表の資料調査や書簡の調査を通じて、小説が作り上げられる過程が明らかとなった。
著者
川添 剛
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

近年、特殊な担体を用いることにより、従来経口投与が不可能だった高分子物質の経口投与による吸収、さらにその高分子物質の作用の発現が確認され注目されてきている。しかしながら、高分子物質の特殊な担体を用いた経皮吸収に関してはほとんど明らかにされていない。本研究にて、古くから知られるアセチルサリチル酸(アスピリン)とポリペプチドである線維芽細胞増殖因子(FGF)の経皮吸収について検討した。アスピリンはシクロオキシゲナーゼ活性を阻害することにより解熱、鎮痛、血小板凝集抑制などの作用を示す。また近年肺癌、大腸癌のリスクを軽減する可能性が高い事も報告されてきている。しかしながら生物学的半減期が短く、局所での有効濃度を保つ事が難しいので、アスビリンを経皮吸収により徐放させることを試みてその作用を検討した。また、創部でのFGFを徐放する事も試みた。まず、ワセリンを基材として0〜4%アスピリン軟膏を作製した。そして糖尿病マウス、健常ラットの背部にアスピリン軟膏を塗布した。アスピリンは経皮吸収が可能であることが分かった。また、背部に熱傷創などの創を作製しそこに塗布した場合には、除痛効果が認められるとともに、創が早く上皮化することがわかった。また、上皮化後の創部の拘縮がアスピリンの濃度依存性に予防可能であることが分かった。さらに、正常もしくはケロイド由来線維芽細胞のゲル培養においても、アスピリンがゲルの収縮を抑制することがわかった。このように、皮膚から吸収させたアスピリンの効果は、従来のアスピリンの効果はもちろん、拘縮予防効果、上皮化促進効果なども認められた。またbFGFにおいても等電点9の酸性ゼラチンを担体としてもちいる事により、効率よい吸収と、徐放化に成功した。bFGF徐放性ゼラチンの創部への貼付により、創部の早期の上皮化と厚い肉芽組織が認められた。これも従来、bFGFにて認められる作用であるが、徐放化することにより単回投与よりもすぐれた効果が認められた。
著者
植田 紘貴
出版者
鹿児島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

胃食道逆流症は胃内容物が食道内に逆流する疾患であり、食道内への刺激により胸痛や吐き気を生じる。その治療法は、胃酸分泌抑制剤を用いた対処療法が中心である。本研究は、内臓感覚を中枢に伝達する経路である迷走神経に着目し、迷走神経の実験的刺激が唾液分泌や顎口腔機能に与える影響と胃酸分泌抑制剤が唾液分泌に与える影響を検討した。その結果、迷走神経刺激は唾液分泌を誘発することが示された。また、胃酸分泌抑制剤は、迷走神経刺激により誘発された唾液分泌をさらに増大することが示唆された。以上から、迷走神経刺激による内臓感覚の賦活化が口腔生理機能の制御に関与する可能性が示唆された。
著者
橋川 裕之
出版者
静岡県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究はビザンツ帝国のキリスト教、すなわち正教の信仰生活に関連して成立した、ヘシカズムと呼ばれる神秘主義について、その起源と展開の解明を目指したものである。本研究の主たる成果は、心身技法をともなう形式の神秘主義的霊性がアトスのニキフォロスによりテクストにおいて定式化された13世紀半ばよりも前に、何らかの、具体的には明かされない神秘主義的実践の伝統があったことを示した点にある。
著者
小澤 周二 池松 和哉 那谷 雅之 池村 真弓
出版者
三重大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

アルコールの長期に渡る多量摂取においては致死的不整脈との関連が示唆されており、そのメカニズムには細胞内シグナル伝達経路の関与が考えられているが明らかにはなっていない。そこで、慢性アルコール投与マウスモデルの心筋細胞における遺伝子発現プロフィールをマイクロアレイ法を用いて網羅的に解析を行った。その結果、急性期及び離脱期それぞれで異なる遺伝子プロフィールを示し、急性期にはJAK/STAT経路の活性化やサイトカインを介した炎症反応が生じ、離脱期にはSTAT3及びSTAT6の活性が持続し、細胞増殖すなわちリモデリングが生じている可能性が示唆された。
著者
中野 晃一
出版者
上智大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

