著者
野田 岳仁
出版者
立命館大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本年度は後に詳しく説明するようにコモンズの“排除性”という機能に注目し、分析を行った。前年度で検討したように、アクアツーリズムが対象とする地域の湧水や洗い場は地域の人びとのコモンズであることが観光資源としても意味を持ってきたのだが、それらを手入れしてきた管理組織は著しく弱体化しているため、アクアツーリズムに乗り出すにあたって、管理組織を強化するか、あるいは別の組織に管理を肩代わりさせる必要が生じるようになっている。すなわち、アクアツーリズムの現場では、地域のコモンズを開放することが政策的にも期待されるようになっているのである。ここで悩ましいことは、コモンズをただ開放すればよいかといえば決してそうではないことである。コモンズはある集団内で同質な構成員に限定されていたからこそ、合理的な資源管理が成り立ってきたからである。つまり、コモンズに内在する“排除性”という機能こそが資源管理能力を高めてきたのである。しかしながら、管理組織の弱体化という現実をふまえてみれば、資源管理に関心を示す異質で多様な担い手を新たに招き入れる必要があり、そうすると規範や規制の共有化は難しく、一時的であれ管理能力は低下することになってしまう。コモンズの資源管理能力を高めようとすれば、排除性を強めればよいのだが、そうすると新たな担い手を受け入れることが難しくなる。アクアツーリズムが対象とするような現代的なコモンズはこのような矛盾を抱えていることが明らかになった。そのうえで、コモンズを開放するにあたってもコモンズの排除性を損なうことなくどのように新たな担い手を受け入れることができるのか、各地の管理組織の論理の分析を行った。
著者
井手 貴雄
出版者
佐賀大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

腹膜播種を伴う胃癌は未だ不治の病であり、その分子機構解明及び新規薬剤開発は急務である。PPLGMは、正常細胞へ低毒性でありながら胃癌においても抗腫瘍作用を充分に発揮することが期待できる。今回の研究において、小分子化合物PPLGMは胃癌細胞株においてアポトーシスを誘導し、腫瘍抑制効果を示したことより、PPLGMが新規胃癌治療薬の一つとなる可能性が示唆された。
著者
長谷川 知子
出版者
国立研究開発法人国立環境研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

将来の気候変動による飢餓リスクへの影響は社会経済状況により大きく異なった。すなわち、分断された社会を表すシナリオでは飢餓リスクは現在より増加しより不確実なものとなるのに対し、なりゆきシナリオではリスクは継続的に減少し、不確実性は小さくなった。このような大きな不確実性のもとで対策を決めていくことが、政策決定者の課題となるだろう。また、100年に一度の極端現象下での必要な備蓄量を現在の備蓄と比較したところ、現在の世界の備蓄量は十分だが、影響を受ける地域では十分に備蓄されていなかった。これは、極端現象の発生時における食糧支援やそのための協力体制が飢餓リスクの軽減には重要であることを示唆している。
著者
岩井 祥子 池田 華子 長谷川 智子 吉村 長久 飯田 悠人 川口 恵理 末次 仁美
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

分岐鎖アミノ酸がストレス下の培養細胞に対し、細胞死抑制効果を持つこと、細胞内ATP濃度低下の抑制効果を持つこと、が明らかになった。また、分岐鎖アミノ酸を網膜色素変性モデル動物や緑内障モデル動物に投与することによって、視細胞変性や網膜神経節細胞死が抑制されることが明らかになった。網膜色素変性モデル動物では、分岐鎖アミノ酸投与によって、網膜の機能低下が抑制されることが明らかになった。分岐鎖アミノ酸は、小胞体ストレスの抑制や細胞内ATP濃度低下の抑制、mTORシグナルタンパクの活性化を介して、細胞死抑制効果を示していた。分岐鎖アミノ酸は、眼難治疾患の新たな治療法になる可能性がある。
著者
河上 麻由子
出版者
奈良女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

5~9世紀に仏教を受容したアジアの王権は、勅命による経典目録の編纂や寺院建立といった崇仏事業、あるいは君主を菩薩・転輪聖王と位置づけることで、仏教の持つ影響力を王権に内包していった。仏教に裏付けられた王権の正統性は対外的にも喧伝され、諸国の対外政策・認識には仏教の影響が認められるようになる。その結果、当該時代のアジアでは、仏教を思想的基盤とする諸国間交渉が、様々なレベルで展開したといえる。
著者
高橋 直紀
出版者
新潟大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

