著者
二木 鋭雄
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.129, no.2, pp.76-79, 2007
被引用文献数
6 9

「ストレス」という言葉は,日常生活で身近によく使われている.一般にストレスという言葉はネガティブな意味が強く,生活にとって好ましくないものという響きがある.確かに,われわれの身の回りにある多種のストレスにより,からだやこころの健康が脅かされ,その結果,身体の不調,疾患へとつながっていくことが少なくない.しかし,近年の分子生物学の進展に伴い,われわれの生体には極めて精巧な防御システムが構築されており,ホメオスタシスを維持するためのシステム,仕組みができていることも分かってきた.ストレス,すなわち外からのシグナルを受けて,生体は巧みに応答する.場合によってはストレスをうまく利用して,生体を常によい状態に保つようにしている.多くのストレスが,時によってはよいシグナル,よいストレスとなることもある.言い換えると,ストレスがないこと,ストレスフリーの生活が本当にこころや身体にとっていいことなのかどうか,むしろ疑問である.もちろん,あるレベルを超えたストレスに対しては防御力,適応能力が対応できず破綻し,QOLの低下を招くと考えられる.如何にして,少々のストレスにはうまく適応できるような状態に保つようにしているかが肝要であると言えよう.<br>
著者
野中 美希 上野 晋 上園 保仁
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.155, no.3, pp.165-170, 2020 (Released:2020-05-01)
参考文献数
21

近年,がんサバイバーの増加とともに,今まで顕在化していなかったがん治療による晩期障害やがん自身によって起こる障害が深刻な問題となっている.抗がん薬や分子標的薬の中には,生命維持に重要な臓器である心臓に障害を与えるものがあること,さらにがん自身によっても心機能障害が起こることが明らかとなり,がん治療における心機能の安定維持が注目されているが,心機能障害発症のメカニズムについてはほとんど不明である.我々は最近,進行がん患者の約80%に出現しがん死因の約20%を占めるとされるがん悪液質を発症する動物モデルを確立した.がん悪液質患者では心機能が低下するとされているが,ヒトと同様のがん悪液質を発症する適切なモデルが少ないため,がん悪液質と心機能の関係については未だ不明な点が多く,解析はほとんど行われていない.そこで本研究では,当研究分野で開発したがん悪液質モデルマウスの心機能の評価を行い,さらにその治療法として自発運動による治療効果を検討した.ヒト胃がん細胞由来である85As2細胞をマウスの皮下に移植することにより,悪液質の指標となる体重,骨格筋重量,摂餌量の低下が観察された.さらに,悪液質の進展とともに,心筋重量が有意に減少し,左室駆出率(LVEF)も低下した.また,回し車による自発的運動により,85As2移植がん悪液質マウスの摂餌量,骨格筋重量の低下が抑制され,さらに心筋重量の減少の抑制ならびにLVEFの改善も認められた.以上のことから,85As2移植がん悪液質マウスは心機能障害を伴っていること,さらに自発運動は悪液質症状のみならず心機能障害も改善する効果があることが明らかとなった.一般に心不全症状の改善を目的に運動療法が導入されていることは知られているが,本研究により,がん悪液質によって誘発される心機能障害に対しても運動療法が治療効果を発揮する可能性が示唆された.
著者
渡辺 恭良
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.129, no.2, pp.94-98, 2007
被引用文献数
3 4

疲労感・倦怠感は,我々が日常的に経験している感覚であり,発熱,痛みとともに,身体のホメオスタシス(恒常性)の乱れを知らせる三大アラーム機構の1つである.疲労は,万人にとって非常に身近な問題であり,ストレス過多の現代社会に生きる私たちの中で慢性疲労に悩んでいるヒトが40%近くを占めるにもかかわらず,科学的・医学的研究はこれまで断片的であった.我々は,ストレスの過重蓄積によって陥る状態を疲労と定義している.ここ数年で,生活習慣病をはじめとする疾患の予防医療・予知医療の発展とともに,このような前病状態(未病ともいわれる)に如何に対処するかという気運が高まり,「疲労の科学」に目を向けられるに至った.多忙なスケジュールに振り回されている状況を回避することが困難な我々21世紀の住人にとって,如何に疲労に対処し回復策を探り過労に陥らないように知恵を絞るかが求められている.文部科学省・科学技術振興調整費による疲労研究班[生活者ニーズ対応研究「疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究」(平成11-16年度,研究代表者:渡辺恭良)]では,これまでに知られてきた断片的な疲労の分子・神経メカニズムの研究結果を統合し,脳機能イメージングや遺伝子解析などの新しい方法論も取り入れて「疲労」と「疲労回復・予防」についての研究を深めてきた.ここでは,ストレスの人体への影響と大きな関連性を持つ「疲労の神経メカニズム」についての研究の現状についての情報を提供したい.また,2004年夏からは,文部科学省の21世紀COEプログラム革新的学術分野に我々大阪市立大学が申請した「疲労克服研究教育拠点の形成」が採択された(拠点リーダー:渡辺恭良).現在,COE拠点を挙げて,疲労の基礎・臨床研究と抗疲労食薬・環境開発プロジェクトを進めており,現時点での成果についても述べたい.<br>
著者
鳥光 慶一 古川 由里子 河西 奈保子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.121, no.5, pp.349-356, 2003 (Released:2003-04-26)
参考文献数
16
被引用文献数
1

