著者
鈴木 祐介 福谷 直人 田代 雄斗 田坂 精志朗 松原 慶昌 薗田 拓也 中山 恭章 横田 有紀 川越 美嶺 浅野 健一郎 篠原 賢治 坪山 直生 青山 朋樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1640, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】腰痛は職業性疾病の中で約6割を占める。また,腰痛が慢性化することで従業員の労働生産性が低下するという報告もあり,従業員の慢性腰痛の予防は企業の健康経営における重要課題の一つである。しかし,慢性腰痛の関連因子を調査した多くの研究は,質問紙調査を基にしており,実測による身体機能を調査した研究は少ない。そのため,先行研究で言及されている精神的因子や睡眠障害の因子に加え,実測での身体機能の因子を含めた慢性腰痛の包括的な関連因子の調査は不十分と言える。従って本研究では,オフィスワーカーにおける慢性腰痛に関連する因子を,身体機能面,精神機能面の両者から包括的に検討することを目的とした。【方法】対象は,A企業で実施した腰痛検診に参加したオフィスワーカー601名(平均年齢44.3±10.1歳,男性72%)とした。対象者に自記式質問紙を配布し,基本属性(年齢,性別,勤続年数),腰痛の有無を,精神機能として睡眠時間の満足感,抑うつ傾向を反映するSelf-rating Depression Scale(SDS)を聴取した。腰痛は,現在の腰痛の有無と,現在腰痛がある場合その継続期間を聴取することで,慢性腰痛無し群,慢性腰痛有り群(発症3ヶ月以上)に分類した。さらに身体機能として,握力,30秒立ち上がりテスト,立位体前屈,閉眼片脚立ちを計測し,姿勢評価としてPalpation meter(Performance Attainment Associates社製)を使用し,骨盤の前後傾斜角度を計測した。統計解析は,従属変数に慢性腰痛の有無を,独立変数に身体機能・精神機能に関連した各測定変数を,調整変数に性別・年齢を投入したロジスティック回帰分析を行った。統計学的有意確率は5%未満とした。【結果】回答データに欠損のない487名を解析対象とした。対象者のうち,136名(28%)が慢性腰痛を有していた。ロジスティック回帰分析の結果,立位体前屈値(オッズ比(OR)0.966,P=0.003,95%信頼区間(CI)0.945-0.989),睡眠時間の満足感(時間が足りず不眠に該当:OR2.342,P=0.002,95%CI1.357-4.042,寝つきが悪いに該当:OR2.345,P=0.01,95%CI1.223-4.495)が,慢性腰痛と有意に関連していることが明らかになった。【結論】本研究結果より,オフィスワーカーの慢性腰痛は,身体柔軟性の低下,睡眠時間の満足感の低下と有意に関連することが明らかになった。オフィスワーカーは他の職種と比較して,同一姿勢を取り続ける時間や,VDT(Visual Display Terminals)作業の時間が,相対的に長くなることが関与していると考えられる。今後は縦断的な解析を進め,本研究で得られた因子と慢性腰痛発生との関連を検討していく必要がある。
著者
田中 悠也 川上 祐貴 久野 成夫 鷲澤 秀俊
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1252, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】Patellofemoral Pain Syndrome(膝蓋大腿疼痛症候群,以下PFPS)とは膝蓋骨後方または周辺に痛みを生じる疾患であり,整形外科的な膝の主訴で最も多い疾患の1つである。保存療法が第一選択とされており,変形性膝関節症への発展の可能性が示唆されている点から理学療法介入が重要な症候群である。PFPSの原因は内側広筋の筋機能障害や膝蓋骨の位置・トラッキング異常,股関節筋力の低下などが報告されており,これらに対する治療介入の報告は多いものの,治療の成否に影響する因子の報告は少ない。そこで本研究では,初期評価時の項目と1-2カ月後の理学療法治療の成否の関連を検討し,治療の成否に影響を与える初回評価時の因子を探索することを目的とした。【方法】対象は整形外科クリニックの外来に通うPFPS患者のうち,1-2カ月の理学療法を行った20名(平均年齢39.4±15.6歳,男性6名,女性14名)とした。PFPSの診断はCowan(2002)を参考に,1)歩行・階段・スクワット・走行・座位保持・膝立ちのうち少なくとも1つ以上で痛み,2)膝蓋大腿関節面の圧痛またはCompression Test,Clarke’s sign,伸展抵抗運動のうち1つで痛みが存在することを基準とし,除外基準は変形性関節症や関節内病変,腱疾患とした。初期評価時に性別・年齢・身長・体重・罹患期間の問診を行い,Visual Analogue Scaleを用いた1週間の最大の痛み(以下VAS-W)及び1週間の平均の痛み(以下VAS-U),質問紙票であるAnterior Knee Pain Scale(以下AKPS)の測定を行った。また,膝関節30°程度屈曲位のSkylineView(Laurin)におけるレントゲン画像からLateral Patellar Tilt,Lateral Patellofemoral Angle,Congruence Angleを算出した。治療の成否は介入後のVAS-W・VAS-U・AKPSの改善度より判断し,1)VAS-Wが2.0cm以上の改善,2)VAS-Uが2.0cm以上の改善,3)AKPSが15点以上の改善,のうち2つ以上を達成したものを良好群,その他を不良群とした。統計解析はJ STATを使用し,良好群と不良群における問診項目,初期のVAS-W・VAS-U・AKPS,VAS-W・VAS-U・AKPSの変化,レントゲン画像の比較を対応のないt検定で行った(有意水準5%)。【倫理的配慮,説明と同意】すべての被験者には研究に対する説明および同意を得た上で実施した(当院倫理審査委員会:承認番号240907F)。【結果】治療良好群は11名,治療不良群は9名であった。改善度は,治療良好群ではVAS-Uは4.0±1.1cm,VAS-Wは5.7±1.9cm,AKPSは23.6±10.4点に対して,治療不良群は0.7±1.5cm,2.1±2.6cm,6.7±6.4点であった。治療良好群では初期評価時のVAS-Wが7.9±1.4cmに対して不良群は6.5±1.2cmと有意に小さく,Lateral Patellofemoral Angleでは良好群は11.4±2.2°に対して不良群は15.2±4.6°と有意に大きかった。【考察】PFPS患者に対する1-2カ月の理学療法介入として,初期評価時のVAS-W(1週間の最大の痛み)が大きいこと,およびLateral Patellofemoral Angle(膝蓋骨の外側傾斜)が小さいこと,が治療成功への影響因子と示唆された。しかし,本研究では同一の治療内容および治療回数ではないため,今後の調査が必要である。また,PFPSは多因子性の原因と考えられていることから,今後は本研究で測定していない股関節筋力や下肢における異常動作などの他の因子の影響を行う必要が考えられた。【理学療法学研究としての意義】PFPSは保存療法が第一選択であり,多因子性の原因であるため,その治療には理学療法士の臨床判断に依存する割合が大きい。本研究によりPFPSの多因子の中でも重要な因子が明らかとなり,加えて予後予測の判断が可能となるため,本研究はPFPS患者に対し理学療法を行う上での一助となると考える。また,本邦においてPFPS研究は少なく,研究面においても,本研究は日本のPFPS研究を発展させていく上での一助となると考えられる。
著者
出口 裕道 井上 登太 鈴木 典子 伊藤 秀隆
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.D0485, 2006