歯肉上皮細胞は、物理的なバリアとして機能するだけではなく、細菌に対して免疫応答を誘導することで生体防御の最前線として重要な役割を果たす。近年同定された新規イオンチャネルであるTRPチャネルタンパクは炎症性疾患への関与も報告されている。本研究において、歯肉上皮細胞にTRPV1が遺伝子レベル・タンパクレベルで発現していることが確認され、TRPV1を介したシグナリングが細胞増殖能に関与していることが明らかとなった。これらのことより、歯周炎の病態形成におけるこれらのタンパクの関与が示唆された。
著者
縣 信秀
出版者
常葉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

超音波刺激は、筋損傷からの回復を促進させることが明らかになりつつある。しかし筋損傷からの回復促進の治療戦略を設計するためには、超音波刺激による筋損傷からの回復促進効果と、そのメカニズムを明らかにする必要がある。そこで本研究の目的は、超音波刺激による筋損傷からの回復促進に、各細胞間のCross-Talkがどのように関与しているのかを明らかにすることとした。本研究の結果から、マウス培養筋衛星細胞を用いて、超音波刺激によって筋衛星細胞の増殖が促進することを明らかにした。また、刺激強度依存的に筋衛星細胞の増殖が促進することも明らかになった。
著者
鳥居 秀成 栗原 俊英 世古 裕子 根岸 一乃 大沼 一彦 稲葉 隆明 川島 素子 姜 効炎 近藤 眞一郎 宮内 真紀 三輪 幸裕 堅田 侑作 森 紀和子 加藤 圭一 坪田 欣也 後藤 浩 小田 真由美 羽鳥 恵 坪田 一男
出版者
慶應義塾大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

我々は屋外環境に豊富にある360-400 nmの光(バイオレット光、以下VL)に着目し、VLを浴びたヒヨコの近視進行が抑制され、VLを浴びたヒヨコの目でEGR1が上昇していることを発見した。また臨床研究において、VLを透過するコンタクトレンズを装用している人の方が、VLを透過しないコンタクトレンズや眼鏡を装用している人よりも眼軸長伸長量が少なかった。さらに現在我々が使用しているLEDや蛍光灯などの照明にはVLはほとんど含まれておらず、眼鏡やガラスなどの材質もVLをほとんど通さないことがわかった。即ち現代社会においてはVLが欠如しており、これが近視の世界的な増大と関係している可能性がある。
著者
田口 徹 水村 和枝 メンゼ ジークフリート ホハイセル ウルリッヒ
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

1)遅発性筋痛における筋機械痛覚過敏にTRP(Transient Receptor Potential)チャネルや酸感受性イオンチャネルが関与することを明らかにした。2)遅発性筋痛にブラジキニンB2受容体の活性化、および神経成長因子が極めて重要な役割を果たすことを示した。3)遅発性筋痛では筋よりも筋膜への侵害刺激に対する感受性が高まっていることを示した。4)筋侵害受容器の機械感受性は加齢により亢進し、一方、皮膚侵害受容器の機械感受性は加齢により低下することを示した。5)脊髄後角ニューロンの細胞外記録により、腰部筋・筋膜に起因する腰痛の脊髄機構を明らかにした。6)圧迫刺激による骨格筋からのATP放出を定量化した。7)繰り返し寒冷ストレス負荷により慢性筋痛動物モデルを作成した。8)骨格筋機械感受性C線維の半数はアクロメリン酸-Aに対して興奮作用を示し、侵害受容器終末にアクロメリン酸-Aに特異的な新規受容体が存在する可能性を示唆した。
著者
高橋 亮
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、近年提案されている電力パケット伝送システムについて、ネットワーク化およびその拡大を考慮したシステムデザインとその実装の検討を行った。特に、システム機器プロトタイプを使用し、ループ構造を持つネットワークの実現可能性やシステムの非同期化、マネージメントしている電力を自己の駆動電力とする機構、および、負荷の所望電力を実現する電力パケット生成アルゴリズムの検討を行った。
著者
岩本 明憲
出版者
関西大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

「英国および日本の書籍再販制度研究」の結果として明らかになったことは、日本における書籍再販制度の研究において、日本の商業論・流通論の文脈で議論されてきた流通系列化としての再販売価格維持行為の理論の適用可能性が極めて低く、それゆえに、英国の理論が無批判に、かつ都合よく導入され、制度が今日まで生き延びているということである。返品制の研究についても、基本的には系列化の文脈で議論されていることが多く、書籍の財としての特殊性を厳密に考察しておらず、それゆえ制度の擁護にとって都合の良い理論だけが跋扈している現状を許していることが明らかとなった。
著者
鈴木 修平
出版者
山形大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

