著者
堤 偉史
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P3133, 2009

【目的】バスケットボールは、激しいコンタクトスポーツであるがゆえ、レクレーションレベルの活動であっても長く競技生活を続けることは容易ではない.故障の為にその余暇活動を制限されるプレイヤーも少なくない.今回は、レクレーションレベルの社会人プレイヤーの障害発生の予防を目的としてスポーツ障害調査を実施したので報告する.<BR>【対象と方法】社会人バスケットボール4チームのプレイヤー88名(18歳~61歳の平均年齢28.6歳、男性62名、女性26名)を対象にアンケート調査(有効回答率95.5%)を行った.内容は、1)ポジション2)練習頻度3)練習時間4)競技開始時の年齢と競技年数5)現病歴・既往歴・再発の有無6)競技復帰までのリハビリテーションの有無7)完治後に復帰したか8)コンディショニングについて9)故障が競技パフォーマンスに影響しているか10)ICE処置の知識とした.また、「足首を捻挫した際の応急手当」を自由記述にて質問した.なお、障害は競技時の受傷に限局した.統計学的処理には素集計及びクロス集計を行い,検定はカイ二乗検定を用い有意水準は5%とした.<BR>【結果】競技開始年齢は平均13.7歳、競技年数は平均10.25年であった.ポジション別故障発生率に有意差は認められなかった.練習頻度週2回以下と週3回以上、練習時間2時間以下と3時間以上のプレイヤーにおいて故障発生率に有意差は認められなかった.55%のプレイヤーが現在何らかの故障をかかえていた.既往歴のある者は89%、現病歴、既往歴ともにない者は6%のみであった.また、故障が競技に影響していると考えている者は49%であった.リハビリテーション実施の有無と再発率には有意差は認められなかったが、完治せずに競技に復帰した場合、完治後に復帰した場合に比べ、優位に故障を再発するとの結果が得られた.コンディショニングの有無と現病歴に有意差は認められなかった.ICE処置という言葉を知っている者は17%であった.また、言葉は知らなくても足首捻挫時の適切な応急手当の知識を持っている者は35%であり、応急処置の知識がない者に比べ故障再発率が低かった.<BR>【考察】社会人プレイヤーの多くが、何らかの故障を経験し、約半数が受傷により競技パフォーマンスが低下していることがわかった.多くのプレイヤーが小・中学校を主とした部活動により競技を始め、競技歴が10年を超えているにも関わらず、受傷時に適切な応急処置を行えず、十分回復しないまま競技に復帰し、再発を繰り返している状況があった.再発を未然に防ぎ、競技生活を長く続けるためには受傷時の応急処置の知識や障害が十分に回復していない状態での競技復帰はしないという初期からの指導が必要と考える.理学療法士の職域が拡大している現在スポーツプレイヤーに対する障害発生予防指導も今後益々重要な役割となると考える.
著者
手島 喜也
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.E3P3216, 2009

【目的】平成16年4月「健康寿命」の延伸を目標に、特に「一次予防(健康づくり)」と「介護予防」を大きな柱として、利用者が生涯にわたって自分らしく自立した暮らしができるよう、また健康や体力維持への意欲を高め、仲間づくり、生きがいづくりを目指す目的で「いきいきセンター」(以下当センター)がオープンした.健康づくり、ダイエット、退院後のリハビリ継続、介護予防など利用目的は様々である.平成20年9月末までの4年半の延べ利用者は47000人余りに達し、特に50代以上の利用者が約8割を占め、うち70代以上の利用者が2割を占めている.そこで今回、当センターでの利用継続し、直接調査した結果、若干の知見が得られたので報告する.<BR>【対象と方法】平成20年9月現在の時点で、介護予防目的の利用者は43名で、週2回以上の利用でかつ1年以上継続されている11名のうち定期的に評価でき、同意が得られた3名(70歳・71歳・89歳女性)を対象とした.方法は理学療法士の指導の下、当センターの運動機器にて運動を実施し、3ヶ月ごとにTimed Up&Go Test(以下TUG)を測定し、同時に生活状況を聞き取り調査した.<BR>【結果】1TUGに関しては3名とも開始から1年までは時間が短縮したが、その後はあまり変化がみられなかった.2生活状況は3名とも半年あたりから徐々に変化し始めた.(70歳女性 変形性股関節症)痛みが強く家での農作業までが精一杯だったが少しずつ外出への自信が高まり、今では地区の行事の参加はもちろん、1泊の旅行から、ウォーキング大会にも参加できるようになった.農作業、山仕事も積極的に行っている.(71歳女性 パーキンソン病 YahrのstageII)家での動きが少しずつ難しくなってきて、人前に出るのもおっくうになっていた.現在は周囲の協力もあり、友達との食事やカラオケに出かけたり、積極的に買い物、日帰り旅行にも行くようになった.(89歳女性 右大腿骨骨折 一人暮らし)当初からバスに乗っての来所は可能だったが、範囲は限定されていた.現在は1時間以上かかる娘宅まで一人でバスに乗って行ったり、演歌歌手のコンサートも行くようになった.<BR>【考察】今回の対象者が継続し、成果をあげることができた要因にある程度の能力は存在していたことに加え、正しい姿勢・リズム・低負荷での運動を継続することでの動作性の向上が図られ、それを日常生活に反映できたこと.それにより生活における体力の向上ができたことが推測される.しかしそれだけではなく他の利用者の存在が非常に大きかったと思われる.介助すべき場面とそうでない場面を私達の行動をみて自然と習得し、それにより特別な存在と見ることもなく自分たちと同じ利用者・住民という意識が浸透したように思われた.知り合いとなり楽しくお互いが運動、交流ができ、行動変化への自信がうまれた結果介護予防が図られたものと考える.
著者
高橋 いず美 青山 誠 佐々木 亮介 小林 万里子 中山 紀子 山崎 彰久 天満 美希
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.31 Suppl. No.2 (第39回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0892, 2004 (Released:2004-04-23)

【はじめに】我々、理学療法士(以下PT)が臨床場面で筋力を測定する方法として、現在では徒手筋力検査法(以下MMT)が使用されることが多い。MMTの判定には主観的要素が含まれているため、的確な判断には熟練を要するとされている。これまでMMTの検者間信頼性を検討した研究がなされ、高い信頼性が得られたとする報告も多い。しかし、足関節底屈(腓腹筋)の測定は徒手による抵抗ではないうえに、上肢による免荷がどれだけか、どこまでバランスの崩れを許すのかといった判断が検者の主観的なものであり、純粋に腓腹筋筋力を検査しているとは言い難く、特に3(fair)以上の判定においての信頼性に疑問が残る。そこで今回は、MMTにおける足関節底屈筋力(腓腹筋筋力)の測定について、検者間信頼性を検討することを目的に調査した。【対象と方法】被検者は下肢に既往歴のない成人14名(男性6名、女性8名)、平均年齢59.3±9.8(50~87)歳とした。検者は経験年数5年以上の理学療法士(以下PT)3名(男性2名、女性1名)、平均経験年数9.6年とした。3名の検者は各被検者に対し、MMT第6版で規定された方法に準じ、左右の腓腹筋の筋力を測定した。測定した結果は3名の検者間では知らせず、3回の測定は少なくとも30分間以上の間隔をあけて実施した。検者間信頼性は分散分析を用い、危険率5%を有意水準とした。【結果】被検者全員の足関節底屈筋力はすべてMMTで3以上であった。3名のPT間で、MMTの結果が左右とも一致した人数は14名中3名(21.4%)で、左右のどちらかだけ結果が一致したのは28脚中8脚(28.6%)であった。また結果が一致していたのは、すべてMMTで5レベルと判断された被検者(脚)であった。95%信頼区間による検定では、右足がF1=3.36、左足はF1=8.32となり、左右ともに検者間信頼性はなかった。【考察】今回の研究では検者3名、被検者14名と少数であったが、一般に経験があるとされる経験年数5年以上のPTにおいても、検者による測定結果のばらつきがみられたことは、腓腹筋に対してのMMTの測定は、検討の余地がある事項であると考えられる。今回ばらつきがみられた要因としては、踵を持ち上げる高さ、バランスをとる程度とされる上肢による支持、正しい形を崩さずに行える、という点についての判断が検者により差がみられたことが挙げられる。しかし現在、MMTは簡便で誰もが行える理学療法評価の手技として、最も頻繁に実施されている検査の一つであることも事実であり、今後はより客観的で簡便な足関節底屈の測定方法の検討が必要と思われた。
