著者
伊藤 慎悟
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.83, no.5, pp.510-523, 2010-09-01 (Released:2012-01-31)
参考文献数
20
被引用文献数
1

本研究は仙台市を事例に,1960年代に開発された戸建住宅団地の年齢構成と高齢化の差異を明らかにし,その差異に影響を及ぼしている要素を導き出すことを目的とする.まず,1975年の5歳階級別人口比率において,第一,第二世代の偏りに団地間で差異がみられ,仙台駅からの距離といった団地属性との関連性が強いことが判明した.市域縁辺部にある住宅団地の多くは,第一,第二世代に偏った年齢構成をしているが,2005年に至って居住者の入れ替わりはあまりみられず,第一世代の加齢と第二世代の転出によって急激に高齢化している.これに対し,仙台駅から比較的近い位置にある住宅団地は,若年単身世帯の受け皿としての機能も有し,高齢化があまり進んでおらず,両者における差異が明瞭にみられた.
著者
鈴木 重雄
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.83, no.5, pp.524-534, 2010-09-01 (Released:2012-01-31)
参考文献数
34
被引用文献数
4 6

日本各地で人間による樹林地の利用圧の低下や竹林管理の粗放化に起因する竹林の拡大が報告されている.本研究では,広島県竹原市小吹集落において,最近40年間の,たけのこの生産状況の変化と竹林化の生じた土地利用に着目し,竹林の拡大した要因を検討した.その結果,竹林面積は1962年から2000年の間に2.6倍に拡大していた.たけのこ生産が盛んに行われていた1986年以前だけでなく,国内産たけのこの需要が低迷し,高齢化等によりたけのこ生産が衰退した1986年以降の期間も,竹林の拡大は継続し,特に畑と樹園地で急激に竹林化が生じていた.1962年から2000年の竹林拡大のうち36%が1962年の農地で生じており,耕作放棄や竹林への転換がなければ起こらなかったと推測できた.竹林は所有者による植栽終了後も竹林管理の粗放化により拡大していた.加えて,竹林に隣接する農地の耕作放棄により拡大しやすい空間が生じたことも,急激な拡大に影響していることが明らかとなった.
著者
西山 弘泰
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.83, no.4, pp.384-401, 2010-07-01 (Released:2012-01-31)
参考文献数
34
被引用文献数
2 2

本稿は,1960年代・1970年代にスプロールを伴って形成された小規模開発住宅地に着目し,住民の転出入から,これらの住宅地が郊外に立地する住宅地の中でどのような位置づけにあったのか,どのような役割を果たしていたのかを,戦後日本の住宅事情や社会・経済情勢から明らかにした.対象地域の埼玉県富士見市関沢地区は,1970年前後を中心とした中小ディベロッパーによる小規模開発・狭小敷地の建売住宅開発が連担し形成された住宅地である.関沢地区では,開発が始まる1960年代中頃から1980年代前半まで20代・30代を中心とする若年ファミリーが多く居住し,活発な転出入がみられた.居住者の多くは東京区部から転入し,数年で比較的近隣のより敷地規模の広い戸建住宅へ転出していった.しかし1980年代中頃から,関沢地区の戸建住宅では建替えが進み,活発な転出入がみられなくなり滞留傾向が強まる.このことから1960年代後半から1980年代前半における関沢地区の狭小な戸建住宅は若年層の仮の住まいとしてその役割を果たしていたと考えられる.そして関沢地区の戸建住宅において居住者の活発な入替えがあった背景は,第1にバブル崩壊までの持続的な地価や賃金の上昇,第2に家族向け賃貸住宅の不足,そして第3に分譲マンションが一般化していなかったことがあげられる.このことから,当地域にみられた狭小な戸建住宅は,当時の社会・経済情勢が投影された時代の産物であったといえる.
著者
川口 純 日下 博幸 木村 富士男
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.83, no.4, pp.375-383, 2010-07-01 (Released:2012-01-31)
参考文献数
12
被引用文献数
1 2

