著者
宇仁 茂彦 松林 誠 池田 英一 鈴木 義孝
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.s・v, 385-388, 2003-03-25
被引用文献数
3 10

福井,滋賀,岐阜の3県において,捕獲されたニホンツキノワグマの各種内部臓器(肝臓,腎臓,心臓,肺,脾臓,リンパ節,皮膚)の組織学的検索を行った.その結果,18頭すべての肺の全葉の肺胞壁にHepatozoon sp.の未成熟および成熟メロントを見いだした.また,病理学的所見として,メロント,メロゾイトおよび虫体を包含する食細胞結節の周回に炎症性細胞潤滑は見られなかったが,崩壊過程を示す細胞,虫体および結節の周りには炎症性細胞浸潤を見いだした.クマにおけるヘパトゾーン症の最初の報告である.
著者
張 炯寛 小野 満 金 泰鍾 蔡 錦順 津嶋 良典 新倉 昌浩 見上 彪
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.58, no.11, pp.1057-1066, 1996-11-25
被引用文献数
6

マレック病ウイルス(MDV)血清2型(MDV2)相同糖蛋白I(gI homolog)のORFは, 355アミノ酸残基をコードし得る1065塩基からなり, MDV血清1型(MDV1)と血清3型(七面鳥ヘルペスウイルス: HVT)とはアミノ酸配列において各々49%, 36%の相同性が認められた. また予測されるN-linkの糖鎖付加部位並びにシグナル配列や膜貫通部位が存在し, 膜糖蛋白の性状を有していた. 転写産物解析により, このORFの翻訳開始コードンの上流56-147 bpで転写される3.5 kb mRNAがMDV2 gI homologの特異転写産物として同定された. MDV2(HPRS24株)感染鶏由来の抗血清を用いた免疫沈降解析によりMDV2 gI homologを発現するリコンビナントバキュロウイルス(rAcMDV2gI)の蛋白発現を検討したところ, rAcMDV2gI感染Sf9細胞では45-43 kDaの特異バンドが検出された. またツニカマイシン処理により糖鎖付加阻止試験を行ったところ, MDV2gI homologの前駆体蛋白と見られる35 kDaのバンドが検出された. これらの発現蛋白はホモのみならずヘテロの血清型MDV(GA株, SB-1株, FC126株)感染鶏由来の抗血清によっても認識されたことから, 型間共通のエピトープの存在並びに3血清型によるMDV感染細胞でのgIの発現が示唆された.
著者
筒井 茂樹 平沢 健介 武田 真記夫 板垣 慎一 河村 晴次 前田 健 見上 彪 土井 邦雄
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.59, no.9, pp.785-790, 1997-09-25
被引用文献数
7 20

in vivoマウス肝細胞における高用量ガラクトサミン誘発アポトーシスについて検索した. 3g/kg GalN投与群では, Tdt-mediated dUTP nick end labeling (TUNEL) 陽性細胞が6時間後から観察されはじめ, HE染色切片における好酸性小体およびTUNEL陽性細胞の出現は, 24時間後で最も顕著になった. また, 48時間後では, 肝実質細胞の変性および壊死が目立ち, TUNEL陽性細胞はほとんど見られなくなった. 1.5g/kg GalN投与群では, 3g/kg GalN投与群に比べ, 病変は穏やかで, 好酸性小体およびTUNEL陽性細胞は24時間後ではほとんど見られず, 48時間後で顕著になった. さらに, アガロースゲル電気泳動によって見られるDNAの"はしご様"断片化パターンは, 3g/kg GalN投与後24時間および1.5g/kg GalN投与後48時間で最も顕著となったが, 3g/kg GalN投与後48時間では減少した. 一方, sGOTおよびsGPT活性は, 3g/kg GalN投与後48時間で著しく上昇した. これらの結果から, in vivoで高用量ガラクトサミンにより誘発される細胞死は, アポトーシスにより生じ, 後にネクローシスによる可能性が示唆された.
著者
長谷川 承 左向 敏紀 竹村 直行 小山 秀一 本好 茂一
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.789-790, 1992-08-15

陽イオン交換カラムを使用した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によりネコ糖化ヘモグロビンを測定した. 臨床上正常な猫37頭及び糖尿病猫12頭の糖化ヘモグロビンの百分比はHbAlcではそれぞれ1.70%および3.54%, HbAlでは1.88%および3.85%と, 糖尿病猫で有意な高値を示していた(Plt;0.05). このことからネコ糖化ヘモグロビンは糖尿病診断の指標になると思われた.
著者
宮前 武雄
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.369-377, 2005-04-25

