著者
河津 弘二 古閑 博明 岡本 和喜子 槌田 義美 松岡 達司 本田 ゆかり 大田 幸治 久野 美湖 吉川 桂代 山下 理恵 山鹿 眞紀夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.E0188, 2005

【はじめに】熊本県菊池地域リハビリテーション支援センター(以下支援センター)では、市町村の介護予防事業を積極的に支援してきた。支援内容は、転倒予防・関節痛予防に対する講話と運動指導、体力評価、そして介護予防の指導等である。今回、元気・虚弱高齢者(介護保険非該当)を対象に、身体面で介護予防を目的とした、統一的な運動プログラム「長寿きくちゃん体操」を開発したので報告する。<BR>【背景】支援センターでは、市町村等の介護予防事業従事者(以下従事者)に介護予防の指導を行い、それを従事者が地域住民に直接指導できるように取り組んできた。しかし、運動面に関しては統一化したプログラムがない為、従事者が地域住民に具体的な対応をするのは困難であった。また、支援センターからの地域住民に対する直接指導も単発的となり、運動を継続して実施できず、市町村全体としての介護予防に繋がりにくいのが現状であった。そこで、日常に安全で効果的な運動を継続できるように、統一化した運動プログラムを開発した。そして従事者や高齢者団体が研修を受ける事で、菊池圏域全体の介護予防に繋げるように企画した。<BR>【内容】「長寿きくちゃん体操」は、老人クラブと医療、保健、福祉との連携で開発した。運動を学習しやすいようにビデオと冊子を作成し、ビデオは説明編と実技編の2種類とした。そして簡単に自宅でできるように1枚のパンフレットも作成した。体操の継続した実施を考えた場合、時間の配慮は必要であった。その為、実技編では上映時間約25分で、運動は準備体操5種類→筋力・バランストレーニング8種類→整理体操2種類とした。具体的内容は、姿勢、バランス、筋力、柔軟性に重点を置き、臨床でアプローチしている運動学的な要素を取り入れている。また筋力・バランストレーニングはマット編と椅子・立位編の2種類に分けてバリエーションを広げている。ビデオでの負荷量としては、準備・整理体操でストレッチを10秒間×2回の7種類とし、筋力・バランストレーニングにおいては、各運動3秒間×3回を8種類で1セットとしている。<BR>【展開】今回「長寿きくちゃん体操」の開発により、菊池圏域での介護予防事業の中にこの運動プログラムが取り入れられ、課題であった従事者から地域住民への安全な運動指導が可能となっている。そして、老人クラブには、活動の一環として体操に取り組む団体もでてきている。「健康日本21」施策で介護予防が重点的に進められており、今後は集団での取り組みは勿論、個別的な元気・虚弱高齢者の運動のきっかけ作りから習慣化、また自己管理ができるように「長寿きくちゃん体操」を活用していく予定である。また、主観的な効果は得ているが、客観的な効果を検証する為、現在継続している評価に加え、第三者の協力による効果判定も実施中である。
著者
万行 里佳
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1569, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】内臓脂肪型肥満は,メタボリックシンドロームなどの発症リスクを高める要因となる。肥満を改善する方法として,運動や食事などの生活習慣の是正が有効であるが,自覚症状がほとんどないため,生活習慣改善のための行動の開始や継続が容易ではない。そこで,本研究は,腹部肥満者を対象として行動変容技法を用いた介入を実施し,生活習慣改善による肥満等への効果を検討した。【方法】対象者は,30歳以上,腹囲が男性85cm,女性90cm以上でメタボリックシンドロームではない者とした。参加者は9名(男性8名,女性1名,平均年齢42.6±9.4歳)である。研究期間は48週間とし,はじめの12週間は「強化介入」を実施,13-24週の12週間は,特に何も実施せず「経過観察」を行った。25-48週の24週間は「フォローアップ介入(以下,FU介入)」を実施した。介入内容は,はじめに「知識提供」として,生活習慣改善の目的や方法,効果に関する小冊子を配布した。次いで,1.生活習慣調査の結果を提示し,運動習慣や食事習慣の改善に関する目標行動を1-2項目設定させた。目標内容は実行できる自信が95%以上ある「自己効力感の高い」内容となるよう指導した。目標は4週間毎に見直しを行った。3.自己記録表に目標の達成度,体重,歩数,腹囲,コメントを毎日(腹囲のみ週1回)記載し,電子メールにて提出させた。4.研究者は自己記録表の内容をもとに行動への「賞賛」や各自の「行動パターンの長所や問題点への対処方法」について参加者自身に思考させることを意図した助言を返信した。自己記録表の提出と研究者からの返信の頻度は,強化介入期間は毎週,フォローアップ介入期間の前半は,2週間に1回,後半は4週間に1回とした。測定は開始時と12週間毎に計5回行った。測定項目は,国際標準化身体活動質問票より総身体活動量,食物摂取頻度調査より総エネルギー摂取量を算出した。血中脂質として総コレステロール,高比重リポタンパクコレステロール,中性脂肪を測定した。また,身体計測として腹囲および身長,体重よりBody Mass Index(以下,BMI)を算出した。統計処理は,5回の各測定値の変化についFriedman検定を行い,有意差のある場合は多重比較を行った。統計学的有意水準は危険率5%未満とした。【結果】平均腹囲は,開始時97.2±13.3cmよりFU介入終了時93.0±10.8cmと減少したが,有意な差はなかった。平均BMIは,開始時29.0±6.6kg/m2より,強化介入終了後28.0±6.1kg/m2となり,開始時に比べて強化介入終了後と経過観察終了後,有意に減少した(p<.05)。平均総コレステロール値は,開始時200.8±22.1mg/dLより強化介入終了後,191.7±21.8mg/dLと減少したが,強化介入終了後と比べて,経過観察終了後,FU介入終了後に増加した(p<.05)。高比重リポタンパクコレステロール,中性脂肪,総身体活動量,総エネルギー摂取量の値に変化はなかった。【考察】行動変容技法のうち,動機づけ面接(Miller WR & Rollnick S)では,目標とする行動に対する「重要性と自信」を高めることが行動を開始させ,継続するために重要であるとされている。本研究は,重要性を高めるために開始時に知識提供を行った。また,生活習慣改善のための目標行動の内容は,研究者が指定せずに,参加者の個々の自己効力感の高い目標内容を設定することを強調し,行動実施への自信を高めた。さらに,行動の継続と強化を目的として,自己記録表の返信において,問題への対処方法を検討させることや,行動への賞賛を行った。その結果,BMIや腹囲が減少し,肥満の改善効果がみられた。自覚症状が乏しい者への指導では,知識提供に加えて,行動実施への自信を高める介入が有用であることが示唆された。今後は,参加者数の増加やランダム化比較試験による検証が必要であると考える。【理学療法学研究としての意義】生活習慣病患者の増加に伴い,自覚症状が乏しい患者への効果的な運動指導の必要性が高まっており,発症予防分野への理学療法士の貢献においても意義のある知見であると考える。
著者
吉村 修 中島 新助 村田 伸
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.G3P2557, 2009

【目的】身だしなみは人の印象を決定する重要な要素である.特に臨床の場では人間関係を良好にする基本的なマナーとして必要とされる.今回、当院の患者及び職員に対し、臨床現場における理学療法士(以下PT)及び実習生(以下PTS)の身だしなみについてのアンケート調査を行ったので報告する.【方法】理学療法施行中の患者36名(男性15名、女性21名、平均年齢59.0歳)、看護スタッフ(看護師・看護助手)141名(男性14名、女性127名、平均年齢34.7歳)、PT・作業療法士・言語聴覚士のリハビリテーションスタッフ(以下リハスタッフ)31名(男性12名、女性19名、平均年齢27.4歳)を対象として、PT及びPTSの身だしなみに関する質問紙調査を無記名方式で行った.対象者に対しては事前に説明をして同意を得た.アンケートの内容は、男女の茶髪、男女の指輪、男女のピアス、男女の香水、女性の化粧、女性のマニキュア、伸びた爪、男性の長髪、無精ひげ、カラーの靴下、白衣の下にカラーのシャツを着ることの15項目からなり、質問は全て「~していてもかまわない.」の文章構成とし、回答は「そう思う」「そう思わない」の2件法で選択してもらった.回答の「そう思う」「そう思わない」をそれぞれ1点、0点と得点化(満点15点)し、合計点を尺度得点としたが、点数が高いほど身だしなみに寛容であることを表す.統計処理には二元配置分散分析を用いて検討し、その後、Scheffeの多重比較検定を行った.なお、統計解析には StatView 5.0 を用い、統計的有意水準を5%とした.【結果】PTに対しての身だしなみ尺度得点の平均±標準偏差は、患者8.0±3.6、リハスタッフ6.7±2.3、看護スタッフ4.6±2.7であった.PTSに対しての身だしなみ尺度得点の平均±標準偏差は、患者7.3±3.7、リハスタッフ3.9±3.0、看護スタッフ3.8±2.9であった.PTの身だしなみに関しては、患者とリハスタッフは、看護スタッフより有意に高い得点をつけていた(p<0.05).PTSに関しては、患者は、看護スタッフとリハスタッフより有意に高い得点をつけていた(p<0.01).【考察】患者は、PT及びPTSに対して寛容な見方をしており、看護スタッフは、両者に対して厳しい見方をしていた.このことから、患者と看護スタッフは、両者を区別せずに、同様な見方をしていると思われた.リハスタッフは、PTに対しては寛容な見方をしているが、PTSに対しては厳しい見方をしていた.このことから、リハスタッフは、PTには、ある程度身だしなみが乱れても良いのではないかと考えているが、PTSには、身だしなみを整える必要があると考えており、PTとPTSを区別した見方をしていると思われた.身だしなみに関して患者、看護スタッフ、リハスタッフの意識の差を認識することが、良好な人間関係の形成に役立てると考える.また、年齢や性別の影響が考えられるので、今後は対象数を増やしそれらの要因を調整した分析が必要と考える.
