著者
則武 良英 武井 祐子 寺崎 正治 門田 昌子 竹内 いつ子 湯澤 正通
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.134-146, 2020-06-30 (Released:2020-11-03)
参考文献数
36
被引用文献数
4

本研究の目的は,ハイプレッシャー状況がワーキングメモリに及ぼす影響を明らかにすることと,ハイプレッシャー状況が引き起こす負の影響に対する短期筆記開示介入の効果を明らかにすることであった。研究1では,大学生を対象としてハイプレッシャー状況下でワーキングメモリ課題の遂行を求めた。研究1の結果から,ハイプレッシャー状況下ではワーキングメモリ課題成績が低下することが示された。研究2では,ハイプレッシャー状況でワーキングメモリ課題を遂行する直前に,参加者に短期筆記開示の実施を求めた。また,ネガティブな感情を扱う短期筆記開示に対して,研究2ではポジティブ感情を扱う短期利益筆記介入を開発し,2つの介入の効果を比較した。研究2の結果から,短期筆記開示はプレッシャーの負の影響を緩和して,ワーキングメモリ課題成績低下を一部緩和することが示唆された。特に,短期利益筆記は短期筆記開示と比較して,介入効果が安定することが示された。従来の短期筆記開示と比較して,本研究の短期利益筆記は子どもへの適用可能性が高いため,今後は教育現場における本介入の有効性を明らかにしていく必要があると考えられる。
著者
竹村 和久 高木 修
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.57-62, 1988-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
15
被引用文献数
3

“Ijime” (in Japanese, a rough equivalent of bullying) is a serious social phenomenon in which some school children are frequently and systematically harassed and attacked by their peers. In this study, differences of negative attitude toward a deviator and conformity to majority were investigated in connection with various roles (victims, assailants, bystanders, spectators, mediators, and unconcerned persons) in the “ijime” situation. The subjects, 195 junior high school students, were asked to respond to a questionnaire which measured (a) negative attitude toward a deviator and (b) conformity to the group in various situations. Major findings obtained were as follows: (1) Regarding attitude: there were no significant differences among the above six roles.(2) Regarding conformity: several significant differences were found in every role. In general, the conformity level of assailants was higher than that of mediators.(3) The result of multivariate analysis suggested that the victims were more deviant in both attitude and conformity than in any other roles.
著者
縣 拓充 岡田 猛
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.438-451, 2010 (Released:2012-03-27)
参考文献数
45
被引用文献数
8 2

本研究では, 創造性神話に代表される美術の創作活動に対するイメージが, どのように表現や鑑賞への動機づけに影響するかを検討した。その際, 表現に対する効力感, 及び, アートに対するイメージを媒介変数として仮定し, 創作活動に対するイメージは両者を介して表現・鑑賞への動機づけに効果を及ぼすという仮説モデルを構築した。まず予備調査として, 人々が美術創作やアートに対して持つイメージを, 自由記述式の質問紙によって抽出した。続いて首都圏の大学生・専門学校生306名に対して, 上述の仮説モデルを検証する本調査を行った。構造方程式モデリングを用いた主な分析結果は以下の通りである。1)創作・表現に対するステレオタイプは, 表現に対する低い効力感, 及び, アートに対するネガティヴなイメージを予測した。2)表現に対する効力感やアートに対するイメージは, どちらも表現・鑑賞への動機づけに影響していた。以上の結果から, 表現のみならず, 鑑賞を促す上でも表現に対する効力感を高めるような実践が有用である可能性や, その一つの方法としての, 創作・表現に対するステレオタイプを緩和するというアプローチの有効性が示唆された。
著者
佐藤 有耕
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.347-358, 2001-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
35
被引用文献数
3 3

