著者
青山 倫久 綿貫 誠 内田 宗志
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.F-66-F-66, 2019

<p>【はじめに,目的】</p><p> 股関節唇損傷を合併した寛骨臼形成不全(DDH)に対し股関節唇修復術を併用した内視鏡下棚形成術を行った女性新体操選手の臨床成績を検討し,競技復帰に向けたリハビリテーションについて報告すること。</p><p>【方法】</p><p> 当院で股関節唇修復術および内視鏡下棚形成術を施行した女性新体操選手6例(平均年齢20.4歳)を対象とした。術後は当院のプロトコルに従い,4週目から段階的に荷重を行い,可及的に股関節可動域および股関節周囲筋力と体幹筋力の改善を図った。患者立脚型スコアとしてModified Harris Hip Score(MHHS),iHOT12,Vail Hip Scoreを用い,術前および術後最終フォローアップ時の臨床成績を比較した。</p><p>【倫理的配慮】</p><p> 対象にはプライバシー保護に充分配慮することを説明し,本学会の演題登録に関して同意を得た。</p><p>【結果】</p><p> 6例とも受傷前と同等の競技レベルまで平均8.5ヵ月で復帰した。iHOT12は術前42.2±24.1点から最終フォローアップ時92.9±16.1点へ有意に改善した(p<0.05)。同様にVail Hip Scoreも術前47.7±19.9点から最終フォローアップ時85.6±10.2点へ有意に改善した(p<0.05)。MHHSは術前後で有意差をみとめなかった。</p><p>【考察】</p><p> 本邦ではDDHの高い有症率が報告されている。股関節唇修復術を併用した内視鏡下棚形成術は,DDHを呈する女性新体操選手に好ましい臨床結果および高い割合での競技復帰をもたらす可能性がある。</p>
著者
木戸 聡史 須永 康代 廣瀬 圭子 宮坂 智哉 田中 敏明 清水 孝雄 佐賀 匠史 髙柳 清美 丸岡 弘 鈴木 陽介 荒木 智子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.E4P1197, 2010

【目的】本研究目的は、トイレ内の転倒者の検出による迅速な発見と保護を可能とするため、トイレでの転倒状態をより正確に検出するための解析アルゴリズムを構築することである。そのため、我々は静止画熱画像パターンを用いて健常被験者を対象に、正常なトイレ動作と、模擬的に再現したトイレでの転倒姿勢を16パターンのアルゴリズムで判別分析した。各アルゴリズムにおいて求めた判別率を検証し、より有効な転倒検出方法を検討した。<BR>【方法】被験者は歩行及びトイレ動作が自立できる健常成人男性5名とした。身体特性は、身長172.5±5.5cm、座高93.1±2.2cm、胸囲91.2±3.9 cmだった。熱画像センサはTP-L0260EN (株式会社チノー製)を用いた。熱画像センサの特性は解像度0.5 &deg;C、視野角60°、frame time 3 Hz、data point 2256 (47×48)で、地上から2.5mの高さに設置した。被験者が腰掛けるADL(日常生活動作)練習用便座の高さは0.4mとし、便座から0.4m離れた床面5か所に、印をつけた。被験者は模擬的な正常トイレ動作(NA)を1回実施した。NAは、トイレへの入室、便座への着座 、便座からの立ち上がり、トイレからの退室からなる動作とした。その次に、転倒を想定した姿勢変換(FA)を1回実施した。FAは、あらかじめ印をつけた5箇所の位置で、長座位(開脚・閉脚)、仰臥位(開脚・閉脚)となり、便座に対して着座する方向を変更して実施した。それらの動作および姿勢変換を熱画像センサで記録した。記録した熱画像のデータは47×48=2256 pointの温度データで、3Hzの間隔で取得した。被験者1人あたり、NAから20個、FAから60個の熱画像データを任意に抽出した。抽出した熱画像データは、熱画像のエリアを4、9、16、25、36、49、64、81エリアに分割し、分割した各エリアの分割内平均温度(Avg)と分割内最高温度(Max)を求めた。8×2=16個のデータ処理パターンごとに、被験者5名分のNAの100データとFAの300データを用い、判別分析を実施して、正常/転倒の判別率を求めた。統計解析ソフトウェアはSPSS Ver.17.0を用いた。<BR>【説明と同意】対象者に対して、ヘルシンキ宣言に基づき研究の趣旨と内容について口頭および書面で説明し同意を得た後に研究を開始した。なお本実験は、植草学園大学倫理委員会の承認を受けて行った。<BR>【結果】実験時の周囲温度は24.8±0.2&deg;Cで、被験者がいない状態の熱画像パターンの温度は最低23.9&deg;C、最高26.9&deg;C、25.1±0.3&deg;Cだった。NAの100データの温度は最低24.2&deg;C、最高31.5&deg;C、26.0±1.1&deg;Cだった。FAの300データの温度は最低24.2&deg;C、最高31.8&deg;C、26.0±1.0&deg;Cだった。熱画像パターンから被験者の表情は判別できなかった。4分割でMax(4Max)の判別率は75.0%、4Avgは88.0%、9Maxは90.8%、9Avgは90.5%、16Maxは94.0%、16Avgは94.3%、25Maxは96.8%、25Avgは96.0%、36Maxは96.3%、36Avgは95.5%、49Maxは95.0%、49Avgは96.3%、64Maxは96.8%、64Avgは97.3%、81Maxは96.3%、81Avgは97.8%で最大だった。81Avgでは判別分析で用いた81分割エリアのうち、判別率を導くための判別式の係数となった領域は21箇所だった。判別分析に使用したNA+FAの400データのうち、誤検出した数は、NAをFAと判別したものが1個、FAをNAと判別したものが9個だった。NAをFAと判別したものは判別式に使用しない領域に被験者の最高温度の領域があった。またFAをNAと検出した例は、便座に近接した領域で被験者の最高温度の領域がある場合が多く、便座に着座したパターンとの判別が困難だった。<BR>【考察】本研究は健常者をモデルとして、転倒を検出するためのアルゴリズムを検証した結果、熱画像センサのデータを81分割して各エリア内平均値を判別分析すると、トイレ動作の転倒を97.8%の判別率で検出した。誤検出した2.2%をさらに減らすためには動作や姿勢変換の加速度などの変化を転倒の判定に加えることが有効と考えられた。現状では、誤検出の部分を有人による看視で補助すれば転倒の判定は可能と考えられる。また本実験では、被験者の最高表面温度は約32&deg;Cで熱画像センサの温度分解能は0.5&deg;Cのため、室温31&deg;C以下で使用する条件下であれば、1秒以内に転倒が判別できる、被験者のプライバシーに配慮できる特性が得られた。今後は転倒判別に時系列的な要素を加えてより実用的な転倒判定を目指す。並行して病院や施設のトイレに熱画像センサを設置し、フィールドによる試験を実施する。<BR>【理学療法学研究としての意義】本研究では、高齢者・障害者のADL支援に関するニーズを理学療法士として見極め、現場に必要なシステム開発への発想・着眼とシステムの検証を実施した。研究結果は病院および介護老人保健施設に必要な機器開発のための重要な基礎的データである。
著者
松永 梓 大畑 光司 古谷 育子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.BbPI1163, 2011

