著者
吉尾 雅春 西村 由香 村上 弦 乗安 整而
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.A0922, 2004

【目的】 MRI等を用いて股関節屈曲角度の計測結果がいくつか報告されているが,いずれも骨盤の固定に問題を残している。そこで新鮮凍結遺体を用いて,骨盤を機械的に固定した状態で股関節の屈曲角度を求め,制限要因などについて検討したので報告する。<BR>【方法】 札幌医科大学および韓国カトリック大学に献体された平均年齢74.1歳(45~89歳)の新鮮凍結遺体男性11体女性5体21股関節を解凍して用いた。変形性股関節症や骨折の既往を視認できたものは対象から外した。遺体から骨盤と大腿を切離し,股関節関節包以外の軟部組織をすべて除去した。上前腸骨棘と恥骨結節とを結ぶ線が固定台と水平になるように台上に骨盤を載せ,クランプを用いて固定した。まず股関節内旋外旋・内転外転中間位(中間位)で検者Aが大腿骨を持って制限があるまで股関節を屈曲させ,検者Bがそのときの最大角度を測定した。さらにそこから股関節を最大外転したとき(外転位)の最大屈曲角度を求めた。屈曲角度は骨盤長軸を基本軸に,大転子と大腿骨外側上顆とを結ぶ線を移動軸にして,Smith & Nephew Rolyan社製ゴニオメーターを用いて1度単位で計測した。最大外転角度は矢状面に対する大腿骨のなす角度とした。角度計測後,股関節関節包を前方から切開して股関節を解放し,屈曲時に何が制限要素になっているか肉眼的に観察した。その後,股関節を離断し,骨盤と大腿骨の形態計測を行い,股関節屈曲角度との関係を調べた。統計学的有意水準は5%とした。<BR>【結果】 股関節中間位における最大屈曲角度は93.0±3.6度であった。外転位の最大屈曲角度は115.4±9.2度で,最大外転角度は23.6±4.7度であった。年齢と中間位での最大屈曲角度との関係はなかった。中間位と外転位での最大屈曲角度は正の相関(r=0.668)を示した。関節包前面を切開して中間位で最大屈曲したとき,大腿骨の転子間線から約1cm骨頭側の頸前面が関節唇に衝突し,それ以上の屈曲はできなかった。前捻角は15.4±5.6度で中間位での最大屈曲角度と正の相関(r=0.521)がみられた。頸体角は124.1±5.0度で,最大屈曲角度との相関はみられなかった。大腿骨頭の直径は476.3±27.7mmで最大屈曲角度との相関はなかった。大腿骨転子間線中央から骨頭先端までの距離は679.2±49.9mmで,最大屈曲角度と負の相関(r=-0.461)がみられた。<BR>【考察】 骨盤を機械的に固定したときの股関節中間位における屈曲角度は平均93度で,外転位では115度であった。その制限因子は骨性のものであり,前捻角と大腿骨転子間線中央から骨頭先端までの長さが影響を与えていた。生体では大殿筋等の拮抗筋や股関節前面の軟部組織が制限要因となり,屈曲角度はさらに小さくなる可能性がある。臨床的に参考値としている120~130度のうち,30~40度は骨盤の傾きによることが明らかとなった。
著者
荒山 宏樹 岡田 隆 矢崎 高明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0830, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】骨格筋には筋膜などの結合組織を介して筋同士が連結し,かつ筋線維走向の方向が一致しているものがある.こうした骨格筋の解剖学的特徴を利用し,筋膜などを介した骨格筋同士の相互作用を期待したエクササイズが注目を集めている.しかし実際の筋活動へ与える影響についての報告はない.そこで本研究では,体幹筋力強化トレーニングとして用いられるTrunk Curlを利用して,前鋸筋の活動が外腹斜筋の活動に及ぼす影響を検討することを目的とした.【方法】対象は健常成人男性5名(年齢26.6±3.9歳,身長173.6±4.4cm,体重67.6±6.8kg)とした.測定動作は,背臥位,股膝90度屈曲位で台上に両下腿を置き,1)肘伸展0度,肩90度屈曲位で,最大努力で肩甲帯前方突出を行いながら上体を起こす(Trunk Curl with Protraction,以下TCP),2)肘伸展0度,肩90度屈曲位で,肩甲帯前方突出をせずに上体を起こす(sham),3)胸部前面で腕を組み上体を起こす(Normal Trunk Curl,以下NTC),の3種類とした.この3種類の動作で,最大努力で体幹を最大限屈曲させ,5秒間保持させた.これを各5回行った.測定機器には表面筋電図(日本光電 マルチテレメーターシステム WEB-5500)を用い、電極間距離1.5cmとした.被験筋は前鋸筋,外腹斜筋,腹直筋とした.得られた筋電図から積分値を算出して最大値を記録し,各動作の平均値を算出した.徒手筋力検査にて各筋の最大随意収縮(Maximum Voluntary Contraction,以下MVC)の積分値を算出し,これらを各平均値で除した相対値(%MVC)によって評価した.統計的検定には反復測定分散分析を用い,多重比較検定としてScheffe testを用いた.有意水準は5%未満とした.【結果】前鋸筋の%MVCはTCP:60.9±26.7,sham:34.9±20.2,NTC:37.2±21.1であった.外腹斜筋はTCP:84.4±6.2,sham:74.8±5.4,NTC:74.4±8.0であった.前鋸筋と外腹斜筋の%MVCはsham,NTCと比較してTCPで有意に高値を示した(P<.05).腹直筋では有意な差は得られなかった(TCP:66.4±15.3,sham:60.1±9.7,NTC:59.4±5.8).【考察】本研究では,Trunk Curl時に前鋸筋を強く収縮させることで,腹直筋活動の上昇を伴わずに外腹斜筋活動が上昇することを確認した.このことから,前鋸筋の活動は外腹斜筋の活動を高める因子であることが示唆された.さらに,付着部を共有し,かつ筋線維走向の方向が一致する筋の相互作用を期待したエクササイズの有効性も示唆された.前鋸筋と外腹斜筋は,胸郭に対して力学的に拮抗する位置関係にあることから,前鋸筋の収縮による胸郭の動きが,胸郭のstabilityや外腹斜筋の筋節長に影響し,このような現象が観察されたものと推察した.【まとめ】前鋸筋の活動は外腹斜筋の活動を高めることが示唆された.付着部を共有し,かつ筋線維走向の方向が一致する筋の相互作用を期待したエクササイズの有効性が示唆された.
著者
伊藤 明良 青山 朋樹 長井 桃子 太治野 純一 山口 将希 飯島 弘貴 張 項凱 秋山 治彦 黒木 裕士
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0577, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】外傷などを起因とする関節軟骨欠損は,疼痛や運動機能の低下を引き起こすことで生活の質を下げる要因となるが,現在欠損された関節軟骨を完全に再生することは困難である。これまで関節軟骨の再生を実現するために,再生医療分野において学際的に研究がなされてきた。しかしながら,細胞移植治療術前・後に関わる研究,特にリハビリテーション介入の有効性・安全性に関する研究はほとんどなされていないのが現状である。すでに関節軟骨欠損に対する再生治療は,平成25年4月1日から本邦で初の自家培養軟骨製品が保険適用となり臨床で実践されている。そのため,早急に関節軟骨再生治療におけるリハビリテーションを確立させることが求められ,その基礎となるエビデンスが必要である。そこで本研究では,関節軟骨再生治療における温熱療法の基礎となるエビデンスを得るため,軟骨細胞による関節軟骨基質(extracellular matrix:以下,ECM)生成のための至適な温度環境を明らかにすることを目的として実験を行った。【方法】大腿骨頭置換術時に摘出されたヒト大腿骨頭関節軟骨(62歳,女性)より初代培養軟骨細胞を単離し,ペレット培養法を用いた三次元培養下において軟骨ECMの生成能を評価した。培養温度条件は,通常関節内温度付近の32℃,深部体温付近の37℃,哺乳動物細胞生存の上限付近とされる41℃の3条件とした。軟骨ECM生成能を評価するため,生成されたペレットの湿重量を培養後3,7,14日目に測定し,軟骨基質関連遺伝子(II型コラーゲン,I型コラーゲン,アグリカン,COMP(cartilage oligomeric matrix protein))の発現を培養後3,7日目にリアルタイムPCRを用いて解析した。また,コラーゲンおよび硫酸化グリコサミノグリカン(sulfated glycosaminoglycan:以下,GAG)産生を培養後7,14日目に組織学的に,そして培養後14日目に1, 9-dimethylmethylen blue法にて生化学的に解析した。さらに,走査型電子顕微鏡(以下,SEM)を用いて生成されたECMの超微細構造を培養後14日目に観察した。最後に,生成されたECMの機能特性を評価するため,培養後3,7,14日目に圧縮試験を行い,その最大応力を測定した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,所属施設の倫理委員会の承認を得て実施した。対象者にはヘルシンキ宣言に基づき,本研究の主旨を書面及び口頭で説明し,同意を書面で得た。【結果】生成されたペレットの湿重量は,培養後3・7・14日目のいずれの時点においても,温度が低いほど有意に増加した。軟骨基質関連遺伝子のmRNA発現を解析した結果,41℃では解析した全ての遺伝子発現が有意に抑制された。II型コラーゲンの発現は,32℃と37℃の間に有意な差は認められず,I型コラーゲンの発現は,培養後7日目において32℃が37℃と比較して有意に亢進された。