著者
木下 淳 山田 勉 安原 智久 清水 忠
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.2021-012, 2021 (Released:2021-06-09)
参考文献数
19

これまでの薬学教育研究の成果の多くは,大学単位で実施された研究成果に基づくものであり,測定方法や評価基準が大学ごとに異なることから,複数の研究成果を比較検討することが困難である.本プロジェクトでは,薬剤師に求められる基本的資質のうち「コミュニケーション能力」について,学習成果の測定方法および評価基準の統一化と大学間での測定結果の比較,さらには各大学における研究成果を用いたコンピテンシーへの到達度に関するメタアナリシスおよびシステマティック・レビューの作成を目指している.この総説では,オーガナイザーからシンポジウム開催の経緯を述べたのち,シンポジストより教育や内部質保証における「測定と評価」の意義と要点,教育を支えるメタアナリシスを目指す意義について述べたうえで,シンポジウム当日の議論について読者と共有したい.
著者
清水 典史 井上 寛 松延 千春 高露 恵理子 椿 友梨 白谷 智宣
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.2017-023, 2018 (Released:2018-05-25)
参考文献数
15

個々の学生の知識修得度の推移が特定の指標により測定可能であれば,その測定結果を利用することにより,より効果的な教育施策の策定やその実施した教育施策の有効性の評価が可能になると考えられる.そこで,本研究では,サポートベクターマシン(SVM)を用いた試験合否予測が知識修得度の指標となり得るか否か検討した.今回,合否予測モデルを平成27年度6年生在籍者の9月実施模擬試験の成績データと第101回薬剤師国家試験結果から構築した.構築したモデルの有用性を確認するため,平成28年度6年生在籍者の9月実施模擬試験の成績データから本モデルにより第102回薬剤師国家試験の合否を予測させ,モデルの導き出した予測と実際の合否と比較した.本研究の結果から,本モデルは比較的高い精度で合否を予測することが可能であり,知識修得度の推移の指標として有用である可能性が示唆された.
著者
大津 史子
出版者
日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.2018-026, 2018 (Released:2018-11-03)
参考文献数
2

ディプロマポリシーなどで求める能力が,教育課程の成果として身についているかどうかを評価し,実質的な教育改善をすることが求められている.名城大学薬学部では,FD委員会で,教学IR(Institutional Research)に取り組んでいる.まずは,授業評価アンケートや学習活動調査,学習スタイル調査などのIRの基盤となる情報を一元的に蓄積し,他の学習成果の情報等も取り込み,多面的な分析が可能とする環境の構築(IR基盤データベース)を行った.また,ディプロマポリシー及び10の資質に対する長期的ルーブリックを作成し,後期終了時に,学生に1年間の学修成果を振り返らせる取り組みを導入した.本シンポジウムでは,現在取り組んでいる教学IRの事例として,学習成果とアクティブラーニング及び,学習スタイル調査との関連,さらに,ディプロマポリシー及び10の資質に対する自己評価について,検討結果の一端を紹介する.
著者
青木 昭子
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.2019-016, 2019 (Released:2019-09-27)
参考文献数
10

講義は大人数に多くの情報を系統的に提供できる授業法であるが,一方的な知識の伝授となると学生の集中力も,興味も続かないことが多い.チーム基盤型学習(team-based learning: TBL)は1人の教員が大教室で100~200人の学生を対象に授業する際,効果的に少人数グループ学習をさせることができる教育方略で,予習,個人テスト,グループテスト,アピール,フィードバック,ピア評価の6つのステップがある.すべてを導入するのは困難だが,その仕掛けを活かして,アクティブ・ラーニングを実践したい教員のために,医学科3年生100人を対象とした「アレルギー」の60分講義を紹介する.4選択肢択一の形式でアレルギーについて基本的な知識を問う問題10問,難易度を上げた症例問題10題を準備する.それぞれ各自解答後,グループで相談しスクラッチカードを用いて解答する.スクラッチカードを使うことで学生はその場で解答の正誤を知り,正答に到達するまで自分たちのペースで議論することができる.個人テスト,グループテストを基本問題,応用問題の2種類で実施したため,60分ではフィードバックの時間を取ることができず,改善すべき点もあるが,複数の学生が能動的に学習できたと感想を述べており,有用な方法であると考えた.
著者
小佐野 博史
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.2022-055, 2023 (Released:2023-02-03)
参考文献数
1