【目的】脳性麻痺者が有する変形の一つに脊柱側弯が挙げられる。脊柱側弯の重症度を示す指標としてcobb角が用いられるが、通常のcobb角はX-p画像より測定しなければならないため、患者への被爆の問題や計測の難しさから、容易に測定することができない。そのため、脊柱の変形を簡便に測定できる方法を確立していくことの重要性は高いと考えられる。我々は第44回日本理学療法学術大会にて、メジャーでの脊柱彎曲の程度の計測により、脊柱側弯の指標であるcobb角との相関を示す脊柱変形の定量評価を紹介した。しかし、この方法による検者間信頼性については明確ではない。本研究の目的は、頚椎と骨盤との距離の短縮率を求め、その短縮率とcobb角との関係で検者間信頼性を検討することである。<BR><BR>【方法】対象:病院に入院中の成人脳性麻痺者14名(男性5名、女性9名、平均年齢35.8±5.6歳)を対象とした。全対象者のGMFCSはVレベルであった。<BR>測定方法:測定肢位は腹臥位とした。第7頚椎棘突起から両側上後腸骨棘を結ぶ線の中心までの距離を頚椎―骨盤間距離とし、2点間を脊柱に沿って計測したものと、2点間の直線距離の2つの長さを求めた。2点間の直線距離と脊柱に沿って計測した距離を用いて短縮率を求めた。この短縮率の測定は2回行い、その平均値を代表値として用いた。cobb角の値は、通常の定期診察において過去1年以内に撮影したX-p画像を用いて測定した。S字カーブを呈している脊柱に関しては、胸椎レベルと腰椎レベルに分けて測定し、その合計を代表値として求めた。検者は経験年数5年以上の理学療法士2名とし、測定前に同じ測定方法を記載した紙を読み、理解してから同日、同時刻に実施した。<BR>統計処理:それぞれの検者での短縮率とcobb角との関係をpearsonの相関係数を求めて調べた。また、検者間信頼性を級内相関係数(ICC(3,k))を求めて調べた。<BR><BR>【説明と同意】本研究で用いたX-p画像は定期診察において撮影されたものを、後方視的に分析した。脊柱測定については、院内規定にのっとって行い、管理者の同意と指導のもと、測定を行った。<BR><BR>【結果】それぞれの検者で、頚椎―骨盤間距離の短縮率とcobb角との間に相関が見られた。(検者1:r=-0.66、検者2:r=-0.48)分散分析で、検者間の有意確率は5%以上であり、それぞれの検者の短縮率の測定結果の平均は、検者1が0.88±0.04、検者2が0.84±0.04であり、測定結果に有意な差は認められなかった。ICCの平均測定値は0.75であった。<BR><BR>【考察】本研究の結果において、それぞれの検者内では、頚椎―骨盤間距離の短縮率とcobb角との間に相関が認められ、短縮率が脊柱の変形の程度を反映する測定方法として妥当性があることが示された。また、検者による測定結果に有意差が認められず、本測定が検者間である程度の信頼性があることが示された。しかし、ICCの結果から検者間信頼性が0.75であり、信頼性は認められるものの、高い値ではなかった。この原因としては、短縮率とcobb角との相関が、検者1が0.66、検者2が0.48というように少し違いが見られていることと関連していると考えられる。今回の測定は、ともに不慣れな状態での測定であったため、習熟により信頼性が増す可能性が考えられる。また、短縮率は第7頚椎棘突起から骨盤までの距離を測定したものであり、脊柱の側弯だけでなく前弯、後弯も含めた全体的な変形を示すことになる。さらに胸椎や腰椎など部分的な変形を明確にすることができない。しかし、脊柱の変形をメジャーのみで測定できる短縮率は、臨床的に応用しやすいと考えられる。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】脊柱の変形をより簡便に測定できる方法を確立することは、今後の理学療法発展に寄与するものと考える。
著者
松永 梓 大畑 光司 矢野 生子 橋本 周三 南 純恵 中 徹 坪山 直生
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.B3P1286, 2009

【目的】脳性麻痺者が有する変形の一つに脊柱側弯が挙げられる.脊柱側弯が脳性麻痺者に及ぼす影響として、座位、立位の不安定、摂食嚥下障害、呼吸障害、消化器系の障害、痛み、ROM制限等様々な障害が挙げられる.脊柱側弯の重症度を示す指標としてcobb角が用いられる.cobb角の測定にはX-p画像より測定する必要があるため、臨床的に容易に測定することはできない.したがって、脊柱の変形を容易に測定する方法を確立することの重要性は高いと考えられる.本研究の目的は、頚椎と骨盤との距離の短縮率を求め、その短縮率とcobb角との関係を検討することである.<BR>【対象】重症心身障害児・者施設に入所中の成人脳性麻痺者13名(男性8名、女性5名、平均年齢36.4±7.1歳)を対象とした.本研究に参加するにあたり、保護者の文書による同意を得て行った.<BR>【方法】第7頚椎棘突起から両側上後腸骨棘を結ぶ線の中心までの距離を頚椎―骨盤間距離とし、2点間を脊柱に沿って計測したものと、2点間の直線距離の2つの長さを求めた.2点間の直線距離を脊柱に沿って計測した距離で除したものを頚椎―骨盤間の短縮率とし、姿勢による差異を検討するため、側臥位と座位とでの短縮率を計測した.cobb角の値はCT画像より胸椎レベルと腰椎レベルに分けて測定し、その合計を代表値として求めた.統計処理として、姿勢の違いによる短縮率の差を対応のあるt検定を用いて比較した.また、それぞれの姿勢での短縮率とcobb角との関係をpearsonの相関係数を求めて調べ、有意水準を5%未満とした.<BR>【結果】頚椎―骨盤間距離の短縮率は側臥位と座位とで有意な差が認められなかった.側臥位と座位における短縮率とcobb角との間に有意な相関(側臥位:r=-0.57、p<0.05、座位:r=-0.68、p<0.01)が認められた.<BR>【考察】本研究の結果では、頚椎―骨盤間距離の短縮率は姿勢による違いがなかったことが示唆された.このことにより、側臥位、座位の姿勢の違いが頚椎―骨盤間距離の短縮率に大きな影響を与えないことが考えられる.頚椎―骨盤間距離の短縮率とcobb角との間には有意な相関が認められ、短縮率が脊柱の変形の程度を反映する測定方法としての妥当性を有することが示唆された.短縮率は第7頚椎棘突起から骨盤までの距離を測定したものであり、胸椎や腰椎など部分的な変形を明確にすることはできない.しかし、短縮率はメジャーのみで測定できる簡便な方法であり、臨床的に応用しやすく有用性が高いと考えられる.今後は、症例数を増やして信頼性の検討が求められる.
著者
宮崎 正光 西畑 美幸 村田 伸
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.E0378, 2007

【背景と目的】老人保健施設でのリスク管理において、最も重要な事項の一つに転倒による外傷や骨折の予防がある。認知症を有する高齢者は、立ち上がりや立位保持が不安定であるにもかかわらず、車椅子から不用意に立ち上がり、転倒してしまうケースも少なくない。そこで我々は、低コストで作製可能な、立ち上がると音が鳴るクッション"お知らせクッション"を制作したので報告する。<BR>【お知らせクッションの作製手順】作製に必要な材料は、窓アラーム(約90dB)、CARワックススポンジ2個、クッションカバー、クッション、接着用材(グルーガン、接着スプレーなど)とスイッチをクッション外部より操作するための細い針金を準備する。作製は、まずクッションのアラーム部分を入れる場所(中央やや後部)にCARワックススポンジが入る程度の穴を空ける。窓アラームは分解し、スイッチ部分が扱えるようにCARワックススポンジの中に入れこむ。スイッチを外部から操作できるように、スイッチ部分に左右から針金を引っ掛けグルーガンなどで固定する。上から順に「切り取ったクッション材」、「磁石」、「スポンジ」、「窓アラームが入っているスポンジ」を、磁石と窓アラームの距離やクッション材の厚さを調節しながらクッション用のスプレーのりで接着する(磁石は、アラームが反応する部分の上部に取り付ける)。接着したものをクッションの穴の部分に入れ込む。クッションカバーに針金を通すための穴をあけ、クッションをカバーに入れる。最後にクッションカバーから針金を外へ出し、スイッチを外部から扱えるようにして、ON.OFFの標示をつけて完成となる。<BR>【考察】認知症を有する障害高齢者に対して、車椅子から不用意に立ち上がることで起こる転倒を防止するために、立ち上がると音で知らせてくれるクッション、"お知らせクッション"を制作した。現在市販されている車椅子に敷くタイプのセンサーは、5万円程度と高額である。しかし、我々が制作したクッションは、その主たる材料を100円ショップで購入でき、クッション費用を考慮しても1,500円程度と安価で作製が可能である。また、感度に関しても手作りであるため調節できるというメリットもある。転倒リスクの高い施設利用者に対してお知らせクッションを使用したところ、使用期間中の転倒はなかった。また、介護職員に対して、クッションの使用に関するアンケート調査を行った結果、介助量の軽減に繋がったとの回答が得られた。学術大会当日は、"お知らせクッション"の作製方法を中心に、使用経験(事例紹介)やアンケート調査の結果についても報告する。<BR>
著者
村田 臣徳 片岡 正教 安田 孝志 島 雅人 上田 絵美 片岡 愛美 赤井 友美 奥田 邦晴
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.BdPF2021, 2011