【はじめに】末期癌患者に対する理学療法においてその意義は(1)疼痛と苦痛の緩和 (2)ADLの拡大 (3)精神的な援助と報告されている。また、注意点・問題点として(1)過度の体力消耗の助長 (2)具体的理学療法ゴールが定めにくい (3)患者の入院生活の中での精神的不安定性などが考えられる。今回、末期肺癌患者を担当することとなり、その時に感じたことなど考察を加えて報告する。<BR>【症例】71歳女性。数十年来重症糖尿病にて入退院されたのち呼吸苦にて受診、肺腺癌との診断にて14~18週余命と診断され、Best Supportive Careを選択された。<BR>【経過】本症例において、一日複数回訪室、院内チームアプローチ、家族を含めての理学療法指導を終始一貫して行った。終末期ケア目標として、可能なうちの積極的な外泊、それが達成された後、車椅子での散歩と設定した。経過中、患者‐家族間の関係が粗悪となるも、医師の介入と家族へのケア目標の提示にて関係回復が見られ、最期は家族の積極的介護のなか死去された。<BR>【考察】終末期患者において入院生活中の体力運動能力低下と疾患進行、死への恐怖による苛立ちは日一日大きくなっていく場面を観察する。それが家族にぶつけられることは多く、その結果家族の介護疲れ、介護拒否が見られることは少なくない。また、病状変化と精神的変動は終末期患者においてその他理学療法施行患者に比して明らかに大きく、医療介護職員を困惑させることも多い。経過中本症例において家族との関係悪化に遭遇し、家族に対し医師より具体的な患者との関わり方法を提示することで関係が回復する場面にも立ち会ったことより、終末期患者をもつ家族において患者との関わりの中での困惑、無力感によるストレス蓄積を観察することができた。患者の長期的予後を正確に見据え治療ケアの方向を統一するための医師を中心としたチームアプローチ、患者の病状・精神変化・残された運動能力を正確に把握したうえでのゴールの設定・変更、家族の心の変化をも踏まえたアプローチにより、最終的に家族の積極的介護を得られ、その中で患者の臨終を迎えられたものと考える。また、入院時寝たきりであった患者に対し、過度の体力消耗に留意した積極的運動指導により立位動作車椅子移乗動作が可能となり、最期まで理学療法を継続することで得られた能力を維持していくことが可能であり、終末期において長期的に体力運動能力低下が予測される症例であっても理学療法が大きな意義を持つことが示唆された。<BR>
著者
磯邊 恵理子 山本 かおり
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.E1063, 2007

【目的】訪問リハビリテーションは、対象者の自宅に訪問することで生活状況や介護状況に直接関わるという個別性をもった対応が必要とされるサービスである。しかし、介護者と対象者の思いに大きな相違が生じその相違をどのように調整していけばよいか戸惑うことも多々経験する。今回、介護者の機能改善に対する思いが強く対象者への暴力も認められ、リハビリ支援に苦難した症例を経験したので、訪問リハビリの役割や今後の課題について検討する。<BR><BR>【症例紹介】60代 男性 脳梗塞(右片麻痺)、糖尿病、糖尿病網膜症(左眼失明)要介護度1 視力障害はあるがてすりや杖使用での歩行可能。家族構成は本人・妻・長男の三人暮らし キーパーソンは遠方在住の次女であり介護のために月の半分は帰省。症例性格:発症前は会社経営をしており自由自適に生活。利益を得ることや金銭欲が強く身勝手な行動や発言が多い。訪問リハビリ導入は家族の希望によるものであり、筋力強化、ADLの向上等機能改善希望。<BR><BR>【経過】H14.7訪問リハビリ週3回(別事業所からも週3回)導入となる。本人の行動:病識なくリハビリ意欲に欠ける。しかし外出意欲は高く次女不在時は一人で外出、暴飲暴食など血糖コントロール困難。次女の行動:症例の勝手な行動に対しストレスを感じ、神経質で生活スケジュールの細部までマネジメントを行う。また機能訓練に対しての意欲強く内容や量に関する訴え多い。訪問リハビリ実施の際にもスタッフ以上に動作手順の指示があり症例の行動に対して細かい指示をされ口調も激しく出来ないと怒り何度も修正を要求。経過中の出来事:訪問リハビリ導入当初から次女による厳しい介護状況が認められたが、介護ストレス蓄積によりスタッフの目前でも暴力的行為が目立つようになった。対策:虐待行為への対応としてサービス導入による介護負担の軽減、介護者の話の傾聴による精神的支援、虐待についての説明、虐待行為が生じた時点でサービス提供中止、という内容をケアマネと取り決め実施した。<BR><BR>【結果】虐待行為に対しスタッフ間での話し合いや関連職種との連携も頻回に行ったが大きな改善を認めることなくH18.3から痙攣発作により入院となり訪問リハビリ中止、現在は機能低下(臥床)した状態で在宅生活中。<BR>【考察】対象者の尊厳を守るために本人の意思の尊重をすべきであるが、高齢者虐待や介護虐待は発見しにくく介入も困難であるといわれている。今回改善させることが出来なかった背景には症例本人による否定、介護者の症例に対しての思いの強さ、家族の生活歴の存在等があげられる。対象者、介護者間のニーズの違いに対しては専門職として助言し調整していかなければならないが今回は介護者主体の関わりであった。今後は関係職種とさらに連携を図りながら在宅で生じる問題点に対し対応をしていかなければならない。
著者
三野 弘樹 吉田 浩通 天野 裕紀 井原 宏彰 土橋 孝之 松浦 哲也
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Cd0832, 2012

【はじめに、目的】 徳島県では1981年より整形外科医を中心に、小学生軟式野球チーム(以下、少年野球チーム)が出場する大会で、少年野球検診(以下、検診事業)を実施している。徳島県理学療法士協会も2000年より検診事業に参加している。大会時に実施する検診事業は近年受診率が90%を超えている。2009年度の検診結果では、受診した1965名のうち二次検診(病院での精密検査)が必要と判断された者は1109名(56.4%)であった。身体に痛みを抱えながら野球をする選手が多く、日々の指導に難渋されている指導者は多い。選手・指導者に対し、理学療法士という職種で可能な活動内容を把握する為に、指導者用アンケート(以下、アンケート)を作製した。アンケート結果より、理学療法士として今後の活動の一端について分析できたので報告する。【方法】 徳島県下の少年野球チーム(143チーム)が出場する大会の指導者会議の際に、アンケートを実施した。これに参加した指導者に対し、記述及び選択式回答のアンケート調査を実施した。記述内容として、指導者自身の選手時代の比較、もしくは小学生を指導されてきた経験から、どのような運動能力に変化を感じるか、また指導する上での重点練習を質問した。選択式内容として、指導者が必要としている情報を問う質問で、運動障害(痛み等)チェックの方法、ストレッチの方法、運動障害への知識、感覚能力(神経系の能力)向上トレーニング方法、特になしの5個の選択(複数選択可能)と、理学療法士が現場に参加しても可能かというアンケートを実施した。【倫理的配慮、説明と同意】 アンケート調査の目的と、そこから得られたデータを使用する事、今後の活動に対する理解を頂きたいことを書面にて説明した。この旨に同意したチームから回答を得た。【結果】 参加チーム143チームのうち88チームより回答を得られた(61.5%)。理学療法士が現場に参加可能というチームは55チームであった(62.5%)。55チームのアンケート結果より指導者が必要としている情報は、運動障害チェック28チーム(50.9%)、ストレッチ29チーム(52.7%)、運動障害知識14チーム(25.4%)、感覚能力向上トレーニング28チーム(50.9%)、特になし6チーム(10.9%)であった。運動能力の変化については、体力低下22チーム(40%)、柔軟性の低下10チーム(18.1%)であった。重点練習については、野球技術向上18チーム(32.7%)、体力向上9チーム(16.3%)、感覚能力向上4チーム(7.2%)、柔軟性向上0チームであった。