著者
竹田 圭佑 竹島 英祐 小島 聖 渡邊 晶規 松﨑 太郎 細 正博
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0726, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】関節拘縮の予防,治療は理学療法士の責務であるといっても過言ではない。関節拘縮の病理組織学的観察を行った先行研究では,関節前方にある脂肪体の萎縮,線維増生,うっ血を認めている。関節における脂肪体は,その柔軟性による関節周辺組織の保護だけでなく,関節運動の緩衝材としての役割を担うとされ,関節可動域運動(以下,ROM-ex)では脂肪体の可動性が確認されている。関節拘縮予防や治療の目的で,脂肪体に対しマッサージやストレッチを行い柔軟性の維持・改善を図る手技が散見されるが,脂肪体に対する機械刺激の効果や組織学的変化は不明である。そこで今回,ギプス固定期間中の膝関節にROM-exを行い,関節拘縮(膝蓋下脂肪体の変化)の予防効果を組織学的に観察,検討を行うことを目的とした。【方法】対象は8週齢のWistar系雄ラット15匹(256~304g)を用いた。1週間の馴化期間を設けた後,無作為に通常飼育のみ行う群(以下,正常群)(n=5),不動化のみ行う群(以下,拘縮群)(n=5),不動期間中にROM-exを行う群(以下,予防群)(n=5),の3群に振り分けた。不動化は右後肢とし,擦傷予防のため,予め膝関節中心に後肢全体をガーゼで覆い,股関節最大伸展位,膝関節最大屈曲位,足関節最大底屈位の状態で骨盤帯から足関節遠位部まで固定した。固定肢の足関節遠位部から足趾までは浮腫の有無を確認するために露出させた。予防群へのROM-exは,期間中毎日ギプス固定を除去し,麻酔下で右後肢に10分間実施した。ROM-exは約1Nの力で右後肢を尾側へ牽引し,その後牽引力を緩める動作を10分間繰り返した。速度を一定に保つためメトロノームを用い,2秒間で伸展―屈曲が1セット(1秒伸展,1秒屈曲)となるようにした。実験期間はいずれの群も2週間とした。期間終了後,実験動物を安楽死させ,股関節を離断して右後肢膝関節を一塊として採取した。採取した膝関節を通常手技にてHE染色標本を作製した。標本は光学顕微鏡下で観察し,病理組織学的検討を行った。観察部位は,関節前方の膝蓋下脂肪体とし,取り込んだ画像から脂肪細胞の面積を計測した。各群の比較には,一元配置分散分析を適用し,有意差を認めた場合には多重比較検定にTukey-Kramer法を適用した。有意水準は5%とした。【結果】拘縮群,予防群では同様の組織変化がみられ,膝蓋下脂肪体における脂肪細胞の大小不同,線維増生が認められた。脂肪細胞の面積は正常群1356.3±275.1μm2,拘縮群954.6±287.7μm2,予防群1165.0±316.6μm2で全ての群間において有意差が認められた(p<0.05)。【結論】ギプス固定による2週間の関節不動によって膝蓋下脂肪体には脂肪細胞の大小不同,線維増生が認められた。不動化により脂肪体は萎縮するものの,予防介入することでその萎縮は軽減できることが示唆された。
著者
佐藤 努 佐藤 絢 紺野 聖 木幡 修 江井 邦夫 佐藤 幸一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100342, 2013

【はじめに、目的】障害者の自動車運転は,生活関連動作や職業関連動作として位置づけらており,多様化するニーズに即した社会参加を念頭とした支援を進めていく必要がある.障害者の自動車運転再開には,自動車への乗降動作や運転操作などの基本的動作に加えて,事故回避能力や状況判断能力の観点から理学療法士の役割は重要である.しかし,機器操作などの運転技術における専門的な実車検査等を医療サイドのみで実施することは不可能に近く,他職種が関与することが重要であり自動車学校との連携は必須となる.今回,スムーズな運転再開へ向けたシステムの構築および支援体制の確立の一環として福島県内の自動車教習所における障害者の受け入れ状況やその対応等をアンケートにて調査した.【方法】福島県内の指定自動車学校41箇所に対し,アンケート調査を実施した.アンケートは障害者の受け入れの状況および障害者用車両の有無,運転補助装置の詳細など26項目について質問を実施した.回収期間は,平成22年10月から11月末までの2ヶ月間で回収した.【倫理的配慮、説明と同意】自動車学校側に対し調査目的,調査対象などを書面により十分に説明し,同意が得られた場合に限り返送してもらうこととした.【結果】回答数は全41箇所中21箇所で,回答率51.21%であった.障害者の受け入れが可能は9箇所であり,条件付きであれば可能が12箇所であった.可能な障害分類においては右上肢障害,左上肢障害が12箇所,両上肢はわずか3箇所であった.また,右下肢障害は7箇所,左下肢障害11箇所,両下肢障害6箇所であった.障害者用車両の保有は4箇所であり,手動運転補助装置は6箇所であった.手動運転補助装置の具体的詳細に関しては,ハンドル回旋装置6箇所,パワステ付きハンドル5箇所,手動アクセル,ブレーキ4箇所,左ウィンカー4箇所であった.足動運転補助装置は4箇所であった.足動運転補助装置の具体的詳細に関しては,足踏みウィンカー1箇所,シフトチェンジ1箇所,サイドブレーキ2箇所,ホーン,ライトスイッチ1箇所,左足用アクセルペダル4箇所,ドアの開閉装置0箇所,パワステ3箇所であった.障害者に対する対応においては,施設内の段差等のバリアの解消されている教習所は5箇所,車椅子対応のトイレ設置は2箇所,トイレ介助が可能である自動車学校は5箇所であった.通常型送迎車における送迎が可能である自動車学校は11箇所,車椅子対応型送迎車は0箇所であった.また,施設内の移動介助が可能である教習所は7箇所,階段昇降介助が可能である自動車学校は6箇所という回答であった.【考察】障害者の運転再開では,道路交通法において身体的特性や障害の程度により安全に自動車運転が行える範囲での運転免許種別(臨時適性検査)が整備されている.また,管轄の警察署における適性検査も実施される.これらは,運転再開における設定条件の変更が主な目的となっている.運転技術の習得は,実車講習による運転操作判断能力などの運転適正を,より身近な環境で,より多くの障害者が習得できるシステムの構築が必要となる.そのため,各地域における自動車学校の協力が不可欠であり,協力体制を把握することが必要である.今回の結果より,福島県内自動車学校の多くは,条件付きであれば障害者への教習が可能であり,福島県各地域(県北地域,県中地域,県南地域,会津地域,いわき地域,相双地域)に存在していることが分かった.しかし,障害者への移動介助支援や車椅子対応のトイレの設置,段差のバリア解消など障害者への対応が未整備の自動車学校が多いことや障害者用車両,運転補助装置(手動運転補助装置,足動運転補助装置)を保有している自動車学校が少ないことから,個々の障害やニーズに即した自動車教習が困難な状況であると思われる.今後は,各医療機関に対し現段階における情報開示を進めていくことにより,スムーズな運転再開を図ることができると思われる.また、その地域に沿った整備や情報交換の方法などを含め地域支援体制(ネットワークづくり)を確立していく必要性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】障害者の積極的な社会参加(自動車運転など)を念頭とした支援を進めていくにあたり,他職種(自動車学校など)が関与することが重要であり,各地域における状況把握が求められる.今回の自動車学校側へのアンケート調査は,その一端を担っていると言える.
