著者
庄子 元 甲斐 智大
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.22-32, 2023 (Released:2023-01-07)
参考文献数
15

本稿の目的は青森県南部町と秋田県東成瀬村を事例に,特定地域づくり事業協同組合の性格の地域差を明らかにすることである.両地域では地域外からのサポートによって労働者派遣法に対応した運営体制の構築やホームページの整備が進められ,事業協同組合が設立されている.また,南部町では求人のウェブサイト,東成瀬村では地域内のハローワークを通じてマルチワーカーが募集された.そのため,南部町のマルチワーカーは地域外からの新規就農希望者であるのに対し,東成瀬村は地域内居住者が主である.こうした属性の違いから,南部町ではマルチワーカーに対する農業技術の研修を充実させている一方,東成瀬村ではマルチワーカーへの手当を厚くしている.したがって,両地域の事業協同組合は,南部町では新規就農希望者が農業技術を習得する学びの仕組みとして機能しているのに対し,東成瀬村は地域内の居住者が安定して雇用されるための仕組みといえる.
著者
杉江 あい
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.312-331, 2018 (Released:2018-05-31)
参考文献数
20

2017年8月25日以降,67万人以上のロヒンギャ難民がミャンマー国軍による弾圧を逃れてバングラデシュに流入した.この前代未聞の人道危機を受け,バングラデシュ政府およびさまざまな国際機関やNGOが協働して支援を行っている.本稿はロヒンギャ難民支援の実態をフィールドワークによって明らかにし,キャンプ・世帯間の支援格差がどのように生じているのかを検討した.現行の支援体制は,多種多様な支援機関とその活動を部門内/間で調整し,またキャンプの現状を迅速かつ頻繁に把握・公開して支援活動にフィードバックする機構を備えている.しかし,最終的には支援の濃淡を解消するための全体的な調整よりも,各支援機関による現場選択が優先されてしまい,中心地から遠く,私有地に立地するキャンプでは支援が手薄になっていた.このほかにも,配給のプロセスやその形態,共同設備の管理等,現行の支援体制において改善すべき具体的な問題が明らかになった.
著者
淺野 敏久 金 枓哲 平井 幸弘 香川 雄一 伊藤 達也
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.223-241, 2013 (Released:2013-11-01)
参考文献数
13
被引用文献数
2

本稿では,韓国で2番目にラムサール登録されたウポ沼について,登録までの経緯とその後の取り組みをまとめ,沼周辺住民がそうした状況をどのように受け止めているのかを明らかにした.ラムサール登録されるまでの過程や,その後のトキの保護増殖事業の受け入れなどの過程において,ウポ沼の保全は,基本的にトップダウンで進められている.また,湿地管理の姿勢として,「共生」志向というよりは「棲み分け」型の空間管理を志向し,生態学的な価値観や方法論が優先されている.このような状況に対して,住民は不満を感じている.湿地の重要さや保護の必要性への理解はあるものの,ラムサール登録されて観光客が年間80万人も訪れるようになっているにも関わらず,利益が住民に還元されていないという不満がある.ウポ沼の自然は景観としても美しく,わずか231 haほどの沼に年間80万人もの観光客が訪れ,観光ポテンシャルは高い.湿地の環境をどう利用するかが考慮され,地元住民を意識した利益還元や利益配分の仕組みをつくっていくことが課題であろう.
著者
中澤 高志
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.210-229, 2022 (Released:2022-07-15)
参考文献数
33

本稿では,テレワーク人口実態調査から得られる年齢階級別・職業別の雇用型テレワーカー率を,国勢調査から得られる年齢階級別・職業別雇用者数に乗じることにより,市区町村別のテレワーカー率を推計した.雇用型テレワーカー率の推計値は,都市において高く農村において低いことに加え,雇用型テレワーカー率の低い現業に従事する雇用者の割合が東高西低であることと逆相関の関係にあり,東日本で低く西日本で高い傾向がある.サービスは雇用型テレワーカー率が低い職業であるが,地域全体の雇用型テレワーカー率の高低に関わらず,偏在する傾向がある.本稿は,相対的に高所得かつテレワーカー率の高い雇用機会が地理的に偏在することだけではなく,テレワークが可能な職に就く人の生活が,同じ地域に住み,テレワークへの代替が困難な相対的に低所得の人々の仕事に支えられているという,地域内格差の可能性にも目を向けるべきであることを示唆する.
著者
南雲 直子 大原 美保 藤兼 雅和 井上 卓也 平松 裕基 ジャラニラ サンチェズ パトリシア アン
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.123-136, 2022 (Released:2022-06-04)
参考文献数
17

