著者
植田 拓也 柴 喜崇 畠山 浩太郎 中村 諒太郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.EaOI1038, 2011

【目的】<BR> 脊柱後彎変形(以下,円背)は加齢に伴い進行する高齢者特有の姿勢であり(Milne,1974),高齢者の約60%に認められると報告されている(川田,2006).高齢者の円背の増加はバランス能力低下(坂光,2007),呼吸機能の低下(草刈,2003)などと関係があり,円背の定量的測定の開発が求められている.また,円背進行予防運動の効果を検討するためにも,時間的な制約のある臨床現場ではより効率的で簡便な円背の測定が必要であると考えられる.<BR> 現在,円背の定量的測定のGold standardとして脊柱矢状面レントゲン画像から算出するcobb角がある(Kado,2009).また,自在曲線定規による円背指数(Kyphosis Index(%):以下,KI)が最も安価で簡便な測定方法であるとされている(Lumdon,1898).<BR> そこで本研究の目的は臨床で使用可能であり,簡便な円背の定量的測定方法の開発を目的とし,小型ジャイロセンサーを用いた円背の定量的測定の妥当性及び再現性を検討することとした.<BR>【方法】<BR> 参加者は神奈川県S市のラジオ体操会会員から募集した56歳~86歳の地域在住中高齢者96名(男性50名:平均年齢70.1±5.0歳,女性46名:平均年齢72.7±6.2歳)であった.<BR> 姿勢測定は((株)ユーキ・トレーディング社製,ホライゾンKS08010:以下,姿勢測定装置)を使用し,脊柱後彎角度(Kyphosis Angle;以下,KA)を算出した.本装置は小型ジャイロセンサーが内蔵された測定器(±0.7°の精度)であり,三次元的な角度の測定が短時間かつ正確に可能である.KAは,第7頸椎棘突起(以下,C7)と脊柱の最大後彎部を結ぶ線,脊柱の最大後彎部と両側上後腸骨棘の中点(以下,PSIS中点)を結ぶ線のなす角度である.また,外的基準として円背の程度の測定をKIにて算出した.KIは身体に非侵襲的であり,高値になるほど円背が重度と判断される指標である.また,Cobb角との高い相関が確認され(Milne,1974),検者内,検者間の再現性のある測定方法である(Lundon,1998).KIの算出は,測定を立位にて実施した.C7と両側上後腸骨棘を触診し,C7からPSIS中点までの脊柱アライメントを自在曲線定規で型どりそのアライメントを紙にトレースした後,C7からPSIS中点を結ぶ線との交点までの長さL(cm)と直線Lから彎曲頂点までの高さH(cm)を記録し,H/L×100で算出した.<BR> 統計解析は姿勢測定装置による円背測定の妥当性について,KIとKAの関連をPearsonの積率相関係数を用いて検討した.また,2回及び3回連続測定の再現性について,級内相関係数(Intraclass Correlation Coefficient:以下 ICC(1,1),ICC(1,2),ICC(1,3))を算出し,適切な測定回数を検討した.なお,有意水準は1%未満とした.<BR>【説明と同意】<BR> 参加者には事前に書面及び口頭で本研究について十分な説明を行い,書面にて自署において同意を得た.<BR>【結果】<BR> 参加者全体のKA及びKIの平均値はKA:163.8±6.8°,KI:8.4±2.6%であった.KAとKIの間には,全参加者(r=-.63,<I>P=.00</I>,n=96),男性(r=-.64,<I>P=.00</I>,n=50),女性(r=-.62,<I>P=.00</I>,n=46)において統計学的有意な中等度の相関が確認された.<BR> KAの連続測定の再現性の検討では,2回連続ではICC(1,1):0.967(99%Confidence interval(99%CI);0.935-0.983),ICC(1,2):0.983(99%CI;0.966-0.991),3回連続ではICC(1,1):0.958(99%CI;0.9267-0.9766),ICC(1,3):0.985(99%CI;0.974-0.992)であった.<BR>【考察】<BR> 本研究では姿勢測定装置による円背の定量的測定の妥当性と再現性を検討した.結果,姿勢測定装置による円背測定の妥当性が確認された.また,ICCは0.9以上で"優秀"と定義されていること(Shrout,1979)から,2回及び3回連続測定の高い再現性が確認された.これは3回の連続測定の再現性に関しては,本装置による体幹前傾角度の計測法を検討した先行研究(Suzuki,submission)とも一致する結果となった.姿勢測定装置による円背測定の回数はKAのICC(1,1)が0.95以上であったことから1回の測定でも十分再現性は高いといえる.つまり,姿勢測定装置による円背の測定は1人の検者が1回測定すれば十分であるということができる.以上のことから,姿勢測定装置による円背測定は,妥当性,連続測定の再現性が高く,臨床現場において簡便に実施可能な円背の定量的測定方法であることが示唆された.<BR> しかし,本研究では姿勢測定装置での日の違いによる検者内再現性及び検者間再現性は検討しておらず,今後はこれらについても検討する必要がある.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 現在,求められている科学根拠に基づく理学療法の確立には治療効果を定量的,客観的に測定することが必要である.また,その測定方法は簡便であり,時間に制約のある臨床場面で容易に使用できることが前提となるべきである.本研究において,効率的かつ正確に円背の定量的測定が可能になることで,円背の進行予防に対する効果的な訓練方法の確立につながると考えられる.
著者
河野 美華 武田 知樹 大平 高正 山野 薫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.A0076, 2007

【目的】<BR> 自転車エルゴメーターは,下肢関節への負担が少なく筋力増強が得られるため,運動療法の中で幅広く利用されている.しかし,その特性について,臨床で使用が容易な低強度での筋活動,また駆動肢位についての報告は少なく,不明な点もみられる.今回は,自転車エルゴメーター駆動時における,強度や膝関節位置の相違が駆動時の大腿四頭筋活動に与える影響について考察する.<BR>【方法】<BR> 対象は本研究に同意した健常成人4名(男女各2名)とした.平均年齢は24.0±4.0歳,平均身長は171.5±6.5cm,平均体重は62.0±7.5kgであった.自転車エルゴメーターは,Cateye社製ergociserMODEM EC-1000を用い,運動強度は60Watt(1.0kp×60rpm:低強度),120Watt(2.0kp×60rpm:高強度)の2条件を選択した.サドルの高さは膝関節最大伸展時30°に設定した.駆動肢位は,大腿中央-膝蓋骨中央-下腿中央を結んだ線を中間位とし,それより膝が内側へ入った場合(内側位),外側へ出た場合(外側位)の3肢位を設定した.筋活動の測定は,表面筋電図NORAXON社製テレマイオ2400を用い,大腿直筋,内側広筋,外側広筋の筋活動を測定した.得られたデータは全波整流し,1サイクルごとの平均振幅を求め,14サイクル分の平均値を代表値とした.さらに,各筋の最大等尺性収縮時の筋活動量に対する相対値(%MVC)を算出した.肢位別の比較検討では,各筋ごとに中間位の平均振幅値を100%とし,内側位と外側位の活動量を比較した.<BR>【結果】<BR> 強度別の比較において,大腿直筋では低強度10.8%に対し,高強度21.4%であった.外側広筋では低強度23.4%に対し高強度46.6%,内側広筋では低強度46.8%に対し,高強度85.3%であった.低強度は高強度の約半分の活動量であり,最も高値を示したのは内側広筋であった.肢位別に比較した場合,低強度において外側位で大腿直筋の活動量の増加が認められ,同じく内側位で外側広筋と内側広筋に活動量の増加が認められた.高強度では大きな増加はみられなかった.<BR>【考察】<BR> 低強度による自転車エルゴメーター駆動では,筋力増強が得られにくいとされているが,今回の結果より低強度でも内側広筋では約50%の活動量が得られ,他筋と比較して高い活動量を示したことより,内側広筋に対して有効性が示唆された.また,肢位別比較では,二関節筋である大腿直筋の起始・停止の関係が影響していると考えられ,拮抗筋である大腿二頭筋の活動量測定を行う検討の必要がある.高齢者や術後早期の患者に対しては,低強度の施行が多く用いられるが,目的とする筋に対して駆動肢位設定を確認する必要がある.<BR>
著者
田中 秀明 井舟 正秀 諏訪 勝志 藤井 亮嗣 川北 慎一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.B4P2120, 2010

【はじめに】神経痛性筋萎縮症は急性の激痛で発症,痛みの消失とともに出現する(肩周囲の)弛緩性運動麻痺,多くが自然回復,の3つの特徴がある.本症はウイルス性の腕神経叢炎と言われているが現在の所,明確な病理学的裏づけがないのが現状である.臨床症状と他疾患の除外によって診断される「症候群」と考えるべきと言われている.今回,本症を経験する機会を得たので報告する.<BR>【症例紹介】50歳代男性,職業は事務職.左利き.<BR>【説明と同意】本人に説明を行い,本報告の同意を得た.<BR>【経過】1ヶ月前より発熱があり内科を受診.その2日後,左肩から上腕の疼痛あり,翌日には両前腕に疼痛が広がり,神経内科を受診。採血では炎症所見が認められ,RA疑いで整形外科へ紹介.整形外科ではRAは否定され,多発性筋痛症の疑いでリハビリテーション科へ紹介.両三角筋、棘上筋、棘下筋、左前腕筋などに著明な萎縮がみられ肩周囲の筋力はMMTで右3-レベル,左4レベル,握力は右18kg,左19kg,両肩に夜間痛,両上腕・前腕外側、母指・示指背側の感覚異常を認めた.関節可動域に関しては特に制限は認めなかった.車の運転やデスクワーク,更衣動作などに障害があった.針筋電図検査施行され右肩周囲と左前腕・手指筋にPSW,fbを認め神経原性筋萎縮症と診断された.以後,週1回来院し関節可動域運動,筋力維持・増強運動の自主練習内容の確認と評価を実施した.運動療法開始当初の目標は拘縮予防と筋力維持・増強とし,肩関節以外の上肢筋力運動,腱板の収縮が可能となり次第,セラバンドでの筋力強化を代償動作が入らない程度の回数で実施してもらった.