著者
村田 幸作 井上 善晴
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

C-P結合は、極めて強固な結合であり、化学的、熱化学的、あるいは、光化学的にこの結合を切断することは不可能に近い。酵素による切断が、現在期待できる唯一効果的な手段である。特に、C-P化合物が除草剤、殺虫剤、あるいは、抗カビ剤などとして多量に自然界に散布されている現状、および、食物連鎖を通じてこれらC-P化合物の生体への高濃度蓄積の懸念を考える時、微生物酵素によるC-P化合物の分解は重要な意味を持つ。そこで、C-P結合開裂酵素の実体を明らかにするため、C-P化合物を唯一のリン酸源として生育し、かつ、培地中に著量の無機リン酸を蓄積するバクテリアとしてEnterobacter aerogenesをスクリ-ニングした。E.aerogenes IFO 12010は、種々のC-P化合物(methylphosphonic acid,pherylphosphonic acid,phosphonoacetic acid)を唯一のリン酸源として生育し、培地中に無機リン酸を蓄積した。しかも、本菌の無細胞抽出液は種々のC-P化合物より無機リン酸を遊離する活性を示し、初めてC-P結合開裂酵素の無細胞系での証明に成功した。本酵素は、リン酸欠乏下で誘導合成されることにより、Phosphate Starvation Inducible(PSI)regulonに含まれる遺伝子にコ-ドされていると考えられた。本菌の抽出液を透析後、DEAE-celluloseとSephaclex G-150(voidに溶出される)で分画し、活性画文をTSK-HW65カラムでゲルロ過することにより、本菌には2種類のC-P結合開裂酵素(E1とE2)が存在し、その中の主要酵素であるE2はC-P結合開裂酵素活性の発現に2種類のタンパク質の共存を必要とすることを明らかにした。このように、E.aerogenes IFO 12010に初めてC-P結合開裂酵素活性を検出し、しかも、この酵素は活性発現に特殊なタンパク質構造をとることを明らかにした。有機化学的に殆んど不可能なC-P結合の開裂が酵素化学的に進行するというこの事実は、酵素の超化学的な機能を物語るものであり、我々の知らない化学反応がまだ残されていることを示唆した。
著者
古澤 拓郎 清水 華 小谷 真吾 佐藤 正典 シブリアン リクソン アムリ アンディ
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

アジア・太平洋には多毛類生物いわゆるゴカイ類を好んで食する社会があるが、その近隣社会では釣り餌などにすぎず食料としては醜悪とみなされる。なぜ特定の社会だけがゴカイ類を好むのかを、生存、文化、楽しみという3点から研究した。ゴカイ類はタンパク質に富むが頻度と量は限られており、生存に必須であるとは判断できなかった。一方、生物時計により正確に太陽周期と太陰周期に一致して生殖群泳を行うので、それに合わせて儀礼を行うことで、田植えの季節を正確に知ることができる社会があった。また皆で採取し、共食を行い、祭りをすることが人々の楽しみになっていた。食料選択において栄養素以外の文化や楽しみの重要さを明らかにした。
著者
近藤 英治 曽根 正勝 山原 研一 千草 義継
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

妊娠高血圧腎症や胎児発育不全は主に胎盤形成不全に起因する。病的胎盤からの放出因子が母体血管内皮を障害して高血圧や様々な臓器を障害する。一方、胎児では発育不全や胎児機能不全をきたす。この母児の生命を脅かす疾患の根源は胎盤にあり、胎盤形成不全の原因を明らかにし、胎盤機能再生療法を開発することは、周産期医学にとって喫緊の課題である。しかし、未だ胎盤形成のin vitroモデルはなく、まずは胎盤形成不全の機序を解明するため、胎盤を構成する絨毛細胞、血管内皮細胞、間葉細胞の代用として、ヒトiPS細胞由来絨毛様細胞、臍帯由来の血管内皮細胞、羊膜由来の間葉系幹細胞を共培養することで、胎盤の立体的器官芽(ミニ胎盤)を作成することに成功した。絨毛は2層構造であり、内側のCytotrophoblast(以下CT)と外側の(Syncytiotrophoblast(以下ST)から構成され、CTの融合により形成されるSTは母体血に面しており、母体と胎児の栄養・ガス交換を担っている。また、CTは絨毛外栄養膜細胞(EVT)にも分化し、脱落膜に付着したcell columnのCTから分化したEVTは子宮や子宮動脈内に浸潤する。ミニ胎盤ではこの3種の絨毛(CT, ST, EVT)が局在しており、より生体に近いモデルであると考えられた。ミニ胎盤は免疫不全マウスの子宮内でも生着するため、今後我々が開発したミニ胎盤はin vitroのみならずin vivoにおいても胎盤形成期の研究材料モデルとして用いることができる可能性がある、
著者
坂口 嘉之
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
1997-03-24