【考察】 少年野球の指導者は自らが野球に携わっていた方が多い。野球経験、故障等の自己体験があるため、障害の早期発見、柔軟性、運動療法への意識の高さがアンケート結果より伺える。体力の低下、柔軟性の低下を指導しながら感じている方が多いが、指導方法が分からない、練習時間が少ない等の理由で、運動能力の向上や柔軟性の向上に重点を置くチームは少なく、技術の向上に重点を置くチームが多い。障害は運動器の同一部位にストレスが繰り返し加えられる事により発生する危険性がある。これまでの検診結果より、少年野球選手の障害部位では肘関節が最も多く(80.8%)、その大半は成長途上にある骨端、骨軟骨の異常であり、投球動作によるストレス蓄積が原因の一つでもあるため、投球動作指導、身体を動かしやすくするための運動療法、ストレッチ等の必要性を理解してもらう必要がある。また早期発見により早期治療、早期復帰が可能となるのは周知の事実であるため、指導者、保護者に対して運動障害チェックの方法も、理解してもらう必要がある。頻度は少ないが、スポーツをするならば衝突、転倒等の一回の大きな刺激によって発生する傷害がある。傷害は主に不注意や不可抗力で発生する事が多いが、運動能力の低下や柔軟性が低下している為に発生することも少なくはないため、ストレッチ同様に感覚能力向上トレーニングが重要となる。理学療法士は、2つのショウガイを理解できる職である。身体機能向上、身体動作学習、ショウガイ発生率低下の為の指導は、理学療法の職域であると考える。また、理学療法士が現場に出向くことでショウガイ後の理学療法ではなく、ショウガイ前の予防的な理学療法も可能になると考える。【理学療法学研究としての意義】 競技レベル、年齢に関わらず、スポーツをすることで、ショウガイを引き起こす可能性は高い。理学療法が予防医学であると考え、基本的動作能力を向上させるプロフェッションであるとすれば、病院内での治療だけではなく、地域に根差した予防的観点の理学療法を勧めることが重要である。指導者、保護者といった地域住民の理学療法への認知度を高める事、そして理学療法士が地域に眼を向け活動することが理学療法の普及になり、職域拡大に繋がるものと考える。
著者
田中 昌史 隈元 庸夫 齊藤 徹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A3O2020, 2010

【目的】<BR>除雪作業は降雪地域における冬期間の腰痛発症の主要な要因であり、積雪量の増加に伴う雪の投擲高さが増加することは、より強い筋活動が要求され、動作の反復により疼痛や疲労感などの出現に影響するものと思われる。本研究は、ショベルを用いた模擬除雪動作において投擲高さの違いによる筋疲労の変化を筋電図学的に検討することを目的とする。<BR><BR>【方法】<BR>被験者は高血圧や有痛性疾患などのリスクを有しない健常男性8名(21.3±1.6歳、身長167.5±5.5cm)とした。運動課題は、室内にて市販の柄長型除雪用ショベルを把持し、ショベル上に置いた5kgの重錘バンドを一定の高さ(身長の50、75、100%)に水平設置したバーを超える投擲とし、被験者にはあらかじめ負荷の無い投擲動作を反復させ、課題施行時の両足部およびショベルの位置は同一となるよう設定した。投擲動作は、重錘バンドを投げ上げる投擲期(2秒)、ショベルを開始位置に戻す復元期(2秒)、ショベルを床上に置いて静止する休止期(2秒)の計6秒を1動作として、メトロノームのリズムに合わせて100回反復するよう指示した。各高さの運動課題は充分な休息時間を経て実施した。運動課題時の筋積分値(IEMG)および平均周波数(MPF)を表面筋電計(MyoSystem1400 EM123、Noraxon社)にて測定し、導出筋は両側の僧帽筋上部線維、腰部脊柱起立筋、大腿直筋とした。統計処理は、Friedman's test後、post hoc testとしてWilcoxon t-test with Bonferroni correctionを用いて、有意水準を5%未満とした。<BR><BR>【説明と同意】<BR>被験者には本研究の意義、目的、方法、起こりうる危険、動作施行の中止基準について、口頭ならびに文書によるインフォームドコンセントを行った。<BR><BR>【結果】<BR>両側の僧帽筋および腰部脊柱起立筋のMPFとIEMGはいずれの高さにおいても有意な変化を認めなかったが、両側の大腿直筋は全ての高さにおいてMPFの有意な低下とIEMGの有意な増加が認められた。投擲動作途中から非投擲側腰部脊柱起立筋の休止期における高自発放電(動作開始当初の休止期自発放電平均値+2SD)が全ての高さで見られ、高自発放電と大腿直筋のMPFの低下およびIEMGの増加はほぼ同時期に出現する傾向があった。高自発放電の出現数は高さ別に、50%で7例、75%で8例、100%で7例であった。また、出現時期は高さ別に、50%では61.9±11.1回、75%で64.5±17.7回、100%で55.6±21.4回であった。<BR><BR>【考察】<BR>出現すると推測していた腰部脊柱起立筋の疲労が見られなかったことから、本実験の負荷は僧帽筋および脊柱起立筋に対して低いものであったことが考えられた。一方、ショベル先端の挙上に作用する非投擲側腰部脊柱起立筋の高自発放電および大腿直筋の疲労が見られたことから、大腿直筋による膝伸展によってショベルを挙上させ、腰部脊柱起立筋の活動を代償した投擲であったことが考えられ、下肢筋力低下を生じやすい高齢者では非投擲側腰部脊柱起立筋の疲労が生じ、腰痛等の発生につながる可能性が示唆された。また、高自発放電の出現時期から投擲高さおよび投擲回数をふまえて定期的に休息を取る必要性が考えられた。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>降雪地域において自己所有の住居に居住する者にとって除雪は避けられない動作であり、安全な居住環境を保全する上で冬季の重要な作業である。安全な除雪動作手順の開発や積雪に伴う行政等による除排雪基準の確立は、高齢化および過疎化が進展する地域において重要と考える。除雪動作における筋活動および筋疲労の見地からこれらの一助となることを期待したい。<BR>
著者
丸山 拓朗 竹内 大樹 阿久澤 弘 佐藤 薫子 中村 崇
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】近年,職員研修制度の報告ではOff-the-Job TrainingだけでなくOn-the-Job Trainingの有効性が数多くされている。当法人でも,新人理学療法士(以下,新人PT)に対する臨床指導の効率を向上させる目的で,臨床指導を行うOn-the-Job Trainingと講義やcase studyを中心としたOff-the-Job Trainingを相互にリンクさせる新人教育システムを今年度より新たに取り入れた。本調査の目的は,アンケートによる意識調査を行い,今後の新人教育システム運用へ向けた改善策の参考にすることである。【方法】対象は当法人全6施設リハビリテーション科に所属する新人PT18名とした。アンケート回収率は100%で有効回答率も100%であった。質問内容は,学習意欲項目:2問,理学療法評価項目:6問,治療項目:3問,保険制度項目:2問,コミュニケーション項目:2問,リスク管理項目:4問,合計19問のアンケートとした。回答は,1:思わない,2:少し思う,3:思う,4:強く思う,の4段階を選択形式とした。アンケートは,新人教育システムが実施される前(以下,実施前群)と新人教育システム実施6ヶ月経過時点(以下,経過群)の2回行い,各質問項目における2群間の変化を比較検討した。統計解析は,SPSSを使用しWilcoxonの符号付順位和検定にて有意確率は5%とした。【結果】全19問のうち,14問で2群間に有意な差が認められた。有意差が認められなかった質問は,学習意欲項目の「臨床で生じた疑問を解決しようと行動しているか否か」,理学療法評価項目の「問題点の抽出が出来るか否か」,リスク管理項目の「転倒予防」「内部疾患のリスク管理」「感染対策」に関する質問の以上5問であった。【結論】有意差が得られなかった5問のうち,学習意欲項目の「臨床で生じた疑問を解決しようと行動しているか否か」の質問は両群ともに中央値が3.00を示した。これは,新人教育システム実施に関わらず新人PTは臨床で生じた疑問に対する解決意欲を持っていると考えられる。また,理学療法評価項目において「問題点の抽出が出来るか否か」の質問においては,6ヶ月経過後も問題点抽出に対して苦手意識を抱いている新人PTが多い。問題点抽出は,case studyの際に多くの新人PTが指摘される部分であり,新人PT自身が課題として捉えていることが示唆された。今後は,検査測定や理学療法評価の指導だけでなく,問題点抽出からその順位付けの捉え方に至るまでアドバイスを実施していく必要がある。リスク管理項目は,転倒予防,内部障害のリスク管理,感染対策ともに2群間に有意な変化がなく,これらの項目に対して新人PTは知識の不足を感じていることが分かった。よって,今後,新人PTのレベルに合わせた講義内容や実際を想定した研修内容にするといった工夫が必要になると考える。