ヤマセは,夏季の北日本の太平洋側に吹き付ける冷たく湿った東寄りの風である.ヤマセ卓越時には,東北地方太平洋側で東~南東の風が吹く.しかしながら,北上盆地では南風が吹く.本研究では,この南風の成因を明らかにするために,データ解析と領域気象モデルWRFを用いた数値実験を行った.結果を以下に示す.(1)WRFを用いた数値実験の結果,実地形を用いた基準実験と,北上高地の地形高度を90%に減少させた実験では北上盆地で南風が吹くが,北上高地の地形高度を80%,70%に減少させた実験では,北上盆地では南風が吹かずに東風が卓越する.(2)この結果は,フルード数やロスビー数を使った力学的解析の結果と一致する.(3)ヤマセ卓越時の北上盆地の南風は,地形障壁の効果と重力流の特徴をよく表している.
著者
秋本 祐子 日下 博幸
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.83, no.3, pp.324-340, 2010-05-01 (Released:2012-01-31)
参考文献数
25
被引用文献数
6 8

領域気象モデルWRFの入力データ(大気・土地利用・海面水温・地形),および地表面パラメータ(粗度・アルベド)の変化に対する感度実験を行い,それらが地上気温の再現精度に与える影響を定量的に比較した.結果は以下の通りである.デフォルトの設定による計算では,日最高気温・日最低気温がともに関東平野全域で過小評価される.大気の入力データとして,デフォルトのデータの代わりに気象庁のメソ客観解析データを用いると,前述した地上気温の過小評価が改善される.土地利用データとして,デフォルトのデータの代わりに国土数値情報の土地利用データを使用すると,熊谷を含む郊外の中小都市の存在が識別できるようになる.その結果,関東平野の北西部で気温が上昇し,地上気温の過小評価が改善される.海面水温データ・地形データの変更,および地表面パラメータの変更は,地上気温の計算結果に大きな影響を与えないことが分かった.
著者
谷岡 能史
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.83, no.1, pp.44-59, 2010-01-01 (Released:2012-01-31)
参考文献数
30
被引用文献数
2 2

7~10世紀の暖候期(5~10月)における気候について,六国史と『日本紀略』を対象史料として検討した.長雨や干ばつを中心に集計した結果,干ばつは7世紀末~8世紀,長雨は9世紀の特に後半に多く記載されていた.理化学的な気温復元結果から,前者は温暖化の時代であり,7月における干ばつの増加と関連があるとみられる.後者のうち,879~887年は7月に長雨が多く,梅雨前線の北上が遅かったことが示唆される.これに加え,平安遷都という都城の立地条件の変化が史料編者の意識を変化させた可能性もある.また,理化学的データではとらえきれないスケールの小さい変動も記載の変化に関わっていたと考えられる.
著者
上杉 昌也
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.82, no.6, pp.618-629, 2009-11-01 (Released:2011-08-25)
参考文献数
25
被引用文献数
2 3

本稿では,現在の市街地の原型が形成された高度経済成長期の大阪東北部に注目し,セル・オートマトン(CA)を用いて市街地の面的拡大過程が適切に説明できるかを検証するとともに,その視点から当該地域の市街地拡大の特徴について考察した.CAシミュレーションによって,既成市街地を核とした拡大の過程や膨張した市街地どうしが連坦しさらに大きなかたまりになっていく過程から,局所的な相互作用の集積がマクロなスプロール現象を導いたことが確認された.一方でモデルの限界も見られ,東部丘陵地域および門真市南部などの飛地的な大規模集合住宅については現実に近いパターンを再現できなかった.以上のことから,現在の大阪東北部の市街地は,周囲の市街地とは連坦しない大規模集合住宅地に先導された市街地拡大過程と,既成市街地を基盤にして小規模な土地利用転換が累積した市街地拡大過程によって特徴付けられることが示された.
著者
宇根 義己
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.82, no.6, pp.548-570, 2009-11-01 (Released:2011-08-25)
参考文献数
43
被引用文献数
5 4

タイで最も多くの日系自動車部品企業が立地するアマタナコン工業団地を取り上げ,企業集積のプロセスとリンケージの特性を明らかにした.まず,当団地の立地戦略において,バンコク都心部から通勤可能である上,政府機関の地域別税制恩典制度においてバンコク大都市圏よりも厚い恩典が享受できる点が企業に評価された.当団地には量産型車種を生産する自動車工場が立地していない.だが,1990年代以降の自動車工業地域の拡大に伴い,当団地がその中央部に位置するようになり,物流コストの低減を重視する部品企業の立地が促進した.さらにアジア通貨危機後は,団地内のエンジン工場の生産拡大に対応してエンジン部品企業が立地した.また,日本人・商社の関与による大規模開発が当団地に安心感と知名度をもたらし,農村地域からの労働力と日系企業を引きつけた.以上のプロセスにより当団地に企業集積が形成された.国内のリンケージは,複数の自動車企業や垂直的・水平的関係にある企業との間に形成されている.リンケージを空間的にみると,日系企業が集中する特定の工業団地間を中心としており,団地内リンケージは限定的である.
著者
與倉 豊
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.82, no.6, pp.521-547, 2009-11-01 (Released:2011-08-25)
参考文献数
39
被引用文献数
4 4