本文データは平成22年度国立国会図書館の学位論文(博士)のデジタル化実施により作成された画像ファイルを基にpdf変換したものである
著者
藤田 昌久 石川 義孝 中川 大 文 世一 森 知也 田渕 隆俊
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2001

以下の五つの研究課題を相補的に関連させながら、理論と実証分析の両面から研究を推敲し、以下の成果を得た。(1)一般的基礎理論:空間経済学を複雑系の視点から再構築した。特に、内生的成長理論との融合として、知識外部性の影響下での生産とR&D活動の集積、イノベーションの速度、経済成長の相互連関の分析、および、知識創造・伝播に繋がるコミュニケーションの「場」の形成メカニズムの定式化を行った。企業組織論との融合としては、交通・通信技術の発展、企業のグローバルな組織展開、世界経済の空間構造の変化の相互連関を分析し、さらに、経営戦略的観点の基づく「産業クラスター理論」の空間経済学的基礎を与えた。実証面では、産業集積度や個々の経済集積の空間範囲を検出する情報量基準の開発を行った。(2)産業集積のミクロ分析:IT産業等を対象に、集積と産官学連関の実際と研究開発活動の相互連関、および、集積と地域活性化との関連について実証研究を行った。(3)都市システム:開発したモデルを用いて、与件の変化に伴う都市システムの発展過程や、輸送の規模の経済下での経済立地と輸送技術の相互連関、さらに、経済発展に伴う、都市化、出生率、所得分布や格差の推移の相互連関について分析した。また、日本の製造業について集積を検出し、都市の産業構造と人口規模の関係を明らかにした。(4)国際地域システム:開発したモデルを用いて、産業の空洞化メカニズム、輸送密度の経済の影響下での貿易パターンと国際輸送網の相互連関、および、先進・途上国間での知識・技術のスピルオーバーに基づく、国際地域システムにおける雁行形態的産業発展過程等を説明した。(5)経済立地と交通・通信システム:交通経済学との融合により、輸送技術が経済活動の空間分布に依存して決まるメカニズムを明らかにし、さらに、都市空間における次善の料金政策の効果との連関等も分析した。また、交通整備水準と地域経済との関係に関するデータベースを構築し、交通整備の社会的便益の計測、交通施設整備財源の国際比較等を行った。
著者
Mourougane Christophe
出版者
京都大学
雑誌
Publications of the Research Institute for Mathematical Sciences (ISSN:00345318)
巻号頁・発行日
vol.33, no.6, pp.893-916, 1997
被引用文献数
9

Our main purpose is to study ampleness and positivity properties of the direct image &phi;{\bigstar}<I>L</I> of a holomorphic line bundle <I>L</I> under a smooth morphism &phi;: <I>X</I>&rarr;<I>Y</I> between compact complex analytic manifolds. We show that in general the ampleness of <I>L</I> does not imply that of the direct image &phi;{\bigstar}<I>L</I> but only that of the direct image of the adjoint line bundle &phi;{\bigstar}(<I>K</I><SUB><I>X</I>/<I>Y</I></SUB>&otimes;<I>L</I>).
著者
藤田 尚志
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

経済的利用価値の高いと考えられる米糠からの二重鎖RNA(dsRNA)抽出方法を確立した。まず、米糠に含まれるdsRNAの安定性について粗抽出液に関して検討を行い、以下の結果を得た。dsRNAは温度依存性の安定性を示し、冷蔵以下の温度で安定であることを見出した。また、dsRNAの安定性は塩濃度依存的であることを見出した。以上より、抽出の塩濃度、温度の管理が非常に重要であるが明らかとなった。次に粗抽出液を濃縮する方法を確立した。さらに経済性を高めるため、濃縮方法の改良の検討を継続している。ピーマン由来dsRNAを用いてマウス個体での免疫賦活活性を検討した。ピーマン由来dsRNAを経鼻投与することによって季節性のH1N1インフルエンザウイルスのみならず高病原性H5N1インフルエンザウイルスに対しても強い防御効果があることを見出した。次に不活化H5N1ウイルスとともにピーマンdsRNAの皮下投与を行ないそのアジュバント効果を検討した。不活化ウイルスのみでは強い免疫応答は見られなかったが、dsRNAとともに投与することによって劇的な免疫効果が観察され、ピーマンdsRNAに強力なアジュバント活性がある事が判明した。最後にB16-F10メラノーマ移植マウスの系を用い、dsRNAの抗癌試験を行った。その結果、ピーマンdsRNAはNK細胞の活性化を通してB16-F10細胞の増殖を抑制する活性を有する事が明らかとなった。マウス個体を用いた結果は論文投稿中である。
著者
松波 弘之 吉本 昌広 冬木 隆
出版者
京都大学
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1988

