著者
長尾 桂子 身内 賢太朗 中 竜大 矢ケ部 遼太
出版者
新居浜工業高等専門学校
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

宇宙から到来する暗黒物質の方向を検出できる検出実験では、方向情報を利用して暗黒物質の様々な性質を調べることができると考えられる。暗黒物質の速度分布は先行研究から非等方的な成分を含むことが示唆されており、この検証には方向を検出できる検出実験が適している。本研究では、方向情報を利用して速度分布の非等方性を検証するのに必要なイベント数や検出器のエネルギーしきい値等の条件を、モンテカルロシミュレーションを利用して明らかにした。
著者
森 紀之
出版者
滋賀県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

アリルイソチオシアネート(AITC)の投与によるTRP受容体を介した糖質エネルギー代謝変化へのインスリン分泌機構の関与について検討した。AITCはTRPV1を介して血中インスリン濃度を上昇させること、マウスの膵臓より単離した膵島に直接作用しインスリン分泌を促進しうること、さらにAITC投与による糖質エネルギー代謝変化および血中インスリン濃度の上昇にはアドレナリンβ受容体を介した交感神経系が関与することを示した。
著者
鈴木 努
出版者
東北学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

この研究では福島第一原発事故後にいわき市在住者らによって設立された地域SNS上で行われた放射能汚染のリスクについてのコミュニケーションの可視化を行った。その結果、科学的な知識をもつ人は特定の分野ではリーダーシップを発揮するが、人々を媒介する役割は果たしていなかった。リスクコミュニケーションにおいては共感的態度がより重要であることが示唆された。人々の不安に影響を与える要因を分析するためのウェブ調査では、情報収集の活発さやリスク認知が放射線の影響に対する不安を高めることが分かった。科学技術への関心や放射線に関する知識は不安を低減する可能性はあるが一貫した結果は得られなかった。
著者
渡部 有隆
出版者
会津大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

プログラミング学習支援システムにおいて、ピクチャによる表現手法を用いたビジュアルプログラミング言語を対応させることを検討した。研究期間において、本ビジュアルプログラミング言語の拡張、レガシィシステムのサービス指向アーキテクチャに基づく再構築、ハイブリッドビジュアルプログラミング言語開発のためのアーキテクチャの開発を行った。昨今のWEB技術における言語やフレームワークの急速な技術移行等により、研究期間内に安定したサービスの一般公開には至らなかったが、研究成果により、プログラミング教育やソフトウェア開発に応用できる新しいビジュアルプログラミング言語及びその環境の開発がより円滑に行えるようになった。
著者
石黒 一美 沼部 幸博 村樫 悦子 大久保 美佐
出版者
日本歯科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

日常生活でも使用されているLED光を用いた安全で効果的な歯周疾患の予防方法を確立するために基礎的な研究を行った。歯周病原細菌に対しては青色LED単独照射や、白色LED光と光増感剤を組合わせた照射方法で殺菌効果が得られた。一方、ヒト歯肉線維芽細胞に対して波長の異なるLED光を単独照射したところ、赤色LEDは細胞増殖率に影響がなかったが、強い照射出力の青色LEDを照射すると細胞増殖率が減少した。これらのことから、LED光は歯周病原菌の殺菌作用を有するが、照射される周囲組織に対する安全性を配慮した照射条件を検討する必要があることが示唆された。
著者
平尾 功治
出版者
徳島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

