著者
桃沢 幸秀 寺田 節 佐藤 文夫 菊水 健史 武内 ゆかり 楠瀬 良 森 裕司
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.69, no.9, pp.945-950, 2007-09-25
参考文献数
26
被引用文献数
1 18

ウマの不安傾向を理解することは、騎乗者にとっても獣医師にとっても重要である。本研究では、被験馬をよく知る管理者が気質評価アンケートに回答することで得られた不安傾向スコアと、行動実験から得られた結果とを比較し、不安傾向と関連が深い行動指標を探索した。各馬を新奇環境に導入後、ビニール紐を介して壁に繋留し、管理者が傍にいる状態で2分間観察したのち管理者が離れウマ単独の状態で更に2分間観察した。その結果、単独にされることで多くの観察データが変化したが、アンケート調査により不安傾向が高いと評価された個体ほど、心拍反応が高くビニール紐切断までの潜時は短かった。こうした傾向はメスでより顕著に観察された。以上のことから、新奇環境に単独でおかれた際の心拍数と切断潜時は不安傾向の指標として有効であることが示された。また行動実験と気質評価を組み合わせることで、他の気質項目についてもより信頼性の高い評価を行える可能性が示された。
著者
桑野 睦敏 片山 芳也 笠嶋 快周 岡田 幸助 Reilly J.D.
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.64, no.10, pp.893-900, 2002-10-25
参考文献数
25
被引用文献数
2 22

慢性蹄葉炎では,蹄壁と葉状層の間に黄色調の贅生角質が産生される.贅生角質は大量に産生されると蹄形異常の一要因となるばかりか,蹄真菌症の頻発部位でもあることから,取り除かなければ病態悪化を招く病巣の温床となる.しかしながら,その病態についての研究は全く行われておらず,括削適期すら不明な現状がある.そこで,本研究では,様々な病期の蹄葉炎罹患蹄を用いて,産生される贅生角質の肉眼的な形態変化および組織構築を観察し,贅生角質の形成パターンを調査した.その結果,贅生角質は蹄縦断面では病期約3週間で確認できるようになり,組織学的には異所性の白帯であることがわかった.異所性白帯は,蹄葉炎が治癒しない限り,病期の経過とともに過剰に産生されつづける傾向があった.その括削適期については,まだ十分な量が形成されない発症1ヶ月以内は括削せず,病期1ヵ月を経過した後に括削することが推奨された.
著者
韓 海 渡来 仁 小林 和子 保田 立二
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.59, no.12, pp.1109-1114, 1997-12-25
参考文献数
29
被引用文献数
2

リポソームを経口ワクチンへ応用するために, pH2.0, 膵液ならびに胆汁存在下でも安定なリポソームの脂質組成を検討し, 経口投与後のIgA抗体産生能について調べた. 経口投与リポソームは, dipalmitoylphosphatidylcholine (DPPC) とcholesterol (Chol) からなるもの, DPPC, dipalmitoylphosphatidylserine (DPPS), Cholからなるもの, distearoylphosphatidylcholine (DSPC) とCholからなるもの, DSPC, DPPS, Cholからなるものを作製し, Tris-HCl buffer (pH2.0), 10%bovine bileならびに2.8%pancreatin液中での安定性を調べた. その結果, DPPC, DPPS, Chol (モル比1:1:2) の脂質組成から作製されたリポソーム, DSPCとChol (モル比7:2) の脂質組成から作製されたリポソームならびにDSPC, DPPS, Chol (モル比7:3:2あるいは1:1:2) の脂質組成から作製されたリポソームは, pH2.0, 10%bile液ならびに2.8%pancreatin液中でも安定であったが, DPPCとChol (モル比7:2) の脂質組成から作製されたリポソームとDPPC, DPPS, Chol (モル比7:3:2) の脂質組成から作製されたリポソームは, pH2.0ならびに10%bile液中で不安定であった. 安定なリポソームのうち, DPPC, DPPS, Chol (モル比1:1:2) の脂質組成からなるリポソームにganglioside GM1を組み込み経口投与し, 血清中のganglioside GM1に対するIgA抗体の産生について調べた. その結果, ganglioside GM1に対する抗体はIgA型抗体のみ産生され, IgG型ならびにIgM型抗体は産生されなかった. さらに, アジュバントとしてmomophosphoryl lipid Aをリポソームに組み込み経口投与した場合, IgA抗体の産生がさらに増強された. 一方, 不安定なリポソームにganglioside GM1を組み込み経口投与した場合には, IgA抗体の産生は誘導されなかった. これらの結果から, 酸性溶液中 (pH2.0), 胆汁中ならびに膵液中で安定なリポソームは, 経口投与によりIgA抗体を効果的に誘導できることが明らかとなり, リポソームを応用した経口ワクチンの開発の可能性が示された.
著者
落合 和彦 森松 正美 冨澤 伸行 首藤 文榮
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.63, no.10, pp.1103-1108, 2001-10-10
参考文献数
23
被引用文献数
3 27