【目的】<BR> 脳性麻痺サッカー(以下、CPサッカー)は、比較的軽度な脳性麻痺者を対象として誕生したスポーツであり、パラリンピックの正式種目にもなっている。2009年10月から日本脳性麻痺7人制サッカー協会に所属するチームにおいてメディカルサポートとして活動を行なってきた。応急処置やコンディショニングに関わる中で、実際のプレー場面での身体の使い方や技術に関しても障害の影響があり、理学療法士として関わる必要性を感じた。本研究の目的は、CPサッカー選手の身体面の特徴とプレーの特徴との関係を選手ごとに考察するとともに、障害像や身体特性を理解する理学療法士がCPサッカー選手の技術力向上に関わる意義を明らかにすることである。<BR>【方法】<BR> CPサッカーチームの一員として、月1~2回の練習参加と地域大会や全日本選手権大会などの試合に帯同して、現段階で行われている練習メニューやウォーミングアップ、クーリングダウンの方法やそれらの内容について調査した。また各々の選手の試合時のプレーと身体面の特性との関係についてチームの代表者や選手個人と意見交換を行なった。選手のプレー上の特徴については試合を撮影したビデオを見ながらキックやドリブル動作を分析、評価した。身体面の特徴は脳性麻痺のタイプ分類や筋緊張、可動域検査で評価し、プレー上の自覚的な問題点の聞き取りも行なった。対象選手はチーム所属の8名でありCP-ISRAのクラス分けによる「両下肢に麻痺があるが走行可能」なC5選手2名(混合型と痙直型)、「四肢に不随的な動きがあるが走行可能」なC6選手2名(アテトーゼと混合型)、「走行可能な片麻痺」であるC7選手2名(左麻痺と右麻痺)、「極めて軽度な麻痺」であるC8選手2名(後天性左麻痺と後天性混合型)である。<BR>【説明と同意】<BR> 本調査内容の研究目的による使用は対象チーム代表者の承認と、選手本人や家族の同意を得た。<BR>【結果】<BR> 練習や試合前後のウォーミングアップ、クーリングダウンでは、障害のタイプやクラスが異なる選手がメンバー全員で同じメニューを行なっていた。また試合でのキックにおいて、C5、C6選手ではパスの成功は少なく、キック動作時の軸足の踏み込みは弱く体幹も前傾位で浮いた弾道のボールを蹴ることは困難であった。C7、C8選手は非麻痺側でのキックでは弾道の調整は可能であり飛距離も長い。しかし、麻痺側でのキックはなかった。ドリブルについて、C5選手ではボールを蹴って走ってしまうことで体から離れてしまう傾向があった。アテトーゼタイプのC6選手は体幹前傾位での直線的な速いドリブルが特徴的であるが、方向変換が困難なだけでなく常にトップスピードになり緩急の変化が非常に困難であった。片麻痺選手のドリブルは非麻痺側でのボールタッチで非麻痺側方向へ進むことが多く、麻痺側へ進むときはスピードを上げにくい特徴があった。試合を通してアテトーゼタイプの選手は終盤での体力消耗があり、ペース調整が困難であった。片麻痺選手は麻痺側の支持力低下から運動量が低下していた。<BR>【考察】<BR> CPサッカー選手の障害のタイプやクラスは多岐に渡っており、障害のタイプに合わせた下肢のストレッチや、リラクゼーションを含んだウォーミングアップ、クーリングダウン等のコンディショニングが必要である。また、試合でのキック、ドリブルの必要性や特徴は各タイプ、クラスにより異なる。障害によりキック動作は軸足の不安定さや体幹コントロール不良による姿勢安定の困難さがあり、ドリブル動作では姿勢を安定させにくいことや重心のスムーズな移動が困難であると考えられる。障害の特性を知る理学療法士の介入で軸足の安定性向上や体幹のバランス能力向上によりプレー技術の向上が図れると考えられる。また速度調整の困難さやドリブル方向などの身体特性からくる個々のプレー特徴を理解できることで、ドリブルを行なうゾーンや場面の指導、体の向きや最初の進行方向のアドバイスを行いプレーの幅が広げられると考えられる。今回は、実際のプレー場面での視覚的調査、考察であるため、今後は三次元解析などを用いたキック動作やドリブル動作の姿勢や重心位置など各タイプの選手による詳細な特徴の分析や、介入し経時的変化を追う必要があると考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 走行可能な脳性麻痺者のスポーツへの介入や技術面に関する研究はまだまだ少ない状況である。理学療法研究として今後、職域の拡大も含め障がい者スポーツにおける技術面に関しての介入の可能性を唱える意義のある内容と考える。
著者
石原 康成 堀江 翔太 立原 久義
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101316, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】腱板断裂では,上肢挙上の際に,肩甲上腕関節における求心位保持能力の低下と,それに伴う肩甲胸郭関節,胸郭運動の異常が報告されている.したがって,腱板断裂患者に対して理学療法を行う際は,肩甲上腕関節のみならず,肩甲胸郭関節や胸郭にもアプローチする必要がある.しかし,腱板断裂における肩甲骨の位置異常と胸郭運動の特徴については明らかになっていないため,機能評価と効果的に肩甲胸郭関節や胸郭へアプローチする手技の確立を困難にしている.本研究の目的は,腱板断裂における肩甲骨の位置異常と胸郭運動の特徴を明らかにすることである.【方法】対象は,当院で腱板完全断裂と診断され鏡視下腱板修復術を施行された24 名(以下RCT群)(男性14 名,女性10 名,平均年齢69 歳,49 〜 86 歳)と,肩関節に既往のない40 〜60 代の健常者16 名(以下健常 群)(男性8 例,女性8 例,平均年齢51 歳,43 〜 64 歳)である.これら2 群の,上肢挙上に伴う肋骨・胸椎運動と下垂位での肩甲骨の位置を比較し腱板断裂における肩甲骨位置と胸郭運動の特徴を検討した.測定方法は,肩下垂位と130°挙上位の2 肢位で胸部3 次元CTを撮影し,骨格前後像と側面像にて肋骨・胸椎と肩甲骨の位置を評価した.肋骨の動きは,肋椎関節を基準として肋骨先端の上下方向への移動距離を測定した.胸椎の動きは,第7 胸椎を基準として胸椎伸展角度を測定した.肩甲骨の位置は,内外転方向の位置として,脊椎から肩甲骨内側縁の距離(Spine Scapula Distance,以下SSD),挙上下制方向の位置として,肩甲骨下角の高さを,回旋方向の位置として肩甲棘の傾斜を測定した.統計学的検討にはMann-Whitney’s U 検定を使用した.【倫理的配慮、説明と同意】病院倫理委員会の承認を得た上で,本研究の目的とリスクについて被験者に十分に説明し,同意を得た.【結果】RCT群の下垂位から130°挙上位までの肋骨移動距離は,挙上方向へ平均5.8mmであった.最大は第7 肋骨の9.7mmであり,第7 肋骨から離れるに従い移動距離は小さかった.健常群では挙上方向へ平均5.2mmであった.最大は第5 肋骨の9.4mmであり,第5 肋骨から離れるに従い移動距離は小さかった.2 群を比較すると,第9,11 肋骨でRCT群の肋骨移動距離が有意に大きかった(p<0.05).すなわち,腱板断裂により肋骨運動の中心が尾側にシフトしていた. RCT群の下垂位から130°挙上位までの胸椎伸展角度は平均2.4°であった.健常群では平均3.8°であり差はなかった.RCT群における下垂位でのSSDは平均60.3mm,健常群では平均68.6mmであり,RCT群で有意にSSDが小さかった(p<0.01).下角の高さと,肩甲棘の傾斜には差がなかった.すなわち,腱板断裂により肩甲骨は内転位に変化していた.【考察】本研究より,上肢挙上に伴う肋骨運動は,健常者では第5 肋骨を中心に挙上するのに対し,腱板断裂患者では第7 肋骨中心に挙上することが明らかとなり,腱板断裂により肋骨の運動中心が尾側へシフトすることが明らかとなった.また,腱板断裂に伴い肩甲骨の位置は内転位に変化することが明らかとなった.従来の報告によると,腱板断裂に伴い肩甲骨他動運動と肋骨運動が制限される可能性が指摘されている.また,肩甲骨位置異常は,肩甲骨周囲筋のバランス異常の存在を示唆している.この事実は,肩甲骨周囲での胸郭運動が制限されていることを示しており,これを代償するために,胸郭運動の中心が尾側へ移動した可能性が考えられた.【理学療法学研究としての意義】腱板断裂が、肩甲骨の位置と肋骨運動パターンに影響を与えることが明らかとなった.肩甲上腕関節のみならず,肩甲骨位置や肋骨運動パターンを考慮することで,より有効な理学療法を提供できる可能性がある.