著者
中越 昌浩 高橋 知佐 門脇 志世理 高橋 理恵 佐藤 健三
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.E0141, 2004

【はじめに】<BR>当訪問リハビリテーション(以下、訪問リハ)におけるアプローチと終了の捉え方を検証する目的で、訪問リハ終了後の生活状況を調査したので、若干の考察を加え報告する。<BR>【対象】<BR>平成14年6月から平成15年6月の1年間に当訪問リハを終了していた52例の内、死亡・入院・入所による終了者と調査の協力が得られなかった者を除く30例を対象とした。内訳は男性17名、女性13名、平均年齢74.0±11.6歳、脳血管疾患21例、骨関節疾患6例、その他3例である。<BR>【方法】<BR>自宅への再訪問とカルテ調査により、1)訪問リハの利用期間・頻度・アプローチ内容、訪問リハ開始時、終了時のBarthel Index(以下、BI)と日常生活自立度判定基準(以下、寝たきり度)の変化、2)終了理由、3)訪問リハ終了後(終了日~最短3ヶ月後から最長15ヶ月後)のBIと寝たきり度、利用サービスの変化と介護負担の訴えの有無および内容について調査した。統計処理はt検定にて行なった。<BR>【結果及び考察】<BR>1)訪問リハの利用期間は平均6.99±9.49ヶ月(0.13~44.8ヶ月)、利用頻度は週1回が約9割を占めていた。アプローチ内容は屋外活動面が35%と最も多く、次いでADL面31%となっており、心身の活動性向上や安定したADLの確立を目的としたアプローチが中心といえた。訪問リハ開始時から終了時のBIの変化は、向上10例(33.3%)、維持20例(66.7%)、開始時平均77.8±15.2点、終了時平均80.3±15.2点で有意差に向上していた(p<0.01)。また、寝たきり度は開始時Jランク6例(20%)、Aランク20例(67%)、Bランク4例(13%)で、終了時では向上9例(30%)、維持21例(70%)であった。2)終了理由としては屋内外移動手段が確立した21例(70%)、介護負担が軽減された20例(67%)、通所・外来リハへ移行した17例(57%)等が多く、安定した在宅生活が確立できたとみなされた。3)訪問リハ終了時と終了後のBIの変化を見ると、維持26例(86.7%)、低下4例(13.3%)であった。また、寝たきり度では維持27例(90%)、低下3例(10%)であった。利用サービスの変化を見ると、特にBI・寝たきり度の低下例において通所リハの利用頻度増加や他の訪問リハ事業所の介入が見られていた。介護負担の有無とその内容を見ると、頻尿・失禁の回数増加、介護依存、活動量低下に対する不安等の訴えがあった。訪問リハは、個々に応じたADLや心身の活動性が生活に習慣化できるよう支援する必要があると考える。また、終了に関しては、目標達成と訪問リハ終了後の生活が維持できるような在宅支援体制の確保が重要と考える。今後とも、多角的な視点での客観的評価の指標を確立することが課題として残された。
著者
由留木 裕子 鈴木 俊明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ab1060, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 アロマテラピーは芳香療法とも呼ばれ、代替療法として取り入れられるようになってきた。アロマテラピーは、リラクゼーションや認知機能への効果、自律神経への影響から脈拍や血圧の変化、そして脳の活動部位の変化が示されてきている。しかし、アロマテラピーが筋緊張に及ぼす影響についての検討はほとんどみられない。本研究では鎮静作用や、抗けいれん作用があると言われているラベンダーの刺激が筋緊張の評価の指標といわれているF波を用いて、上肢脊髄神経機能の興奮性に与える影響を検討した。【方法】 対象は嗅覚に障害がなく、アロマの経験のない右利きの健常者10名(男性7名、女性3名)、平均年齢25.9±6.0歳とした。方法は以下のとおり行った。気温24.4±0.8℃と相対湿度64.3±7.1%RHの室内で、被験者を背臥位で酸素マスク(コネクターをはずしマスクのみの状態)を装着し安静をとらせた。その後、左側正中神経刺激によるF波を左母指球筋より導出した。この時、上下肢は解剖学的基本肢位で左右対称とし、開眼とした。F波刺激条件は、刺激頻度0.5Hz、刺激持続時間0.2ms、刺激強度はM波最大上刺激、刺激回数は30回とした。次にビニール袋内のティッシュペーパーにラベンダーの精油を3滴、滴下し、ハンディーにおいモニター(OMX-SR)で香りの強度を測定した。香りの強度が70.7±7.7のビニール袋をマスクに装着し2分間自然呼吸をおこない、F波測定を吸入開始時、吸入1分後、ビニール袋をはずし吸入終了直後、吸入終了後5分、吸入終了後10分、吸入終了後15分で行った。F波分析項目は、出現頻度、振幅F/M比、立ち上がり潜時とした。統計学的検討は、kolmogorov-Smirnov検定を用いて正規性の検定を行った。その結果、正規性を認めなかったために、ノンパラメトリックの反復測定(対応のある)分散分析であるフリードマン検定で検討し、安静時試行と各条件下の比較をwilcoxonの符号付順位検定でおこなった。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者に本研究の意義、目的を十分に説明し、同意を得た上で実施した。【結果】 出現頻度においては、安静時と比較して吸入開始時、吸入1分後ともに増加傾向を示した。安静時と比較して吸入10分後は有意に低下した(p<0.01)。振幅F/M比はラベンダー吸入開始時、吸入1分後は安静時と比較して有意に増加した(p<0.05)。吸入終了直後からは安静時と比較して低下する傾向にあった。立ち上がり潜時は、ラベンダー吸入前後での変化を認めなかった。【考察】 本研究より、ラベンダー吸入中は出現頻度、振幅F/M比が促通され、吸入後は抑制された。出現頻度、振幅F/M比は、脊髄神経機能の興奮性の指標といわれている。そのため、本研究結果から、吸入開始時、吸入1分後には脊髄神経機能の興奮性が増大し、吸入後には抑制されたと考えることができる。吸入開始時、吸入1分後の脊髄神経機能の興奮性増大に関しては以下のように考えている。小長井らによると、ラベンダーの香りの存在下では事象関連電位P300の振幅がコントロール群と比較して増加したとの報告されている。事象関連電位P300は認知文脈更新の過程を反映するとされており、振幅の増大は課題の遂行能力が高いことを示している。感覚が入力され、脳内で知覚、認知、判断され、行動を実行するという能力が高いということであると考える。行動を実行するには運動の準備状態が保たれていることが推測され、脊髄神経機能の興奮性が高まっていることが考えられた。この報告と本研究結果から、ラベンダーの吸入時には大脳レベルの興奮性の増加が促され、その結果、脊髄神経機能の興奮性が増大したと考えることができた。脊髄神経機能の興奮性が吸入後から抑制されたことについては、ラベンダーが体性感覚誘発電位(SEP)に及ぼす影響を検討した研究で、ラベンダー刺激中から刺激後に長潜時成分の振幅が持続的に低下したと報告されている。これは、ラベンダーの匂い刺激が嗅覚系を介して脳幹部、視床、大脳辺縁系および大脳にそれぞれ作用し、GABA系を介して大脳を抑制したものと考えられた。今回の被験者は、アロマ未経験者を対象にしたが、アロマ経験者での結果と異なることも想定できる。また、アロマの種類によっても、効果の違いがあることが考えられる。今後、研究を行うことで、運動療法に適したアロマを取り入れ、新しい形の理学療法を展開したいと考えている。【理学療法学研究としての意義】 アロマ未経験者を対象とした筋緊張に対するラベンダーを用いたアプローチは以下のように考えることができる。上肢脊髄神経機能の興奮性を高めて筋緊張の促通を目的とする場合はラベンダー刺激中に、抑制したい場合はラベンダー刺激終了後に理学療法を行えば、治療効果を高める一助となる可能性があると考える。
