著者
井上 孝
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.87-100, 2018 (Released:2018-04-13)
参考文献数
44
被引用文献数
3

筆者は,2015年6月に「全国小地域別将来人口推計システム」の試用版を公開した.このシステムは,小地域(町丁・字)別の長期(2015~2060年)にわたる日本全国の推計人口(男女5歳階級別)を,初めてウェブ上に公開したものである.システム構築にあたっては,小地域の人口統計指標を平滑化する新たな手法を提案した.その後,本システムにはさまざまな改良が加えられ,2016年7月に正規版が公開されるに至った.本稿では,まずこのシステム開発の経緯に言及したあと,システムの理論面の根幹である,新しい平滑化法の概要を述べる.つづいて,推計方法と推計精度を中心に本システムの概要を述べたあと,その操作方法について解説し,最後にむすびに代えて今後の展望を示す.
著者
香川 貴志 井上 明日香
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.136-144, 2016 (Released:2016-03-15)
参考文献数
18

国際地理オリンピック(iGeo)は,主に高校生が選手として出場する競技会で,最近では国際地理学会議(IGC)の地域大会の開催地で毎年催されている.日本は長らく苦戦を続けていたが,直近の2015年8月にロシアのトヴェリで開催されたiGeoでは,代表選手の全員がメダルを獲得するという史上初の快挙を成し遂げた.その背後には,日本代表選手の選考にあたっての選抜試験の工夫,代表選手に対する強化研修の取り組みなど,成績の改善に向けた不断の取り組みがある.本稿では,前者に焦点を当てて,2015年における3次試験の内容を紹介し,地理教育を改善していくための一助としたい.
著者
花岡 和聖 リァウ カオリー 竹下 修子 石川 義孝
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.101-115, 2017 (Released:2017-07-27)
参考文献数
26
被引用文献数
1

本研究では,アメリカン・コミュニティ・サーベイの2009~2013年の個票データを用いて,アメリカ合衆国で暮らすアジアの7カ国(日本・韓国・台湾・インド・中国・ベトナム・フィリピン)生まれの既婚女性の長期雇用を対象とした多変量解析を行った.その結果,既婚日本人女性の長期雇用割合は,アジアの7カ国出身女性の中で最も低く,そのことは七つの説明要因の効果を調整した上でも,妥当していることが判明した.また,(1)3歳以下の実子がいる,(2)短大卒の学歴がある,(3)夫が高収入である,といった条件をもつ既婚女性の間では,日本人女性でこの割合が著しく低い傾向にある.アメリカ合衆国で暮らす日本生まれの日本人の夫が高い長期雇用割合を示すとともに,日本人の妻の雇用パターンは,(1)人間関係における母性原理という慣習,(2)集団意識としての「場」の共有,を強く選好する日本的価値規範に根差している,と解釈できる.
著者
清水 昌人
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.85-100, 2017 (Released:2017-07-27)
参考文献数
22
被引用文献数
5

本稿では2014年と2015年の住民基本台帳のデータを用い,外国人の社会増加が日本人の社会減少を量的にある程度以上補っている市区町村を観察した.筆者らは先の論稿で2014年の転出入を分析したが,集計値等を再検討すると,外国人の出国の多くが「その他」の職権消除に分類されていると推測されるため,本稿では転出入に「その他」の記載・消除(国籍変更等除く)を含めて社会増加・減少を分析した.その結果,外国人の社会増加が日本人の社会減少を完全に補う地域は,転出入のみで社会増加・減少を見た前稿に比べて大幅に減った.ただし完全にではないが,前者が後者を半分以上カバーし,かなりの程度補っている地域を加えた数は,2015年には少ないながら一定数にのぼる.2014年と2015年の比較では,これら市区町村の増加は三大都市圏から離れた地域等で小さいこと,かなりの程度以上補われている状態への移行やそこからの離脱は頻繁に起きること等を示した.
著者
筒井 裕
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.265-281, 2016-09-30 (Released:2016-10-11)
参考文献数
17
被引用文献数
1

1980年代以降,日本の宗教地理学の分野では信仰圏に関する研究が盛んに行われるようになった.これらの先行研究においては,特定の信仰の分布が疎らになる要因を「類似した属性をもつ他の信仰対象」,あるいは「近隣にある他の信仰対象」との「競合」によるものと単純に解釈する傾向にあった.そのような中で,地理学者たちは特定の信仰の分布が様々な信仰との関わりの中でどのように成立したかについて実証的に考察を行ったり,信仰対象間の「競合」とはいかなる状況を意味するかについて検討したりすることはなかった.以上を受け,本研究では山形県庄内地方の代表的な霊山である鳥海山とその崇敬者組織(講)を事例として,崇敬者に対する聞き取り調査の成果をもとに上記の点の解明を試みた.
著者
由井 義通 若林 芳樹 中澤 高志 神谷 浩夫
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.139-152, 2007 (Released:2010-06-02)
参考文献数
39
被引用文献数
1 2