また抗重力が不可能な時期は仰臥位、腹臥位で上肢の重力を除いた状態での三角筋を最大限に動かす運動を実施した.例としてテーブル上をバスタオル等で抵抗をなくしすべらせる方法での運動について指導した.2ヵ月後,握力は右25kg,左26kgに増加したが肩周囲に関しては症状の変化はほとんどなかった.6ヵ月後,握力は右27kg、左27kgと増加したが肩周囲の筋力に変化はなかった.感覚異常も左前腕は初期に比べ中等度まで,その他は軽度まで改善した.肩周囲の関節可動域に関しては若干制限を認めるも自己練習にて維持は出来ていた.10ヵ月後,左肩周囲の筋力は5レベルに改善,右も4レベルと抗重力運動が可能となり握力は左右30kg,感覚異常も左前腕は軽度まで軽減,その他はほぼ正常に改善した.筋力増強運動に関してはセラバンドの種類を変更し負荷を強めていった.1年後,握力は右37kg,左35kgと改善.感覚異常も左前腕に若干の違和感を残しその他は改善した.1年5ヵ月後,左41kgと改善,針筋電図施行され右肩周囲と左前腕・手指筋のPSW・fbの減少,polyNMU・NMUの出現を認め改善傾向と説明をうけた.左前腕の感覚異常は消失した.以後,経過観察必要なため定期的に来院している.<BR>【考察】神経痛性筋萎縮症の予後として90%以上が回復良好とされ1年以内36%,2年以内75%,3年以内89%と報告がある.少なくとも2年以上の長期観察が必要であるとされている.不全麻痺例や,完全麻痺であっても3ヶ月程度で正常にまで回復するものがあり,非変性型の神経障害も起こりうると推測される.一方,予後不良因子としては,痛みが長く持続・再燃するもの,障害範囲が広く腕神経叢全体と考えられるもの,下位神経根領域が主体のもの,3カ月以内に回復の徴候がないもの,などがあげられている.上位型の麻痺に比べて下位型の麻痺の回復が不良な理由について,障害部位から麻痺筋までの再生距離が長いことによって説明しようとする考えがある.発症後1-4週の早期に回復傾向が現れるものでは,予後は良いとされている.本症例においてはリハビリテーション科受診までに改善した部分はあったとのことで傾向は見られていた.その後,下位においては徐々に改善してきたが、上位は改善の傾向が見られるまでに1年近く時間を要した.理学療法としてはごく一般的な内容で自動運動が不可能な時期においては拘縮予防を中心に自己にて可能な上肢関節の他動運動,自動介助運動の指導を行い、自動運動が出現してくれば筋力増強運動を実施した.通院頻度は職業もあり頻回には来院できない為,的確な自己運動方法を指導することや,経過が長期にわたるため医師からのインフォームドコンセントや精神面でのフォロー,合併症予防につとめることが重要な要素であると考えられた.<BR>【理学療法学研究としての意義】希少な症例の症候や治療内容を提示することで,疾患に対する理解やよりよい治療方法を確立することに意義があると思われた.今回の症例は,報告数の少ない症例で理学療法の介入点について更なる検討が必要と思われた.
著者
塩﨑 竜吾
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-244_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに、目的】 非特異的腰痛に対する理学療法として主たる疼痛部位である体幹のみへの治療では改善が得られないことを経験する.これは運動連鎖の視点から,腰痛の一原因が姿勢・アライメント異常に起因していることが考えられる.そこで,本研究の目的は,非特異的腰痛の一要因として後足部アライメントの変化が歩行中の筋活動に及ぼす影響について運動学的・筋電図学的側面から検討することである.【方法】 対象は九州看護福祉大学に在籍する過去2年間整形外科疾患,中枢神経疾患,呼吸・循環器疾患で加療中でない健常男性20名(平均年齢22.30±4.38歳,平均身長171.40±3.28cm,平均体重63.28±6.14kg)とした.課題動作は制限歩行とし,裸足での歩行(以下,裸足歩行)と外側ソールウェッジ(足長:15cm,幅:7cm,高さ:15mm)を右足底に装着し歩行(以下,インソール歩行)とした.歩行の条件は,速度1.0m/sec,歩隔12cm,歩幅70cm,足角15°と規定し,右下肢の1歩行周期を100%に正規化した.計測は三次元動作解析装置Vicon-MX-T40S(Vicon Motion Systems社製)を用い,サンプリング周波数は100Hzとした.マーカーは下腿中央と踵骨隆起を含め計35個を貼付し,Leg Heel Angle(以下,LHA)の角度変化を計測した.また筋活動の計測には表面筋電図計Telemyo DTS(Noraxon社製)を用いた.被検筋は左右の内外腹斜筋・最長筋・腸肋筋・多裂筋とした.筋活動は積分処理し最大筋活動に対する相対値(%IEMG)とした。解析区間は歩行周期0%-15%とし,区間内の運動学的・%IEMG変化量を算出した.統計学的処理は対応のあるt検定を用いて有意水準は5%とした.【結果】 裸足歩行のLHA変化量は1.27±3.06°で,インソール歩行の2.29±3.16°と比較し,有意差が認められた.裸足歩行の%IEMG変化量は,左最長筋(7.24±3.38%),右最長筋(4.39±2.67%),右多裂筋(7.46±2.79%)で,インソール歩行の左最長筋(8.56±3.74%),右最長筋(5.23±3.18%),右多裂筋(9.21±4.40%)と比較し,有意差が認められた.【結論(考察も含む)】 本研究では,裸足歩行とインソール歩行の比較においてLHAの角度変化,左右最長筋・右多裂筋・右内腹斜筋・左右外腹斜筋の筋活動量に統計学的有意差を認めた.森井らは荷重時の足部を含めた下肢アライメント変化の影響が日常的に加わることで筋活動のアンバランスを引き起こし,疲労性腰痛や腰痛悪化の要因に成り得ると述べている.このことから,LHAの変化が下肢アライメントを変化させ,上行性運動連鎖により骨盤に付着している筋活動に影響したと考えられる.【倫理的配慮,説明と同意】本研究は九州看護福祉大学倫理委員会の承認(承認番号:27-027)を得て,被検者には研究の目的および方法を十分に説明し,研究に参加することに対する同意を得て実施した.
著者
壬生 彰
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>複合性局所疼痛症候群(Complex regional pain syndrome:CRPS)に対する理学療法として,中枢神経系の機能異常に対する介入である鏡療法や段階的運動イメージプログラムなどが,疼痛の軽減および機能の改善に寄与することが認められており,推奨されている。しかし,効果が十分でない症例も報告されている。今回,鏡療法を実施したが,十分な効果が認められなかったCRPS症例に対して,運動療法を中心とした介入に変更することで日常生活動作(Activity of daily living:ADL)およびCRPS症状の改善を認めた経過を報告する。</p><p></p><p></p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>症例は30歳代の女性で,X-2年5月,自転車走行中にバイクと衝突し転倒した。直後より左上肢の痛みがあったが,明らかな骨折や神経損傷はなかった。複数の医療機関において加療を受けるも症状改善せず,X-2年2月にCRPSと診断され,X年6月に当院を紹介受診となった。主訴は左上肢痛と歩行困難であり,杖歩行にて来院した。左前腕より遠位および右下腿より遠位にNumerical Rating Scale(NRS)で6から9の痛みを訴え,著明な浮腫を認めた。アロディニアにより患部への接触は非常に困難であった。患肢,右肩関節,頸部の関節可動域制限があり,四肢体幹の運動は緩慢であった。また,The Bath CRPS Body Perception Disturbance Scale(BPDS)は37/57であり,患肢の身体知覚異常を認めた。疼痛生活障害尺度(Pain Disability Assessment Scale:PDAS)は47/60であった。精神心理面はPain Catastrophizing Scale(PCS)が48/52,Pain Self-Efficacy Questionnaire(PSEQ)が4/60であった。初期評価より,患肢の疼痛軽減と機能改善を目的として鏡療法と触覚識別課題を開始した。1か月間の介入を行ったが,疼痛増強や不快感を訴え続けたため,これらの介入のみでは改善が期待できないと判断し,ADLの改善と活動量増加を目標に患部外の運動療法を中心とした介入へと変更した。具体的かつ段階的な目標設定と達成度のモニタリングを行い,基本的動作能力の改善と活動量増加を図った。来院時には,健肢および体幹の積極的な運動を行い,運動による機能の改善が目標とする動作の改善につながることを実感させるように心がけた。患肢に対しては,自宅で鏡療法を継続させ,患肢および鏡像肢の知覚の変化に合わせて課題を調整した。</p><p></p><p></p><p></p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>理学療法開始より9か月時点での評価では,独歩が可能となり,ADLと精神心理面の改善を認めた(PDAS:26,PCS:36,PSEQ:16)。NRSに著変はないものの,アロディニアの軽減,身体知覚の改善などCRPS症状の改善も認めた(BPDS:27)。</p><p></p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>本症例では,CRPSの理学療法として推奨されている鏡療法よりも基本的動作能力の改善と活動量増加を図った運動療法が奏功した。初期評価時に自己効力感が低い症例に対しては,鏡療法といった即時的な効果を実感することが困難である介入よりも,日常生活動作の改善に直接つなげる運動療法が有効かもしれない。</p>
著者
磯崎 美沙 塚本 佐保 廣田 亜美 村木 しおり 今井 丈