著者
本多 輝行 渋谷 正直 青山 敏之 高木 己地歩 川崎 皓太
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0796, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】胸腰椎圧迫骨折(圧迫骨折)後,疼痛やバランス能力,歩行能力の低下によりADLが低下するケースは多い。また,急性期病院での入院期間延長により,廃用症候群や認知機能の低下をきたし,回復期病院へ入院するケースも多く認める。しかしながら圧迫骨折患者の歩行予後について急性期での報告はあるものの回復期病院退院時の報告は少ない。また圧迫骨折受傷前の歩行能力が考慮されていない報告が多いという問題点がある。よって本研究では圧迫骨折患者の回復期病院入院時の身体能力や認知機能などの因子が,回復期リハビリテーション実施後の歩行予後に与える影響について,受傷前の歩行能力を基準として調査することを目的とした。【方法】対象は回復期病院である当院に入院した圧迫骨折患者54名(81.5±8.2歳)とした。対象者の群分けはFIMの歩行能力を利用し,受傷前の歩行能力と比較して低下した群19名(低下群)と,変化なしまたは向上した群35名(維持向上群)に群分けした。調査項目は性別,年齢,急性期入院期間,回復期入院時の認知機能と疼痛,バランス能力,受傷前・回復期入院時の歩行能力,ADLとした。認知機能はHDS-R,疼痛はNRS,バランス能力はFBS,ADLと歩行能力はFIMを用いてカルテより後方視的に調査した。統計学的解析については,性別はカイ二乗検定,FIMはMann-WhitneyのU検定,年齢・急性期入院期間は対応のないt検定を用い,有意水準はp<0.05とした。また認知機能,疼痛,バランス能力,歩行能力,ADLを測定時期(入院時・退院時)と群(低下群・維持向上群)を要因とした二元配置分散分析を用いて統計学的解析を行った。【結果】認知症等の影響により疼痛の数値化が困難な2名(低下群1名,維持向上群1名),傾眠や不穏等の理由によりHDS-Rの検査を実施できなかった7名(低下群6名,維持向上群1名)は欠損値として解析対象から除外した。統計学的解析の結果,性別,年齢,急性期入院期間,受傷前歩行能力には有意差はなかった。HDS-R,FBS,FIMは交互作用がなく時期の主効果が有意であり,入院時と比較して退院時に有意に高かった。同様に群の主効果も有意であり,維持向上群が高かった。NRSについては交互作用と単純主効果の結果より,両群ともに入院時と比較して退院時に改善が得られたが,その改善度は低下群で有意に低かった。【考察】本研究により圧迫骨折受傷前の歩行能力に有意差は認めなかった。しかし回復期入院時のバランス能力や歩行能力などの身体機能は低下群で有意に低く,圧迫骨折受傷を契機に両群の身体機能に差が生じたと考える。また回復期入院時の疼痛は両群に有意差を認めないため,自覚的な疼痛の程度が身体活動の制限に結びついた可能性は低い。このことから,リハビリテーション開始時期や臥床時間など急性期病院における何らかの対応の差が,両群の回復期入院時の身体機能の差に結びついた可能性がある。また回復期入院時に見られた,両群の身体機能の差は退院時まで持続しており,急性期においていかに身体機能を維持向上させるかが,回復期退院時の歩行予後に重要であると考える。疼痛は両群ともに有意に改善したが,低下群でその改善の程度が低かった。すなわち回復期入院時の疼痛の程度ではなく,その改善度が回復期退院時の歩行予後に重要な因子となる可能性があるということである。低下群において疼痛の改善度が低かった理由は本研究からは不明だが,疼痛の遷延化に結びつく骨折部位へのストレスへ配慮して急性期・回復期でのリハビリテーションを行うことが歩行予後の面からも重要であるといえる。一方,NRSによる疼痛評価は主観的な要素を含んでいる。そのため向上群の高い身体機能の獲得,あるいはADLの拡大で得られた自己効力感が疼痛の自覚的な評価の改善に結びついている可能性も否定出来ない。これらを考慮し,回復期病院である程度の疼痛が残存していても,疼痛の改善に固執しすぎず,身体機能やADLの改善に着目した介入もバランス良く取り入れる必要があると考える。今後の課題として,両群における回復期入院時の身体機能の差異や低下群における低い疼痛の改善度について,急性期病院での対応の差や自己効力感の観点から更なる調査を進める必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】理学療法において,受傷前の歩行能力を獲得することは主要な目標の一つとなる。本研究は,圧迫骨折患者が回復期病院退院時に受傷前の歩行能力を獲得できるかどうかに関わる因子に関して検証したものであり,入院時の予後予測に基づき適切な理学療法を提供する上で有用な知見となると考える。
著者
百瀬 公人 三和 真人 赤塚 清矢 伊橋 光二
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.A0067, 2007

【目的】正常歩行中の遊脚相における膝関節屈曲は、積極的なハムストリングスの筋活動によるものではないと言われている。正常歩行中には遊脚相の後半でハムストリングスの筋活動が認められるが前半には見られない。遊脚相の膝関節屈曲は、下肢全体が伸展している時に大腿部の屈曲が生じることにより下腿が二重振り子状態となりその結果屈曲すると報告されている。片麻痺患者ではハムストリングスの単独収縮が困難なことや大腿四頭筋の筋緊張の亢進もあり、歩行中の膝関節屈曲は困難である。しかし、片麻痺患者でも二重振り子の作用を用いれば積極的なハムストリングスの筋収縮を必要とせず、大腿四頭筋の筋緊張の調整を学習することで、遊脚相の膝屈曲が可能となることが示唆される。正常歩行中にはハムストリングスの筋活動が遊脚相前半では見られないが、歩行速度が遅くなると二重振り子の働きが弱くなり、下腿を筋力で保持しなければならないと思われる。二重振り子の作用が有効に働く歩行速度以上であれば、片麻痺患者でもハムストリングスの筋収縮を必要とせず下腿を屈曲することができ、遊脚時のクリアランスは十分にあることになると思われる。そこで今回の研究の目的は、健常者において歩行速度を変化させ、遊脚相のハムストリングスの筋収縮状態から二重振り子を利用し始める歩行速度を明らかにすることである。<BR>【方法】被験者は健常な男性7名で、平均年齢20.0±0.5歳、平均身長170.7±2.7、平均体重642.4±6.2kgであった。歩行の計測には3次元動作解析装置と床反力計、表面電極による動作筋電図を用いた。3次元動作解析で得られたデータはコンピュータにて解析し、関節角度などを算出した。筋電図は内側広筋、大腿二頭筋長頭等より導出しバンドパス処理後、全波正流し、最大収縮時の積分値をもとに歩行時の筋活動を積分値の百分率として求めた。歩行はメトロノームにてケイデンスを規定し、ゆっくりとした歩行から速い歩行までを計測した。<BR>【結果】ハムストリングスの筋活動はゆっくりとした歩行から速い歩行まで計測された全ての歩行で筋活動が見られ、筋活動がほとんど無い二重振り子の作用が明らかとなる歩行速度は求めることができなかった。<BR>【考察】いわゆる正常歩行ではハムストリングスは遊脚相の後半で筋活動が認められる。今回の結果では、ハムストリングスの筋活動は歩行速度に影響を受けなかった。歩行速度をケイデンスで規定しようとしたため、メトロノームに合わせることが歩行時のハムストリングスの筋活動に影響したと考えられる。今後は歩行速度を厳格に規定しない方法での研究が必要であると思われた。<BR>【まとめ】歩行速度がハムストリングスの筋活動に与える効果について、3次元動作解析と筋電図を用いて解析した。ケイデンスを規定するとハムストリングスの活動は速度による影響をあまり受けなかった。
著者
都志 翔太 土山 裕之 前田 朋彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100630, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】「脳卒中治療ガイドライン2009」では早期から装具を利用して歩行練習を行うことを推奨グレードAとして位置づけている。理学療法診療ガイドライン第1版(2011)の脳卒中理学療法診療ガイドラインにおいても、早期理学療法、早期歩行練習、装具療法は推奨グレードAとされている。しかし、装具作成時期とADL能力の変化との関連を調べた報告は少ない。今回、当院入院中に下肢装具を作成した症例において装具作成時期とADL能力の変化、入院期間、歩行自立までの期間との関連を調べたので報告する。【方法】対象は2011年4月から2012年3月の期間で当院に入院し下肢装具を作成した45例(男性28例、女性17例、年齢69.6±12.0歳)とする。調査項目として、発症からの入院期間、回復期退院時FIMから回復期入棟時FIMを引いたものをFIM利得、FIM利得を回復期入院日数で除したものをFIM効率とし、カルテより後方視的にデータを抽出し算出した。なお統計方法については、45例のうち発症から2か月以内に装具を処方された群(before2M群)と発症から2か月以上経過して処方された群(after2M群)の2群に分類し、各項目間で比較検討を行った。また下肢装具作成し歩行自立に至った19例(男性11例、女性8例、年齢68.5±8.5歳)も同様に2群に分類し、歩行自立までの期間を比較検討した。統計手法として、対応のないt検定を行い有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言の精神に則り実施し、臨床研究に関する倫理指針を遵守した。倫理面の配慮として、個人を特定できる情報は削除し、情報の分析に使用されるコンピューターも含めデータの取り扱いには十分に注意を払った。【結果】疾患の内訳は脳梗塞21例、脳出血18例、くも膜下出血4例、その他2例、装具の内訳はKAFO27例、両側支柱付AFO10例、Gait Solution3例、APS-AFO2例、プラスチックAFO2例、CEPA1例であった。before2M群は20例で、発症から装具作成まで39.8±14.1日、発症からの入院期間は172.2±39.8日、FIM利得は33.7±20.1点、FIM効率は0.23±0.15、after2M群は25例で、発症から装具作成まで93.7±28.1日、発症からの入院期間は219.6±81.0日、FIM利得は23.2±13.5点、FIM効率は0.14±0.08であった。この2群での統計解析の結果、before2M群で発症からの入院期間が有意に短く、FIM利得、FIM効率において有意に高かった。また装具処方され歩行自立に至ったbefore2M群は11例で歩行自立までの期間は93.2±32.6日、after2M群は8例であり歩行自立までの期間は139.4±51.1日であった。2群間での歩行自立までの期間においてbefore2M群で有意に短かった。【考察】今回の調査により、装具作成はより早期に行ったほうが、入院期間の短縮や歩行自立までの期間短縮、ADL能力の改善につながる有効な結果が得られた。損傷を受けた脳の再組織化が期待できる時期は発症から1か月以内であり、発症後からの時間依存性であることが報告されている(熊崎,2007)。また運動には認知機能低下を予防・改善する効果があり(堀田,2009)、今回の結果は装具を使用した早期歩行練習の効果を反映したものと思われる。早期装具療法が重要といわれているが、当院において2か月以降に装具を作成する症例も多いのが現状である。発症から2か月という期間は急性期から回復期への移行期間であり、身体機能面でも麻痺の回復がみられてくる時期である。今回調査はしていないが、装具作成が遅れる原因として、セラピストの経験不足、症例の経済的理由、急性期から回復期への連携不足、病院間で装具業者が異なる、急性期での意識障害の残存や合併症による離床の遅れなどが考えられる。今後はより早期に装具作成が行えるように装具作成に向けた作成基準を統一することが必要であり、装具完成までの期間を短縮していくことが課題である。【理学療法学研究としての意義】下肢装具が必要な症例に対しては、早期から装具作成を実施したほうが入院期間の短縮やADL向上が図れることが示唆され、より早期に装具を作成できるシステム作りが必要と思われる。