日本の女性を取り巻く社会的・経済的状況は過去数十年の間に急激に変化した.そうした変化の一端は,働く女性の増加を意味する「労働力の女性化」に現れている.とりわけ大都市圏ではシングル女性が増大しているが,それは職業経歴の中断を避けるために結婚を延期している女性が少なくないことの現れでもある.この傾向は,1986年の男女雇用機会均等法の成立以降,キャリア指向の女性の労働条件が改善されたことによって促進されている.その結果,日本の女性のライフコースやライフスタイルは急激に変化し,多様化してきた.筆者らの研究グループは,居住地選択に焦点を当てて,東京大都市圏に住む女性の仕事と生活に与える条件を明らかにすることを試みてきた.本稿は,筆者らの研究成果をまとめた著書『働く女性の都市空間』に基づいて,得られた主要な知見を紹介したものである.取り上げる主要な話題は,ライフステージと居住地選択,多様な女性のライフスタイルと居住地選択,シングル女性の住宅購入とその背景である.
著者
香川 貴志 井上 明日香
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.136-144, 2016

国際地理オリンピック(iGeo)は,主に高校生が選手として出場する競技会で,最近では国際地理学会議(IGC)の地域大会の開催地で毎年催されている.日本は長らく苦戦を続けていたが,直近の2015年8月にロシアのトヴェリで開催されたiGeoでは,代表選手の全員がメダルを獲得するという史上初の快挙を成し遂げた.その背後には,日本代表選手の選考にあたっての選抜試験の工夫,代表選手に対する強化研修の取り組みなど,成績の改善に向けた不断の取り組みがある.本稿では,前者に焦点を当てて,2015年における3次試験の内容を紹介し,地理教育を改善していくための一助としたい.
著者
岩田 修二
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.1-24, 2007 (Released:2010-06-02)
参考文献数
33
被引用文献数
2

氷河湖決壊洪水(GLOF)による災害はブータンでも発生している.1998年と2002年に筆者を含むグループが氷河湖危険度調査を北西―北部ブータンで行った.その結果や過去の衛星画像の解析によると,ブータンのGLOFに関して最も危険とされるのはモレーンダム湖である.さまざまな氷河湖は,散らばった小氷河表面湖群 → 合体して巨大化した氷河表面湖 → 前面に氷体をもつモレーンダム湖 → モレーンのみのダム湖という発達段階のいずれかに位置づけられる.決壊洪水危険度査定のためには,定量的査定が試みられなければならない.危険な氷河として,ルナナ東部のトルトミ氷河湖,モンデチュウ西支流源頭部氷河湖群,クリチュウ上流のチベット側氷河湖が挙げられる.モニタリングのための衛星情報の提供,現地調査の援助,クリチュウ上流チベット側での調査・研究を進めるための中国側との交流が,さしあたって,実施されるべき日本からの貢献になろう.
著者
宇根 寛 熊木 洋太
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.86-94, 2007 (Released:2010-06-02)
参考文献数
11
被引用文献数
1 2

高解像度衛星画像は,数10cmの解像度で地表の詳細な画像を提供するが,高価であることから,地形学的研究には十分利用されてこなかった.パキスタン北部地震発生直後の2005年10月12日,ムザファラバード周辺のイコノス衛星画像がインターネットで無償公開された.さらにその直後,衛星画像の無償閲覧サイトとして注目されているグーグルアースが,被災地域のクイックバード衛星画像の提供を開始した.著者らはこれらの画像を用いて地形変化の判読を行い,撓曲崖,河床の離水,地表地震断層などの断層変位に伴う地形を見いだすことができた.これらの画像は簡易なオルソ化が行われており,実体視ができないことは変位地形の判読に不利であったが,地震前後の画像の比較や,SPOT5などのやや解像度の低い衛星画像の実体視判読などにより,判読を補うことができた.また,日本地理学会災害対応グループのメーリングリストによるオープンな意見交換も変位地形の認定に有益であった.
著者
海津 正倫 高橋 誠
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.121-131, 2007 (Released:2010-06-02)
参考文献数
11
被引用文献数
3 6

本稿では,2004年12月26日にインドネシアのスマトラ島北西沖で発生したインド洋大津波によって甚大な被害を受けたバンダアチェとその周辺地域において,主として現地調査をもとに,地形条件の地域的差異と津波の挙動との関連に焦点を置きながら,物的・人的被害の特徴について考察する.津波の波動は,基本的に海岸からの距離に従いながらも,微地形にみられる土地条件の地域的差異に応じて複雑な軌跡を描いており,その影響が物的・人的被害の地域差となって現れている.
著者
池 俊介
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.35-42, 2012 (Released:2012-04-09)
参考文献数
23
被引用文献数
1 4 1