アグリカンの発現は,培養後3日目においては32℃が37℃と比較して有意に亢進されていたが,培養後7日目においてはその有意差は認められなくなった。COMPの発現は,37℃が32℃と比較して発現が有意に亢進された。組織学的評価においても,コラーゲンおよびGAGの産生が41℃では顕著に低下した。32℃と37℃の間に顕著な違いは観察されなかった。生化学的解析においても,GAG産生量は41℃で有意に少なかった。SEM観察により,32℃と37℃では生成されたペレットの周縁部に層状の密なコラーゲン線維の形成が観察されたが,41℃においては観察されなかった。最後に生成されたペレットに対して圧縮試験を行った結果,培養後3日目においては37℃で最も最大応力が高かったが,培養後7・14日目においては32℃が最も高かった。【考察】ヒト軟骨細胞において,ペレット培養時のECM生成能は41℃において著しく低下した。これは41℃ではコラーゲンの高次構造の形成が阻害されるという報告(Peltonen et al. 1980)を支持している。間欠的な40℃程度の温熱刺激はコラーゲン産生を促進する可能性があるが(Tonomura et al. 2008),本研究のような長時間の曝露においては逆に抑制される危険性が示唆された。これは,炎症などによる関節内温度上昇の長期化が関節軟骨再生を阻害することを意味している。興味深いことに,本研究は32℃という比較的低温環境においても,37℃と同等のECM生成能を有することを示唆した。以上のことから,関節軟骨基質再生のための至適温度は通常関節内温度である32℃から深部体温である37℃付近ににあることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究は,関節軟骨再生治療における温熱療法の基礎となるエビデンスを示した。さらに,再生治療における術後リハビリテーション(再生リハビリテーション)の重要性を喚起する研究としても大変意義があり,さらなる研究を求めるものである。
著者
福地 康玄 外間 伸吾 福嶺 紀明 上原 大志
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.H2-113_1-H2-113_1, 2019

<p>【はじめに】</p><p> 大胸筋完全断裂は比較的稀な疾患とされているが、近年報告例が増えており、受傷後早期の外科的治療を施せば良好な成績が得られるとされている。しかし、術後に対する理学療法の報告は少なく、未だ確立されていないのが現状である。今回、大胸筋断裂後に縫合術を施行した症例の理学療法を経験したため、考察と課題を踏まえ報告する。</p><p>【方法】</p><p> 症例は46歳、男性、左利き。バスケットボール審判、高校バスケットボール部コーチである。平成29年9月12日、ベンチプレス(85kg)をしている際、水平外転を強制され左肩を受傷。当院受診し、MRIにて大胸筋皮下断裂と診断。近医紹介となり、平成29年10月16日に大胸筋縫合術施行。手術はフットプリント(LHB groove外側)に骨溝を作製し、3本アンカー挿入。Mason-Allen法にて6針縫合。その後退院となり、平成29年10月27日より外来リハビリ開始。術後プランは、2週まではスリング、バストバンドにて固定。3から5週間はスリングのみ、肩甲上腕関節の他動運動開始(外旋は下垂位で中間位まで、挙上は内旋位で90°まで)、5週から制限なく可動域運動可、8週から抵抗運動開始、3ヶ月から軽負荷運動許可、5ヶ月から制限なしであった。評価はリハビリ終了の目安である5ヶ月目とした。筋力改善の評価として乳頭部胸囲の周計(5週と5ヶ月を比較)と徒手筋力計モービィMT-100(酒井医療社製)を使用し測定。単位はkgfと設定した。計測肢位は屈曲90°伸展0°内転30°外転30°内旋0°外旋0°水平外転(肩甲骨面上肘屈曲位)と設定し、2度計測しその平均値を健側と患側にて比較した。</p><p>【結果】</p><p> 胸囲は5週の99cmから5ヶ月で102cmと3cmの拡大を認めた。肩関節可動域は 屈曲165°伸展30°外転170°内旋Th10第1肢位外旋60°第2肢位外旋80°とほとんど正常可動域まで改善が見られた。筋力(左/右)は屈曲にて21.75/19.7、伸展にて23.95/22.2、内転にて25.5/27.8、外転にて17.2/17.35、内旋にて11.25/15、外旋にて18.7/23.05、水平外転にて18.3/20.45であり健患比においても80%以上の改善が見られた。</p><p>【考察】</p><p> 奥脇<sup>1)</sup>は、完全断裂の場合スポーツ選手では積極的に手術を進めており、保存的に治療した場合、多くは筋力低下や疼痛が残存すると報告している。また内山ら<sup>2)</sup>は、手術時期について、早期(6週間以内)手術例は痛み、筋力回復、スポーツへの復帰率、満足度とも陳旧例(6週間以上)や保存例に比べ有効であると報告している。本症例においても、早期に手術に及んだ結果、可動域や筋力において良好な成績を示し過去を裏付ける結果となった。今回、理学療法を行うにあたって難渋した点が、固定期間中の安静時痛や動作時痛といった疼痛である。過去の症例報告より固定期間は3週又は、4週の固定期間という報告が多く、また固定肢位は屈曲、内転、内旋位にてスリング、バストバンド固定が主流とされている。今回は5週間の固定期間であったが、上記でも述べた通り、予後は良好であり固定期間においては問題ないと思われる。しかし、固定期間中に大胸筋の過度な緊張による安静時痛や腋窩部にて神経痛が出現し、可動域練習等を行うにあたって難渋を示す場面が多々見られた。本多ら<sup>3)</sup>は、外転装具では肩関節が水平内転位となるため大胸筋の緊張が緩むとして外転装具を使用している。スリング、バストバンドでは固定肢位において常に腋窩や術部圧迫状態であることが疼痛を助長していると考え、外転装具を固定手段の一つとして考慮することも必要ではないかと考える。</p><p> 文献1)奥脇透: 陳旧性大胸筋皮下断裂の一例.肩関節.1996:20:379-382.</p><p> 2)内山善康,繁田明義,他: 大胸筋腱皮下断裂に対する術後成績—Endobuttonを使用した骨内埋め込み術—.肩関節.2009:33:773–776.</p><p> 3)本多孝行,鈴木晶,他: Knotless Anchorを用いて修復した陳旧性大胸筋断裂の1例.整スポ会誌.2018:38:158-161.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究は、当院倫理委員会にて承認を 得た。患者には ヘルシンキ宣言に基づいて文書と口頭にて意義、方法、不利益等について説明し同意を得て実施した。</p>
著者
森 拓也 澳 昂佑 川原 勲 木本 真史
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1336, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】パーキンソン病患者の歩行に関して,すくみ足の出現は転倒リスクとなり,特に歩行開始時に問題となりやすい。歩行の開始の筋活動としては下腿三頭筋の筋放電の低下による下腿前傾より歩行は開始される。しかしパーキンソン病患者はヒラメ筋のH反射が亢進し,筋放電が増加するとの報告があり,これらがすくみ足や転倒につながると考えられる。Duvalらによるとパーキンソン病症例に対して,ストレッチによる伸張刺激が同名筋の筋放電量を減少させるとの報告があり,また足関節傾斜板を利用した下腿三頭筋の伸張の介入にて立位回転速度が改善したとの報告も見受けられる。よって,これらの知見の示す事は,パーキンソン病患者における下腿三頭筋の伸張運動効果が歩行能力改善において有効な反応を引き出す治療手段であると考えられる。しかし,パーキンソン病における足関節の傾斜刺激による重心動揺の変化や歩行の筋活動を示した報告は数少なく明らかになっていない点が多い。よって,本研究の目的は,足関節傾斜板を用いた足関節傾斜刺激が立位時重心動揺,歩行時筋活動に与える影響を明確にする事である。【方法】対象はパーキンソン病を7年羅病した症例である(性別:男性 年齢:85歳)。パーキンソン病期分類はHoehn-Yahrの病期分類StageIIIであった。(実験1)介入課題については,通常の理学療法に加え足関節矯正起立版10°の上に立ち,なるべく膝関節は完全伸展位にて身体を前方に倒す事を課題とした。介入時間としては1分間の介入を3回実施し足関節傾斜刺激が重心動揺に与える影響を介入前後で検証した。立位時重心動揺変化は重心動揺計(アニマ社製フォースプレートMG-100)にて測定した。測定としては介入前後共に1分間の測定を計3回行い,足部重心の位置を前後中心と左右中心の距離より算出し,3回の平均距離を算出した。また同時に表面筋電図(Noraxon社製myosystem 1400 以下EMGとする)にて立位における左右前脛骨筋,腓腹筋外側の計4筋の筋活動も測定した。筋電電極(Ambu社製ブルーセンサー)は標的筋に対して筋線維の長軸方向へ平行となるようにし,電極間距離を20mmとし貼付した。貼付方法はHermie.Jらの方法に従って貼付した。介入前後の立位における各筋における平均振幅を算出し,足関節の戦略の変化を測定した。(実験2)実験1同様の介入課題を行い,介入前後でEMGでの歩行解析を行った。計測における標的筋,電極貼付方法に関しても実験1同様である。歩行周期の解析については立脚期の指標としてフットセンサースイッチを使用し,またEMGとビデオカメラと同期させ目視による確認も行った。歩行解析として5歩行周期における立脚期の前脛骨筋,腓腹筋外側の平均振幅を算出し,介入前後での比較を行った。