著者
兒玉 吏弘 松本 裕美 川上 健二 井上 仁 兒玉 慶司 木許 かんな 坪内 優太 原田 太樹 原田 拓也 片岡 晶志 津村 弘
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1298, 2015 (Released:2015-04-30)

【目的】頚椎症性脊髄症(CSM)患者の中に呼吸機能障害を呈する患者はどの位いるのか調査すること【方法】2009年4月から2011年3月までの期間にCSMと診断され,当院整形外科で手術を施行された70例(男性42例,女性28例,平均年齢70.8歳)を対象とした。年齢をマッチングさせた変形性膝関節症患者を比較対照群とし,2012年8月から2014年6月までに変形性膝関節症と診断され手術目的で入院した患者66例(男性11例,女性55例,平均年齢70.2歳)を検討した。いずれも後方視的にカルテより情報を抽出した。呼吸機能は肺活量,努力性肺活量,1秒量を測定した。CSMの重症度の評価は日本整形外科学会の頚髄症治療判定基準(JOAスコア)とBathel Indexを用いた。【結果と考察】CSM群の%肺活量と%努力性肺活量は,膝OA群と比べ有意に低下していた。換気障害の分類は,CSM群と膝OA群では,正常61%と85%,拘束性換気障害33%と3%,閉塞性換気障害3%と12%,混合性換気障害3%と0%であった。CSM患者のJOAスコアの平均は9.2点/17点満点,Bathel Indexは75.2点であった。膝OA群のBathel Indexの平均は95.5点であった。CSM患者の%肺活量はJOAスコア及びBathel Indexとの正の相関(r=0.43/r=0.68)を認めた。一方,膝OA群では,肺機能とBathel Indexとの間に相関関係は認めなかった。今回の結果より,JOAスコアが低く日常生活における介助を要しているCSM患者は非顕在性に%肺活量が低下している可能性があり,呼吸器合併症予防として診断早期からの呼吸理学療法が必要と考えた。
著者
坂本 梨花 羽﨑 完
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100785, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】呼吸は,胸郭の運動によって可能となり,胸郭の運動は肋骨の運動によって可能となる。肋骨は,肋椎関節で脊柱と連結されている。したがって,呼吸には脊柱の運動も関係していると考えられる。実際,脊柱を屈曲させると肋間隙が狭小し,脊柱を伸展させると肋間隙が拡大することが知られている。一方,加齢により身体機能は低下するが,脊柱では可動域制限が起こる。また一般に高齢者では呼吸機能が低下している。我々はこれまで,高齢者の最大呼気・最大吸気時の胸椎の変位量と呼吸筋力の関係を検討し,高齢者は,呼吸筋力,特に呼気筋力の低下の代償として胸椎を過剰に屈曲させることを明らかにしてきた。本研究の目的は,高齢者の安静時の胸椎アライメントおよび胸椎の可動域と胸郭可動性の関係を検討することである。【方法】高齢女性19 名,平均年齢80.1 ± 5.9 歳を対象とした。平均身長は150.4 ± 4.0cm ,平均体重は49.4 ± 8.5kgであった。また,対象者は独歩可能な高齢者であり,脊柱に痛みがなく,呼吸器に疾患を持たないものとした。胸椎アライメントの測定は,体表面上より脊椎の各椎体間の角度を測定できるスパイナルマウスを使用して行った。被験者に背もたれの無い椅子に楽な姿勢で座らせ,安静時・最大屈曲時・最大伸展時の脊柱アライメントを測定した。胸郭の可動性の測定は,メジャーを使用して行った。被験者に背もたれの無い椅子に楽な姿勢で座らせ,安静時・最大呼気時・最大吸気時の腋窩部胸郭周径(以下,上部),剣状突起部胸郭周径(以下,下部)を測定した。解析は,胸椎の可動域では,胸椎屈曲可動域(最大屈曲−安静時),最大伸展可動域(最大伸展時−安静時)を算出した。胸郭可動性については,最大呼気時から最大吸気時までの変位量(以下,最大胸郭可動性)・安静時から最大呼気時までの変位量(以下,最大呼気時の胸郭可動性)・安静時から最大吸気時までの変位量(以下,最大吸気時の胸郭可動性)を算出した。そして,安静時の胸椎アライメントおよび胸椎の可動域と胸郭可動性の相関係数をスピアマンの順位相関にて求め検討した。【倫理的配慮、説明と同意】各被験者には本実験を行う前に本研究の趣旨を文章ならびに口頭で十分に説明した上で,研究参加の同意を得た。【結果】胸椎屈曲可動域は平均17.56 ± 10.55°,胸椎伸展可動域は平均10.68 ± 7.26°であった。上部の最大呼気時の胸郭可動性は平均-0.158 ± 0.46cm,最大吸気時の胸郭可動性は平均1.579 ± 0.67 cmであった。下部の最大呼気時の胸郭可動性は平均-0.395 ± 0.55 cm,最大吸気時の胸郭可動性は平均1.342 ± 0.78 cmであった。安静時の胸椎アライメントと上部の最大胸郭可動性では-0.595(p>0.01)の有意な負の相関が認められた。安静時の胸椎アライメントと下部の最大胸郭可動性では-0.326 で有意な相関は認められなかった。胸椎の最大屈曲可動域と上部の最大胸郭可動性では0.1181,下部の最大胸郭可動性とでは-0.079 で相関は認められなかった。胸椎の最大伸展可動域と上部の最大胸郭可動性では0.105,下部の最大胸郭可動性とでは-0.113 で有意な相関は認められなかった。【考察】胸郭可動性から,高齢者では最大呼気時に上部および下部胸郭共にほとんど動かしていないことがわかった。つまり高齢者では,呼気時に十分に肋骨を下制できていないと言える。胸椎の安静時アライメントと上部の最大胸郭可動性で有意な負の相関関係が認められた。(p<0.01)これは,胸椎が安静時に後弯しているほど,上部の胸郭の動きが制限されることを示している。胸椎が屈曲位になると肋骨は上下方から集束が起こり肋間隙は狭小化する。その肋骨が狭小化された状態で肋骨を挙上しようとしても,肋骨が動ける範囲は小さくなるためこのような結果となったと考えた。一方,下部の最大胸郭可動性では相関が見られなかったのは,下部肋骨は浮肋であることや,上部肋骨では2 つの椎体と関節をなすが下部では単独の椎体と関節をなし,下部の肋椎関節は平面で横の位置で高さを変えるので胸椎後弯の影響を受けにくいのではないかと考える。胸椎の可動域と胸郭の変位量ではいずれも相関が認められなかった。このことから,安静時の胸椎弯曲状態が胸郭の動きに関係していることがわかった。【理学療法学研究としての意義】今回明らかになった高齢者の安静時の胸椎アライメントおよび可動域と胸郭可動性の関係は,高齢者に対する胸郭可動域改善のためには胸郭だけにアプローチするのではなく胸椎に対してもアプローチすることが重要であることがわかった。
著者
浅野 大喜 福澤 友輝 此上 剛健 信迫 悟志 森岡 周
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1002, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】何らかの障がいを抱える子どもの親は,育児に対するストレスが高く,それが養育態度に影響することが知られている(眞野ら,2007)。また親の養育態度は子どもの行動にも影響を与える(Williams, et al., 2009;Rinaldi, et al., 2012)。本研究の目的は,身体および知的障がい児の母親の養育態度について調査し,定型発達児の母親の養育態度と比較すること,また母親の養育態度と障がいをもつ子どもの問題行動との関係について調べることである。【方法】対象は,身体障がい児や知的障がい児をもつ母親32名(以下,障がい群)と定型発達児の母親48名(以下,定型発達群)の計80名である。除外基準は子どもが3歳未満の場合,子どもの移動能力が屋内自力移動困難な場合とした。養育態度の評価は,Robinsonら(1995)の養育スタイル尺度をもとに中道・中澤(2003)によって作成された16項目(“応答性”の養育態度8項目,“統制”の養育態度8項目)を使用し,5段階のリッカート尺度で母親に回答を求めた。得られた結果に対して確証的因子分析を行い,“応答性”4項目,“統制”4項目が抽出されたため,それらの平均値をそれぞれの養育態度の指標とし,2群間で比較した。また,障がい児の問題行動を調べるために,子どもの行動チェックリスト(Child Behavior Checklist:CBCL)を用いて母親に評価の遂行を要求し,得られたものから内向尺度(内在化行動),外向尺度(外在化行動),総合点のT得点を算出した。そして,子どもの問題行動と母親の養育態度,子どもの年齢との関係について調べるため,問題行動を目的変数,子どもの年齢と母親の応答性,統制の各養育態度を説明変数とした重回帰分析(強制投入法)を実施した。統計学的有意水準は5%とした。【結果】両群の子どもの年齢,男女比,第一子の割合に有意な違いはなかった。母親の養育態度の比較では,応答性の養育態度に2群間で違いはなかったが,統制の養育態度は障がい群が定型発達群よりも有意に低かった(p<0.01)。重回帰分析の結果,子どもの問題行動全体と有意に関連する因子として統制の養育態度が抽出された(β=-0.40)。また内在化問題行動については,年齢のみが有意な説明変数として抽出された(β=0.37)。【結論】障がい児の母親は統制の養育態度が定型発達児の母親よりも低かった。子どもの問題行動については,年齢とともに内在化問題行動が高くなる傾向があったが,問題行動全体としては母親の統制の養育態度が高いほど子どもの問題行動が少ない傾向が明らかとなった。