抗癌剤投与による易感染宿主で向肺ウイルス感染が示す臓器への侵襲態度を動物モデルで解析した.コーチゾン(CO), シクロフォスファミド(CY)の皮下接種マウスが経鼻感染したセンダイウイルスの臓器への侵襲をウイルス血症, ウイルス抗原の検出で追跡した.CO, CYの各1回接種と名古屋株の感染時, ウイルス血症が18時間目と3日目に夫々出現し, 同時に気管リンパ節に侵襲した.更に両群の肝細胞(10日目)と脾リンパ細胞(5-10日目)に侵襲した.感染後, COとCYを夫々3回接種時, 大脳組織(神経細胞, 脈絡叢)への侵襲と肺の重篤感染を夫々に認め, 各腹腔内実質臓器への侵襲は軽度に増し, 双方間に有意差がなかった.感染時にCO1回, 更にCY2回接種の場合, 脳血管の抗原陽性率が高く, 星膠細胞層, 軟膜, 脈絡叢, 脳室上皮も抗原陽性となり神経細胞への侵襲は稀であった.全臓器への侵襲は顕著に上昇し, 呼吸器, 脳, 腹腔内実質臓器の順に低減した.血清HI価は陰性を保った.MN株感染の場合, さらに星膠細胞の侵襲から神経細胞侵食, 神経膠症を招く脳関門の破壊を見, 該血管の抗原は60日間は存続した.CO, CY併用2群は感染後, 死マウスは抗原陽性大脳血管に結節形成を示し, 遅延型過敏症を示唆した.
著者
笛吹 達史 メアス ソティー 今内 覚 大橋 和彦 小沼 操
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.287-289, 2003-02-25
被引用文献数
2 10

牛免疫不全ウイルス(BIV)ならびに牛白血病ウイルス(BLV)血清疫学調査を行った。北海道内10地区より採取した390検体を検査したところ, BIVとBLV陽性率はそれぞれ11.0%と33%であった。和牛の調査ではBIVが16.6%の陽性率を示した。一方,BLV陽性の乳牛を調べたところ,18.7%と高率にBTV陽性を示した。これらの結果から,BIVが北海道全体に分布することが明らかとなった。
著者
妙本 陽 眞鍋 昇 今居 譲 木村 嘉博 杉本 実紀 岡村 佳則 福本 学 酒巻 和弘 庭野 吉巳 宮本 元
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.59, no.8, pp.641-649, 1997-08-25
被引用文献数
13 15

ブタ卵巣の健常卵胞から調製した顆粒層細胞を反復感作したマウスの脾細胞とミエローマから常法に従ってハイブリドーマを作成し, IgM抗体を産生しかつ免疫蛍光法にて健常卵胞顆粒層細胞とのみ反応するものを選抜した. 次いでハイブリドーマが産生する抗体が培養顆粒層細胞にアポトーシスを誘発出来るかを調べ, 2種の細胞株 (PFG-1およびPFG-2) を選抜した. PFG-1抗体は顆粒層細胞細胞膜の分子量55kD, 等電点5.9の蛋白質を認識し, PFG-2抗体は分子量70kD, 等電点5.4の蛋白質を認識することがウエスタンブロット法にて分かった. 顆粒層細胞を0.1μg/mlのPFG-1抗体あるいは10μg/mlのPFG-2抗体を添加した培地で3時間培養すると顆粒層細胞にアポトーシスを誘発することが, 核の形態, DNAのラダー形成およびフローサイトメーターによる核相解析にて確認できた.
著者
平田 聡子 森 裕司
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.845-850, 1995-10-15
被引用文献数
12