当該年度においては、代表的なMARTA(多元受容体作用抗精神病薬)の一つであるオランザピンの効果と、別の薬剤Xについての、癌細胞および癌幹細胞に対する治療効果について検討を行った。まずはじめに、オランザピンについての検討であるが、オランザピンは比較的有害事象の少ない抗精神病薬であり、制吐剤や抗せん妄薬として癌患者へ加速度的に用いられ始まっている。今回の実験を通じて、オランザピンが癌細胞の増殖抑制および細胞死増加という効果を誘導することができ、さらには薬剤耐性を減弱させることができることを突き止めた。また、それらの機序の一つとしてサバイビンの発現減弱が関わっている可能性を指摘することができた。それだけでなく、癌幹細胞の分化誘導効果を示すこともでき、それらをスフィアフォーメーションアッセイやウェスタンブロッティングなどによる未分化マーカーの減弱などを通して明らかにした。それらの成果は国際誌へ掲載され(査読有、Anticancer Res. 2017;37(11):6177-6188.)、早くも国際誌のレビューへ引用される(MSI Roney, et al. Archives of pharmacal research, 2018.)など、多くの注目を集めている。別の薬剤X、X’を用いた実験も並行して行っており、サバイビンを介した機序だけでなく、新たな機序Yを通じた、効果Zという興味深い知見が得られており、研究を継続していくだけでなく、動物実験についても順調に推移しており、さらに継続していきたい。
著者
白岩 恭一
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

末梢血白血球テロメア長やミトコンドリアDNAコピー数は様々な精神疾患や心理社会的ストレスにより異常を来すため、精神疾患やストレスの病態機序への関連及びバイオマーカーとして注目されているが、精神疾患やストレス負荷の最悪の転帰といえる「自殺」とテロメア・ミトコンドリアDNAについての研究は未だ報告がなかった。H28年度は、自殺者末梢血・死後脳において、テロメア長やミトコンドリアDNAコピー数の異常を見出すことができた。特に若年自殺者におけるテロメア短縮が顕著であった。本成果を学術雑誌Scientific Reportsにて発表した。H29年度は「若年自殺≒若年期における極度のストレス暴露状態」と捉えることにより、幼若期ストレスを負荷したラットをモデル動物として準備し、同ストレスラットの脳・血液試料のテロメア長・ミトコンドリアDNAコピー数を測定した。幼若期ストレスラットの前頭前皮質や海馬のテロメア長は対照群に比して顕著に短縮していた。最終年度は、反復拘束ストレスラットの系でも同様の測定を行い、またテロメラーゼ逆転写酵素の発現についても解析する。また自殺者死後脳・末梢血試料におけるテロメア関連の遺伝子領域(例:テロメラーゼ逆転写酵素、テロメラーゼRNAコンポーネント)のCpGサイト(特にCpGアイランド)についても測定し、非自殺者群との比較を行う。上記データをまとめ、最終的な考察を行う予定である。
著者
江角 智也 多田 康浩 吉林 隆太 末廣 優加 板村 裕之 白澤 健太
出版者
島根大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

サクラは散房花序から散形花序の形態多様性を示す.その違いを遺伝子レベルで特徴付けて解明することを目指し,フロリゲン・アンチフロリゲン遺伝子を解析の糸口として花序の形態形成の分子メカニズムを探った.サクラ140品種の花序形態を調査し,花序軸伸長と花数との関係,花序軸伸長と開花の早晩との関係を見出した.次に,サクラ7品種の花芽分化を走査型電子顕微鏡で比較観察し,花序発達の初期段階の小花原基誘導の違いについて明らかにした.花序組織におけるFT相同遺伝子,TFL1相同遺伝子,およびCEN相同遺伝子などの遺伝子発現について調査したが,それら遺伝子発現と花序形態の違いとに関係性を見出すことは出来なかった.
著者
デカマス ガブリエル
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

The grant allowed me to by precious books on the nuclear age for my research. These books include a recent photo album by Toyosaki Hiromitsu on the Bikini incident, or a vintage novel called Radium Terror, a Mystery Story. While the book was particularly expensive because it was printed in 1912, the story and its illustrations were important. It contained some original copyright-free etchings that I could scan and use as illustrations for my own coming book on the arts of the nuclear age. Consequently, I could enrich my research in terms of content and visual material.
著者
秦泉寺 雅夫
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