著者
妹尾 浩一 橋立 博幸
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】維持期脳卒中者に対するリハビリテーション効果については,通所介護施設における12か月間の介入効果や,入院リハビリテーションにおける集中的な介入効果に関する報告がなされているが,障害者支援施設におけるリハビリテーション効果についての報告は見当たらない。また,脳卒中者では発症から6か月または12か月を経過して維持期へ移行すると麻痺および機能障害の回復が停滞しやすくなると考えられているが,維持期脳卒中者における発症からの期間と介入効果との関連については十分に検証されていない。本研究では,維持期脳卒中者における障害者支援施設入所中の長期的なリハビリテーションが退所時の歩行機能に及ぼす効果を検証するとともに,介入によって改善した歩行機能と入所時身体機能または発症からの期間との関連を検討することを目的とした。【方法】障害者支援施設にてリハビリテーションを実施した32人中,入所時に歩行可能で脳出血または脳梗塞片麻痺を罹患した17人(年齢46.6±7.6歳,左/右片麻痺8/9人,下肢Brunnstrom recovery stage(下肢BRS)3/4:13/4),発症から入所までの期間(421.4±185.1日),mini-mental state examination(MMSE)24.5±6.7点,コース立方体組み合わせテスト(Kohs)63.7±40.4点,trail making test part A(TMT-A)150.2±56.7秒))を対象とした。入所中のリハビリテーションは理学療法(PT)と作業療法を各2時間,各週4回実施した。主なPT介入は,関節可動域運動,筋力増強運動,持久性運動,バランス練習,歩行練習,屋外外出練習を実施し,理学療法士が主導で行うのではなく対象者が主体的に取り組めるように内容を設定した。評価項目は入所時および退所時において,下肢BRSとともに,歩行機能について10m歩行時間(WT),timed up and go test(TUG),実用的歩行能力分類(PAS)にて評価した。PASは,歩行不能:class0から公共交通機関自立:class6までの7段階で歩行能力の実用性を評価した。統計学的解析は,入所時および退所時の下肢BRS,WT,TUG,PASの各指標についてWilcoxon符号順位和検定を用いて比較した。次に,入所時に対する退所時の各指標の変化率(%)を求め,入所時の下肢BRSおよび発症から入所までの期間とのSpearman順位相関係数を算出した。さらに,発症から入所までの期間に基づいて対象者を1年未満群と1年以上群の2群に分け,各群における各指標をMann-Whitney検定を用いて群間比較した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,ヘルシンキ宣言に基づいて概要を対象者に説明し,同意を得て実施した。【結果】入所から退所までの期間は298.8±81.8日であり,入所中のリハビリテーション実施日数は168.1±45.1日であった。入所・退所前後で下肢BRSには有意差を認めなかったが,歩行機能においては入所時(WT34.5±25.6秒,TUG37.3±28.0秒,PAS2.7±0.7)と比較して,退所時(WT26.1±16.1秒(変化率28.7±28.9%),TUG30.0±19.2秒(変化率25.9±35.0%),PAS4.1±1.3(変化率50.0±27.0%))ではいずれも有意な向上が認められた。また,歩行機能の変化率と入所時下肢BRSまたは発症から入所までの期間との間には有意な相関は認められなかった。さらに,発症から入所までの期間1年未満群と1年以上群の比較では,歩行機能(WT,TUG,PAS)の変化率,入所時の下肢BRS,高次脳機能(MMSE,Kohs,TMT-A)のいずれも有意な群間差は認められなかった。【考察】障害者支援施設に入所した維持期脳卒中者に対して平均168.1日のリハビリテーションを実施した結果,入所時と比較して退所時におけるWT,TUG,PASが有意に改善し,12か月間の運動介入により歩行機能が有意に改善したという先行研究を支持する結果となった。本研究では16時間/週の介入を実施したが,維持期脳卒中者においても集中的にリハビリテーションを実施することによって歩行機能および歩行自立度を向上できる可能性があり,これまでに推奨されているエビデンスに基づいて練習量をより多くすることが維持期脳卒中者の歩行機能改善においても重要であると考えられた。また,歩行機能の変化率と発症から入所までの期間または入所時下肢BRSとの間には有意な相関は認められず,脳卒中発症から6か月以上1年未満の群と1年以上の群で歩行機能改善の有意な群間差がなかったことから,発症からの期間や介入開始時の運動麻痺によって必ずしも歩行機能改善効果の程度が決定されるとは限らないと推察された。【理学療法学研究としての意義】障害者支援施設において,維持期脳卒中者に対するリハビリテーション介入をより多くの練習量にて積極的かつ長期的に実施することで,維持期であっても歩行機能改善効果が得られる可能性があることを示した。
著者
池谷 充弘 石塚 ちあき 安本 弥生 吉本 麻美 長澤 充城子 黒川 誠子 齋藤 薫 隆島 研吾
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.G-100_1-G-100_1, 2019

<p>【はじめに・目的】</p><p>前回調査では地域在住損傷者の歩行能力(10m歩行タイム〔快適/最速〕・6分間歩行距離・TUG)と生活空間の広がりの関係性について調べ、生活空間が「自宅から800m以内の群」と「800m以上の群」では歩行能力に有意差が見られたが、「800m以上16km以内の群」と「16km以上の群」では有意差は見られず、歩行能力だけでは両群を区別できないという結果となった。今回調査では歩行能力評価とともに認知機能を加えて移動能力にどのような影響を与えるのか比較検討した。</p><p>【方法】</p><p>2010.5~2018.5に当施設の自立訓練事業を利用した106名。平均年齢49.5歳、発症からの期間35.7ヶ月、主な疾患名は脳出血(47%)・脳梗塞(24%)・くも膜下出血(13%)、麻痺の部位は右片麻痺(49%)・左片麻痺(27%)、四肢麻痺(14%)・麻痺なし(10%)、下肢Br-stageはⅢ(36%)・Ⅳ(17%)・Ⅴ(30%)・Ⅵ(7%)、使用している主な歩行補助具はT字杖(51%)・なし(32%)・四点杖(9%)、下肢装具はなし(43%)・SHB(33%)・SLB(18%)。認知検査ではWAIS-Ⅲを可能な範囲で実施しクラス分類ごとに平均値を算出した。外出実態状況から利用者の移動能力を小林らが作成した『実用的歩行能力分類(改訂版)』を用いて各クラスに分類した。(class2「平地・監視歩行」:11名、class3「屋内・平地自立」:23名、class4「屋外・近距離自立」:13名、class5「公共交通機関限定自立」:19名、class6「公共交通機関自立」:40名)各クラスごとに歩行能力とWAIS-Ⅲの平均値を比較した。統計処理は一元配置分散分析および多重比較を行った。</p><p>【結果】</p><p>10m歩行タイム〔最速〕とTUGで屋内歩行自立群(class2・class3)と屋外歩行自立以上の群(class4・class5・class6)で有意差あり(p<0.01)。6分間歩行距離で屋内歩行自立群(class2・class3)と公共交通機関利用群(class5・class6)で有意差あり(p<0.01)。歩行能力とWAIS-Ⅲのいずれの項目でも公共交通機関利用限定自立(class5)と自立(class6)で有意差はみられなかった。</p><p>【結論】</p><p>10m歩行タイム、6分間歩行距離、TUGによる歩行能力評価は、前回調査結果と同様に歩行自立が屋内レベルか屋外レベルに広がるかの判断材料になる可能性が示唆された。しかし歩行能力評価やWAIS-Ⅲ(平均値)の今回選択した指標についても公共交通機関利用の自立を見極めるには有効でなかった。今後は、class5とclass6の差を生じさせる因子について、各症例の状況を分析することにより、歩行能力評価や認知機能検査や環境なども含めて探っていきたい。また、生活範囲が大きく異なる、公共交通機関が利用できる群(class5と6)と屋外近距離自立に留まる群(class4)の差の要因についても検討をしていきたい。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>当施設の臨時倫理委員会にて承認を得た。</p>