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100747, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】 バドミントン(以下、Bad)の動作時において、熟練者と非熟練者においてフォームに違いがみられた。また、動作後の筋疲労部位にも違いが観察された。そこで今回は、Badクリア動作時のスイングに着目し分析した。クリア動作(以下、CM)とは、相手コートの後方に大きく打ち出す際に、自陣コートの中後方に構え、ラケットをスイング(以下、SW)する一連の動作のことである。SW側の上肢では、肩関節は外旋位から内旋方向へ向かい、肘関節は完全伸展せず、前腕は回外位から回内方向への運動をともなう。今回、表面筋電計を用いてCM時のSWの上肢の筋活動を計測し、熟練度の違いによる、筋収縮の順番や順序について検討した。【方法】 対象者は、健常女性8名(熟練者4名,非熟練者4名)、平均年齢19.6±1.4歳、平均身長157.9±4.1cm、平均体重48.6±4.6kgで、熟練者はBad競技および指導を受けた経験が3年以上のものとした。測定方法は表面筋電計(Noraxon社製TELMYO G2)を使用し、ピュアスキンにて皮膚処理後、右上肢の上腕二頭筋(長頭)、腕橈骨筋、橈側手根伸筋、橈側手根屈筋の4部位に、ブルーセンサーまたはデュアル電極を貼り付け、サンプリング周波数1.500Hzにて記録した。課題動作は、Bad-CMを10回行い、測定と同時にビデオを同期させ、記録および動作の観察を実施した。データ抽出方法と統計処理は、記録した動作の中から一人の熟練者の視点にて、確実にSW動作を実施できているフォームを各被験者につき4動作を選択し分析の対象とした。その時の各筋の筋活動のピーク値を指標に、順番と順序を検討した。統計処理はSPSSver.18にて、カイ2乗検定とKendallの一致係数を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には研究の目的および内容を十分に説明し、事前に同意を得て実施した。【結果】 筋活動のピーク値の順番において、熟練者は1番目には橈側手根屈筋、4番目には橈側手根伸筋の活動が有意にみられた。非熟練者は1番目には上腕二頭筋の活動が有意にみられた。筋活動のピーク値の順序において、熟練者の筋活動では「橈側手根屈筋-腕橈骨筋-上腕二頭筋-橈側手根伸筋」という一定様式との関連が有意にみられた。【考察】 Bad-CM時のフォームの観察において、熟練者はラケットを把持するSW側と同側の脚を後方に移動させ、体幹の前額面をネットに対し垂直に向け、同時に肩関節外旋、前腕回外位にて動作を開始している。一方、非熟練者では、体幹の前額面をネットに対して平行に向け、肘関節屈曲、前腕回内にてラケットを前面に持つといった異なる構えから動作を開始していた。Bad-CM時の筋収縮の順番において、熟練者ではSW時の初期(1番目)に橈側手根屈筋を活動させることで手関節が橈屈し、その直後に前腕の回内運動をともないながら肘関節を伸展させていると考えられる。この際、上腕二頭筋と腕橈骨筋は遠心性収縮により肘関節伸展運動の減速作用を果たすと共に、それがほぼ同時に活動することで効率のよい筋活動が得られていることが予測される。そして動作の最後(4番目)に手関節の掌屈動作に対して、橈側手根伸筋が減速作用をしていると考えられる。非熟練者は、前述の構えから初めにラケットを持ち上げるため、上腕二頭筋の活動が1番目になったと考えられる。その後のSW動作において初期から前腕が回内位にあるため、肘関節伸展時の減速作用が腕橈骨筋に依存すると考えられる。また、動作の最後は熟練者と同様に手関節掌屈時に橈側手根伸筋による減速作用が必要となるが、初期に、すでに手関節掌屈位であるため腕橈骨筋の伸張による張力が増大し、非熟練者の多くでは腕橈骨筋のピーク値が動作開始時の肘関節伸展時ではなく終盤にみられる傾向にあり、運動後に腕橈骨筋の痛みが著明にみられたものもいた。筋収縮の順序においては、熟練者では「橈側手根屈筋-腕橈骨筋-上腕二頭筋-橈側手根伸筋」という一貫した様式が見られたことから、熟練者ではシャトルを打つSW動作が運動学習されており、各筋が運動連鎖として活動していると考えられる。これらのことより、Bad熟練者は技術を習得していく過程で、効率の良い筋収縮の順番や順序を学習していると考える。【理学療法学研究としての意義】 バドミントン・スイング時の上肢筋活動に熟練度により違いがみられた。このことは、スポーツ傷害との関連より、運動連鎖を考慮した指導や動作習得のためのポイントとなることが示唆された。
著者
木元 稔 加藤 千鶴 近藤 堅仁 岡田 恭司
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100204, 2013

【はじめに、目的】 脳性麻痺(cerebral palsy;以下、CP)児に対し、歩行速度、歩幅、歩行効率の改善を目的に種々の筋力トレーニングが行われているが、効果は乏しいとする報告が多い。 トレーニングでは動作様式や筋の活動様式からみた特異性の原則に従うことが重要であるとされている。しかしこれまでのCP児に対する筋力トレーニングは歩行能力全般の改善を目的としたものが多く、歩行速度、歩幅、歩行効率の改善に重点を置いたプログラムは少ない。以前我々は、CP児の歩行効率がケーデンスよりも歩幅と強く関連し、また、歩行速度、歩幅、歩行効率には、下肢筋力や足を前方へ大きく1歩踏み出す運動機能が影響することを報告した。よってCP児では、歩行の動作様式や筋の活動様式を考慮した筋力トレーニングや、特に歩幅の増大に着目したトレーニングにより、歩行速度、歩幅、歩行効率が改善する可能性が考えられる。 また、一般的にトレーニングは週2~3回行う必要があるが、頻回の通院は通学や社会参加への影響が大きい。そのため病院での頻回な理学療法よりは、定期的なモニタリングを行いつつ、家族指導を中心としたホームエクササイズプログラム(home exercise program;以下、HEP)が好まれる傾向にある。 以上から本研究では、CP児の歩幅の増大に重点を置いたHEPの有効性を以下のように検討した。【方法】 本研究はランダム化比較対照試験で行った。対象は当センターにおいて理学療法を受ける4〜19歳の痙性両麻痺型CP児のうち、Gross Motor Function Classification SystemレベルIまたはレベルⅡに分類される21名を対象とした。参加者を年齢(4〜12歳と13〜19歳)と、ボツリヌス治療の有無でマッチングした上で、HEP群10名と対照群11名へそれぞれ割り付けた。帰結測定 Loaded sit-to-stand(以下、STS)の1 repetition maximum(以下、1RM STS)、Loaded half knee rise(以下、HKR)の1RM(以下、1RM HKR)、最大1歩距離を測定した。また16 mの直線路を快適速度で歩行したときの時間と歩数を測定し、歩行速度、歩幅、ケーデンスを算出した。歩行効率の指標はTotal Heart Beat Index(以下、THBI)とし、1周20 mの歩行路を10分間歩行したときの歩行距離と心拍数を測定し、10分間歩行中の総計心拍数を歩行距離で除すことにより算出した。HEPと帰結測定時期 HEP群では通院による理学療法に加え、8週間週3回のHEPを行った。HEPは、Loaded STSまたはLoaded HKRを、1RM STSや1RM HKRの50%の負荷で反復可能回数を2セット、また、足を前方へ大きく1歩踏み出す最大1歩体操を、最大1歩距離の80%の距離で10回2セットを行った。HEP期間終了後8週間はHEPを行わず、通院による理学療法のみを実施した。対照群は全期間中、通院による理学療法のみを実施した。 帰結測定は両群とも、HEP前、HEP終了時、HEP休止8週後の計3回行った。統計的解析 各帰結測定においてHEP前のデータを共変量とする共分散分析により、HEP終了時とHEP休止8週後でHEP群と対照群の帰結測定結果を比較した。有意水準は0.05未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者とその保護者に対して研究の説明を行ない、書面で参加への同意を得た。【結果】 HEP終了時、HEP群では対照群と比較して最大1歩距離、歩行速度、歩幅が有意に高値であった。1RM STS、1RM HKR、ケーデンス、THBIは、HEP群と対照群との間に有意差が認められなかった。 HEP休止8週後では、歩幅がHEP群で対照群よりも有意に高値であった。最大1歩距離、歩行速度、歩行速度、1RM STS、1RM HKR、ケーデンス、THBIは、HEP群と対照群との間に有意差が認められなかった。【考察】 8週間のHEP終了時、最大1歩距離は対照群と比べHEP群で大きく、今回考案した最大1歩体操がホームエクササイズでも有効であることが示された。HEPによる最大1歩幅の増大が、歩行時の歩幅を大きくし、歩行速度を速くしたと考えられた。HEP群における歩幅の増大はHEP休止8週後でも見られ、最大1歩体操とLoaded STSまたはLoaded HKRで構成した歩幅の増大に着目したHEPの効果は、持続性もあることが示された。【理学療法学研究としての意義】 CP児の歩行速度や歩幅の改善を目的としたHEPの有効性を示した。
著者
荒井 望 渡邊 昌宏
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0820, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】松葉杖は下肢機能障害者に対して汎用される補助具である。また,下肢への荷重量を自由に選択できるため幅広い疾患に適応となるとされている。しかし,松葉杖やロフストランド杖歩行は,上肢への負担が増加するため心血管系に及ぼすストレスが大きいとされている。そこで本研究は,松葉杖歩行の速度の違いで身体に与える影響を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は健常成人14名(年齢20.4±0.5歳)とした。対象者の歩行速度を測定するため,50mの歩行路その前後3mずつに助歩行路を設置した。対象者はその歩行路を通常速度で歩き,その歩行時間から歩行速度を導きだした。歩行速度から,先行研究で報告されているトレッドミル上速度の変換式,y(km/h)=0.65x(km/h)+0.04(x:設置した歩行路での歩行速度,y:トレッドミル上歩行速度)に代入し,トレッドミル上での速度を決定した(通常歩行)。松葉杖は両松葉杖を使用し左足免荷で行った。松葉杖歩行では,通常歩行の50%の速度と松葉杖歩行が不慣れな通常歩行の25%の速度の2通りで行った(松葉杖25%,松葉杖50%)。3条件(通常歩行,松葉杖25%,松葉杖50%)は,3日間に分けランダムに行った。測定機器は呼気ガス分析装置(アニマ株式会社AT-1100)を用いた。各条件それぞれトレッドミル上で3分間安静座位後,4分間の歩行を実施し,体重当たりの酸素摂取量(VO2/W),METs,酸素摂取量(VO2)と,安静時と終了時の脈拍数を測定した。統計処理には,SPSS Statistics19を使用し,通常歩行と松葉杖25%と松葉杖50%のVO2/W,METs,VO2,脈拍数に関して,それぞれ1要因分散分析と多重比較を行った。有意水準は5%とした。【結果】VO2/W(ml/min/kg)とMETsと脈拍数(回/min)は,通常歩行(8.99±2.5,2.7±0.4,86±10.0)<松葉杖25%(12.14±2.0,3.5±0.6,103±19.9)<松葉杖50%(14.69±3.3,4.2±0.9,113±25.7)とすべて有意な増加が認められた(P<0.05)。一方,VO2は有意差を認めなかった。【結論】歩行補助具を用いた場合,通常歩行より酸素摂取量が高くなると報告されている。本研究では,通常歩行に比べ松葉杖歩行では低速度からVO2/W,METs,脈拍数が増加する傾向が明らかとなった。また菅原らは,心拍数が増加すれば酸素摂取量や消費カロリーも増加すると報告している。つまり,呼気ガス分析装置を用いらなくとも心拍数だけで身体負荷をある程度推察することが可能といえる。本研究から,松葉杖歩行では歩行速度に関わらず身体への負荷が増加することが明らかとなったため,臨床において脈拍数やMETsの変化を常に把握する必要があると考えられる。
