著者
浅海 靖恵 森田 喜一郎 松岡 稔昌 小路 純央 中島 洋子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A4P2028, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】事象関連電位のP300成分は、認知機能を反映する精神生理学的指標として、統合失調症などの精神障害者様をはじめとし多くの研究がなされてきた。一般に、アルツハイマー型認知症患者様のP300潜時は延長すると報告されている。我々もアルツハイマー型認知症患者様では、P300振幅の低下と潜時の延長という特徴があると報告してきた。今回、もの忘れ外来に受診された方を対象に、泣き、笑い写真提示時のP300成分の解析を行うと共に、HDS-R、MMSEおよびMRIの検査を実施し認知症患者様群の特性を検討したので報告する。【方法】久留米大学もの忘れ外来に受診された被験者34名(72.73±7.51歳)を対象とした。総ての被験者は、非認知症群(HDS-Rが21点以上、MMSEが24点以上)20名、認知症群(HDS-Rが20点以下あるいはMMSEが23点以下)14名であり、2群間の年齢に有意差は観察されなかった。総ての被験者は右ききで、脳梗塞、脳出血等の既往が無く、言語機能・聴覚機能にも障害はなかった。P300測定には日本光電NeuroFaxを使用した。事象関連電位は、視覚オドボール課題を用い、標的刺激(20%の出現確率)として、赤ん坊の「泣き」または「笑い」写真を、非標的刺激(80%の出現確率)として、赤ん坊の「中性」写真を用いた。総ての被験者に、「赤ん坊の泣いている写真または笑っている写真が出たら直ぐ、ボタンを押すように」教示した。「泣き」写真、「笑い」写真は、被験者ごと順序を変更した。脳波は、国際10-20法に基づき、両耳朶を基準電極として18チャンネル(F3,F4,C3,C4,P3,P4,O1,O2,F7,F8,T3,T4,T5,T6,Fz,Cz,Pz,Oz)から記録した。P300成分は、Fz,Cz,Pz,Oz から最大振幅、潜時を解析した。P300振幅は、時間枠350-600 msの最大陽性電位とした。P300潜時は、P300最大振幅の時点とした。眼球の動きは、日本光電の修正ソフトを使用し、さらに±50μV以上の振れは除外した。認知症症状評価尺度として、スクリーニングテストは、HDS-R,MMSEを用い、MRI検査はVSRADのZスコアを用いた。統計処理は、群間比較に2元配置分散分析および1元配置分散分析、多重比較検定にFisherのPLSD、相関の検定にピアソンの積率相関係数を使用、いずれも危険率5%未満を有意とした。【説明と同意】総ての被験者には、当研究を書面にて説明し同意を得たのち施行した。尚、当研究は、久留米大学倫理委員会の承認を得て行っている。【結果】P300最大振幅は、認知症群が非認知症群より有意に低下し、「泣き」「笑い」の表情間における差はなかった。P300潜時は、認知症群が非認知症群より有意に延長し、認知症群でFz,Czにおいて、非認知症群では、Cz,Pz,Ozにおいて「泣き」が「笑い」より有意に短かった。P300成分と症状評価尺度との関係では、年齢と潜時の間に、被験者全体において「泣き」Fz、Czで、非認知症群において「泣き」「笑い」全チャンネルで正の相関が見られた。HDS-Rと最大振幅の間に、被験者全体において「泣き」「笑い」Cz,Pzでやや正の相関が見られ、 HDS-R、MMSEと潜時の間に、被験者全体において「泣き」Pz「笑い」Czでやや負の相関が見られた。VSRADのZスコアとP300の間には、被験者全体において「泣き」「笑い」全チャンネルで潜時との間に正の相関が、Fz,Czで最大振幅との間に負の相関が見られた。なおVSRADのZスコアは認知症群が非認知症群より有意に大きい値であった。【考察】今回の結果において、P300最大振幅が、認知症群で有意に低下したことは、認知症群では非認知症群に比べ、注意資源の分配量が低下していることを示すものであり、P300潜時が有意に延長したことは、認知症群の注意資源の分配速度が低下し、刺激の評価時間が延長していることを示すものである。またP300潜時が、認知症群でFz,Czにおいて非認知症群でCz,Pz,Ozにおいて「泣き」が「笑い」より有意に短かったことは、非認知症群同様、認知症群においても「泣き」提示に強く情動が喚起し注意分配機能を増大させたと考える。認知症症状尺度とP300の関係において、年齢と潜時の間、VSRADのZスコアと潜時との間に被験者全体において有意な正の相関が見られた。このことより、情動関連視覚課題を用いた視覚誘発事象関連電位P300の測定は、侵襲もほとんど無く、いずれの場所でも検査が可能で認知症の早期発見に有用な精神生理学的指標となりえる。【理学療法学研究としての意義】今後、さらに症例数を増やし、非認知症群をより詳細にMCI等のように分類し、認知症への移行が懸念されるハイリスク中間群の早期発見・予防に役立つP300の有用性を検討していきたい。
著者
齋藤 大地
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.G3O1230, 2010

【目的】これまで、小児における慢性的な疾患に対してのリハビリテーション(以下リハ)を提供する実施主体は、行政や社会福祉法人、医療法人が殆どであった。これらに対する社会資源という呼称が意味するように、サービスの質的、量的な地域格差が恒常的に存在しており、提供されるサービス頻度や時間は、小児及び家族の必要を充分に満たすものではない。また、雇用・就業人口が少ない小児リハであるが、発達に関する全般的な知識の他、小児特有の病理、地域の福祉に関するネットワークや、家族と小児に対する接遇及び治療技能が必要で、一般の病院での受け入れや、他職種による専門性の代替えも難しい。更に小児医療は、前述のような大規模な実施主体から通所形態でサービス提供される事が多いが、昨今重度重複化している小児にとっては、通所すること自体が身体的負担となる。<BR>一方、1994年健康保険法の改正により、それまで高齢者が対象であった訪問看護は、在宅で医療・療養を受ける全ての人を対象とするものへと変わり、小児を対象とした理学療法士や作業療法士の訪問サービスが提供できる様になったが、訪問形態での小児リハのサービスは、当該地域である北海道旭川市には存在せず、空洞化していた。そこで、小児リハの経験を持つコメディカルが訪問形態で医療を提供する事業を起こすことで、上記「地域における小児リハの不足」及び「通所形態での小児リハの限界」の2つの問題点に対する、現実的な解の一つとして適合するのではとの思いがあった。機会を得て2008年5月に株式会社を設立し、看護師、作業療法士計4人を雇用して北海道の訪問看護事業者の指定を受け、事業を開始した。本事業を通じて若干の経験を得たので、報告したい。<BR>【方法】2008年5月の事業開始当初に、小児科、NICUをもつ総合病院や、地域の療育機関等の関係者に、小児専門の在宅医療と事業の方向性を説明し理解を得た。同時に各方面へのパンフレットの配布と、企業広告として地域の情報紙に一度宣伝広告を出している。利用申込みに至る経緯としては、慢性的な疾患を抱える小児の両親から直接の問い合わせを受けることが多く、次いで医師や医療職からの紹介、既利用者からの紹介等があった。事業開始からの利用者数、疾患別の分類、訪問件数の推移を、考察を交えて報告する。<BR>【説明と同意】今回の事業報告に関して、ステーション管理責任者の同意を得た。本研究には利用者等の個人情報を特定できる内容は含まれていない。<BR>【結果】事業開始からの利用者数は、緩徐ではあるが伸びている。3月~4月の年度末での利用休止、介護負担による止むを得ない施設入所による終了者が数名いた。また、小児リハの要望が多かったので、2009年5月に理学療法士を1名新規採用している。小児専門での訪問看護ステーションの経営は、医療保険の収入、スタッフの人件費支出をメインとして、現在の処黒字の収支を維持している。<BR>【考察】利用者数の緩徐だがコンスタントな増大は、地域にとって割合は少ないものの、ニーズとしては絶対的であることを示唆している。年度またぎの休止、終了者が居たのは、進級、進学、就職などのライフステージの変化や、子どもよりも年長である親による介護事情が影響したと考える。<BR>訪問形態による小児リハの提供は、胃瘻造設、人工呼吸器装着等の重症の利用者にとっては、通所に伴う感染リスクを抑えつつ、専門性の高い小児リハサービスを家庭で受けられるメリットがあり、それまで頻繁だった体調悪化や、感染症による入院は減少している。重症者に対する看護職と連携した小児リハは、体力増強や各種疾病に対する予防効果があると思われた。比較的軽症の肢体不自由児・者に対しては、二次障害や外傷、疼痛の軽減や防止により、通学や就業生活を維持することが出来ていた。<BR>【理学療法学研究としての意義】昨今の自立支援法や医療保険の改定、地域では医師不足といった事情により、小児医療全体でも施設入所離れや、外来部門の経営が厳しくなっている。理学療法診療も減算改定が続き、理学療法士の雇用状況も逆風が続いている。<BR>しかし、在宅で展開する小規模なチーム医療として訪問看護及びリハを提供することにより、重症児の入院の入院回避に成功した場合、単月の概算で1/3から1/4程度に医療保険の負担を軽減できる。幼少時と比して多忙な学生や就労者に対しては、都合の良い時間帯に訪問し、メンテナンスケアを継続的に提供することで、学業や社会生活の維持という支援が可能である。<BR>今後はアンケート調査や、評価スコアなども使用して、民間サービスとしての質と、医療の専門性としての質が合致し、地域に根ざした医療サービス業としての認知度を高めていきたい。