1993年以降の政党政治の変動が地方分権改革の政治過程にどのような影響を与えたのかを探る観点から、以前の改革過程に比して、政策結果・政策過程・アクター・リソースに関して変化が見られたか否かに焦点を絞って研究を進めてきたが、平成14年度までに調査そのものは概ね完了し、平成15年度では、主として調査結果を英文論文の第としてまとめることに意を注いだ。研究計画の順調な進捗を受けて、平成16年度には、論文の最終的な国際学術誌・論集等への投稿(ないし寄稿)・出版を目的とした。そのため、補足的調査をし、論文の更なる推敲を行い最終稿をまとめることが本年度の研究活動の中心となった。従って、研究経費としては、研究補助・資料整理のための謝金、論文執筆のための図書・ソフトウェア・コンピュータ関連消耗品・文具等の物品費、地方分権改革関連資料についての補足調査を目的とした宮城県仙台市への国内旅費が主たるものとなった。本研究計画を締めくくる研究成果の発表としては、1990年代の日本における政党政治の変動(政権交代および連立政権)が、政策過程と政策そのものの変化に影響を与えた事例として、日本社会党と総評の役割に注目して、地方分権改革を(情報公開と立法府の行政府チェック機能強化とともに)考察した英文論文「‘Democratic Government' and the Left」をRikki Kersten・David Williams(編)、The Left in Japanese politics(Routledgecurzon/Leiden Series on Modern East Asian Politics & History)(Routledge,2005)に出版した。
著者
田仲 和宏
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

変形性関節症(OA)は、関節軟骨が変性摩耗し関節痛や関節可動域制限を生じる疾患である。関節軟骨は、軟骨細胞の産生するII型コラーゲン(Col2)を主体とする軟骨基質によって力学的負荷に耐えうるような構造を保っている。OA軟骨細胞ではCol2発現が著明に低下し、関節軟骨は機械的負荷に耐えらず更に変性摩耗していく。従って、OA軟骨におけるCol2産生を誘導し、軟骨基質の再構築をはかることができれば、OA進行を阻止する有効な治療法となる可能性がある。Col2発現には転写因子SOX9が重要な役割を果たしていることが報告されている。我々は、Col2の軟骨特異的発現に必須である遺伝子エンハンサーに特異的に結合する転写因子CRYBP1をクローニングし、軟骨以外の組織においてCRYBP1がCol2発現を抑制していることを見いだした。しかし、これらの転写因子が、関節軟骨やOA発症過程においてどのような役割を果たしているのかは、全くわかっていない。本研究では、OA進行を阻止する遺伝子治療の開発を最終目標とし、SOX9及びCRYBP1という正と負の転写制御因子のOA軟骨における意義を明らかにし、関節軟骨細胞でのCol2発現が制御可能かを検討することを目的とした。本年度は、CRYBP1の軟骨分化における役割を明らかにするため、アデノウイルスベクターを作成し、軟骨細胞への導入および器官培養を行った。軟骨細胞にCRYBP1を強制発現させると、CRYBP1の発現量に逆相関してCol2発現が減少し、他の軟骨基質であるアグリカンやリンクプロテインの発現も減少した。さらに細胞がアポトーシスに陥ることも判明した。胎生11日のマウス胚肢芽の器官培養にアデノウイルスを感染させると、その後の肢芽の形成が阻害され、軟骨組織の形成が不十分となることが判明し、in vivoにおいても軟骨分化におけるCRYBP1の重要性が確認された。すなわち、CRYBP1の軟骨組織における持続的発現は軟骨分化を阻害し、その発現減少が軟骨形成には必須であると考えられた。
著者
曽田 繁利
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究課題では、強相関系の量子ダイナミクスを明らかにすることを目的に、密度行列繰り込み群法を応用した強相関量子シミュレータの開発を行うことである。平成29年度に実施した強相関量子シミュレータの開発における進展は、時刻の異なる状態について、密度行列繰り込み群法によりそれぞれの時刻の状態を表現するために最適化された異なるヒルベルト空間の表現で与える新たな時間依存密度行列繰り込み群法の手法を開発した。ここで開発された手法は、動的密度行列繰り込み群法で用いられるマルチターゲットの手法を応用し、異なる時刻の状態をひとつの最適化されたヒルベルト空間の表現で与える場合と比較して、半分程度の制限された基底の数でよりより高精度な結果を得ることが確認された。特に密度行列繰り込み群法の計算コストはこの制限された基底の数の3乗で与えられることから、本課題で開発された手法は非常に有効であると考えられる。また、同時にこの密度行列繰り込み群法の大規模並列化を進め、本研究の対象である強相関量子系の量子ダイナミクスの研究を行った。平成29年度の研究成果としては、幾何学的なフラストレーション効果により量子モンテカルロ法では取り扱いが困難な系を中心に、三角格子ハバード模型やKagome-strip鎖の新奇量子相の研究、またSPring-8等の大規模実験施設と連携したキャリアドープされた銅酸化物高温超伝導体の電子状態の解析等を行った。また、本研究課題で開発を行っている多次元系へ応用可能な時間依存密度行列繰り込み群法の応用研究として組合せ最適化問題に対して有効であると考えられる量子アニーリングに対する応用研究を行い、その研究成果を国際会議において発表した。
著者
玉田 敦子
出版者
中部大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