小動物臨床の分野において犬の乳腺腫瘍の発症頻度の高さは広く知られるところであり, その詳細な検討が必要とされている.我々は遺伝性乳癌原因遺伝子として知られているBrca2のcDNA, およびBrca2タンパク質と相互作用することが知られているRad51タンパク質のcDNAについて, それぞれの犬ホモログの全長配列をクローニングし, 乳腺腫瘍発症との関わりを検索するための基礎的知見を得ることを目的とした.クローニングしたcDNAは, Brca2が11kb, Rad51が1.5kbで, それぞれ3, 471残基および339残基のアミノ酸をコードすることが推定された.他の動物とアミノ酸配列を比較したところ, Brca2はヒトと68%, マウスと58%の相同性を示した.特にC末端領域の相同性は高く, Rad51結合配列や核移行シグナルと推定されている配列が種をこえて良く保存されていた.また, すでに犬Brca2のゲノム解析により報告されていたexon11との比較から, アミノ酸の置換を伴う多型が存在する可能性が示された.一方, Rad51のアミノ酸配列は, 動物種間の相同性が極めて高かった(ヒトおよびマウスと99%).さらに, 犬のBrca2とRad51の組織分布を調べたところ, 乳腺で両者の発現が見られた.このことはBrca2とRad51が犬でも乳腺でなんらかの相互作用をしている可能性を示すものである.
著者
木下 現 鷲巣 誠 本好 茂一 Breznock Eugene M.
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.703-708, 1995-08-15
参考文献数
31
被引用文献数
2

循環血液量減少性ショック時の肝血流量の変化を門脈血流量を正確に測定することが出来るよう改良した右心バイパス法を用いて検討した. 安静時の肝臓の血行動態は今までの報告に類似していた. すなわち, 総肝血流量は心拍出量の34%であり, 門脈血流量および肝動脈血流量は総肝血流量のそれぞれ76および24%であった. 血液量減少性ショック時には門脈血流量の減少によって総肝血流量が著しく減少した. この門脈血流量の減少から腸間膜循環はショック中に心拍出量の分配率が低下する末梢循環に分類されることが確認された. ショック中に心拍出量中の肝動脈血流量への分配率が増加した.このことからショック中の肝動脈緩衝反応の発現が確認された. ショック中低下していた総肝血流量はショック状態離脱後の肝動脈血流量の増加によってショック前値にまで回復した. 本試験結果からショック中及びショック状態離脱後の肝血流量減少に対する代償反応として肝動脈緩衝反応の発現が証明された.
著者
澤田 倍美 朴 天鎬 近藤 寿代 森田 剛仁 島田 章則 山根 逸郎 梅村 孝司
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.60, no.7, pp.853-854, 1998-07-25
参考文献数
8
被引用文献数
5 62

本邦のイヌにおける抗Neospora caninum(NC)抗体保有率を調査した.ネオスポラ症発症および抗NC抗体保有牛飼養農家で飼育されているイヌ48頭中15頭(31.3%)が抗体を保有していた.一方, 都会で飼育されていたイヌ198頭中14頭(7.1%)が抗NC抗体を保有していた.抗体検査2ヵ月前にネオスポラ症が発生したブリーダー宅で飼育されていた7ヵ月齢以上の成犬17頭すべてが抗NC抗体を保有していた.1年半後に同ブリーダーにて再検査を行ったところ, 抗体価に大きな変動はなかった.イヌのブリーダーと酪農家で飼育されていたイヌでNC抗体陽性率が著しく高かったことは, NCがイヌの間で水平伝播し, かつイヌとウシの間で水平伝播されている可能性を示唆するものであった。
著者
Kim Min-Su Nam Tchi-Chou
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.409-411, 2006-04-25
参考文献数
18
被引用文献数
3 22