著者
小田 桂吾 斉藤 秀之 沼宮内 華子 金森 毅繁 糸賀 美穂 田中 利和 小関 迪
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.491, 2003 (Released:2004-03-19)

【はじめに】格闘技は古代から世界各地に様々な民族の文化を反映し存在している。しかし1993年、アメリカでルールの制約がほとんどないUltimate Fighting Championshipが開催され、世界的に総合格闘技という概念の新たな競技が盛んになっており、日本でもPRIDE,修斗,パンクラスなどの興行が人気を集めている。今回総合格闘技の選手の障害,外傷に関する調査をしたのでここに報告する。【対象】プロの総合格闘技選手11名,平均年齢25.7±3歳,平均身長171.6±6cm,平均体重74.1±12kgで全員男性であった。【方法】個別にアンケートにてコンディション,外傷,障害に関する調査を実施した。【結果】対象者の練習頻度は週5.5回、練習時間は2.9時間であった。対象者全員が今までに何らかの外傷,障害を経験していた。複数回答による疾患部位は耳介(カリフラワー状耳),肩関節,腰部,肘関節が8件と最も多く以下、頸部,手指(7件),下腿(すね),足関節,足指(6件),膝関節,鼻,(5件)手関節(4件),顔面,股関節(3件),頭部,上腕,前腕,胸部,大腿部,ハムストリングス(2件)であった。医療機関で確定診断を受けたものについては腰椎分離症,鼻骨折(3件),頚椎捻挫,膝半月板損傷,膝靭帯損傷,肩関節脱臼,足関節捻挫,足関節骨折(2件),手関節脱臼,手関節骨折,肘靭帯損傷,頚椎ヘルニア,腰椎椎間板ヘルニア,肘関節脱臼,大腿肉離れ,足指骨折(1件)等であった。受傷後入院が必要であった選手は3名、手術を行った選手は2名であった。また受傷後の経過として疾患部位の痛みが残存,慢性化しているが59.3%、完治したのが40.7%であったが現在、医療機関でリハビリテーションを行っている選手はいなかった。【考察】総合格闘技は基本的に「目潰し」「噛みつき」「金的攻撃」が禁止され、投げ技,打撃技(パンチ,キック),関節技,締め技の全てが認められている。関節技を例にとれば選手は対戦相手の正常可動域を越えるように技を仕掛けようとする。すなわち外傷,障害を防ぐのは不可能に近い状態である。実際の試合で決まり手となるのは打撃によるKOを除くと、チョークスリーパー(裸締め),腕ひしぎ十字固め,三角締め,足首固め等が多く、疾患部位にダメージを受けやすい傾向にあると考えられる。またグランドでの攻防ではマウント,ガードポジションというポジショニングが重要になってくるが、これは頸部,腰部に対するストレスがかかると考えられる。今回の調査で選手は疾患部位のリハビリテーションをほとんど行っておらず、慢性的な痛みを抱えながら試合に臨んでいると考えられる。競技能力を高める意味でも今後選手の状態に合わせたアスレティックリハビリテーション及びトレーニングの指導が必要であると考えられる。
著者
坂本 宗樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>罹患歴の長い糖尿病患者において,食事・運動療法を患者自身の意志で継続的に努めるのは困難な場合が多い。小河らは,罹患歴が10年以上になるとインスリン導入からの離脱が困難になるとし,特に高齢者では合併症の進行を伴い,治療効果のある運動療法の提供に難渋する。今回,このような経過で外来でのフォローが困難となり,インスリン量増量するもコントロールが不良な事例に対し,4週間の入院期間中に運動療法を実施した。急性効果及びトレーニング効果について以下に報告する。</p><p></p><p>【症例紹介および方法】</p><p></p><p>79歳 女性 身長149cm 体重53,4kg BMI24.1</p><p>現病歴:外来受診時,血糖280mg/dl,HbA1c10.0,精査加療目的で入院。</p><p>インスリン導入時期:4年以上前にBasal supported Oral Therapy(以下,BOT)中。</p><p>入院時ADL:独居にて自立。</p><p>阻害因子:①腰部脊柱管症由来の腰痛,②黄斑変性由来の視力低下,③末梢神経障害由来の下肢の痺れ,④罹患歴25年を経過し,高齢なため苦労してまで長生きしなくていいという価値観を有し,行動変容ステージにおける前熟考期に相当。</p><p>トレーニング効果として,筋量の測定には生体電気インピーダンス方式体組成計であるPhysion MD(日本シューター社)を用い,リハ開始時及び退院前に測定。行動変容のための体調確認および運動実行に対する意思は適宜確認。そして,インスリン投与単位はカルテにて確認。</p><p>リハ開始時筋量測定結果や阻害因子を考慮した上で,有酸素・抵抗運動が共に行える負荷調整が出来て,かつ坐位にて安全に行える環境として以下の運動設定とし,運動前後に血糖測定を行い,急性効果を確認。</p><p>強度 自覚的運動強度Borg Scale11~13</p><p>頻度 3~4日/週,1回/日</p><p>種類 座式上下肢協調運動器であるNuStep T4r(NuStep社)を使用し,負荷3にて有酸 素・抵抗同時運動</p><p>持続時間 20~30分</p><p>実施時間帯 午後1時30分~2時</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>急性効果として,1回の運動で血糖降下は平均32(±30)mg/dl。</p><p>トレーニング効果として,①前熟考期から行動期へ向上。②血糖コントロール改善し,最大24単位/日が退院時10単位/日と減量。③除脂肪体重37.4kg→37.6kg,筋量16.2kg→17.4kgと増加。</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>菅田らは罹患10年未満でBasal Bolus Therapy(以下,BBT)によって糖毒性およびインスリン抵抗が改善し,離脱できるまでに平均4ヶ月程掛かるとしている。本症例は,離脱こそ出来なかったものの,菅田らが提案した離脱基準に相当する程度(0.3単位/kg/日)まで短期間でインスリンが減量出来た。</p><p>BBT+食事(1400Kcal/日)そして継続的な運動により骨格筋及び肝臓での糖取り込みを促し,3週間程度の介入で骨格筋量及び除脂肪体重改善され,一層インスリン抵抗性改善に寄与した。これにより必要インスリン減少に繋がったと考える。退院時には経口血糖降下薬に基礎インスリンと一回の追加インスリンによるBasal Plusとなった。</p><p>これが達成されるよう患者の調子も考慮した運動促進の声かけを行い,動機付けを図った事が奏功した。</p>
著者
河上 淳一 烏山 昌起 宮崎 優 青木 美保 進 訓央 松浦 恒明 原口 和史 藤戸 郁久 森口 晃一 宮崎 かなえ 日野 敏明 曽川 紗帆 中村 雅隆 宮薗 彩香 工藤 僚太
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Cd0841, 2012

【はじめに、目的】 腱板断裂術後は再断裂が問題である。近年の再断裂率を下げる要因の報告では、リハビリテーション開始の遅延や装具装着期間延長が推進されている。当院での腱板断裂術後は、装具装着は昼夜問わず3~8週装着、退院は3~4週としており、リハビリテーション開始・装具装着期間延長を検討している。装具装着延長になると、安全性確保の半面で退院後の自宅生活に制限をきたす。特に入浴は、更衣・移動・洗体・洗髪の動作を通常装具なしで行う必要がある。入院時の入浴は、三角巾・ペットボトルなどを利用した簡易装具にて対応をしていた。しかし、自宅での介助なし入浴には、三角巾で被覆される面積が大きいために洗体が困難、三角巾の衛生面が問題になると看護師により指摘を受けた。さらに、症例からも簡単かつ安全に入浴できるようにしたいとの要望があった。入浴用装具購入も検討したが、一般に販売されているものは散見されなかった。そのため、I安全性の向上、II衛生面の向上、III安価の3項目を充たすことで、自宅でも安全に入浴可能な入浴用装具開発を目的にて本検討を実施した。【方法】 試作品(以下:1号)を作成し、使用方法を看護師に説明し腱板断裂術後症例の入浴時に使用させた。その中で、看護師・症例よりあがった問題点を随時改良していった。1号は、EVA樹脂素材のスイムヘルパー(以下:スイムヘルパー)とポリ塩化ビニル(以下:塩ビ)のパイプと紐2mを使用した。スイムヘルパーは、直径15cm・高さ10cmの円柱を3個、塩ビパイプは直線タイプの長さ40cm・直径17mm、紐2mを使用した。スイムヘルパー3個の中央に塩ビパイプを通し、塩ビパイプの中に紐を通すことで、通常装具のように肩から吊るすようにした。部品代は約1800円だった。【説明と同意】 本装具作成にあたって、ヘルシンキ宣言に基づき同意を得た。【結果】 結果として、1号から改良を加えて6号の装具までを作成した。作成の中でI安全性の問題となった点は、A前腕の下方制動性がないB手指・手関節周囲の支えがないC着脱に患肢を動かす必要がある D塩ビパイプが抜け落ちる点だった。II衛生面の問題となった点は、E塩ビの中を通した紐が乾かない点だった。III安価の問題点は、特になかった。【考察】 結果から得られたA~Eの問題点は、6号作成の過程で解決させた。Aは、腱板断裂術後の症例では一般に内転・内旋方向で腱板縫合部の伸張が加わり、下方・内転方向を自身で制御すると腱板に収縮が起こり、再断裂の可能性を高め問題となる。そこで、スイムヘルパーを通す直線の塩ビパイプを前・中・後の3本に分けた。