著者
光村 実香
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ea0369, 2012

【はじめに、目的】 通所リハビリテーション(以下,デイケア)は,リハビリテーション(以下,リハビリ)を専門とする理学療法士ら(以下,療法士)が多職種協働で利用者の日常生活の自立や介護度の重度化を予防する目的の施設である。リハビリで獲得した動作を生活に密着させるには,介護職と利用者の援助場面でもその動作を実践することが重要である。そこで本研究は,デイケアで働く療法士が介護職と連携しながら自立支援を行うプロセスを明らかにすることを目的に行った。【方法】 対象者はデイケアで勤務するPT 2名,OT 4名,ST 1名の療法士7名(女性1名,男性6名),デイケアでの経験年数は1.5~9年であった。期間2008年5月22日~8月7日である。まず施設で利用者,介護職,療法士の関わりに注目しながら参加観察を行った。その後,参加観察で得た自立支援の関わりをもとにインタビューガイドを作成し,療法士に半構造化面接を行った。面接時間は45~60分で,対象者に許可を得てインタビュー内容を録音し,逐語録におこし修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析,結果図を作成した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は金沢大学医学倫理委員会の承認を受け実施した(受付番号183)。研究説明書を用いて研究手順や個人情報の保護等について説明を行い,同意書の署名をもって研究参加の承諾とした。【結果】 【カテゴリー】4個,<サブカテゴリー>6個,[概念] 20個が抽出され,コアカテゴリーは【している動作の状況化】で,療法士がリハ室だけの関わりではなくできる動作をしている動作としてデイケア内の場面に定着させることであった。ストーリーラインを示す。デイケアで療法士がリハビリをプロデュースするプロセスは療法士が利用者の【できる動作の明確化】から始まる。療法士の視点で利用者が持つ[潜在ニーズ・能力の掘り起こし]を行い,予後を見据えた[その先の目標設定]をし,動作獲得に必要なアプローチを考える。これらを<リハビリ構想>として〔できる動作能力アップ〕を図り,動作改善を行う。また練習の中で成功体験を積み重ね精神面からも〔動作遂行への自信作り〕へ働きかけ<できる動作獲得への実践>を行う。この関わりは,在宅生活を視野に入れた【更なる能力アップの可能性】へつながる。ある程度の動作能力向上が図れると,その動作をデイケア内に同化させる為【している動作の状況化】を行なう。方法は介護職や家族の前で療法士が介助し,その方法を[やってみせる]ことで利用者の能力を知ってもらう,[専門性を活かした助言・指導]を行い利用者の状態を理論的に説明する等である。これらの働きかけにより介護職に利用者の<できる動作の顕在化>を示す。さらにできる動作を発展させる為に<している動作の環境作り>を行なう。これは実際の援助場面に合わせた[そのタイミング,その場面]での動作練習や,介護職個々と利用者の援助方法を話すことで[ケアの意識の並列化]を試みる。またできる動作に基づく援助に不安を抱く介護職には[リハビリ的関わりの後押し]をし,できる動作を介護場面に活かすよう促す。<できる動作の顕在化>と<している動作の環境作り>は様々な場面と状況で繰り返し行われる。しかし【している動作の状況化】を図る上で介護職との間に〔利用者ニーズ優先〕と〔タイムスケジュール優先〕,〔愛護的援助〕と〔手助け的援助〕等<価値観のズレ>が生じることがある。療法士は〔リハビリのプライド〕としてデイケアにリハビリがある意義や,〔デイサービスとの差別化〕等<療法士の信念>の強い気持ちから,このズレを修正しようとする。そこで【している動作実現への足場作り】として介護職の責任者を説得し〔協力者を増やす〕,〔カンファレンスの活用〕で話し合いを通じ意見を統一する,家族と介護職の問題に共に取り組み〔利用者問題の共有化〕等を行う。これらの取り組みが介護職との連携の足場となり【している動作の状況化】がより円滑に進むようにする。【している動作の状況化】が進むと〔新たな能力獲得を見込んだ関わり〕や〔在宅生活を吟味した援助〕等【更なる能力アップの可能性】を見出し,在宅生活を見据えた関わりに発展していく。【考察】 療法士はデイケア内の動作だけではなく,それらを在宅生活につなげていくことまでを想定し,利用者や介護職と関わりを持っていると考えられる。援助場面にリハビリ的関わりを導入するには,介護職との価値観のズレや時間的制約を改善する工夫が必要である。【理学療法学研究としての意義】 デイケアでの理学療法士の役割を明確化する一助となる。それにより多職種との連携が図りやすくなり,利用者に質の高い理学療法を提供することができる。
著者
田中 正則 竹下 明伸 清水 和彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.G3P1564, 2009

【目的】カリキュラムの大綱化に伴い最終学年で実施される長期臨床実習の到達目標は、臨床家としての即戦力養成から基本的な理学療法が行える能力を備えていることに変化した.一方、一部養成校・教員は国家試験を現実的到達目標と認識しているのか、臨床実習を軽視して養成校の合格率を高めるための国家試験対策が、養成校の行事として最終学年の重要な時期で展開されている.我々は、臨床実習とその後の学内教育ではリテラシー教育を重視することが卒業後の臨床には必要と考え、国家試験対策は副次的問題と考える立場にいる.そこで、臨床実習で経験した知識や学習方略が国家試験の得点にどのような影響を及ぼしているかの検討を始めるにあたり、臨床実習成績と国家試験成績との関係とを調査し、検討した.<BR>【方法】対象学生は旧国立病院機構立の3年制専門学校に在籍し、3年次10週間2施設における長期臨床実習の単位取得後に国家試験を受験した39名(第42回国家試験19名、第43回国家試験20名).長期臨床実習の評定は100点満点で、実習指導者が優・良・可・不可と判定した結果をそれぞれ80点・70点・60点・50点と点数化したものを8割とし、残りの2割を実習後に学内で行われる2週間のセミナーの参加態度や症例報告会での発表内容を6名の教員が採点した平均を加えて算出した.臨床実習終了後にカリキュラム上の卒業論文作成や卒業試験等はなく、5名ずつの小グループに分けた自己学習により国家試験受験対策を行った.また学生全員参加の業者模試を1回実施した.国家試験の自己採点は試験終了翌日に模擬試験実施業者の解答速報を参考とし、学生が自己採点を実施した.その際、結果をいずれ公表することを説明し、同意を求めた.臨床実習各期の評点と国家試験自己採点との関係をスピアマンの順位相関係数で求めた.<BR>【結果】国家試験合格率は2年間100%であった.また臨床実習成績と国家試験自己採点の間には相関係数0.4以上の有意な正の相関関係が認められた.<BR>【考察】永尾らによれば臨床実習指導者は、学生の合否基準を判定する際に認知領域よりは、問題意識を持って実習課題を解決しようとする学習態度などの情意領域を重要視していることを挙げている.このため実習成績との相関は思ったほど高くない.国家試験の出題傾向は断片的な知識の確認問題から次第に文章問題、画像やイラストを用いて豊富な医学的情報を提示してそれを使いこなせるリテラシー能力を求める問題へとシフトしてきていると思われる.そのため、学生が多くの医学的情報をどのように処理して治療プログラムを実践したのか、臨床実習でのリテラシー能力に関する合否判定基準を明確にして行動目標と到達レベルを明らかにすることが必要であろう.また、臨床実習での経験を軽視した国家試験対策は、大きな問題があると考えた.
著者
冨松 剛 西山 保弘 中園 貴志 松尾 啓太 内田 陽一朗
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.F1019, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】 交代浴は、温浴に冷浴が加わる部分浴であり、温熱および寒冷療法の相乗効果を備えている。交代浴は、慢性炎症症状、外傷性血腫の吸収に効果を認め、近年では複合性局所疼痛症候群(CRPS)の症状改善にも有効であると水関(1994)は報告している。我々は、温浴および冷水温の異なる交代浴を用い、その皮膚温変化について検討し若干の知見を得たので報告する。【方法】 対象は、研究に理解を得た健常成人ボランティア(男性5名、平均年齢28.5歳)。部分浴は、温浴および2つの交代浴を用い、右手のみを施行した。温浴は40°Cの温水に24分間浸した(以下、温浴)。交代浴は温水40°Cと冷水15°C(以下、15°C交代浴)、冷水5°C(以下、5°C交代浴)の2種類の冷水温を用いた。交代浴の浸水方法は水関らの方法に準じた(温水4分、冷水1分×4 最後は温水)。皮膚温測定は、サーモグラフィーTH3100(NEC三栄株式会社製)を使用し両側手背部中央の皮膚温を測定した。測定間隔は安静時、施行直後、15分、30分、45分、90分、120分、150分、180分後の計9回の皮膚温を測定した。サーモグラフィーの測定は日本サーモロジー学会のテクニカルガイドラインに準じた。統計処理は、paired t-test及び mann-Whitney U-testを行った。【結果】 右検側肢の平均皮膚温の変化について、温浴は施行直後、皮膚温が上昇し、交代浴はいずれも下降した。2つの交代浴は120分を経過すると180分まで、いずれも低下した皮膚温が回復傾向を示した。左非検側肢の平均皮膚温の変化は、どの部分浴も施行直後に皮膚温は低下した。しかしその後、検側肢に同調した皮膚温の回復変化を示した。特に15°C交代浴はその傾向が強く観察されました。統計学的には、安静時に対する各皮膚温の有意差は認められなかった。【考察】 交代浴は、温熱による血管拡張効果に寒冷療法の一次的血管収縮と二次的血管拡張の作用が重複することが考えられる。非検側肢の影響については、三崎は体性-交感神経反射が関与し両側に出現すると述べている。また、施行後低下した皮膚温は、180分以上をかけて緩やかに反応し、回復傾向を見せた。【まとめ】 冷水温の異なる交代浴の皮膚温変化を検側肢及び非検側肢に渡り検討した。温浴に比べ皮膚温の回復は、交代浴が長時間作用していた。