歩行動作能力の指標として,10メートル歩行テストの計測も行い,歩行速度と歩数の介入前後の変化を比較した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づいて,対象者の個人情報の保護に留意し,阪奈中央病院倫理審査委員会の承認を得て実施し,対象者に説明と同意を得た。【結果】(実験1)立位時重心動揺結果は【介入前】左右中心0±0.3cm,前後中心-1.9±1.2cm【介入後】左右中心0±0.04cm,前後中心0.7±0.3cmであった。立位時平均振幅結果は【介入前】左前脛骨筋8.0±3.7μV/左腓腹筋外側8.6±4.4μV/右前脛骨筋18.9±10μV/右腓腹筋外側24.4±15.2μV【介入後】左前脛骨筋24.9±11.4μV/左腓腹筋外側11.4±3.8μV/右前脛骨筋32.4±10.9μV/右腓腹筋外側26.7±7.2μVであった。(実験2)5歩行周期の各筋の立脚期平均振幅結果は【介入前】左前脛骨筋47μV/左腓腹筋外側48.9μV/右前脛骨筋86.2μV/右腓腹筋外側59.4μV【介入後】左前脛骨筋63.6μV/左腓腹筋外側42.6μV/右前脛骨筋118.4μV/右腓腹筋外側53.6μVであった。10M歩行テストの結果は【介入前】19.7±1.6秒(30.6±1.6歩)【介入後】16.6±1.5秒(26±0.6歩)であり,介入直後にてすくみ足の減少がみられた。【考察】今回の足底板傾斜板による下腿三頭筋の伸張運動にて,立位時重心動揺が前方に移動し,歩行能力が改善する傾向が見られた。これは足関節が傾斜する事で下腿三頭筋においてのストレッチング効果が生じ,H反射の減少等の影響によって,下腿三頭筋の筋放電量が減少した結果と考えられる。効果は即時的な変化であるが,歩行練習開始時の有用な一助となる可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】パーキンソン病患者に対して,足関節傾斜板という簡便で短時間な介入方法は,歩行練習に効率よく介入できる可能性や自宅内での自主練習等に利用できる可能性が示唆された。
著者
加藤 優志 田原 聖也 梅木 一平 板谷 飛呂 秋山 純一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1774, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】現在,日本では超高齢社会を迎えており廃用性筋萎縮による活動性低下が介助量増加の一因となっている。今後さらなる高齢者増加が推測されており,廃用性筋萎縮予防が介助量軽減につながると考える。これまで廃用性筋萎縮の予防に関して様々な入浴療法に関する工夫がされており予防効果が報告されている。入浴療法の中でも温冷交代浴には,反復的な血管収縮,拡張による血流の増加作用などが知られている。本研究ではその点に着目し,温冷交代浴による廃用性筋萎縮の予防効果があると考え実験を行った。【方法】本実験は,SD系雌性ラット12匹(平均体重:355.5±33.5g)を使用し,無作為に6匹ずつの2群に分けた。両群は,筋萎縮モデルの作製のため,非侵襲的に継続的尾部懸垂により後肢の免荷を実施した。尾部懸垂を開始した翌日より実験処置を行った。内訳として①群:温冷交代浴群,②群:温水浴群とした。温冷交代浴は,温水42±0.5℃で4分,冷水10±0.5℃で1分を交互に浸し,温浴で始め温浴で終了した。温水浴は,42±0.5℃で20分行った。温度は常に一定にコントロールし,温水は温熱パイプヒーター(DX-003ジェックス(株))を用い,冷水は保冷剤を用いて温度を一定に保った。水浴処置後に再懸垂を目的にペントバルビタールNa麻酔を投与した。すべてのラットにおいて餌と水は自由摂取であった。実験処置の頻度は,1日1回,週6日行った。実験処置を開始してから2週間後,4週間後に各群3匹ずつをペントバルビタールNa麻酔薬の過剰投与にて安楽死処置を行い屠殺し,ヒラメ筋,腓腹筋,長趾伸筋を摘出した。摘出した筋は,精密秤を用いて筋湿重量を測定し,体重に対する筋湿重量比【筋湿重量(g)/体重(g)】を求めた。ヒラメ筋,長趾伸筋は,液体窒素で冷却したイソペンタン液内で急速冷凍した。そして凍結した筋試料はクリオスタット(CM1100 LEICA)を用い筋線維の直角方向に対し,厚さ5μmの薄切切片としてヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)を行い,筋線維面積の観察をした。腓腹筋は,中性ホルマリン溶液に浸漬し組織固定をした。固定後約3時間水で持続洗浄し,自動包埋装置を用い上昇エタノール系列の60%,70%,80%,90%,100%,100%エタノールで,各3時間脱水を行った。続いてキシレン:エタノール1:1で1時間,キシレンで2時間,2時間,2時間,透徹を行った。その後,パラフィンブロックに対して筋横断面が中心になるように位置を設定し,60℃の溶解したパラフィンで浸透処理を行い,パラフィンブロックを作成した。その後,パラフィン標本を,スライド式ミクロトームにより厚さ5μmに薄切した。薄切切片は湯浴伸展させ,シランコートスライドグラスに積載し,パラフィン伸展器にて,十分に乾燥させ染色標本とした。染色標本は,アザン染色を行い,膠原繊維面積の観察をした。定量解析は,デジタルカメラ装着生物顕微鏡(BX50 OLIMPUS)を用いて,HE染色像,アザン染色像をパーソナルコンピューターに取り込み,画像解析ソフト(ImageJ Wayne Rasband)で筋線維面積を1筋当たり30個以上計測し,膠原繊維は1筋当たり3か所以上計測した。統計処理は,2群間を比較するためにt検定を用いて行った。【結果】筋線維面積は,実験処置開始2週間後のヒラメ筋では交代浴群が温浴群に対して筋線維の萎縮を抑制しており有意差が見られた。筋湿重量比は,実験処置開始2,4週間後の長趾伸筋で交代浴群が温浴群に対し,筋萎縮を抑制しており有意差が見られた。有意差が見られなかった測定結果の多くにおいて,交代浴が筋萎縮を抑制している傾向が見られた。【考察】温冷交代浴には,温水に浸すと血管拡張作用,冷水に浸すと血管収縮作用などがあり,これらが交互に行われることで皮膚,筋内の動静脈吻合部が刺激されたことで血液循環が促進され,筋に酸素,栄養が運搬されたことにより抑制されたと考える。血液循環に加え,細胞に温熱が与えられると細胞内に誘導される熱ショックタンパク質の作用によりタンパク質の合成が亢進され筋委縮が抑制されたと考える。これらの要因から温冷交代浴療法には,筋萎縮抑制効果の可能性があることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究では,廃用性筋萎縮の予防効果として温冷交代浴と温浴の効果を対比させ検討した。今回の結果より温冷浴交代浴が筋萎縮を抑制する傾向が示唆された。温冷交代浴により筋委縮が予防できることで活動性低下を予防の一助になると考える。
著者
松尾 知洋 川上 照彦 岡崎 美紀 小泉 周也 山西 絵理 室伏 祐介
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0869, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】我々は第41回の本学会において,交代浴による疲労回復処置が,約1時間の経過観察で,運動負荷後の血中乳酸値を,安静群や温浴群に比べ有意に低下させるものの,同時に行われた筋疲労試験では,筋出力の改善がなく,逆に低下傾向が見られたことを報告した。そこで,今回,我々は,温め過ぎたことが筋出力の低下に繋がったと考え,冷浴で終わる交代浴や冷浴単独での疲労回復試験を施行し,血中乳酸値と筋出力の視点から疲労回復について検討を行ったので報告する。【方法】健常男性20例(平均20歳)を被験者とし,運動負荷試験後,10分間の疲労回復処置に続き,5分間の軽運動を行った後,疲労試験を施行した。運動負荷はサイベックスにて屈伸回数を50回とし,比較的早い角速度である180deg/sec,膝関節屈伸運動の等速度運動に設定した。また,試合におけるハーフタイムを想定して,運動負荷の間隔は15分とし,初回運動負荷後安静にした群と,交代浴を施行した群,冷浴を施行した群の3群を設定し血中乳酸と筋出力の変化を調べた。血中乳酸はラクテート・プロを用い測定した。また,交代浴と冷浴は,温浴を38~42度,冷浴を10~15度に設定し,両下腿部に部分浴を行った。【結果】血中乳酸値の経時的変化では,交代浴群,冷浴群は安静群と比較すると低値を示したが,統計学的に有意差を認めなかった。また,筋疲労試験では,総仕事量に関して,左膝関節屈曲筋群において,交代浴,冷浴により筋力の低下が認められた。【考察】我々は,第41回の本学会において,交代浴による疲労回復処置では,約1時間の経過観察で,運動負荷後の血中乳酸値を,安静群や温浴群に比べ有意に低下させるものの,筋出力の改善がなく,逆に低下傾向が見られ,試合間等の短時間における疲労回復処置には不向きであると報告した。この原因として,過剰な温熱を考え,温・冷・温・冷の冷浴で終わる交代浴や,冷浴単独の疲労回復効果について検討した。血中乳酸値においては,交代浴群,冷浴群は安静群と比較すると低値を示したが,有意差は認めなかった。乳酸塩が完全に回復するには30~40分必要とされており,15分という短いインターバルでの疲労試験においては,有意差が認められなかったものと考えられる。一方,筋出力についても,筋疲労試験において低下を示し,冷浴の効果以上に温浴の影響が大きく表れたのではないかと考えられる。また,冷浴単独については,運動神経伝導の遅延や,参画するMotor unitsの減少により筋出力が低下したものと考えられる。【まとめ】以上我々の行った疲労回復処置は,短時間のインターバルにおける疲労回復処置としては不向きであると思われるが,疲労した握力の回復には冷浴の時間配分が多い交代浴が効果的であるという報告もあり,今後の検討課題と考えられた。