地理情報や被災記録に乏しい途上国において将来の洪水災害に備えるためには,ハザード情報を簡単に可視化・共有でき,住民らが地域の氾濫特性を理解するための手助けとなるような技術が重要な役割を果たす.そこで本研究では,フィリピン共和国の洪水常襲地を対象に,Google Earthを用いて降雨流出氾濫(RRI)モデルによる洪水氾濫計算結果を描画し,建物高さと浸水深の関係を可視化できる3D浸水ハザードマップを作成した.また,このハザードマップに関する講義およびチュートリアル教材を作成し,フィリピンでの技術普及を目的としたオンライン研修で取り上げた.その結果,3D浸水ハザードマップはフィリピンの人々も簡単に作成・利用できるものであり,地域の浸水リスクを理解するのに役立つことが明らかとなった.Google Earthは多言語に対応する無償ソフトウェアであることから,本研究によるハザードマップ作成手法は予算や人材が不足する途上国においても有用な技術であると考えられる.
著者
河本 大地
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.534-548, 2018
被引用文献数
1

<p>「身近な地域」の調査とウィキペディア編集の組合せの有効性と課題を,大学の初年次教育における実践をもとに整理することが本稿の目的である.対象地域は古都・奈良のならまちで,奈良教育大学の近くに歴史的町並みを有する.学生は,ならまち各町を「マイタウン」として担当し,ウィキペディア記事を作成するとともに,自治会長等への聞取りや施設訪問などをおこない,成果を報告会でのプレゼンテーションや,小学生向け冊子にまとめた.取組みを分析した結果,初年次教育として広範な意義が認められた.また,大学教育におけるローカルなフィールドワークおよびその成果の発信によって得られる知識・技能,思考力・判断力・表現力,主体性・多様性・協働性が明らかになった.大学および学生と地域社会との関係性構築にも寄与しており,初年次教育に対する地理学の貢献可能性を見出せる.</p>
著者
矢野 桂司 磯田 弦 中谷 友樹 河角 龍典 松岡 恵悟 高瀬 裕 河原 大 河原 典史 井上 学 塚本 章宏 桐村 喬
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.12-21, 2006 (Released:2010-06-02)
参考文献数
30
被引用文献数
10

本研究では,地理情報システム(GIS)とバーチャル・リアリティ(VR)技術を駆使して,仮想的に時・空間上での移動を可能とする,歴史都市京都の4D-GIS「京都バーチャル時・空間」を構築する.この京都バーチャル時・空間は,京都特有の高度で繊細な芸術・文化表現を世界に向けて公開・発信するための基盤として,京都をめぐるデジタル・アーカイブ化された多様なコンテンツを時間・空間的に位置づけるものである.京都の景観要素を構成する様々な事物をデータベース化し,それらの位置を2D-GIS上で精確に特定した上で,3D-GIS/VRによって景観要素の3次元的モデル化および視覚化を行う.複数の時間断面ごとのGISデータベース作成を通して,最終的に4D-GISとしての「京都バーチャル時・空間」が形作られる.さらにその成果は,3Dモデルを扱う新しいWebGISの技術を用いて,インターネットを介し公開される.
著者
荒木 俊之
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.56-69, 2016 (Released:2016-06-23)
参考文献数
31
被引用文献数
3

本稿では,小売業の立地規制で代表的な大店法の運用が緩和された1990年代以降の小売店の立地変化と立地規制の影響について,店舗形態,業態,立地環境の視点から明らかにした.成長を示した業態や地域に共通している点は,1990年代以降の立地規制の運用緩和が少なからず影響していることである.たとえば,1990年代以降の市街化調整区域における開発許可の運用緩和,2000年以降の市街地縁辺部における幹線道路のロードサイドでの開発許可条例の運用,そして,1990年代における大店法の運用緩和である.