野生動物など捕獲, 採血が困難な動物種では, 生態研究や繁殖管理を目的に生殖内分泌機能の非侵襲的評価法の確立が待たれている. 糞中性ステロイドホルモン測定は, 糞の採材が動物を拘束する必要はなく容易に行えるため, 最も適していると考えられる. 本研究では反芻動物への応用を目指した研究モデルとして, シバヤギにおける糞中プロジェステロン測定法の確立を試み, 血漿中プロジェステロン濃度の変動との相関について検討を行った. 正常性周期を回帰する雌シバヤギ (n=4) および卵巣を摘出しプロジェステロンカプセルを皮下移植したヤギ (n=2) から糞および血液を経時的に採取し, それらのプロジェステロン濃度をラジオイムノアッセイ法により測定した. 糞の処理・保存・プロジェステロンの抽出方法について様々な条件で検討を行った結果, -20℃で凍結保存後に乾燥処理 (100℃で1.5時間) した糞0.25gをエーテルで一回抽出する簡便な方法を採用した. 本法による糞中プロジェステロンの回収率は約70%であった. 供試した全ての動物で, 糞中プロジェステロンと血漿中プロジェステロンの一致した変動が観察され, 両者の相関は交配させ妊娠に移行した場合および卵巣摘出ヤギにプロジェステロン処置した場合においても維持されていた. 以上の成績により反狗動物における糞中プロジェステロンの測定は排卵周期や妊娠を知る手段として有効であることが示された.
著者
翁 強 村瀬 哲磨 淺野 玄 坪田 敏男
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.67, no.6, pp.603-605, 2005-06-25
被引用文献数
2 8

2001年10月に交通事故により死亡した野生タヌキ1頭を収集した.本個体は年齢査定により4.5歳と判定された.外生殖器は雌型を示したが, 外陰部より大きな陰核がペニス様に突出していた.内生殖器は精巣と子宮の形状を呈した.精細管内にセルトリ細胞のみが存在し, 精子形成は認められなかった.PCR法によりY染色体上にある性決定領域(SRY)の単一バンドを増幅した.以上の結果より, 本例のタヌキは雄性仮性半陰陽と診断された.
著者
黄 禹錫 金 賢一 李 殷松 林 正黙 廬 湘鎬 申 泰英 黄 光南 李 柄千
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.1-5, s・viii, 2000-01
被引用文献数
8

血清無添加で,"HanWoo"(Bos taurus coreanae)の卵子を牛卵管上皮細胞(BOEC)と共培養し,産生された組織増殖抑制因子metalloproteinase(TIMP)-1の精製純化と,胚の発育効果を調べることを目的とした.TIMP-1はHPLC-System(Perseptive Biosystems Inc.,U.S.A)とゲルろ過法により精製純化し,分子量はSDA-Page(Bio-Rad Co.,U.S.A)により32kDa蛋白質であることが明らかとなった.培養BOECのTIMP-1局在を,isothiocyanate蛍光染色標本で証明した.血清無添加培養液にTIMP-1を,0,1.25,2.5ならびに5μg/mlの割合で加え,体外受精により得られた胚の発育を観察した.この結果,2.5μg/ml添加で桑実胚と胚盤胞への発育効果を認めた.今回の試験から,BOECはTIMP-1を産生し,この糖蛋白質は"HanWoo"(Bos taurus coreanae)体外受精卵の発育を桑実胚と胚盤胞へ促進した.
著者
村上 昇 幸野 亮太 中原 桂子 井田 隆徳 黒田 治門
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.62, no.7, pp.S・viii, 763-766, 2000-07-25
被引用文献数
3

一年以上の間, 室温22度, 14時間明:10時間暗の照明条件下で飼育されたシマリスを短日照明(10時間明:14時間暗)と低温条件に暴露することにより季節外冬眠を誘起した.我々は一年のどの時期でもこの季節外冬眠を誘起できた.この季節外冬眠は季節間において, 冬眠一党醒インターバルや, それぞれの冬眠や覚醒時間には有意な差を認めなかったが, 冬眠に入るまでの期間の長さにおいて夏のみ約60日を要し, 他の季節の平均30日より長かった.さらに, 覚醒インターバルでの覚醒時刻は冬では明期に起こるのに対し, 春では明期と暗期でほぼ等しい割合で起こった.これらの結果はシマリスの冬眠がサーカディアンリズム(概日リズム)とサーカニュアルリズム(概年リズム)の両者にリンクしていることを示唆している.夏の季節外冬眠において, セロトニン枯渇剤であるパラクロロフェニルアラニン(PCPA)の冬眠中での慢性投与は冬眠を阻止し, 非冬眠動物への投与は逆に冬眠を誘発した.一方, オピオイドのアンタゴニストであるナロキソンの投与は覚醒時間の延長を起こした.これらの結果は, セロトニンによる冬眠誘超や維持機構がサーカニュアル(概年リズム)システムと独立したものであることを示唆している.
著者
鈴木 正嗣 梶 光一 山中 正実 大泰司 紀之
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.505-509, 1996-06-25
参考文献数
29
被引用文献数
13