17世紀まで、主に聖体論争で用いられ、「神」的な力とエネルギーされていた「エネルギー」という語は、18世紀になると「エネルギー」は「人間」が生み出す文体の力という意味で流行するようになる。この「エネルギー」概念の変化の背景には、18世紀における古代修辞学の復権があった。本研究においては18世紀の修辞学における「エネルギー」と「速度」の概念の重要性について、「研究成果欄」に示す3点を明らかにした。
著者
住吉 孝明 中村 有沙 南原 拓弥 村上 将登
出版者
関西大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

ムスカリン受容体は副交感神経を活性化する神経伝達物質アセチルコリンの受容体である。ムスカリン受容体にはM1-M5の5つのサブタイプがあり、M1受容体の活性化が認知機能を向上させる効果がある。本研究は、作動性と拮抗性を併せ持ち、適度にM1受容体を活性化する部分作動薬を創製し、副作用を低減した新たな精神神経疾患治療薬になりうる化合物を見出すことを目的とする。M1受容体およびM4受容体の両方を作動する化合物の構造を種々変換した結果、ムスカリンM1受容体選択的部分作動性を示す化合物を見出した。これらの化合物はアルツハイマー病等の精神神経疾患の改善薬への応用が期待できる。
著者
大武 美保子
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本年度に得られた研究成果は以下の三点に整理される。1、マルチスケールシミュレーション並列計算基盤の開発マクロスケールのヒトの運動の特徴量を高速、高精度に抽出する手法を開発した。具体的には、並列計算ツールであるGXP, MPICH, SCALAPACKを用い、リング状にネットワークしたクラスタでパイプライン処理するシステムや、大規模な行列計算を高速に行うシステムを構築した。2、データベースに登録されたミクロスケールモデルの統合化手法の開発運動系全体の状態をシミュレーションするためには、部位により異なるミクロスケールの細胞の性質をモデル化する必要がある。生命科学者により記述された細胞モデルや、解剖学的生理学的知識が、レビューされ、データベースに多数登録されている。これらを活用することができれば、信頼性の高い要素で構成されるシミュレータを構築することができる。データベースに登録されたミクロスケールモデルは、本来単体で動かすように作成されたものであるため、他のモデルと連携が困難である。そこで、これらのモデルを再構築し、統合化するシステム構成法を提案した。即ち、入出力をモデルの中で整理し、再構成したモデルを異なるサーバに分散配置し、計算機毎に計算エンジンがモデルを読み込んで実行する。複数サーバで実行されるモデルの計算を一箇所でモニタリングし、互いに入出力を送受信する。計算エンジンの種類によらず、細胞複合体モデルを構成できるようになった。3、マクロモデルとミクロモデルのインタフェース手法の開発マクロスケールで観測される運動データに基づいてミクロスケールの現象を予測するために、マクロスケールの解剖学モデルにミクロスケールの生理学モデルをインタフェースする手法を開発した。これにより、マクロスケールの運動を外部から観測して、ミクロスケールの内部状態を予測できるようになった。