- 著者
-
岡澤 敦司
- 出版者
- 大阪大学
- 雑誌
- 若手研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2003
我々は,進化的に光合成能を失った全寄生植物および腐生植物について,その光シグナル伝達経路を光合成を行う植物と比較した場合に,どのような相違点が存在するかを明らかにすることを目的として研究を行っている.その相違点は,これらの植物が光合成能を失ったことに関連する遺伝子の変化によってもたされていると考えられ,この遺伝子の変化を明らかにすることによって,植物の光シグナル伝達経路に重要な情報が得られると期待されるからである.本課題では,特に光シグナル伝達経路の最上流に位置する光受容体,フィトクロムA(PHYA)に着目して研究を行った.三種の寄生植物および一種の腐生植物についてそのcDNAをクローニングし,光合成を行う高等植物との配列比較を行った.その結果,光合成植物では保存されているアミノ酸において残基の置換が観察された.特に,実験室レベルでも栽培が可能であるヤセウツボのフィトクロムA(OmPHYA)についてさらに詳細に研究を行った.その結果,OmPHYAは光合成を行う植物のPHYAと同様に,光によってその発現量ならびに局在が制御されていることが明らかになった.さらに,OmPHYAの機能を調べるために,これをシロイヌナズナのPHYA欠損変異株より調整したプロトプラスト内で一過性に発現させた.このプロトプラストに遠赤色光を照射し,この条件でPHYAによって誘導される遺伝子の発現量を測定した.この結果,OmPHYAは一部の転写因子の発現を誘導出来るが,PHYA二よって誘導される光合成関連の遺伝子の発現を誘導出来ないことが明らかになった.これらの実験によって,光合成能の喪失に伴う,PHYAの機能変化が明らかになり,光シグナル伝達経路の解明に光合成を行わない植物を用いることの有用性が示された.