本稿では,産(企業)・学(大学,高等専門学校)・公(公設試験研究機関など)の連携の事例として,経済産業省が実施する「地域新生コンソーシアム研究開発事業」を取り上げ,共同研究開発ネットワークの構造とイノベーションに関する計量的な分析を行った.研究テーマの共有に基づく組織間ネットワーク構造の可視化と指標化を行った結果,次のような知見を得た.まず,地域ブロックごとにネットワーク構造が,共同研究開発先を多く有するコアが複数存在する「分散型」と,コアが限られている「集中型」とに分かれることを確認した.また,共同研究に参加する組織の中心性の高さが,事業化の達成と密接に関わることを明らかにした.さらに,共同研究開発の空間的拡がりの違いを,研究分野別・組織属性別に検討した結果,「ものづくり型」の研究分野ではローカルなアクターが指向されているのに対して,「サイエンス型」の研究分野では,より広域的なネットワークが形成されていること,大学や高等専門学校が遠距離との共同研究開発において中心的役割を担っていることが明らかとなった.
著者
藤本 潔
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.82, no.5, pp.465-490, 2009-09-01 (Released:2011-08-25)
参考文献数
88
被引用文献数
1

氷河性アイソスタシーにより沈降傾向にある北海南部大陸沿岸の海面変化研究史をまとめるとともに,地質層序や地形発達との関係も考慮し完新世中期以降の海水準微変動について考察した.オランダ西部から北西ドイツに共通する現象として,5200~4500 cal BPの海面上昇停滞または海面低下と,4500~4100 cal BPの上昇の加速が認められた.また2350~1900 cal BPの塩性湿地の一時的な離水現象から,この間の海面低下とその後の再上昇が推定された.北西ドイツで推定されている3300~2900 cal BPの急激な海面低下はオランダでは認められない.オランダの海面変化曲線は圧密の影響を排除するため,基底泥炭基部から得られた14C年代値に基づく地下水位変動曲線から間接的に推定されたものである.この手法では海面低下の検出は難しく,見かけ上海面上昇速度の低下または停滞と認識される可能性がある.
著者
番匠谷 省吾
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.82, no.3, pp.212-226, 2009-05-01 (Released:2011-08-25)
参考文献数
25
被引用文献数
1

本稿は,伐期を迎えた国産材産地における製材業に焦点を当て,原木供給,製材工場における木材の生産,流通という一連の過程の分析を通じて,製材業の生産構造について検討した.事例として取り上げたのは日本を代表する木材産地の一つである宮崎県都城市である.都城市の製材業に影響を与えている主な地域的要因は①他の国産材産地に比べてスギの伐期が早く,豊富な資源が存在した点,②行政の積極的な取組みにより流域林業,製材業が整備された点,③国内の乾燥材市場の成熟にいち早く対応し,市場での地位を築くことができた点,の3点である.このような環境下において,都城市の大規模業者は素材消費量,乾燥材生産量を増加させ,積極的な設備投資により効率化,無人化を進め,低コスト路線にシフトしつつある.一方で,中規模業者は原木消費量では維持,減少傾向にあり,乾燥材は生産しているものの,効率化,無人化の段階には達しておらず,低コスト路線にはシフトしていない.また,経営基盤が脆弱なため,安定した売上が見込める製品市場への出荷や,複数の製材工場による乾燥機の共同所有などの生残り戦略がみられる.
著者
杉浦 真一郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.82, no.3, pp.188-211, 2009-05-01 (Released:2011-08-25)
参考文献数
28
被引用文献数
5 3