中と後の塩ビパイプ間には、塩ビの三又継手を取り付けし、その継手外側には10cmのパイプを取り付けた。この工程で前腕を支持する部分を作成した。さらに、塩ビパイプに直接前腕を乗せると、圧を一点で受けるので、発泡ポリエチレン性カバーを装着した。Bは、A同様の問題に加えて、通常装具のように手関節を安定させる部品が付いていなかったので、不安感を感じる症例が多かった。そこで、直線の塩ビパイプ先端には、塩ビの直角ジョイント4個と10cmの塩ビパイプ3本で手指・手関節を支える部分を作った。これらの部品は、ジョイント部が可動することで体格に合わせた位置で手関節部を固定できるようにもなった。Cは、紐をかぶるように着脱するので、患肢を動かす必要があった。そこで、直線パイプ前方後方にドリルにて穴を開け、リング状の部品をつけた。紐は両先端にカラビナをつけた。これで、患肢を台に固定した状態でも紐が簡単にまわせるようになった。D塩ビパイプが抜け落ちるのは、Bで可動できる部品を使用した為に、パイプが抜け落ちる可能性が出現し問題点となった。そこで、塩ビパイプの中に結束バンドを通しパイプが抜け落ちないように工夫した。Eは、塩ビパイプの中に通した紐が乾きにくいことが問題となった。この点は、Cの問題点改善で同時に解決した。以上のA~Eの5点を中心に改善することで、I・IIの目的を達成できた。また、IIIに関しては、当初より問題となっていなかったが、部品を見直すことで1400円程度になった。この入浴用装具を利用することで、早期退院かつ装具延長になっても自宅で安全で安心して入浴できるようになると考えている。しかし、現在の入浴用装具は、解剖学・運動学的観点と看護師・症例・理学療法士の主観的意見で作成した。そこで、今後は入浴用装具の違いがどのように腱板に負荷となるかを確かめ、更に改良していきたい。【理学療法学研究としての意義】 本作成過程の意義は、理学療法士が他職種との関わりの中で、新たな職域を拡大するための一助となると考える。
著者
白尾 泰宏
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0433, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】歩行中の進行方向に対する足部の角度(以下,足角)は重要なアライメント要素であり7°~13°外旋が正常であるとされている。その要因としては,股関節の回旋,脛骨大腿関節での回旋,大腿骨や脛骨の捻転など骨性,関節性,神経筋性の要因が考えられているが,骨性因子の報告は少ない。今回の研究は,その要因である骨性因子と歩行時足角の関係を調査することである。【方法】下肢疾患の無い健常成人22名44下肢(男性11名,女性11名,平均年齢31.4歳)を対象とした。足角(toe out angle)は,zebris社製FDM-TLRシステムを用いて,トレッドミル上を自由歩行で任意の速度を決定後,試技を1分間行い,その後の30秒間を解析ソフトWin FDM-Tで2回計測し,平均値を算出した。股関節捻転角(femoral neck torsion以下FNT)はブルースラントダイヤル式角度計(感度0.1146°精度±1.0°以内)足底に固定しcraig testに準じて測定した。脛骨捻転角(tibial torsion 以下TT)は腹臥位膝90°屈曲位で,脛骨内果と腓骨外果の中央を結ぶ線と,大腿骨顆部中央を結ぶ線のなす角度をゴニオメーターを用いて測定した。それぞれ2回測定し平均値を算出し,得られたデータは級内相関係数を求め,次にTOAとFNT,TTをスピアマン順位相関係数の検定を行なった。各角度の群間比較ではWelch’s t-testを行い,全ての有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には事前に研究の趣旨を十分に説明し,同意を得た上で実施した。【結果】級内相関係数は,足角(右0.97 左0.99),大腿骨前捻角(右0.97 左0.98),脛骨前捻角(右0.72 左0.77)であった。相関係数の検定では,足角とFNTには有意な相関がみられた(rs=-0.4719 P=0.0017)が,脛骨捻転角では低い相関はあるものの有意差はみられなかった(rs=0.02896 P=0.8387)。各平均値は足角(男性9.43±5.1°女性6.36±3.51°P=0.0258),FNT(男性15.27±6.13°女性23.88±8.34°P=0.00036)で有意差がみられたが,TTでは(男性15.02±3.35°女性13.2±3.38°P=0.0967)有意差はみられなかった。【考察】歩行時足角とFNTは負の相関であることから,FNTの増大は足角減少に作用することが示唆された。SahrmannらはこのFNTの増大は,中殿筋後部線維の延長・弱化による股関節内旋の優位性を報告しており,歩行時の股関節内旋が起こりやすい状態が推察される。また,宮辻らは,自由歩行における足角の男女比において女性の足角が有意に減少したと報告しており,今回の研究も同様の結果となった。また,女性高齢者では同若年者と比較し足角が増大したと報告している。つまり,加齢にともなうバランス能力・筋機能低下から,その代償作用として足角を変化させ安定性を獲得していると思われる。しかし,FNTが増大した条件下での足角増大は膝関節にknee in toe outの回旋ストレスを誘発させることが推察される。また,同様に女性non contactスポーツに発生頻度の高い膝前十字靱帯損傷の発生メカニズムの要因にも,このFNT増大の条件下での足角増大による回旋ストレスが関与しているのではないかと思われる。したがって,この3つの形態評価は膝障害へのマルアライメントの解釈に重要と思われる。しかし,今回の研究では歩行時の膝関節回旋角度の評価を行なっていないため,脛骨・大腿骨の回旋角度と,足角,FNT,TTをパラメーターとした調査が今後の課題である。【理学療法学研究としての意義】臨床において,歩行分析を行なう上で膝回旋ストレスを考える際,動的な股関節・足部の影響が考慮されるが,あらかじめ解剖学的構造的特性を評価することで,その解釈の情報の一部になると思われる。また,さまざまな膝疾患の発生メカニズム解明の一助として意義がある。
著者
中俣 修 山﨑 敦 古川 順光 金子 誠喜
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A3O2034, 2010

【目的】体幹部は身体重量の約50%を占める大きな身体領域である。そのため、体幹筋には、体幹の姿勢の平衡状態を維持するために外力に応じて筋出力を調整する機能が求められる。立位では、体幹部の重心線が腰椎のすぐ近位を通過するため、姿勢保持に作用する体幹筋活動が小さい。しかし、変化は少ないながら腹横筋、内腹斜筋には、背臥位から立位への姿勢変換に伴い筋活動の増加を認め、この活動は内臓器の支持、仙腸関節の安定性に関与するとされる。立位における体幹筋活動、鉛直方向の運動負荷に対する体幹筋活動の特徴を明らかにすることは、重力に抗する姿勢保持メカニズムを考える上で重要であると考えられるが、鉛直方向の運動負荷と体幹筋の活動との関係を分析した報告は少ない。そこで、本研究では、跳躍動作により体幹部への鉛直方向の運動負荷を加えた際の腹筋群の筋活動に注目し、鉛直方向の運動負荷に対する腹筋群の活動の特徴を分析することを目的とした。<BR>【方法】対象は健常な大学生男性8名(平均年齢21.6歳、平均身長172.7cm、平均体重61.9kg)であった。体幹筋群の筋電位の計測にテレメーターシステムWEB-5000(日本光電社製)、腰部および膝関節の運動の計測に電気角度計(Biometrics社製)、動作中の加速度の計測には3軸加速度計(MicroStone社製)を用いた。体幹右側の腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋、脊柱起立筋(胸部)、多裂筋(腰部)を被験筋とした。座位にて腹筋群および背筋群の最大等尺性筋収縮(MVC)時の筋電図信号の計測を行った後、腰部および膝関節部に電気角度計、胸骨前面に3軸加速度計を取り付けた。課題動作は跳躍動作とした。被験者には両手を胸の前方で組ませ、体幹部を直立に維持した状態で縄跳びを跳ぶ程度の跳躍動作を15~20回程度反復させた。計測した筋電位・関節角度・加速度の信号をA-D変換器 (AD instruments社製)を介してコンピュータに取り込んだ。体幹の加速度変化および膝関節運動の特徴から跳躍動作の周期(跳躍周期)を決定し、連続した3回の動作を任意に抽出した。跳躍周期における各筋の積分筋電図値を算出した後に跳躍周期の時間で除し、単位時間あたりの積分筋電図値(跳躍動作積分筋電図値)を算出した。さらに跳躍動作積分筋電図値を、MVC実施時の単位時間あたりの積分筋電図値を用いて正規化し、跳躍動作積分筋電図値(%MVC)を算出した。3周期の平均値を分析に用いた。跳躍動作における腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋の跳躍動作積分筋電図値の相違の分析には、Kruskal-Wallis検定を用い、有意差を認めた場合にはBonferroniの不等式による修正を利用し多重比較を行なった。<BR>【説明と同意】研究への参加にあたり、被験者には書面および口頭にて十分な説明を行った後、実験参加の同意を得て実施した。<BR>【結果】跳躍動作積分筋電図値(%MVC)の平均値(標準偏差)は、腹直筋:3.5(1.9)%、外腹斜筋:9.4(5.4)%、内腹斜筋:28.9(9.5)%であった。筋間の筋活動量には有意差を認め(P=.025)、腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋の組み合わせ全てに有意差を認めた(P<.01)。<BR>【考察】跳躍動作周期における筋活動量の分析結果から、腹直筋の筋活動が小さく、内腹斜筋の筋活動が大きい特徴を認めた。この特徴は、ドロップジャンプについて分析を行なった河端らの研究結果とも類似したものであった。今回、計測を行った内腹斜筋部位は、骨盤内を横行するため直接的な脊柱運動への関与はなく、主として骨盤部の安定性、内臓器の支持に関与するとされる。跳躍動作では立位と比較し体幹部にはより大きな圧迫負荷が加わること、内臓器に作用する慣性力が作用する。そのため内腹斜筋部に大きな筋活動を生じたと考えられる。今回の結果より、鉛直方向の運動においては、腹筋群の役割は異なり、腹直筋よりも側腹筋、特に内腹斜筋の役割が大きく関与すると考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】本研究では跳躍動作時の体幹筋活動を分析することにより、鉛直方向への運動刺激に対する腹筋群の活動の特徴を検討した。立位姿勢を保持するメカニズムの検討、立位姿勢の指導や荷重位での体幹筋トレーニングを検討する視点として意義が大きいと考えられる。<BR>