著者
永野 忍 諫武 稔 時吉 直祐 久保田 正一 磯邊 恵理子 中元 洋子 笹栗 淳子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>公益社団法人福岡県理学療法士会(以下,県士会とする)の会員数は5,399名(平成28年1月時点)であり,その内,女性理学療法士の占める割合は約4割である。女性理学療法士の復職に関わる課題は多岐に渡り,中でも結婚・出産・育児などのライフイベントにより離職した後の復職は大きな課題となっている。そこで今回女性理学療法士の就業環境に関する実態を把握するため県士会の会員を対象にアンケート調査を実施した。</p><p></p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>県士会会員5,399名を対象に就業に関するアンケート調査を実施した。調査期間は平成28年1月4日から1月31日の28日間とした。アンケートは県士会ホームページへの掲載と郵送による配布とし,回答はインターネットによる回答とFAXでの回答とした。アンケートの回答方法は選択肢の回答もしくは自由記載とした。調査内容は,離職経験の有無とその理由,復職に必要な要件,生理や産前産後・育児休暇の取得状況,妊娠中の就業継続の有無と継続に必要な要件,そして就業継続時の妊娠トラブル,更に就業を継続するための要件とした。</p><p></p><p></p><p></p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>回答者数は2,815名,回収率は52.1%であった。男性会員の約56%,女性会員の約46%から回答が得られた。男性・女性ともに回答者の約23%は離職経験があった。離職理由について,男性は「スキルアップ」が最も多く,女性では「業務内容や待遇への不満」が最も多かった。また,離職理由に「妊娠」「出産」「育児」「介護」と回答したのは女性に多い傾向がある。離職後,自宅会員の復職意欲についての回答は「今すぐ復職したい」「いずれは復職したい」が約90%を占めていた。生理休暇の利用状況は「利用できる・できていた」が約18%,産前産後・育児休暇の利用状況は「利用できる・できていた」は約68%から85%であった。そして,それらの休暇を取得するための要件として共通していたのは「職場の理解」と「スタッフ数等の職場環境の影響」であった。妊娠中に「就業を継続している・していた」と回答した者の妊娠のトラブルについては「トラブルの経験がある」が約64%であった。就業を継続するための要件として「職場の理解と協力」と回答したのは男性約58%,女性約80%であった。</p><p></p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>結果より,就業継続意思の高い女性理学療法士であっても女性特有の体調変化(生理等)やライフイベント(妊娠・出産等)によって就業の継続が難しくなっていることが考えられた。また,就業環境により離職や復職が困難になっているのではないかと考えられた。今回の結果より,女性理学療法士が就業を継続するために必要な要件として「職場の理解と協力」が重要であることが伺えた。今後は,就業継続意欲のある女性理学療法士がその業を続けることができる就業環境の整備について具体的な対策が必要と考える。</p>
著者
小山 貴之 中丸 宏二 相澤 純也 新田 收
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101210, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】アメリカンフットボールでは頭頸部外傷が高率に発生するが、その多くがタックルやブロックの際の衝突によるものであり、頸部周囲筋の筋力強化やタックル・ブロックの技術向上、防具の使用などが予防的に勧められている。頭頸部外傷のなかでも、脳震盪や重症頭部外傷を除くと、頸椎捻挫とバーナー症候群がその代表的な外傷として挙げられる。これらは発症しても練習や試合参加を中止する選手が少なく、頸部障害を有しながらも競技を続けている場合が多い。そのため、練習を中止しリハビリテーション期間をとることが少なく、メディカルスタッフによる医学的管理が不十分になりやすい。頸椎捻挫またはバーナー症候群によってどの程度の頸部障害を有し、競技に支障を来たしているかを知ることは、アメリカンフットボールにおいて外傷管理をするうえで極めて重要であるが、競技シーズン中の頸部障害の程度に関する報告は少ない。そこで本研究は、頸部既往によって主観的アウトカムにどのような影響を及ぼすかを明らかにすることを目的とした。【方法】対象は大学アメリカンフットボール選手109名とした。選手は秋季シーズン終了時点で自己記入式の質問紙票に回答した。質問紙票は、秋季シーズン前の合宿開始時点からシーズン終了までの間、1)ヒットなどで首に強い痛みが出たか、またはその後首の最終可動域で痛みが出たか、2)ヒットなどで肩から腕に電気が走るようなしびれや脱力感が生じたか、についての有無を回答し、1)を頸椎捻挫、2)をバーナー症候群の症状としてそれぞれ扱った。1)2)について経験ありと回答した者に対して、痛みの程度、競技能力への影響、フルコンタクト時の恐怖感について、それぞれ痛みが出現していた時期における程度を100mm visual analog scaleで回答し、1)2)を理由とした練習中止の有無を回答した。また頸部障害の程度を知るために、日本語版Neck Disability Index(NDI-J)を回答させ、50点満点に換算した。分析は、回答者を既往の有無から頸椎捻挫のみの発症(頸椎捻挫群)、バーナー症候群のみの発症(バーナー症候群)、頸椎捻挫・バーナー症候群の合併(合併群)の3群に分類し、痛み、競技能力への影響、恐怖感はBonferroni法による多重比較検定、NDI-JスコアはBonferroni法の不等式を用いたMan-Whitney検定により、各群間差の比較を行った。【倫理的配慮、説明と同意】研究調査目的と内容および個人情報保護に関する説明文を質問紙票とともに配布し、同意の得られた選手のみ回収した。質問紙票には匿名で記入させ、配布・回収は研究代表者以外の者が行った。【結果】自己記入式質問紙票は122名に配布し、109名から回収した(回収率89.3%)。109名中、頸椎捻挫群が8名、バーナー症候群が21名、合併群が17名おり、計46名(全体の42.2%)がいずれかの症状を経験していた。練習を中止した選手は、合併群の2名(4.3%)のみであった。各項目の記述統計値は、頸椎捻挫・バーナー症候群・合併群の順に、痛みの平均値(標準偏差)が56.0(28.5)mm・55.4(18.2)mm・65.8(19.8)mm、競技能力への影響が24.8(26.0)mm・35.9(22.0)mm・48.4(32.0)mm、恐怖感が38.0(34.6)mm・56.9(24.5)mm・60.7(32.8)mm、NDI-Jの中央値は3.3・1.1・5.6だった。各群間差は、痛み・競技能力への影響・恐怖感には有意差を認めず、NDI-Jは合併群がバーナー症候群よりも有意に高かった。【考察】質問紙票による頸部既往の調査の結果、約4割の選手がシーズン中に発症しており、うち練習を中止した選手は46名中2名とわずかであった。また痛みや恐怖感は中等度の訴えがあった。高い発症率であるのに加えて、ほとんどの選手が中等度の痛みや恐怖感を抱えながら競技をそのまま継続していることが分かった。NDI-Jは日常生活活動の10項目における症状の程度から頸部障害を把握するための評価であり、5点以上で軽度の頸部障害とされる。今回の結果では、3群間に痛みの程度で差は認めなかったが、NDI-Jスコアは合併群がバーナー症候群よりも有意に高かったことから、頸部既往に伴う症状の把握には痛みの評価だけでなくNDI-Jを用いることの有用性が示唆された。また、頸椎捻挫とバーナー症候群を合併することでNDI-Jの中央値が軽度障害のレベルとなることから、合併した選手に対してはさらに重点的なリハビリテーションが必要であることが考えられた。【理学療法学研究としての意義】頸椎捻挫およびバーナー症候群は発症率が高いうえに競技を中止することが極めて少なく、合併すると日常生活活動上の頸部障害も引き起こしていた。これらの結果は、一般的に練習や試合を1日以上中止した場合に記録される傷害統計には反映されないため、継続的に調査することで外傷の管理およびその予防の観点から重要な示唆を得ることができる。
著者
冨田 健一 内藤 仁美 永山 智貴 木村 篤史 松本 和久 勝見 泰和
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.521, 2003 (Released:2004-03-19)