脳波検査(EEG)は鎮静または麻酔の評価のための有効な方法である.本研究の目的は,ミニチュアーシュナイザー犬(4.2〜6.1kg,1〜2歳)における針刺激の鎮静効果を脳波検査におけるスペクトルエッジ周波数(SEF)によって調べることである.「GV20と龍会」穴が20分間針刺激された.鎮静レベルは,処置前,処置中および処置後のSEF95値とRamsayの鎮静スコアーによって評価した.GV20または龍会穴の針刺激中,SEF95値は有意に減少し,終了後処置前値に回復した.Ramsayの鎮静スコアーは同様に刺針中適切な鎮静レベルを示した.本研究の結果,犬におけるGV20または龍会穴での針刺激は鎮静を誘導する有用な方法であると結論された.
著者
木村 順平 月瀬 東 岡野 真臣
出版者
公益社団法人 日本獣医学会
雑誌
The Journal of Veterinary Medical Science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.1035-1037, 1992
被引用文献数
3

卵巣性ステロイドホルモンがネコの大前庭腺(バルトリン腺)の分泌の機能にどう関わるかを調べる目的で, 卵巣・子宮を摘出し, エストロジェンまたはプロジェステロン, あるいは両者を投与したネコの大前庭腺の組織切片について, アルシアンブルー, PAS染色ならびに, PNAおよびWGAによるレクチン染色を施し, 組織化学的に検索した. 本実験の結果, ネコ大前庭腺の分泌機能はエストロジェンに依存していることが判明した.
著者
原田 拓真 徳力 幹彦
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.59, no.7, pp.561-567, 1997-07-25
参考文献数
43

高周波可聴域を有するコモンマーモセット(Callithrix jacchus)20例を用いて, 最大99kHzまでの可聴域全般にわたるクリック音刺激周波数および音圧が聴性脳幹反応(BAEP)の波形およびピーク潜時に及ほす影響を検討した. 4, 32および99 kHzの周波数刺激でBAEPを記録した結果, ピーク数は刺激音圧により変化し, 80 dB peak equivalent sound pressure level(pe SPL)の音圧の場合に最大数の明瞭な波形を得ることができた. このことから, コモンマーモセットを用いて広範囲の周波数にわたるBAEP記録を行う場合には, 80 dB pe SPLが適していると考えられた. また, 刺激音圧を100 dB pe SPLから50dB pe SPLに変化させるとBAEP各波の潜時は延長した. 一方, 80 dB pe SPLの一定音圧下で刺激周波数を0.5 kHzから99 kHzに変化させてBAEPを記録した結果, 刺激音圧に対する各波潜時および振幅の変化は一様ではなかった. すなわち, I波振幅は16kHzおよび32 kHz刺激時に増大し, IIIおよびV波振幅は4-8 kHzおよび64-99 kHz刺激時に増大した. これらの各波振幅の増大は末梢性あるいは中枢性聴覚経路の神経核活動の同調性に関連しているものと考えられた.
著者
遠藤 秀紀 前田 誠司 山際 大志郎 九郎丸 正道 林 良博 服部 正策 黒澤 弥悦 田中 一栄
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.57-61, 1998-01-25
被引用文献数
7 10

リュウキュウイノシシ (Sus scrofa riukiuanus) の下顎骨の形態に関して, 奄美大島, 加計呂間島, 沖縄島, 石垣島, 西表島の5島間の島嶼間変異を明らかにするため, 骨計測学的検討を行った. 上記5島より得られた下顎骨の内, 成獣と判定された95例の標本を用い, 14の計測部位を採用して議論した. 下顎骨全長において, 石垣島産標本は, 西表島産より明らかに大きかった. また, これまで提唱されてきた下顎骨全長に関するクラインを, 沖縄島を含む南西諸島全体において認めることはできなかった. 下顎骨全長に対する各項目の割合から, 石垣島産および西表島産は, 他島嶼産に比較して, 下顎枝が側方に発達し, 下顎体が背腹方向に成長するという傾向が見られ, また奄美大島産においては, M_2からP_3までの臼歯長と下顎連合面長が短いことが明らかになった. 以上の結果から, イノシシは, 種内集団間の形態学的変異がきわめて多様な種であることが示唆され, いくつかの形質の相違のみで, 南西諸島産集団を日本本土産集団に対して独立した種のレベルで扱うことは適切でない, と結論できた. 今後蓄積される形態学的データを基に, 各島嶼集団の形態変異に関する適応的意義が検討され, 歴史時代における各集団のサイズとプロポーションの変化に関する考古学的解明が進むことが期待される.
著者
日高 祥信 松元 光春 臂 博美 大迫 誠一郎 西中川 駿
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.161-167, 1998-02-25
被引用文献数
24