本研究では, 大学生の自己嫌悪感と自己肯定の間の関連を検討した。目的は, どのような自己肯定のあり方が, 大学生の自己嫌悪感を高めているのかを明らかにすることである。自己嫌悪感49項目, 自尊心48項目, 自愛心56項目から構成された質問紙が, 18才から24才までの大学生ら535名に実施された。その結果明らかにされたことは, 以下の通りである。(1) 自己嫌悪感は, 自分を受容的に肯定できるかどうかと関連が強い。(2) 自己に対する評価も低く, 自己に対する受容も低いというどちらの次元から見ても自己肯定が低い場合には, 自己嫌悪感が感じられることが多い。(3) しかし, 最も自己嫌悪感を感じることが多くなるのは, 自分を高く評価するという点では自己を肯定している一方で, 受容的な自己肯定ができていない場合である。本研究では, 自己嫌悪感をより多く感じている青年とは, 自分はすばらしいと高く評価していながら, しかし現在の自分に満足できず, まだこのままではたりないと思っている青年であると結論した。
著者
倉石 精一 梅本 堯夫 安原 宏 奥野 茂夫 村川 紀子 百名 盛之 添田 信子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.23-31,67, 1969-10-15 (Released:2013-02-19)
参考文献数
4
被引用文献数
1 2

この研究の目的は, 数学学力の発達的な変化を, 知能との関係において分析することにあった。そのためまず小4, 小6, 中1, 中3, 高2の計491名の被験者に, 算数数学学力検査と京大NX知能検査を行なった。算数数学学力検査は学習指導要領に従って, 小中学校では数概念, 量概念, 図形概念, 関係概念, 実務, 問題解決の6下位検査からなり, 高校では数量概念, 図形概念, 関係概念, 問題解決の4下位検査からなるものを作成した。まずこのテストの内部関係を求めたところ, かなり高い相関係数がえられたが, 特に関係概念のテストは内部相関も総点との相関も高かった。また相関の比較的低いテストは低学年では実務, 高学年では図形概念のテストであつた。ついで知能検査の因子分析の結果に従い, 各生徒の因子点を算出し, この因子点と算数数学学力テストとの相関を発達的に検討した。その結果小4, 小6, 中1までは言語因子と数学学力テストの相関関係が密接にみられたが, 中3, 高2ではむしろ, 言語因子以外の因子と数学学力テストとの相関が高かつた。また知能偏差値と言語因子点の差によってGP分析を行なつたが, やはり小4, 小6では言語型群の方が算数学力テストの成績がよかったが, 中3, 高2ではむしろ非言語型群め方が数学学力テストの得点は高い傾向がみられた。これらの事実から知能と数学学力との関係は, 単に知能偏差値または知能指数と数学学力テストの総点との単純な相関では一見して発途的になんら変化しないように見えるが, 両者を分析して質的に考察をすれば, 小学校では知能のうちの言語因子と算数学力との相関が高く, それが中学, 高校となるにつれてしだいに言語因子以外の因子と関係が深くなると結論された。
著者
西村 多久磨 瀬尾 美紀子 植阪 友理 マナロ エマニュエル 田中 瑛津子 市川 伸一
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.197-210, 2017 (Released:2017-09-29)
参考文献数
40
被引用文献数
4 8

本研究では, 中学生を対象に学業場面に対する失敗観の個人差を測定する尺度を作成した。その際, 子どもにとって身近で回答しやすい失敗場面を想定し(問題場面, 発表場面, テスト場面, 入試場面), これらの場面の高次因子として「学業場面の失敗観」を想定するモデルを提案した。中学生984名から得られたデータに対して探索的因子分析を行った結果, 失敗観は「失敗に対する活用可能性の認知」と「失敗に対する脅威性の認知」の2因子から構成されることが, 各場面に共通して示された。また, これら4つの場面の高次因子として「学業場面の失敗観」を想定したモデルの適合度は十分な値であった。この結果から, 高次因子モデルによって失敗観を測定するアプローチの妥当性が支持された。さらに, 理論的に関連が予想された変数との相関関係も確認され, 尺度の妥当性に関する複数の証拠が提出された。最後に, 作成された尺度を用いた今後の研究の展望について議論がなされた。
著者
河合 輝久
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.376-394, 2016-09-30 (Released:2016-10-31)
参考文献数
40
被引用文献数
5