著者
北野 晃祐 浅川 孝司 上出 直人 寄本 恵輔 米田 正樹 菊地 豊 澤田 誠 小森 哲夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0997, 2017 (Released:2017-04-24)

【目的】筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の運動療法として,筋力トレーニングや全身運動が機能低下を緩和することが示されているが,ホームエクササイズの有効性の検証は皆無である。本研究では,ALS患者に対するホームエクササイズの効果を前向き多施設共同研究により検証した。【方法】国内6施設にて,神経内科医によりALSの診断を受け,ALS機能評価尺度(ALSFRS-R)の総得点が30点以上の軽症ALS患者19例を介入群とした。さらに,ALSFRS-Rの総得点が30点以上で,年齢,性別,初発症状部位,罹病期間,球麻痺症状の有無,非侵襲的陽圧換気療法の有無,ALSFRS-Rの得点,を介入群と統計学的にマッチさせた軽症ALS患者76例を対照群とした。なお,比較対照群は,同じ国内6施設において理学療法を含む通常の診療行為がなされた症例である。介入群には,理学療法士が対象患者に対して通常理学療法に加えて,腕・体幹の筋力トレーニングとストレッチ,足・体幹の筋力トレーニング,日常生活動作運動で構成したホームエクササイズを指導した。追跡期間は6ヶ月間とし,記録用紙を用いて実施頻度を記録した。安全性を確保するため,理学療法士が対象者の状況を1ヶ月ごとに確認した。主要評価項目はALSFRS-Rの得点とし,両群ともにベースラインと6ヶ月後に評価した。さらに介入群には副次評価項目として,Cough peak flow(CPF),ALS Assessment Questionnaire40(ALSAQ40),Multidimensional Fatigue Inventory(MFI)を,ベースラインと6ヶ月後に評価した。両群におけるベースラインと6ヶ月後の主要評価項目および介入群の副次評価項目を統計学的に解析した。なお,統計学的有意水準は5%未満とした。【結果】介入群のうち13名(68%)が介入を完遂した。脱落例は,突然死や転倒に伴う骨折および急激な認知症状悪化によるもので,ホームエクササイズによる有害事象は認められなかった。介入完遂例は全例が週3回以上のホームエクササイズを実施することができた。効果評価として,6ヶ月経過後におけるALSFRS-R総得点には,介入群と対照群に有意差は認められなかった。一方,ALSFRS-Rの下位項目得点では,球機能と四肢機能には両群間で有意差を認めなかったが,呼吸機能では両群間に有意差が認められた(p<0.001)。すなわち,6ヶ月後の介入群の呼吸機能得点は対照群よりも有意に高く,呼吸機能が維持されていた。また,介入群におけるCPF,ALSAQ40,MFIは,介入前後で変化は認められず維持されていた。【結論】障害が軽度なALS患者に対するホームエクササイズの指導は,安全性および実行可能性があり,さらに呼吸機能の維持に有効であることが示された。
著者
西原 賢 久保田 章仁 丸岡 弘 原 和彦 藤縄 理 高柳 清美 磯崎 弘司 河合 恒 須永 康代 荒木 智子 鈴木 陽介 森山 英樹 細田 昌孝 井上 和久 田口 孝行
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.A0675, 2007

【目的】運動時の活動電位を観測する研究は多いが活動電位の伝導方向や神経筋の部位まで調べる試みは少ない。現在、画像診断で筋構造を大まかに観測することは可能であるが、神経または筋の神経支配領域までを調べるには不十分である。これらが調べられることによって、運動に関る神経・筋の機能的評価が可能となり、臨床上大変有用となる。さらに、神経の走行部位を予測して、筋肉注射時に神経損傷を予防する場合にも役立つ。そこで、これまでわれわれが開発した筋電図処理技術を応用して、神経や筋の組織解剖学的研究と照し合せながら本研究の検証を行う。<BR>【方法】19-22歳の健常人男性12人を対象にした。被験者は右手首に1kgの重垂バンドを装着し、肩屈曲30°肘屈曲90°で上腕二頭筋収縮、肩外転45°で三角筋収縮を1分間持続させた。上腕二頭筋では、被験者の内側上腕二頭筋の中心に双極アレイ電極を筋の方向に沿って取り付けた。三角筋では、肩峰から腋窩横線までの距離から下3/8の地点を中心に筋の方向に沿って取り付けた。各筋から4チャネルの生体アンプで検出した筋電図を計算機に保存した。筋電図原波形のうちの5秒区間を、本研究のために開発した計算機プログラムを用いて、設定閾値以上のパルスのピークを検出して加算平均した波形を算出した。チャネルによる加算平均パルスの向きの逆転(+側か-側か)や遅延時間の方向から(パルスが順行性か逆行性か)、電極装着部位を基準にした神経支配領域の位置を推定した。<BR>【結果】上腕二頭筋において、12被験者のうち8人で、加算平均パルスの向きの逆転があった。4人はパルスの向きの逆転は観測されなかったが、遅延時間が順行性に変化した。三角筋において、12被験者のうち、加算平均パルスの向きの逆転があったのは2人だけであった。残りのうち2人は遅延時間が順行性に、3人は逆行性に変化し、4人は解析困難であった。<BR>【考察】(1)上腕二頭筋の神経支配領域の推定:加算平均パルスの向きが逆転されたチャネル付近に神経支配領域が存在する。結果により、12被験者のうち8人の神経支配領域の位置が特定された。残り4人は電極装着部の近位に神経支配領域あることが考えられる。(2)三角筋の神経支配領域の推定:12被験者のうち2人だけが神経支配領域の位置の推定ができた。残りのうち2人は電極装着部の近位に、3人は遠位に神経支配領域があると考えられる。(3)上腕二頭筋と三角筋の比較:三角筋は上腕二頭筋と比較して神経支配領域の位置の特定が困難であった。上腕二頭筋は紡錘状筋で、筋線維は筋の方向に沿って均一に走行している。それに比べて三角筋は羽状筋に近く、筋線維は筋の方向に対して斜めで不規則に走行している。三角筋の場合はさらなる調査が必要であるが、かなり詳細な筋構造が皮膚表面で調べられることが明かになった。
著者
深谷 孝紀 江西 一成 井戸 尚則 岡山 政由 濱口 幸久
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.D3P2544, 2009 (Released:2009-04-25)