遺跡出土骨の同定のための基礎資料を得るために, 現生の鹿児島県産のタヌキ(雄35例, 雌45例)とアナグマ(雄16例, 雌8例)の頭蓋骨, 下顎骨を肉眼的, 計測学的に検索した。肉眼的観察による雌雄差は, アナグマの側頭骨頬骨突起と後頭鱗のみにみられた。頭蓋骨の実測値は, 24の計測部位中タヌキは5部位, アナグマは12部位で, また, 下顎骨は, 11部位中タヌキは9部位, アナグマは10部位でそれぞれ有意な雌雄差がみられた。両種の比較では, 頭蓋骨の長さに関する計測部位と下顎骨の殆どの計測部位でタヌキが有意に大きかった。雌雄判別式の判別効率は, タヌキでは低いがアナグマでは高く, また, 種の判別式の効率は100%であった。最大骨長推定式は, 頭蓋骨では長さ, 下顎骨では長さと高さの計測値から得られた式の決定係数が高かった。これらの結果は, タヌキとアナグマの遺跡出土骨を同定する基礎データになることが示唆された。
著者
日高 祥信 松元 光春 大迫 誠一郎 豊島 靖 西中川 駿
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.323-326, 1998-03-25
被引用文献数
15

遺跡出土骨同定のための基礎資料を得るために, 現生の鹿児島県産のタヌキとアナグマの上腕骨, 橈骨, 大腿骨および脛骨を用い, 骨幹中央部を計測学的ならびに組織計測学的に検索した.各骨の骨幹中央部の幅や前後径, 髄腔面積には種差がみられた.また, タヌキでは緻密骨の厚さと面積が, アナグマでは骨幹中央部の幅, 前後径および髄腔面積が, 全ての骨で雄が大きい傾向を示した.各骨間の組織構造に相違は認められなかったが, オステオン層板の形状に種差がみられた.即ち, タヌキでは3〜5層の層板からなるほぼ円形のオステオンが, アナグマでは3〜8層の層板からなる大小様々で, 円形もしくは楕円形を呈するオステオンがみられた.組織計測でオステオンの占める割合は, 全ての骨でタヌキが大きかった.タヌキ, アナグマの両種とも, 雄はオステオンの短径が大きく, オステオンの占める割合も大きい値を示した.一方, 雌ではオステオンの短径が小さく, その数は雄よりも多かった.以上の観察結果から, 両種の長骨の組織構造に種差および雌雄差のあることが分かり, 今後古代遺跡から出土する骨を同定する際の十分な基礎データになることが示唆された.
著者
遠藤 秀紀 小宮 輝之 成島 悦雄 鈴木 直樹
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.64, no.12, pp.1153-1155, 2002-12-25
被引用文献数
1 3

コーンビーム型CTスキャンは,遺体から直接的に三次元データを集めることを可能とするものである.筆者らは,ジャイアントパンダ(Ailuropoda melanoleuca)の遺体の頭部を用いて,コーンビーム型CTにより,復構を経ずに直接的に三次元画像を得た.また三次元データからセクションを作ることで,非破壊的に頭部諸断面の観察を行った.得られた結果の要点は以下の2つである.1)三次元画像から咀嚼筋と下顎骨の形態学的関係を示すことができた.側頭窩の吻外側において下顎骨の筋突起の位置を認識することができた.2)三次元データから断面像を作ることで,鼻腔内を詳細に観察することができ,鼻甲介の発達が確認された.また鼻腔後部,嗅球の吻側領域には複雑な構造を備えた篩骨迷路が観察された.これらのデータは同種が繁殖期に交尾相手を見出す上で重要と推測される嗅覚機能の議論にも有効と考えられる.
著者
佐藤 豪 伊藤 琢也 庄司 洋子 三浦 康男 見上 彪 伊藤 美佳子 倉根 一郎 SAMARA Samir I. CARVALHO Adolorata A. B. NOCITI Darci P. ITO Fumio H. 酒井 健夫
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.66, no.7, pp.747-753, s-ix-s-x, 2004-07-25
被引用文献数
2 37