本研究の目的は, 大学在学時に抑うつ症状を呈し始めた友人が身近にいた大学生の視点から, 大学生の抑うつ症状に対する初期対応の意思決定過程と実際の初期対応を明らかにすることである。大学生12名を対象に, 身近な友人が抑うつ症状を呈し始めた時の初期対応について半構造化面接を行った。得られた結果について, グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析を行った結果, 「抑うつ症状を呈し始めた友人を援助する利益, 援助しないリスクを意識すると, 当該友人に援助的な初期対応を提供する」, 「抑うつ症状を呈し始めた友人を援助するリスク, 援助しない利益を意識すると, 当該友人に援助的な初期対応を提供せず, 距離を置いたり過度に配慮したりする」, 「専門的治療・援助の必要性を意識し勧めようとしても, 専門的治療・援助の利用勧奨リスクや専門的治療・援助の利用リスクを意識したり, 適切な専門的治療・援助機関を知らなかったりする場合, 専門的治療・援助の利用を勧めない」など8つの仮説的知見が生成された。大学生の抑うつの早期発見・早期対応においてインフォー マルな援助資源を活用する際には, 特に初期対応の実行に伴うリスク予期を軽減させるアプローチが重要であると考えられる。
著者
澁谷 拓巳
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.373-387, 2020-12-30 (Released:2021-01-16)
参考文献数
35
被引用文献数
1

項目反応モデルの多くはカテゴリカルな観測変数を対象とするものだが,中には反応時間や回答への確信度といった連続量の観測変数を対象としたモデルも提案されている。本研究では連続した観測変数をベータ分布でモデリングしたNoel & Dauvier (2007) のモデルを拡張し,新たな項目反応モデルを提案する。本研究では,先行研究では示されていなかった,EM法による周辺最尤推定法による項目パラメタ推定方法の定式化と,推定の標準誤差の解析的な導出をおこない,パラメタの等化可能性について議論する。シミュレーションにより,提案手法の真値とのRMSEは0.1程度で推定されることと,EM法による推定が項目数が少ない条件下であっても安定していることが分かった。本来は連続変数として想定されてはいないものの観測カテゴリ数の多い実データに提案手法を適用したところ,比較的小さな標準誤差の推定値が得られることと,能力推定値は段階反応モデルで推定した結果と高く相関していることを示した。
著者
山森 光陽
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.71-82, 2004-03-31 (Released:2013-02-19)
参考文献数
20
被引用文献数
2

本研究では, 中学校1年生の英語学習に対する学習意欲はどの程度持続するのか, また持続させている生徒とはどのような生徒なのかについて検討を行った。具体的には, 中学校1年生の英語学習に対する学習意欲はどの程度持続するものであるのかを生存時間分析を用いて検討し, さらに, 学習意欲を持続させている生徒とはどのような生徒なのか, またどのようなことが切っ掛けとなって学習意欲が失われるのかを検討した。その結果, 中学校1年生の英語の学習においては, 初回の授業では9割以上の生徒が英語の学習に対して高い学習意欲を有していることが確認された。しかし, それを持続させることが出来たのは6割程度の生徒であったことが確認された。また, 1年間の中でも, 特に2学期において学習意欲が低くなる生徒が顕著に多いことが, 本研究の結果明らかになった。さらに, 試験で期待通りの成績が得られたかどうかではなく,「もうこれ以上がんばって勉強できない」と感じることの方が, その後の学習意欲の変化に影響を及ぼす可能性のあることが示唆された。さらに, 学習意欲が上昇する生徒についても考察を行った。
著者
山本 寿子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.127-136, 2012 (Released:2013-01-16)
参考文献数
25
被引用文献数
1 1