歯髄炎は、主にう蝕病巣から象牙細管を通じて、う蝕関連細菌の病原因子が歯髄組織へ波及し生じる感染症であり、その進行には、種々のサイトカインや炎症性メディエーターが関与する。今回の研究において、カテキンは、歯髄細胞において、自然免疫レセプターのリガンド刺激にて発現が増強した、HMGB1 や MINCLE といった細胞傷害に関与するメディエーターの発現を抑制させることが明らかとなった。また、カテキンはこれらリガンドのレセプターへの結合を阻害する可能性を示唆した。
著者
高口 太朗
出版者
国立研究開発法人情報通信研究機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本年度は、以下の通り研究を行った。まず、本研究開始までに研究に着手していたネットワークにおけるグループ抽出手法を引用ネットワークに特化させるよう改良を行った。次に、改良した手法を複数の実際の引用ネットワークデータに適用し、グループ構造についての統計的分析を行った。その結果として、本手法が論文タイトルに含まれる語句の意味でグループ構造を捉えていることを確認した。また、研究分野ごとの特徴的な引用パターンについてもその存在を示唆する結果を得た。さらに、研究分野によらず複数の引用ネットワークデータに共通して現れる構造的な性質を見出した。これらの成果には下記2つの意義がある。1つは、提案の手法が引用ネットワークから意義のあるグループ構造を抽出できることを確認したことである。もう1つは、既存の研究分野分類やキーワードなどによらず引用関係のパターンにもとづいて研究分野や研究トピックを推定できる可能性を示したことにある。特に後者は、研究分野の融合と学際化が進む現状において研究分野の動向を客観的にとらえる1つのアプローチとして重要である。これらの研究成果については国内学会において発表を行った。
著者
西尾 咲子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

卵巣明細胞癌細胞株では、スタチン系の薬剤(SimvastatinとPitavastatin)によって癌シグナルであるNF-kBおよびSTATが抑制され、免疫抑制サイトカンのLI-6の産生が阻害された。細胞増殖に影響を与えなかった。卵巣癌移植マウスを用いた研究でも、スタチンを投与したマウスでは腫瘍中のCD8陽性細胞浸潤が促進され、免疫抑制が解除されていると考えられた。腫瘍内の免疫細胞をFACS法で検討したところ、スタチンの投与によって樹状細胞とマクロファージの浸潤数に変化はなかった。これらのことから、スタチンは、がんにおいて免疫抑止環境を改善し、抗腫瘍T細胞応答を増強することが示唆された。
著者
奥 浩之
出版者
群馬大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

(1)序論マラリアは熱帯〜亜熱帯地方に流行する寄生虫感染症であるが、現在でも臨床応用されているワクチンが無い。共同研究者の鈴木と狩野らは流行地の疫学調査から、熱帯熱マラリア原虫が産生するエノラーゼは流行地住民の血清中に抗体が多く存在することを明らかにしてきた。そこで我々はAla256-Asp277の部分ペプチド(AD22)を用いた人工抗原研究を行っている。平成19年度は合成面(AD22の多抗原化高分子)と構造面(AD22の構造解析)から研究を行った。(2)ワクチン分子の化学合成本研究の合成面での検討として、AD22配列とポリリジンとの複合体を合成した。poly[Lys-co-Lys(protected ND14-Gly-)]およびpoly[Lys-co-Lys(protected AD22-Gly-)]を合成し、平均重合度90のポリリジン鎖1分子当り2分子の保護抗原を担持できる事を明らかにした。更にTFMSA-TFA-thioanisole,m-cresolの処理によって脱保護されたpoly[Lys-co-L.ys(ND14-Gly-)]及びpoly[Lys-co-Lys(AD22-Gly-)]を合成した。また本年度は、製造方法の特許(WO2006/035815A1)についてJSTの補助を受けて各国移行(日米英印仏スイス独伊)の手続きを開始した。(3)ワクチン分子のコンフォメーション解析AD22についてPBS中でのコンフォメーション解析を行った。15Nラベル化AD22の3次元NMR測定を抗AD22抗体の存在下と非存在下で測定した。その結果、AD22分子の各シグナルについて帰属と温度依存性の解析に成功した。スペクトル中には明瞭なtransfer NOEは観測することができなかった。更に測定条件を精査して再測定することで、今後実施するワクチンの分子設計に役立つと期待される。
著者
杉本 真樹
出版者
帝京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