今年度は、申請課題の2つのテーマにおいて進展があった。第一のものは、K3曲面上のN=4超対称位相的ゲージ理論についてのもので、前年度に引き続き、この理論の分配関数と、アフィンリー環の理論との関連を追及した。この方針の研究を進める事により、ADE型のアフィンリー環の分母公式に現れる式が、K3曲面上のADE型のゲージ理論の分配関数の満たすべきS-双対性の性質を満足している事を発見した。この発見をもとに、ADE型のゲージ群をもつK3曲面上のN=4超対称ゲージ理論の分配関数を構成した。また、これらの結果が、弦理論双対性の一種であるTypeIIA弦理論と、Heterotic弦理論の間の双対性を用いて、簡明に解釈できる事を示した。第二のものは、一般型の超曲面の量子コモホロジーに関する研究で、今年度は、この量子コモホロジー環を、それに付随するガウス-マニン系と呼ばれる微分方程式を用いて決定するという方針のもとに研究を行った。大きな進展は、この量子コモホロジー環が、カラビーヤウ超極面の量子コモホロジー環を導出する際に用いられるミラー変換と呼ばれる座標変換を拡張した一般ミラー変換を用いる事によって決定できる事を発見した事である。現在の所このやり方によって、次数5までの有理曲線に関するGromov-Witten不変量を予言する公式を導出する事に成功している。また、一般の次数の有理曲線に対して、一般ミラー変換をどう定義すべきかが明らかにはなっていないので論文の形で発表はしていないが、近日中に理論を完成させ、発表する予定である。
著者
寺田 由美
出版者
北九州市立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本年度は,主として,20世紀初頭のアメリカ合衆国で展開されたユダヤ人移民の母親による抗議行動について,史料収集ならびに論文作成を行った。当該期のユダヤ人移民の母親による抗議行動として,コウシャー肉ボイコット(食糧暴動)と家賃ストライキのふたつがあげられるが,本年度は特に前者に注目し研究を進めた。女性の「合衆国市民」としての意識形成を検討するにあたって,労働者階級,特に移民女性がとった行動やその際に使われたレトリックを分析することは重要であり,それを前年度までの主たる研究対象としてきたWASPを中心とするエリート女性の行動やレトリックと比較することで本研究に大きな成果があがると思われる。食糧暴動は,17〜19世紀のイギリス,フランス,ドイツなどのヨーロッパ諸国,あるいは日本や中国などアジア諸国でもしばしば発生しており,またそれに関する優れた先行研究も多数存在する。合衆国でも1837年の小麦粉の「独占」に伴う食糧価格高騰に抗議して起こった暴動についてH・ガットマンが言及しているものの,総じてヨーロッパやアジア諸国に比べると研究がすすんでいない分野であるように思われる。加えてヨーロッパの食糧暴動研究に関して最も重要な研究を行ったE・P・トムスンは,暴動の主唱者が非常にしばしば女性であったとしながら,それについて十分な説明をしていない。こうしたことを踏まえて,20世紀初頭の合衆国におけるユダヤ人女性が扇動したコウシャー肉暴動を1902年の事例に沿って分析した。この暴動に関して,少数ながら国内外でいくつかの先行研究があるが,これらの研究は概ねこの暴動をたんなるモラル・エコノミーの発露とは見ておらず,当該期のほかの改革運動や労働運動とのつながりを読み取ろうとしているように思われる。しかし,コウシャー肉暴動や家賃ストライキと他の運動とのつながりを十分に考察し論じている先行研究は非常に少なく,これらのユダヤ人移民女性による行動は移民史の中のエピソードとして扱われている場合が大半で,暴動の実態そのものもあまり知られていない。そこで本年度は,収集した史料から1902年のコウシャー肉暴動の実態を,原因の明確化と暴動の進展,また暴動の際に用いられた抗議の手法やレトリックに沿って具体的に明らかにすることに主眼をおいた。コウシャー肉の高騰が直接の原因で1902年の暴動は起こったのであるが,その背景には東欧ユダヤ人の家庭像,食習慣,合衆国での苦しい生活とならんで,「トラスト」問題が見え隠れしており,本年度の研究でこれについて言及した。次年度以降,さらにユダヤ人移民女性の抗議行動に関する研究を進めていく予定である。
著者
高橋 亨
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究課題においては以下の研究を行うことにより,高温高圧水環境下における花崗岩の応力腐食割れ挙動に関する知見を得るとともに,岩石/熱水相互作用を考慮した花崗岩のき裂進展数値シミュレーションコードの基礎を構築した.平成17年度は前年度に引き続き,破壊特性に及ぼすひずみ速度の影響を観察するため,露頭花崗岩(飯館花崗岩)を用いて,ひずみ速度を変化させた3軸圧縮試験を実施した.封圧を変化させたときの破壊特性に及ぼす影響についても検討を行った.高封圧条件(100MPa)においては,特に超臨界水環境下においてはひずみ速度が減少するに従い,せん断破壊強度が小さくなることが示された.また,封圧が低い条件(50MPa)においてもひずみ速度の低下に伴うせん断強度の低下が観察されたが,高封圧条件で観察されたような顕著なせん断強度の低下は観察されなかった.本研究結果より,高封圧かつ低ひずみ速度条件において,き裂面近傍における応力腐食割れが促進されることを示唆する結果が得られた.また,得られた実験結果をもとに応力(封圧)とひずみ速度に関する破壊構成則を導き,き裂進展挙動数値解析コードの開発を行った.数値解析コードは従来のき裂進展モデルに上述の実験結果より得られた応力腐食割れの構成則を組込むことにより,実験室レベルの破壊現象を再現することができる.今後は地殻スケールの数100m規模での解析や,数年〜数100年単位でのき裂進展予測モデルの開発が必要となるが,本研究により得られた成果は,高温高圧環境となる地下岩体の力学挙動を解析するための重要な知見となる.
著者
東元 幾代
出版者
佐賀大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