著者
新井 武志 大渕 修一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.EbPI1428, 2011

【目的】<BR> 平成18年4月に介護保険制度が予防重視型システムへ転換が図られ,老年症候群を有するような高齢者,すなわち要支援・要介護状態へ陥るリスクの高い高齢者に対して,運動器の機能向上プログラムなどが実施されることとなった。筋力増強運動については,超高齢あるいは虚弱な高齢者であっても筋力や身体機能が向上することが明らかにされており,様々な介護予防プログラムの中でも,高齢者の虚弱化予防対策の有力な手段であると考えられている。一方,老年症候群の1つとされる低栄養状態は,筋量や筋力の低下などに関係していることが指摘され,特に後期高齢者ではその割合が増加する。介護予防対象者の中には老年症候群を複合的に抱える者も多く,運動器の機能向上プログラムの参加者であっても低栄養状態が認められる者が存在する。しかし,低栄養状態が虚弱高齢者に対する運動介入の効果に影響するのかという知見は得られていない。本研究では、介護予防の運動器の機能向上プログラムに参加した高齢者の運動介入前の低栄養指標(BMIやアルブミン値)が、運動介入による身体機能の改善効果と関係しているのか検討することを目的とした。<BR>【方法】<BR> 対象は東京都A区で実施された運動器の機能向上プログラムに参加した地域在住高齢者44名(平均年齢73.9歳)であった。この対象者は,生活機能評価によって運動器の機能向上の参加が望ましいと判断された特定高齢者であった。対象者はマシンを使用した高負荷筋力トレーニングにバランストレーニング等を加えた運動プログラムを週2回,約3ヶ月間行った。運動介入には理学療法士,看護師などが関与し,個別評価に基づいた運動処方を実施した。身体機能の評価は,運動器の機能向上マニュアルに準じて,5m最大歩行時間,握力,開眼・閉眼片足立ち時間,ファンクショナル・リーチ(以下FR),長座体前屈,Timed Up & Go (以下TUG),膝伸展筋力を測定した。事前事後で有意な改善の認められた身体機能の変化量を算出し,対象者の事前のBMIおよび血清アルブミン値の低栄養指標との関係を年齢と性別を調整した偏相関係数にて検討した。解析にはSPSS17.0を使用し有意水準は危険率5%未満とした。<BR>【説明と同意】<BR> 本研究は,所属機関の倫理審査委員会の承認を得て実施された。参加者に対し,本研究の概要・目的を説明し,学術的利用を目的とした評価データの使用について全員から書面にて同意の意思を確認した。<BR>【結果】<BR> プログラム途中の脱落が3名,事後の身体機能評価の欠席者が4名おり(いずれもプログラムに起因しない理由),37名が解析の対象となった。5m最大歩行時間,FR,TUG,膝伸展筋力(以上P< .01)および長座位体前屈(P< .05)が有意に改善した。運動介入の前後で有意に改善した身体機能評価項目の変化量と,介入前のBMIおよび血清アルブミン値との偏相関関係は,いずれの項目も有意な相関関係を認めなかった。<BR>【考察】<BR> 本研究の結果では,低栄養状態を表す指標と運動介入効果との間には相関関係が認められなかった。つまり,栄養指標が低値の対象であっても,運動介入による身体機能の改善効果が期待できることが示唆された。今回用いた運動プログラムには栄養士などの栄養管理の専門職は置かなかったが,低栄養の傾向がある高齢者であっても,適切な運動介入プログラムを用いて対応すれば身体機能の向上が期待できることを示唆するものであるといえる。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 筋力増強運動は,運動療法において重要な位置を占めている。介護予防の運動器の機能向上プログラム参加者の中には低栄養状態の者も散見され,低栄養状態が運動介入の効果に対して負の影響を与えることも考えられた。しかし,今回の運動介入では,そのような結果にはならなかった。理学療法士は評価に基づいて対象者個々の状態を把握し,適切な運動介入を行うことができる専門職である。理学療法士が関与したことによって今回の結果がもたらされた可能性も考えられ,今後介護予防において,理学療法士が運動器の機能向上に積極的に関わり成果を上げることが期待される。<BR>
著者
白石 和也 平林 弦大 高島 恵
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100293, 2013

【はじめに、目的】 日本理学療法士協会倫理規定基本精神第5項に「理学療法士は後進の育成に努力しなければならない」とある。これは、臨床現場における後進の育成に加えて学生に対する実習指導においても同様であると言える。しかしながら、多忙な臨床業務の中、実習指導に関する十分な教育や自己の指導に関して内省する機会は少なく、日々悩みながら実習指導にあたっている理学療法士が多いのではないだろうか。そこで本研究では、実習指導者の指導に対する評価として指導者による自己評価ならびに学生による評価をアンケート調査にて実施し、指導者と学生間における評価の相違を把握すること、また質の高い実習指導の一つの指標として学生満足度と他項目との関連を検討することで、実習指導者に特に必要となる教育スキルを明らかにすることを目的とした。【方法】 本校理学療法学科2年生(36名)ならびにその実習指導者(36名)を対象とし、6週間の臨床実習終了後にアンケート調査を実施した。アンケート内容は小林らが実施している実習指導者の指導に対する評価を参考(一部改変)に実施し、項目は1)実習要綱2)教育目標3)スケジュール4)指導体制5)態度・資質面6)知識・思考面7)技術面8)熱意9)理解10)雰囲気11)臨床実践12)専門性と論理性13)模範的14)知的好奇心15)チェック16)難易度17)満足度の17項目とした。それぞれの項目を5段階尺度にて、5を「優れている」、4を「よい」、3を「普通」、2を「やや劣る」、1を「よくない」とし点数化した。アンケート調査結果から各調査項目における指導者による自己評価と学生による評価の2群比較を実施した。また、学生による評価において学生満足度と他項目との相関を求め、相関があった項目に関して、学生満足度の高い群(4・5:21名)と低い群(3・2・1:15名)に分け、2群比較を実施した。統計処理はSPSSver16.0にて、Mann-WhitneyのU検定ならびにSpearmanの順位相関係数を用い有意水準はp<0.05未満とした。 【倫理的配慮、説明と同意】 学内承認のもと、対象者には本研究の目的、方法、プライバシー保護等について説明を行い、本研究への参加については本人の自由意思による同意を書面にて得た。 【結果】 アンケート回収率は学生100%、実習指導者75%であった。指導者による自己評価と学生による評価の各調査項目の比較に関しては、指導体制、知識・思考面、技術面、臨床実践、専門性と論理性、模範的、知的好奇心、満足度の項目において学生による評価が有意に高かった。学生による評価における学生満足度と他項目の相関に関しては、指導体制、態度・資質面、知識・思考面、技術面、熱意、臨床実践、模範的、知的好奇心、チェック、難易度の項目と有意な正の相関があり(r=0.415~0.735)、なかでも技術面の項目に関してはかなり強い相関があった。相関のあった項目における学生満足度の高い群と低い群の2群比較に関しては、全ての項目において学生満足度の高い群の評価が有意に高かった。【考察】 指導者による自己評価と学生による評価の各調査項目の比較においては、指導者と学生という立場や自己評価と他者評価の違いから、学生による評価が全般的に高くなったと考えられる。 学生満足度と他項目との相関ならびに学生満足度の高い群と低い群における各項目の評価の比較においては、質の高い実習指導の一つの指標として学生満足度を向上させる指導には、有意差のあった10項目の教育スキルが必要であり、なかでも技術面の教育スキルが特に必要であること、加えて指導者によって教育スキルに差があることが示唆された。技術面の教育スキルが学生満足度とかなり強い相関があったのは、学内教育では十分に学ぶことのできない、個々の対象者に応じて展開される臨床での理学療法技術の指導が満足度に繋がったと考えられる。これらの結果を学校から指導者にフィードバックすることや指導者が評価表を活用し継続して自己評価を実施することで、自己の指導に関して内省することができ、より教育スキルを向上させることができると考えられる。また、個々の指導者による教育スキルの差を埋めるために、実習施設と学校が協力して指導者育成の体制を構築していくことが必要であり、加えて実習要綱、学生評価表等の見直しや効果的な実習指導者会議、実習地訪問実施の為の検討が必要であると考えられた。【理学療法学研究としての意義】 実習指導における質の高い教育を検討することは、今後理学療法士として臨床にでる学生の質を高めることに繋がり、結果的に理学療法の対象者に還元できるものと考えられる。また、実習指導者としての教育スキルを高めることは、各施設における効果的な後進の育成にも繋がると考えられるとともに、教育スキルの向上が臨床力の向上に繋がることも期待できる。
著者