【はじめに】心疾患を有する患者のリハビリテーションは,運動中の心機能把握が必要であり,その運動療法では運動負荷の質・量,および心電図モニターが重要となる.今回,心室細動(以下,Vf)による心停止後低酸素脳症に対するリハビリテーションの過程で, その運動療法中に心室性期外収縮(以下,VPC)が頻発し,電極カテーテル焼勺法(以下,アブレーション)を施行した症例を経験したので,その臨床的意義について報告する.【症例・経過】23歳男性.既往歴なし.ランニング中に心肺停止.7分後救急処置により心肺蘇生.A病院搬送後,βブロッカー静注にて洞調律に復帰したが,意識障害・四肢麻痺を認め翌日よりベッドサイドでの理学療法開始.その後,徐々に症状改善を認め歩行訓練開始可能の状況となったが,6病日,意識障害,痙攣,熱発を生じ運動中止となった.その後症状改善し,15病日,歩行訓練等を再開しVf,心室性頻拍の出現なく,43病日,当院転院となった.初期評価時,Br.stage:上下肢6,下肢に優位な筋力低下(MMT3~4),高次脳機能障害を認め,ADL能力は歩行器歩行にて自立していた.理学療法内容は,前医の申し送りに従い,起立,歩行,自転車エルゴメータ,重錐による筋力増強訓練を心電図モニター下で積極的に行った.しかし,不整脈が頻発した為,医師に相談しホルター心電図計測を行った.その結果,VPC6217回/日,特に理学療法中に頻発していたが自覚症状はなかった(Lownの重症度分類:4B).薬物療法による改善を認めず,外科的療法等の適応の可能性が指摘された.61病日,精査治療目的にてB病院転院し,64病日,心カテーテルによりマッピングを行い,左室前側壁の僧帽弁下部心筋に対するアブレーションが施行された.66病日,当院再入院,理学療法再開.再入院後2か月経過時点で,VPCを認めず,高次脳機能障害は残存するものの,下肢筋力改善によって自立歩行レベルとなっている.【考察】心停止後低酸素脳症は心停止という生命の危機を脱した後に生じる稀なケースであり,意識障害,四肢麻痺,高次脳機能障害などの症状を呈する為リハビリテーションの適応となる.発症後,心機能,全身状態等の改善とともに運動負荷が可能となるが,今回の症例は身体機能に応じた強度の運動負荷に対してVPC出現など心機能の問題が生じた.そのため,医師との連携のもと,薬物療法と心機能を優先した運動療法を行ったが,重篤な心疾患の再発を認めアブレーション施行に至った.本症例の経験から,若年齢で社会復帰意欲が高く比較的身体機能の高い例では,運動機能の回復を優先する可能性が十分にあり得るが,心疾患に由来した麻痺性疾患では,運動療法中の致死的な事故の発生しうることが再認識させられた.従って,運動療法において,運動中の心機能把握とリスク管理のもと,より効果的な運動負荷の質・量を決定していくことが重要であると考えられた.
著者
南原 宗治 槌谷 宏幸 和久 美紀
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1259, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに】仙骨疲労骨折は,疲労骨折の中でも単純X線画像では診断されがたく,見逃し例もある診断困難な疾患である。また,陸上選手に多い疾患と報告されているが,走行量が多い他のスポーツでも発症する報告が散見される。今回当院で仙骨疲労骨折と診断された女子バスケットボール選手から,仙骨疲労骨折と身体運動機能との因果関係を検証し考察したので報告する。【症例紹介】右仙骨疲労骨折16歳 女性。全国大会出場レベルの高校女子バスケットボール部所属。過去に腰痛既往歴なし。入部2ヶ月後からジャンプやダッシュ時に腰痛が発症したが,安静時に痛みが治まるので練習と試合を継続した。翌月,腰痛が増悪して歩行困難となり当院を受診した。X線画像所見で異常は認められず,MRI画像所見にて上記診断された。【理学療法評価及び治療経過】診断後,理学療法(以下PT)を開始した。2ヶ月間運動中止とし,下肢・体幹のストレッチングと非荷重筋力強化を中心に進めた。初期評価時は,歩行・走行時,長坐位での右上殿部痛が主訴で,右股関節伸展・外転筋の筋力低下,エリーテストとSLRテストの右側陽性,右片脚立位姿勢不安定と右片脚スクワット時knee-inを認めた。PT開始から右側股関節伸展・外転の可動域exと非荷重筋力強化,ハムストリングスのストレッチングを行った。2ヶ月時に痛みは消失し,荷重トレーニングを開始して負荷を徐々に増していった。PT3カ月時にジョギングを開始したが,走行動作は重心上下運動が大きく,股関節伸展運動が不足していた。PT開始4ヶ月後にダッシュなどの高負荷トレーニングで症状を認めず,CT所見で骨癒合を確認したため部練習と試合に復帰してPT終了となった。PT終了時,最大負荷運動時痛はなく,股関節ROM左右差は消失していた。筋力は右中殿筋,右ハムストリングスがやや低下,右片脚スクワット時knee-inは軽減していた。走行動作は重心上下運動が減少し,股関節伸展運動が増大した。【考察】過去の症例報告から,本疾患は股関節外転筋力の低下,仙骨翼骨梁の圧迫と垂直方向への反復衝撃負荷が仙骨への剪断力の主因ではないかと報告されている。本症例は,過度の走行,患側股関節周囲筋力の低下,腰椎前彎,ハムストリングスの柔軟性低下など,仙骨疲労骨折症例の特徴が類似して骨盤へ剪断力を高めるメカニズムと一致する。さらに,本症例の走行フォームは重心上下運動が大きく,このフォームが走行時に骨盤の衝撃負荷を増強した要因ではないかと考えられた。また,この走行フォームは股関節ROM・筋力向上に伴い改善されたため,股関節伸展運動が走行時の重心上下運動にも影響していることが示唆される。本症例より,仙骨疲労骨折は股関節周囲の筋力アンバランスや柔軟性だけではなく,股関節伸展運動や走行フォームも関連因子となり,適切な走行動作が本障害の予防に重要であると考えられた。
著者
濵田 直人 原田 真二 本田 ゆかり 河﨑 靖範 槌田 義美 田中 智香 山鹿 眞紀夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B0244, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】 当院では早期の移動能力獲得を目的に脳卒中患者に対して積極的に下肢装具を使用しており、患者や理学療法士にとっての即時性や利便性を考え、テスト用装具として各種の長下肢装具(以下KAFO)、短下肢装具(以下AFO)15種類を常備している。理学療法士は、患者の病態に適した装具が処方されるように各種特色のあるテスト用装具を試す事ができるが、多種類の下肢装具の中から最適な装具を選定するのに迷う場合も少なくない。そこで今回、院内の装具使用の標準化を図り、装具選定を行う際の指標となるような脳卒中下肢装具アルゴリズム表(以下アルゴリズム表)を試作し、その有用性を検証したので報告する。【対象】 平成19年4月1日~10月31日の間に、当院回復期病棟入院中の脳卒中患者125名のうち下肢装具が処方された延べ75名を対象とした。【方法】 1)アルゴリズム表の作成にあたり、過去の文献を参考として各種テスト用装具の機能的特徴、適応病態等をまとめた。脳卒中患者では病態による個人差が大きいので、アルゴリズム表の選択項目に身体状況や生活環境等を加えた。更に、過去に当院に入院していた脳卒中患者の装具処方時の情報を参考にした。 2)アルゴリズム表の有用性をみるため、選択された装具と実際に処方された装具の合致率を調査した。また、非合致例はその原因を自由記載した。【当院に常備するテスト用装具の種類】 1)KAFO type(計2種類); Ring lock継手・SPEX継手 2)AFO type(4分類、計13種類); 1.金属支柱付(1種類) 2.プラスチック前方支柱型(3種類) 3.プラスチック後方支柱型(3種類) 4.継手付(6種類) 【結果】 1)アルゴリズム表の選択項目を身体機能(Brunnstrom stage、筋緊張の程度、関節可動域、感覚障害等)、歩容、装具の使用環境、高次脳機能障害等とし、患者の病態を照らし合わせることで装具選定できるようにアルゴリズム表を試作し、通常の訓練、装具回診時に活用した。 2)合致率は79%{KAFO;81%、AFO4分類(1.金属支柱付 2.プラスチック前方支柱型 3.プラスチック後方支柱型 4.継手付);76%}であった。【考察】 試作したアルゴリズム表は、KAFOやAFO4分類の合致率は比較的高値を示しており、当院における装具選定の標準化が図れたと考えられる。また、簡易的ではあるが装具の特徴を理解する事ができ、装具選定の際の指標となり業務改善につながると期待される。しかし、非合致例の原因として装具への工夫、病態の予後予測、退院後の生活環境等の考慮が不十分であった事が挙げられた。アルゴリズム表の選択項目を追加修正し、より信頼性の高いものに改訂することが今後の課題と考えている。