著者
齋藤 涼平 廣江 圭史
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】日常生活の中で脊柱回旋動作は多く,課題によって全脊柱が同方向へ回旋する必要もあれば,頸椎,胸椎,腰椎で,他方向の逆回旋が必要な時もある。座位での片手で対側側方へのリーチでは同方向への回旋となるが,片手の前方へのリーチでは脊柱の中で逆回旋を行うことで頭部を前方へ保持することができると考えられる。脊柱の回旋がどこの部位で逆回旋を起こしているかなど報告は見当たらない。本研究の目的は,座位での脊柱回旋動作の際に頭部固定位と非固定が脊柱回旋角度に及ぼす影響を明らかにすることである。【方法】対象は整形外科的,神経学的問題を有さない健常成人男性8名(年齢25.7±4.3歳,身長172.6±3.5cm,体重64.5±3.3kg)とした。測定課題は座位での脊柱回旋動作とした。開始肢位の姿勢は骨盤前後傾中間位での座位とし課題動作中も保持するように実施した。頭部を同側へ回旋する動作(以下Open)と,正面の目印を注視して頭部を可能な限り固定した状態での脊柱回旋動作(以下Close)とした。数回の練習後,それぞれ5回ずつ実施し,非利き手側への回旋動作を解析に用いた。回旋角度の測定には,三次元動作解析装置VICON370(OXFORD METRICS社製)を使用し赤外線反射マーカーをDIFF15マーカーセットに加え,第1,7,12胸椎,第4腰椎のそれぞれ棘突起から左右3cm,頭部に着用したヘッドキャップの計26箇所に貼付した。解析区間は脊柱回旋開始から終了までとして脊柱マーカーから規定した。脊柱の区間別の回旋角度として第1胸椎と第4腰椎との回旋角度差から胸腰椎部,第1胸椎と第12胸椎との回旋角度差を胸椎部,第1胸椎と第7胸椎との回旋角度差を上位胸椎部,第7胸椎から第12胸椎との回旋角度差を下位胸椎部,第12胸椎から第4腰椎との回旋角度差を腰椎部とした。OpenとCloseの2条件について各区間の回旋角度を比較検討した。統計手法には対応のあるT検定を用い,有意水準は危険率5%未満として解析を行った。【結果】最大回旋時の区間別での回旋角度は上位胸椎部でのOpenで有意に増加した(p<0.05)。下位胸椎部でのCloseで有意に増加した(p<0.05)。胸腰椎部,胸椎部,腰椎部では有意差を認めなかった。【考察】Openでは腰椎,胸椎,頸椎と同方向への回旋が上位性に積み重なっていくが,Closeでは脊柱内での回旋を腰椎からの上行性への回旋と,頸椎からの下行性への回旋が相殺することが考えられた。今回の結果からはOpenとCloseでの胸腰椎部,胸椎部,腰椎部での回旋角度は有意差が見られなかった為,頸椎部での逆回旋で相殺していることが示唆された。また上位胸椎部ではOpenに比較してCloseでは減少しており,逆に下位胸椎部ではOpenに比較してCloseでは増加している。今回は自動運動での脊柱回旋動作を行っており,Openに比較してCloseでは脊柱内での回旋に対するStabilityの要素がより必要になり,そのStabilityが確保されることで逆回旋のMobilityが獲得される(Mobility on Stability)。Closeでは頸椎部で逆回旋に対して,胸腰椎でのStabilityが必要になり,下位胸椎部の肋骨に付着している同側内腹斜筋や逆側外腹斜筋や腹横筋などの収縮がより必要であり,結果として下位胸椎部での回旋量が増加したと考えられる。胸椎は肋骨と共に胸郭を形成している。上位胸椎の肋骨に付着している筋肉は頸椎と連結し,下位胸椎の肋骨に付着している筋肉は腰椎や骨盤と連結している。これらの筋が求心性・遠心性・等尺性とコントロールされることで安定した脊柱回旋動作が行わられていると考えられる。脊柱回旋動作の分析において胸椎または胸郭を一方向の動きでは捉えず,逆回旋などねじれの力を発生することでStability高め,他の部位にMobilityを出していることなどにも着目することが重要であると考える。【理学療法学研究としての意義】今回の結果より頭部固定位と非固定での脊柱回旋動作時に,胸椎での上位と下位の動きに変化があることが示唆された。臨床場面における評価・治療の一助となると思われる。
著者
建内 宏重 和田 治 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A2Se2043, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】 脊柱の回旋ストレスは椎間板や椎間関節、その周囲組織に損傷を与える可能性があるため、腰痛の原因の一つとして重視されており、臨床で脊柱回旋可動域の分析はよく行われている。しかし近年、脊柱回旋の可動域よりもむしろ回旋可動域の左右差が腰痛患者では増大していることが報告されている。脊柱回旋の左右差が増大すると、可動性が大きい側での微細な損傷が繰り返され腰痛につながると考えられている。したがって、脊柱回旋左右差と関連する因子を同定することが左右差を軽減するための治療にとって必要である。我々は、静止立位における脊柱回旋変位が動作時の脊柱回旋角度の左右差と関連すると仮説を立て、その仮説を検証するために本研究を行った。【方法】 対象は、下肢・脊柱に疾患を有さない健常成人27名(年齢:23.3 ± 2.9歳、身長:173.1 ± 4.5 cm、体重:63.4 ± 5.6 kg)とした。測定課題は、静止立位保持、立位での体幹回旋動作、歩行動作(腕振り有り、無し)の4課題とした。静止立位は、足角10度、足幅は各対象者の足長として標準化し、両踵を空間座標における横軸に沿って貼付したテープに揃えて接地した。上肢は腹部の前で組ませて、安定した10秒間を3回記録した。体幹回旋動作は、上記の静止立位から足部を浮かさずに左右交互に3回ずつ最大に体幹を回旋する動作を測定した。対象者には、後ろを振り向くように最大に体を回旋してくださいと指示し、測定前に数回練習を行った。歩行動作は、自然な歩行速度での歩行を測定した。腕の振りは体幹の回旋モーメントに影響を与えることが知られているため、腕を腹部の前で組ませた腕振り無しの歩行も測定した。各歩行とも練習後に3回ずつ記録した。 測定には、3次元動作解析装置(VICON社製)を用いた。Plug-in-gaitモデル(VICON社製)のマーカーセットに準じて骨盤と胸郭に反射マーカーを貼付し、骨盤に対する胸郭の相対的な回旋変位を脊柱の回旋と定義した。静止立位では10秒間における脊柱回旋変位の平均値を、体幹回旋動作では、回旋動作時の左右の最大脊柱回旋角度を、歩行動作では1歩行周期における左右の最大脊柱回旋角度を算出し、各課題とも3試行の平均値を分析に用いた。 統計学的分析では、まず、静止立位における脊柱回旋変位方向を分析し(一標本t検定)、各対象者の静止立位での脊柱回旋側と反対側とについて、体幹回旋動作および歩行動作における脊柱回旋角度の左右差を分析した(対応のあるt検定)。加えて、静止立位での脊柱回旋変位と、体幹回旋動作および歩行動作での脊柱回旋角度の左右差との相関関係を分析した(Pearsonの相関係数)。【説明と同意】 倫理委員会の承認を得て、対象者には本研究の主旨を書面及び口頭で説明し、参加への同意を書面で得た。【結果】 静止立位では、平均値としてはわずかだが有意に非利き手側への脊柱回旋を認めた(1.4 ± 1.6°、p < 0.001)。体幹回旋動作での脊柱回旋角度について、静止立位での脊柱回旋側と反対側とでは有意差を認めなかった。歩行動作でも、静止立位での脊柱回旋側と反対側とでは脊柱回旋角度に有意差は認めなかった。しかし、静止立位における脊柱回旋変位と、体幹回旋動作の左右差(左右差の絶対値;4.3 ± 3.0°)および歩行動作時の脊柱回旋角度の左右差(左右差の絶対値:腕振り有り;2.6 ± 2.3°、腕振り無し;2.6 ± 2.0°)との間にはいずれも有意な相関関係を認めた(体幹回旋動作:r = 0.64, p < 0.001、歩行(腕振り有り):r = 0.40, p < 0.05、歩行(腕振り無し):r = 0.49, p < 0.01)。すなわち、静止立位で脊柱が一側に大きく回旋しているほど、動作時の脊柱回旋左右差も同側に大きくなった。【考察】 体幹回旋動作は脊柱回旋の最大可動域を測定しており、静止立位でのわずかな回旋変位が脊柱の最大可動域の左右差と関連していることが示された。さらに、歩行動作での脊柱回旋左右差においても同様の相関関係を認めた。歩行で生じる脊柱回旋は最大可動域以下での回旋であり、静止立位での脊柱回旋変位は、脊柱の最大可動域だけでなく左右の相対的な回旋しやすさとも関連していることが推察される。静止立位での脊柱回旋変位が大きい場合、日常で繰り返される動作時の脊柱回旋左右差が増大している可能性が高いため、静止立位の脊柱回旋変位は腰痛の危険因子の一つとして重要であるかもしれない。【理学療法学研究としての意義】 脊柱回旋角度の左右差について、臨床において動的な場面での測定を行うことは容易ではない。本研究結果により、静止立位時の脊柱回旋変位の測定により、動作時の脊柱回旋左右差の傾向を予測できる可能性が示唆され、臨床における姿勢アライメントの評価にとって有用な研究であると考える。
著者
堀内 秀人 小林 巧 神成 透 松井 直人 角瀬 邦晃 伊藤 崇倫 野陳 佳織