壇 順司 高濱 照 国中 優治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0972, 2008 (Released:2008-05-13)

【はじめに】足底が床面に接地した足関節の背屈動作では,下腿を内外側方向へ傾斜することができる.これは一方向にしか可動できない距腿関節だけでは困難であるが,距骨下関節(以下,ST)の回内外が連動することで可能にしている.踵骨に対する下腿(距骨を含む)の動きは,下腿を前内側に傾斜した場合STは回内(下腿は内旋内転)し,前外側に傾斜した場合STは回外(下腿は外旋外転)する.しかしST回内外の切り替わりの境界について不明であるため,水平面上での下腿の傾斜方向の違いとSTの回内外の関係について遺体を用いて検証したので報告する.【対象】熊本大学医学部形態構築学分野の遺体で右8肢を用い,関節包と靱帯のみの下腿標本を作製した. 【方法】脛骨前縁と中足骨が一致するように,下腿を第1~第5中足骨まで順に最大背屈位になるまで傾斜させた.水平面において底背屈中間位と各傾斜方向での脛骨下関節面前縁と前額面とのなす角を測定し,背屈に伴う下腿の回旋角を調べた.さらに矢状面外側方より踵骨溝外側および踵骨後距骨関節面と距骨外側突起の位置関係について観察した.【結果】中間位は9.6±2.05°であり,各中足骨への下腿の傾斜では,第1中足骨は0°,第2中足骨は12.5±1.8°,第3中足骨は19±4.24°,第4中足骨は28.4±3.39°,第5中足骨は35±4.04°であった.多重比較検定(scheff`s F test)の結果,中間位と第2中足骨間では有意差は認められなかったが,それ以外はすべて有意差が認められた(P<0.01).矢状面外側方からの観察では,第1中足骨方向では,踵骨溝外側に距骨外側突起がはまり込んでいた.第2~5中足骨方向では距骨外側突起は踵骨後距骨関節面を後上方に移動した.第2から5中足骨方向になるに連れてその移動の距離は長くなった.【考察】距腿関節は,一方向しか動かないので前額面上での下腿の内外側への傾斜は,STで行われ足関節は2重関節で動く機構を呈している.STには踵骨と距骨を強力に連結する骨間距踵靱帯があり,踵骨中距骨関節面と後距骨関節面の間で関節のほぼ中央付近にあることから,この靱帯は動きの支点となることが推察できる.また後距骨関節面は約40°前方傾斜しているため,水平面での回旋,前額面での内外転の動きを誘導すると考えられる.よってSTより上方の質量が,第1中足骨方向では支点より内側に移動するため後距骨関節面が内旋内転を誘導し,第3~5中足骨方向では支点より外側に移動するため後距骨関節面が外旋外転を誘導したと推察できる.第2中足骨方向では下腿の運動方向と支点の位置がほぼ一致したため,回旋しなかったと考えられる.すなわち,下腿の傾斜が第1中足骨方向ではST回内(下腿内旋内転)し,第3~5中足骨方向ではST回外(下腿外旋外転)して,第2中足骨方向が回内外(内外旋)の切り替わりの境界となることが示唆された.
著者
島田 裕之 牧迫 飛雄馬 土井 剛彦 吉田 大輔 堤本 広大 阿南 祐也 上村 一貴 伊藤 忠 朴 眩泰 李 相侖 鈴木 隆雄
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101181, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor: BDNF)は、標的細胞表面上にある特異的受容体TrkBに結合し、神経細胞の発生、成長、修復に作用し、学習や記憶において重要な働きをする神経系の液性蛋白質である。BDNFの発現量はうつ病やアルツハイマー病患者において減少し、運動により増加することが明らかとなっている。血清BDNFは主に脳におけるBDNF発現を反映していると考えられているが、その役割や意義は明らかとされていない。この役割を明らかにすることで、理学療法における運動療法が脳機能を向上させる機序をBDNFから説明することが可能となる。本研究では、高齢者を対象に血清BDNFを測定し、その加齢変化や認知機能との関連を検討し、血清BDNFが果たす役割を検討した。【方法】分析に用いたデータは、国立長寿医療研究センターが2011 年8 月〜2012 年2 月に実施した高齢者健康増進のための大府研究(OSHPE)によるものである。全対象者は5,104 名であり、BDNFの測定が可能であった対象者は5,021 名であった。アルツハイマー病、うつ病、パーキンソン病、脳卒中の既往歴を有する者、要介護認定を受けていた者、基本的日常生活動作が自立していない者を除外した65 歳以上の地域在住高齢者4,539 名(平均年齢71.9 ± 5.4 歳、女性2,313 名、男性2,226名)を分析対象とした。血清BDNFは−80 度にて冷凍保存後ELISA法により2 回測定し、平均値を代表値とした。認知機能検査はNCGG-FATを用いて実施した。記憶検査として単語の遅延再生と物語の遅延再認、遂行機能として改訂版trail making test B(TMT)とsymbol digit substitution task(SDST)を測定した。分析は、5 歳階級毎に対象者を分割し年代間のBDNFの差を一元配置分散分析および多重比較検定にて比較した。BDNFと認知機能検査の関連を検討するため、認知機能低下の有無で対象者を分類し、t検定にてBDNFを比較した。認知機能の低下は、年代別平均値から1.5 標準偏差を除した値をカットポイントとした。また、認知機能に影響する年齢、性別、教育年数を含んだ多重ロジスティック回帰分析を実施した。従属変数は認知機能低下の有無とし、独立変数は年齢、性別、教育年数、BDNFとした。BDNFはピコ単位での微量測定値であったため4 分位でカテゴリ化して分析を実施した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は国立長寿医療研究センターの倫理・利益相反委員会の承認を得た上で、ヘルシンキ宣言を遵守して実施した。対象者には本研究の主旨・目的を説明し、書面にて同意を得た。【結果】年齢階級別のBDNF(平均 ± 標準誤差)は、65 〜69 歳が21.8 ± 0.1 ng / ml、70 〜74 歳が20.9 ± 0.1 ng / ml、75 〜79 歳が20.5 ± 0.2 ng / ml、80 歳以上が19.6 ± 0.3 ng / mlとなり、加齢とともに有意な低下を認めた(F = 24.8, p < 0.01)。多重比較検定の結果、70 〜74 歳と75 〜79 歳間以外の比較では、すべて有意差を認めた。認知機能低下の有無によるBDNFの比較では、単語再生、TMT、SDST(すべてp < 0.01)において有意に認知機能低下者のBDNFが低値を示した。多重ロジスティック回帰分析では、BDNFはSDSTと有意なトレンドを認め(p < 0.01)、Q(4 24,400 pg / ml)に対してQ(1 17,400 pg / ml)のSDST低下に対するオッズ比は1.6(95%信頼区間: 1.2-2.2, p < 0.01)であった。その他の項目に有意差は認められなかった。【考察】PhillipsらはBDNFmRNAがアルツハイマー病患者の海馬において減少していることを明らかとし、BDNFの減少が病態成立に対して何らかの役割を持つと報告した。運動の実施は海馬におけるBDNFやTrkB受容体の発現量を上昇させることが明らかにされている。また、Eriksonらは1 年間の有酸素運動が海馬の容量を増加させ、その変化量と血中BDNFは正の相関をすることを明らかにした。しかし、血中BDNFの研究は少なく、加齢変化や認知機能との関連性は十分明らかとされていなかった。本研究の結果から、血清BDNFは加齢とともに低下を示し、各種認知機能低下との関連を認めた。とくにSDSTとは、年齢、性別、教育年数と独立して関連を認めたため、記憶以外の機能に関してBDNFが何らかの役割を持つのかもしれない。今後は介入前後のBDNFの変化と各種認知機能の変化との関連を検討する必要がある。【理学療法学研究としての意義】今後の日本の後期高齢者数の増大は、認知症者の増大を引き起こし、その根治的治療法がない現時点において、運動による予防対策は重要である。理学療法士は、その対策の中核的存在になるべきであり、運動と脳機能改善に関連する知見を集積することは理学療法にとって重要な役割を持つといえる。
著者
高木 綾一 畠 淳吾 鈴木 俊明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0752, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】一般的に人事考課の成績は,処遇に反映し,動機付け,人材育成を図ることを目的に活用される。しかし,セラピストの人事考課に関する報告は少なく,組織マネジメントへの活用には至っていない。そこで当院の平成22年から平成25年までの人事考課成績を分析し,人事考課成績に影響する要因を検討したので報告する。【方法】対象は,平成22年から平成25年までの間に人事考課を受けたセラピスト504人(平均経験年数2.8±1.9年,男性322名,女性182名)であった。考課者は被考課者の上司2名が行った。人事考課は1.職能2.成績3.情意のそれぞれ構成する下記に記載する項目に対して5段階評価(1点から5点)にて加点し,全項目の合計点により総合評価を定めるものである。1.職能は法人が定めたセラピストの業務や臨床に必要な能力の基準を定めたものである。2.成績は,目標達成,改善行動,計画的行動の項目より構成される。3.情意面は努力,挨拶,言葉遣い,身だしなみ,コスト意識,期限厳守,感情コントロール,コミュニケーション,部署方針順守,責任感,研修会参加,自己啓発,人間関係,他者支援の項目より構成される。初めに全項目合計点の上位より20%(上位群:101名),60%(中位群:303名),20%(下位群:101名)の3群に分類した。次に各群間における1.職能2.成績3.情意の項目を分散分析,多重比較を用いて比較した。また,対象者全員の職能を従属変数,業績,情意の17項目を独立変数とし,ピアソンの相関係数(r)を算出した。なお,統計処理ソフトにはエクセル統計2012を用いた。【説明と同意】対象者に本研究の目的及び方法を説明し,同意を得た。【結果】3群間において職能(上位:4.0±0.1中位:3.0±0.2下位:2.1±0.5),成績(上位:3.4±0.4中位:2.9±0.4下位2.5±0.5),情意(上位:3.4±0.5中位3.0±0.4下位2.7±0.5)となり,すべての項目において3群間に有意に差が認められた(p<0.01)。また,成績,情意の17項目と職能の間におけるピアソンの相関係数(r)は以下の結果となった。