北海道東部産のエゾシカ胎子87例で胎齢を推定し, 受胎日の変異と外部形態の発達過程とを明らかにした. 胎子の体重(W)と胎齢(T)との間には, T=(√^3<W>+2.730)/0.091関係式が認められた. この式を用いて胎齢を算出し, 捕殺日からの逆算により求められた推定受胎日は, 10月7日から翌1月17日の範囲で変異していた. しかし, その多くは10月中旬から11月上旬にかけて集中していた. また, 11月下旬以降に受胎したと思われる胎子9例のうち, 6例が1歳メスから採取された標本であった. これは, 北海道東部個体群の良好な栄養状態が, 1歳メスの成長と性成熟を冬期間にも可能にすることを示唆している. 胎子の外部形態においては, 感覚毛や一般被毛の発現時期と白斑の発現時期とが重複していなかった. また, いくつかの発達過程上の変化が, 特定の体重で起こることも確認された. これらの特性を利用することにより, 胎子成長は4段階のステージに分割できた. 各ステージにおける胎子の外部形態的特徴は, エゾシカ以外のニホンジカでも簡便な胎齢推定に役立つと考えられる.
著者
ナマンガラ ボニフェス 横山 直明 池原 譲 田口 修 辻村 邦夫 杉本 千尋 井上 昇
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.70, no.8, pp.751-759, 2008-08-25
参考文献数
35
被引用文献数
5

アフリカトリパノソーマ症(AT)は家畜およびヒトの健康を著しく損なう,獣医学および医学上きわめて重要な熱帯原虫病である.しかしながらATに有効なワクチンおよび安全な治療薬はない.野生動物やアフリカ在来品種のウシではATに自然抵抗性を有することが知られているが,獲得免疫によるAT抵抗性メカニズムは不明である.本研究ではTrypanosoma congolense (Tc)急性感染期マウスにおけるCD4/CD25陽性T細胞の役割を,抗CD25モノクローナル抗体(抗CD25)処置によって同細胞群を選択的に排除することで解析した.その結果,抗CD25処置群では感染初期の末梢血液中におけるTc増殖が有意に抑制され,生存日数の延長が観察された.また,抗CD25処置群のサイトカイン応答ならびにTc抗原特異的抗体応答はいずれも対照群とは逆にTh1タイプに偏っていた.以上の結果はTc感染抵抗性に感染初期のTh1タイプ免疫応答活性化が必要であることを示唆している.
著者
遠藤 秀紀 山際 大志郎 有嶋 和義 山本 雅子 佐々木 基樹 林 良博 神谷 敏郎
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.61, no.10, pp.1137-1141, s・iv, 1999-10
被引用文献数
2 7

ガンジスカワイルカ(Platanista gangetica)は,ガンジス・ブラマプトラ川周辺の水系に限られて分布する,珍しいイルカである.同種は,原始的とされる形態学的形質が注目されてきたが,近年生息数を減らし,保護の必要性が指摘されている.筆者らは,東京大学総合研究博物館に収蔵されてきた世界的に貴重な全身の液浸標本を利用して,気管と気管支の走行を,非破壊的に検討した.ガンジスカワイルカの気管は,右肺葉前部に向けて,気管の気管支を分岐させることが明らかとなった.MRIデータにおいては,気管の気管支と左右の気管支の計3気道が,胸腔前方において並列する像が確認された.原始的鯨類とされるカワイルカで気管の気管支が確認されることは,鯨類と偶蹄類の進化学的類縁性を示唆している.一方で,左気管支は右気管支より太く発達していた.気管の気管支によって,右肺前葉に空気を供給する同種では,気管支のガス交換機能は,左側が右側より明らかに大きいことが示唆された.MRIによる非破壊的解剖学は,希少種の標本を活用して形態学的データの収集を可能にする,きわめて有効な手段として注目されよう.
著者
佐々木 基樹 遠藤 秀紀 山際 大志郎 高木 博隆 有嶋 和義 牧田 登之 林 良博
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.7-14, s・iii, 2000-01
被引用文献数
3 8