介護保険に関して,近年の市町村合併は,旧自治体ごとの負担(保険料)を均一化する一方で受益(サービス給付)を必ずしも平準化できない点で地域的公正の観点から問題を生じさせている.本稿は,旧自治体別の介護保険について,新自治体となる合併地域全体との間の量的・質的差異を全国スケールで分析した.主な結果は次の通りである.①新自治体とのサービス給付水準の差異が顕著な旧自治体を抱える新自治体は概して非都市的な地域特性を多く含み,高齢者人口規模などからみた首位都市としての地位が相対的に高い旧自治体による編入合併が多い.②合併によって新自治体との間で著しい給付水準の差異を有する旧自治体は全国的に分布するが,特に県境地帯の山間部や離島など周辺性を有する地域に多い.③それらの旧自治体は合併前の数年間をみても事業特性に大きな変化がなく,合併後も受益と負担の不均衡による地域的公正の問題が新自治体内で存続する可能性が示唆される.
著者
伊藤 智章
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.62, 2005

2005年3月31日に、市町村合併特例法による特例措置が終了し、「平成の大合併」と言われた市町村の再編成が一段落した。住民から賛否の声を受けつつも、次々に行政界や市町村名が変更され、新たな市町村の誕生と、旧来の町村が消滅した現状をどう取り扱うかについての議論は十分に行われているとは言い難い。<BR> 本報告は、以上の問題意識に立ち、高等学校の地理で行った授業例を紹介し、地理教育で市町村合併の問題を取り扱うことの重要性と、具体的な指導法について提案する。<BR> 授業は、2005年4月から、6月にかけて、静岡県立長泉高等学校の3年生を対象として行った。GISソフトの「MANDARA」の操作を学ぶ傍ら、静岡県内で、ここ3年以内に合併した市町村を図示し、その地図の上に、財政に関する統計(財政力指数・税収額など)、人口に関する統計(人口増加率、高齢者人口比率など)から作成した地図を重ね合わせ、市町村合併を選択した市町村に共通する特性を明らかにした。<BR> 結果として、合併を選択した市町村の多くは、財政力指数が低く、自主財源による行政運営が困難であること、合併には、財政規模が大きな市町村が周辺町村を吸収する形(浜松市・沼津市など)と、小規模な市町村同士が連合して、全く新しい名称の市町村が誕生させる合併(伊豆市・伊豆の国市があることが明らかになった。<BR> 次に、広域合併が検討されている静岡県東部の市町村を対象とし、市町村間の関係の図示し、その必要性の有無と、仮に合併した場合に予想される問題について検討させたところ、沼津市と三島市および周辺市町村の間では、相互の人口移動が大きく、実質的に同一の都市圏にあることが分かった。<BR> 生徒は、合併推進の根拠となる、生活圏の拡大と広域行政の必要性について理解する一方で、市町村毎の公共料金や、住民一人当たりの歳出額の増減など図示し、合併に伴うメリットとデメリットを提示した。地元の町会議員を招いて行った報告会では、生徒の報告に基づいて、活発な議論が展開された。<BR> 今回の授業では、生徒に市町村合併問題を身近な問題として捉えさせることを目指した。結果として、統計を図示して重ねることで、論点が明確になり、活発な議論を展開することが出来た。<BR> 市町村合併の問題は、学習指導要領が言うところの「地図化して考える有意性」、「地理的見方・考え方の育成」を具現化する上で格好の教材である。また、地理教育の意義を世間に伝える上で、格好の事例となりうるだろう。幅広い議論と情報の提供、全国各地での実践の蓄積を期待したい。
著者
前田 竜孝
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.319-331, 2020 (Released:2020-11-10)
参考文献数
23
被引用文献数
2

本稿では,兵庫県南あわじ市南淡漁協の水産物流通を事例に,販路開拓の歴史と集出荷に関わる諸活動を考察する.南淡漁協では,長らく出荷先が二つの流通業者に限られていた.しかし,2012年にその片方のS水産が倒産すると,漁業者は販路の減少による魚価の低下を懸念するようになった.そこで,漁協は,新たな試みとして自らで水産物を荷受けして,関西地方から北関東の卸売市場までの幅広い地域へ水産物を出荷する取組みを始めた.販路はこれまでS水産が構築してきたものを利用した.一方,集出荷作業は地元の労働者が,配送作業はS水産の家族企業であるS運輸が担った.遠隔地への水産物の配送は,さまざまな主体が関わり,彼らの活動が生産地から消費地まで連鎖することで可能となった.
著者
吉田 国光
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.124, 2020 (Released:2020-03-30)