目標達成(r=0.48),改善行動(r=0.51),計画的行動(r=0.49)努力(r=0.54),挨拶(r=0.28),言葉遣い(r=0.28),身だしなみ(r=0.14),コスト意識(r=0.41),期限厳守(r=0.36),感情コントロール(r=0.39),コミュニケーション(r=0.61),部署方針順守(r=0.46),責任感(r=0.5),研修会参加(r=0.07),自己啓発(r0.19),人間関係(r=0.47),他人支援(r=0.44)となった。すなわち,職能との間に中程度以上の相関がみられたのは成績の3項目すべて,情意面の努力,コスト意識,コミュニケーション,部署方針順守,責任感,人間関係,他者支援であった(r=0.41~0.61)。なかでも,情意面のコミュニケーションはもっとも強い相関(r=0.61)が見られた。【考察】職能,成績,情意において職能の能力開発が最重要と言われている。しかし,実際の現場では職能だけなく,成績や情意の高低が人事考課成績に大きく影響を与えている印象がある。また,現場では職能だけでなく,目標達成や同僚や組織に対する態度などの指導も行っている。そこで本研究では成績上位,中位,下位群の職能,成績,情意の比較と対象者の各項目の相関関係を算出し,効果的な介入を検討した。結果より,上位,中位,下位において職能,成績,情意のすべてにおいて有意差が認められた。つまり上位成績を得るためには職能,成績,情意面の全ての能力開発が重要であると考えられた。また,職能と成績の項目である目標達成,改善行動,計画的行動には中等度の相関があった。成績の項目は仕事の結果水準を評するものであることから,仕事の結果を求める目的志向への介入が重要と考えられた。職能と情意の項目である努力,コスト意識,コミュニケーション,部署方針順守,責任感,人間関係,他者支援には中等度以上の相関があった。コスト意識や部署方針順守は経営的関与であり,努力,コミュニケーション,責任感,人間関係,他者支援は責任性と協調性を示すものである。つまり,職能の能力開発において情意面からの相乗効果を出すためには経営的関与並びに責任性と協調性への介入が重要と考えられた。【理学療法学研究としての意義】セラピストの人材育成は組織マネジメントにおける重要な経営課題の一つである。本研究は人材育成において職能だけでなく成績,情意の介入の必要性を示唆するものである。
著者
吉田 浩通 松浦 哲也
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C3P2397, 2009 (Released:2009-04-25)

【はじめに】徳島県下における少年野球検診事業の歴史は古く、約30年の実績がある.開始当初は医師の参加によるもので行われていた.平成13年度より検診事業に理学療法士も参加するようになり、現在に至っている.今回、検診システムを紹介するとともに平成19年度における結果を報告する.また検診事業を通し、成長期障害予防における今後の理学療法士の課題について検討した.【対象と方法】検診は、徳島県下全ての小学生野球チームが出場した大会時に行った.検診システムは、大会前のアンケート調査、現場での一次検診、病院での二次検診の3段階で行った.アンケートでは、野球経験年数、練習頻度、ポジション、疼痛既往の有無、野球継続の意志等について解答してもらった.疼痛既往のあった選手、投手、捕手を一次検診者とし、一次検診では各関節可動域、圧痛、ストレス痛についてチェックした.一次検診結果をチーム単位で集計し、有所見者および投手、捕手には協力医療機関での二次検診(X線検査を中心とした画像診断)にて診断を確定し、必要であれば医師、理学療法士による評価、治療を開始した.【結果】平成19年度の大会参加チームは154チームで現場の一次検診を受診したのは139チームであり、受診率は90.3%であった.一次検診を受診した1812名のうち、二次検診が必要と判断されたのは1126名で、このうち二次検診に応じたのは291名であり、二次検診受診率は25.8%であった.二次検診の結果、X線異常を認めたのは77.7%(226名)で、異常部位は計265部位であった.内訳は肘75.9%、肩9.1%、踵7.5%、膝4.5%、その他3.0%であった.【考察】一次検診受診率は90.3%と高いが、二次検診受診率は25.8%と低い.二次検診の結果、画像診断等で77.7%の異常を認めたことからも、現場での一次検診の有用性が認められる.異常の内訳は、肘関節が圧倒的に多く、肩、踵、膝の順であった.野球の競技特性による結果と考えられるが、同時に全身に障害が発生するということも示唆される.また、長年の検診データの結果から、障害発生率は減少傾向にない.我々理学療法士に今後求められることは、検診技術を向上させ定期的なチェックを継続して行い、成長期障害を早期発見すること、障害予防の観点にたち、指導者や保護者、選手に対し日常練習時のプログラムの提案や、スポーツ動作の分析と動作指導等を行い、フィードバックを行う機会を設けることが重要になってくると考える.
著者
細木 一成 丸山 仁司 福山 勝彦 鈴木 学 脇 雅子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AbPI2012, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】体幹筋の筋緊張軽減や、リラクゼーション効果を得る手段として乗馬療法やフィットネス機器のジョーバなどの先行研究が発表されている。第45回日本理学療法学術大会において立位、座位バランス能力が低下した方にロッキングチェアの自動振幅運動で同様の効果が得られるのではと考え、体幹後面筋の筋緊張が有意に低下することを発表した。今回、体能力低下や、認知症などによりロッキングチェアによる自動的振幅運動の遂行が困難な方を対象に他動的に振幅運動を行ない、自動振幅運動と同様に効果の有無を検討した。効果判定の手段として、他動的振幅運動前後のFFD(finger-floor distance)の変化を測定し、若干の知見を得たので報告する。【方法】被験者は都内理学療法士養成校に在学する腰部に整形外科的既往疾患のない成人男女10名(男性4名、女性6名、平均年齢21.2±0.8歳)とした。5分間の安静座位を取らせた後、床上を-とし0.5cm刻みでFFDの測定を行なった。次に被験者をロッキングチェア(風間家具のヨーロッパタイプ)上に安楽と思われる姿勢で着座させた。下肢を脱力し床に足底を接地した状態で、人為的に3分間前後に揺らすことを指示した。振幅させる周期は各被験者がロッキングチェアに着座した状態で起こる固有の振動数と同期させた。振幅の大きさは後方には足底を設置した状態が保て、前方にはバランスを崩し体幹後面筋に筋収縮が起こる防御姿勢を取らない範囲とし、3分間被検者が安楽に感じるように配慮した。ロッキングチェアでの運動後、施行前の方法でFFDの測定を行なった。運動前後のFFDおよび前方移動能力の値についてウィルコクソンの符号順位和検定を用いて比較検討した。有意水準は5%未満とした。なお統計処理には統計解析ソフトエクセル統計2008 for Windowsを使用した。【説明と同意】被験者に対し目的・方法を十分説明し理解、同意を得られた者のみ実施した。実施中に体調不良となった場合は速やかに中止すること、途中で被験者自身が撤回、中断する権利があり、その後になんら不利益を生じず、また個人情報は厳重に管理することを事前に伝えた。【結果】FFDは振幅運動前で平均-8.5cm±11.1cm、振幅運動後で平均-1.6cm±8.7cmと振幅運動後に有意に増加した(p<0.01)。【考察】FFDが有意に増加したのは、ロッキングチェアによる他動的振幅運動で、体幹後面筋に対する筋緊張の変化が得られたと考えられる。佐々木らによれば体幹の筋緊張、体幹回旋筋力といった体幹部分の機能異常や能力低下が、片麻痺患者の寝返り、起き上がりなどの動作を困難にすると述べ、柏木らによればFFDの増加を伴う体幹の柔軟性の改善は、高齢慢性有疾患者の活動性向上や、意欲向上が認められると述べている。これらより高齢慢性有疾患者の寝返り、起き上がりなどの基本動作能力、意欲の向上を考えると理学療法士が個別に行なう理学療法以外に、高齢慢性有疾患者自身もしくは家族が自主的に行なう運動が必要となってくる。このような運動は継続することが重要で、簡便さが必要になり負担が大きければ継続が困難となる。これらのことを考慮し簡便で安価に導入できるロッキングチェアの他動的振幅運動は、体幹筋の機能異常が原因で、寝返り、起き上がりなどの基本動作能力、意欲の低下している高齢慢性有疾患者に対して有効で、好影響を及ぼすものと推測する。【理学療法学研究としての意義】ロッキングチェアを使用した他動的振幅運動はFFDの増加を伴う後部体幹筋の柔軟性の改善に効果があり、高齢慢性有疾患者が自主的に行なう運動に対し有効であると考える。
著者
山口 寿 高橋 精一郎 甲斐 悟
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P2140, 2009

【目的】運動としての歩行は安全性や利便性から運動処方に多く利用されている.歩行は屋内や屋外など様々な環境で行われることが多い.歩行に関する呼吸循環反応の研究は多く行われているが,屋内外での歩行環境の違いによる変化やその相違を検討した研究は少ない.今回,屋内および屋外平地歩行においての呼吸循環反応の変化や相違を比較分析することで,今後の運動処方,指導に資することを目的とした.<BR>【方法】対象者は研究内容を説明し,本研究参加に同意を得た健常男性14名(平均年齢21.9±3.8歳)とした.測定は平地歩行の可能な屋内と,屋外では市街地および運動公園の3つの条件とし,屋内は1周60mのトラックを作成し周回させた.屋外は平地歩行の可能な市街地とウォーキングコースのある運動公園とした.歩行様式は自由歩行,歩行速度は時速6kmとし中等度の運動強度に設定した.測定項目は心拍数,酸素摂取量,代謝当量(以下METs)ならびに自覚的運動強度(以下RPE)とし,測定機器は呼吸代謝測定装置VO2000(Medical Graphics社製)を用いた.心拍数と酸素摂取量は安静時と運動開始から20分間を測定し,運動終了時にRPEを聴取した.統計学的処理にはDr.SPSS IIfor Windowsを用いた.各条件の心拍数,酸素摂取量,METsの実測値と変化率の比較には一元配置分散分析を行った.RPEの比較にはボンフェローニの不等式による多重比較を行った.有意水準は5%未満とした. <BR>【結果】3つの条件における生理的反応である心拍数,酸素摂取量, METsは,実測値の経時的変化と安静時を基準値とした変化率のいずれにも統計学的な有意差は認められなかった.主観的反応ついては各条件でのRPEは屋内,市街地,運動公園の順に有意に高かった.<BR>【考察】同一速度,歩行様式の運動負荷で,気温もほぼ同じであれば,運動処方において屋内と屋外で運動処方を変更せずに用いても,生理的反応に影響は少ないことが示唆された.主観的反応であるRPEに相違がみられたのは,屋内と屋外の環境の違いが関与したと推測される.運動公園では他の2条件の環境に比較し,生理的反応と主観的反応との一致が高く屋内では差がみられた.運動公園には樹木や植物も多く,他の環境に比較し心理的にリラックスできる環境であり,それに比べ屋内は周回コースで,景観の変化もなく繰り返しであったことが,主観的に負荷を強く感じたと推測される.RPEを用いての運動処方では屋内外の環境が,対象者に与える影響を考慮する必要性が示唆される.今回の研究はRPEに関連してくる心理的因子についての詳細な解明には至っていない.また対象者は健常成人であり,呼吸循環反応は年代や性別などに影響を受けやすいものであるため,これらについての詳細研究が今後の課題と考える.