本稿は,令和3年8月に行われた第6回日本薬学教育学会シンポジウム「どう伝える?医療プロフェッショナリズム~医学部のこれまでと薬学部のこれから~」で発表した「薬学部におけるプロフェッショナルを考える―卒業時にどこまで到達するか―」という講演の内容をまとめたものである.帝京大学薬学部では,ディプロマ・ポリシー(DP)に「プロフェッショナリズム」という言葉を用いている.現行(平成25年度改訂版)の薬学教育モデル・コア・カリキュラムには含まれていないが,DPに使用した以上,1年生から考えさせなければならない.しかし,プロフェッショナリズムとは,大きな一般的概念の下に,〇〇におけるプロフェッショナリズム,という具体性のある場を繋げて考えてゆかなければならないものであり,この〇〇にはとても多くの場が含まれる.国家資格のない学生に,プロフェッショナルという概念をどのように伝えるか,筆者が薬学6年制教育の開始以来,考え続けてきた「大学における薬学生のプロフェッショナリズム」についての概略と教育に用いた方法を紹介し,今後の教育をどう発展させるか,という私見を込めて記載した.
著者
浦野 公彦 波多野 紀行 尾関 佳代子 小茂田 昌代 河原 昌美 小崎 彩
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.2022-035, 2022 (Released:2022-08-23)
参考文献数
17

日本の薬学教育においてevidence-based medicine(EBM)の重要性は認識され,薬学教育モデル・コアカリキュラムにも明記されている.しかし,現状では臨床で活用できるEBMスキルを身につけるトレーニングが十分とはいえない.効果的なEBM教育を実践するには大学と臨床との間で教育の循環を行うことが必要であると考える.そのためには臨床現場である薬局や病院からのエビデンスの創出を薬剤師から発信し,大学ではアカデミック・ディテーリングの理念に基づき,基礎と臨床の橋渡し教育を通した処方の最適化への貢献を目指し,また,フォーミュラリーの作成など臨床に直結した実習の実施が望まれる.さらに米国では基礎教育から実務実習までの薬学教育全般を通したEBM教育が実施され,これは今後日本でも取り入れるべき教育体系である.
著者
阿登 大次郎 小竹 武 小森 浩二 森山 博由 井上 知美 三田村 しのぶ 日高 眞理 水野 直子 廣瀬 隆 吉田 彰彦 鬼本 茜 八代 哲也 大原 隆司 清水 忠 東海 秀吉
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.2020-033, 2020 (Released:2020-12-25)
参考文献数
9
被引用文献数
2

本研究は,処方解析報告書を連携ツールとした薬局病院合同教育プログラムが,実習生の処方解析能力にどのような影響を与えたかについて検証することを目的とした.処方解析報告書は,採択理由などを含む4つの大項目で構成された書式を作成した.実習生は本報告書を週1例以上提出し,実習開始1,6,11週目に報告書の内容と自身の考察を発表した.提出された報告書と発表内容に対して評価チームの薬剤師および大学教員がルーブリックを用いて評価した.実習生の報告書と発表に対する評価結果および実習後アンケートの結果から,実習11週目には,1,6週目と比べてルーブリックの全項目が有意に向上し,特に疾患を意識した症例選択能力が向上したと考えられた.また,アンケート調査から,実習生が本プログラムにより自身の成長を実感していることが明らかになったが,発表会後のフィードバック方法に今後の課題が見出された.
著者
高垣 伸匡 水野 成人 田内 義彦 竹内 雅代 福岡 敏雄
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.2019-032, 2020 (Released:2020-04-24)
参考文献数
13

Evidence-Based Medicine(EBM)は日本でも普及している医療従事者の行動様式,思考形式である.イギリスにはEBMの学習者を支援するCASP(Critical Appraisals Skills Programme)という組織が存在する.1999年に倉敷中央病院総合診療科兼研修医教育部長の福岡敏雄が日本支部としてCASP Japanを設立し,CASPワークショップをはじめ,EBM学習を提供してきた.内容は臨床疫学や教育手法など多岐にわたり,短時間で楽しんで学べるよう工夫されている.一方,日本において薬学生がEBMについての教育をうける機会は乏しいのが現状である.筆者らは2010年12月から,Student CASPと称する,学生を対象としたCASPワークショップを神戸薬科大学,同志社女子大学薬学部,摂南大学薬学部などで開催してきた.このうち神戸薬科大学でのStudent CASPワークショップの紹介,およびアンケート結果を若干の文献的考察を加えて報告する.
著者
安原 智久 串畑 太郎 永田 実沙 岩田 加奈 曽根 知道
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.2020-021, 2020 (Released:2020-12-19)
参考文献数
18