【はじめに】不慣れな運動後1から3日後に出現する筋肉の疼痛を遅発性筋痛(Delayed onset muscle soreness;以下DOMS)という。これまでDOMSに対しストレッチや物理療法など、様々な治療法の効果がVisual Analogue Scale(以下VAS)等の疼痛評価スケール、圧痛、血液データを用いて検討されているが、著明な治療効果は認められていない。とりわけストレッチング(以下ストレッチ)の効果については否定的な意見が多い。今回我々はDOMSモデルを作成しストレッチの効果を関節可動域(以下角度)及びVASを指標として検討したので報告する。【対象および方法】健康成人10名を対象に、5ヶ月以上あけて対照群、ストレッチ群(以下施行群)の両方を行う事とし、無作為に最初にどちらを行うかを分けた。DOMSモデルは等速性運動機器を用い、前腕伸筋群に対しピークトルクの80%の強度で遠心性収縮の運動負荷を、30回×3セット加え作成した。ストレッチ方法は自動介助運動により前腕伸筋群に適度な伸張感を感じるまで手関節掌屈位をとる1分間の静的ストレッチとし、運動直前直後に1回、各疼痛測定までに合計10回のストレッチを施行させた。角度及びVASの評価は運動負荷前、ストレッチ施行後(対照群は運動負荷直後)、12時間、1、2、3、4、7日後の計8回行い、角度評価は運動負荷前には手関節自動最大掌屈(以下最大掌屈)角度と自動最大背屈(以下最大背屈)角度を、その後の評価では手関節自動掌屈及び自動背屈運動を行い、疼痛が出現するまでの角度を計測した(各被験者の運動負荷前自動角度から疼痛が出現するまでの角度を引いた角度を疼痛により制限される角度(以下背屈疼痛角度、掌屈疼痛角度)とした)。VASは各評価時の最大掌屈時、最大背屈時に発生する疼痛を計測した。統計処理は、WILCOXONの符号付順位検定を用い、危険率5%未満にて両群の角度の推移を比較検討した。【結果】掌屈疼痛角度では施行群で運動負荷前角度との差が1日後(施行群:-9.5±13.63°、対照群;-19.5±14.03°)3日後(施行群;-5.5±12.12°、対照群;-20±8.82°)、4日後(施行群;-4.5±10.91°、対照群;-15.5±12.34°)と有意な改善を認め、背屈疼痛角度でも施行群で1日後(施行群;-7±14.38°、対照群;-19±10.22°)4日後(施行群;1.5±11.32°、対照群;-10.5±10.92°)に有意な減少を認めた。VASでは最大掌屈時、最大背屈時共に施行群と対照群に有意差は認めなかった。【考察】本研究においてVASでは両群に有意差は認められず、以前のDOMSに対するストレッチの効果ついて発表されてきた結果と一致し、否定的な結果となった。しかし疼痛により制限される角度は、施行群において手関節自動掌屈及び背屈運動を行う際に、優位な早期の減少を認めた。よってDOMSを発症している筋へのストレッチは疼痛の程度を減少させる事は出来ないが、その筋が関与する関節運動を行う際に疼痛の発生している範囲を減少させる効果があるものと考えられた。
著者
石田 静香 高木 領 藤田 直人 荒川 高光 三木 明徳
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.AbPI2070, 2011

【目的】外力によって損傷を受けた骨格筋は、Caイオンの流入により生じる二次的な損傷部と非壊死領域の間に境界膜を形成する(松本, 2007)。筋は損傷を受けると変性、壊死後、再生する、という過程をたどる(埜中, 2001)ことから、再生の前段階である変性、壊死という二次損傷を最小限に抑えることは、次に続く筋の再生過程にも大きく影響すると考えられる。臨床場面、特にスポーツの現場では筋損傷後に寒冷療法を用いることが多い(加賀谷, 2005)。われわれは筋損傷後に与える温度刺激が筋の再生にどのように影響するのかを調べてきた。高木(2009)は、寒冷刺激によってマクロファージの進入が遅れることから、骨格筋の再生が遅延する可能性を報告した。また、Kojimaら(2007)は温熱刺激が筋損傷後の再生に重要な役割を担うと報告している。そこで、われわれは実験動物に筋損傷を惹起させた後、その二次損傷と再生過程が温度刺激によってどのように変化するのかを、寒冷、温熱双方の刺激を加えることで確かめることとした。<BR>【方法】8週齢のWistar系雄ラット15匹の前脛骨筋を用いた。動物を筋損傷のみの群(C群:n=5)、筋損傷後寒冷刺激を与える群(CI群:n=5)、損傷後温熱刺激を与える群(CH群:n=5)の3群に分けた。前脛骨筋を脛骨粗面から4mm遠位で剃刀を用いて約2/3の深さまで横切断し、筋損傷を惹起した。筋損傷作製から5分後に20分間の寒冷刺激あるいは温熱刺激を加えた。寒冷刺激は高木ら(2009)の方法に倣い、ビニール袋に砕いた氷を入れ、筋を圧迫しないように下腿前面に当てた。温熱刺激は約42度に温めた湯を入れたビニール袋を下腿前面に当てた。湯を入れたビニール袋は2分毎に交換した。これにより、筋温は寒冷刺激で約20度低下し、温熱刺激で約10度上昇した。筋切断から3,6,12,24,48時間後に、動物を灌流固定し前脛骨筋を採取した後、浸漬固定を行い、エポキシ系樹脂に包埋し縦断切片を作製した。厚さ約1&#181;mで薄切し、1%トルイジンブルーで染色して光学顕微鏡で観察した。<BR>【説明と同意】全ての実験は所属施設における動物実験に関する指針に従って実施した。<BR>【結果】損傷3時間後、全群で損傷部とその周辺に染色性の低下が見られた。これは48時間後まで徐々に進行した。CH群での染色性の低下が著明で、CI群では低下が抑制されていた。損傷3時間後から、全群で境界膜形成が進行し、12時間後には大部分の筋線維で境界膜が形成された。非壊死領域で、筋線維の長軸方向と平行に伸びる細長い空胞が3,6時間後に観察された。1視野あたりの空胞数の平均を調べたところ、C群1.0個、CI群2.3個、CH群4.3個であった。CI群、CH群ではC群と比較して大きな空胞が観察された。損傷3時間後、全群で単核の細胞が損傷筋線維内に観察され、本細胞は形態学的にマクロファージであると判断できた。筋線維内に進入したマクロファージ数は48時間後まで増加し続けた。筋衛星細胞は6時間後から全群で観察され、24時間後まで増加した。12時間後において全群で肥大化した筋衛星細胞が観察された。CH群では24時間後に、C群では48時間後に筋芽細胞が明らかに観察できたが、CI群では48時間後でも明らかな筋芽細胞は観察できなかった。<BR>【考察】損傷3時間後から観察された壊死領域の染色性の低下は、Caイオン流入による蛋白分解を示していると考えられる。CH群において染色性の低下が進行していたことから、今回の温熱刺激は蛋白分解を促進した可能性がある。CI群では染色性の低下が抑制されたことから、寒冷刺激は蛋白分解を抑制したと考えられる。損傷3,6時間後、境界膜が不完全な領域で、筋線維内に空胞が観察された。すなわち、この空胞は境界膜が不完全な段階でCaイオンが筋線維内に部分的に流入したために生じたと考えられる。CH群で多くの空胞が観察されたことは、温熱刺激により蛋白分解が促進され、境界膜形成前に二次損傷が進行した現象であろう。CI群における多数の空胞形成は、寒冷刺激により蛋白分解が抑制されたものの、境界膜形成や細胞小器官の集積がそれ以上に遅延したために生じたと考えられる。CH群における24時間後の筋芽細胞の出現は、骨格筋の再生過程の初期には温熱刺激が効果的である可能性を示唆していると考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】本研究により、損傷急性期に与える温熱刺激は二次損傷を助長するが、再生過程においては効果的であることが示唆された。今後の臨床応用に興味深い示唆を与えたと思われる。
著者
中村 雅俊 池添 冬芽 梅垣 雄心 西下 智 小林 拓也 田中 浩基 藤田 康介 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0402, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】スタティックストレッチング(SS)は筋の柔軟性の改善を目的として広く用いられている。SSが筋の柔軟性に与える影響については,関節可動域(ROM)を指標として検討されることが多い。しかし,ROMは対象者の痛みに対する慣れなどの影響があるため,近年では関節を他動的に動かした時に生じる受動トルクあるいは受動的トルクと関節角度との関係(角度―トルク曲線)から求めた筋腱複合体(MTU)全体のスティフネスを柔軟性の指標として用いることが推奨されている。我々は腓腹筋MTUを対象にSSが受動トルクに及ぼす影響を経時的に検討し,腓腹筋の柔軟性を増加させるには最低2分間以上のSS時間が必要であることを報告した(Man Ther, 2013)。しかし,筋の柔軟性を増加させるために必要なSS時間については対象筋によって異なる可能性が考えられる。そこで本研究は臨床においてSSを行う機会が多いハムストリングスを対象筋とし,5分間のSSがハムストリングスMTUに及ぼす影響を経時的に検討し,ハムストリングスの柔軟性を増加させるために必要なSS時間について明らかにすることを目的とした。【方法】対象は下肢に神経学的及び整形外科的疾患を有さない健常若年男性15名(平均年齢23.4±2.2歳,股関節90°屈曲位での膝最大伸展角度-33.4±6.1,最大膝伸展時の受動的トルク40.6±11.4Nm)の利き脚(ボールを蹴る)側のハムストリングスとした。スティフネスの評価は等速性筋力測定装置(Biodex社製Biodex system 4.0)を用い,背臥位にて骨盤を軽度前傾位に固定した状態で,股・膝関節90°屈曲位から痛みが生じる直前まで角速度5°/秒で他動的に膝関節を伸展させた際に得られる膝屈曲方向に生じる受動トルクの計測を行った。この受動トルクと膝関節角度との角度―トルク曲線を求め,先行研究に従って最終10%の角度範囲の傾きをスティフネス(Nm/°)と定義した。SSは等速性筋力測定装置を用い,スティフネスの測定と同様に股関節90°屈曲位で膝関節を伸展していき,痛みが生じる直前の膝関節角度で1分×5回(計5分間)のSSを行った。SS開始前(SS前)とSS開始後1分毎にスティフネスの評価を行った。なお,SS開始後のスティフネスの評価,すなわち最終10%の角度範囲での角度―トルク曲線の傾きの算出については,SS前と同様の角度範囲を用いた。統計学的処理は,SS前とSS後1分毎のスティフネスについて,一元配置分散分析とScheffe法における多重比較検定を用いて比較した。