著者
万治 淳史 松田 雅弘 網本 和 和田 義明 平島 冨美子 稲葉 彰 福田 麻璃菜
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0312, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】脳卒中後の運動麻痺の治療として経頭蓋直流電気刺激(Transcranial Direct Current Stimulation:tDCS)の有効性について報告がされている。中枢性運動障害のパーキンソン症候群でも一次運動野を刺激することによる上肢の運動緩慢の改善(Fregni et al, 2006他)や,tDCSによる皮質脊髄性の興奮性の向上(Siebner et al, 2004),パーキンソン病(Parkinson disease:PD)のジストニアに対する有効性(Wu et al, 2008)などの報告が見られる。しかし,本邦ではPDに対するtDCSによる治療効果の報告はまだ少ない。今回,起立・歩行動作障害を呈するPD患者に対し,tDCSを実施し,動作の改善が見られた症例について,報告する。平成26年日本理学療法士協会研究助成の一部を利用して実施した。【方法】対象はPDの患者2名,症例Aは75歳,女性,Hoehn & Yahrの分類4で日常的に起立・歩行は困難で介助を要し,すくみ足も顕著であった。症例Bは71歳,女性,Hoehn & Yahrの分類3で自力での起立・歩行は可能であるが補助具を要し,体幹屈曲姿勢が著明であった。方法はtDCSはDC Stimulator(NeuroConn GmbH社製)を利用し,陽極を左運動野,陰極を右前頭部に設置し,1mAの直流電流を20分実施した。刺激前後での評価は,tDCS刺激の前後に,立ち上がり動作と10m歩行テストを実施した。各動作について,前額面・矢状面よりデジタルビデオカメラにて撮影を行い,所要時間の計測を行った。動作分析のため,肩峰・大転子・膝関節・足関節・第5中足骨頭にマーカーを貼付し,撮像データから動作時の体幹・下肢関節角度の算出を行った。tDCS実施前後での計測データの比較を行い,tDCSによる効果について検証した。また,別日にSham刺激前後で同様に測定を行い,tDCSによる効果との比較を行った。【結果】tDCS前後での歩行について,速度:症例A 5.4±0.1→11.0±0.4m/min,症例B 7.8±0.2→8.9±0.1m/min,歩行率:A 92.3±7.2→106.4±6.5steps/min,症例B 88.6±0.9→90.2±3.5steps/minと2症例ともに歩行指標の改善が見られた。特に症例Aについて,大幅な歩行速度の増加が見られ,刺激前にはバランス自制困難で介助を要していたが,刺激後には自制内となった。起立動作について,所要時間:症例A 7.6±0.7→5.6±0.6秒,症例B 33.2±12.8→19.6±3.4秒と動作スピードの改善が見られた。また,起立動作の失敗回数について,症例Aにおいて,刺激前4回/2試行であったものが,1回/2試行と動作失敗の減少が見られた。立位姿勢における股関節屈曲角度:症例A 71.8±1.8→74.0±4.7°,症例B 38.5±0.7°→28.5±2.1°と症例Bにおいて伸展方向に姿勢の変化が見られた。Sham刺激前後においてはtDCS実施時に比べ,改善効果は小さい結果となった。【考察】tDCS前後でのPD患者における歩行動作と立ち上がり動作の効果について検討した。一次運動野(M1)上に陽極設置し,直流電気刺激を行うことで運動誘発電位の振幅が上昇し,陰極下では反対の効果がある。このように脳皮質の活動性の促通/抑制により,活動のバランスを整えることで歩行・立ち上がり動作の改善に寄与していると考えられる(Krause et al, 2013)。歩行に関しては検討した症例はすくみ足・小刻み歩行が顕著で歩行に時間を要していたが,歩行速度・歩行率の改善はこれらPD特有の症状の改善に効果を示したものと考えられる。同様に立ち上がり動作においても,後方重心と動作緩慢により動作困難であったものが。前方への重心移動や動作の円滑性の改善により,起立動作遂行を可能とし,所要時間の短縮が見られた。このようにtDCSにより運動野を刺激することで,PD特有の症状の改善が認められたのは,一次運動野からの入力刺激によって大脳基底核の入力が増大することや,刺激位置(電極接触位置)から運動野前方の補足運動野へも刺激が波及し,運動プログラムの活性化などが関与した可能性が考えられる。脳刺激部位による特異性に関しては今後とも検討を必要とする。今後さらに症例数を増やして検討していく。【理学療法学研究としての意義】tDCSによる脳刺激でPDに対する即時効果として動作遂行能力,動作緩慢に影響することが示唆された。PDに対する脳刺激による治療の可能性を示唆したものであり,今後,詳細な効果の検証を行う上での基盤となると考える。また,その効果や程度を把握することで,その後の理学療法が円滑に実施可能になると考えられる。
著者
廣幡 健二 古谷 英孝 美﨑 定也 佐和田 桂一 杉本 和隆
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ca0207, 2012

【目的】 近年,人工膝関節置換術後症例の術後活動レベルは高くなり,日常的移動手段として自転車を利用するだけで無く,余暇活動として荒地以外でのサイクリングも許容されている.当院でも術後に自転車を日常移動手段として求め,利用する症例は多いが,その一方で自転車駆動困難な症例も存在する.自家用の自転車やトレーニング用の固定式自転車において駆動時に必要な術肢膝関節可動域については調査されていない.本研究では,人工膝関節置換術患者の自転車エルゴメータ(cycle ergometer;CE)駆動時おける膝関節屈曲角度を駆動条件毎に調査し,自転車駆動動作の可否を決定する一つの判断基準を作成することを目的とした.【方法】 当院にて2011年6月~2011年9月の期間に片側Total Knee Arthroplasty(TKA)または片側Unicompartmental Knee Arthroplasty(UKA)を施行した症例を対象とした.その他整形外科疾患,中枢神経系疾患の既往を有する者は除外した. 測定項目はCE駆動時膝屈曲角度,CE駆動時自覚的快適度,他動的膝ROMとした.CE駆動時膝屈曲角度の測定にはデジタルインクリノメータ(日本メディックス,デュアラーIQ)を用いた.CEのサドルの位置は,乗車時に1)下死点のペダル上に足部を置き膝15°屈曲となる高さ,2) 膝15°屈曲・足関節最大底屈位にて前足部(MP関節より遠位)が床面に接地する高さ,の2段階とした.ペダルに対する足部の位置は,a)下腿長軸延長線上の踵骨とb)MP関節との2段階とした.上記のサドルと足部の位置を変えた4条件[1-a,1-b,2-a,2-b]にて測定を行った.駆動動作において対象には体幹,骨盤帯での代償動作を行わないように指示し,駆動中の膝最大屈曲角度を測定した.代償動作が著明または駆動困難な場合は,測定を中止した.CE駆動時自覚的快適度は各条件において,「不快」~「快適」4段階のリッカート尺度を用いて聴取した.他動的膝屈曲ROMは背臥位にてゴニオメータを用いて測定した.自覚的快適度から対象を快適群と不快群に分け,その2群の基本属性と各測定項目に対し記述的統計処理を行った.また他動的膝屈曲ROMに対するCE駆動時膝屈曲角度を%ROM(CE駆動時膝屈曲角度/他動的膝屈曲ROM*100)として算出した.【倫理的配慮、説明と同意】 倫理的配慮として,東京都理学療法士会の倫理審査委員会に倫理審査申請書を提出し承認を得た(承認番号:11東理倫第1号).対象者には事前に研究の趣旨を説明し,同意を得た.【結果】 対象は16名(男性4名,女性12名,平均年齢72.4歳,平均術後経過日数58.6日)で,術式はTKA7名,UKA9名であった.全対象の術肢膝屈曲ROMは平均118±10°であった.各条件における測定可能人数とCE駆動時膝屈曲角度は1-a)で16名,79±5°,1-b)14名,90±1°,2-a)13名,91±7°,2-b)10名,104±5°であった.各条件における快適群の人数と,その対象の術側他動的膝屈曲ROM [平均±標準偏差(最小値)]は1-a)で15名,119±10°(105°)であり,1-b)13名,120±9°(110°),2-a)12名,122±8°(110°)で2-b)では快適群2名,不快群8名であり,快適群で133±4°(130°),不快群で119±7°(110°)であった.%ROMは条件1-a),1-b),2-a)の快適群では順に66%,75%,75%であり, 2-b)において快適に駆動できた対象は78%,不快群では87%と高値を示した.【考察】 今回の4つの測定条件では1-a),1-b),2-a),2-b)の順でCE駆動時膝屈曲角度は増加していた.算出した%ROMが75%程度であれば快適にCE駆動が可能であり,90%近くなると不快であった.自転車利用を検討するには,他動的膝屈曲ROMだけでなく,機能的な駆動時の膝屈曲可能ROMを考慮する必要が考えられ,これについては今後も検討が必要である.自転車利用においてサドル高は「両足が地面につく高さ」が推奨されており,今回の結果では条件2-a)にあたる駆動環境が安全性と快適性に優れているのではないかと考えられる.自転車利用困難なTKA,UKA術後患者に対し安全な自転車駆動を達成させるためには,過度なサドル高の調整だけでなく,足部の位置に対する指導も膝関節機能を補う有効な生活指導となると考えられる.【理学療法学研究としての意義】 人工膝関節術後の症例に対し,適切な自転車駆動方法を指導することは,術後QOLや患者満足度の向上につながると考える.
