著者
横山 浩之 廣瀬 三恵子 奈良 千恵子 涌澤 圭介 久保田 由紀 萩野谷 和裕 土屋 滋 飯沼 一宇
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6, pp.431-435, 2009 (Released:2016-05-11)
参考文献数
20
被引用文献数
1

「指示待ち」はすでに獲得された日常生活行動をスモールステップな指示があるまで待つ状態である. 中等度以上の知的障害を伴う自閉症があり, 「指示待ち」を呈した9症例を検討したところ, 全例で大うつ病エピソードを満たし, 気分障害の合併と診断し得た. 9症例のうち7症例でfluvoxamineが「指示待ち」を含めた抑うつ状態に有効であった. 無効例ではrisperidoneやvalproate sodiumが有効であり, これらの症例が双極II型障害である可能性がある. 「指示待ち」は気分を言語表現できない自閉症がある児 (者) にとって, 抑うつ状態の症状であり, 診断上有用と考えられた.
著者
平木 彰佳 菊地 正広
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.34-38, 2014 (Released:2014-12-25)
参考文献数
20

イオン飲料の多飲によるビタミンB1欠乏からWernicke脳症を発症した2例を経験した. 症例1は1歳3カ月男児で, 頻回の嘔吐が先行し, 意識障害と眼球運動障害, 運動失調で発症した. 症例2は7カ月男児で, けいれん重積で発症した. 2例ともビタミンB1投与で症状は改善したが, 症例2は神経学的後遺症を残した. 本疾患は嘔吐が先行することが多く, 症例1のように初期に胃腸炎と診断されることもある. 胃腸炎の診断でイオン飲料を多用することには注意を要する. 症例2はけいれん重積での発症で, 非典型的であった. 2例はいずれも偏食とイオン飲料の多飲があり, 日常診療では患児の摂食状態の把握と適切な栄養指導が重要である.
著者
今井 祐之 浜野 晋一郎 野田 洋子 奈良 隆寛 小川 恵弘 前川 喜平
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.29, no.6, pp.494-499, 1997-11-01 (Released:2011-08-10)
参考文献数
10

劇症型亜急性硬化性全脳炎の3歳男児例を報告した.本児は, 9カ月時に麻疹肺炎に罹患し, 2歳4カ月時にMMRワクチンを接種している.3歳4カ月時に傾眠と左片麻痺で発症し, 第10病日には昏睡状態となり, 1カ月半で除皮質硬直位となった.髄液の麻疹抗体価の異常高値からSSPEを考え, inosine pranobexの投与を行ったが効果はなく, 発症3カ月目に多発性脳出血をきたし, 全経過4カ月で死亡した.剖検では, 乏突起膠細胞内に抗麻疹抗体陽性の封入体を認め, 血管周囲の白血球浸潤, グリア結節や白質のグリオーシスなどの典型的病理所見のほかに小血管の内膜の肥厚, 閉塞像・再疎通像など血管炎の関与を示唆する所見がみられたのが特徴的であった.
著者
栗原 まな 小萩沢 利孝 吉橋 学 飯野 千恵子 安西 里恵 井田 博幸
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.285-290, 2011 (Released:2014-12-25)
参考文献数
18
被引用文献数
5

16歳未満で急性脳症を発症し, 当科でリハビリテーションを行った103例の予後を検討した. 対象を(1)群 : 代謝異常に起因する1例, (2)群 : サイトカインストームに起因する24例, (3)群 : けいれん重積型68例, (4)群 : 難治頻回部分発作重積型5例, (5)群 : 意識障害が主体である5例に分類し, 発症年齢, 既往歴, 発症に関連する因子, 後遺症の状況を検討した. 発症年齢は平均3歳であったが, (4)群は平均6歳5カ月と高かった. 既往歴では熱性けいれん, 喘息, theophylline服用が目立ったが, 有意差は得られなかった. 発症に関連する因子としてはインフルエンザ罹患36例, HHV-6罹患7例などがあった. 後遺症は知的障害89.3%, 高次脳機能障害77.7%, てんかん68.9%, 運動障害27.2%の順に多く, 重症度は(1)(2)(3)(4)(5)群の順に軽度になっていた. 高次脳機能障害では注意障害, 視覚認知障害などがみられた.
著者
神保 恵理子 桃井 真里子
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.215-219, 2015 (Released:2015-11-20)
参考文献数
20
被引用文献数
1

発達障害の中でも自閉症スペクトラム障害 (autism spectrum disorders ; ASD) は遺伝性要因が強い疾患である. 発症には, 多数の遺伝子の関与と共に, 遺伝子×環境性要因によるエピゲノム形成が示唆される. 罹患者の約40%にゲノム異常や遺伝子変異が検出されていることから, 今後の分子遺伝学的研究の進展は, 発症機序などの解明に不可欠である. これまでの解析から, ASD候補遺伝子はシナプス恒常性に関与するものが多い. 筆者らは, ASD特異的変異が惹起するシナプス機能性蛋白のloss-of-functionに加え, gain-of-functionの存在を示してきた. ASD, さらに合併疾患にも関与する共通分子機構の解明, 治療へと繋がることを期待したい.
著者
加賀 佳美
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.176-179, 2022 (Released:2022-06-28)
参考文献数
15