著者
谷口 匡史 建内 宏重 竹岡 亨 小栢 進也 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A3O2007, 2010

【目的】<BR> Masai Barefoot Technology (以下MBT)靴は、ティルティングエッジと呼ばれる丸みを帯びたアーチ状の靴底になっている不安定靴である。MBT靴は、一般に店頭で販売されており、ヨーロッパでは医療器具としての認可を受けてリハビリテーションにも応用されている。MBT靴はティルティングエッジが第五中足骨茎状突起を支点として前方への回転運動を起こしやすくする構造になっており、前足部への重心移動を行いやすくなるため効率良く歩行できるとされている。MBTに関する先行研究では、関節角度や筋活動に関する報告はいくつか見受けられるが、運動力学的指標である床反力からMBT靴の歩行分析を行ったものは見当たらない。そこで、本研究の目的は、MBT靴および通常靴の歩行解析を行い、MBT靴を使用することによる歩行動態を明らかにすることである。<BR><BR>【方法】<BR> 対象は、下肢に疾患を有さない健常成人男性14名(平均年齢25.6±5.1歳、身長171.6±6.0cm、体重62.4±6.6kg)とした。歩行は、MBT靴での自然歩行および通常靴での自然歩行・遅い歩行とし、それぞれ5試行測定した。MBT靴を着用して適切に歩行を行うために、本研究ではビデオによる説明と熟練者による指導を測定前に30分間実施した。ビデオおよび熟練者による指導の内容は、ティルティングエッジへ荷重した立位保持、前後左右への体重移動、歩行練習とした。歩行解析には、三次元動作解析装置VICON NEXUS(VICON社製;サンプリング周波数200Hz)と床反力計(Kisler社製;サンプリング周波数1000Hz)を使用し、マーカーはPlug in gait full bodyモデルに準じて貼付した。床反力は歩行速度の影響を受けるため、各対象者のMBT靴での歩行速度に応じて通常靴の自然歩行か遅い歩行かのどちらかを選択して解析に用いた。解析では、床反力を立脚期前半・後半の2相に分け、矢状面における前後・垂直成分の最大値を求めた。歩行速度、ケーデンス、ストライド長、立脚時間の他に、矢状面における下肢関節角度の最大値および上下方向への身体重心(COM)移動量を算出した。また、MBT靴と通常靴の各変数の違いを対応のあるt検定を用いて分析した。なお、有意水準は5%とした。<BR><BR>【説明と同意】<BR> 本研究は、倫理委員会の承認を得て実施した。対象者には本研究の目的を十分に説明したうえ、書面にて同意を得た。<BR><BR>【結果】<BR> 歩行速度はMBT靴:1.07m/秒、通常靴1.15m/秒、ケーデンスはMBT靴:104.9歩/分、通常靴:105.8歩/分、ストライド長はMBT靴:1.23m、通常靴:1.29m、立脚時間はMBT靴:61.3%、通常靴:62.2%であり、変数は両条件に有意な差はなかった。MBT靴は通常靴に比べて、荷重応答期(LR)では有意に膝関節屈曲角度が増加(MBT靴:5.3°,通常:1.0°)、床反力は前後成分が減少した。立脚終期(TSt)では、有意に股関節伸展角度が減少(MBT:12.0°,通常:14.6°)し、足関節では背屈角度が増加(MBT:21.5°,通常:11.9°)した。遊脚前期(PSw)では、有意に足関節底屈角度(MBT:8.2°,通常:17.6°)および床反力垂直成分は減少した。また、歩行周期中の上下方向へのCOM移動量は、両条件間に差はみられなかった。<BR><BR>【考察】<BR> MBT靴を使用することで、LRでは通常靴よりも膝関節屈曲角度が増加、床反力前後成分が減少し、TStからPSwにかけて蹴り出し時の股関節伸展角度が減少、床反力垂直成分が減少した。MBT靴での歩行では通常靴での歩行に比べて、LRやPSwでの床反力が減少しているにもかかわらず歩行速度は明らかな低下を認めなかったことから、MBT靴は減速や加速を抑制しながら歩行中の重心の前方移動を達成することができていると考えられる。MBT靴ではティルティングエッジの頂点にある最も柔軟性に富んだ部分で接地することにより接地時の緩衝作用を高め、ティルティングエッジ特有の丸みがフォアフットロッカー機能を補助することで強く蹴り出さなくても推進力を得ることができたと推測される。MBT靴を正確に使用することで、接地時のブレーキ作用および離地時の蹴り出し作用を抑制できたことから、立脚期と遊脚期との運動方向の切り替え時に生じるエネルギー変換を効率良く行いながら歩行していることが示唆された。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> MBT靴の歩行特性として、接地時の緩衝作用が高く、離地時には推進力を得やすいことが明らかとなり、歩行効率の悪い患者に対して適応できる可能性が示されたことは、MBT靴のリハビリテーションへの応用を促進する一助となる。
著者
土中 伸樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【目的】</p><p></p><p>パーキンソン病(以下:PD)のCamptocormia(以下:CC)は,腰曲りとも呼ばれる極度の前傾前屈位の姿勢異常である。重力がかかる座位立位や歩行時に前傾が増強し,重力負荷を除いた臥位で改善する特徴を持つ。また,CC対して確立した治療法は存在せず,治療に難渋するケースが多く存在する。今回,ティルト・リクライニング車椅子(以下:TR車椅子)と免荷式歩行器による重力負荷調整を行いながらロングブレス呼吸練習を実施した新たな治療法により外来理学療法で著明に改善した症例を呈示し検討を加える。</p><p></p><p></p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>女性 年齢60歳台後半 疾患名:PD(発症6年経過),体重38kg,Hoehn-Yahr分類II度~III度,UPDRS総点28点,X年2月PD病の診断。X+1年4月ビ・シフロール投与。X+1年7月CC発症。X+1年10月ビ・シフロールを中止。X+1年12月姿勢改善せず当院外来リハ紹介。使用薬剤:①ネオドバストン配合剤100mg4錠,②コムタン錠100mg2錠,③エフピーOD錠2.5mg1錠,④エクセグラン錠100mg1錠,⑤マグミット錠330mg1錠。</p><p></p><p>評価:立位時の矢状面骨盤線29°,矢状面上部体幹線65°,矢状面胸骨線49°,矢状面頸部線47°(姿勢計測国際規格ISO16840-1を使用。座位姿勢計測ソフトウェアrysisを立位にて使用。)歩行スピード15.20秒/10m。20mで体幹支持できず両膝に手を置く。</p><p></p><p>X+1年12月より①TR車椅子(T20°,R110°)上で炭酸水足浴,左L1~L5傍脊柱筋,両肩甲骨内側縁に低周波治療(ネオテクトロンVP6<sup>Ⓡ</sup>)を20分間施行。②TR車椅子上でロングブレス・ピロピロ<sup>Ⓡ</sup>(10秒×10回×3セット)③免荷式リフトポポ<sup>Ⓡ</sup>によるロングブレス立位バランス練習。(一般的な関節可動域練習,筋ストレッチ,筋力増強練習,歩行練習は実施せず。)</p><p></p><p></p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>3か月後理学療法22回目:立位時の矢状面骨盤線360°,矢状面上部体幹線17°,矢状面胸骨線10°,矢状面頸部線22°。歩行スピード9.30秒/10m。体重42.6kg。UPDRS総点12点。歩行時に膝に手を置くことは無くなる。洗濯物が干せるようになる。</p><p></p><p></p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>CCの病因として,PDの進行の自然経過,体幹ジストニア,傍脊柱筋の変性,薬剤性などの要因が考えられるが,CCの原因を一つに絞り込むことは困難である。特にリハビリテーションについて効果が乏しいとされてきたが,提示した方法は持続的効果があり本症例もCC発症から1年以上経過するが週1回の理学療法で姿勢が維持されている。先行研究では体幹ジストニア,傍脊柱筋の変性に焦点を当ててきたが,腹部インナーの筋力低下が原因ではないかと推察する。体幹の安定化機構に関与する横隔膜は,腸腰筋と筋連結している為,脊柱の垂直安定化に関与している。シーティングと免荷式ロングブレス呼吸練習はCCだけでなく首下がり症候やPisa徴候に対しても効果がありパーキンソン病姿勢障害の新たな治療につながるものと考えられる。</p>