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】人工膝関節全置換術(TKA)は,重度の変形性膝関節症(膝OA)患者に対し疼痛除去と機能改善を目的として施行される。Josephらは,内側膝OA患者が健常者に比べ歩行中における外側広筋(VL)と大腿二頭筋(BF)の高い同時収縮を報告している。また,Thomasらは,TKA後1ヶ月の患者の歩行において,健常者と比較し膝関節周囲筋の高い同時収縮を報告している。昇段動作は歩行よりも膝関節に大きなストレスのかかる動作であり,昇段動作の筋活動動態の知見を得ることは重要と考えられるが,TKA患者における昇段動作の同時収縮については不明である。本研究の目的は,昇段動作時におけるTKA後患者の膝関節周囲筋の同時収縮について検討することである。</p><p></p><p></p><p>【方法】対象は全例女性で,TKA後4週が経過した8名(TKA群:年齢69.5±6.7歳)と健常高齢者8名(高齢群:年齢66.5±4.7歳),健常若年者10名(若年群:22.9±1.6歳)とし,上肢の支持なしで一足一段での階段昇降が可能な者とした。試行動作は,開始肢位を段差20cmの階段の一段目にTKA群は術側,高齢群および若年群は非利き足を上げた肢位とし,音刺激開始後,手すりを使わず出来るだけ早く一段目に両足を揃える動作とした。音刺激は筋電計と同期されているメトロノーム機能を利用した。筋活動の測定には筋電計(Noraxon社製)を使用し,導出筋は,支持側のVL,BFとした。筋活動量の測定は,生波形を全波整流後,50msでスムージング処理を行い,移動平均幅100msでのVLおよびBFの平均筋活動量を測定し,各筋の最大随意収縮(MVC)で除し,%MVCを算出した。同時収縮は,Kellisらの方法に準じ,co-contraction index[CI:CI=VL peak時におけるBFの筋活動量/(VLの筋活動量+BFの筋活動量)]にて算出した。統計学的分析は,TKA群,高齢群,若年群の%MVCおよびCIの比較に一元配置分散分析および多重比較としてBonferroni法を用いた。有意水準は5%とした。</p><p></p><p></p><p>【結果】TKA群,高齢群,若年群の%MVCの比較について,VL,BFともに3群間に有意差は認められなかった。CIの比較について,TKA群(0.31±0.15)は,高齢群(0.18±0.04)および若年群(0.18±0.07)と比較し,有意に高値を示した(p<0.05)。高齢群と若年群には有意差は認められなかった。</p><p></p><p></p><p>【結論】本研究結果から,昇段動作において,TKA患者の術側は健常高齢者および健常若年者と比較しCIが有意に高値を示した。Hallらは,昇段動作においてACL再建患者が健常者に比べVLとBFの同時収縮が高く膝関節の安定性を高めていることを示唆した。TKA患者においても,昇段動作における膝関節の不安定性の代償として,膝周囲筋の同時収縮を高めることで関節の安定性を図っている可能性が示唆された。今後は,昇段動作の動作解析と合わせた筋活動の検討が必要と考える。</p>
著者
児玉 雄二 岡田 真平 木村 貞治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.479, 2003

【はじめに】近年、成長期の中学生におけるスポーツ障害の報告が数多く認められる。我々が相談を受けたY中学校野球部でも、膝関節や足関節周辺のスポーツ障害が数多く認められた。また、ほとんどの選手において柔軟性の低下が認められた。そこで、本研究では、スポーツ障害の予防・改善を目的として柔軟性向上プログラムの指導を実施し、介入前後における柔軟性の変化について検討した。【対象】対象は、Y中学校野球部に所属する1年生13名、2年生3名の計16名で、調査に際しては、本人及び顧問、保護者の同意を得た。【方法】平成14年7月29日に、柔軟性の評価を行った。評価項目は、(1)ハムストリングス:体前屈、(2)腸腰筋:膝窩-床間距離、(3)大腿四頭筋:踵-臀部間距離の3種類とした。次に、これらの筋を中心に全身的な柔軟性向上プログラムを指導した。指導内容は、スタティック・ストレッチとダイナミック・ストレッチ(ブラジル体操)とし、ウォーミング・アップ時とクーリングダウン時に全員で実施するよう指導した。そして、約2ヶ月後の10月3日に柔軟性の再評価を行ない、指導前後での柔軟性の変化をt検定を用いて解析した。また、部員と監督に対し、アンケートによる意識調査を行なった。【結果】柔軟性向上プログラム施行前後での柔軟性の変化については、左右の平均で膝窩-床間距離は6.0cmから4.7cm(p<0.05)へ、体前屈は37.0cmから39.6cm(p<0.05)へ、踵-臀部間距離は10.2cmから9.6cm(p<0.05)へと、すべての項目において有意な改善が認められた。また、アンケート調査では、約7割の部員が、「身体が柔らかくなったと感じる」、「痛みが少なくなった」と回答した。【考察】介入前の評価では、膝関節,足関節周辺の慢性的な疼痛が多く認められるとともに、殆どの選手で柔軟性の低下が認められたことから、中学校野球部でのこれまでの部活動では、野球そのもののトレーニングが中心になっていて、柔軟性などの体力要素に着目した自己管理プログラムの実践が不十分であったと考えられる。また、約2ヶ月という短期間であったが、セルフケアとしての柔軟性向上プログラムの継続的な実施により、有意な柔軟性の改善が認められるとともに、アンケートの結果では、疼痛の軽減が認められた。以上より、今回指導した柔軟性向上プログラムは、柔軟性の向上に効果があるとともに、慢性的な疼痛などのスポーツ障害の軽減にも有効であったため、今後も、コンディショニングやスポーツ障害の予防・改善のための基礎プログラムとして、より多くの学校で実践してもらうよう啓発活動を継続していきたい。
著者
鈴木 裕二 守川 恵助 乾 亮介 芳野 広和 田平 一行
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Da0999, 2012

【はじめに、目的】 起立性低血圧は目眩や失神などの症状を引き起こし、日常生活の大きな妨げになる。この対策として下肢弾性ストッキングが有用とされており、血圧低下を軽減することができる。しかし使用すべき圧迫力に一致した見解は得られていない。今回、3種類のストッキングを使用し、起立時の血行動態の変化について比較、検討を行った。【方法】 対象は健常男性20名(年齢24.9±3.2歳)。足首に対してそれぞれ、弱圧(18-21mmHg)、中圧(23-32mmHg)、強圧(34-46mmHg)の圧迫力が加わる3種類の下肢弾性ストッキングを着用した状態と、着用しない状態(Control)の計4条件でそれぞれ起立負荷を行った。起立負荷は安静座位の後、4分間のスクワット姿勢となり、その後に起立を行う方法で行った。この際、非侵襲的連続血圧測定装置(portapres,FMS社)を使用し、SBP:収縮期血圧、DBP:拡張期血圧、SV:一回拍出量、HR:心拍数、CO:心拍出量、TPR:総末梢血管抵抗を測定し、血行動態指標とした。測定時期は安静座位をRest期、起立直前の10秒間のスクワット状態をSquat期、起立後10秒間をSt10期、11秒~20秒間をSt20期、21秒~30秒間をSt30期とした。また3種類のストッキング着用に対する不快感をVAS(Visual Analogue Scale:0=全く不快感を感じない、10=最大の不快感を感じる)にて評価した。統計方法は、各測定時期における4条件間における各血行動態指標及び、VASに対して反復測定分散分析を行い、多重比較にBonferroni法を用いた。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、協力していただいた施設の倫理委員会の承認を得ると同時に、ヘルシンキ宣言に基づいて被験者に本研究内容を説明し、署名によって同意を得た。【結果】 SBPではSquat期からSt10期にかけて、Control(150.9±15.3→112.5±11.4mmHg)、弱圧(153.0±16.5→119.5±14.8mmHg)、中圧(151.4±15.4→115.7±12.7)、強圧(151.9±16.0→120.2±13.8mmHg)とそれぞれ起立により低下がみられた。Squat期では4条件間に有意差はみられなかったが、St10期ではControlに比べて弱圧(p<0.05)と強圧(p<0.01)が有意に高値を示し、弱圧と強圧との間には有意差がみられなかった。このSt10期において、SVでは強圧(83.1±11.8ml)がControl(72.7±10.1ml)に比べて有意に高値を示し(p<0.01)、COでも強圧(7.9±1.2L/min) がControl(7.2±1.1L/min) に比べて有意に高値を示した(p<0.001)。弱圧はSt10においてControlに比べて、SV、HR、CO、TPRを高値に保つことができたが、有意差はみられなかった。VASでは強圧(3.9±0.5)が弱圧(2.4±0.4)、中圧(2.7±0.5)に比べてストッキング着用の不快感がそれぞれ有意に高値であり(p<0.01)、弱圧と中圧の間では有意差はみられなかった。【考察】 St10期に弱圧と強圧がControlに比べてSBPを有意に高値に保つことができたのは、ストッキングの圧迫により、起立時の下肢への血液貯留を軽減でき、SVが上昇し、COを高値に保てたことが大きな要因と考えられる。しかし、弱圧ではSV、COにおいてControlとの間に有意差がみられなかった。しかし、血圧の決定因子である、CO(SV×HR)、TPRのすべてが有意差はないものの、Controlに比べて高値を示していたことから、これらの因子の相乗効果により、SBPを有意に高値に保つことができたと考えられる。VASでは強圧の不快感が有意に高値であった。Rongらは本研究の弱圧レベルのストッキングの使用が最も快適であると報告している。このことから、強圧の過度の下肢への圧迫が被験者の不快感を増大させたと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 下肢弾性ストッキング着用の不快感は日常生活の着用において大きな問題となる。今回の研究において起立性低血圧の予防に不快感の少ない弱圧のストッキングが十分に効果的であることが示唆された。これは使用者が快適な日常生活を送る上で大きな意義がある。