単語アクセントには, 地域差や世代差によるゆれが見られる。日本人母語話者は, そのようなアクセントのゆれに対しても, 音韻情報に基づいて意味を解釈することで, 支障なくコミュニケーションを進めることができる。本研究は, このようなアクセントのゆれへの耐性が, いつから, どのようにして獲得されるのかを調べるために, 年少児(3~4歳)・年中児(4~5歳)を対象に, 正しいアクセント, あるいは誤ったアクセントで発音された単語を聴取し, 該当するターゲット写真を図版から選択する課題を行った。その結果, 年少児のターゲット選択数は, 誤ったアクセントで発音された場合に, より少なくなることが示された。一方, 年中児はアクセントの正誤にかかわらずターゲットを選択することができた。さらに, かな文字の知識がアクセントのゆれへの耐性を促進させる可能性を検討するために, かな文字を習得している幼児と, 未習得の幼児の間で課題遂行成績を比較したところ, 差は見られなかった。これらの結果より, 年中までにアクセントのゆれへの耐性が獲得されることが示された。考察では, この能力の獲得を促進させる要因について議論を行った。
著者
坪井 裕子 李 明憙
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.335-346, 2007-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
22
被引用文献数
1 3

本研究の目的は自己記入式のYouth Self Report (YSR) と職員が評価するChild Behavior Checklist (CBCL) を用いて虐待を受けた子どもたちの行動と情緒の特徴を明らかにするとともに, 臨床的応用可能性を探ることであった。児童養護施設に入所中の子ども142名を対象に, YSRとCBCLを実施した。両方有効だったのは124名 (男子75名, 女子49名) だった。問題行動得点では, CBCLとYSRの間で一定の相関が認められたが, コンピテンスに関しては両者で捉え方が異なる可能性が示された。被虐待体験の有無による比較では, CBCL, YSRいずれにおいても被虐待体験が子どもの行動や情緒の問題に影響を及ぼすことが確認された。職員は子どもが気づきにくい「社会性の問題」や「注意の問題」などを客観的に捉えることが示された。反面, 「身体的訴え」や「思考の問題」など, 子ども側の主観的な問題を捉えにくいことが挙げられた。臨床的応用例の検討からは, 自己評価と他者評価を組み合わせることによって, 虐待を受けた子どもの行動と情緒の問題を, より多面的に理解できることが示唆された。
著者
小野田 亮介 松村 英治
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.407-422, 2016-09-30 (Released:2016-10-31)
参考文献数
26
被引用文献数
3 4

本研究の目的は, 低学年児童の意見文産出活動を対象として (1) マイサイドバイアスの克服におけるつまずきの特徴を解明し, (2) マイサイドバイアスを克服するための指導方法を提案することの2点である。2年生の1学級32名を対象とし, 1単元計5回の実験授業を行った。その結果, マイサイドバイアスの克服におけるつまずきとして, 反論を理由なしに否定する「理由の省略」と, 反論と再反論の理由が対応しないという「対応づけの欠如」が確認された。一方, 他者の意見文を評価する活動においては, 児童は反論想定とそれに対応した再反論を行っている意見文を高く評価していた。そこで, 児童は「良い意見文の型」を理解してはいるが, その産出方法が分からないためにマイサイドバイアスを克服できないのだと想定し, 児童が暗に有している「良い意見文の型」を児童の言葉から可視化する指導を行った。その結果, 児童は教師と協働で「良い意見文の型」を構築・共有することができ, その型を基に独力でマイサイドバイアスを克服した意見文産出ができるようになることが示された。
著者
坪井 裕子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.110-121, 2005-03-31 (Released:2013-02-19)
参考文献数
27
被引用文献数
5 6