著者
枡田 隆利 矢野 正剛 重盛 大輔 外間 志典 長岡 正子 大垣 昌之
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0599, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】O'Brienらは65歳以上の高齢者において転倒経験者と非経験者ではFunctional Reach Test(以下,FRT)のリーチ距離(以下,FR値)に有意差があり,大腿骨近位部骨折の既往がある高齢者は再骨折のリスク群にあると報告している。しかし相反する報告もあり,JonssonらはFR値とCenter of Pressure(以下COP)の変位相関は低いとしており,FR値だけで立位の安定性限界を述べるには弱く運動戦略やCOPとの関係を明らかにする必要があると示唆している。本研究では,立位姿勢における動的バランス能力と運動戦略をより詳細に把握することが重要であると考え,二次元動作解析装置と重心動揺計を用いて左右FRT施行時の運動戦略と動的バランスの関係性を分析したのでここに報告する。【方法】対象は当院回復期病棟入院中の歩行が自立している大腿骨近位部骨折患者10名(男性0名,女性10名)。平均年齢79.5±8.2歳,平均身長1.49±0.05m,平均体重49.8±9.7kg。測定方法は,Duncanらの方法に準じFRTを左右施行しFR値,COP前後移動距離,運動戦略について記録した。COP前後移動距離は,多目的重心動揺計測システム(Zebris社製WinPDMS)を使用し,FRT測定開始時からFR値最大到達点時において測定した。運動戦略はFRT測定時において矢状面より肩峰,大転子,腓骨頭,外果,第5中足骨頭をランドマークとしてビデオカメラで定点撮影し,二次元動作解析装置(DARTFISH Pro5.5)を使用して股関節と足関節角度を解析した。統計処理はWilcoxonの符号付順位和検定を用いFR値,股関節角度,足関節角度,COP前後移動距離の骨折側と非骨折側を比較した。有意水準は1%未満とした。【結果】FR値は骨折側20.4±8.6cm,非骨折側22.5±7.7cmで有意差を認めなかった。股関節角度は骨折側が屈曲20.3±16.7°,非骨折側が屈曲31.5±16.6°で非骨折側股関節角度が有意に大きかった(p<0.01)。足関節角度は骨折側が底屈3.0±2.4°,非骨折側が底屈3.1±2.6°で有意差を認めなかった。COP前後移動距離は骨折側60.8±18.1cm,非骨折側78.8±27.2cmで非骨折側が有意に大きかった(p<0.01)。【結論】本研究の結果より,骨折側リーチ時のCOP前後移動距離が有意に短いことは骨折側転倒リスクに繋がるのではないかと考えた。また,高齢者におけるFRT施行時の運動戦略は股関節戦略有意であり,足関節戦略に依存しにくい傾向にあると示唆された。足関節戦略が見られない要因として,藤澤らが多くの高齢者の特徴として足関節機能は加齢に伴い優位に低下する傾向にあると報告しており,今回の結果もそれに起因しているのではないかと考えた。このことから大腿骨近位部骨折患者は骨折側立位時に股関節屈曲角度が低下していることで,COP前後移動距離が短縮し動的バランス能力が低下する傾向にあると考えられた。本研究は症例数が少ないため今後も継続して調査を行い,より信頼性高い結果を示していきたいと考える。
著者
長部 弘幹 大槻 暁 花房 京佑
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1349, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】立位でのリーチ動作は日常生活の場面で頻繁に行われる動作であり,上肢の機能的活動の指標とされる。また,バランスの指標であるFunctional Reach Testで用いられる動作であり,姿勢制御の要素が強く関連している。リーチ動作における上肢や手の運動戦略に関する研究は数多くあるが,リーチ動作における姿勢戦略について明らかにした研究は少ない。立位姿勢における姿勢戦略は股関節戦略,足関節戦略,ステップ戦略に大別され,各運動戦略を組み合わせて姿勢を調整している。立位でのリーチ動作においても同様な姿勢調節が行われていると考えられる。そこで今回は,立位姿勢でのリーチ動作における姿勢戦略の経時的変化を明らかにすることを目的とし,最大リーチ動作時の股関節と足関節による姿勢戦略を検討した。【方法】対象は健常成人19人(平均年齢24.6±2.2歳)とした。実験は,立位姿勢における対象物に対するリーチ,把持の動作をビデオカメラにて撮影し,その間の下肢の姿勢戦略を分析した。被験者の右腋窩直下,大転子,外側膝関節裂隙,外果,第5中足骨遠位端にマーカーを貼付した。矢状面の運動分析のため,ビデオカメラ(SONY;HDR-CX430V)のレンズと大転子の高さと同じにし,真横に4m離れた位置に設置した。実験開始肢位は,安静立位で右上肢を肘関節伸展位のまま肩関節屈曲90°肢位,左上下肢は任意の肢位とした。目標物は,1辺が3cmの立方体を右上腕骨頭の前方延長線上に置いた。検者は目標物を矢状面上でリーチ可能な距離まで移動させ,被験者に前方の目標物を母子と示指で把持すように指示した。その際,体幹回旋による代償動作や足底が床から完全に離れることがないように注意し,母指と示指で目標物を把持するようにした。目標物を徐々に離していき,被験者がつま先を動かさずに目標物を把持することができる最大の距離までリーチ動作を繰り返して行った。記録した映像から最大リーチ動作試行時を解析に使用した。映像分析には,動画解析ソフトダートフィッシュver.5.5(ダートフィッシュ・ジャパン)を用いて,マーカーを目印に股関節と足関節の関節角度を30fpsで測定した。データ解析では,リーチ時間の個別差を補正するため,運動の開始から把持した瞬間までの時間を100%とし,開始から20%毎の区間における各関節の運動範囲を算出した。各関節の運動範囲は,個別差を補正するため,開始時から終了時までの運動角度に対する各区間における運動角度の比率を算出し,その平均値を分析に使用した。各関節での値を一元配置分散分析により比較し,有意差を認めた場合に各区間における運動角度の比率をturkyの多重比較を用いて比較した。統計解析にはSPSS(ver.21)を使用し,有意水準は5%未満とした。【結果】股関節の平均値と標準偏差は0-20%,20-40%,40-60%,60-80%,80-100%の区間(以下それぞれを区間1,区間2,区間3,区間4,区間5とする)でそれぞれ,0.24±0.16,0.37±0.13,0.22±0.10,0.10±0.10,0.07±0.06であった。隣接する区間の比較では,区間1と区間2,区間2と区間3,区間3と区間4は有意差を認めた。区間4と区間5では有意差は認めなかった。一方,足関節の平均値はそれぞれ,0.15±0.20,0.28±0.28,0.24±0.15,0.21±0.26,0.12±0.14であり,一元配置分散分析にて各区間に有意差は認められなかった。【考察】目標物へのリーチ動作において股関節は20-40%区間で最も速く大きく変化し,その後徐々に速度と変化率が低下し,60%を過ぎるとわずかな変化で経過するということが明らかとなった。立位でのリーチ動作における股関節戦略は一定のパターンで,重心の前方移動のために使われるということが推測される。一方で足関節戦略は,どのタイミングで多く使われるかは明らかにならなかった。足関節運動は,各被験者によってピークに差異があり,重心の移動や距離の調整などに使用されていると考えられる。足関節戦略は状況によって変化する多様性のある戦略と推察される。足関節戦略の分析と股関節戦略との関連性については,今後より詳細な検討が必要である。【理学療法学研究としての意義】目標物へのリーチ動作における姿勢戦略を明らかにすることは,臨床での理学療法を行っていくうえで非常に重要なことである。課題に伴う姿勢戦略を適切なタイミングで使用しているかを分析し治療することは機能的な活動を獲得するために重要であり,今回の結果は,クリニカルリーズニングの一助となるもの考える。
著者