1.研究課題 農村地域における代表的な経済活動の一つである農業生産をめぐって,当事者である農家間での共同作業や集団的に土地の管理が行われてきた。草刈り作業などの作業内容によっては,当該地域に居住する非農家もそれらの共同作業に関わり,地域の社会的機能が維持されてきた。他方,農村地域において,農業生産活動に経済的役割は相対的に低下してきており,農家であっても農地や用水路など農業生産に関わるインフラ等(以下,農業インフラ)を維持・管理する意欲は減退し,それらの作業を「誰がどうやって担うのか」といった問題が表面化し,一部の作業は外部化されるなかで履行されている。かつては,個別世帯や集落などの社会集団を単位として自己完結的に農業インフラが維持されてきたが,それらの担い手が集落外へも広がりつつある。そこで本発表では,近年の農業・農村地理学の成果を概観することから,農業インフラを維持・管理する担い手が再編される仕組みを地理学的に読み解く方法について検討する。2.最近の農業インフラの維持に向けた担い手の広域化 近年の農業・農村地理学においては,耕作放棄地の増加が社会問題としても取り上げられるなかで,農地管理や農作業の共同化や外部受委託を取り上げた事例研究がみられるようになった。これらの研究を通じて,明治行政村や旧町村などを単位とした地域営農組織による農地利用の維持,また他出子弟による農作業など,農地管理や農作業の共同化や外部受委託の担い手が集落外へと広がる様相が描かれてきた。これらの研究のなかで,担い手の広がりじゃ様々な地縁や血縁,その他の縁を契機として構築された事例が示されてきた。さらに,特定の農業生産法人による広域的な農作業受委託(農地貸借含む)によって,担い手の広がりが地縁や血縁を必須とせずに構築される事例が示されてきた。3.広域化する担い手を読み解く視点 農業インフラ維持の担い手が集落外にも及ぶようになりつつあるなか,担い手の広域化を可能とする地域条件の検討について,コモンズ研究の領域で社会実践も含みながら学際的に取り組まれてきた。これらの領域では,社会ネットワークや社会関係資本などをキーにしながら「どのような地域社会のあり方が,集団的な保全活動を可能にするのか」といった命題が取り組まれている。そして英語圏の地理学者らが,コモンズ研究の専門誌で社会ネットワークや社会関係資本をキーにコモンズ研究との接合を図る議論を展開している。 社会ネットワークに注目することで,従来の村落地理学では分析対象として含めにくかった,集落内外に広がる多様な主体を同列に分析の俎上へのせることが可能となった。とくにコモンズ研究の領域では,社会ネットワーク分析や社会関係資本を枠組みとして,個人や世帯を単位とした社会ネットワークの広がりや,結びつきの強弱,媒介性を可視的に示す点に強みがある。しかし,社会ネットワークの広がりを,地理的スケールの重なりのなかで捉える視点について課題がみられる。 他方,地理学においては集落など社会集団が他の集落や地方自治体,その他の機関と構築される社会ネットワークについて,集団以上の地理的スケールの重なりのなかで説明する点に強みがある。しかし,個人の社会ネットワークが集団の集合的行為として平準化される点に課題がみられ,アンケート調査で得られた地域組織の有無や会合の回数などのスコア化に頼らない分析も必要といえる。4.社会ネットワークに注目した地理学的アプローチ 農業インフラの維持の担い手を分析対象とした研究で,日本の農業・農村地理学の強みを生かした地理学的アプローチとして,社会ネットワークを定性的に分析する方法が有用と考えられる。この方法では,一つないし複数の集落というミクロな対象地域を単位とし,農業インフラの維持をめぐる個人や世帯,その他集団の行動がより大きな組織等への集団の集合的行為へ統合されていく過程を検討する際に有用と考えられる。この方法は,各地理的スケールがどのような結びつきに依拠して集団を組織しているのかといった集団の社会的特性や,その影響をおよぼす範囲の実態把握,集団を構成する個人間を結びつける社会関係に関するデータを必要とし,詳細な現地調査を必須とする。詳細な現地調査は,日本の農業・農村地理学において重視されてきた強みである。分野横断的に取り組まれる地域運営組織を分析対象に取り上げる際に,地理学の強みを活かした方法としても端的に示しやすいと考えられる。また,このアプローチはNPO法人などによるローカルガバナンスの研究や,リスケーリングの議論とも方法論的の接点を見出せ,地理学界内における研究対象を横断したような議論の共有につながるのではないかと考えられる。
著者
細井 將右
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2018年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.000091, 2018 (Released:2018-06-27)