3 0 0 0 OA 地誌学習再考

著者
秋本 弘章
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.27-34, 2012 (Released:2012-04-09)
参考文献数
20

日本における地誌学習を,学習指導要領を中心に検討した.日本では,児童・生徒に諸地域の実態を知識として身につけさせることを目的にカリキュラムを構成してきた.平成10年告示の学習指導要領では地域の特徴を解明する方法を学ぶことがカリキュラムの中心となった.このことに批判があったが,本来この二つは,相互に補完するものである.日本の地誌学習は欧米の地誌学習と比較した場合,特殊な面を持つが,方向性は共有している.日本の地誌学習の課題は,教育現場での実践にあるが,教員だけの問題としてとらえるのではなく,教育環境も含めた教育システムの問題としてとらえる必要がある.
著者
清水 希容子 松原 宏
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.118-134, 2014 (Released:2014-11-29)
参考文献数
22
被引用文献数
2 2

東日本大震災から3年半が経過した.本稿の目的は,大震災後の製造業の回復過程を明らかにするとともに,地域経済の復興に向けて出されてきた産業立地政策を整理することである.鉄鋼,石油精製,セメントなどの沿岸部の素材型工業は,津波による大きな被害を受け,復旧にも時間がかかった.これに対し,内陸部の電子や自動車などの機械工業では,一部でサプライチェーンを通じて内外に被害が波及した工場があったものの,被害は相対的に少なく,早い時点での回復がみられた.震災後,中小企業向けのグループ補助金,国内産業立地補助金,地域イノベーション戦略推進地域など,さまざまな産業立地政策が,経済産業省や文部科学省によりとられてきた.被害の大きかった地域への新規投資を促すとともに,広域的観点から,東北各地の回復力と地域間の連携を強化することが今後の課題といえる.
著者
岡 暁子 高橋 日出男 中島 虹 鈴木 博人
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.233-245, 2019 (Released:2019-07-03)
参考文献数
30
被引用文献数
1 1

本研究では,東京都と埼玉県を主な対象とし,15年間の夏季(6~9月)における,稠密な降水量観測網(290地点)の時間降水量データを用いて,降水域(≧5 mm/h)の局地性と広域性に着目して強雨(≧20 mm/h)発現の地域的な特性を解析した.その結果,関東山地東麓と都区部西部や北部で局地的強雨の頻度が高く,それによる降水量も多い.全強雨に占める局地的強雨の頻度割合は,都区部北部から埼玉県東部で大きく,総降水量への寄与も大きい.一方,関東山地や埼玉県西部,多摩地域では広域的な降水に伴う強雨の頻度や降水量が多い.また,南風時に都心の数十km風下側の埼玉県東部で夏季を通して局地的強雨の頻度割合が大きいことに関し,強雨発現と風系との関係を調べた.局地的強雨には基本的に風の収束が関与しており,いわゆるE-S型風系だけでなく,関東平野内陸からの北風に伴う収束や,相模湾からの南風と東京湾からの南東風との収束も重要と考えられた.
著者
中川 清隆 中村 祐輔 渡来 靖
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.163-179, 2019 (Released:2019-07-03)
参考文献数
61
被引用文献数
1 1

Summersの式はシンプルな数式でありながらプルーム型都市境界層の形成とそれに伴う都市ヒートアイランド形成をうまく説明するが,同式により予測される都市温度の水平分布は閉じた等温線を形成せず,市街地の最風下端に最高温度が出現する,という矛盾を含んでいることは自明である.この矛盾が市街地内の一様な熱源分布の仮定に起因するか否か調査したところ,例え市街地内に非一様に熱源が分布しても,熱源付近で等温線間隔が密になるものの地上気温の閉じた等温線は出現せず,市街地の最風下端が最高温度となることが明らかとなり,Summersの式が都市境界層内に冷熱源を持たないことがその原因と推測された.そこで,都市境界層内に都市温度に対応するニュートン冷却機能を付加したところ,市街地スケールおよび風速の条件によっては明瞭なドーム状の都市境界層が形成され,最高温地点が風上寄りに移動した地上気温の閉じた等温線形成に大きく近づくことが明らかになった.
著者
外枦保 大介
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.452-462, 2018 (Released:2018-10-04)
参考文献数
13