本研究では、6HーSic(0001)Si面、(0001^^ー)C面にオフアングルを導入することで表面のステップ密度を制御し、その基板上に6HーSiCの原子ステップ制御エピタキシャル成長を行った。成長機構の検討と不純物ド-ピングを行った結果は下記の通りである。1.原子ステップ制御エピタキシ-によるSiCの成長(1)Si面オフ基板ではオフ方向により成長の様子が異なる。[112^^ー0]方向オフ基板上には6HーSiCのみが成長する。一方、[11^^ー00]方向オフ基板上では長時間成長により、3CーSiCの混在が進む。(2)C面オフ基板では[112^^ー0]、[11^^ー00]のオフ方向に依存せず、6HーSiC単結晶が成長し、3CーSiCの混在は生じない。2.不純物のド-ピング(1)TMAを用いたA1のド-ピングを行い、p形層キャリア密度を4×10^<17>〜8×10^<20>cm^<ー3>の広い範囲で制御することができ、0.1Ωcm以下の低抵抗p層が得られた。また、フォトルミネセンス(PL)測定の結果からNドナ-のsite effectが確認できた。(2)TiCl_4流量を変化させることにより、Tiド-プ量を8×10^<17>〜2×10^<21>cm^<ー3>の範囲で制御することができた。Tiド-プ層のPL特性からTiに特有な発光が現れることを見いだし、これがTi等電子トラップに束縛された励起子発光であることを明らかにした。
著者
川上 文人
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

1)研究の目的 本研究課題の研究目的は,ヒトの対人関係に大きく作用する非言語コミュニケーションを理解するための突破口として笑顔に焦点を当て,笑顔のヒト科における系統発生について実験室,飼育下,野生というさまざまな環境から体系的に明らかにすることである。本年度は大型類人猿における笑顔の使用場面を観察により探るため,高知県立のいち動物公園と日本モンキーセンター(JMC)において飼育下チンパンジーの観察を行った。本報告ではJMCでの観察結果について述べることとする。2)成果の具体的内容 JMCには2014年7月にチンパンジーの乳児が生まれ,その母親と父親と3個体で生活している。生後6か月までのビデオの分析で唯一笑顔が生じていた,母親による「高い高い」の場面を抽出し表情の分析を行った。ヒトとの比較を行うため,保育園で保育士に乳児を「高い高い」してもらい,同様の分析を行った。その結果,乳児も養育者もチンパンジーよりヒトの方が多く笑うこと,チンパンジーでは乳児が笑っても母親が笑うわけではないことが明らかになりつつある。3)意義と重要性 ヒトの笑顔の特殊性は,他者とともに笑い合うというところにあるようである。チンパンジーの場合は笑顔ではなく,グルーミングや音声によるあいさつによって対人関係を平穏に導いているのであろう。どちらの種においても笑顔は快感情の表れとしてもちいられており,笑顔の原因を探求することはヒトやチンパンジーを含む動物にとってよりよい環境を築く足がかりとなる。
著者
森 和俊 親泊 政一 原田 彰宏 南野 哲男
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

小胞体膜結合性転写因子ATF6は、小胞体ストレスを感知するとゴルジ装置へ移行し、プロテオリシスによる活性化を受ける。この小胞体ストレスの感知にATF6内腔領域のみが十分であることを証明した。ATF6αノックアウトマウスは正常に発育するが、腹腔に小胞体ストレス誘導剤を投与すると脂肪肝を形成して死亡する。その原因として、肝臓からの脂肪の放出を担う超低密度リポタンパク質形成に関与するApolipoprotein B-100の品質管理にATF6α非存在下では問題が生じることを突き止めた。
著者
間藤 徹
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

ホウ素は高等植物の必須元素であり、ホウ素が欠乏すると根の伸長、新葉の展開が停止する。特に開花期には要求量が多く、欠乏すると花粉の形成不良や不稔を引き起こし、子実収量が激減する。さらにホウ素は植物体内での移動性が乏しく、常に土壌から供給されていることが必要である。従って、開花期に下位葉からホウ素が移動すれば、生殖器官はホウ素の供給を受けることができ、土壌のホウ素欠乏による影響を受けにくくなることが期待できる。そこで植物体内におけるホウ素の移動性を検討するため、^<10.8>Bを供給して栽培したヒマワリ幼植物の培養液に^<10>Bを与え、一定時間後の各葉位のホウ素の同位体比を測定し、ホウ素の移動度を推定した(実験1)。さらに水耕したヒマワリ幼植物の地上部を根際で切除し、根から地上部に移行する導管液を採取した。地上部切除と同時に培養液の^<10.8>Bを^<10>Bに切り替え、導管液中のホウ素の比活性の経時的変化を追跡した(実験2)。実験2から、導管液のホウ素の比活性は培養液交換後、6時間でほぼ外液のホウ素の比活性と等しくなった。ヒマワリの根の地上部に輸送されるホウ素のプールは半減期2時間程度の、すばやく外液と交換できるホウ素から構成されていた。実験1からは、最上位葉に運搬されるホウ素が根から導管を通って運ばれるホウ素ではないことが示された。すなわちホウ素の比活性が短時間で上昇するのは第2、3葉であって、第一葉の比活性は12時間遅れて上昇した。つまり、第一葉に運ばれるホウ素は下位葉を経由していることが示された。これらの検討から、ホウ素は体内で導管と師管の双方を経由して輸送されていることが明らかになった。
著者
澤野 雅彦
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
2003-09-24