著者
大神 裕俊
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.C3P3376, 2009

【はじめに】日々の臨床の中で,舌の動きを促すことにより姿勢やアライメントに変化が出ることを体験している.また治療展開の中で頚部の関節可動域は,舌の動きによってさらに機能的になり安定する印象を受けている.そこで今回,舌の動きを促した前後での頚部の関節可動域を測定してみたところ変化がみられたので報告する.<BR><BR>【対象と方法】当院に通院し,本研究の趣旨に理解を得られた患者12名(年齢55.2±14.10歳).方法は棒付きキャンディーを使用し,端座位にて検者が被検者の口腔内でキャンディーを左右5回ずつ回転させ,そのキャンディーの動きを舌体で追わせる事により舌の動きを促した.この工程を左右各2セット行いその前後での頚部の関節可動域(屈曲・伸展・左右側屈・左右回旋)を測定し比較した.介入前後の比較には対応のあるt-検定を用い有意水準は1%とした.また介入後に頚部を動かした感想を聞いた.<BR><BR>【結果】介入前と比較して介入後では全ての頚部の関節可動域において平均10度以上の改善傾向が見られた.また全ての頚部の関節可動域で有意差を認めた.測定値以外において介入前と比較し介入後で頚部を楽に動かすことができるという訴えもあった.<BR><BR>【考察】今回,舌の動きを促すことで頚部の関節可動域に変化がみられた要因として,舌筋・舌骨上筋・舌骨下筋の作用,舌骨の動きによる影響が考えられる.舌筋は舌自体の運動に作用し,舌骨上筋は下顎骨・舌骨・口腔底・舌に作用し,舌骨下筋は舌骨を下に引いて固定し舌骨上筋による舌の運動を助ける作用を持つ.口の開閉運動に関与する力学成分は,頚椎後方から前方のベクトルと前方から後方のベクトルが舌骨の後方で交差している.この交点は第三頚椎レベルにあたり,顎関節・頚椎の運動を機能的に行うための協調支点となる.舌骨はこの協調支点と同じ高さにあり,付着する筋群や動きから動滑車の機能を持っていると考えられている.舌骨は前・後傾に動くことで舌骨筋群のベクトル方向を変え,上述した協調支点が常に第三頚椎レベルにくるように調節している.第三頚椎は頚椎カーブの頂点にあり,この頂点が偏位すれば頚椎全体に波及していく.今回の研究で行った口腔内でキャンディーを回転させることで舌の運動・口の開閉運動が起こり,上述の作用がある舌筋・舌骨上筋・舌骨下筋により舌骨の位置を正中化し,顎関節・頚椎の運動を機能的に行うための協調支点の調節を円滑にしたため頚部の関節可動域改善に影響がみられたのではないかと考える.<BR><BR>【まとめ】舌の動きを促すことが頚部の関節可動域改善になり,治療展開の一つになるのではないかと考える.今後,舌の動きを促すことで影響を与える因子・研究の検討を深めていきたい.
著者
河﨑 靖範 村上 賢治 古澤 良太 尾関 誠 松山 公三郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに】蘇生後患者は低酸素脳症による高次脳機能障害や運動麻痺等の合併症のため,社会復帰に難渋する場合が多い。当院では蘇生後患者に対して,PT,OT,STや心理士が介入した多職種協働のリハビリテーション(リハ)を提供している。目的は蘇生後患者に対するリハの効果について検討した。【方法】2009年1月から2013年12月にリハを実施した蘇生後患者8例(年齢61±23歳,男/女=6/2,入院/外来=5/3)を対象として,基礎疾患,低酸素脳症身体障害の有無,ICDの植込み,リハ職種の介入,リハ期間,6分間歩行距離(6MD),高次脳機能障害,Barthel Index(BI),転帰について調査した。リハプログラムは,PTは通常の心大血管疾患リハに準じて,モニター監視下にウォーミングアップ,主運動にエルゴメータや歩行エクササイズ(EX),レジスタンストレーニングを実施し,高次脳機能障害(記憶・注意・遂行機能)に対して心理士,ST,OTが介入した。心理士は高次脳機能障害の評価とEX,STはコミュニケーション障害の評価とEX,OTはADL障害の評価とEXを実施した。各症例の心肺停止から心拍再開までの経過;症例1:自宅で前胸部痛あり,救急車要請し,救急隊到着時Cardiopulmonary arrest(CPA)状態,CardioPulmonary Resuscitation(CPR)実施,10分後心拍再開(発症から蘇生までの推定時間:約15分)。症例2:自宅で呼吸苦出現し,当院到着後CPA状態,外来でdirect current(DC)およびCPR施行,10分後に心拍再開(約10分)。症例3:自宅でCPA状態,家人救急車要請しCPR実施,約20分後救急隊到着Automated External Defibrillator(AED)施行,26分後車内で蘇生(約45分)。症例4:自宅でCPA状態Emergency Room(ER)搬送,CPRにて心拍再開(約60分)。症例5:自宅でCPA状態ER搬送,心拍再開(不明)。症例6:自宅で飲酒中に意識消失,10分後CPA状態で救急隊にてAEDとCPR施行,18分後心拍再開(約30分)。症例7:心室細動にてAED,心拍再開(不明)。症例8:フットサル休憩中に意識消失CPA状態,10分後救急隊到着AED施行,10分後救急車内で心拍再開(約20分)。【結果】基礎疾患は急性心筋梗塞5例,不整脈原性右室心筋症1例,原因不明2例であった。心室細動が確認された5例に電気的除細動が施行され,低酸素脳症後遺症は高次脳機能障害が8名中6名,右下肢の運動麻痺は1名に認めた。その後のICD植込みは4例(ICD3,CRTD1)であった。リハ職種の介入はPT8例,心理士5例,ST4例,OT3例であった。入院時6MD(m)が測定可能であった8名中4名は,リハ開始時233±196からリハ終了時425±96となった(n.s)。記憶は,高次脳機能障害を認めた6名中,検査を実施した4名の記憶を評価するリバーミード行動記憶検査は,リハ開始時は重度3名,中等度1名からリハ終了時は中等度が3名,軽度1名まで改善した。注意・遂行機能を評価するトレイルメイキング検査は,年齢を考慮しても改善傾向にあった。リハ期間は入院外来を含めて251±311(最短41~最長953)日で,リハ中の虚血性変化,不整脈等の心事故の出現はなかった。BI(点)はリハ開始時72±35からリハ終了後95±5であった(n.s)。外来2名を含む8名全例が自宅退院し,現職者4名中3名は現職復帰し,4名は退職後の高齢者であった。【考察】長期のリハ介入によって,運動能力は改善傾向を示し,高次脳機能障害は,記憶と注意の障害に改善を認めた。記憶や注意・遂行機能障害に対しては,代償手段としてのメモリーノートや携帯アラームなどの外的補助手段を活用した。また高次脳機能と脳血流量は関連があるとする報告も多くあるが,本研究においては運動能力やADLにおいて改善傾向を示したが,有意差はなかった。記憶や注意・遂行機能の改善は,自然治癒も含まれリハ効果と言うより主に障害を家族に理解して頂くための関わりが中心であり,必要に応じてカウンセリングや就労支援も実施した。【理学療法学研究としての意義】蘇生後患者の社会復帰のためには,高次脳機能障害等の合併症の観点からPTが介入する有酸素運動を中心とした運動療法のみならず,心理士,ST,OTや等の多職種協働のリハが必要と思われた。
著者
古澤 良太 冨岡 勇貴 河﨑 靖範 槌田 義美 尾関 誠
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100532, 2013