石塚 達也 西田 直弥 仲保 徹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H4P3248, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】 呼吸筋は呼吸機能を維持するだけではなく、姿勢制御に作用するとされている。臨床では姿勢制御機構が破綻している呼吸器疾患患者が多く観察される。姿勢制御と呼吸機能との関係を裏付ける明確な研究は少なく、筋機能からの推察が主となっている。その中で内山らは、足圧中心点(COP)の動揺と呼吸との関係を検討し、両者には相関があるとしている。このことからCOPを制御することにより良好な呼吸運動が可能になると考えた。人の姿勢制御戦略の中で、静止立位時に一般的に使われているのは足関節戦略である。足関節戦略は、主として足関節を中心とした身体運動を介して身体重心を安定した位置に維持する戦略である。このことに着目し、呼吸運動と足関節底背屈運動を主としたバランス訓練を併用し、胸郭運動に与える影響を検討した。【方法】 対象は,健常成人男性14名(平均年齢22.9±3.0歳、平均身長170.7±6.5cm、平均体重62.5±7.2kg)とした。呼吸運動は3次元動作解析装置Vicon MX(Vicon Motion Systems社)を用い、体表に貼付した赤外線反射マーカーから胸郭運動を計測した。赤外線反射マーカーを剣状突起高周径上に6箇所貼付し、前後径および周径を算出したのち安静呼気-最大吸気の胸郭拡張量を計測パラメータとした。呼吸相を把握するために、呼気ガス分析器AS-300S(ミナト医科学社)を用い呼吸量変化の計測を行った。COPは床反力計(AMTI社)を用い、対象者の踵を基準とした安静呼気時の前後方向位置を算出した。得られた値は、対象者の足長で正規化し、足長に対する割合で3群(前方群、中間群、後方群)に分類を行った。前方群はCOPの位置が足長の50%より前方にある群、中間群は足長の40%から50%に位置する群、後方群は40%未満に位置する群とした。各対象者に対して、安静時のCOP位置および胸郭拡張量を計測したのち、DYJOC BOARDを用いたバランス訓練を行った。バランス訓練は、足関節底背屈運動と呼吸運動を同期して行い、足関節底屈-吸気/足関節背屈-呼気の組み合わせとした。バランス訓練後のCOP位置および胸郭拡張量を計測し、訓練前後の比較を行った。【説明と同意】 計測を行うにあたり、各対象者に対して本研究内容の趣旨を十分に説明し、本人の承諾を得た後、同意書に署名した上で計測を実施した。【結果】 COPの位置変化をみると、前方群は訓練前平均55.1±2.8%、訓練後55.1±2.9%となった。中間群では、訓練前43.7±2.6%、訓練後47.2±4.3%となった。後方群では、訓練前38.8±1.1%、訓練後45.4±3.0%となった。 また胸郭拡張量は、前方群では前後径が19.7±4.4mm、周径が54.8±12.6mmであり、訓練後前後径が17.9±3.1mm、周径が50.9±14.2 mmと減少した。中間群では前後径が16.6±4.1mm、周径が50.9±9.8mmであり、訓練後前後径が16.3±5.4mm、周径が51.8±9.7 mmとほとんど変化しなかった。後方群では前後径が18.3±5.1mm、周径が45.0±5.2mmであり、訓練後前後径が21.3±5.2mm、周径が48.6±2.1 mmと増加した。【考察】 今回の研究で、足長に対する踵からのCOPの位置は中間群と後方群で訓練施行後にCOPの前方化を図ることができた。特に後方群ではそれに伴い胸郭拡張量も増加しており、足関節戦略を学習したことにより安静立位がより安定し呼吸筋による姿勢筋活動から解放されたことが考えられる。そのことにより呼吸筋が呼吸のための筋として活動する機能が高まったことが考えられる。臨床において、自然立位で後方重心となっている例は胸椎の後弯が増強していることが多く、胸郭は呼気位にあることが多い。胸郭拡張量の増加については、COPの前方化と吸気を同期して行うことで、胸郭が呼気位から吸気位へ移行したとも考えられる。胸郭の吸気位への移行は胸椎伸展方向への動きも伴い、後方重心の解消、COPの前方化に繋がったものと考える。すなわち、COPの位置と胸郭拡張差は相互的に作用している可能性が考えられた。 また、前方群は骨盤前方化により姿勢を保持している印象が強く、訓練時に股関節戦略により対応していたことが考えられた。訓練時に股関節、腰椎での代償が大きく胸郭の拡張を得ることができなかったものと推測される。【理学療法学研究としての意義】 本研究より特に後方重心の症例に対して足関節戦略を用いたCOP制御が呼吸筋の姿勢筋活動の解放を促し、胸郭拡張量を増加させる可能性があることが考えられた。今後は安静時姿勢のアライメントなども考慮し、どのような姿勢制御で訓練を行うかということも加味しながら追跡調査をしていきたい。
著者
吉崎 邦夫 佐原 亮 瀬川 大輔 浜田 純一郎 遠藤 敏裕 藤原 孝之
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0685, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】肩関節疾患治療において肩関節内旋運動(以下内旋運動)制限が問題となる。なかでも日常生活活動では結帯動作に支障を来すことが多い。上肢運動は複合的運動であり,肩甲上腕関節,肩甲骨,鎖骨,胸郭,体幹の運動が関与している。これらの運動を考慮した上腕骨頭(以下骨頭)の内旋運動と肩甲骨運動について三次元動作解析装置(3D-MA)を用いて検討した。本研究の目的は,骨頭が内旋する肩関節の第1肢位(1st)内旋,第2肢位(2nd)内旋,第3肢位(3rd)内旋,結帯動作における骨頭の内旋角度と肩甲骨運動を調査すること,また肩関節内旋制限を有する症例の理学療法確立の一助とすることである。【方法】対象は肩関節痛の既往がなく,野球などの球技スポーツ歴のない,書面で同意を得られた健常者9名(男性9名,平均年齢21歳,19~23歳)であり,利き手側を計測した。8台の赤外線カメラを用いた三次元動作解析装置(MAC 3DSystem,Motion Analysis corp.)にて,基本的立位姿勢から開始し肩関節1st・2nd・3rd内旋,結帯運動を計測した。直径10mmの赤外線マーカーを,体幹(C7,L5,胸骨柄,胸骨剣状突起および両側の腸骨稜と上前腸骨棘),肩関節周囲(いずれも利き手側の骨頭前方および後方,肩峰角,肩甲棘内縁),肘関節(上腕骨内側・外側上顆),手関節(内・外側)合計16ヵ所の皮膚ランドマークに,できるだけスキンアーティファクトが少なくなるよう調整し貼付した。データ統合解析プログラム(KineAnalyzer,キッセイコムテック)を用い,各運動面上で上記のマーカーから導出した運動軸の変化を抽出し,体幹運動(屈曲・伸展,側屈,回旋)を差し引いた1st・2nd・3rd内旋運動の骨頭内旋角度と肩甲骨運動角度(内・外旋,上方・下方回旋,上方・下方傾斜)を算出した。結帯動作の骨頭内旋角度は,骨頭中心から骨頭前方および後方を結ぶ線と直交しかつ上腕軸と直交する線を作成し,この線と上腕骨内・外側上顆を結ぶ線の成す角度を基に算出した。肩甲骨運動は,肩峰角,肩甲棘内縁,骨頭後方が作る三角形の面に直行する軸を各運動面に投射し,各基本軸と成す角度を基に算出した。体幹運動は,屈曲・伸展および側屈はC7とL5を結ぶ直線と各運動面における基本軸とのなす角度から計測した。体幹回旋は,C7とL5を結ぶ直線の中点と胸骨剣状突起を結ぶ直線と水平面上の基本軸との成す角度を基に算出した。【結果】最大運動角度における1st内旋の骨頭内旋角度は68.6±17.3度,肩甲骨内旋角度は5.0±2.9度であった。2nd内旋の骨頭内旋角度は55.6±11.0度,肩甲骨前方傾斜角度は14.5±5.2度であった。3rd内旋の骨頭内旋角度は15.5±4.7度,肩甲骨上方回旋角度は7.1±6.3度であった。結帯動作における骨頭内旋角度は39.2±5.0度,肩甲骨前方傾斜角度は14.0±4.7度,肩甲骨内旋角度は5.0±5.6度,上腕骨伸展角度は36.3±9.2度,肘関節屈曲角度は100.0±11.2度であり,母指指先はTh7±2椎体レベルであった。【考察】各運動で骨頭内旋角度を比較すると,1st内旋が最も大きく,2nd内旋,結帯動作が続き,3rd内旋が最も小さかった。結帯動作に着目すると1st内旋と比較し上腕骨が屈曲位にあるか伸展位にあるかの違いで骨頭内旋角度の差が大きく(47.5±15.1度),結帯動作障害のある症例には,1st内旋の制限がなく,また結帯動作に伴う肩甲骨上方回旋および前方傾斜にも制限がないことが多い。以上から骨頭内旋制限が結帯動作の障害因子であると推察され,上腕骨伸展位で何らかの軟部組織が骨頭内旋制限に関与すると考えられる。われわれは第41回日本肩関節学会(2014年)において解剖学的・臨床的知見から骨頭内旋制限に烏口上腕靭帯肥厚・瘢痕形成が関与すると報告した。特に結帯動作の上腕骨伸展に伴い,烏口上腕靭帯が緊張し骨頭の内旋制限を生じることが確認された。今後は,骨頭内旋運動に伴う腱板筋の筋活動と,烏口上腕靭帯の肥厚・瘢痕形成に対する理学療法を考案してゆく予定である。【理学療法学研究としての意義】肩関節疾患において肩関節内旋運動制限が問題となることが多く,特に結帯動作の改善は困難である。内旋運動は多関節の複合的運動であり肢位により違いがあるものの,各内旋運動を区別して検討することは理学療法のターゲットを明確にし,治療効果を向上させるためにも重要である。
著者
荒川 高光
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0518, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】上殿神経は通常第4と第5腰神経,第1仙骨神経から起こる仙骨神経叢の一枝で,上殿動静脈とともに大坐骨孔の梨状筋上孔から出て,中殿筋と小殿筋の間を走行しながら両筋へと筋枝を与え,さらに前方へと回って大腿筋膜張筋を支配する神経である。このような走行のために髄内釘の手術の際に上殿神経が傷つけられる危険性が指摘されている(Ozsoy, et al., 2007;Lowe, et al., 2012)。また上殿神経には殿部の皮膚や殿筋膜への知覚枝が存在することも報告されている(Akita, et al., 1992)。上殿神経の詳細な解剖学的情報は股関節リハビリテーションにおいても重要である。今回,梨状筋上孔を出た上殿神経が大殿筋への筋枝を持つ例に遭遇したため,詳細に観察することとした。【方法】所属大学医学部の解剖学実習用遺体1体(女性)を用いた。殿部や骨盤内に外傷や手術の既往はなかった。皮膚剥離後,大殿筋を反転する際に,梨状筋上孔から大殿筋に至る筋枝に気付き,全て色糸でマークして,動静脈とともに切断して大殿筋を反転した。続いて中殿筋を反転し,小殿筋との間の上殿神経を剖出し,大腿筋膜張筋までその走行を確認した。所見をスケッチとデジタル画像にて記録した。【結果】梨状筋上孔からは上殿神経の他に,後大腿皮神経から分かれた下殿皮神経と会陰枝,総腓骨神経が出ていた。上殿神経は梨状筋上孔を出た後に,中殿筋の深層へと走行する手前で大殿筋に至る筋枝を3本出していることが確認できた。大殿筋の最も頭側の筋束(腸骨稜起始)へと筋枝を送り,仙骨から起始する筋束にも筋枝を出した。本筋枝が大殿筋内を通り抜けて後方へ出て知覚枝になる様子は現在のところ発見できていない。上殿神経は大殿筋へ筋枝を出した後,中殿筋と小殿筋の間を走行しながら両筋に筋枝を出し,大腿筋膜張筋へ達した。大腿筋膜張筋への筋枝が一部本筋を貫いて筋膜へと出ていた。梨状筋下孔からは脛骨神経と下殿神経が出ていた。下殿神経は大殿筋の下方の筋束へと筋枝を出していた。後大腿皮神経の残りの枝と陰部神経は未確認である。【結論】上殿神経が大殿筋を支配する例の報告は現在のところ存在せず,本例は臨床的にも非常に貴重な例である。すなわち,上殿神経を傷つけるリスクのある手術を行った際には,ごく稀ではあるが,大殿筋の支配神経を傷つけている可能性も否定できないのである。さらには,上殿神経が傷つけられると,大転子付近の筋膜や皮膚への知覚が障害される可能性もある。術後のフォローアップの際に理学療法士が知っておかねばならない詳細な解剖学的情報の1つと位置づけられる。今後本例の上殿神経などの起始分節を確かめるとともに詳細に解析を加えていきたい。