著者
廣野 知子 田島 徹朗 廣野 拓
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.E0291, 2004

【はじめに】今回、先天性両上肢欠損女児を担当する機会を得た。両上肢の欠損が先天性ということもあり、これまでにほとんどのADLを、両下肢と残存上肢によって獲得している。また、学校生活においても普通小学校であるにも拘わらず、30人といった小規模校で複式学級であるため、級友や学校の受け入れ態勢が整っている。なお、いじめ等の問題もなく、クラブ活動をはじめ社会参加も積極的に行なわれていた。しかし、第二次成長期(思春期)にさしかかるに伴い、機能的・心理的問題に変化が生じ、特に、女性特有の月経処置動作が問題となってきた。今回、機能面を考慮しつつ、月経処置動作について、若干の考察を加え報告する。<BR>【症例】10歳女児 診断名:先天性両上肢欠損(原因は不明)身長142.0cm 上肢長右20.0cm、左29.0cm(骨折による内反変形強度)左上肢は、X-P上、肘関節が確認できるが、関節機能は有しておらず、骨性強直状態である。来院目的として、成長に伴う1)新たな義手作成、2)月経の処置方法、3)ハムスト短縮に伴うADLの制限、4)肩甲帯挙上および外転変形(左>右)が上げられる。<BR>【経過及び考察】現在、6歳時に作成した両上腕義手(両側フック)にて、義手の基本操作は獲得されている。また、ADLは、両下肢と残存上肢の機能のみでほぼ自立している。しかし、更衣動作において、下着を上げる動作は、右側が短肢であるため十分に引き上げられず、介助を要することが多い(ゴムの緩いものであれば可能)。現在、対策として新しい電動義手を用いることを検討してはいるが、機器の対応サイズ・重量・左上肢の変形の問題により、使用に十分耐えうる義手の早急な作成が難しい状況である。また、本人・両親は義手なしでの動作獲得も希望しているため、同時に両下肢と残存上肢での動作獲得も目標として取り組んでいる。本症例は、障害が先天性であることから、上・下肢に十分な機能を有しているため、それを生かし、環境を整備することを一番に考えた。まず、1)月経処置動作を多種多様の生理用品サンプルを利用して、実際に行わせ、その方法を検討した。2)トイレは、洋式を想定し、上・下肢にてナプキンをショーツにセッティングできるように、前方に15cmの台を設置した。しかし、この環境設定は、自宅及び学校等の限られた生活範囲内での問題は解消されるものの、その他の場面においては十分とはいえず、現在もその方法を検討中である。また、下着を上げる動作において、生理用ショーツは、肌への密着度が非常に高く、自力での着用が困難となっている。このため、ショーツにリング・フックを取り付けるなど、自力での着用ができるよう考案中である。また、今後は、子供から大人へと心理面の変化も伴うため、心のケアも含め、社会に対する適応性を高めることを課題にしながら、当面は中学校進学への準備(環境設置等)に取り組んでいく予定である。
著者
今井 伸也 山本 麻衣 山本 尚美 山本 和明 重松 忠
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】近年,がん患者に対するリハビリテーション(以下,リハ)の重要性が注目されている。当院は,急性期病院であるが,「がん診療連携拠点病院」の基準に準じた,滋賀県独自の「地域がん診療連携支援病院」の指定を受けている。平成25年より,がん患者リハビリテーション(以下,がんリハ)を実施している。終末期を迎えたがん患者が,残された人生を本人らしく,尊厳を保ちQOLの高い生活を送れるように身体的,精神的,社会的にも支援することは,緩和的リハの重要な目的である。今回,入院中の終末期がん患者の外出について調査し,理学療法士の役割について検討したので報告する。【方法】平成25年4月から平成26年3月に,入院中にリハを実施したがん患者294例の中で死亡退院した36例(男性21例,女性15例,平均年齢66.1±13.0歳)を対象とした。外出された患者をA群,外出されなかった患者をB群とした。それぞれ,性別,年齢,入院日数,入院からリハ開始までの日数,リハから死亡退院までの日数,リハ実施日数,外出から死亡退院までの日数,リハ介入時のFIM(運動項目),リハ介入時のFIM(認知項目),外出手段,外出理由と感想,未外出理由を,後方視的にカルテから抽出し調査した。数値は平均値±標準偏差で表記した。【結果】性別はA群が男性1例,女性5例,B群が男性20例,女性10例。平均年齢はA群が59.5±12.5歳,B群が67.4±12.9歳。入院日数はA群56.2±28.6日,B群が38.3±46.7日。入院からリハ開始までの日数はA群14.5±20.5日,B群9.2±15.7日。リハ開始から死亡退院までの日数はA群56.2±28.6日,B群29.3±44.3日。リハ実施日数はA群20.3±12.9日,B群12.0±21.2日。外出から死亡退院までの日数は10.5±6.8日。リハ介入時のFIM(運動項目)はA群53.0±31.8点,B群40.4±28.8点。リハ介入時のFIM(認知項目)はA群28.0±5.6点,B群21.4±13.6点。外出手段は歩行1例,車椅子3例,ストレッチャー2例。外出理由は,「墓参りやお世話になった開業医や近所の人に会いたい」,「家で過ごしたい」などの理由であった。外出した全症例は,本人と家族ともに外出を希望された。外出後の感想は,全症例が「外出してよかった」,「希望をかなえさせてあげられてよかった」と肯定的であった。未外出理由は,全身状態が不安定で主治医の許可が出ない,提案したが「家族に迷惑をかける」・「病院の方が安心できる」・「家でやりたいこともない」,家族が「メリットが分からない」,外出希望が無く提案する機会も無かった,などの理由であった。【考察】今回の調査の中でA群は6例と少数であったが,全例が肯定的な感想を述べていた。A群は入院日数およびリハ開始から死亡退院までの日数,リハ実施日数が長いことから,理学療法士と関わる期間は長く本人・家族との関係が構築されており,身体機能の評価やニーズの把握が容易であった。リハ介入時のFIM(運動項目)を比較してもA群の方が高く,理学療法士の介入により身体機能やADLが維持され,希望に応じた外出の提案につながったと考える。また,年齢をみるとA群の方がやや若年であり,リハ介入時のFIM(認知項目)も高い。外出に対する意欲の維持や思いの表出,家族との話し合いが可能であったため,外出に対する家族側の受け入れも良好であったのではないかと考える。外出方法については歩行,車椅子,ストレッチャーとばらつきはあったが,安楽な手段を提案することでADLの状態に関係なく外出することができた。適切な身体機能評価および指導を行い,疲労や不安を感じることなく外出できるよう援助することが重要と考える。一方,B群について,外出しなかった理由において,家族の負担を考え拒否したり,本人や家族からの希望がなく関わるスタッフからも積極的な提案を行えていないケースを認めた。リハ介入時のFIM(認知項目)が低く,本人の意志が明確でない患者に対しては,本人や家族の思いを確認するような働きかけも重要であると考える。がん終末期患者は状態が変化しやすく,理学療法士は適切な介入が要求される。その中で入院中の外出は患者の残された時間,限られた能力の中でニーズを叶え,多職種の関わりにより多くの患者が実現可能な活動であるといえる。理学療法士として,身体機能やADL評価と合わせ,本人の思いを引きだし家族の十分な理解のもと環境整備を行った上で,最良の時期を見極められるような関わりが重要である。【理学療法学研究としての意義】入院中のがん終末期患者の外出は多職種連携が重要であり,理学療法士もチームの一人として積極的な関わりが必要である。
著者
片山 望 三浦 利彦 本間 優希 石川 悠加
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.DbPI1367, 2011