膵胆道内に二酸化炭素CO_2投与下に陰性造影剤として利用したMulti detector-row CT(MDCT)による膵胆道造影CO_2 MDCT cholangio-pancreatography (CO_2MDCT-CP)を確立した.さらに仮想内視鏡および動静脈再構築をfusion(重ね合わせ)させ,術中診断,術式,病理診断と併せて検討し,画像診断と臨床病態の相関性を解析した。また消化器肝胆膵領域のビジュアリゼーションや手術シミュレーションを客観的に捉える撮影技術と解析ツールによるシステムを構築した.これにより消化器外科、特に肝胆膵領域の手術において,実質臓器と消化管、膵胆道と血管解剖を統合的に把握することができ,的確な診断治療とその教育に有用なソフトウェアを開発できる環境を整備した.これまで蓄積してきた症例のMDCTデータベースを元に,術前診断と行われた術式、実際の病理所見と術後経過、予後について解析し、CO_2MDCT-CPの3次元モニター診断解析能を向上させ,外科手術支援としての有効性を証明した.本年度はさらに術野重畳表示法を開発し,二酸化炭素造影MDCTによる手術支援の精度を向上させた.これらの成果は,国内外で多数の学会,講演にて発表した.また15th International Congress of the European Association for Endoscopic Surgery(第15回欧州内視鏡外科学会国際大会)EAES VIDEO AWARD(2007.7),The 8th World Congress of the International Hepato-Pancreato-Biliary Association(第8回国際肝胆膵学会国際大会)President plenary paper(2008.2),平成19年度帝京大学藤井儔子学術奨励賞(2008.3)を受賞した
著者
山野上 祐介
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究ではフグ目及びその近縁群についてDNAに基づいた系統解析や分岐年代推定を行い,その多様な生息域の進化過程の推測や分類の整理を行った.その一例として,フグ科魚類の解析により南米,アフリカ,東南アジアに分断して生息する純淡水性のフグ類がそれぞれ独立に淡水域に進出したことを明らかにした研究が挙げられる.また,分類の整理に関しては,マンボウ科の研究ではマンボウの1種だけだと考えられていた日本産マンボウ属に2種を認め,新たな種に「ウシマンボウ」という和名を与えるなどの研究を行った.
著者
宇野 耕司
出版者
目白大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では第Ⅰフェーズから第Ⅴフェーズの5段階で計画し,平成29(2017)年度は第Ⅴフェーズ:「新米ママと赤ちゃんの会」実施者研修体制開発を行った。具体的には,「① 研修実施体制の構築」として,以下に述べる報告会及び養成講座に関する準備委員会を組織化した。準備委員会では実践現場の創意・工夫・改善点を盛り込む形で検討し,実施者の養成と研修のあり方を明らかにした。同時に「② 既存関連有効モデルの分析」として先行研究レビューを行った。特にインストラクショナルデザインに関する知見を検討した。既存関連有効モデルの分析として,既存の類似したグッドプラクティスプログラム(ノーバディズパーフェクトプログラムやコモンセンス・ペアレンティング)の研修方法についての現状把握や研修プログラムの課題を明確にしようとしたが,研修は組織の保有する知財に関係することでありアプローチが困難であった。そこで,先に研修プログラムを開発し,それに対してグッドプラクティスプログラムの指導者的立場の人から助言指導を受けることで,研修プログラムの課題を明らかにする方法に切り替えた。しかし,研修プログラムの完成版に関する助言指導を受けるまでに到達できなかった。「③ 研修の実施と試行的効果評価」を行った。まずプログラムの概要と実績およびアウトカム評価の成果報告として,プログラム報告会の企画・運営を行った。報告会の参加者は子ども家庭福祉と母子保健領域の行政職員,市議会議員,子育て支援の実践家,助産師,保健師などが参加した。報告会に続いて,ファシリテーター養成講座の企画・運営を行った。形成的評価として試行的に1回実施した。実施前後の研修効果の評価(レベル1とレベル2)を行った。本プログラムの基本的な考え方や進行内容について理解できる研修となった。
著者
余 健
出版者
三重大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