著者
池添 冬芽 中村 雅俊 佐久間 香 塚越 累 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】筋力トレーニングの方法として,運動速度をゆっくりとするスロートレーニングと運動速度を素早くするパワートレーニングがあるが,どちらの筋力トレーニング法が高齢者の運動機能や筋特性,歩行能力,活動量,精神心理機能の改善に効果的であるかを多面的に検討した報告はみられない。本研究の目的はスロートレーニングとパワートレーニングのどちらが高齢者の機能向上に有効であるかを明らかにすることである。【方法】対象は京都市介護予防事業に参加した地域在住高齢者59名のうち,介入前後の測定会に参加できた51名(男性5名,女性46名,年齢77.9±5.6歳)とし,スロートレーニングを実施するスロー群,パワートレーニングを実施するパワー群,トレーニングを実施しない対照群の3群に分類した。なお,測定に大きな影響を及ぼすほど重度の神経学的・筋骨格系障害や認知障害を有する者は対象から除外した。スロー群およびパワー群には週1回8週間の理学療法士監視型の筋力トレーニングを実施した。また,この監視型トレーニング以外に,家庭での自主トレーニングとして同様の運動プログラムを実施するよう指導した。運動強度は主観的運動強度で「ややきつい」程度とした。筋力トレーニングは6種目(立ち座り動作,立位で股関節屈曲・伸展・外転など)の下肢筋力トレーニングを実施した。スロートレーニングでは求心性・遠心性フェーズともに5秒かけて運動を行った。パワートレーニングでは求心性フェーズはできるだけ速く動かし,遠心性フェーズでは2秒かけて運動を行った。両トレーニングともに反復回数は各種目につき10回とした。運動機能として筋力(膝伸展筋力,握力),バランス(片脚立位保持時間,ファンクショナルリーチ,ラテラルリーチ),柔軟性(長座体前屈),敏捷性(立位ステッピング)を評価した。歩行特性として多機能三軸加速度計を用いて最大努力歩行時の速度,ケーデンス,ストライド長,立脚期時間の左右非対称性,歩行周期変動性を評価した。筋特性として超音波診断装置を用いて大腿四頭筋の筋厚および筋輝度を測定し,それぞれ筋量および筋の質(筋内の非収縮組織の割合)の指標とした。また,Life Space-Assessment(LSA)により生活空間を評価した。歩行量として3軸加速度センサーを用いて1週間分の記録データから1日あたりの平均歩数と歩行時間を求めた。精神心理機能として,Geriatric Depression Scale-15(GDS-15)により抑うつ状態,転倒に対する自己効力感スケール(Fall Efficacy Scale;FES)により転倒恐怖感の程度を評価した。統計学的検定として,各群における介入前後の比較には対応のあるt-検定,各測定項目の群間比較には多重比較検定を用いた。【倫理的配慮,説明と同意】すべての対象者に研究に関する十分な説明を行い,書面にて同意を得た。なお,本研究は本学医の倫理委員会の承認を得て行った(承認番号E-1581)。【結果】3群の年齢,身長,体重に有意差はみられなかった。週1回の監視型トレーニング以外に自主トレーニングをスロー群では2.7±1.9日/週,パワー群では3.4±1.4日/週行っており,この実施率に2群で有意差はみられなかった。運動機能の変化について,膝伸展筋力は対照群では変化がみられなかったが,スロー群とパワー群では介入後に有意な増加がみられ,両群の筋力増加率に有意差はみられなかった。膝伸展筋力以外の運動機能はいずれの群も変化がみられなかった。また,スロー群,パワー群ともに筋厚の有意な増加および筋輝度の有意な減少がみられ,筋厚および筋輝度の変化率に両群で有意差はみられなかった。歩行特性はスロー群の立脚期左右非対称性と歩行周期変動性のみ有意に減少した。生活空間や歩行量,抑うつ状態や転倒恐怖感は3群いずれも変化がみられなかった。【考察】スロー群,パワー群ともに介入後に膝伸展筋力や筋厚,筋輝度の改善がみられ,両群の改善率に有意差はみられなかった。このことから,スロートレーニングとパワートレーニングは筋力や筋量,筋の質の改善に有効であり,その効果は同程度であることが示唆された。それに加えてスロー群においては歩行周期変動性や左右非対称性の改善がみられたことから,歩行特性の改善にはスロートレーニングが有効であることが示唆された。しかし,両トレーニングともに筋力以外の運動機能や生活空間,歩行量,精神心理機能に及ぼす効果は不十分であることが示された。【理学療法学研究としての意義】スロートレーニングとパワートレーニングはともに筋力や筋量,筋の質の改善に有効であり,加えてスロートレーニングは歩行特性の改善にも有効であることが示唆された。
著者
宇賀 大祐 遠藤 康裕 中澤 理恵 坂本 雅昭
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Cb1157, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 野球選手では,over useや運動連鎖の破綻,投球フォームの影響等により,肩関節や肘関節に障害が多く見られる.それらの原因追求や障害予防を目的とした数多くの研究がなされてきた.しかし,それらの分析は投手に着目しているものが多く,すべてのポジションの選手に当てはまるとは言い難い.特に,捕手は非常にポジション特性が高いにも関わらず,捕手に着目した研究は少ない.そこで今回,捕手の送球動作において肩関節と体幹に着目した動作分析をすることで,その特徴を明らかにすることを目的とした.【方法】 投球障害を有さない野球経験者14名(年齢20.9±2.0歳,身長170.8±5.7cm,体重65.4±11.2kg,野球経験9.6±2.8年)を対象とした.さらに捕手経験2年以上の捕手経験群7名(捕手経験3.7±1.4年)と,捕手経験なしの捕手非経験群7名に群分けした.セットポジションからの通常投球動作(以下,set条件)と,しゃがみ込んだ姿勢からの捕手送球動作(以下,catcher条件)の2条件の試技を行わせた.投球および送球距離は,本塁から2塁(約39m)とし,各条件3回ずつ撮影した.3回の投球および送球の中で,ボールリリース(以下,BR)後のボール初速度が最も速い1回を代表値として解析した.投球および送球動作は,2台の高速度カメラ(SportsCamTM,FASTEC IMAGING社製)をサンプリング周期250Hz,シャッタースピード1250Hzで同期させ撮影した.反射マーカは両肩峰,両上前腸骨棘,右肘頭,両足先端に貼付した.撮影した動画を,画像解析処理ソフトImageJにてマーカの2次元座標を読み取り,Direct Linear Transformation 法を用いてマーカの3次元座標を算出した.各部位の3次元座標から「ボール初速度」「TOP時肩水平外転角度」「BR時肩水平内転角度」「体幹回旋角度」「推進運動率」を求めた.なお,TOPとは肘を最も後方に引いた肢位(肩最大水平外転時)と定義した.統計処理はSPSS statistics 17.0を用い,各条件での群間比較は対応のないt検定,各群内での条件間比較は対応のあるt検定を用い,有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には研究の主旨を十分に説明した上で同意を得た.【結果】 「TOP時肩水平外転角度」は,捕手経験群では条件間での有意差はなかったが,捕手非経験群はset条件38.3±11.0°,catcher条件26.0±9.0°と有意差を認めた(p<0.05).また,肩水平外転角度は両条件とも群間での有意差はなかった.「体幹回旋角度」は,捕手非経験群でset条件55.3±9.0°,catcher条件44.9±10.3°と有意差を認めた(p<0.05).また,catcher条件での群間比較は,捕手経験群が63.6±16.4°であり有意に高値を示した(p<0.05).set条件においても有意差はないものの,捕手経験群が高値を示す傾向にあった.「ボール初速度」,「BR時肩水平内転角度」,「推進運動率」には群間,条件間いずれも有意差を認めなかった.【考察】 投球動作は,投球方向かつ,踏み出した足への重心移動や,股関節を中心とした骨盤回旋,体幹回旋,上肢の動きと運動連鎖が正確かつスムーズに行われることで,必要十分なエネルギーをボールに効率良く伝えることが出来る.また,投球動作における体幹の役割は,身体重心の移動や下肢筋力によって発生したエネルギーを,円滑に上肢に伝えることであり,体幹の機能不全により運動連鎖が破綻し,上肢への負担が大きくなる.今回の結果では,捕手経験群は,条件の違いによる変化は認められなかったのに対し,捕手非経験群はcatcher条件においてTOP時肩水平外転角度および体幹回旋角度が減少した.catcher条件では,set条件よりも素早い動作が求められるため,捕手非経験群は動作時間の短縮がTOP時肩水平外転角度および体幹回旋角度の減少に影響している可能性がある.それに対し,捕手経験群は,素早い動作が求められても角度に変化はなく,捕手非経験群よりも両条件で体幹回旋角度が高値を示した.本研究からは,この体幹回旋角度の変化が運動連鎖にどのような影響を及ぼすのかということまで言及することはできないが,捕手送球動作の特性といえるかもしれない.このことから,捕手経験年数により,障害が発生しやすい部位が異なるのではないかと考える.臨床において,今回着目した捕手に限らず,ポジションの聴取だけでなく,経験年数も考慮する必要性がある.今後は,捕手経験年数や練習量と障害の関係性について追求していく必要がある.【理学療法学研究としての意義】 これまで投球障害に関する研究としては投手が中心に行われてきた.しかし,投手以外の選手には,送球の正確さに加え,動作の素早さが求められる.そのため,ポジションの特異性やそのポジションの経験年数を考慮した評価・介入を行うことの重要性が示されたと考える.