【目的】<BR> 高位頸髄損傷の長期呼吸管理は、気管切開下での人工呼吸管理となることが多い。しかし、侵襲に伴う合併症が起こり得るだけでなく、様々なADL上のデメリットが生ずる。今回、当院で高位頸髄損傷における気管切開人工呼吸(TPPV)管理から、非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)へ移行した症例を経験したので報告する。<BR>【方法】<BR> 症例は45歳男性。ラグビーの試合中に受傷し、搬送先の病院でC3頸髄損傷(ASIA-A)と診断され、術後も自発呼吸無くTPPV管理となった。第41病日、人工呼吸器離脱と在宅療養移行目的で大学病院へ転院するが、離脱困難。第252病日、長期療養目的で転院。第411病日、気管カニューレによるトラブル、在宅ケアシステム確立困難にて家族・症例の希望と日本せきずい基金からの紹介により、NPPVへの移行目的で当院へ転院。当院よりDr・Nsが迎えに行き、民間航空や障害者移送サービスを利用し搬送となった。当院入院時は自発呼吸無く、C4以下の運動知覚麻痺の完全四肢麻痺。読唇にて意思伝達可能。カフ圧抜くとわずかに発声も可能。吸引時、気切孔からの出血あり。入院当日から気管切開チューブ抜去の準備として、カフ圧・酸素投与量の軽減、SpO2が確保できるように人工呼吸器の機種変更や設定を行った。頭頸部側方から撮影したX-Pで上気道狭窄がないことを確認し、気管カニューレをボタンで塞ぎ、NPPVの条件やインターフェイスの調整を行った。さらに、カニューレ抜去後、上気道の分泌物を喀出する為に器械的な咳介助(mechanical insufflation-exsufflation:MI-E)の導入も行った。<BR>【説明と同意】<BR> 症例とご家族へ事前に本報告の目的と内容を説明し、同意を得た。 <BR>【結果】<BR> 入院5日目、カフ圧なし、気切孔を塞いだ状態で、ナーザルマスクにてNPPV装着。胸腹部の呼吸運動、SpO2の維持を確認して気管切開チューブ抜去。気切孔には皮膚潰瘍治療用ドレッシング材を貼付。抜去直後、SpO2は98~99%(room air)、HR60bpm前後、PtCO2は40~44cmH2Oと安定した。その日の夜にSpO2が80%台まで低下。MI-EとPTによる徒手介助にて、血性粘調痰喀出し、SpO2は正常値となった。しかし、分泌物貯留によるSpO2の低下と呼吸苦が繰り返されるため、病棟NsかPTによる一時間毎と、モニター下でSpO2<95%になった場合にMI-Eを行った。抜管2日目には車いすに乗車し、食事もNPPV下で摂取可能となった。抜去後数日は、MI-Eの回数は平均10回/日と多かったが、抜去後2週間後からは、食事などでムセない限り3回/日で安定。抜去後18日目、気切孔は自然閉鎖。呼吸機能については、(1)肺活量、(2)最大強制吸気量(maximum insufflation capacity:MIC)、(3)咳の最大流量(cough peak flow:CPF)を計測。抜去直後(1)150ml(2)1,000ml(3)0L/min、抜去後2週間後(1)200ml(2)1,500ml(3)75L/minであった。<BR>【考察】<BR> TPPVはカニューレや頻回の吸引による気道の潰瘍、肉芽の形成、感染や気道分泌物の亢進、発声困難や嚥下障害などあらたな合併症を引き起こすことが多い。また、医療的ケアの困難さから、介護者の負担やケアシステムの構築に問題が多い。それらの問題点をNPPVでは回避することができるが、NPPVの安全で効果的な活用には、気道クリアランスの問題が挙げられる。本症例は呼吸筋の麻痺に加えて、約一年間の気管切開による喉咽頭機能の低下があり、徒手的な呼気・吸気介助では、排痰は困難であった。そこで、抜管時には気道クリアランスの維持として、MI-Eと徒手介助を集中的に行うことで再挿管に至らず、NPPVへの移行が可能となった。また、気道確保の手段が確立していることで、経口摂取を試みることができ、数日後には発話も聞き取りやすい程に喉咽頭機能の回復がみられた。本症例のように、痰の自己喀出が困難であっても、気道クリアランスが維持できる手段を確保していれば、高位頸髄損傷はNPPV管理下でも十分なQOLを維持できると考える。今後は、家族へのMI-E指導や、症例に胸郭や肺のコンプライアンスを維持するための深吸気練習の指導、また、呼吸器を使用せずに吸気を行なえる舌咽頭呼吸を獲得することで、人工呼吸器からの離脱が短時間でも可能になれば、食事や入浴などのADL、リスクマネジメントにも有用であり、在宅生活を可能にするケアシステムが構築される可能性も出てくると思われる。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 欧米では神経筋疾患の分野において、NPPVやMI-Eの使用により気道クリアランスを維持することで、気管内挿管の回避や抜管を促進し、QOLの維持、医療コストの削減になるという報告がある。しかし、本邦における理学療法の介入の報告はまだ少ない。本報告は、今後の頸髄損傷の医療的・社会的ケアシステムの構築について意義のある知見を提供できるものと思われる。
著者
河野 裕治 山田 純生
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.D0647, 2004

【はじめに】労作時疲労感の軽減を目的とした換気補助(PAV)の先行研究は、これまで主に呼吸器疾患患者に対して行われており、健常人を用いた検討も十分でない。健常人を用いたこれまでの研究では、最大酸素摂取量の近傍の強度や漸増負荷を採用しており、廊下歩行など臨床場面への応用には実験条件が異なるため更なる基礎的検討が必要とされていた。本研究ではPAVの臨床応用を想定し、健常人を対象としてPAVによる生体反応を検討した。<BR>【対象と方法】喫煙歴、肺疾患歴のない健常成人11名(男性8名、女性3名)を対象とした。最初に自転車エルゴメータを用いた心肺運動負荷試験を行い、呼気ガス分析より各被験者の嫌気性代謝閾値(AT)を求めた。次にATの90%の負荷量で12分間の自転車エルゴメータ駆動をPAV無しで行う実験1と、12分間の後半6分間にPAVを行う実験2の2施行を行なった。PAVはミナト医科学(株)製Hyper Reflex HR50を改造し90L/分の吸気PAV装置を作成した。運動時の吸気補助は被験者が手動スイッチを操作することにより行った。こうして、実験1、2における運動後半6分間における主観的疲労度(Borg指標)、心拍・血圧反応ならびに呼吸ガス代謝指標を比較・検討した後、運動6分目と12分目の各指標の変化度よりBorg指標の変化に関連する要因を調べた。統計手法は時間を主効果とする二元配置分散分析ならびにPearsonの積率相関係数を用いた。有意水準は5%とした。<BR>【結果】実験1、2ともVO<SUB>2</SUB>は定常状態を示した。VEは実験1では6分以降も時間と共に増加し続けたのに対し、実験2ではPAV開始直後から低下した。VE 同様、他の生理学的指標もPAV開始直後から低下したが、Borg指標はPAV開始4分目から低下を示し、他の指標との時間的ズレが認められた。PAVにより増加が見られた指標はTVEのみであり、VE、RR、VE/ VCO<SUB>2</SUB>、ETO<SUB>2</SUB>、Borg(C)、Borg(L)、DP、HR、BPは全て有意な低下を示した。Borg指標の変化度と関連する生理学的指標は認められなかった。<BR>【考察】PAVにより主観的指標、換気指標ならびに心拍・血圧指標は低下を示した。これはPAVによる吸気筋の仕事量を軽減させた結果もたらされたものと思われた。しかし、主観的労作度の関連要因は今回の検討からは特定できずPAVの条件設定や症例を増やして今後検討すべき課題となった。<BR>【結語】AT以下の低強度運動負荷時においても、PAVは主観的労作を軽減し、呼吸ガス代謝ならびに心拍・血圧指標を低下させることが確認された。今後は呼吸ガス代謝ならびに他の関連指標との検討から、PAVによる労作軽減機序に関する検討を進めることが必要と思われた。
著者
鈴木 康文 丸山 仁司
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.A0901, 2004

【目的】<BR> 筋肉系は持続的な運動負荷によって、筋細胞と関節や筋の結合組織の発達が促進される。その結果、筋の太さ、横断面積が増大し、最大筋力の増加をもたらす。そして、筋肉内毛細血管の増加をきたさせ、筋肉に対する循環血液量を増大させる。このことから、最大筋力が高ければ筋肉内毛細血管数は多く血液供給能力が高いと推定でき、自転車エルゴメーターのペダル踏み運動などで漸増負荷運動を行なわせると、最大筋力が高いほど相対心拍数における仕事率が大きいと考えられる。そこで、本研究では自転車エルゴメーターを用いた漸増負荷運動を行い、目標心拍数(心拍数の増加率50%)に至ったときの作業強度(PWC <SUB>HR50%</SUB>)を測定し、PWC <SUB>HR50%</SUB>に影響を及ぼしている因子について検討した。<BR>【対象と方法】<BR> 対象は地域情報誌にて体力測定の参加を募集し、体力測定によって悪化が予想される内科的・整形外科的問題がないと医師に判断された60歳以上の中高齢者11名(平均年齢71.9±4.2歳)とした。PWC <SUB>HR50%</SUB>と下肢筋力、酸素運搬能力との関係を検討するために、PWC <SUB>HR50%</SUB>と膝伸筋群の60deg/secにおける最大トルク、赤血球数およびヘモグロビン量とについてPearsonの相関係数を算出した。さらに、PWC <SUB>HR50%</SUB>に関与している因子の影響力を検討するために、目的変数をPWC <SUB>HR50%</SUB>とし、年齢、体重、身長、60deg/secにおける最大トルク、赤血球数、Hb量の6変数を説明変数として、変数増加法による重回帰分析を行った。<BR>【結果および考察】<BR> PWC <SUB>HR50%</SUB>と60deg/secにおける最大トルクとの間に有意な相関(r=0.76)がみられ、60deg/secにおける最大トルクが大きいほど、PWC <SUB>HR50%</SUB>が高くなる傾向を示した。PWC <SUB>HR50%</SUB>と赤血球数、Hb量とには有意な相関が認められなかった。また、重回帰分析の結果、negative変数として年齢、positive変数として60deg/secにおける最大トルク値が採択され、重相関係数は0.81(p&lt;0.05)であった。また、この2つの説明変数のうち、どちらがPWC <SUB>HR50%</SUB>により大きな影響を与えているのかを標準偏回帰係数の絶対値で比較すると、年齢(β=0.295)より60deg/secにおける最大トルク値(β=0.795)のほうが大きく、PWC <SUB>HR50%</SUB>に及ぼす影響の強さは、年齢より60deg/secにおける最大トルク値のほうが大きいことが示された。<BR>本研究からPWC <SUB>HR50%</SUB>と60deg/secにおける最大トルク値との関連性が強いことが明らかになり、下肢の最大筋力を推定するのにPWC <SUB>HR50%</SUB>の測定が有効である可能性が示された。