今年度の目的は、過去2年間に行ったアクセント調査のデータを整理し、考察を深めることにあった。分析基準を確定することに手間取り、更なる詳細な考察は今後の課題であるが、ひとまず全体的な特徴として以下の点が明らかになった。F0最大値とF0最小値の差の平均値やFO曲線図より、どのアクセント型も北摂と南河内における若年層より高年層の方が、高低の起伏の大きいことを認められた。特に低起式無核においては、若年層より高年層の方が約3倍、抑揚が大きく、生理的な自然下降に反して上昇しようとする京阪式アクセントの力強さを典型的に表現しているものといえるだろう。また、高起式無核における気づきにくい方言音声の特徴として、「右肩下がりの自然下降の度合いが大きいほど、伝統的な京阪式アクセントの高起式無核に聞こえる」という仮説を提示した。この点については、今後聴覚実験を行い検証したい。一方で、1拍名詞の上昇調や下降調、そして2拍名詞の拍内下降調も含めた京阪式アクセントらしさの象徴である急激な上昇や下降は、南河内高年層>北摂高年層>南河内若年層>北摂若年層の順でなくなりつつあるというのが、実情のようである。この背景には、北摂地域の「人の流動性の強さ」という言語外的な要因と特に低起上昇音調の特徴が弱まりつつあるという点に関しては、生理的な自然下降に逆らう低起上昇式の有標性の言語内的な要因を想定し得る。
著者
中富 康仁
出版者
大阪市立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

CFS患者9名と健常者10名の脳を11C-(R)-PK11195を用いてPET検査で比較した。11C-(R)-PK11195はグリア細胞におけるTSPOと結合し炎症が起きた場所を可視化することができる。患者の脳内では主に、視床、中脳、橋、海馬、扁桃体や帯状回という部位での炎症が増加しており、炎症が強い患者ほど強い疲労感を訴えることが分かった。さらに、炎症が起きた部位とCFS/MEの各症状には相関があり、視床、中脳、扁桃体での炎症が強い場合は認知機能の障害が強く、帯状回や視床の炎症が強いほど痛みの症状が、また海馬での炎症が強いほど抑うつの症状が強いことが明らかとなった。
著者
田崎 直美
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究は占領下(1940-44年)パリにおける音楽活動状況を解明する一環として、当時新設されたパリ市芸術総監本部(パリ市芸術局)が独自に行った音楽政策を調査し、その実態と意義を考察した。その結果、(1)定期演奏会事業を市として初めて実施することで積極的な現代フランス音楽促進を図っていたこと、(2)第三共和政期から続くパリ市音楽コンクールを継承することで音楽による「国家」シンボル確立に貢献しようとしたこと、が判明した。ただしこうした努力は、ヴィシー政権からもパリ解放後の市民からも評価されることはなかった。
著者
千葉 雅也
出版者
立命館大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では、「ポスト構造主義以後」の存在論の顕著な動向である「思弁的実在論」の分析と紹介を行った。なかでもフランスのカンタン・メイヤスーを中心的に扱い、英語圏のグレアム・ハーマンらと比較しつつ、思弁的実在論の核心を「絶対的無関係」として明確化していった。かつ、その考察のなかで、ジル・ドゥルーズにおける関係の「切断」の重要性を示す議論の練り上げもなされた。最終的には、思弁的実在論における「無関係論」は、事物についての多様な解釈可能性を擁護する従来の人文学からは区別され、それに並置される哲学的観点として、事物の「無解釈的」な存在様態を捉えるものである、という結論に至った。
著者
大浦 弘樹
出版者
東京工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究の目的は,統計的思考の育成を目標に「データ分析と論証活動を支援する探究型学習環境」を開発することである.平成28年度は「未来の学習のための準備(Preparation for Future Learning: PFL)」の支援原理をもとに,学習者が講義などの説明を受ける前に学習者が他の学習者とデータ分析と論証を通した統計的問題解決を体験できるノベルゲーム型の学習環境を構築し,小規模の評価実験を実施した.29年度の研究計画として,1)学習コンテンツの制作と2)学習環境(システム・コンテンツ)の評価の2つがあった.まず1)について,28年度の実験結果の詳細な分析から既存のシステムではにPFLに必要な足場かけが十分でなかったと判断し,システムとコンテンツの仕様を変更して修正を行った.具体的には,既存のシステムでは統計的問題解決を体験できるものの,サンプリング(対象とサイズの選択)と収集したデータに対する統計量の選択のうち,サイズの決定しか学習者側で指定できない仕様だった.そこで,サンプリングの対象や統計量の選択も学習者側で指定できる仕様に変更してシステムとコンテンツを修正した.これにより,学習者は問題解決型シナリオの中での意思決定機会が増え,統計的問題解決のプロセスをより深く体験できるようになった.一方,2)については,修正したシステム・コンテンツで評価実験を実施した結果,想定した人数の被験者が集まらなかったため,実験計画を練り直し30年度に評価実験を再実施することにした.
著者
大浦 弘樹
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、学習者自身のデータまたはシミュレーションによって生成したデータから統計的表象を生成可能なWebベース学習支援システムを開発した。本システムでは専門的な知識やスキルがなくとも平均値や標準偏差といった代表値の計算や、ヒストグラムや箱ひげ図といった統計的表象を生成することができ、パラメタを指定することで理論分布からデータを生成することも可能である。本システムの評価実験の結果、被験者は自ら生成した図表の解釈やその比較をしながらデータの解釈に向けた会話が起きることが確認された。
著者
佐々木 直人
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