手掌多汗症は、精神的緊張により手掌の過剰発汗(精神性発汗)を生じる疾患である。0.6〜1%の頻度で生じ、幼小児期〜思春期に発症することが多い。これまでに当院でETSを受けた手掌多汗症患者において、約半数で家族発症が認められたことから、患者約400名に対し家系調査を行った。その結果、完全に把握できた家系では、環境因子の関与、多因子遺伝の可能性もあるが、常染色体優性遺伝、つまり単一遺伝子病の可能性が高いことがわかった。我々は32家系178人の血液又は爪からDNA抽出を行い、そのうち三世代以上の比較的大きな家系を用いて全ゲノム解析を行った(ABI PRISM Mapping Set使用)。その結果、LOD scoreが高値を示す10カ所のマーカーをピックアップした。さらにhaplotype解析を行い、三家系に共通して、D14S283周囲に疾患遺伝子があると予測された。(二点解析にてLOD score 2.92)また、その他の家系において、6番染色体、7番染色体にもLOD scoreが高値を示す部分を認めた。多数の家系に共通する新たな遺伝子座を決定するため、さらに三世代以上のサンプルが得られる家系3家系を集めた。内、1家系は手掌多汗症と足底多汗症が合併した患者が混在しており、解析に不適当であったため、除外された。残る2家系をLOD scoreが高値を示す10カ所のマーカーについて解析を行ったが、同部位でのLOD scoreは低値で、連鎖は認められず、今回行った解析部以外の原因遺伝子の関与が考えられた。そのため、多因子遺伝の可能性も否定できなかった。
著者
柏木 宏子
出版者
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

SAPROF日本語版の予測妥当性と評価者間信頼性の後方視的コホート研究の結果を英文誌に論文発表した。対象は、2008年4月から2012年11月までに、国立精神・神経医療研究センター病院の医療観察法病棟に入院した対象者の中で、入院期間が1年以上の者とした。SAPROFは、入院後2週間の診療録、医療観察法鑑定書、生活環境調査書をもとに評価した。入院後6カ月間および1年間の暴力の発生の有無を診療録で調査した。この他、評価者間信頼性を調査するため、二人の評価者が30名の対象者を評価した。解析は、暴力の予測妥当性については、ROC曲線を、評価者間信頼性はICCにて解析した。結果は、95名が参加(男性83名)、診断は統合失調症圏が73.7%であった。対象行為(入院のきっかけとなった他害行為)は、殺人、傷害、放火の順で多かった。6カ月以内に、11名、1年間に17名の暴力が見られた。SAPROF日本語版の評価者間信頼性は、SAPROF総得点、内的要因、動機付け要因、外的要因、最終判断のそれぞれにおいて中等度から良好との結果が得られた。また、SAPROF日本語版のSAPROF総得点、内的要因、動機付け要因、外的要因、最終判断のそれぞれにおいて、6ヶ月後と12ヶ月後の暴力の発生がないことへの高い予測妥当性が得られた。本研究で得られた結果は、暴力のリスクアセスメントにおいて、本人の強みとなる部分、すなわち保護要因に着目することの妥当性が示されたとともに、海外との比較において重要な資料を提供できる。今後は、通院対象者や、刑務所、一般精神科などの別の集団におけるSAPROFの予測妥当性を確かめることが必要である。