著者
齋藤 梨央 井所 和康 三上 紘史 仲島 佑紀
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.G-109_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに・目的】当院では、転倒予防の観点から運動器疾患を有する通院患者を対象とした歩行年齢測定会を実施している。転倒関連自己効力感は、高齢者において身体機能やADL能力の低下、QOLにも影響を与えるとされており、我々は先行研究で運動器疾患を有する患者の転倒歴は転倒関連自己効力感を低下させると報告した。しかし、転倒関連自己効力感の向上に関して有意性のある評価項目は明らかになっていない。本研究の目的は、転倒関連自己効力感に影響を及ぼす評価項目を調査し、その評価項目における具体的な目標値を算出することである。【方法】対象は2017年の歩行年齢測定会に参加した計58名(男性5例、女性53例、平均年齢74±7.6歳、平均身長153.6±6.6cm、平均体重54.8±9.9kg)とした。先行報告より、国際版転倒関連自己効力感尺度(FES-I)は64点満点中24点以上で転倒との関連性が報告されている。歩行年齢測定会にてアンケート調査より日本語版FES-I 24点以上と24点未満の2群に群分けした。調査項目は体組成3項目(身長、体重、骨格筋量)、身体機能10項目(握力、片脚立位予測値・計測値、立ち上がりテスト予測値・計測値、2ステップテスト、Timed Up & Go Test (TUG)、ファンクショナルリーチテスト(FRT)、5m歩行、5mタンデム歩行テスト)の計13項目とした。予測値は、片脚立位5秒保持が可能か、両脚または片脚で何cmの台から立ち上がれるかをテスト実施前に聴取した。統計学的解析は日本語版FES-Iの2群間比較において各調査項目の差をMann-WhitneyのU検定を用いて検討した。さらに、有意差が認められた因子を説明変数としROC曲線分析を用いてカットオフ値を算出した(R2.8.1)。有意水準は5%とした。【結果】日本語版FES-I 24点以上群で有意差が認められた項目は、片脚立位計測値(p=0.02)、立ち上がりテスト予測値(p=0.00)、立ち上がりテスト計測値(p=0.00)の3項目であった。有意差が認められた3項目のROC曲線から得られたカットオフ値、感度、特異度は、片脚立位計測値では26.5秒、62%、76%、立ち上がりテスト予測値では両脚10cm、76%、68%、立ち上がりテスト計測値では両脚10cm、90%、59%であった。【結論】本研究より転倒関連自己効力感の低下した高齢者は、自己効力感低下の原因とされる筋力やバランス能力を反映する片脚立位と立ち上がりテスト予測値・計測値ともに有意に低値を示した。また、予測値は自身の身体機能に対する自信を示し、予測値の低下に伴う転倒関連自己効力感の低下は不必要な活動制限やそれに伴う生活機能低下を招く可能性があることから、実際の身体機能とともに介入が必要である。転倒関連自己効力感に対して運動介入が効果を示すとされ、本研究で算出されたカットオフ値を目標とした評価・運動療法の実施は、身体機能向上による転倒関連自己効力感向上に有用であると考える。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は、ヘルシンキ宣言に基づき対象者へ研究の目的・内容を十分に説明し同意を得たうえで行った。
著者
長谷川 聡 大島 洋平 宮坂 淳介 伊藤 太祐 吉岡 佑二 玉木 彰 陳 豊史 伊達 洋至 柿木 良介
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.De0029, 2012

【はじめに、目的】 生体肺移植は,健康な二人の提供者(ドナー)がそれぞれの肺の一部を提供し,これらを患者(レシピエント)の両肺として移植する手術である.生体肺移植ドナーは肺の一部をレシピエントに提供することで呼吸機能が低下することは知られているが,手術における呼吸器合併症の発症や術後の呼吸機能,運動耐容能および健康関連QOLの中期的経過に関する報告は世界的にもあまりみられない.本研究の目的は,生体肺移植ドナーが手術を受けることによる術後の呼吸機能および身体機能,生活の質に与える影響を明らかにし,本手術施行におけるドナーの予後を検証することである.【方法】 2008年6月から2010年12月までの期間に当院で施行された生体肺移植術におけるドナー28名(男性9名、女性19名)を対象とした.尚,全症例に対して,術前後のリハビリテーションを実施した.術後の短期成績として,術後呼吸器合併症の発症を検証した.さらに,呼吸機能の評価として,術前, 3ヶ月,6ヶ月に努力性肺活量(以下FVC),1秒量(以下FEV1),肺拡散能(DLCO)を測定した.また,術前,術後1週,3ヶ月における6分間歩行距離(以下6MWD),および咳嗽時疼痛をNumerical Rating Scale (NRS)を用いて測定し,術後経過を検証した.手術における健康関連QOLに与える影響を検証するために,術前,術後3ヶ月,6ヶ月にMOS 36-item Short Form Health Survey (SF-36)を用いてQOL評価を行なった.測定値の各評価時期における平均値を算出するとともに,反復測定一元配置分散分析およびScheffe's法による多重比較検定を用い,各時期における平均値の比較を行なった.統計学的有意水準は危険率5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には口頭および文章にて本研究の主旨および方法に関するインフォームド・コンセントを行い,署名と同意を得ている.本研究はヘルシンキ宣言に沿った研究であり,京都大学医学部医の倫理委員会の承認を得ている.【結果】 術後呼吸器合併症(肺炎・無気肺)の発生症例は無かった.FVCは,術後3ヶ月,6ヶ月においてそれぞれ術前の79.4±6.4%,86.1±7.0%の回復であった.FEV1は,術後3ヶ月,6ヶ月においてそれぞれ術前の81.8±7.8%,85.7±9.7%の回復であった.DLCOは,術後3ヶ月,6ヶ月においてそれぞれ術前の80.0±1.0%,85.2±9.7%の回復であった.呼吸機能は,術後3ヶ月において有意に低下しており,術後6ヶ月経過しても完全には回復しなかった.術後3ヶ月における6MWDは,術前の101.2±7.7%まで回復し,咳嗽時疼痛はNRSで0.4±1.1とほぼ消失し,術前と比較して統計学的な差を認めなかった.QOLに関しては,SF-36の下位尺度は,術後3ヶ月では十分に改善せず,術後6ヶ月では,全項目で国民標準値を超えていたが,術前の得点にまでには改善しない項目がみられた.【考察】 呼吸機能は術後6ヶ月の時点においても術前と比較して機能低下は残存するものの,切除肺区画量から算出される予測機能低下よりもはるかに良好な値であった.運動耐容能は術後1週で,呼吸機能の回復よりも高い回復率を示し,術後早期から良好であり,さらに術後3ヶ月の時点で術前レベルに回復することが明らかとなった.これらの結果より,ドナーは少なくとも術後3ケ月経過すれば,呼吸機能低下の残存に関わらず,運動耐容能の結果からも術前の生活レベルには復帰できるが,健康関連QOLの観点からみるとまだ不十分であり,6ヶ月経過してもQOLの改善は完全ではないことが示唆された.本研究の結果より,術前後のリハビリテーションを実施した生体肺移植術ドナーは,術後呼吸器合併症を発症することなく,安全に術前の運動耐容能を取り戻すことが出来るが,健康関連QOLは術後半年経過しても完全には回復しておらず,継続的かつ包括的な治療介入が必要であることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】 生体肺移植手術は,脳死肺移植手術とともに,難治性の呼吸器疾患患者の生命予後を改善する非常に有用な先端医療であり,本邦においても今後様々な施設において手術施行例が増加すると思われる.レシピエントに対するリハビリテーションにおける臨床研究は,無論,重要であるが,ドナーに関しても,臨床研究を進めるとともに,手術における身体機能やQOLへの影響を検証し,我々理学療法士がエビデンスに基づき適切に介入していく必要がある.本研究はこのような新たな視点を示した点で意義深く,重要な研究である.