制御性T細胞(Treg)は、病的な免疫応答を抑制することにより、動脈硬化性疾患において抑制的に働くことが示された。また、マウスにおいて、全身でTregの数を増やしたりその抑制能を増強させることにより、動脈硬化の進行は抑制され、一旦形成された動脈硬化病変は退縮し、大動脈瘤形成は抑制されることが明らかになった。
著者
岡澤 敦司
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

我々は,進化的に光合成能を失った全寄生植物および腐生植物について,その光シグナル伝達経路を光合成を行う植物と比較した場合に,どのような相違点が存在するかを明らかにすることを目的として研究を行っている.その相違点は,これらの植物が光合成能を失ったことに関連する遺伝子の変化によってもたされていると考えられ,この遺伝子の変化を明らかにすることによって,植物の光シグナル伝達経路に重要な情報が得られると期待されるからである.本課題では,特に光シグナル伝達経路の最上流に位置する光受容体,フィトクロムA(PHYA)に着目して研究を行った.三種の寄生植物および一種の腐生植物についてそのcDNAをクローニングし,光合成を行う高等植物との配列比較を行った.その結果,光合成植物では保存されているアミノ酸において残基の置換が観察された.特に,実験室レベルでも栽培が可能であるヤセウツボのフィトクロムA(OmPHYA)についてさらに詳細に研究を行った.その結果,OmPHYAは光合成を行う植物のPHYAと同様に,光によってその発現量ならびに局在が制御されていることが明らかになった.さらに,OmPHYAの機能を調べるために,これをシロイヌナズナのPHYA欠損変異株より調整したプロトプラスト内で一過性に発現させた.このプロトプラストに遠赤色光を照射し,この条件でPHYAによって誘導される遺伝子の発現量を測定した.この結果,OmPHYAは一部の転写因子の発現を誘導出来るが,PHYA二よって誘導される光合成関連の遺伝子の発現を誘導出来ないことが明らかになった.これらの実験によって,光合成能の喪失に伴う,PHYAの機能変化が明らかになり,光シグナル伝達経路の解明に光合成を行わない植物を用いることの有用性が示された.