著者
鶴田 佳世 中村 潤二 小嶌 康介 中村 佑樹 岡本 昌幸 菅野 ひとみ 尾川 達也 徳久 謙太郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】「市町村介護予防強化推進事業」は,平成24年度から厚生労働省のモデル事業として13の市町村で実施された。この事業は生活範囲が狭小化した高齢者を対象に,通所と訪問を組み合わせた介護予防事業を3か月程度実施し,日常生活の改善を図った後,運動や食事を楽しむことのできる通いの場に移行して,状態の維持を図るものと位置づけられている。今回このモデル事業に参加し,行政職を含む地域の専門職と協働してアプローチすることにより機能向上のみならず,参加者の生活に密着したサービスの提供や支援を検討し,社会参加へつながった事例を経験したので報告する。【方法】事例1は要支援2の70歳代女性で肺炎後廃用症候群で,既往歴は腰椎椎体偽関節であった。ニードは腰痛が軽減し,しっかり歩きたいとのことであった。身体機能は筋力,全身持久力,歩行能力の低下があり,基本動作,ADL,IADLは一部介助であった。普段はコルセットを使用し,屋内移動は伝い歩きが何とか可能なレベルであった。事例2は要支援2の80歳代男性で両変形性膝関節症であった。ニードは体力の低下とともに辞めた趣味の再開と元気になって外出したいとのことであった。身体機能は筋力,全身持久力,歩行能力の低下があり,ADLは自立,IADL一部介助で,屋内はT字杖歩行自立,屋外は一部介助で外出の機会は少なかった。事業の開催頻度は3か月間を1クールとし,通所が1回2時間,2回/週で全24回,訪問が1人あたり1から3回/3か月であった。参加者は各クール約15名程度で,地域ケア会議は3か月間で初期,中間,最終の3回開催された。通所ではマシンやゴムバンドを使用した筋力増強運動,バランス練習,療法士による個別課題練習,訪問ではIADL実施状況の評価や指導,家屋評価,住宅改修や代替案の提案,自主練習,ADL,IADL指導などを実施した。地域ケア会議では,初期から中間,中間から最終までの間の変化,目標の見直し,各専門職の役割分担などを確認し,療法士として主に運動面,自宅環境の確認と福祉用具の選定および生活環境に合わせ活動性向上のための戦略などを提案した。評価項目は,椅子長座位体前屈(体前屈),5m歩行時間,Timed Up & Go test(TUG),握力,30秒起立試験(CS30),Frenchay Activities Index(FAI),2分間ステップ(2MS)とし,初期と3か月後に評価を行った。個別の介入として,事例1では地域ケア会議において本人が習慣にしていた行動や希望を確認し,その実現可能性を多職種にて検討した。療法士は,通所での個別歩行練習と訪問での自宅内動作確認と指導を行い,体力の向上に合わせて活動範囲を広げていくために,自宅周囲の歩行練習および教室終了後に通う場所までの移動確認などを行った。事例2では,運動継続の動機づけのために疼痛のフォローが不可欠であったため,通所では疼痛,負荷管理しながらの個別運動指導を行い,訪問では自宅内動作の確認,環境面の特性を包括担当者と検討を重ね歩行練習が可能な場所や方法の検討を行った。【結果】事例1の主な身体機能面の結果は,5m歩行時間(秒)5.1から3.9,CS30(回)11から16,FAI(点)13から19点,2MS(回)測定不可から47であった。IADLは,洗濯物の取り込みが可能となり習慣化したこと,近所の神社へのお参りや友人宅への訪問を再開するなどの活動性の向上がみられた。事例2の結果は,5m歩行時間6.3から4.3,CS3014から19,FAI20から21,2MS47から59であった。IADLは,自宅の庭の手入れの再開や家事への参加,教室終了後にボランティアに参加するなど活動性向上を認めた。【考察】事例1では,本人の元の生活を取り戻したいという意欲を目標に取り込み,関連ある目標を段階的に設定し,達成していくことで機能,活動,参加での改善がみられた。事例2では疼痛管理と自主練習の指導,個別の運動負荷設定を行うことで,同様の改善がみられた。従来の介護予防教室では,ADLやIADLの変化まで追跡するのは困難であったが,今回地域ケア会議を通して個人因子を深く検討したこと,通所と訪問の併用により機能,活動,環境の面から多職種が連携して評価・介入が出来たことでADL,IADLにまで介入し改善がみられた。それに加え予防を意識した活発な生活環境を提供することができた。【理学療法学研究としての意義】今後,地域包括ケアシステムに理学療法士が参画するうえで,地域ケア会議を含む多職種と連携していく場において,参加者中心の生活を捉えた包括的介入に効果的な関わりを持てることを示すことができた。
著者
山田 崇史 三島 隆章 坂本 誠 和田 正信
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0423, 2005 (Released:2005-04-27)

【目的】これまでに我々は,甲状腺機能亢進症ラットのヒラメ筋において,興奮収縮連関の機能を検討し,筋原線維レベルにおける機能の変化が,筋力低下の原因の1つであることを報告した.しかしながら,本症では筋原線維タンパク質の総量に変化が認められないことから,筋原線維において何らかの質的変化が生じているものと推察される.近年,筋の発揮張力は,興奮収縮連関に関与するタンパク質の酸化還元動態に影響を受けることが示されている.したがって本研究の目的は,甲状腺機能亢進症において,発揮張力と筋原線維タンパク質の酸化還元動態との関連性を明らかにし,本症に伴う筋力低下の機序について検討することである.【方法】9週齢のWistar系雄性ラット34匹を対象とし,これらを対照群および実験群に分けた.実験群のラットには,甲状腺ホルモンを毎日300 μg/kgずつ21日間投与した後,麻酔下でヒラメ筋を採取した.その後,直ちにリンガー液中で単収縮張力および強縮張力を測定し,筋重量および筋長から単位断面積あたりの張力を算出した.また,ヒラメ筋全体の酸化還元動態を明らかにするために,筋に含まれる還元型グルタチオン(GSH)の量を,また,筋原線維タンパク質の酸化的修飾の有無を検討するために,高濃度K+溶液により抽出した筋ホモジネイトにおけるカルボニル基の量を測定した.【結果および考察】21日間の甲状腺ホルモンの投与により,ラットヒラメ筋における単収縮張力および強縮張力は有意な低値を示した.また,対照群に比べ実験群において,GSHの量は有意な低値を,また,カルボニル基の量は有意な高値を示した.細胞内において,GSHは抗酸化物質として作用していることから,甲状腺機能亢進症では,筋線維が酸化ストレスを受けると考えられる.一方,カルボニル基は,タンパク質が不可逆的な酸化的修飾を受けると形成されることが示されている.本研究で用いた高濃度K+溶液による抽出法では,溶液に含まれるタンパク質のほとんどが筋原線維であり,これらのタンパク質が酸化的修飾を受けていると考えられる.本症では基礎代謝の亢進に伴い,ミトコンドリア呼吸が増大し,正常なものと比べ活性酸素種がより多く発生することが報告されており,これらが筋原線維タンパク質の酸化に関与している可能性が高い.また,筋原線維タンパク質のなかでも,アクチンおよびミオシンは特に酸化的修飾を受けやすいことが示されている.これらのことから,甲状腺機能亢進症を発症している個体の筋では,酸化ストレスによってこれら2つのタンパク質の機能が低下し,そのことが筋力の低下を誘起していると推察される.