本研究の目的は児童養護施設に入所している虐待を受けた子どもたちの行動と情緒の特徴を明らかにすることであった。児童養護施設に入所中の子ども142人 (男子: 4~11歳40人, 12~18歳45人, 女子: 4~11歳 25人, 12~18歳32人) を対象に, Child Behavior Checklist (CBCL) の記入を職員に依頼した。その結果, 女子は男子に比べて内向尺度得点が高く, 特に高年齢群女子は身体的訴えと社会性の問題の得点が高かった。被虐待体験群 (n=91) と被虐待体験のない群 (n=51) に分けて比較したところ, 社会性の問題, 思考の問題, 注意の問題, 非行的行動, 攻撃的行動の各尺度と外向尺度, 総得点で, 被虐待体験群の得点が有意に高かった。被虐待体験群は, 社会性の問題, 注意の問題, 攻撃的行動, 外向尺度, 総得点で臨床域に入る子どもの割合が多かった。虐待を受けた子どもの行動や情緒の問題が明らかになり, 心理的ケアの必要性が示唆された。
著者
大平 勝馬
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.1-12,59, 1969-10-15 (Released:2013-02-19)
参考文献数
39

本論文は筆者の検討せんとする身体的成熟度と精神発達との相関的研究に関する基礎的研究として, 身体的成熟度の指標とせる手根骨化骨核成長の標準値を求め, 更にその標準から求めた身体的成熟度の妥当性を検討したものである。(1) 標準成績はまず自0才至15才間1022名の手腕関節化骨核X線像に基づき, 核出現率, 出現化骨核X線像の平面測定による面積によつて作成した。(2) 化骨核面積は身長との間に高い相関を有することを認めた。(3) 次に体格の条件を考慮して, Gaussの最小自乗法に基づき「手根骨化骨核面積個人別標準及び骨格年令算出公式」を作成し, それから成熟指数を算定することにした。(4) 本公式より算出せる成熟指数と, 核出現率あるいは年令別面積標準値から求めた成熟指数との間に億高い一致度がある。(5) 更に公式より算定せる成熟指数と, 成歯状態, 初潮年令, 身長体重の増加, 体質係数より求めた発育指数との相関を検討せる結果, 体質係数との間以外は一般的に高い相関を示し, 筆者の定めた身体的成熟度に可成りの妥当性を認めた。(6) なお成熟指数によつて示される身体的成熟度には, 遺伝的要因が著しく多いことを認めた。
著者
阿部 晋吾 太田 仁
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.294-304, 2014-12-30 (Released:2015-03-30)
参考文献数
51
被引用文献数
4 1

本研究では中学生を対象に, 自己愛傾向の程度によって, 教師からの叱りの動機推測が援助要請態度に及ぼす影響に差異がみられるかどうかを検討する質問紙調査を行った。その結果, 教師からの叱りに対して向社会的動機を推測するほど, 援助適合性認知は高くなる一方, 自己中心的動機を推測するほど, 援助適合性認知は低くなることが示された。自己中心的動機の推測はスティグマ認知にも影響を及ぼしていた。また, 自己愛傾向の高い生徒は, 向社会的動機の推測の影響が弱く, 自己中心的動機の推測の影響が強いことも明らかとなった。
著者
鹿毛 雅治
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.155-170, 2018-03-30 (Released:2018-09-14)
参考文献数
91
被引用文献数
2

本論文では,学習動機づけをテーマとした日本における過去10年間の研究を概観するとともに,今後の研究の方向性について展望する。その際,理論的な枠組みとして,動機づけ規定因として四要因(認知,感情,欲求,環境),動機づけの安定性に関わる区分として三水準(特性レベル,領域レベル,状態レベル)を取り上げて,知見を整理した。学習とそれを支える動機づけの複雑なプロセスについて解明するためには,認知や感情に関わる多様な要因を同時に取り上げるとともに,特に状態レベルの動機づけに着目して実証的,理論的な研究を進めること,介入研究や開発研究など,教育実践の実際の場面で研究を計画,実施すること,質問紙調査に偏ることなく,実験法,観察法などによる研究を積極的に実施したり,複数の研究手法を組み合わせたマルチメソッドアプローチを推進したりすることなどが今後の研究に期待されている。また,知識,技能の習得を主たる目的とした旧来型の教育観を刷新し,学習動機づけに支えられた思考や表現が活性化するような授業を前提とする発想が研究の基盤として求められている。