ホッキョクグマ(Ursus maritimus)の頭部は,ヒグマ(U. arctos)やジャイアントパンダ(Ailuropoda melanoleuca)に比べて扁平で,体の大きさの割に小さいことはよく知られている.本研究では,ホッキョクグマとヒグマの頭部を解剖して咀嚼筋を調べた.さらに,ホッキョクグマ,ヒグマそしてジャイアントパンダの頭骨を比較検討した.ホッキョクグマの浅層咬筋の前腹側部は,折り重なった豊富な筋質であった.また,ホッキョクグマの側頭筋は,下顎骨筋突起の前縁を完全に覆っていたが,ヒグマの側頭筋は,筋突起前縁を完全には覆っていなかった.ホッキョクグマでは,咬筋が占める頬骨弓と下顎骨腹縁間のスペースは,ヒグマやジャイアントパンダに比べて狭かった.さらに,側頭筋の力に対する下顎のテコの効果は,ホッキョクグマが最も小さく,ジャイアントパンダが最も大きかった.これらの結果から,ホッキョクグマは,下顎骨筋突起の前縁を側頭筋で完全に覆うことによって,下顎の小さくなったテコの効果を補っていると考えられる.また,ホッキョクグマでは,咬筋が占める頬骨弓と下顎骨腹縁間のスペースが狭いことから,ホッキョクグマは,ヒグマ同様の開口を保つために豊富な筋質の浅層咬筋前腹側部を保有していると推測される.本研究では,ホッキョクグマが,頭骨形態の変化に伴う咀嚼機能の低下を,咀嚼筋の形態を適応させることによって補っていることが示唆された.
著者
小松 武志 坪田 敏男 山本 欣郎 阿閉 泰郎 鈴木 義孝
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.59, no.7, pp.521-529, 1997-07-25
被引用文献数
15 33

ニホンツキノワグマ(Ursus thibetanus japonicus)の精巣内でのステロイド合成酵素の局在に関する季節変化を観察することを目的に, 免疫組織化学的観察を行った. さらに, 血清中テストステロンおよびエストラジオール-17β濃度をRIA法を用いて測定し, 免疫染色の結果と比較検討した. 精細管中における精細胞の形態学的観察から, 各材料採取時期を活性期(5, 6月), 退行期(11月), 休止期(1月), 前回復期(3月)および後回復期(4月)に区分した. 血清中テストステロン濃度は精子形成活性とよく一致した季節変動を示した. Cholesterol side-chain cleavage cytochrome P450, 3β-hydroxysteroid dehydrogenase(3βHSD)および17α-hydroxylase cytochrome P450はライディヒ細胞に通年的に観察され, 3βHSD陽性細胞数のみが血清中テストステロン濃度とよく相関した変化を示した. Aromatase cytochrome P450(P450arom)は通年的にライディヒおよびセルトリ細胞で, 5月および翌年の4および6月に精子細胞で, 1および3月に筋様細胞で観察された. また, P450arom陽性ライディヒ細胞数は5月および翌年の1, 3および6月に増加したが, 血清中エストラジオール-17β濃度は特定の季節変動を示さなかった. これらの結果から, 3βHSDはライディヒ細胞におけるテストステロン産生のキー酵素であること, またライディヒおよび筋様細胞由来のエストロジェンはオートクリンもしくはパラクリン的にネガティブフィードバックによってライディヒ細胞の機能を調節していることが示唆された.
著者
Goo Moon-Jung Park Jin-Kyu Hong Il-Hwa YANG Hai-Jie YUAN Dong-Wei KI Mi-Ran HAN Jung-Youn JI Ae-Ri KIM Tae-Hwan WILLIAMS Bruce H. JEONG Kyu-Shik
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.70, no.6, pp.633-635, 2008-06-25
被引用文献数
4

6ヶ月間に渡り胴背部における落屑とび慢性紅斑を特徴とする皮膚病を示した3歳の雌スピッツに治療を施したが,なんら改善がみられないことを理由に当症例が提出された.臨床検査においては,犬は活発で健康であった.皮膚培養では,真菌を確認できなかった.皮膚生検による組織学的検査では,基底層の水腫性変性を伴う界面皮膚炎,真皮における顕著な形質細胞の血管周囲集族と多量の形質細胞集族を伴う界面壁性毛包炎を示した.中程度のCD3陽性リンパ球が真皮表層に浸潤していた.この報告は,異型皮膚病変を伴うまれな犬種に見られた円板状紅斑性狼瘡の稀有な情報を提供するものである.