6年制薬学教育では研究能力の養成が求められているが社会調査研究に関してはほとんど行われていない.我々は将来の就職先に関わらず臨床上の問題を抽出し,適切な測定と統計解析の実践による研究ができる薬剤師の養成を目指し,基礎的な知識・理解を担保するチーム基盤型学習(TBL)と自由度の高い問題解決型学習(PBL)を共存させたハイブリッド型演習プログラムを構築した.学生の演習への意欲を高めるため,本演習はARCSモデルによる教育デザインを行い,自分たちを対象としてテーマを自由に設定し,アンケートを自作し実際に調査するという実践(Does)を行った.演習終了後に行ったアンケートからは,本演習に対して肯定感の高い層は,評価の追求や競争心の有無に関わらず,将来の研究や学会発表に対して高い関心を示した.本演習が,社会調査研究を担う能力を有する薬剤師の養成という目的を達成する可能性のある教育プログラムであることが示唆された.
著者
清水 忠 西村 奏咲 安田 恵 村上 雅裕 橋本 佳奈 大野 雅子 桂木 聡子 上田 昌宏 天野 学
出版者
日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.2018-014, 2018 (Released:2018-08-24)
参考文献数
7

薬学実務実習終了生を対象としたアンケート調査によれば,大半の学生は実習中に基礎薬学の知識を活用する機会は少なかったと感じていることが報告されている.その要因として,教員が基礎薬学は臨床現場でどのように役に立つかを具体的に説明できていないことが指摘されている.しかし,臨床現場での問題は基礎薬学が問題解決に有用となることもある.そのため,基礎系教員と臨床系教員が連携し基礎薬学の臨床現場での有用性を理解させ,それが可能であることを示すことが必要であると考えた.そこで,実務実習事前学習において有機化学を専門とする基礎系教員と実務家教員が連携した医薬品の配合変化に関する実習を実施し,終了後にアンケートを行った.この結果,受講生の90%以上が基礎薬学の内容が臨床の問題を解決するのに有用であることを意識できた.すなわち,基礎薬学が臨床現場でどのように役に立つかを意識させる実習を提供できたと考えられる.
著者
宮田 靖志
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.2021-044, 2023 (Released:2023-02-03)
参考文献数
29

プロフェッショナリズム教育には,アンプロフェッショナルな行為をしないという最低限の目標と,常に高みを目指すという向上心的目標の2つの学修目標を見据える必要がある.向上心的目標のためには,規範に基づいた教育からナラティブに基づいた教育への視点の転換が重要であり,これにはロールモデル,自己の気づき(省察),ナラティブ能力,コミュニティ・サービスが挙げられる.学修者には,これらにより,実際の臨床経験を通じて患者・住民・社会の期待を実感することが求められ,このことがプロフェッショナルとしてのアイデンティティ形成につながる.また,社会のニーズに応えるという社会的説明責任を学んでいくことにもつながる.そして,個人・対人・社会レベルにおけるプロフェッショナリズムを考え,複雑で混沌とした医療状況の中で悪戦苦闘しながら課題解決に当たる省察的実践家である真のプロフェッショナルを養成することを,医療専門職教育者は考える必要がある.
著者
桐野 豊
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.2022-040, 2022 (Released:2022-09-28)
参考文献数
50

欧米の薬学教育に関する情報を収集した.中でも,医療薬学先進国といわれているイギリス,アメリカ,及びカナダについて,最近の詳しい情報を,主としてWeb(当該大学のHome Pageなど)から,一部は当該大学教員との交信により,収集した.薬学教育制度は,その国の高等教育制度の一つであり,また薬学教育は当然ながら,当該国の薬剤師の職務と深く関連しているので,高等教育制度一般や薬剤師の職務権限についても背景・周辺情報として重要であると考え,収集に努めた.特に重点的に取り上げた項目は,教育制度と入学者選抜,カリキュラム,教員組織(教員の経歴),及び大学院(制度と現況)である.これらの実情を詳細に調べて,比較・分析し,日本の薬学教育の改善に有用と思われるところを考察した.
著者
上田 昌宏
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.2022-029, 2023 (Released:2023-04-15)
参考文献数
5