本稿は,スウェーデン北部の鉱山都市キルナ市・イェリヴァレ市における,都市・産業の動態を追跡しながら,近年,両市で進行している都市移転の経緯について明らかにした.鉄道や港湾の整備によって,19世紀末から本格的に,キルナ・イェリヴァレ両市において鉄鉱石の採掘がはじまった.キルナ・イェリヴァレ両市は,LKAB社の発展とともに都市形成が進み,LKAB社が社会基盤の整備にも貢献してきたことから,両市ともに企業城下町的性格を帯びてきたといえる.キルナ鉱山やマルムベリエト鉱山では,地下で鉄鉱石を掘り進めており,2000年代以降,地表陥没の恐れが高まってきている.そこで,LKAB社は,キルナ・イェリヴァレ両市当局と協議をし,住民に対する同意をとり住民へ補償をしながら都市移転プロジェクトを進めている.
著者
麻生 将
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.219-243, 2016-09-30 (Released:2016-10-11)
参考文献数
56
被引用文献数
1

本研究の目的は,近代日本の地域社会で生じたキリスト教集団をめぐる排除の事例を検証し,一連の事件を通して排除を正当化する「排除の景観」の性質を明らかにすることである.本研究では,1933年の美濃ミッション事件と,1930年代半ばの奄美大島のカトリック排撃の2つの事件を事例とし,これらの事件において排除する側と排除される側双方の言説を検証した.その結果,次のことが明らかになった.1. 美濃ミッション事件では,排除に関わる言説はナショナル,ローカルのほかにグローバルなスケールが確認された.2. 奄美大島のカトリック排撃事件では,排除の言説および実践はナショナルとローカルの二重の文脈を持っていた.3. 二つの事件では,キリスト教集団の施設に様々な言説が付与され,排除を正当化する物語が込められた「排除の景観」が形成された.
著者
早川 裕弌 安芸 早穂子 辻 誠一郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.236-250, 2018 (Released:2018-05-31)
参考文献数
41

現象を空間的に拡張して想像する「地理的想像」を喚起し,地理的思考を促すことは,地理学のアウトリーチにおいて必要なアプローチのひとつである.本研究では,特に3次元地理空間情報を用いた空間的現象の可視化の手法を,縄文時代の集落生態系を対象とした古景観の復原に適用し,その効果的な活用について検討する.まず,小型無人航空機を用いた現景観の3次元空間情報を取得し,古景観の復原のためのデータ解析を行う.次に,オンラインシステムを用いた古景観の3次元的な表示と,博物館における展示としての提供を行い,その効果を検証する.ここで,地理学,考古学,第四紀学的な研究成果の統合だけでなく,芸術分野における表現手法との融合的表現を試みることにより,さまざまな閲覧者の時空間的な地理的想像を補うかたちで,復原された古景観の直感的理解を促す効果が示された.これは,地理的思考の普及にも発展的に貢献できることが期待される.
著者
熊谷 圭知
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.15-33, 2013 (Released:2013-04-19)
参考文献数
19
被引用文献数
1

わたしはフィールドワークを「研究対象の存在する場所に身を置いて,一次資料を集める調査方法」と定義している.フィールドワークは調査研究者と調査対象/フィールドとの間の相互作用であり,フィールドワーカーがそのかかわりを引き受けることを意味する.わたしは,1980年以来,パプアニューギニアの首都ポートモレスビーの移住者集落と,高地周縁部(セピック川南部支流域)の村でフィールドワークを続けてきた.そして,90年代半ばごろから,フィールドワーカーがフィールドに何を還せるのかを考えるようになった.ポートモレスビーでは,セトルメントやインフォーマル・セクターの排除の動きの中で,JICA専門家として,都市貧困対策の公論形成にかかわった.クラインビット村では,自らのフィールドワークの成果をピジン語で村人に提示するとともに,「場所の知」の協働構築の可能性を模索している.それらは試行錯誤の繰り返しではあるが,かかわりの過程としてフィールドワークをとらえることは,人文地理学の常識とされる調査する者と調査されるものの二項対立を越える必要な一歩となる.