著者
宮川 良博 森 拓也 川原 勲 國安 弘基
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A-83_1, 2019 (Released:2019-08-20)

【背景・目的】 近年、中鎖脂肪酸はその摂取による内臓脂肪の蓄積抑制効果、担癌体での抗腫瘍効果が報告され注目を集めている。中鎖脂肪酸は、カルニチン・シャトル非依存性にミトコンドリア外膜を通過するため、長鎖脂肪酸と比較し急速に代謝される。この特徴から中鎖脂肪酸は豊富なミトコンドリアを有し、ATP産生を行っている心筋に対して強く作用することが考えられる。そこで今回、中鎖脂肪酸の経口摂取が心筋に及ぼす影響を検討した。 【方法】 生後5週齢のBALB/c雄性マウスを用い、標準餌CE-2に中鎖脂肪酸であるラウリン酸を重量比で2%、5%、10%添加した餌を用意しControlを含め4群で比較検討した。安楽死まで1〜2日毎に体重、食餌摂取量を測定、安楽死後に心臓を摘出し重量を測定し、組織学的検討を行なった。組織学的検討では、ヘマトキシリン・エオジン染色により組織の形態、細胞面積の測定を行い、また抗8-OHdG抗体、抗4-HNE抗体により免疫染色を行い酸化ストレスの程度を評価した。測定結果について対応のないt検定により統計解析を行い、有意水準はp<0.05とした。 【結果】 10%群は実験開始より著明な体重減少を認め、5日目にmoribundとなり安楽死した。その他の群については5%群は13日目、2%群、control群は15日目に安楽死した。摂取カロリーに群間差を認めなかったが、体重、心臓重量は5%、10%群でcontrol群と比較し有意に減少した。心臓の組織学的検討では、10%群において心筋細胞の萎縮、酸化ストレスの増大を認めた。 【考察および結論】本実験により、過剰な中鎖脂肪酸の摂取は心筋細胞の萎縮、酸化ストレスの増大を招くことが示唆された。ミトコンドリアへの負荷が増大することにより機能障害が起こり、結果として酸化ストレスの発生が亢進し心筋細胞の萎縮を誘導した可能性が考えられる。今後ミトコンドリア機能について解析を進め、その機序を明らかにする必要がある。 【倫理的配慮,説明と同意】本実験は、奈良県立医科大学動物実験委員会の承認を得た(承認番号:12023)。
著者
橋本 雅史 上田 克彦 佐竹 勇人 留守 正仁 富樫 昌彦 森 拓也 市川 博之 川原 勲
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】変形性膝関節症は臨床で多くみられる疾患であるが,膝関節内反モーメントと下腿の回旋についての報告は少ない。横山らは,変形性膝関節症患者の立脚期での内反モーメントのファーストピークは健常人の1.5倍と報告している。またSasakiらは,内側変形性膝関節症に対して外側楔型足底板を使用することで,大腿骨頭から踵骨までの荷重線を変化させると報告している。さらにNakajimaらは,外側楔型足底挿板にアーチサポートを付加すると後足部の運動が保たれ,かつ膝関節内反モーメントを減少させ足底挿板の効果を高めると報告している。我々は変形性膝関節症の患者に,Nakajimaらの足底挿板を参考にした簡易インソールを挿入し,下腿内旋角度・膝関節内反モーメントが減少することを三次元動作解析装置にて確認した。膝内反モーメントは下腿回旋に影響されるが,健常人での下腿回旋角度は未だ報告されていない。今回健常者に対し,オイラー角を用いて正常歩行時の下腿回旋角度を明らかにすることを目的とした。【方法】本研究の対象は,下肢に整形外科的既往の無い健常男性9名(年齢28.6±5.97歳,身長173.4±5.43cm,体重66±7.12kg)とした。裸足での歩行を三次元動作解析装置と床反力計を用いて計測し,歩行速度は快適速度とした。三次元動作解析装置(アニマ社 ローカス3D MA3000)を用いて下腿のオイラー角を計測し,同時に床反力計(アニマ社MG100)にて床反力のモーメントを計測した。下腿のオイラー角は,踵接地0.01秒前を基準(0°)とし測定し,制動期終了時を立脚中期としデータを算出した。また,各個人の踵接地から立脚中期までの時間を100%表示に正規化した。オイラー角の平均と膝関節内反モーメントの平均をSpearmanの順位相関係数を用いて統計処理を行った。統計処理ソフトは,R2.8.1を使用し行った。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿った研究であり,阪奈中央病院倫理員会の承認を得た。また,対象者に対して研究の主旨と内容,得られたデータは研究以外で使用しないこと,及び個人情報漏洩に注意することについて十分に説明し,同意を得て研究を行った。【結果】踵接地から立脚中期にかけての最大外旋角度13.71°~0.56°と個人差があり平均4.71±2.6°であった。最大内旋角度は8.41°~-1.03°と個人差が見られ平均は2.03±2.27°であった。今回の計測では大きく分けて3パターン確認され,①下腿外旋-下腿内旋の(2 times of rotation)パターン(5例)②下腿内旋-下腿外旋-下腿内旋の(3 times of rotation)パターン(2例)③踵接地から立脚中期まで常に下腿外旋位である(1 time of rotation)パターン(2例)に分類できた。下腿回旋角度と膝関節内反モーメントはr<sup>2</sup>=0.584と中等度の相関関係にあることがわかった。3パターンのオイラー角の平均を,フリードマン検定より多重比較を行った結果はp<0.01と有意差が認められた。【考察】今回三次元動作解析装置を使用し,下腿と大腿を面として捉えオイラー角を計測することで,踵接地から立脚中期にかけての下腿回旋角度を計測することができた。堀本らは,健常人の70.6%が距骨下関節回外位で踵接地を行い,29.6%が距骨下関節回内位で踵接地すると述べている。今回の結果では9例中7例が踵接地後下腿外旋位に変位し,2例が踵接地後下腿内旋していることが確認できた。運動連鎖から考えると距骨下関節回外位での踵接地により下腿外旋し,距骨下関節回内位での踵接地により下腿内旋していると考えられ,堀本らと同様の結果となった。踵接地以降の下腿回旋角度は,足底圧中心軌跡が足部のどの位置を通過するかにより,下腿の回旋パターンが変化すると考えられる。今回の結果では,下腿回旋角度と膝関節内反モーメントとの相関がみられた。我々が先行して行った変形性膝関節症患者への簡易インソール挿入前後の比較では,挿入により下腿外旋が増加し健常人の下腿外旋-下腿内旋の(2 times of rotation)パターンに近い結果となった。また,内反モーメントの比較では,挿入により内反モーメントの減少がみられ疼痛の減少が確認できた。我々の先行研究と今回の結果より,下腿回旋角度をコントロールすることで,内反モーメントを制御できると考えられた。【理学療法学研究としての意義】今回の研究で歩行時の下腿回旋角度が測定することができ,3パターンに分類することができた。今後さらに研究を進め対象数を増加させることで,より明確なパターン分類が期待できると考える。
著者
乾 亮介 森 清子 中島 敏貴 李 華良 西守 隆 田平 一行
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Db1217, 2012 (Released:2012-08-10)

【目的】 摂食・嚥下機能障害患者に対してのリハビリテーションにおいて理学療法は一般的に嚥下に関わる舌骨上筋群の強化や姿勢管理などを担当する。嚥下は頸部の角度や姿勢からの影響を受けることが指摘されており、顎引き姿勢(chin-down)は誤嚥予防に有効であると報告があるが、その効果については不明確である。また頸部角度を変えて嚥下筋の活動を記録した報告はない。その他に嚥下筋に影響を与える要因として、古川は加齢により喉頭位置が下降することで嚥下機能が変化するとしており、これにより嚥下時に必要な喉頭挙上距離は増大し、喉頭が移動するのに必要な所要時間も増加すると報告している。また吉田が開発した喉頭位置の指標において,高齢者や慢性期の脳血管障害患者は舌骨下筋の短縮が喉頭位置を下降させると報告しているがこの舌骨上・下筋群の筋短縮の有無が嚥下に与える影響についても詳細に検討された報告はないのが現状である。そこで今回は頚部角度と舌骨上・下筋群の伸張性が嚥下運動に与える影響について嚥下困難感の指標と表面筋電図を用いて検討したので報告する。【方法】 対象者は健常男性19名(年齢32.5±6.4歳)。端座位姿勢で頸部正中位、屈曲(20°,40°)、伸展(20°,40°)の5条件で5ccの水を嚥下させた。表面筋電図は嚥下筋の舌骨上筋として頸部左側のオトガイ舌骨筋、舌骨下筋として左側の胸骨舌骨筋で記録した。取り込んだ信号は全波整流したのちLow-passフィルター(5Hz)処理を行い、その基線の平均振幅+2SD以上になった波形の最初の点を筋活動開始点、最後の点を筋活動終了点とし、嚥下時の筋活動持続時間(以下持続時間)を計測した。嚥下困難感については表(0=嚥下しにくい 10=嚥下しやすい)を用いて評価した。