著者
遠藤 正樹 小川 智美 鈴木 正則 太田 恵 森島 健
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ge0071, 2012

【はじめに、目的】 理学療法養成課程の臨床実習は、理学療法士に必要な基礎的知識と基本的技能を実習指導者の指導・監督の下で実践し、専門職に必要な知識・技術・接遇を習得していく重要な教育の現場である。一方、近年の学生の特性として認められる学力・思考力の低下、ソーシャルスキルやコミュニケーションスキルの未熟さ、打たれ弱さなどは教育上無視できない状況にあり、総合評価で不可がつく学生も少なくない。経験豊富な教員であれば主観的にどのような学生が臨床実習でつまずくのか予測できるが、経験が浅い教員では予測することは難しく、実習前に効果的な対策を打つことができない。そこで、これまでの臨床実習における学生評価を利用して、どのような学生が実習でつまずいているのか予測できれば、早期に対策を打つことができ、学生も教員も臨床実習に備えることが可能になると考える。よって本研究の目的は、臨床実習評価の下位項目と総合評価の関係を明らかにし、学内教育での可能性を検討した。【方法】 対象は平成22年度、平成23年度の昼間部3年生、夜間部4年生とし、臨床実習評価を受けられた146名(男性100名、女性46名)を分析対象とした。臨床実習評価表は下位項目33及び総合評価、自由記載欄から成り、成績の段階付けは両者とも優・良・可・不可の4段階評価である。下位項目における評価内容は、1)専門職としての適性及び態度が10項目、2)理学療法の進め方1.理学療法を施行するための情報収集、検査測定が5項目、2.理学療法の治療計画の立案が4項目、3.理学療法の実施が4項目、4.担当症例に即した基礎知識が7項目、3)症例報告書の作成・提出・発表が3項目で構成されている。解析には成績の欠損が多かった3項目は除外し、30項目を使用した、統計解析は総合評価の合否を従属変数、下位項目を説明変数として多重ロジスティック回帰分析を行った。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は倫理委員会設置しておらず、同等の権利を持つ教務委員会の承認を得て実施した。なお、個人を特定するようなデータは含まれていない。【結果】 総合成績合格者137名、不合格者9名であった。多重ロジスティック回帰の結果、有意な関連は認められなかった。【考察】 臨床実習体験者を対象とし、総合評価との関連を調査するために、下位項目を複数投入しロジスティック回帰分析を行った結果、下位項目と総合評価との関連は認められなかった。総合評価で不可がついた学生の下位項目を調べると、不可がついていないにも関わらず不合格がついているケースや、逆のケースもあり、評価の基準があいまいなことが確認できた。また、不合格者の自由記載欄を確認すると、責任感のなさや消極的、受動的、自分にあまいといった評価表にないキーワードが共通してみられる。その背景には学生自身の基礎学力の低さやコミュニケーションスキルの未熟さがあると考えられた。よって総合評価の決めてには学生の実習への取り組む姿勢が基準となっている可能性がある。今後は自由記載欄を詳細に調査し、質的分析や下位評価項目の改訂を含めて検討が必要と考えられた。【理学療法学研究としての意義】 入学当初から勉強への取り組み方やコミュニケーションスキル、生活態度等の質的評価を学内で確立し、臨床実習の具体的場面と結び付けて指導していく必要性がある。
著者
ハーランド 泰代 植野 拓 渡辺 恵都子 青木 尚子 豊田 文俊 高畠 由隆 舟越 光彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.DbPI2348, 2011

【目的】心疾患を有する患者は、長期間運動を継続し、運動耐容能を維持・向上することが望ましく、運動を継続することが生命予後に関係するとされている。しかし、社会背景や身体的問題などの影響から、中には継続困難となり中断してしまう患者も経験する。そこで今回、外来通院による心臓リハビリテーション(以下、心リハ)の参加者を対象に、継続および非継続に関わる因子を調査および検討したため報告する。<BR>【方法】対象は、当院にて2008年1月から2009年11月の間に、外来通院型心リハプログラムに参加した心疾患患者63名(男性52名、女性11名、平均年齢69.9±10.4)である。疾患内訳は狭心症29名、心筋梗塞5名、慢性心不全12名、閉塞性動脈硬化症11名、開胸術後4名、大血管疾患2名である。公的医療保険給付の心リハ期限である150日以上の継続可能であった群を継続群、150日未満であった群を非継続群に分けて比較検討を行った。グループの内訳は、継続群30名(男性22名、女性8名)および非継続群33名(男性30名、女性3名)であり、検討内容は年齢、性別、疾患名、家庭環境(同居、独居)、冠危険因子数、費用負担、通院手段、通院距離、参加期間、NYHAの重症度分類の各値を診療録情報より調査し、後方視的に比較検討した。統計処理方法はX2検定、t検定を用いて統計学的検討を行い、危険率5%未満を有意差ありとした。さらに費用負担の有無に区分し、カプランマイヤー曲線により心リハ継続群の比較、およびコックス比例ハザードモデルにより費用負担有無による非継続群のハザード比を求めた。<BR>【説明と同意】対象者には研究の趣旨を説明し、同意を得た。<BR>【結果】今回の結果、継続群は30名(47.6%)であった。NYHAの分類のclassIIおよびclassIIIの継続群は有意に相関が高く、非継続群は低い結果となった(P<0.05)。性別では相関は認められなかったが、男性に比べて女性の継続率が高い傾向があった(P=0.1)。家族形態(同居ありおよび独居)の結果では、継続群と非継続群において有意な相関は認められなかった(P=0.7)。通院距離(遠方または近隣)においても有意な相関は見られなかったが、非継続群に比べて継続群は高い傾向にあり、近隣に比べて遠方の方が継続しやすい傾向であった(P=0.2)。また費用負担ありについても両群で相関は認められなかったが、継続群に対して非継続群は高い傾向があり、費用負担があると心リハ実施の継続率が低下しやすい傾向があった(P=0.1)。さらに、費用負担ありと非継続の年齢等を調整したハザード比では、1.67(95%CI 1.01-2.52)と有意に高く、自己負担があると継続が難しいという結果となった。<BR>【考察】重症度が低く、リスクファクターが少ない参加者が非継続の傾向が示唆された。おそらく重症度が低ければ自覚症状が少なく、意欲も低下するため継続困難であったのではないかと考えた。そのため、介入時から心リハの必要性や効果について十分な説明を行い、疾患を自己管理できるように教育などの介入を十分に行っていく必要がある。また重症度が高いと継続率は高い傾向があるが、急性増悪などを起こす可能性も高いため、増悪予防やセルフコントロールの徹底が必要である。社会的な面では、独居の方が継続率が高いと予想していたが、結果的に家族形態には違いは見られなかった。また通院距離では、近隣の対象者に比べて、遠方の対象者の方が継続しやすい結果となった。これは交通機関を利用して来院される方が多く、近隣の徒歩や自転車での通院に比べて、時間的スケジュールが確立されている事や運動負荷が少ない事などが上げられる。また加えて、医療費の自己負担がある対象者の方が、非継続の傾向が強い結果であった。このことにより、自己負担の有無が心リハの継続に影響を与える因子の一つになることが分かった。このような結果を踏まえて、心リハ開始時の情報収集では十分な社会的な特性を考慮し、必要な援助を行う必要があると考える。また心リハの通院期間や終了時期を明確に設定し、その後負担の少ない民間のスポーツジムや市町村の運動教室などへ繋げて、運動を継続するなどの配慮が必要である。また今後さらに症例を増やし、詳細な分析を行う必要がある。<BR>【理学療法学研究としての意義】患者の社会的な背景や重症度の違いにより、心リハ継続に影響を及ぼす一要因になることが示唆された。情報収集の際に社会的な背景に問題がある方に対しては、民間の施設への斡旋や連携を強化し、運動を継続していく必要がある。<BR>
著者
新川 雄一 畑野 秀樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.C3P1421, 2009

【目的】当地域ではホッケー(以下:HC)が盛んであり、当医師がHCのDrとして行なっていた.私自身、HCのサポートは初めてで、今回HC全日本中学選抜(以下:U-15)の海外遠征のメディカルサポート依頼があり、トレーナー活動をする機会があったので、HCの特性や外傷調査・実際に行なったトレーナー活動を報告する.<BR>【対象】平成19年12月3~11日オーストラリア、パースにて6~9日のFHEcupに参加.男子20名、平均年齢14.75±0.25歳、身長168.13±9.5cm、体重56.8±9.6kg.女子20名、年齢14.85±0.15歳、身長158.19±11.05cm、体重51.79±8kgの計40名の選手を対象にアンケート(日本HC協会及び選手・保護者に同意協力の元)、メディカルサポートを行なった.<BR>【方法】アンケート実施は、HCの特性を評価(厚労省の体力測定を自己効力感度にて複数回答)、U-15の身体評価、メディカルサポートの必要性等を調査し、トレーナー業務は、HCの受傷箇所の調査、コンディショニングの説明、Drの診断からのRISE処置、テーピング等のメディカルサポートを行なった.<BR>【結果】アンケートでは、走る項目に自信度が伺え、各ポジションでその特性の違いがあった.又男女間では、男性の方が控えめに複数回答したのに対し、女性は複数回答が多かった.障害受容については各部位に外傷を負っている選手が数名存在し、サポートなどの必要性がほしいとの回答が多く見られた.トレーナー業務は、障害予防のテーピング・予防方法などを指導.受傷は練習・試合を含め、外傷者が顔3名(13%)、腰部3名(13%)、上肢3名(13%)、下肢14名(57%)で下肢の受傷が最も多く、特に右6症例(12%)、左17症例(52%)と左に関る受傷が多かった.<BR>【考察】HCの特性は、全体的に走力が必要であり、又各ポジション別で、それぞれ特性のあった結果が見られた.しかし、あくまで選抜である為、監督の思惑もあり、これがHCの特性とはまだいえない状況であるとも考えられた.障害において、HC選手の多くは、腰痛症(分離症等)がメインで予想してきたが、結果では、左下肢の怪我(腱鞘炎・打撲・筋炎)がメインであった.左に受傷が多い原因は2つ考えられた.1つは、HCは一般的に右方向からの攻めが基本で、スティックは片面しか使えないことが、成長期における筋のバランスを崩していると考えられた.2つ目は日本は土のグランドが多く、海外は人工芝が多いため、下肢に加わるグリップの違い=環境が違うことが原因と考えられた.<BR>【まとめ】今回U-15のトレーナー活動を通して、成長期中の男女で選ばれた選手40名の内、約1/5が怪我の既往があり、完治していない選手が数名存在した.アンケートで、選手が医療の必要性を感じ、メディカル的な役割を期待していることが分かった.HCという競技は、腰部痛が多いと思っていたが、現状は、左側にストレスや傷害を負うスポーツであることが理解できた.