著者
松岡 雅一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【目的】大阪府理学療法士会(以下,府士会とする),保健福祉局,保健福祉相談部における大阪府民を対象とした相談業務は,昨年度までホームページを通して,メールを用いた方法のみで行っていた。しかし,相談件数は少なく,保健福祉相談部として重要である相談業務の在り方を検討するべきであると考えられた。そこで,府民からの相談件数を増やすことを目的として,今年度から以下に示すような活動を開始したので報告する。【活動報告】府士会,保健福祉相談部における相談業務とは大阪府民から理学療法や理学療法が関連する医療,保健,福祉,介護,健康増進(予防),養成校などについて相談を受け,相談者が問題や悩みを解決する上で有益な情報提供や助言を行うこととしている。今年度から新たに開始した活動は,以下の2つである。1つは,府士会,ブロック局の各ブロックが開催する市民公開講座の会場での相談業務と,もう1つは,「合同イベント」と称して,他の2局と合同して開催した理学療法(士)啓発イベントの会場での相談業務であった。全ての会場において,机と椅子を用いて,随時2・3名の相談に対応できるように相談ブースを設置し,相談業務を実施した。前者の市民公開講座は9つから成るブロックがそれぞれ1・2回開催し,1年間で計11回開催する。ブロック局に協力を依頼し,全ての会に参加し,公開講座参加者を対象に相談業務を実施する。後者は大型ショッピングモール内のスペース兼通路を会場として開催し,モール内を通行する人を対象に相談業務を実施した。相談件数は1回の会において,4・5名(1割から2割)であった。【考察】これまでの相談業務は受動的であったが,今回の活動は相談者へ働きかけることができ,能動的であったと考えられ,結果的に相談件数が増えた。しかし,相談件数は少なく,開催場所は見直しが必要である。【結論】相談業務の改善を図り,相談件数は増やすことができた。
著者
岩崎 仁美 幸田 利敬 武中 美佳子 松本 尚子 山根 学 矢本 富三 助川 明 武富 由雄 高田 哲
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.G2Se2067, 2010

【目的】医療専門家の教育は、1965年に提唱されたBloomらの3分野、認知領域・精神運動領域・情意領域に基づいており、理学療法士養成は概ね知識と技術、専門的態度の3つから構成されている。近年、医療界全体で医療従事者の対人スキル・コミュニケーション、専門家としての態度をいかに養うかが大きな課題となり、その到達目標も定められてきている。一方、目標達成のためには、個々の学生が指導者側の指導をどのように受け止めるかも重要で、受け止め方の傾向を熟知し、学生の特性に応じた指導を行うことが大切である。そこで我々は、理学療法実習を終了した学生を対象に絵画連想法であるP‐Fスタディを実施し、実習における態度評価との関連を検討した。<BR><BR>【方法】平成20年度に実習を全て終了し、卒業が見込まれた学生のうち協力が得られた69名、男性50名(20~47歳、平均28.9歳)、女性19名(20~49歳、平均27.6歳)を対象とした。心理テストはP-Fスタディを用い、自分が起こした事象に対する他者からの指摘と、他者が起こした事象によって生じるフラストレーションに対する反応を採点し、評点因子毎に標準得点を算出した。実習態度評価については、「指導者の助言を受け入れることができる」という項目に着目した。実習評価者による差を排除するため複数の実習における平均値を個人の得点とし、その中央値よりも高い24名を上位群、低い15名を下位群とした。P‐Fスタディより得られた各評点因子を、実習評価の上位群・下位群間で比較し、Mann-WhitneyのU検定(p≦0.05)を用いて分析した。<BR><BR>【説明と同意】本研究が単位取得に関わらないことを示すため、実施は単位認定後とし、今後の臨床実習指導に役立てる旨を伝え、同意の得られた学生にのみ実施した。尚、得られた情報は、個人の特定が不可能な状態で研究に使用し、解析後は破棄した。<BR><BR>【結果】(1)上位群では、「問題解決を図るために他の人が何らかの行動をしてくれることを強く期待する反応」が下位群より有意に高かった。(2)同様に、上位群においては、「自責・自己非難の気持ちの強さに関係する反応」が下位群より高い値をとった。(3)「一般の常識的な方法で適応できるかをみるための指標」についても上位群が下位群より高得点であった。(4)他の指標に関しては両群間に有意差を認めなかった。<BR><BR>【考察】上位群では適度な自己反省心を持ち、問題解決に向けて自分から援助・助力を求めることができるが、下位群では自己反省心にやや乏しい傾向があり、適切に必要な助力を求めることができず、問題解決のための積極的姿勢が乏しいのではないかと示唆された。原因を自分に求め、自分の努力によって問題を解決しようという反応や、規則や習慣に従って解決を待つという忍耐強さに関わる反応においては両群間で有意差がないことからも、単に反省して従順であることではなく、困難な場面では助力を求める積極的な姿勢が指導者に評価されていた。一方、自己反省心が強すぎる場合には、自分自身を過度に攻撃する可能性、また他者への期待が高すぎる場合には、依存心の強さと捉えられる場合もあるため、評価にあたっては個別に判断する必要があると思われた。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】今後は、実習前後での変化や、実習中に問題が生じる学生についても検討し、学生の特性に応じた指導に繋げていきたい。
著者
遠藤 恭生 田中 悠也 早川 庫輔 鷲澤 秀俊
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Cb1154, 2012

【目的】 当院において,10代におけるスポーツ障害患者の約4割は小学生である.その中でも,野球におけるスポーツ障害受診率は小学生全体の約3割と高く,その多くは野球肩,野球肘の診断を受けているのが現状である.一般的に野球肩・野球肘の発生頻度は投手と捕手に多いと言われている.今回われわれは,当院近隣にある少年野球チームに対し,メディカルチェック(以下MC)を実施した.少年野球選手をピッチャーまたはキャッチャー群とその他ポジション群の2群に分け比較検討し,ポジション別の身体特性を知ることを目的とした.【方法】 対象は,軟式少年野球3チーム58名の各選手に対し,事前アンケートとして学年・身長・体重・既往歴・現病歴・睡眠時間・食事内容・ポジション・投球側・打撃側・野球歴・その他のスポーツ歴を記入してもらい,MC当日は,理学療法評価として立位アライメントのほか,圧痛は肩関節・肘関節・膝関節・踵部に行い,関節可動域(以下ROM)の測定として,肩関節・前腕・手関節・股関節・膝関節・体幹に対し,投球側および非投球側の両側に実施した.スクリーニングテストにおいては,握力,母趾・小趾筋力,片脚バランス,立位四股テスト,しゃがみ込みテスト,体幹機能テスト,ブリッジテストを実施した.事前アンケートでポジションの記載があった51名のうち,ピッチャーまたはキャッチャーの選手19名をPC群,その他ポジションの選手32名(内野手15名、外野手17名)をO群の2群に分類し比較した.統計処理として,対応のないt検定またはMann-WhitneyのU検定を用い,有意水準を5%未満とした.【説明と同意】 対象者および保護者・チーム関係者には,十分な説明を行い,同意の上で測定を行った.【結果】 ROMにおいて,投球側肩関節HFTではPC群109.2±12.0度,O群118.9±15.0度であり,投球側前腕回外ではPC群95.3±7.4度,O群100.8±10.5度,投球側股関節外旋ではPC群48.4±8.3度,O群55.8±10.7度といずれもPC群がO群より有意に低値を示した(p<0.05).