ブラジルで採取された狂犬病ウイルス株14検体を用いて,病原性および抗原性状に関連するG蛋白遺伝子およびG-L間領域(シュートジーン)について遺伝子および系統学的解析を行った.分離株は,ヌクレオ(N)蛋白の解析によって犬型狂犬病ウイルス(DRRV)または吸血コウモリ型狂犬病ウイルス(VRRV)の2系統に分類された.これらのG蛋白コード領域とジュードジーンの塩基相同性およびアミノ酸(AA)相同性は総じてエクトドメインのものよりも低かった.両領域において,VRRVの塩基およびAA相同性はDRRVに比べて低かった.また,DRRVとVRRVの推定AA配列においては,3箇所の抗原認識部位およびエピトープ(サイトIla,サイトWB+およびサイトIII)に相違があり,両系統が抗原性状により区別できることが示唆された.シュードジーンおよびG蛋白コード領域の系統樹とエクトドメインの系統樹を比較すると,翼手類および肉食類由来株グループの分岐は異なっていた.一方,DRRVまたはVRRVのグループ内において分岐は明らかに類似していた.また,VRRV分離株はブラジルのDRRVよりも近隣中南米諸国の翼手類分離株により近縁であった.これらの結果は,N遺伝子と同様,G遺伝子およびG-L間領域の解析においても,ブラジルの狂犬病分離株がDRRVまたはVRRVに分類できることを示した.
著者
村田 浩一 増田 隆一
出版者
公益社団法人 日本獣医学会
雑誌
The Journal of Veterinary Medical Science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.58, no.12, pp.1157-1159, 1996
被引用文献数
11

外生殖器の形態からは性を判別し難いフタユビナマケモノ(Choloepus didactylus)のY染色体上性決定遺伝子(SRY)を合成酵素連鎖反応(PCR)増幅し, 仔の性鑑別をおこなった. 5ヶ月齢の仔および対照とした両親から毛を採取しDNAを抽出した. 仔および父親からSRY断片(216塩基対)がPCR増幅されたが, 母親からは増幅されなかった. ナマケモノのPCR増幅産物(166塩基対)の塩基配列を決定し, すでに報告されている他の哺乳類のSRY遺伝子配列と比較した. ナマケモノのPCR増幅産物にはそれらの遺伝子と高い相同性がみられ(74.1-86.8%), アミノ酸レベルでも同様であった(63.6-85.5%). このことから, ナマケモノのPCR増幅産物はSRY遺伝子の一部であることが推察され, 哺乳類の間で高い保存性をもっていることが分かった. この結果から仔の性別は雄と判定された. ナマケモノの毛を用いたPCR法による性鑑別は動物園での繁殖計画に役立つものである. 知る限りにおいて,貧歯目のSRY遺伝子配列に関する報告は本報が初である.
著者
原 幸男 小林 弘枝 大城 聡美 二村 圭介 西野 威 中郡 昭人 天間 恭介 近藤 洪志
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.135-143, 2001-02-25
参考文献数
33

ベンゾジアゼピン誘導体のひとつであるジアゼパムの心収縮力におよぼす影響とその機序を摘出モルモット心臓および単離心室筋細胞標本で検討した.ランゲンドルフ心および右心室自由壁標本で, ジアゼパム(100μMまで)は濃度依存的に一相性の陰性変力作用を示した.このジアゼパムによる一相性の陰性変力作用は中枢性ベンゾジアゼピン受容体拮抗薬(フルマゼニル1μM)および末梢性ベンゾジアゼピン受容体拮抗薬(PK11195 10μM)で影響されなかった.ジアゼパム(10から100μM)は乳頭筋の活動電位幅を濃度依存的に短縮した.単一心室筋細胞を用いたパッチクランプ法で, ジアゼパム(30および100μM)は濃度依存的にカルシウム電流を抑制した.ジアゼパムによるカルシウム電流の抑制は, カルシウム拮抗薬ベラパミルで見られる使用依存性抑制とは異なり, tonic block(使用非依存性抑制)の形であった.これらの結果から, ジアゼパムはモルモット心臓標本において, ベンゾジアゼピン受容体を介さずに一相性の陰性変力作用を示し, その機序はカルシウム電流の抑制にあると考えられる.
著者
望月 雅美 大澤 直子 石田 卓夫
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.61, no.9, pp.1071-1073, 1999-09-25
参考文献数
33
被引用文献数
10