【はじめに】中大脳動脈領域損傷の患者において、ADLに必要な動作能力を有していても高次脳機能障害の影響により、理学療法やADL動作獲得の阻害因子となることを臨床上多く経験する。その中でも運動維持困難(MI)が明らかな左片麻痺患者は長期のリハビリテーション期間を要し、ADL動作や歩行の達成度が低い傾向が指摘されている(石合2003)。今回、高次脳機能障害による麻痺側下肢への持続的な荷重困難のため、安定した立位保持・歩行困難が長期間改善しなかった症例に対し、心理士と共に阻害因子を分析してプログラムの見直しを行い、自己教示法を用いた運動維持課題を実施したところ顕著な改善が認められたので、その効果を報告する。【方法】59歳女性、右利き、病前ADLは自立、特筆すべき既往歴はなかった。2011年12月に心原性脳塞栓症、左片麻痺と診断され、脳浮腫に対して外減圧術施行後、翌年1月に当院入院となった。運動機能は左下肢BRSII、非麻痺側上下肢MMT4、著明なROM制限なし、感覚テストは表在・深部覚とも重度鈍麻であった。高次脳機能障害はMI、注意障害、抑制障害、USNが認められた。動作能力は起居・起立動作は監視、車椅子駆動は自立、歩行は平行棒内にてKAFO軽介助、ADLは全般的に声かけを要し、移乗・排泄動作は介助を要していた。本介入以前は入院後早期よりKAFOを用いた起立・歩行・階段昇降・荷重exを6ヶ月間継続し、注意喚起を行うことでAFOでの荷重は可能となった。しかし、麻痺側下肢への直接的な荷重exでは荷重時間の延長を図ることは困難であったことから、原因をMIと考え、より簡易な動作でMIを改善させてから持続的に立位を可能にすることを企図した。MI exとしてJointらの評価項目(1965)から閉眼・側方視維持・頭部回旋位保持の3項目を実施した。さらに注意の転導性を認めたため、動作を持続し易くさせることを目的に目標とする秒数まで自分で数える一種の自己教示法を併用した。目標時間は確実に可能な持続時間より開始し、3日間連続して可能となった際に目標時間を漸増させた。MI exの般化指標としてJointらの評価項目より開口・固視・発声の3項目を記録した。また身体機能面の般化指標として麻痺側下肢荷重率及び持続時間、非麻痺側上下肢荷重率を日立機電社製立位練習機「エチュードボー」を使用し、記録した。MI exは3週間継続し、般化指標の評価は介入前1週間のベースライン期を含む4週間、週に3回実施した。本介入以前に実施していたその他のexは継続した。【説明と同意】本症例に対し、研究に関する趣旨を説明して同意を得た。【結果】各般化指標のベースライン期3日間と介入3週目の平均値を比較したところ、MIの指標では左右の固視以外の項目において全般的に改善が認められ、身体機能面では平均麻痺側荷重持続時間は2秒から78秒へ大幅に向上し、麻痺側下肢荷重率は5%から10%への向上を認めた。MI exでは左側方視の維持は変化が認められなかったが、閉眼・頭部回旋位保持の向上が認められた。また、MI ex導入後1ヶ月で移乗・排泄動作は自立し、歩行はさらに2週間後にT字杖とプラスチックAFOにて連続120mの監視歩行が可能となり、歩行能力の改善が認められた。【考察】今回、MIのために麻痺側下肢の持続的荷重に対する直接的なアプローチが困難なため、立位・歩行が困難な症例に対して、自己教示法を用いたMI exを試みた。立位や荷重exよりも簡易な動作としてJointらのMI評価から目標とする秒数まで自己にて数える事が可能な項目を選択した。より簡易な課題から持続可能にすることで、間接的に麻痺側下肢の運動維持が可能となった。また、簡易な課題だけではなく、確実に持続可能な目標の秒数まで自分で数えることから実施し、少しずつ目標時間を漸増させたことにより目標が明確となったこと、可能な持続時間から開始し、徐々に目標を達成したことで意欲が向上し運動の維持が容易になったと考えられた。運動維持時間が延長されたことにより、麻痺側下肢の荷重が可能となり、理学療法介入時における動作の安定性が向上した。その結果として日中の排泄動作が自立し、歩行能力が向上したと考えられた。このことから動作可能な身体機能を有していてもMIにより持続的な荷重が困難な症例に対して、MIへのアプローチは動作獲得に有用であると思われた。【理学療法学研究としての意義】MIにより直接的な荷重アプローチが困難な症例に対して、MI exが運動維持に対して有用であり、姿勢の持続に有用である可能性が示唆された。
著者
新堀 晃史 古澤 良太 村上 賢治 松岡 達司 河崎 靖範 槌田 義美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】Honda歩行アシスト(歩行アシスト)は股関節の屈曲伸展運動にトルクを負荷して歩行を補助する装着型歩行補助装置である。先行研究では,歩行アシストの使用により脳卒中片麻痺患者の歩行速度向上,歩幅増加などが報告されている。しかし,歩行アシストを使用した前方ステップ練習が歩行能力にどのような効果を及ぼすか検討した報告はみられない。今回,回復期リハビリテーション病棟入院中の脳卒中片麻痺患者に対し,歩行アシストを使用した前方ステップ練習を行った結果,歩行能力の向上を認めたので報告する。【方法】対象は左被殻出血により右片麻痺を呈した60歳代の女性。発症からの期間は135日,BRSは上肢III,手指III,下肢IV,感覚は鈍麻,MASは2(下腿三頭筋),歩行能力はT-cane歩行軽介助(プラスチックAFO)で2動作揃え型歩行であり,イニシャルスイング(ISw)にトゥドラッグがみられた。研究デザインはABAB法によるシングルケーススタディを用いた。基礎水準期(A1,A2期)には通常の前方ステップ練習+歩行練習を実施し,介入期(B1,B2期)には歩行アシストを使用した前方ステップ練習+歩行練習を実施した。各期間は2週間(5日/週)とし,評価内容は通常歩行速度(m/sec),歩幅(m),歩行率(step/min),筋力(kgf/kg)とした。通常歩行速度,歩幅,歩行率は各期間に5回ずつ測定し,筋力は各期間の前後5回計測した。筋力測定にはハンドヘルドダイナモメーター(アニマ社製μTasF-1)を使用し股関節屈曲,膝関節屈曲,膝関節伸展,足関節底屈,足関節背屈の最大等尺性収縮を測定した。前方ステップ方法は,開始肢位として非麻痺側下肢を前方に出した立位とし,麻痺側下肢を振り出す動作と,連続して非麻痺側下肢を振り出す動作の2種類を行い,練習時間は20分とした。その他,通常の理学療法を実施した。統計学的手法として,通常歩行速度,歩幅,歩行率は2標準偏差帯法(2SD法)を用いて分析した。2連続以上のデータポイントが基礎水準期の平均値±2SDの値より大きいもしくは小さい場合は,統計学的な有意差があると判断した。有意水準は5%未満とした。【結果】通常歩行速度は,A1期からB1期,A2期からB2期で有意差が認められた(p<0.05)。B1期からA2期では有意差は認められなかった。歩幅は,A1期からB1期,A2期からB2期で有意差が認められた(p<0.05)。B1期からA2期では有意差は認められなかった。歩行率は,各期ともに有意差は認められなかった。筋力は非麻痺側の股関節屈曲,足関節底屈,麻痺側の足関節底屈が介入期に高い変化量を示した(非麻痺側股関節屈曲はA1期:0.18,B1期:0.25,A2期:0.26,B2期:0.26,非麻痺側足関節底屈はA1期:0.19,B1期:0.23,A1期:0.28,B2期:0.36,麻痺側足関節底屈はA1期:0.10,B1期:0.09,A1期:0.08,B2期:0.21)。最終評価時の歩行能力はT-cane歩行自立(プラスチックAFO)で2動作前型歩行となり,ISwにトゥドラッグはみられなかった。【考察】通常歩行速度と歩幅は,非介入期と比較し,介入期において有意に改善がみられた。筋力は非麻痺側の股関節屈曲,足関節底屈,麻痺側の足関節底屈が介入期に高い変化量を示した。歩行は最終評価時には2動作前型歩行となった。本症例は,麻痺側股関節屈曲筋力低下および足関節の筋緊張亢進により,麻痺側下肢筋の同時収縮がみられ遊脚期における膝関節屈曲角度が不足し,ISwにトゥドラッグが出現していた。大畑らによると,歩行アシスト装着による歩行で,片麻痺患者の遊脚期に生じる最大膝関節角度がアシスト強度に伴って有意に増加したとしている。今回,介入期に歩行アシストを使用した前方ステップ練習を行ったことで,遊脚期の膝関節屈曲角度の増加がみられ,トゥドラッグが改善し,歩幅の増加による歩行速度の向上につながったものと考えられた。また,非麻痺側の股関節屈曲,足関節底屈,麻痺側の足関節底屈筋力が向上したことで,歩幅や麻痺側単脚立脚期の増加につながり,最終評価時において2動作前型歩行となったものと考えられた。【理学療法学研究としての意義】歩行アシストを使用した前方ステップ練習が,回復期脳卒中片麻痺患者における歩行能力向上の効果を示唆するものであり,脳卒中片麻痺患者の歩行トレーニングに有効な介入手段になるものと考える。