スクリーニングテストにおいては,投球側握力ではPC群20.0±5.8kg,O群15.8±6.2kgとPC群がO群より有意に高値を示した(p<0.05).体幹機能テストではPC群がO群より有意に高い傾向を示し,投球側軸足の片脚バランスにおいても,PC群がO群より片脚バランス時の動揺が有意に少ない傾向を示した(p<0.01).また他の項目に関しては、有意差は認められなかった.【考察】 少年野球選手において,野球肩・野球肘の発生頻度は投手と捕手に多いと言われている.今回,われわれのMCの結果から,ピッチャーまたはキャッチャー選手の身体特性として,ROMにおいて,いずれも投球側肩関節HFT・前腕回外・股関節外旋が有意に低値を示した.スクリーニングテストでは,握力が有意に高値を示したほか,体幹機能テストでは有意に点数が高く,投球側軸足の片脚バランスにおいても有意に動揺が少ない傾向を示した.これは,ピッチャーまたはキャッチャーというポジションが,チームの柱になるポジションであるため,筋力・スキルが高い選手に任させることが多いためと思われる.しかし,投球側上下肢のROM制限を認めることから,身体的負担が大きく,これらが野球肩・野球肘の発生に関与する一要因になるのではないかと考える.今後は,MCを定期的に継続し,障害発生の予防に努め,選手のみならず保護者や監督・コーチへのセルフケアの指導や全力投球数の制限などの啓蒙をしていく必要がある.【理学療法学研究としての意義】 ピッチャーまたはキャッチャー選手と,その他ポジション選手におけるポジション別の身体特性を知ることで,野球肩・野球肘の障害発生予防の1つの要因になることが示唆された.
著者
吉田 昌平 守田 武志 舌 正史 沼倉 たまき 小出 裕美子 中尾 聡志 足立 哲司 原 邦夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.474, 2003

【目的】今回我々は体重の1%(1%BW)、2.5%(2.5%BW)、5%(5%BW)、7.5%(7.5%BW)、10%(10%BW)の5種類の負荷を用いて全力ペダリングを実施し、それぞれの負荷によって得られるパワー発揮特性をピークパワー(PP)、体重あたりのPP(PP/BW)、ピーク回転数(P-rpm)と最大無酸素パワー(MAnP)から評価し、実際の30mスプリントパフォーマンスとの関係について検討した。【方法】某大学サッカー部、男子14名(年齢19歳、身長172cm、体重68kg)を対象とし、自転車エルゴメーター(パワーマックスVII)を用いて、1、2.5、5、7.5、10%BWの5種類の負荷で各1回10秒間の全力ペダリングを実施した。それぞれの負荷で得られたPP、PP/BW、 P-rpmを二次回帰し、負荷-PP 、PP/BW、 P-rpm曲線を算出した。30mスプリントテストは3回の試技を手動により計測しその平均時間を求めた。【結果】1)PPは負荷との間にY=-3.689+ 230.247*X-13.146*X^2(r=.99)の関係が認められた。PP/BWは負荷との間にY=-.267 +3.612*X-229*X^2(r=.99)の関係が認められた。rpmは負荷との間にY=227.96- 10.405*X-.311*X^2(r=.95)の関係が認められた。負荷-PP 曲線から算出したMAnPは988wattで、体重あたりのMAnP(MAnP/BW)は14.4 watt/BWであった。MAnPが得られた時のrpm(MAnP-rpm)は120 rpmで、負荷は12.4%BWであった。2)3回試技における30mスプリントテストの平均時間は4.15±0.13秒であった。30mスプリントパフォーマンスと各負荷のPP、PP/BW、P-rpmの相関係数は1%BWでそれぞれr=-.21、r=-.41、r=-.59(ns、ns、p=.026)、2.5%BWでそれぞれr=-.21、r=-.48、r=-.61(ns、ns、 p=.020)、5%BWでそれぞれr=-.28、r=-.68、r=-.70(ns、p =.010、p=.006)、7.5%BWでそれぞれr=-.29、r=-.55、r=-.57(ns、p =.041、p=.034)、10%BWでそれぞれr=-.31、r=-.42、r=-.42(ns)、MAnP 、MAnP/BW、MAnP-rpmでそれぞれr=_-_.21、r=-.22、r=-.42(ns)であった。多変量解析で30mスプリントパフォーマンスと有意に相関したのは5%BW でのP-rpmのみであった(p<.01)。【考察】PPおよびPP/BWは、負荷-PP、PP/BW曲線からMAnPが得られた負荷12.4%BWを上限として負荷が大きくなればなる程高い値を示した。P-rpmは、負荷-P-rpm曲線から負荷が小さくなればなる程高い値を示した。このようなパワー発揮特性とスプリントパフォーマンスとの関係について検討すると、パワーは負荷が大きい程高い値が得られるが、スプリントパフォーマンスとの関係はむしろ弱くなった。逆に負荷を小さくして高回転を得た方がスプリントパフォーマンスとの関係は強くなった。すなわち、スプリントパフォーマンスは踏力よりもむしろ回転速度に依存したパワー発揮特性と関係が強く、ペダル回転数が実際の走動作であるピッチ数と関係していると推察した。
著者
渡部 幸喜 赤松 満 坪井 一世 高橋 敏明 渡部 昌平 山本 晴康 一色 房幸 浦屋 淳
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.A1078, 2005

【はじめに】<BR> 我々の日常生活においてサンダルやスリッパは身近に使用されている履物のひとつである。しかし、転倒の危険性も高く、全転倒例のうち26%がサンダル使用時という報告もある。これまで靴を装着しての足底圧を含めた歩行分析や動作解析の検討は多くなされているが、サンダル履きでの検討は少ない。そこで今回我々は、サンダル使用時と靴使用時および素足での歩行足底圧を計測し、若干の知見を得たので報告する。<BR>【対象と方法】<BR> 対象は下肢に痛みや変形が見られない健常男性10名(年齢21歳~47歳、平均31歳)で靴使用時、サンダル使用時、および素足での歩行足底圧を計測した。歩行は速い、普通、遅いの3段階に分けて行い、測定にはニッタ社製F-scanシステムを用い1秒間に20コマで計測し、得られたデータから、足底圧分布、最大圧、重心の軌跡等について比較検討した。<BR>【結果】<BR> 重心の軌跡の分析では、サンダル履きの場合、いずれの歩行速度においても踵接地の位置、つま先離れの位置がそれぞれ後方・前方へ移動する傾向がみられた。それに伴い靴使用時に比し有意に前後方向への重心の移動距離が大きかった。側方への重心移動距離も遅い速度で有意に大きかった。また靴使用時との違いは遅い速度においてより著明であった。最大荷重圧については素足・靴とサンダル使用との間には有意な差は見られなかった。<BR>【考察】<BR> 近年、足底圧の評価として簡便で再現性の高いF-scanが開発され、下肢の評価によく使用されている。そこで我々は靴とサンダルでの歩行時の足底圧の動的な検討を行った。足関節・足趾周辺に麻痺があるとサンダルがよく脱げるというのは臨床でも経験する通り、遊脚期にサンダルが脱げないようにするための筋活動が歩行の不安定に関与していると思われるが、立脚期においてもサンダルは靴に比べ重心の移動が大きく、不安定であることが示唆された。サンダルは足への圧迫感が少なく、靴に比べて通気性が良く、白癬などの感染も少ないことから好まれることが多い。しかし、サンダル使用による転倒の危険性は高く、またひとたび転倒すると靴使用時に比べ骨折の率も高くなるという報告もありこの所見を支持したものと考えられる。