猫の消化器疾患に関係するウイルスの検索のために猫糞便を調べた. 特に逆転写酵素遺伝子増幅法を用いて猫コロナウイルス(FCoV)に焦点を当て検索した. 最も高頻度に検出されたのは猫汎白血球減少症パルボウイルス(FPLV;陽性率28.5%)で,次がFCoVであった(10.7%).FCoV陽性の猫に共通した症状は嘔吐, 下痢および脱水で, 多くは間もなく回復した. しかし, FPLVが混合感染していた猫は重症であった.
著者
Kang Byeong-Teck Jung Dong-In Yoo Jong-Hyun PARK Chul WOO Eung-Je PARK Hee-Myung
出版者
Japanese Society of Veterinary Science
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.69, no.7, pp.779-782, 2007-07-25
参考文献数
18
被引用文献数
4

7年間にわたり毎日植物(雑草)を食べては嘔吐することを繰り返していた11歳去勢雄ミニチュアプードル犬が来患した。犬は散歩に行くたびに雑草を食べ、その後嘔吐することを繰り返していた。医学的検査では異常は認められなかった。行動学的検査と稟告を通して、我々はこの犬が植物を摂食する何らかの理由を有していると診断した。我々は犬が餌に欠乏しているものを補充するため、あるいは消化を助けるために植物を摂取していると推測したので、飼い主に現在の餌を与えることを中止し、高繊維食餌を与えるよう指示した。その結果、餌を高繊維食餌に変えて3日後より植物摂食と嘔吐が無くなったことを飼い主から聞いた。餌を高繊維食餌に変えて13ケ月間、犬に臨床検査上問題は無かった。以上のことは、特に繊維欠乏食が犬の植物摂食行動に関係している事を示唆している。
著者
大塚 浩通 緒方 篤哉 寺崎 信広 小岩 政照 川村 清市
出版者
Japanese Society of Veterinary Science
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.175-178, 2006-02-25
参考文献数
20

炎症性疾患に罹患した乳牛においてオゾン自家輸血(OAHA)が白血球ポピュレーションの変化に影響するかどうかについて調べた.11頭の慢性炎症性疾患(炎症群)と3頭の健康な乳牛(対照群)を用いた.炎症群では.OAHA後, 3から4日にかけて投与前に比べCD4^+/CD8^+比の明らかな上昇が見られ, CD14^+細胞数は徐々に減少して4日後には明らかな低値を示した.MHC class-II^+細胞はOAHA後に炎症群で徐々に減少し, 対照群では徐々に増加して14日には炎症群に比べ明らかな差が認められた.これらの知見からOAHA後の感染症の乳牛における免疫活性は健康な乳牛とは異なることが示唆された.
著者
染谷 梓 大槻 公一 村瀬 敏之
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.69, no.10, pp.1009-1014, 2007-10-25
参考文献数
17
被引用文献数
6 13

西日本のある採卵農場において発生した大腸菌症について報告する.隣接する産卵鶏舎に2ヶ月間隔で導入された18〜21週齢の3鶏群(各27,000羽)において,導入の2〜4週後に1日あたり10数羽〜40羽の死亡が認められた.剖検の結果,気嚢及び心外膜における淡黄色の滲出物,肝包膜の線維素性滲出物による肥厚,股関節内側の暗赤色混濁,総排泄腔の損傷が認められた.病変部スワブより大腸菌が純培養状に分離されたため,大腸菌性敗血症であると考えられた.染色体DNAのXbaI切断後のパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)パターンにより遺伝的に近縁と考えられる株(パターンA)がすべての鶏群から分離され,84.6%(22株)を占めた.この株において,PCRにより,病原性に関与すると考えられているastA, iss, iucD, tshおよびcva/cvi遺伝子を検出した.本菌株とは近縁ではない,異なる2パターン(B及びC)を示す3株及び1株がそれぞれ異なる2鶏舎より分離された.これらの菌株が保有する病原性関連遺伝子の組み合わせはそれぞれパターンAの菌株とは異なっていた.以上の成績より,すべての鶏群より分離された遺伝的に近縁な株がおもに発症に関わったものと思われた.死亡数の増加がいずれの鶏群においても産卵開始期であったため,発症には産卵開始の関与が示唆された.