2020年からのCOVID-19の感染拡大に伴い,教育は大きな転換期を迎えた.薬学教育においても,対面授業が大きく制限され,薬学部教員の多くが,慣れないオンライン教育の実施を余儀なくされた.このため,薬学部教員は,全くノウハウがない中でそれぞれが独自に取り組みを行う必要に迫られた.2020年度内から教育系の学会では,オンライン教育の実施に関する情報共有の場が設定された.しかし,その多くは,成功体験や構築例の報告であり,意図せぬ小さな失敗や間違い(しくじり)を共有する機会は限られていた.そこで筆者は,薬学部教員を対象として,オンライン教育における「しくじり」およびその対策に関する調査を実施した.その結果,9名のしくじり先生から,報告を受けた.本稿では,しくじり先生の経験談を紹介することで,オンライン教育における「しくじり」を振り返る.今後の教育に活用し,良い点は継続し,改善すべき点は良くすることで質の高い教育を実践するためのPDCAサイクルを進める一助になることを期待している.
著者
山内 理恵 大野 修司 中島 りり子 井上 信宏 久保 元 浅井 和範
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.2020-012, 2020 (Released:2020-12-01)
参考文献数
12
被引用文献数
1

薬剤師国家試験の必須問題はCBTと共通点があり,その多くは4年次までに習得した基本的知識で対応できる.本研究では,星薬科大学の2015年度から2018年度に在籍した6年次生について,模擬試験等の成績を元に必須問題への学習到達度と国家試験成績との関連を検討した.各試験における必須問題の正答率は,6年次の9月以降大きな変動が認められなかった.また,国家試験合格者とそれ以外の学生との間には9月の段階で大きな差が生じており,合格者の正答率は常に70%以上を推移し,それ以外の学生ではほぼ70%を下回った.また,9月以降において必須問題の成績は大きく変動しなかった.これは全ての学生で必須問題に加え理論問題や実践問題への対策に多くの学習時間が費やされるためと考えられた.以上より,早期から基本的知識を身に付け,必須問題に対応できる能力を養うことが重要であると推測された.
著者
弓削田 祥子 西丸 宏 加瀬 義夫
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.2021-026, 2022 (Released:2022-03-31)
参考文献数
7

武蔵野大学薬学部6年生に対して実施した薬剤師国家試験と同形式の試験(9月~2月に計6回実施)における総合計および各科目の成績推移をグループ化できるかについて,3年間(2017–2019年度)のデータを用いたクラスター分析を行って検討した.その結果,総合計およびすべての科目について上位・中位・下位の3グループに分類することができたが,その構成人数は科目によって異なる傾向を示した.また,すべての科目について総合計との相関が見られた.ある時点の試験成績から薬剤師国家試験の合否に関して有意に影響がある科目を見いだせるかについて多重ロジスティック回帰分析で検討したところ,薬理など複数の科目で合否に影響がある可能性が示唆された.本研究は,各学生の早い時期の試験成績から,学習到達度の把握や今後の成績推移の見通しを予測し,国家試験対策における学生指導や学習方略の構築を検討する際に有用な知見となる可能性を示している.
著者
細谷 治
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
pp.2022-048, (Released:2022-12-16)
参考文献数
10

プロフェッショナリズムをどう伝えるか.アカデミアだけでなく,臨床にいる薬剤師にとっても大変難しい課題である.2006年,医療技術の高度化や医薬分業の進展等に伴い,高い資質を持つ薬剤師養成のために薬学部の修業年限は4年から6年に延長された.現行の改訂薬学教育モデル・コアカリキュラムには「薬剤師に求められる基本的な資質」が示され,生涯にわたりそれらの資質や能力の研鑽が求められている.医療現場で生じる様々な課題に向き合い,医療者として,あるいは薬剤師としてどのように行動すべきかを考えるとき,その推進力になるのがプロフェッショナリズムであろう.このプロフェッショナリズムをどのように伝え,どのように身につけていくのか.コロナ禍で社会構造が激変するなか,患者中心の医療を提供し続けるためにプロフェッショナリズムを維持することは決して簡単なことではないが,教育として伝え続けなければならないことは明白である.
著者
平田 尚人
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
pp.2022-034, (Released:2022-08-23)
参考文献数
5