日本政府は、明治初期、陸軍近代化のため、フランスから陸軍教師団を招聘し、1872年から1880年滞在した。その中に工兵士官が含まれ、工兵教育の一環として地図測量教育が行われ、明治8年最初の『工兵操典』測地之部が1855年のフランスの工兵連隊学校教科書を翻訳して発行された。明治10年代半ば、フランス式の迅速測図が関東地方で作成される中で、全国的な地形図作成には、三角測量が不可欠ということで、ドイツ、プロイセン陸地測量部の方式を採用した。しかし、工兵の測量は引き続きフランス式で、明治22年の『工兵操典第二版』測地之部は1883年のフランス工兵連隊学校教科書の翻訳であるが、明治26年の『工兵操典』測量之部はそれまでに導入したフランス地図測量技術を咀嚼して作成したものとなっている。
著者
太田 慧 菊地 俊夫
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2017年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.100153, 2017 (Released:2017-10-26)

1.研究背景と目的 多摩地域に位置する東京都小平市は市域が東西に広がっており,市内の東西で土地利用や産業構造に異なる特徴がみられる.本研究は2016年度に実施した小平市産業振興計画に基づく基礎調査のアンケート結果に基づいて,東京都小平市における消費行動の傾向を品目別に検討し,それらの地域的な特徴について明らかにした.2.東京都小平市における購買行動の地域特性 図1および図2は,小平市の東部,中部,西部の地域別に生鮮食品および娯楽サービスの主要な購入・利用先の回答割合を線の太さで表現したものである.図1のように,小平市の東部地域における生鮮食品購入先の回答は,「花小金井駅周辺地区」で購買する割合が最も高い.一方,中部地域の回答では「一橋学園駅周辺地区」,西部地域は「小川駅周辺地区」などのそれぞれの地域から近い場所で購入する割合が高いほか,一部では「新宿駅周辺地区」や「吉祥寺駅周辺地区」などの都心方面の回答もみられた.娯楽サービスについては,小平市の東部地域は「新宿駅周辺地区」,中部地域と西部地域は「立川駅周辺地区」を利用する割合が最も高くなる一方で,相対的に小平市内における娯楽サービスの回答割合は低い傾向となっていた(図2). さらに,アンケート調査回答の購入・利用割合について,生鮮食品,紳士服・婦人服,娯楽サービス,教育サービス,外食サービス,医療・介護サービスの6項目について検討した.その結果,生鮮食品,教育サービス,医療・介護サービスなどの市民が日常的に利用するものに関しては小平市内やその近隣で購入・利用されていることが示された.一方,紳士服・婦人服,娯楽サービス,外食サービスについては,「新宿駅周辺」や「吉祥寺駅周辺」などの都心方面に加えて,「国分寺駅周辺」や「立川駅周辺」などの中央線沿線の商業地域がよく利用されていた.全体的にみれば,小平市東部地域の住民は「新宿駅周辺」や「吉祥寺駅周辺」などの都心方面において商品・サービスを購入・利用する傾向があるのに対して,西部地域の住民は「立川駅周辺」を回答する傾向があった.また,中部地域の住民は「国分寺駅周辺」の回答がやや多いが,おおむね東部地域と西部地域の購入・利用傾向の中間的なものとなっていた.以上のような小平市内で購入・利用先に差異がみられる傾向は,娯楽サービスでより顕著にみられた.つまり,服の購入,娯楽,外食などの週末の利用が想定される項目に関しては,小平市内よりも新宿や吉祥寺,立川などの中央線沿線の商業地域がよく利用されているといえる.
著者
畔蒜 和希
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.267-284, 2020 (Released:2020-10-09)
参考文献数
18
被引用文献数
4

オンラインのプラットフォームを通じて単発の仕事を請け負う「ギグエコノミー」が注目されている.本稿ではその一例であるマッチング型ベビーシッターサービスに着目し,ギグエコノミーの実態における一端を明らかにした.マッチング型ベビーシッターサービスでは利用者が希望する日時を指定した上でシッターを選択し,インターネット上で直接契約を交わす.サービス利用者の多くは共働き世帯であり,保育所への送迎や子どもの病気など短時間や突発的なニーズによる利用が多く,施設型の保育では供給できないサービスの領域を埋め合わせていた.シッターは保育士資格や主婦経験を持つ者の参入が多く,資格や育児経験は利用者からの信用を担保する機能を果たしていた.また生活時間のすき間を活用して保育に従事する柔軟な働き方が実現する反面,トラブルの対応やギグワーカーへの補償など,プラットフォーマーの役割や責任をめぐる課題も明らかになった.