有意水準は5%未満とした。なお,結果は全て平均±標準誤差で示した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は所属施設の倫理委員会の承認を得て(承認番号E-1877),文書および口頭にて研究の目的・主旨を説明し,同意が得られた者を対象とした。【結果】ハムストリングスのスティフネスはSS前:1.23±0.24Nm/°,SS後1分:1.14±0.17Nm/°,SS後2分:1.08±0.16Nm/°,SS後3分:0.90±0.18Nm/°,SS後4分:0.83±0.16Nm/°,SS後5分:0.74±0.11Nm/°であった。一元配置分散分析の結果,スティフネスに有意な変化が認められ,多重比較の結果,SS前と比較してSS後3,4,5分目で有意に低値を示した。さらに1分目と比較して4,5分目,2分目と比較して5分目で有意に低値を示した。【考察】本研究の結果,スティフネスはSS前と比較してSS後3,4,5分目で有意に低値を示したことから,SS開始後3分目以降でハムストリングの柔軟性向上効果が得られることが示された。我々は腓腹筋の柔軟性を増加させるためには最低2分間のSSが必要であることを報告しており,ハムストリングスの柔軟性を増加させるために必要なSS時間と乖離がある。その要因としては,筋の断面積の違いと耐えうる最大の受動的トルク,つまりSS強度に違いがあることが関連していると考えられる。筋の断面積ではハムストリングスの方が腓腹筋よりも大きく,SS強度に関しては腓腹筋の方がハムストリングスよりも強かった(腓腹筋:49.4±12.4Nm,ハムストリングス:40.6±11.4Nm)。これらの結果より,ハムストリングスは腓腹筋よりも断面積が大きく,弱い強度でのSSしか行えなかったため,柔軟性を増加させるためには腓腹筋よりも長い時間である3分間のSS時間が必要になった可能性が考えられる。【理学療法学研究としての意義】理学療法分野においてSS介入を行うことが多いハムストリングスの柔軟性を増加させるために必要なSS時間を検討した結果,最低3分のSS時間が必要であることが示唆された。
著者
小林 裕和 安倍 浩之 福山 支伸 下 嘉幸 田川 維之 石元 泰子 竹田 俊哉 有木 隆太郎 中川 哲郎 池田 勘一 大藤 美佳 寺本 裕之 中島 あつこ 藤川 大輔
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.31 Suppl. No.2 (第39回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0275, 2004 (Released:2004-04-23)

【目的】打撃動作とは全身の各関節が連動しながら遂行される高度にプログラミングされた動作であり、様々な要素が影響を与えていることが考えられる。そこで今回は打撃動作に影響を与える因子として軸足股関節の角度に着目し、打撃動作との関係を検討し、若干の知見を得たので報告する。【対象】某高校野球部に所属していた高校生19名(右打者16名、左打者3名)16.4±0.51歳、身長171.0±5.83cm、体重62.5±6.66kgを対象とした。【方法】2001年度より定期的に実施している高校野球チームに対するメディカルチェック項目の中から、三次元動作解析器を用いた打撃動作解析の結果を用い動作解析を実施した。 動作解析には、三次元動作解析system(Peak Motus社製:ヘンリージャパン株式会社)を用いて、打撃動作を分析し、1.バットのヘッドスピード(m/sec)と、2-1テイクバック時、2-2テイクバックから前方への並進運動後、下肢が接地してから0.05sec後のそれぞれの軸足股関節の外転角度(°)を算出した。 統計処理はBat head speedと2-1、2-2時の軸足股関節外転角度の相関分析を行った。【結果】今回の研究結果について、まず Bat head speedと2-1間で、r=0.518の相関がみられた。 次にBat head speedと2-2間でr=0.642の相関がみられた。【考察】打撃動作は様々な要素から構成される高度にプログラミングされた動作である。今回はその要素の一つである軸足股関節外転角度に着目し、スイング時のBat head speedとの関係について分析を行った。 打撃動作では、テイクバックから並進運動の際、体幹-骨盤ユニット(以下いわゆるcore unit)の安定とcore unitの軸足股関節上での安定が重要であると考えられる。軸足股関節外転は特にcore unitが軸足上で安定を得るために重要であると考えられる。 今後はさらなるデータ収集と共に、より詳細な解析を実施していきたい。 本学会において更に、データ解析、考察を加え詳細について報告する。
著者
大久保 優 梛野 浩司 岡田 洋平 生野 公貴 河口 朋子 岡本 昌幸 松下 祥子 高取 克彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.B4P2152, 2010

【目的】パーキンソン病患者の機能障害の一つとして,体軸回旋の減少など体幹機能障害があげられる。体幹機能は,ベッド上の寝返り動作や起きあがり動作,歩行時の方向転換,リーチ動作に重要な要素であり,パーキンソン病患者ではこれらの動作が障害されやすい。体幹機能障害は,Hohen & Yahr (H&Y) stage1~2の発症早期から生じると報告されており,病期が進行したH&Y stage3~4の患者では,円背や脊柱の側彎など体幹の変形が問題となる。パーキンソン病患者のリハビリテーションを効果的に行うためには,その特性を反映する客観的な体幹機能評価が必要である。体幹機能評価として,Trunk Impairment Scale(TIS)があげられ,パーキンソン病患者においても有用であると報告されている。しかし,TISの副項目では天井効果が認められており,項目数が多いため測定に時間を要する。もう一つの体幹機能評価として,座位側方リーチテスト(Sit-and-Side Reach test; SSRT)があげられる。脳卒中患者に対して,非麻痺側のSSRTを行った場合,その信頼性は高く,TISとの高い相関も見られ,体幹機能評価として有用であると報告されている。パーキンソン病患者においても,SSRTは体幹機能やその左右差を捉える上で有用である可能性があるが,そのような報告は見られない。本研究の目的は,パーキンソン病患者におけるSSRTと重症度や他の体幹機能との関係を調べ,その妥当性について検証することである。<BR><BR>【方法】対象は,パーキンソン病患者17名であった(平均年齢69.9±9.2歳,男性11名,女性6名,H&Y stage1:1名,2:2名,3:7名,4:7名,平均罹病期間7.3±5.7年)。全ての対象者は口頭指示を理解可能であった。腰痛や脊柱の手術の既往がある者は除外した。評価項目は,SSRT,TIS,Unified Parkinson's Disease Rating Scale part3 (UPDRS-motor)とした。SSRTは,ハンガーラックを用いて作成したスライド式の測定器と40cm台を用いた。測定方法は,開始肢位を40cm台上端座位,上肢90°外転位とし,側方に最大リーチするように指示した。初め三回を練習とし,その後二回測定を行いその平均値を統計解析に用いた。また,左右とも測定し,値が低い方を障害側の体幹機能を反映する指標と捉え,採用値とした。評価は抗パーキンソン病薬の影響を考慮し,服薬1.5~2時間後に統一した。統計解析は,Spearmanの順位相関係数を用いてSSRTとTIS,SSRTとUPDRS-motorとの関係について調べた。またH&Y stage3の患者群と,stage4の患者群のSSRTの差について,Mann-WhitneyのU検定を用いて調べた。<BR><BR>【説明と同意】全ての対象者には,口頭にて本研究の趣旨を十分に説明し,研究参加の同意を得た。<BR><BR>【結果】SSRTとTISの間には,有意な中等度の相関が認められた(ρ=0.51,p=0.04)。また,SSRTとUPDRS-motorとの間にも中等度の負の相関が認められたが,有意ではなかった(ρ=-0.45,p=0.07)。またstage4群はstage3群と比較して,有意にSSRTの値が小さかった(stage3群24.6±6.3cm,stage4群14.2±7.6cm,p=0.04)。<BR><BR>【考察】SSRTとTISとの間に中等度の相関が認められたことから、SSRTはパーキンソン病患者の体幹機能評価として有用である可能性が示唆された。また,SSRTとUPDRS-motorとの間に有意ではないが中等度の相関が認められたこと,stage3群と4群の間に有意な差を認めたことから,SSRTはパーキンソン病患者の重症度を反映する可能性もあると考えられた。今後は症例数を増やし,SSRTの長期的な変化や他のH&Y stageとの関係について検証する必要がある。また,パーキンソン病患者のSSRTの左右差や健常高齢者との差異について検証していく必要がある。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】パーキンソン病患者のリハビリテーションを行う上で,長期にわたって体幹機能を維持することは,身体機能やADL,QOLを維持する上で重要である。しかし,客観的で定量的な体幹機能評価は少ない。今回の研究結果より,SSRTはパーキンソン病患者の体幹機能評価として,有用である可能性が示唆された。また,今回の結果より,SSRTが重症度の差異を捉えることができたことと,定量的な評価であることから,長期にわたって継時的にパーキンソン病患者の体幹機能の変化を捉えることができる可能性があると考えられる。