近年,災害医療への関心の高まりや社会のニーズから,薬学教育においても災害医療分野の充実が望まれている.そこで,東京薬科大学では,学年横断的な取り組みとして,関連科目を紐付けた災害医療薬学コースの構築を試みたためご紹介する.演習での主な教育内容は災害医療に関連した学会や団体の災害医療関連研修をモデルに,トリアージの実践やシミュレーション,トランシーバを使ったミッションゲームなど,グループワークやロールプレイといったアクティブ・ラーニングを積極的に取り入れた.さらに2021年度は,「新興感染症のパンデミックにおける薬剤師の役割」をテーマに演習を計画した.附属病院を持たない本学では,必修科目と選択科目を組み合わせることで災害医療の修学ニーズに対応している.今後は教育内容の充実を図るとともに,学会等が主催する研修コースを組み合わせることにより,災害時にも率先して活躍できる薬剤師の育成を目指していきたい.
著者
広瀬 雅一 井上 真 村上 信行 佐藤 英治 長崎 信浩 吉冨 博則
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.2020-017, 2021 (Released:2021-02-19)
参考文献数
10

改訂された薬学教育モデル・コアカリキュラムの実務実習では,「代表的な8疾患」に対する実践的な臨床対応の基本を,患者との関わりを通して修得することが求められている.しかしながら,実習施設によって体験できる疾患が限られることもあるため,薬局実習から病院実習を通して,代表的な8疾患を学習できるよう配慮する必要がある.そこで,薬局実習の期間中に,より広範な疾患を体験して病院実習に引き継ぐため,実習の受入薬局では体験が困難な疾患を,他の薬局(以下,協力薬局)で体験する薬局間連携実習を試行した.協力薬局で学ぶ疾患を予め選定し,1日ずつの実習を3週間程度の間隔で計3日間行った結果,対象者(13名)全員が服薬指導と薬歴の記入を体験(のべ患者数:3–23例,中央値5例)し,患者での薬学的管理を実践することができた.この薬局間で連携する実習は,より多くの疾患を薬局実習で体験する手段の一つになり得ることが示された.
著者
⻆山 香織 安原 智久
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.2022-007, 2022 (Released:2022-05-14)
参考文献数
5

「薬学実務実習に関するガイドライン」では,大学への指針として,「実習施設に対し,大学における学習内容と到達度に関する情報を実習開始前に提供することが重要である」と述べられている.近畿地区では,毎年,近畿全域の実習施設に近畿14大学の約2,400名の学生が割り振られ,実習施設は各大学から多様な学生を受け入れることになる.各大学独自の評価基準で学生の到達度を提示すると,実習施設では混乱が生じることが懸念される.そこで,近畿地区調整機構では,学生の到達度を統一の基準で評価し実習施設に提示することで,実習施設が受入れ学生の到達度に合わせ実務実習を円滑に最適化できるのではないかと考えた.また,評価基準の作成を通して,大学における臨床準備教育の内容について改めて見直すきっかけにつながるものと期待した.本稿では,「臨床準備教育における概略評価表(例示)〈近畿地区版〉」の作成の経緯と運用状況について紹介する.
著者
堀尾 福子 池田 徳典 石黒 貴子 瀬尾 量 内田 友二
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.2021-041, 2022 (Released:2022-03-02)
参考文献数
18

感染症によるパンデミックを収束または制御する手段として期待されるワクチン及びその接種では,ワクチン接種希望者へ安定的かつ速やかに供給と接種を提供できる体制を構築することが重要である.その課題の一つとして接種の打ち手の確保がある.欧米では薬剤師もワクチン接種の打ち手となっているように,今後日本でも薬剤師が貢献できる可能性が期待される.このような背景により,学部4年生を対象とした上腕筋肉注射シミュレータを用いた実習を実施し,その効果を検証した.実習前と比較し実習後では,筋肉注射の知識・技術のどちらも向上しており,かつ高い満足度が得られた.さらに,学生の自信獲得にも繋がっており,自己効力感が育まれたと考えられた.また,「今後役に立つ」「学んでおくべき」と考える学生が実習後では増加し,学生の意識にも変化をもたらした.これらの結果より,学部教育における筋肉注射実習は有用な実習であると考えられる.