神経発達症は,ADHD,自閉スペクトラム症(autistic spectrum disorder;ASD),限局性学習症(specific learning disorder;SLD)が代表的であるが,それぞれ重なり合って様々な病態を示すことが知られている.ADHDでは,30~40%にSLDを併存するといわれるが,その特徴や病態については明らかではない.そこでSLDとADHD併存の特徴を知るために,SLD 120名について単独群と併存群の2群に分け比較検討した.単独群では読字と書字両方の障害が強く,併存群では書字の障害が強い傾向を認めた.実行機能障害,ワーキングメモリの障害は併存群だけでなく,単独群でも伴っていた.それぞれの併存に目を向け,症例ごとにその病態を評価し,支援に生かしていくことが重要である.
著者
鈴木 菜生 岡山 亜貴恵 大日向 純子 佐々木 彰 松本 直也 黒田 真実 荒木 章子 高橋 悟 東 寛
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.255-259, 2017 (Released:2017-07-12)
参考文献数
18
被引用文献数
3

【目的】不登校児の発達特性と転帰に影響する因子を検討した. 【方法】2007年から2009年に当センターを受診した不登校児80名の発達障害や精神疾患の有無, 在籍学級, 転帰等を調査した. 【結果】不登校児の57%が広汎性発達障害や注意欠陥/多動性障害などの発達障害を, また24%が不安障害などの精神疾患を有していた. 87%が不登校になって初めて発達障害と診断された. 91%に睡眠障害や頭痛などの身体愁訴を認めた. 不登校となった誘因は複数混在し, 対人関係の問題を契機とする例が最も多かった. 1年後の転帰は完全登校48%, 部分登校26%, 不登校26%だった. 小学生は60%が完全登校に至ったが, 中学・高校生は41%に留まった. 1年後不登校の割合は, 発達障害をもたない児で42%であったのに対し発達障害を有する児では17%で, 特別支援学級へ転籍した児では1例もなかった. 【結論】不登校児は発達障害や精神疾患を背景に持つことが多く, 登校転帰の改善には発達特性の把握と教育的・心理的な支援が有用である可能性が示唆された.
著者
下川 尚子
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.413-417, 2018 (Released:2018-12-08)
参考文献数
12

小児における軽症頭部外傷は 「よく見られる疾患」 で, 一般臨床医は日常的に頭部CTを撮像する適否を決定しなければならない. 日本はCT検査装置も多く検査がすぐに行える潤沢なる環境にあるが, 被曝によってがんが発生するリスクは欧米に比較して日本では高いとの報告もある. これまでに頭部CT適応基準として米国のPECARN, カナダのCATCH, イギリスのCHALICE (NICE2014) が報告されている. いづれも受傷機転, 病歴, 診察所見などの複数項目を検討し, 臨床的重度頭部外傷 (clinical significant head injury) となる症例を判別するための頭部CT適応基準である. これらの基準は頭部CT撮像の適否を決める根拠となると同時に不要な放射線被曝を避けることを支持するが, 法学的視点からは家族の強い希望があれば頭部CT検査を施行することに躊躇してはならないとの意見もある. 臨床医に大切なことは, これらのアルゴリズムを参考にした医学的根拠のある頭部CT検査適否の決定と, 頭部外傷後の自宅生活上の注意点を丁寧に情報提供することと考える.
著者
畑中 マリ
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.259-263, 2018 (Released:2018-08-16)
参考文献数
19
被引用文献数
4

発達性読み書き障害 (developmental dyslexia ; DD) はデコーディングの障害が原因であることが知られており, 音韻認識障害など原因病態の解明が進んでいる. 漢字書字障害はDDに伴って生ずるものだけではなく, 読みに障害がなくともみられるため, DDの病態とは異なる病態の可能性がある. 日本の読み書き教育の中で漢字書字不全は顕在化しやすい問題であるにも関わらず, その病態は十分に明らかにされていない. 本稿では, 正確な漢字書字と漢字筆順の習得との関係を評価した研究結果を報告する. 日本語における読み書きの障害は, 文字種により病態が異なる可能性があり, その違いを意識し研究を進めていく必要があるのではないだろうか.
著者
冨岡 志保 下野 昌幸 加藤 絢子 高野 健一 塩田 直樹 高橋 幸利
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.42-46, 2008-01-01 (Released:2011-12-12)
参考文献数
9

全般性けいれんの後に発熱, 頭痛, 項部硬直が持続した16歳男児.ごく軽度の意識低下, 脳波で前頭葉に連続性棘徐波および髄液細胞数上昇, IgG indexの上昇とoligoclonal IgG band陽性を認めた.頭部MRIのFLAIR像で両側半球に散在する部分的灰白質の信号亢進が疑われた.髄膜脳炎と判断し, methylprednisolone pulse療法を実施したところ, 臨床症状と脳波異常は軽快した.髄液中の抗グルタミン酸受容体 (以下GluR) は入院時ε2・δ2に対するIgG・IgM抗体がともに陽性であり, 軽快時は両抗体がともに陰性となった.抗GluR抗体が陽性になる髄膜脳炎の中に, Rasmussen脳炎とは明らかに異なる経過をとり, 治療に反応する予後良好な一群が存在する可能性が強く示唆された.
著者
渡邊 肇子 福水 道郎 林 雅晴
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.364-366, 2018 (Released:2018-09-28)
参考文献数
9