著者
梛野 浩司 中村 潤二 三ツ川 拓治 生野 公貴 徳久 謙太郎 岡田 洋平 庄本 康治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.E3P2206, 2009

【目的】高齢者の転倒・転落は寝たきりの原因となるため重要視されている.転倒に関わる因子は内的因子と外的因子に分類され、さまざまな報告がなされている.近年、Functional Reach Test(FRT)は簡便に使用できるため高齢者の転倒予測ツールとして用いられている.しかし、FRTは前後方向のバランスを測定しているのみである.転倒に関する調査によると、後側方への転倒で大腿骨頸部骨折のリスクが3~6倍になることが示されている.このことから、前後方向へのバランスだけでなく側方へのバランスが危険な転倒を予測する因子として重要であると考えられる.そこで今回、我々は健常高齢者を対象に側方へのバランス指標として坐位での側方リーチ距離を測定し、転倒との関係について調査したので報告する.<BR><BR>【方法】対象はN県U市の転倒予防教室に参加した健常高齢者74名(男性35名、女性39名、平均年齢76.2±5.9歳)とした.全参加者に対して事前に測定の目的を説明し同意を得た上で測定を行った.測定項目は、FRTおよび坐位側方リーチ距離とした.その他、過去1年間の転倒の有無および複数回転倒の有無についてアンケート調査を行った.FRTはDuncanらのスライド法に準じて行った.坐位側方リーチについては、測定機器としてハンガーラックを用いて作成したスライド式の測定器と、40cm台を用いた.測定方法は、開始肢位を40cm台上端座位、リーチ側上肢を90°外転位とし、最大リーチを行うよう指示した.アンケート調査の結果より対象者を転倒なし群、1回転倒群、複数回転倒群の3群に分けFRTと座位側方リーチ距離について比較を行った.また、FRTと坐位側方リーチ距離との関連性についても検討した.統計解析はKruskal-Wallis検定を使用し、有意差を認めた場合には多重比較検定を行った.FRTと坐位側方リーチ距離との関連性についてはピアソンの積率相関係数を求めた.有意水準はp<0.05とした.<BR><BR>【結果】アンケート調査の結果、転倒なし群54名、1回転倒群11名、複数回転倒群7名であった.FRT(p=0.085)では3群間に有意な差を認めなかった.坐位側方リーチ距離(p=0.035)では有意な差を認め、多重比較検定では複数回転倒群が他の2群よりも有意に低値を示した.FRTと坐位側方リーチとの関連性はr=0.123と低い相関関係であった.<BR><BR>【考察】今回の結果では、FRTでは複数回転倒群と転倒なし群で差を認めなかったことに対し、坐位側方リーチ距離では有意な差を認めたことから、複数回転倒する可能性のある高齢者を簡便に抽出することができる可能性が考えられた.身体の平衡機能には様々な要因が関わっているが、FRTと坐位側方リーチ距離において弱い相関関係しか認められなかったことから、坐位側方リーチ距離とFRTとでは異なった機能を評価できるものと考えられた.坐位側方リーチ距離は体幹機能をより反映しているものと考えられ、転倒に対する体幹機能の重要性が考えられた.
著者
三ツ川 拓治 中村 潤二 生野 公貴 徳久 謙太郎 梛野 浩司 庄本 康治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A3O3029, 2010

【目的】脳卒中片麻痺患者の歩行能力や日常生活動作(ADL)の獲得には様々な因子が関与している。特に体幹機能は、四肢の随意運動時の身体近位部の固定などに関与するため重要であるといわれている。しかし、歩行能力やADLと下肢機能との関連を報告したものは多いが、体幹機能との関連を報告しているものは少ない。先行研究では、既存の体幹機能評価法であるTrunk Control Test(TCT)とTrunk Impairment Scale(TIS)が、歩行能力とADLに関連していることが報告されており、その中でもTISのほうがより脳卒中片麻痺患者の歩行能力と関連していることが示唆されている。しかし、TISは項目数が多く、評価に時間を要する。そこで我々は、体幹での制御を必要とし、座位での側方へのリーチ距離を測定する座位側方リーチテスト(Sit-and-Side Reach Test;SSRT)を考案した。SSRTはTCTやTISとの妥当性が示されており、脳卒中片麻痺患者の体幹機能を評価することのできる新しい指標であると考えられる。そこで、本研究では新しい体幹機能評価法であるSSRTと 歩行能力やADLとの関連を検討することとする。<BR>【方法】対象は当院回復期病棟及び療養型病棟に入院中の脳卒中片麻痺患者36名(男性15名、女性21名、平均年齢69.3±13.7歳)とした。SSRTの測定は、ハンガーラックを用いて作成したスライド式の測定器と40cm台を用いた。測定方法は、開始肢位を40cm台上端座位、非麻痺側上肢90°外転位とし、側方へ最大リーチするよう指示した。測定中は非麻痺側下肢を床面から動かさないよう注意を促した。初めの2回後の3回を測定し、その平均値を統計解析に用いた。その他の評価項目は、歩行能力としてFIM歩行項目、歩行自立度はFIM歩行項目の6以上を自立群とし、5未満を非自立群として判別した。またADLとしてBarthel Index(BI)を評価した。統計解析は、SSRTと各項目の相関をスピアマンの順位相関係数を用い算出して検討した。また歩行の自立群、非自立群の比較はt検定にて行った。有意水準はすべてp<0.05とした。<BR>【説明と同意】本研究は、研究実施施設長の承認を得て行われた。対象者には文書にて本研究の趣旨を説明し、書面での同意を得た。<BR>【結果】SSRTは全対象者では23.7±6.8cm、歩行の自立群14名では27.6±5.6cm、非自立群22名では21.1±6.4cmであった。SSRTとFIM歩行項目との間では中等度の有意な相関(ρ=0.58,p=0.0002)があった。また歩行の自立群と非自立群のSSRTの間には有意差(p=0.004)が認められた。BIは79.9±17.4点であり、SSRTとBIとの間では高い有意な相関(ρ=0.72,p<0.0001)があった。【考察】SSRTが歩行自立群と非自立群との間で有意差があったことから、SSRTで示される体幹機能が歩行自立度に関係していると考えられた。またFIM歩行項目との間で中等度の相関、BIとの間に高い相関があった。これは先行研究においてTCT、TISが歩行能力、ADLに関連しているとの報告と一致している。このことからSSRTで示される体幹機能は歩行能力やADLの獲得に関連している一つの重要な因子であると考えられた。また今回の結果から、SSRTが今後、臨床現場において有用な一指標となる可能性があると考えられた。<BR>【理学療法学研究としての意義】脳卒中片麻痺患者の歩行能力やADLに体幹機能が大きく関連しており、現在、臨床で使用されているTCTやTISとの相関も報告されている。しかしTCTやTISといった評価法は定量的ではなく客観性に欠けている。本研究で使用したSSRTはリーチ距離にて評価をするため定量的・客観的である。また項目数の多いTISに比べて簡便に評価が可能であり、患者への負担を軽減することができる。そのためSSRTは臨床的な指標であると考えられる。しかし本研究は、横断研究であるため、今後はさらに予測妥当性についても検討する必要がある。
著者
中村 潤二 三ツ川 拓治 生野 公貴 徳久 謙太郎 梛野 浩司 庄本 康治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A3O1029, 2010

【目的】近年の報告では脳卒中片麻痺患者において上下肢の障害だけでなく, 体幹屈曲筋・伸展筋・回旋筋等の筋力低下といった体幹機能障害の存在が証明されている。体幹機能は四肢の随意運動時の身体近位部の固定や起き上がり, 歩行などの基本動作の獲得のために重要であると考えられている。脳卒中患者の中で急性期に体幹機能が高い者は, 退院時の日常生活動作得点が高いとしており, 機能的予後を予測する因子としても重要であるとしている。体幹機能を評価する方法には筋電図などの特別な機器を用いた方法があるが, 臨床での使用は利便性に欠ける。簡便に体幹機能を評価する方法には古くからTrunk Control Test (TCT) が知られているが, これは4項目の身体パフォーマンスを3段階で評価しているため段階付けの幅が大きく, 天井効果があることなどが問題とされている。他の評価法としてはTrunk Impairment Scale (TIS) があり, 構成概念妥当性, 併存的妥当性, 高い再現性が報告されている。TISは静的座位バランス, 動的座位バランス, 協調性について評価しているが, 順序尺度であり項目数が17項目と多いため測定に時間を要する。そこで我々は定量的な評価が可能な座位での側方リーチテスト (Sit - and - Side Reach Test : SSRT ) 考案した。SSRTはTCT, TISとの併存的妥当性が確認されているがその再現性は報告されていない。そこで本研究の目的はSSRTの検者内・検者間再現性と測定誤差を検討することとした。<BR>【方法】対象は当院回復期病棟及び療養型病棟に入院中の脳卒中片麻痺患者32名 (男性17名, 女性15名, 平均年齢67.6± 16.4歳) とした。重篤な脊柱の変形を有する者, 高次脳機能障害等により指示を理解できない者は除外した。SSRTの測定にはハンガーラックを用いて作成したスライド式の測定器と40cm台を用いた。