舌骨上下筋群の伸張性についてはテープメジャーを用いて下顎底全前面中央部から甲状切痕部(舌骨上筋)、甲状切痕部から胸骨上縁正中部(舌骨下筋)の距離を頚部伸展位、正中位でそれぞれ測定し、伸展位と正中位との差を伸張性の指標とした。解析は頚部角度における各筋の持続時間・嚥下困難感について反復測定分散分析を用い多重比較はBonferroni/Dunn法を使用した。舌骨上・下筋群の伸張性と各頚部角度における嚥下困難感、嚥下持続時間との関係についてはそれぞれピアソンの積率相関分析を行い、有意水準はいずれも5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は畿央大学研究倫理委員会の承認を得た(承認番号H22-25)。また、対象となる被験者すべてに書面にて研究の説明を行い、同意書の署名を頂いた後に実施した。【結果】 持続時間について舌骨上筋で伸展40°、20°が他の角度と比較して有意に延長した(p<0.05)。舌骨下筋は屈曲40°、20°と比較して伸展40°において持続時間が有意に延長した(p<0.05)。嚥下困難感は正中位、伸展20°と伸展40°間に有意差を認め(p<0.05)、伸展40°が最も嚥下困難感が強かった。舌骨上筋の伸張性においては正中位での舌骨上筋の持続時間のみに負の相関(r=-0.45)が認められたが、有意差(p=0.058)は認めなかった。その他の各頚部角度における持続時間、嚥下困難感と舌骨上・下筋の伸張性との間については有意な相関は認めなかった。【考察】 頚部伸展20°、40°で嚥下持続時間が延長した要因については喉頭の移動距離が増大したため持続時間が延長したことが考えられる。また、伸展40°では嚥下の持続時間が延長したことから嚥下時無呼吸時間が増大し、嚥下困難感が増強したと考えられる。舌骨上・下筋群の伸張性と各角度における嚥下困難感や持続時間の関係については有意差を認めなかったことから、健常若年者では舌骨上・下筋群の伸張性は嚥下運動に影響を与えないと思われた。今後は高齢者や脳血管障害患者、誤嚥性肺炎患者など嚥下機能の低下のある者を対象にした研究計画にてさらなる検証が必要であると考える。【理学療法学研究としての意義】 過度な頚部伸展位は健常者においても嚥下が困難であることから嚥下機能障害で頚部屈曲可動域が制限されるような症例においては頚部屈伸可動域の評価や介入の重要性が示唆された。しかし、舌骨上下筋群の伸張性と嚥下の持続時間や嚥下困難感には有意差を認めず、臨床において嚥下機能障害のある患者に対する舌骨上・下筋群のストレッチ等は嚥下機能を改善させるとはいえないことが示唆された。
著者
米村 武男
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.E1171, 2008

【目的】訪問理学療法では、在宅生活管理並びに心身の活動量の改善を目的に介入することもある。自主トレーニング(以下自主トレ)の指導はその一手段として用いられるが、定着が困難な場合が多い。今回、糖尿病(以下DM)患者に対し自主トレ指導方法に関する検討を行ったので報告する。<BR>【症例紹介】86歳 女性 疾患名:DM・廃用症候群 合併症:網膜症 末梢神経障害 現病歴:10年前にDMと診断。引きこもり傾向・廃用により転倒頻度が増える。<BR>【初期評価】<BR>▼身体面 TUGT:20秒 筋力:下肢体幹3/5 周計(大腿cm):34/34.2 Borg指数:16/20(20分程度の散歩後)▼DM Hba1c:8.3% BS:210mg/dl BMI:26▼歩行数:平均2000歩/日 LifeSpaceAssessment(以下LSA):74 「生活するのが疲れる」 <BR>【経過】<BR><B>第一期(6M):転倒頻度の減少と自主トレ未定着</B><BR>指導内容:下肢ストレッチや筋力トレーニング(主に大腿四頭筋を下腿の自重負荷・等尺性収縮にて20回/2setを訓練実施)の他、訓練内容同様及び30分/日散歩を自主トレ設定とし、口頭・紙面で指導した。結果:姿勢・ROM・TUGT・転倒頻度の改善を認めた。しかし自主トレが定着せず、訪問リハ終了による再度廃用の懸念が残り自主トレ定着が課題となった。またLSA・歩行数・Borg指数・筋力に変化を認めなかった。<BR><B>第二期(6M):行動分析学的指導による自主トレの定着</B><BR>指導内容:訓練頻度・内容は第一期と同様、自主トレ指導として行動分析学的指導を用いた。主な内容は自己効力感を高める為に▼目標行動の設定:TimeStudy法による実施時間の明確化▼セルフマネジメント行動の確立:DM管理や歩行数・自主トレ回数の自己記録評価▼他者強化:訪問時間中の自己記録評価のフィードバック を実施した。また自己効力感の評価としてSF36を指標にした。<BR>【結果】<BR>▼身体面 TUGT:15秒 筋力:下肢体幹5/5 周計:36.4/36.8 Borg指数11/20▼DM HbaIc6.3% BS130mg/dl▼生活面 歩行数:7000歩 BMI:18 LSA:110 SF36:身体75→100全身的健康40→62活力37.5→68.7社会生活75→100精神75→100「生きるのが楽しい」<BR>【考察】<BR>今回自主トレが定着できないために廃用予防が達成されなかった症例に対し行動分析学に基づく自主トレ指導を実施した結果、定着が可能になり心身の活動量が改善した。行動分析学は自己効力感を高めることを目的とする。指導実施後、自己効力感が向上したことで定着が可能になったと考える。自主トレ指導は丁寧なフォローが必要であり、定着に向けた指導方法として行動分析学を用いることは有用ではないかと考えた。
著者
武田 知樹 大嶋 崇 尾方 英二 川江 章利 大野 智之 平野 真子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100442, 2013

【はじめに、目的】 医療分野においても患者中心の医療を推進する流れがますます強まる中,患者満足度(Patient Satisfaction)に関する研究も散見されるようになった. 医療機関において提供されている各種サービスの中でも,理学療法士や作業療法士等が行うリハビリテーションに関連するサービス(以下,リハサービス)は,患者自身の主体的参加が不可欠な点や,患者のモチベーションがそのまま治療効果として反映されるなどの特徴があることから,リハ領域における患者満足度の特徴やその影響性を把握することは効果的なリハサービス実施に向けて重要な知見となる. そこで今回,リハビリテーションに関する患者満足度と患者の運動に対する動機づけとの関連性について検討した.【方法】 調査協力の得られた医療機関を受診している入院および外来患者の内,理学療法を含むリハビリテーションサービスを受療している患者88名(男性23名,女性65名,平均年齢73.8±9.0歳)を対象とした. なお,言語による意思疎通が困難な者または知的機能の低下が疑われる者は対象より除外した. 調査方法は,担当理学療法士によって調査協力の依頼およびアンケート用紙の配布を行い,患者は自室もしくは自宅にて記入後,専用の返送用封筒にて郵送してもらった.なお,その際の回収率は59%であった. 調査内容について,リハビリテーション部門の理学療法サービスに関する患者満足度(以下,リハ満足度)の評価については,田中らが作成した「欲求充足に基づく顧客満足測定尺度(Customer Satisfaction Scale based on Need Satisfaction;CSSNS)」,また,患者が利用した医療機関のサービス全般に対する満足度(以下,病院満足度)の評価は「サービス満足度評価(SERVQUAL)」をそれぞれ使用した. さらに,患者の運動に対する動機付けについては,大友らの先行研究をもとに「高齢者用運動動機尺度(以下,運動動機)」を用いた. また,顧客満足度に関連する要因として,年齢,性別等の基本的属性データも同時に調査した.【倫理的配慮、説明と同意】 調査実施にあたっては,対象者の十分な同意を得るために調査協力依頼書を作成し,研究の趣旨および内容に対し理解および同意が得られた者を対象とした.【結果】1)性別の比較 リハ満足度を示すCSSNS得点(平均値±SD)は,男性20.8±3.4点に対し女性20.6±3.4点で明らかな性差は認められなかった(Unpaired t-test, N.S.). 2)年齢別の比較 中年者(65歳未満)のCSSNS得点は19.7±3.3点,前期高齢者(65~74歳)21.3±3.4点,後期高齢者(75歳以上)20.6±3.4点で年齢別の有意差を認めなかった(Kruskal Wallis test, N.S.).3)リハ満足度別の運動動機の比較 CSSNS得点を低得点グループ(17点以下:低満足),中得点グループ(18~24点:中満足),高得点グループ(25点以上:高満足)の3群に分類した上で,それぞれのグループの運動動機を比較した. 結果,低得点グループの運動動機は35.2±6.1点に対して,中得点グループ39.3±5.1点,高得点グループ43.1±2.4点で,CSSNS得点が高いほど運動動機が高い傾向にあることが確認された(Kruskal Wallis test, p<0.01).4)患者満足度と運動に対する動機付けとの関連性 患者満足度と運動動機との関連性について,CSSNSと運動動機(r=0.48),SERVQUALと運動動機(r=0.42)ともに中等度の相関関係を認めた(無相関の検定 p<0.01). 【考察】 患者満足度に関する性差や年齢差を調査した先行研究では,女性または高齢者で満足度が高くなりやすいとした報告が散見される中,本研究では満足度の性差および年齢差は明確にすることができなかった. リハ満足度別に運動に対する動機付けの高さを比較してみたところ,リハ満足度が高い患者ほど,動機付け(アドヒアランス)が高い傾向にあった. また,それぞれの患者満足度と運動に対する動機付けとの関連性を検討したところ,リハ満足度(CSSNS)のみならず,病院満足度(SERVQUAL)においても有意な相関を示した.つまり,リハ部門のみならず病院全体での患者満足度を高めていく取り組みは,患者の運動に対する動機づけを高める上で有益であることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】 リハビリテーションに関する患者満足度が運動に対する動機づけに肯定的な影響を及ぼしていることが示唆された.理学療法士個々人の技能に加えて,リハビリテーション部門および病院全体の取り組みとして良質なサービスを提供することは,患者の運動動機を高めて疾病管理や介護予防を図るうえで有意義であるといえる.