刺激に伴って神経終末より放出される神経伝達物質は,神経における情報の伝達物質,すなわち情報のキャリアとして働いていることはよく知られている.特に,シナプスの可塑的変化における放出量変化は,長い間議論の対象となっている.しかしながら,最近の研究によりこれら伝達物質が本来の情報伝達だけでなく,虚血等の脳疾患や細胞死,あるいは細胞/組織の発達·生死においても重要な役割を担っていることを示すことが明らかになってきた.したがって,放出される神経伝達物質の量的変化を測定することは,神経伝達物質の機能を解明する上で極めて重要である.さらにその放出の空間的分布が測定できれば,生理的機構の解明や疾病の診断に役立つものと考える.本稿では,代表的な興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸の計測について,グルタミン酸酸化酵素/西洋わさびペルオキシダーゼによる酵素反応と電極による電気化学測定法,およびこれを64チャンネルのITOプレナー電極アレイに適用したマルチアレイセンサーについての基本原理を説明するとともに,これらの方法を用いて測定したラット培養大脳皮質細胞からのカルシウム依存性グルタミン酸放出,および海馬スライスにおける刺激応答性グルタミン酸放出の空間分布計測についての測定例を紹介する.マルチアレイセンサーは,多点のグルタミン酸放出変化をリアルタイムで計測可能であり,各部位における薬液応答の相違をイメージ化するなど様々な方面への発展性が期待できる.
著者
野田 幸裕名 鍋島 俊隆 毛利 彰宏
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.130, no.2, pp.117-123, 2007 (Released:2007-08-10)
参考文献数
48
被引用文献数
1 1

非競合的N-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体拮抗薬であるフェンシクリジン(PCP)の乱用者は,統合失調症と類似した精神症状(PCP精神病)を惹起することから,統合失調症にはグルタミン酸作動性神経の機能低下が関係しているという「グルタミン酸作動性神経系機能低下仮説」が提唱された.PCPは単回で投与した場合には一過性の多様な薬理効果を示すが,連続投与した場合は,依存患者が摂取を中止した後も,その精神症状が数週間持続する様に,動物モデルでも行動変化が持続する.例えばPCPをマウスに連続投与すると休薬後において運動過多が増強(自発性障害:陽性症状様作用)され,強制水泳ストレスによる無動状態が増強(意欲低下の増強:陰性症状様作用)され,水探索試験における潜在学習や恐怖条件づけ試験における連合学習が障害(認知機能障害)される.このモデル動物を用いた研究により,統合失調症の病態解明,新規治療薬の開発につながることが期待されている.
著者
川畑 篤史 坪田 真帆 関口 富美子 辻田 隆一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.154, no.5, pp.236-240, 2019 (Released:2019-11-15)
参考文献数
31
被引用文献数
1

化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)はがん患者のQOLを著しく損ない,治療の継続を困難にする可能性のある有害事象であるが,現在,CIPNを回避する有効な対策はほとんどない.そのためCIPNの発症メカニズムを解明し,臨床応用可能なCIPN発症抑制薬・治療薬を開発することは喫緊の課題である.我々は,CIPNの発症にdamage-associated molecular pattern(DAMP)タンパク質の1つであるhigh mobility group box 1(HMGB1)が関与することを明らかにしている.また,日本において播種性血管内凝固症候群(DIC)治療薬として承認されているthrombomodulin αが,抗がん薬投与に伴って細胞外に放出されるHMGB1をトロンビン依存的に分解することでCIPNの発症を阻止できることを報告している.このように,HMGB1あるいはその受容体を標的とする薬物を用いることで近い将来CIPNの発症を抑制できるようになることを期待したい.
著者
田中 秀和
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.142, no.3, pp.112-115, 2013 (Released:2013-09-10)
参考文献数
28