著者
藤井 亮嗣 井舟 正秀 石渡 利浩 上口 絵美 川北 慎一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B1315, 2007 (Released:2007-05-09)

【はじめに】低酸素脳症は、窒息・呼吸不全・心不全などの種々の原因により発症し、運動障害、構音・嚥下障害、高次脳機能障害を生じる。今回、心室細動により低酸素脳症を発症した患者の理学療法を経験したので報告する。【症例紹介】61才男性、平成17年3月呼吸停止・心室細動の状態でT病搬送される。すぐに蘇生し自発呼吸を認めるが低酸素脳症による意識障害JCS200を認めた。5月リハビリテーション(以下リハ)目的に当院へ転院、PT・OT・ST開始となる。【初期評価時】精神機能面:JCS3、失語、指示理解は不明。身体機能面:四肢麻痺Brunnstrom Recovery Stage(以下BRS)右上肢3手指2下肢2、左上肢4手指3下肢4。坐位保持困難、起居動作全介助。ADLはBarthel Index(以下BI)で0点、食事は経管栄養、排泄はおむつ内失禁。四肢ROMの維持、起居動作・移乗動作介助量軽減を目標にアプローチを行った。【経過】7月、坐位はポジショニングにて保持可能、起居動作・移乗動作中等度介助。右上下肢及び体幹に固縮様の筋緊張異常が認められ今後ROM制限が増悪しないよう注意を要した。ご家族に対して総合リハ実施計画書を説明し、今後の方針を相談した。キーパーソンは妻で今まで2人暮らしだったが長男夫婦がのちに同居予定。自宅退院するには身の回りのことがある程度できればという希望であった。8月上旬、急性冠症候群、呼吸停止状態にて発見される。ICUへ転室、異型狭心症と診断された。8月中旬リハ再開、身体機能及び能力に著変は認められなかった。12月、起き上がりは軽介助、いす座位は自立、移動は手つなぎ歩行。ADLはBIで30点、食事は時間がかかり介助が必要な状態であった。長男夫婦が同居することとなり、介護に協力してくれることとなる。正月外泊を行うにあたり、PT・OT・ST・NS・ケアで現状の能力の把握、必要な介助及び家族指導についてカンファレンスを行い各担当者で家族に対して介助方法の説明指導を行った。また家屋評価もPT・OT・ケア・MSWで行い、ご家族・建築業者と共に家屋改修について検討した。年末から年始にかけて外泊施行される。【退院時評価】精神機能面:指示理解の改善。身体機能面:BRS右上肢4手指4下肢4、左上肢5手指5下肢5。起居動作・移乗動作軽介助。ADLはBIにて35点、食事はほぼ自力摂取、排泄はオムツもしくは尿器で排泄、ほぼベット上の生活ではあるが平成18年3月下旬自宅退院となる。【まとめ】本症例では当初ご家族が希望された能力には至らなかった。しかし、各職種からの介助方法の指導、家屋改造等を行ったこと、息子夫婦の協力により、自宅介護が可能であることを認識してもらい、ご家族の希望より低いレベルではあったが自宅退院が可能となった。
著者
甲田 広明 堤 陽平 森 幸子 北口 遼 船越 大生 前川 和道
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1535, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】理学療法を行うにあたってブリッジ運動を利用できる場面は様々である。ブリッジ運動は臥位で行えるため安全で,幅広い患者に用い易い。理学療法中ブリッジ運動を用いると,患者によって殿部の挙上度合いに差があり,歩行自立度の高い患者ほどブリッジ運動時に股関節を伸展出来ているように感じる。そこで今回,ブリッジ運動時の股関節伸展角度と歩行自立度の関係を調べ,歩行自立度低下の予測及び予防をする際の指標とすることを目的とした。【方法】当院外来通院中で,屋外歩行自立度が独歩自立または杖歩行自立の患者を対象とした。対象の年齢選定は,年齢によるバイアスを少なくする目的で,下限を前期高齢者以上とし上限を90歳未満とした。得られた対象者は独歩自立の者が21名(男性8名,女性13名,平均年齢76.4±5.4歳,以下,独歩群),杖歩行自立の者が11名(男性2名,女性9名,平均年齢79.2±7.8歳,以下,杖歩行群)であった。下肢に麻痺のある者,ブリッジ運動時に痛みの出る者,また屋外歩行が独歩であったり杖歩行であったりと歩行自立度が一定しない者は除外した。ブリッジ運動の開始肢位は,背臥位にて両側上肢をベッド上に置き,膝関節を膝蓋骨の鉛直下方に踵部の後端が位置するところまで屈曲した肢位とした。開始肢位からゆっくりと可能な範囲で殿部を挙上させ,挙上が止まった時点での股関節伸展角度をゴニオメーターで計測した。その際上肢の力を用いることは禁止しなかった。股関節伸展角度は,日本整形外科学会及び日本リハビリテーション医学会の定める測定方法を参考にし,体幹と大腿で計測を行った。統計は,独歩群と杖歩行群において得られた股関節伸展角度及び年齢について比較検討した。統計処理にはt検定を用い,有意水準を5%未満とした。また,独歩群と杖歩行群の歩行自立度に関するカットオフ値をROC曲線より決定し,クロス集計表より感度,特異度,陽性的中率,陰性的中率,正答率を算出した。【結果】ブリッジ運動時の股関節伸展角度の平均値は,独歩群1.4±11.1°,杖歩行群-21.8±11.5°で有意差を認めた(p<0.05)。両群間の年齢については有意差を認めなかった(p=0.25)。またブリッジ運動時の股関節伸展角度のROC曲線から,最も有効な統計学的カットオフ値は-15°であると判断できた。この点をカットオフ値としたクロス集計表より,感度86%,特異度82%,陽性的中率75%,陰性的中率90%,正答率84%の値が算出された。【考察】今回の研究から,独歩群は杖歩行群と比較してブリッジ運動時の股関節伸展角度が有意に高値を示し,カットオフ値は-15°であることが分かった。クロス集計表から得られた値は,陽性的中率を除いてすべて80%以上であり,歩行自立度に関する評価指標として有用であると考えられた。陽性的中率は75%であったが,陰性的中率は90%,正答率は84%であり,ブリッジ運動時の股関節伸展角度が-15°以上であれば歩行自立度が独歩となり易いことが示された。以上より,独歩自立の者のブリッジ運動時の股関節伸展角度が-15°のカットオフ値を下回るようであると,今後歩行自立度が低下すると予測された。また,独歩自立の者でブリッジ運動時の股関節伸展角度が-15°以上であれば,それを下回らないように理学療法を行うことで歩行自立度低下を予防できると考えられた。さらに現在の歩行自立度が杖歩行である者に対しては,-15°のカットオフ値を上回るように理学療法を行うことで,歩行自立度を向上させる可能性も示唆された。しかし今回の研究では,何故ブリッジ運動時の股関節伸展角度と歩行能力に関連があるのかについての詳細な検討は出来ておらず今後の研究課題としたい。また,どのような理学療法を行うとブリッジ運動時の股関節伸展角度が向上するかについても合わせて調査をしていきたい。【理学療法学研究としての意義】ブリッジ運動時の股関節伸展角度を計測することで,歩行自立度低下の予測及び予防をする際の指標になる可能性を示すことができ,理学療法学研究としての意義はあったと思われる。