新制・論文博士
著者
大槻 勤 菊永 英寿
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

軌道電子捕獲崩壊[EC崩壊]は,核位置に存在する軌道電子を核内核子に取り込んで崩壊する現象で,その確率は核位置での電子密度に比例する.本研究の目的は加速器による量子ビーム(陽子や電子)を用いてBe-7を製造し,温度・化学形・結晶形等の因子を変えて,半減期を大きく変化させることである.Be-7@C60の温度変化(室温と5K)で半減期変化をみる実験をおこなった.その結果,室温のベリリウム金属中Be-7と5Kに冷却されたC60 内のBe-7の半減期を比較すると1.5%以上も短くなることを見出した.C60,C70を特殊な環境下でのBe-7の半減期測定を行い,大きな半減期変化を実現させるに至った.
著者
山内 裕
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

この研究は、文化を構築することで価値創造を行う実践を明らかにし、そのための理論と方法論を構築することである。特に、サービスという文化が深くかかわる領域に着目し、経験的調査を行いつつ、文化構築のための理論を探究する。下記の3つの活動を計画していた。まず最初に、当初の計画通り、サービス場面における相互行為の経験的分析を進めている。具体的には、バーやアパレル場面での相互行為をビデオに記録し、エスノメソドロジーの視座から分析している。バーの調査はセンスメイキング理論に相互主観性を導入する理論的枠組みを提案し、英文ジャーナルに投稿し査読の過程を経ているところである。アパレルの調査は、サービスにおける店員の視線という相互主観性の水準での行為について分析し、その結果を2018年7月の欧州の国際会議(European Group of Organization Studies, EGOS)で発表することが決まっている。次に、計画にある通り、鮨屋に関する文化表象に関するメソレベルの調査も進んでいる。鮨にまつわる言説を整理し、二次データの分析をベースにした研究を7月の国際会議(Consumer Culture Theory)で発表しフィードバックを得た。さらに、それを踏まえて、鮨おたくと呼ばれる方々数名へのインタビューを実施した。今後このデータを分析しつつ、追加でインタビューを計画している。最後に、計画にある理論構築に関しては、バーやアパレルデータの分析にともない、相互主観性を基礎としたサービスの価値共創を概念化している。2月には南洋理工大学の消費者文化の研究者、12月と3月にはコペンハーゲンビジネススクールの組織論・哲学の研究者2名と国内で議論をする場を持ち、理論構築を進めた。この内容を論文として完成し、2018年中に公刊されるサービス科学の中心的ハンドブックに含まれることが決まっている。
著者
石田 一良
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
1962

博士論文
著者
若松 大祐
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

現代台湾(1945-現在)において、中華救助総会(救総)はとりわけ泰緬地区の同胞を救援するに際し、いかにして「我々」(国民国家的な主体)の歴史を叙述してきたのか。本研究の目的はこの問いを解明し、現代台湾という時空をよりよく理解することに在る。三年目の今年度は、現代台湾史において出現した官製歴史叙述や泰緬孤軍像を背景として踏まえた上で、特に救総が展開する歴史叙述について考察を試み、次の2つの知見を得た。すなわち、第1に、現代台湾において泰緬孤軍というふうに名づけられた泰緬地区在住の人々を、中華民国政府の主導する人権概念に基づき、救助対象とみなしていたこと。第2に、世代交代により、孤軍後商(孤軍の末窩)と呼ばれる人びとが出現し、救総の他にも中華民国と孤軍を架橋する媒体が出現したこと、の2点である。孤軍後裔は、救総とのつながりを相対的に希薄化しつつも、台湾との多様なつながりを持ち、タイや台湾という土地に根付こうとしており、タイにおいては朝野挙げての観光立国化の機運の中で、ゴールデン・トライアングルに関するテーマパークを立ち上げたり、台湾においては朝野挙げての多元化の機運の中で、雲南文化公園を設置している。特に第2点について、更なる考察を踏まえ、投稿を前提にした論文を執筆中である。受入機関の京都大学で東南アジア地域研究に関する研究会や講義へ参加し、またタイへ1回、台湾へ1回短期出張して、今年度の研究を遂行ができた。