著者
須賀 康平 伊橋 光二
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.D3P3499, 2009

【目的】<BR> 咳嗽機能は呼吸器系の感染防御の重要な機構の一つである.喘息、肺がん術前、肺炎軽快後の高齢者を対象とした咳嗽力低下に関する報告では、肺実質および末梢気道の特性変化、呼吸筋の筋力低下と相互協調性低下、声門閉鎖不全などを咳嗽力低下の要因に挙げている.咳嗽力低下の要因のうち呼吸筋の筋力低下を電気刺激で補う研究は脊髄損傷を対象としたものはあるが、寝たきり高齢者を対象としたものは見当たらない.そこで今回は、寝たきり高齢者を想定し、その基礎研究として健常者を対象に擬似的咳嗽力低下状態を電気刺激で改善できるか研究を行った.咳嗽力の指標としては咳嗽時最大呼気流速(以下PCF:Peak Cough Flow)と咳嗽時最大呼気筋力(以下PEmax:Peak Expiratory max)を用いた.<BR>【方法】<BR> 本研究は内容を説明し,同意の得られた健常男性20名(年齢21.3±1.1歳、身長169.7±5.5cm、体重65.2±13.7kg、肺活量4.62±0.45L、努力性肺活量4.49±0.41L)を対象に行った.測定には呼吸機能検査機器Multi-Functional SPIROMETER(HI-801 CHEST社製)を用い、FVCモードでPCF、呼吸筋力測定モードでPEmaxを測定した.まず背臥位にて、安静吸気からの最大努力咳嗽をPCFとPEmaxにて測定し、その50%の値での咳嗽を練習させ、±10%の誤差範囲内で3回連続成功した状態を擬似的嗽力低下状態とした.この状態での咳嗽を12回行い、ランダムに6回の腹直筋電気刺激を加圧相に行い、この時のPCFとPEmaxを測定した.電気刺激の強度は10段階ペインスケールの8程度となるまで上げるという説明を対象者に対して行い、不快感を与えない程度の最大強度の設定を試みた.電気刺激条件は縦9cm横7cmの電極を腹直筋の4箇所に貼付し、周波数は50H<SUB>Z</SUB>とした.統計処理はPCFとPEmaxの各指標について電気刺激のない条件とある条件の各6回のデータを平均した.Shapiro-Wilk検定で正規性を確認し、PCFはWilcoxon の符号付順位検定で、PEmaxはt検定で検定を行い、各指標において電気刺激のない条件とある条件の差を比較した.有意水準は5%未満とした.<BR>【結果】<BR> PCFの電気刺激のない条件(中央値121.55L/min四分位範囲46.00L/min)と電気刺激のある条件(中央値156.90L/min四分位範囲74.95L/min)において有意な差を認めた.PEmaxでも電気刺激のない条件(43.54±11.30cmH<SUB>2</SUB>0)と電気刺激のある条件(50.55±13.53cmH<SUB>2</SUB>0)において有意な差を認めた.<BR>【考察とまとめ】<BR> 腹直筋電気刺激によりPCFとPEmaxのどちらにも有意な増加が見られ、この方法を用いて咳嗽の介助を行える可能性が示唆された.今後、異なる電気刺激条件や、実際に高齢者を対象とした研究を行って効果を検証していく必要があると考えられる.
著者
松田 智行 上岡 裕美子 木下 由美子 鈴木 孝治 伊藤 文香 浅野 祐子 富岡 実穂
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.E4P3204, 2010

【目的】安心できる在宅療養を送るためには、在宅療養者と家族に対する被災予防と災害時の対処方法の準備が必要である。災害時の対処については、在宅療養者と家族、住民の自助と共助だけではなく、訪問看護ステーション(以下、訪問看護)、市町村、保健所を中心とした地域ケアシステムによる支援が必要である。そこで、本研究は、訪問看護師の協力を得て、地震時要援護者(以下、要援護者)となる在宅療養者の避難方法を検討した。今回は、避難方法を検討した5例のうち1例について報告する。なお、避難方法とは、被災予防への準備と、自宅から避難所までの避難練習とした。<BR>【方法】対象は、要援護者、避難を支援する家族と協力可能な近隣者(以下、支援者)、訪問看護師とした。本例の要援護者は、在宅療養期間が9年間の30歳代半ばの男性であった。主な疾患は、交通事故による脳挫傷であった。支援者は、母親と叔母であった。<BR>方法は、要援護者の避難方法の実施にあたり、自宅を訪問し、1)から3)の手続きに基づき実施した。<BR>1)事前調査<BR>要援護者の生活機能を把握するため、調査票を作成した。調査項目は、支援状況、居宅環境(主な生活の場所、自宅から避難所までの距離、移動と移乗機能、住宅環境)、療養状況(医療用器具の装着の有無、コミュニケーション)、身体運動機能(筋力、関節可動域、姿勢保持と体位変換能力)、希望する避難方法とした。<BR>2)避難方法計画の立案<BR>事前調査を基に、要援護者と支援者、訪問看護師、研究者(理学療法士、作業療法士、保健師各1名)が、避難方法計画を立案した。<BR>3)被災予防の説明と避難練習の実施<BR>避難方法計画を基に、要援護者と支援者に対して、被災予防への準備を説明し、避難練習を実施した。なお、避難練習経路は、自宅から避難所へ向かい、片道5分程度で移動できる範囲とし、避難練習の様子は、ビデオで撮影した。<BR>【説明と同意】対象者に対して、研究の内容を書面にて説明し、同意を得た。なお、本研究は、茨城県立医療大学倫理委員会の承認を受け、実施された。<BR>【結果】要援護者の支援状況に関して、訪問看護週3回、訪問診療週1回、短期入所月10日間を利用していた。居宅環境に関して、主な生活の場所は、寝室であった。自宅から避難所までの距離は、約2.5kmであった。移動と移乗機能は、ベッド移乗全介助であった。3年前は、移動式リフターを使用し、ティルトアンドリクライニング式車椅子(以下、車椅子)に乗車していた。住宅環境は、寝室から玄関までは段差がなかった。玄関は、幅が150cmであり、戸外まで既設スロープが設置されていた。療養状況に関して、医療用器具は、気管カニューレ、腸ろう、膀胱ろうを装着していた。コミュニケーションは、痛みに対する表出は可能であったが、言語理解は、困難であった。身体運動機能に関して、頸部と四肢の随意運動は困難であり、肩、股、膝関節可動域は、45度以上の屈曲は困難であった。姿勢保持は、座位は困難であり、体位交換は、自力では行えなかった。<BR>避難方法計画の立案過程において、母親は、地震時、要援護者をベッドに臥床させ、ベッドを押して移動する方法を考えていた。理学療法士が、背もたれを最大限に傾斜させた車椅子に乗車させ、戸外に移動する方法を提案し、母親の賛同を得た。この方法を、避難方法計画とし、実際に支援者が避難練習を行い、戸外まで安全に避難をすることができた。さらに、被災予防への準備として、日常品の備蓄、家具の転倒防止と落下物の防止による身体保護と避難経路の確保について説明した。<BR>支援者の地震時の避難に対する認識は、避難練習実施前は、「地震時には避難ができるか心配である。」であったが、実施後は、「避難が可能であることを知り、自信がついた。」と変化した。<BR>【考察】本例では、支援者が、実施可能な避難方法を考え難い状況であった。その中で、理学療法士が避難方法を提案し、避難練習を行い、安全に実施することができた。その結果、支援者は、避難をすることが可能であることを認識し、避難に対する自信を得ることができたと考える。安心できる在宅療養を送るためには、被災時の避難方法について検討し、実施することが、有効な手段であると考える。本研究は、訪問看護師の協力により実施したが、より広範囲な地域ケアシステムによる支援も含めた避難方法を検討する必要がある。そのため、今後は、訪問看護、市町村、保健所に、避難練習の記録映像を貸出ができるようにする予定である。<BR>本研究は、科研費(20659364)の助成を受けたものである。<BR>【理学療法学研究としての意義】地震時の理学療法士の関与は、避難所における活動に関する報告があるが、自宅から避難所までの避難方法に関する報告は少ない。在宅療養者の要援護者に対する避難方法を検討することは意義がある。