著者
近藤 敏朗 清家 矩彦 鶯 春夫 岡 陽子 唐川 美千代 平島 賢一 別部 隆司 嶋田 悦尚
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.31 Suppl. No.2 (第39回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0247, 2004 (Released:2004-04-23)

【はじめに】 今回、姿勢性腰痛症の患者を対象として、腰椎前彎の増強因子となる短縮筋に着目し、どのような筋の短縮が腰椎前彎に影響しているのかを検討したので、若干の考察を加え報告する。【対象及び方法】 当院外来患者のうち、1)腰痛症と診断され、股関節・膝関節疾患の既往歴がなく神経症状を訴えていない者、2)大井らによる腰仙角測定法で、30°以上の腰椎前彎の増強がみられる者、3)Kraus-Weberテスト変法大阪市大方式で体幹筋力が40点以上である者12名を対象とした。性別は男性4名、女性8名、年齢は46.6±10.1歳であった。 方法は、指床間距離(以下、FFD)、SLR、トーマステスト、尻上り現象を測定した。それぞれの異常値は、FFDは0cm未満、SLRは90°未満、トーマステストは陽性を異常、伸張時痛がみられる場合を制限、尻上り現象は陽性を異常、踵が臀部につかない場合を制限とした。【結果】 異常が認められた者は、FFD:6名、SLR:5名、トーマステスト:異常0名、制限5名の計5名、尻上り現象:異常5名、制限6名の計11名となった。特に、トーマステストが制限なしの場合でも、尻上り現象ではほとんどの患者に異常が認められた。この結果より、主に短縮が認められた筋は大腿直筋であると考えられた。 また、腰仙角が40°未満の者でFFD、SLR、トーマステストの項目に問題がない場合でも、尻上り現象に異常又は制限がみられる者は4名中全員であったが、腰仙角が40°以上の者では、ほとんどの項目に異常又は制限が認められた。今回の対象者では、トーマステストは正常でも尻上り現象は異常というような者やFFDが異常でもSLRは正常といったような者がみられた。このことより、腰仙角が40°未満の患者ではハムストリングスや腸腰筋等の短縮よりも、大腿直筋や腰背筋群の短縮が腰椎前彎により影響していることが示唆された。【考察】 今回の結果より、ハムストリングスや腸腰筋等の短縮よりも、大腿直筋や腰背筋群の短縮が腰椎前彎により影響していることが示唆された。また、今回の対象者はKraus-Weberテスト変法大阪市大方式により体幹の筋力低下を除外しているため、体幹の筋力低下がなくても腰椎前彎の増強は起こることが考えられた。 ゆえに、腰仙角が40°以上で短縮筋が多くみられるような場合を除き、ハムストリングス・腸腰筋のストレッチングよりも、大腿直筋・腰背筋群のストレッチングを重点的に行う治療体操が適していると考えられる。なお、今回の研究では、実際の治療効果を判定することが出来なかったため、今後の課題としては、実際の治療により腰椎前彎ならびに腰痛症が改善されたかを追及していくことと考えている。
著者
武市 尚也 西山 昌秀 海鋒 有希子 堀田 千晴 石山 大介 若宮 亜希子 松永 優子 平木 幸治 井澤 和大 渡辺 敏 松下 和彦 飯島 節
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100763, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】 大腿骨頸部・転子部骨折 (大腿骨骨折) 患者における退院時の歩行自立度は退院先や生命予後に影響を与える. 先行研究では, 退院時歩行能力に関連する因子として年齢, 性, 認知機能, 受傷前歩行能力などが報告されている (市村, 2001). しかし, 術後1週目の筋力, バランス能力が退院時の歩行自立度に及ぼす影響について検討された報告は極めて少ない. そこで本研究では, 大腿骨骨折患者の術後1週目の筋力, バランス能力が退院時の歩行自立度に関連するとの仮説をたて, それを検証すべく以下の検討を行った. 本研究の目的は, 大腿骨骨折患者の術後1週目の筋力, バランス能力を独立変数とし, 退院時歩行自立度の予測因子を明らかにすることである.【方法】 対象は, 2010年4月から2012年9月の間に, 当院に大腿骨骨折のため手術目的で入院後, 理学療法の依頼を受けた連続305例のうち, 除外基準に該当する症例を除いた97例である. 除外基準は, 認知機能低下例 (改訂長谷川式簡易認知機能検査: HDS-R; 20点以下), 入院前ADL低下例, 術後合併症例である. 調査・測定項目として, 入院時に基本属性と認知機能を, 術後1週目に疼痛と下肢筋力と下肢荷重率を調査および測定した. 基本属性は, 年齢, 性別, 術式である. 認知機能評価にはHDS-Rを, 疼痛評価にはVAS (Visual Analog Scale) をそれぞれ用いた. 疼痛は, 安静および荷重時について調査した. 下肢筋力の指標には, 膝関節伸展筋を用い, 検者は筋力計 (アニマ株式会社, μ-tasF1) にて被検者の術側・非術側の等尺性筋力値 (kg) を測定し, 体重比 (%) を算出した. バランス能力の指標には下肢荷重率を用いた. 測定には, 体重計を用いた. 検者は被検者に対し, 上肢支持なしで体重計上5秒間, 最大荷重するよう求め, その際の荷重量 (kg) を左右測定し, 体重比 (%) を算出した. 歩行自立度は退院1日前に評価された. 歩行自立度はFIMの移動自立度 (L-FIM) に従い, 歩行自立群 (L-FIM; 6以上) と非自立群 (L-FIM; 6未満) に分類した. 統計解析には, 退院時歩行自立群および非自立群の2群間における基本属性および術後1週目の各因子の比較についてはt検定, χ²検定を用いた. また, 退院時の歩行自立度を従属変数, 2群間比較で差を認めた因子を独立変数として, ロジスティック回帰分析を実施した. さらに, 退院時歩行自立度の予測因子とロジスティクス回帰分析で得られた予測式から求めた数値 (Model) のカットオフ値の抽出のために, 受信者動作特性 (ROC) 曲線を用い, その感度, 特異度, 曲線下面積より判定した.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当院生命倫理委員会の承認を得て実施された (承認番号: 第91号).【結果】 退院時における歩行自立群は48例, 非自立群は49例であった. 基本属性, 認知機能は, 年齢 (自立群73.9歳 / 非自立群81.8歳), 性別 (男性; 35% / 10%), 術式 (人工骨頭置換術; 56% / 29%), HDS-R (27.2 / 25.9) であり2群間に差を認めた (p<0.05). 術後1週目におけるVASは安静時 (1.0 / 1.8), 荷重時 (3.7 / 5.0) ともに非自立群は自立群に比し高値を示した (p<0.05). 膝伸展筋力は術側 (22.0% / 13.8%), 非術側 (41.8% / 27.6%) ともに自立群は非自立群に比し高値を示した (p<0.05). 下肢荷重率も術側(75.3% / 55.8%), 非術側 (98.2% / 92.3%) ともに自立群は非自立群に比し, 高値を示した (p<0.05). 2群間比較で差を認めた因子を独立変数としたロジスティクス回帰分析の結果, 退院時歩行自立度の予測因子として, 術側膝伸展筋力 (p<0.05, オッズ比; 1.14, 95%信頼区間; 1.04-1.28)と術側下肢荷重率 (p<0.05, オッズ比; 1.04, 95%信頼区間; 1.01-1.08) が抽出された. その予測式は, Model=術側膝伸展筋力*0.131+術側下肢荷重率*0.04-4.47であった. ROC曲線から得られたカットオフ値は, 術側膝伸展筋力は18% (感度; 0.72, 特異度; 0.77, 曲線下面積; 0.78), 術側下肢荷重率は61% (感度; 0.76, 特異度; 0.68, 曲線下面積; 0.76), そしてModelは0.77 (感度; 0.76, 特異度; 0.87, 曲線下面積; 0.82) であった.【考察】 大腿骨骨折患者の術後1週目における術側膝伸展筋力と術側下肢荷重率は, 退院時の歩行自立度を予測する因子であると考えられた. また, ロジスティクス回帰分析で得られた予測式から算出したModelはROC曲線の曲線下面積において上記2因子よりも良好な判別精度を示した. 以上のことから, 術側膝伸展筋力および術側下肢荷重率の両指標を併用したModelを使用することは, 単一指標よりも歩行自立度を予測する因子となる可能性があるものと考えられた.【理学療法学研究としての意義】 本研究の意義は, 術後早期における退院時歩行自立度の予測因子およびその水準を示した点である. 本研究の成果は, 急性期病院において転帰先を決定する際の一助になるものと考えられる.