メラトニンは種々の睡眠障害の治療に使われるが, 本邦では製造販売承認されていないため, 海外のサプリメントを輸入し使われることが多い. 今回, 海外で販売されているメラトニンサプリメントの品質評価を行い, メラトニンサプリメントは含量や溶出性が様々で品質が一定でないことを確認した. サプリメントは健康維持や増進目的で使われるため品質が一定でないこともあり, 治療目的で使う場合は, 品質や有効性, 安全性が確認された医薬品としてのメラトニン製剤の開発が望まれる.
著者
福水 道郎
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.170-175, 2022 (Released:2022-06-28)
参考文献数
20

注意欠如・多動症(ADHD)は側坐核,線条体,前頭葉などにおけるカテコラミンのみならずGABA,グルタミン酸神経系などの機能不全が病態の背景にあると言われ,様々な睡眠の問題を抱えている可能性がある.最近注目されている日中の過剰な眠気については,睡眠不足,起床困難といった睡眠習慣の問題や,不眠症,睡眠の質の異常,睡眠時随伴症,睡眠覚醒リズム障害,中枢性過眠症や睡眠関連呼吸障害などの睡眠-覚醒障害との関連にも注意する必要があるが,神経発達症に伴う独特な病態メカニズムによるものである可能性も高い.ADHDの病態に関連する睡眠–覚醒障害や睡眠習慣の問題と合併症とを各々鑑別し,それぞれに有効な対策をたてていく必要がある.
著者
桃田 哲也 伊藤 誠子 小林 謙 三舛 信一郎 国屋 輝道
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.25, no.5, pp.453-458, 1993-09-01 (Released:2011-08-10)
参考文献数
20

私たちはバルプロ酸ナトリウム (VPA) 投与中に急性膵炎を繰り返した症例を経験した.症例はてんかんのためVPA投与約4年後に急性膵炎を発症した.一度は保存的療法により短期間で合併症もなく軽快したため, その後もVPAを服用させていた.しかしその2カ月後, 再度急性膵炎を発症した.胸水貯留も認め播種性血管内凝固症候群 (DIC) も併発したが, 保存的療法で軽快した.VPAによる急性膵炎と考え, 抗けいれん剤を変更し, 現在のところ急性膵炎の発症を見ていない.VPAによる急性膵炎の報告は比較的少ないが, 電撃的な経過で死に至ることもありVPA治療中には十分注意が必要と思われる.
著者
加賀 佳美
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.243-249, 2017 (Released:2017-07-12)
参考文献数
48
被引用文献数
1

注意欠陥・多動性障害 (attention deficit/hyperactivity disorder; ADHD) は, 近年症例数の増加に伴い, 均てん化された診断と治療や介入法の確立が急務となっている. 現状のADHD診断は質問紙などを用いて保護者から聞き取り, 問診や診察を通して下される. しかし質問紙は主観的な評価に基づいているため信頼性に乏しい. 従って客観的評価が可能な神経生理学的バイオマーカーの開発が重要と考える. 本稿は非侵襲的脳機能検査法のうち頭皮上脳波の周波数解析, 事象関連電位 (ERP) や近赤外線スペクトロスコピー (NIRS) の研究成果がADHD診断におけるバイオマーカーに活用可能であるかどうかをまとめた. その結果, ①覚醒安静時脳波でADHDのθ/β帯域パワー値の比率増大を診断に利用する試みがある一方, 信頼度に賛否がある点も事実である. ②ERPのうちP300, NoGo電位やmismatch negativityはADHDの診断や薬物効果判定に用いられている. ③NIRSは装着が簡単で, 特に前頭部皮質の計測が行いやすい. 幼児から学童の前頭葉機能評価に適しており, ADHDの認知特徴 (不注意, 実行機能) の評価に長けている. 以上のように, 脳波, ERP, NIRSはADHDの神経生理学的state markerとしての可能性があり, 診断補助, 重症度判定, 治療効果判定等に活用されると考えられる.
著者
小枝 達也
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.207-211, 2015 (Released:2015-11-20)
参考文献数
20
被引用文献数
1

Dyslexiaのおもな病態は, 音韻処理障害という脳機能の障害であると考えられるようになった. DyslexiaはDSM-5では神経発達障害に分類されていて, 読字障害という限局性学習障害の代替的な用語であると記載されている. つまりdyslexiaは一つの臨床的な単位であるとみなされるようになった.  本邦においても診断や治療にかかわる臨床的な研究が進んできている. 我々が開発した音読検査は, dyslexiaの診断に向けた検査として, 診療報酬点数の算定ができるし, 音読困難という症状を緩和する指導法の開発も進んできている. Dyslexiaは教育の問題として考えるだけでなく, 医療の対象とすべき時が来ている.