測定は開始肢位を40cm台上に端座位をとり, 測定器を非麻痺側肩峰の高さに合わせた後, 非麻痺側肩関節90°外転, 手指伸展位とし, 非麻痺側へ最大リーチするように指示した。測定中は非麻痺側下肢を床面から動かさないように注意を促した。SSRTは初めの2回を練習とし, その後3回測定し, 各測定値及びその平均値を統計解析に用いた。検者間再現性を検証するために測定は2名の検者で合計2セッション行った。2セッション目の測定は最初の測定より1~2日以内に測定した。また他の検者の測定結果を測定終了時まで教えないことで, 先入観に基づく測定バイアスを排除した。検者内再現性の検討には測定値間の級内相関係数 (Intraclass Correlation Coefficient: ICC) を求め, 検者間再現性の検討は各検者の測定平均値の差を対応のあるt検定にて確認し, そのICCを求めた。また測定の精度を検証するために測定標準誤差 (Standard Error of Measurement: SEM) , 最小検知変化 (Minimal Detectable Change: MDC) を算出した。有意水準は5%とした。SEMは測定値に生じる誤差を表し, MDCは検知可能な変化の最小値を表す。<BR>【説明と同意】本研究は, 研究実施施設長の許可を得て行われた。全ての対象者には文書にて本研究の趣旨を説明し, 書面での同意を得た。<BR>【結果】SSRTの測定値は平均22.8± 7.5 cmであった。各検者の測定平均値の間に有意な差はなかった (P > 0.05)。SSRTの検者内再現性は検者AにおいてICC = 0.97 (95%信頼区間 (CI ): 0.94-0.98) , 検者BはICC = 0.97 (95%CI: 0.95-0.99) であった。また検者間再現性はICC = 0.91 (95%CI: 0.82-0.96) で, SEMは2.3 cm, MDCは6.4 cmであった。<BR>【考察】今回の結果からSSRTは良好なICCを示し、検者内・検者間再現性が高いと考えられる。またSSRTを用いた場合には測定結果に2.3 cm程度の測定誤差が生じることが明らかになった。その測定誤差はSSRTの平均値の約10%程度であった。MDCは一症例のSSRTを経時的に測定し, その変化が統計学的に有意と認められる最小値であり, 1回の測定で6.4 cmの改善または悪化がないと真の変化とは言えず, それ以下は測定誤差の範囲内であることが示唆された。これらのことからSSRTは優れた再現性, 測定の精度を有していると考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】脳卒中片麻痺患者において体幹機能の重要性が報告されている。体幹機能を評価する方法にはいくつかの方法が報告されているが評価の天井効果や項目数の多さ, 定量的な評価ができないといった問題点がある。SSRTは評価方法の特性上, 簡便かつ客観的で連続尺度による定量的な評価が可能である。今回の結果からSSRTは優れた再現性, 測定の精度を有しており, 脳卒中患者の体幹機能の経時的な変化を評価することも可能であると考えられる。今後はさらにSSRTの測定特性について検討していく必要がある。
著者
兼松 大和 徳久 謙太郎 宇都 いづみ 鈴木 敏裕 大成 愛 三好 卓宏 藤村 純矢 高取 克彦 庄本 康治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.A0680, 2007

【はじめに】<BR>ファンクショナルリーチ(FR)テストは臨床や研究場面、介護予防事業などで広く用いられている動的バランスの臨床評価指標である。先行研究によると健常成人や高齢者におけるFRテストの再現性は良好であると報告されている。しかし、脳卒中片麻痺患者においてその再現性を検討した報告は少ない。また、一症例の継時的な動的バランス変化の有無を評価する際には、測定値にどの程度の測定誤差が生じるかを知ることは有用である。本研究の目的は、脳卒中片麻痺患者におけるFRテストの検者内再現性と測定誤差を明らかにし、実際の臨床での評価場面において有用な情報を提供することである。<BR>【対象及び方法】<BR>対象は2施設に入院中の脳卒中片麻痺患者のうち、立位保持が20秒以上可能で、指示理解良好な者31名(男20名・女11名、平均年齢69.2±10.8歳)である。FRはハンガーラックにメジャーを貼り付けて作成した自作の測定器にて測定した。靴を履いた状態で測定すること、肩峰の位置から前方リーチによる最大到達点までの距離を測定し、上肢長を引いてFR算出すること以外はDuncan等による原著の方法に従った。測定は同一検者により行われ、2回の練習後、3回の測定を1セッションとし、2セッション実施した。セッション間隔は1~2日とした。<BR>【分析】<BR>検者内再現性の検討には、異なるセッションの測定値間の級内相関係数(ICC)を求めた。測定誤差の分析は一般化可能性理論により行った。セッションと反復を要因とする2要因完全クロス計画の下、主効果と交互作用の分散成分推定量を求めた。この情報を基にセッション回数や反復回数を変更した測定条件下での測定の標準誤差standard error of measurement(SEM)および最小検知変化minimal detectable change(MDC)を求めた。<BR>【結果】<BR>異なるセッションの測定値間のICC(1,1)は0.975であった。SEMとMDCは1回の測定では1.7cmと4.8cmであり、測定反復回数を変更すると2回の平均値では1.4cmと4.0cm、3回の平均値では1.3cmと3.7cmに減少した。測定セッション回数を変更すると、2回の平均値では1.4cmと3.8cmに減少した。<BR>【考察・まとめ】<BR>異なるセッションの測定値間において優秀な級内相関が得られたことから、脳卒中片麻痺患者のFRテストの検者内再現性は良好であるといえる。原著の方法と同じく2回の練習後、3回測定の平均値を使用した場合、1.3cmのSEMが生じることが明らかになった。MDCは一症例のFRを継時的に測定し、その変化が統計学的に有意と認められる最小の値であり、原著の方法では3.7cm以上の変化がないと真の変化(改善・悪化)とは言えず、測定誤差範囲内であることが示唆された。<BR>
著者
高見 奈津子 前平 奈加 石井 照子 宗形 成子 二瓶 忠臣 小室 英生 奥山 高司 関和 良太 江口 紘也 推名 翔太 大森 圭貢
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】介護予防通所リハビリテーション(以下通所リハ)は介護予防,特に三次予防の役割を有する。高齢化が進み2010年,N市の高齢化率は23%となる中,当通所リハもこの役割を担ってきた。当通所リハでは①心身機能と生活状況聴取,②身体機能練習として四肢体幹筋力練習,バランス練習,起居移動動作練習を行っている。本研究の目的は,1.利用者の身体機能検査平均値と健常高齢者平均値との比較,2.転倒カットオフ値との比較,3.初回最終検査値の変化,これらより通所リハの効果を明らかにする事である。</p><p></p><p></p><p></p><p></p><p>【方法】対象は,当通所リハ開始1か月以内に初回検査,その後平成26年4月から平成28年4月の間に最終検査を実施した75歳以上の要支援認定者(以下要支援者)17名(男性4名,女性13名)。年齢は初回最終検査の順に81.5±5.1歳と84.8±4.1歳。初回最終検査までの期間は平均37カ月±25カ月で最短7カ月,最長82カ月。通所頻度は週1から2回。検査項目は握力,5m最大歩行速度(以下歩行速度),ファンクショナルリーチテスト(以下FRT),timed up and goテスト(以下TUG)の結果を後方視した。先行研究に75歳以上要支援者の身体機能報告は少なかったため平均値を健常高齢者平均値と比較し,平均値を超えた割合を算出した。また対応のあるt検定を用い初回最終検査で各項目の違いを分析した。FRTとTUGは先行研究から転倒リスクのカットオフ値15.3cm以下と13.5秒以上に相当しない割合を算出した。次に検査項目毎に初回最終で維持向上した割合を算出した。更に各項目の初回最終の変化率を算出し介入期間との相関より関与期間の影響をみた。</p><p></p><p></p><p></p><p></p><p>【結果】初回最終検査の平均値は,握力は20.0±7.2kg,19.5±6.9kg,歩行速度は0.73m/秒,0.86m/秒,FRTは18.6±7.2cm,20.2±6.9cm,TUGは17.9±10.8秒,18.0±9.0秒であった。t検定ではいずれの項目も有意差はなかった。健常者の平均値を超えた割合は,初回最終検査の順に握力は59%と71%,歩行速度は29%と18%,FRTは12%と24%,TUGは0%と0%であった。転倒リスクとの比較では初回最終検査の順にFRTが64.7%と71%,TUGが41.2%と34.4%であった。初回最終検査の間で維持向上した割合は握力52.9%,歩行速度58.8%,FRT64.7%,TUGは58.8%であった。また関与期間と初回最終変化率は5m最大歩行速度以外では相関がなかった。</p><p></p><p></p><p></p><p></p><p>【結論】身体機能は加齢に伴う有意な低下がなく,半数以上の身体機能が維持向上できていると考えられた。また健常高齢者との比較でもTUGを除くいずれの項目も平均値を超えた割合は増加しており通所リハによる効果があったと考えられた。関与期間にはややばらつきがみられたが歩行速度以外は相関がなく影響は少なかった。しかしバランス機能が健常高齢者の平均値より低い傾向にある事,初回最終で維持改善しない者が存在する事より今後はその者に対する関わり方を検討することで更なる効果が期待できると考えられた。</p>