地理学習では,少なくとも学習指導要領のレベルにおいては野外での地域調査が一貫して重視されてきた.しかし,小学校では地域調査の内容の形骸化が進み,また中・高校では地域調査は準備や実施に時間を要するために,実際には地域調査を行う教員の割合は低くなっている.地域調査の実施率を上げるためには,教室での学習では得られない地域調査の教育的意義を明確化するほか,地域調査の内容や方法を学ぶことのできる教員養成カリキュラムの整備や,地理学習の他の学習内容との関係を深める内容面での工夫などが必要である.
著者
深野 麻美 春山 成子 桶谷 政一郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.1-14, 2010 (Released:2010-08-23)
参考文献数
26
被引用文献数
1 1

カンボジア・トンレサップ湖岸北西部は,アンコール王朝期より地形面の人為改変を受けているが,地形面特性については明瞭に理解されていない.本稿では,現地調査,空中写真,SRTMデータをもとに湖岸地域の地形分類を行った.この地域は扇状地,砂堤,湖岸段丘I・II,湖岸湿地に分類できた.また,ボーリング試料から人為改変を受けた湖岸平野の地形変化についても検討した.湖岸段丘の一部では,アンコール王朝期の河道変更の影響を受けて,自然堤防が形成されたことが示唆された.
著者
村山 朝子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.11-18, 2012 (Released:2012-04-09)
参考文献数
11

社会科教育における地理の現状と課題をふまえ,その役割と今後のあり方について展望した.教育における地理と歴史は対峙するものではなく,互いに連携し補完し合う関係にある.限りある地球資源と経済社会をどう持続させ,循環型社会を築いていくか,持続可能な開発のための教育(ESD)が社会科教育にも求められている.そのなかで地理教育が果たすべき役割は,自然と人間との関わりをベースに,地域の具体的事象を取り上げて,科学的な認識に基づく市民性を育成することにある.
著者
高野 岳彦
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.119-140, 2013 (Released:2013-09-13)
参考文献数
17
被引用文献数
1 3

本論では2008年漁業センサスの漁業地区別統計を主に使用して,東北地方太平洋岸の漁業の地域特性を分析した.同地域の漁業は2011年の大津波によって壊滅的被害を受け,現在復興が進められている.その復興プロセスは震災前の各地域の漁業生産のあり様とどう関連するのかについては地理学研究の主題となると考える.本分析はそのための基礎資料として企図された.分析においては,初めに漁業の種類,経営形態,経営規模,販売額,兼業状況,労働力状況等に関する諸指標を分布図化してその地域性を確認した.次いで,それらの23変数×77漁業地区のデータ行列に対して主成分分析を適用し,4つの解釈可能な主成分を抽出した.さらにその成分得点から77 地区を類型分類し,都市漁港,自立養殖漁村,小規模・兼業養殖漁村,共同経営・定置網漁村の主要4類型を見出した.最後に,それらの地域特性は今後の復興プロセスのあり方とどう関連するのかについて考察を行った.
著者
富田 啓介
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.26-37, 2014-03-31 (Released:2014-04-23)
参考文献数
28
被引用文献数
1

西日本の丘陵地を中心に分布する湧水湿地は,希少種のハビタットであるのと同時に,地域社会の中で人の営為と関係を持ちながら存続してきた里山の湿地という特色を持つ.地域社会と湧水湿地の関わりを整理すると,空間的・心理的近さから生じる場所を介した関わりの中に,形成・維持に直接関与する生態的システムを介した関わりが存在する.今日の湧水湿地の保全・活用に関する活動もその関わりの構造を踏襲している.活動を担う主体は湧水湿地の存在する場所の地域社会の中に作られた団体であり,森林管理や草刈などかつての生態的システムを介した関わりが再現されている.地域社会が中心となった保全・活用は,湧水湿地本来の姿を維持するために今後も重要である.一方で,湧水湿地の関心層を増やして保全・活用をさらに推進するためには,個々の湿地の情報を広く発信することや,地場産業と結びつけた複数の湿地をめぐるジオツアーの実施のように,広域的視点での活動も求められる.
著者
長谷 義隆 鵜飼 宏明 廣瀬 浩司
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.38-43, 2014-03-31 (Released:2014-04-23)
参考文献数
12

ジオパークの基本理念の主旨は大地の遺産の保全と活用である.大地の遺産のうち,地層や化石を主要テーマにしているジオパークにおいて,地層から化石を採集する行為は大地の遺産を保全するという観点からみると,受け入れがたいことのようにも考えられるが,しかし,大地の姿を知り,生命の変遷を語るにはなくてはならない教育プログラムであると考えられる.天草御所浦ジオパークの特徴は,中生代から新生代への地球規模の変遷を地層と化石から実感できることである.特に白亜紀層から産出する豊富な化石群(恐竜や軟体動物)を用いた子供たちの化石採集体験は教育プログラムとして重要である.その際採集される化石は,大地の遺産保全というジオパークの理念とどのように関わるのかについて,ジオパーク認定以前の旧御所浦町が取り組んできた保全・保護に対する実践と,それを現在の生態系の保全を含めた取り組みとして継続,発展させている天草御所浦ジオパークの現状を説明する.
著者
目代 邦康
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.1-3, 2014-03-31 (Released:2014-04-23)
参考文献数
8
被引用文献数
1