著者
松本 剛 山口 元太朗 秦 大介 坂野 喜一 利倉 悠介 田上 友香理 上野 隆司
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.CcOF2079, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 肩関節後面筋のトレーニングは上腕骨の回旋運動を用いてトレーニングされることが多い。しかし、肩関節後面にある回旋筋の棘下筋、小円筋の走行を考えると、側臥位で肩関節屈曲位からの水平外転運動もトレーニングの方法として適切なものと考えられる。そこで今回水平内転方向の負荷をあたえ、側臥位にて肩関節屈曲角度を変えた状態で肩後面筋の筋活動を計測し、その筋活動を肩関節下垂位での外旋運動(以下1st外旋)と比較することで回旋運動を伴わない状態での肩関節後面の筋活動を明らかにすることを目的とした。【対象および方法】 対象は肩関節に愁訴のない男性18名(年齢24.4±3.9歳、身長173.6±5.8cm、体重67.6±11.1kg)で運動特性のない非利き手(全例右利き)を計測に用いた。測定肢位は側臥位にて仙骨部と足部を壁に接地し、体幹は20°屈曲位とし頚部と体幹の側屈、回旋はおこさないよう指示した。計測肢位は1st外旋位、肩関節60°屈曲位、90°屈曲位、120°屈曲位、150°屈曲位で前腕遠位部に重垂1kgを把持させ、それぞれ8秒間の等尺性収縮を計測した。被検筋は三角筋後部線維(DP)、小円筋(TM)、棘下筋(ISP)とし、得られた波形は2秒間の平均振幅を求め各筋の最大収縮時の値で正規化(%MVC)した。筋電計はMYOSYSTEM1400を用い解析にはMyoresearchを用いた。統計学的分析には二元配置分散分析および多重比較検定を用い有意水準5%未満とした。【説明と同意】本研究の対象者には研究前に主旨と方法を口述にて説明し書面にて同意を得た。【結果】 %MVCは各筋DP、TM、ISPの順に1st外旋位では、2.06±1.33%、3.67±1.55%、3.32±1.45%、60°屈曲位で11.35±6.46%、6.43±2.67%、4.36±1.74%、90°屈曲位で9.91±5.22%、7.40±3.73%、5.53±2.44%、120°屈曲位で、6.03±3.05%、7.86±6.06%、5.70±2.43%、150°屈曲位で7.58±4.15%、8.96±5.29%、5.78±2.47%であった。DPでは1st外旋位とすべての肢位、60°屈曲位と120°屈曲位150°屈曲位、90°屈曲位と120°屈曲位150°屈曲位において有意差を認めた(P<0.05)。TMでは1st外旋とすべての肢位、60°屈曲位と150屈曲位°に有意差を認めた(P<0.05)。ISPにおいては有意な差は認められなかった。DPは60°、90°屈曲位において活動量が増加し、1st外旋位は有意に活動量が減少していた。TMは120°、150°屈曲位で筋活動量が増加し、1st外旋で有意に減少していた。ISPは1st外旋と屈曲位との活動量に有意差はないが肩関節の屈曲角度の増加に伴い筋活動の増加が認められた。【考察】 DPは1st外旋位と比較すると他の全ての肢位に有意な活動量の増加がみとめられた。Reinoldらは側臥位での1st外旋は三角筋の活動を抑制した状態で棘下筋、小円筋を選択的に活動することができると報告している。今回の結果はこの報告の通り1st外旋位でのDPの活動は他の全ての肢位と比較すると活動量は減少していた。逆にTMは報告とは異なり1st外旋位での活動量が他の全ての肢位よりも増加した。またTMは60°屈曲位と比較すると150°屈曲位で有意に活動量が増加していた。TMは肩甲骨外側に起始部をもち上腕骨大結節外側部に停止部をもつ筋である。肩関節が挙上位になるとその距離は離れ筋の長さは長くなる。これによって仕事量が増加しTMの活動量が増加したと考えられる。DPは他に60°、90°屈曲位では120°、150°屈曲位と比較すると有意に活動量が増加していた。これはDPが起始部を肩甲棘、停止部を三角筋疎面にもち肩関節60°、90°屈曲位での水平内転方向への負荷は起始部と停止部が直線上にあり、筋の走行に対して垂直方向に負荷がかかるため活動量が増加したと考える。120°、150°屈曲位で活動量が減少した理由は上腕骨が挙上するにつれて肩甲棘に起始部をもつDPは起始部と停止部が近く、筋の走行が一直線にならず水平方向へ参加する筋線維の量が減少したためと考えられる。ISPは肩関節が挙上するに伴い活動量も増加傾向をしめしたが、有意な差はなかった。これはISPが起始部を肩甲骨棘下窩という広範囲にもつこととKuechle、Kuhlmanらは中部繊維や下部繊維の大きさは外転により顕著な差が生じず、上肢挙上に伴い筋の発揮する力は小さいことから、肢位に関わらず最も強力な外旋筋であると報告していることから肩関節屈曲角度の増加に伴い筋の長さが長くなり増加傾向をしめしたが、有意な差がみとめられなかった一因と考える。【理学療法学研究としての意義】 臨床場面において肩関節屈曲方向の可動域獲得ができれば回旋運動を伴わずとも肩後面の筋活動を高めることができる。等尺性の筋力トレーニングでは負荷量だけでなく起始停止の位置つまり、筋の走行を考慮した様々な角度、肢位で実施することが重要である。
著者
平川 善之 上堀内 三恵 山崎 登志也 宮前 雄治 高橋 精一郎 甲斐 悟
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0313, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】安定した姿勢制御には下部体幹筋群・股関節周囲筋群の協調性が重要とされている。臨床においては、腹筋のトレーニング後に運動中の姿勢が安定することを経験する。しかし体幹筋の筋力トレーニングが股関節周囲筋に与える影響は不明である。そのため、下部体幹筋のトレーニング前後の筋活動を比較することで股関節周囲筋に与える影響を調べることを目的とした。【対象】健常男性21名。平均年齢26.6±3.7歳 平均身長172.4±5.8cm 平均体重63.7±5.9kg。【方法】一側下肢を側方へ踏み出す動作にて、下部腹筋と股関節周囲筋の筋活動を記録した。そして片側の内腹斜筋のみトレーニングを行い、その後同様の動作中の筋活動を記録した。測定動作は肩幅大の開脚立位より、検査側の側方へ20cm踏み出し、80%荷重後元に戻った。荷重量はツイングラビコーダー(アニマ株式会社)を用いてフィードバックした。またFoot switch EM434(Noraxon社)を同期させ、検査側の接踵・離踵を判断した。筋活動は表面筋電図Tele Myo2400(Noraxon社)で記録した。被験筋は、検査側の内腹斜筋・大殿筋・中殿筋・内転筋と、先行研究にて左右方向の動きを制御するとされる反対側の内腹斜筋・内転筋とした。筋力トレーニングはEMGフィードバックをしながら、内腹斜筋以外の筋収縮がないよう注意しつつ行った。その後、十分な休憩を取った。筋活動の比較は、各筋の筋活動を最大筋活動で除して%MVCを求め、トレーニング前後で1:筋活動量の比較(検査側の接踵から離踵までの%MVCを比較)と2:筋活動増加時期の比較(接踵時を基準時とし、その前後を50ms毎に10区間に区切り各区間内で%MVCを比較)をした。統計処理はWilcoxon符号付順位検定を用い、危険率5%未満を有意とした。【結果】筋活動量の比較では、検査側の内腹斜筋及び対側の内転筋で、トレーニング後に有意に大きくなる傾向があった。筋活動増加時期の比較では、内腹斜筋、中殿筋、対側の内転筋において、接踵時の前250~450msの期間にトレーニング後に大きくなる結果が得られた(p<0.05)。他の筋には有意差は見られなかった。【考察】内腹斜筋のトレーニングによる即時効果として、トレーニング後の内腹斜筋と対側の内転筋に筋活動の増大が見られた。これらはLeeらのいう、骨盤帯の安定性に寄与する筋群とされるアウターユニットの「外側系」を構成する筋群であり、機能的な連結が考えられた。また筋活動の増加は、すでに荷重負荷の急激な増加が起こる接踵時より以前にみられており、負荷に対する予測的活動として増加したものと推測される。健常者に比べ腰痛患者では、上下肢の運動以前におこる体幹筋の予測的活動が少ないとする報告がある。今回の体幹筋のトレーニングにより股関節周囲筋にも変化が見られ、このことが姿勢の安定性に影響を与えていることが考える。
著者
岡田 有司 吉村 洋輔 田中 繁治 上杉 敦実 椿原 彰夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101264, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】脳卒中患者が歩行を獲得することは介護者の介助量軽減のみだけでなく,発症後の生命予後に関与しているとされる.しかし,歩行獲得に関与する因子として,年齢や運動麻痺,体幹機能,バランス能力,高次脳機能障害,認知機能面など多くの因子が影響するとされている.脳卒中の歩行予後予測には二木の分類,FIM,機能障害の総合的評価指標であるSIASなどが使用されている.しかし,これらの研究においては,mRS やFIM・BI,屋内歩行・屋外歩行・車椅子生活・全介助などの予後予測にとどまり,各身体機能面や認知機能面が歩行獲得にどのように関与しているかは不明である.かつ,多くの研究は発症後間もない急性期ではなく,回復期での検討である.そこで本研究の目的は,急性期理学療法開始1週間後の機能障害,認知機能面からどのような因子が歩行獲得に影響しているのかを後方視的に検討した.【方法】対象は平成21年5月1日から平成24年8月31日までに脳卒中を発症して当院回復期病棟へ入院した181名とした.さらに,SAH・小脳・延髄・多発性・両側性病変,病前mRS3以上,評価日までに自立歩行を獲得した症例,評価不可の症例を除いた80名(平均年齢67.7±11.9歳,男性50名)を対象とした.調査項目は回復期病棟退院時の歩行能力,年齢,性別,急性期理学療法開始1週間後の項目(意識障害の有無,SIAS-Motor合計点,SIAS-Trunk合計点,SIAS-非麻痺側膝伸展得点,FIM認知項目合計点)とした.回復期病棟退院時の歩行能力は,運動療法室での歩行能力とし,歩行FIM4点以上を歩行獲得可能と定義した.歩行獲得可能は71名でありA群とし,不可は9名でありB群とした.平均年齢はA群67.2±11.8歳,B群71.7±13.0歳,性別はA群男性46名,B群男性4名,意識障害の有無はA群で無し53名,B群で無し2名,SIAS-MはA群6.5±5.0点,B群1.3±4.0点,SIAS-TrはA群3.4±1.5点,B群1.1±1.3点,SIAS非麻痺側膝伸展はA群2.3±1.0点,B群1.8±0.8点,FIM認知項目はA群22.5±10点,B群11±4.6点であった.統計解析には,まずA群とB群において,各調査項目の差を知るためにt検定,χ2検定を行った.次に,従属変数を回復期病棟退院時の歩行能力とし,独立変数を年齢,意識障害の有無,SIAS-M,SIAS-Tr,FIM認知項目とし,変数増加法(尤度比)の二項ロジスティック回帰分析を行った.また,年齢,意識障害の有無においては,従属変数および独立変数のどちらにも関与する交絡因子として投入して行った.なお,有意水準は5%未満とした.すべての統計解析のために,PASW Statistics 18.0(SPSS社製)を用いた.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は倫理審査での承認を得ており,個人情報の管理に注意した.【結果】統計解析の結果,2群間の比較では意識障害の有無,SIAS-M,SIAS-Tr,FIM認知項目に有意差が認められた.ロジスティック回帰分析では,歩行獲得に影響している変数として,SIAS-Trが選択された(モデルχ2検定でp<0.001).SIAS-Trのオッズ比は3.994(95%信頼区間1.533から10.406)であった.変数の有意性は,SIAS-Trがp<0.005であった.このモデルのHosmer‐Lemeshow検定結果は,p=0.819で適合していることが示され,判別的中率は91.3%であった.【考察】本研究の結果より,急性期理学療法開始1週間後のSIAS‐Trunk合計点が回復期病棟退院時の歩行獲得に影響していることがわかり,高い確率で予測することが可能と考えられた.先行研究からも歩行には体幹機能が重要であり,急性期座位保持能力が良い症例ほど歩行・ADL向上にむすびつくといわれているため,この結果はそれを支持する内容となった.つまり,両側性神経支配である体幹機能が保たれている症例ほど,歩行獲得にむすびつきやすいことがわかった.しかし,SIAS-Motor合計点やFIM認知項目合計点が変数として選択されなかった.重度運動麻痺の症例は装具を使用することで歩行獲得していた可能性があり,認知項目は歩行自立度に影響すると考えられるため,今回の研究のように歩行獲得のみを判断する場合では影響していなかったと考えられる.しかし,今回の研究では,理学療法の治療内容や量の検討,対象症例の退院時期が一致していないため,今後は統一した検討も必要である.【理学療法学研究としての意義】急性期理学療法評価から早期に歩行獲得に関与する因子を抽出することで,最適な理学療法プログラムを立案し,歩行獲得に向けた治療を行なうことができると考える.
著者
堀川 智慧 菅田 伊左夫 原田 和宏
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1143, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】高齢者の転倒は年間10~20%発生しており,介護の主要な要因として問題となっている。高齢者の中でも特に虚弱高齢者は転倒リスクが高く,自宅での転倒発生リスク比が健常高齢者の2倍あるとの報告もある(Northridge,1995)。このことから虚弱高齢者の転倒リスクを予測し,早期支援・介入することが重要である。転倒は地域生活の中で特に歩行中に生じており,歩行における転倒リスクの判別が必要となる。Shumway-Cook(2013)は従来の時間距離変数を用いた歩行評価は簡便で有力な転倒リスク評価指標だが,施設内の整えられた環境下であることから実際の地域生活での能力を反映しているかは明確ではないと述べている。そこで歩行中に認知課題負荷を行い生活場面に近い環境下での歩行を評価することで,より地域生活における歩行能力と転倒リスクの判別が可能になると考える。課題歩行を行う尺度としてDynamic Gait Index(以下,DGI)がある。DGIは8項目の課題歩行を実施し,その課題に対する認知応答やバランス制御反応により歩行を修正する能力を点数化する。地域高齢者においてDGIの妥当性,信頼性を有しているとされるがその報告は少なく,加えて地域高齢者の中でも高い転倒リスクを有している虚弱高齢者に対してDGIの検討はなされていない。また虚弱高齢者は歩行能力が低いと言われており,地域高齢者を対象とした先行研究で報告されているカットオフ値19点では虚弱高齢者の転倒リスクを過大評価すると考えられる。そのことから,虚弱高齢者の転倒リスクをより高精度に判別するためにカットオフ値の再検討が必要である。本研究の目的は,地域在住の虚弱高齢者におけるDGIの転倒リスクの判別力を検討することである。【方法】対象は通所リハビリテーションを利用する65歳以上の高齢者である。除外基準として1)歩行不可能な者,2)認知症スケールであるCDR-Sの得点から認知機能低下が著名とされる者,3)Friedらの虚弱指標に基づくCHS基準が0点の非虚弱者の3つを設ける。DGIの課題は6mの歩行路を使用し,口頭指示にて通常歩行,速度変更,頭部の上下・左右回旋,方向転換を歩行中に行うもの,歩行中の障害物のまたぎ動作,8の字歩行,そして階段昇降の8つがある。各課題における歩行中の不安定さおよび課題への応答を1項目0から3点で点数化し,24点満点中得点が低いほど課題への歩行修正能力が低いといえる。本研究では転倒リスク判別の妥当性を有するModified Gait Abnormality Raiting Scaleをアウトカムとして用いる。統計解析はDGI得点が転倒リスクに寄与するかをロジスティック回帰分析にて解析を行う。またROC分析により曲線下面積(AUC)を求め,カットオフ値の検討を行い,感度・特異度の算出を行う。解析ソフトはSPSS ver. 16.0 Regressionとver. 22 Statisticsを使用する。【結果】対象者は44名であり,平均年齢は78.1±7.1歳であった。転倒リスク者は21名でDGI平均得点は13.9点,非転倒リスク者は23名でDGI平均得点は17.8点と有意に転倒リスク者の得点が低かった(p<0.01)。ロジスティック回帰分析の結果,DGIのオッズ比は0.42(p<0.01,95%信頼区間0.25~0.72)であった。カットオフ値を19点としたとき,感度100%,特異度34.8%であった。ROC曲線の結果,AUCは0.885,16.5点をカットオフ値としたとき感度69.6%,特異度91.5%であり,陽性尤度比は8.2,陰性尤度比は0.2となった。【考察】ロジスティック回帰分析より,DGI得点の減少は転倒リスクの増加に有意に寄与し,DGIの得点が転倒リスクを判別可能であることが示された。この結果を受け,虚弱高齢者においてカットオフ値を算出した結果,地域高齢者を対象とした19点に比較し,16点以下が転倒リスクをより高い精度で判別することが明らかとなった。また陽性尤度比から高い転倒リスク判別力を有することが明示された。DGIにおける課題は口頭指示に対する応答,頭部の操作やまたぎなど地域生活の中で想定される内容と考えられ,DGIによる歩行評価を行うことにより地域高齢者に加えて虚弱高齢者においても地域生活での転倒リスク判別が可能となることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】DGIを用いた歩行評価により歩行中の転倒リスクを有する虚弱高齢者を早期特定し,重点的な介入を行うことが可能になる。また,DGIの減点された項目に対して理学療法介入や環境調整を行うことでより効果的な転倒予防が可能になると考える。