脳を治療するための薬物は,従来神経伝達物質に関連するものが主であった.現在はそれらに加えて,神経変性疾患のメカニズム解明をもとにした治療法の開発や,喪失した細胞を補充することを目指した再生医学的アプローチも盛んになっている.今後はさらに,シナプス病といった概念の発展により,神経回路の構築そのものが,あらたな治療標的を探索する対象となっていくかもしれない.近年シナプス前後の細胞間認識に関わる接着分子や,その他のタイプのシナプス形成に関わる分子が,自閉症などの疾患に関連することが示されている.うつ病においても海馬が萎縮し,逆に治療により拡大することなどから,海馬神経回路の機能や構造が変化する可能性がある.海馬神経回路リモデリングを担う分子の一例として,プロトカドヘリン型の接着分子arcadlinが知られている.arcadlinは即効性に抗うつ効果を示す電気けいれんにより誘導されるばかりでなく,遅効性の抗うつ薬の慢性投与後にも誘導される.またうつ病患者の海馬において増加する脱リン酸化酵素MKP-1と,拮抗する関係にあるp38 MAPキナーゼがarcadlinによって活性化することからも,arcadlinとそのシグナル伝達系による海馬シナプスリモデリングのメカニズムは,うつ病の治療効果に関与する可能性が期待される.
著者
尾仲 達史
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.126, no.3, pp.170-173, 2005 (Released:2005-11-01)
参考文献数
24
被引用文献数
2 4

キャノンとセリエにより医学の世界にストレスという言葉が持ちこまれた.キャノンは,ストレス刺激に対応した多様な反応が生体におきることとこの反応に交感神経系-副腎髄質ホルモン分泌が必須であることを示した.セリエは,刺激によらず非特異的な反応が生体におきることとこの反応に視床下部-下垂体前葉ACTH-副腎皮質ホルモンが必須であることを示した.近年になり,「ストレス」が多くの疾患の少なくとも増悪因子となることが様々な疫学的な調査により示されるようになった.さらに,ストレス刺激によりある程度共通した神経系が活性化されることが明らかになりつつある.このストレス時に活性化される神経系の代表が,延髄ノルアドレナリン/PrRPニューロン系である.この延髄ノルアドレナリン/PrRPニューロン系は恐怖刺激,痛み刺激による反応に重要であることが示されている.一方,新奇環境曝露によるストレス反応,あるいは,モルヒネ禁断のような刺激は,延髄ノルアドレナリンニューロンに依存しないことも示されている.今後,どのストレス神経系を活性化させるかによりストレスの分類分けが行われていくと思われる.
著者
菊水 健史 茂木 一孝
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.149, no.2, pp.66-71, 2017 (Released:2017-02-01)
参考文献数
30

動物,特にヒトを含む哺乳類における子の発達で最も特徴的な点は,発生初期を母親の胎内で過ごし,出生後においても哺乳行動を中心とした母子間のつながりが強いことである.この期間に子が母親から受ける様々な刺激は,身体発達に多大なる影響を与え,個体の内分泌系や行動様式に長期的な変化を引き起こす.ゆえに,哺乳類の発達期の社会環境は,個体の獲得するエピジェネティックな変化の解明において,最も重要な要素だといえる.このような発達期の社会的要素の一つとして,離乳が挙げられる.これまで離乳の早期化が,仔マウスの成長後の不安行動の増加,情動反応を変化させること,また早期に離乳された雌マウスでは,自分が母親になった際にも通常に離乳された雌マウスに比べ,排泄を促すためや母乳を飲むよう促すための仔をなめる行動の時間が短くなることが明らかとなった.そこで本稿では,早期離乳による情動行動の変化に加え,その神経機能の変化に関し,特に前頭葉に注目した最近の知見を紹介する.C57BL/6マウスを用い,生後15日で親から離乳する早期離乳を施し,成長後に高架式十字迷路試験による不安行動評価,恐怖条件付け試験による恐怖記憶の消去抵抗性評価を行った.そして,前頭葉における脳由来神経栄養因子(BDNF)タンパク質発現測定,各プロモーター由来BDNF mRNA発現量測定を行い,その背景となる分子メカニズム同定を試みた.その結果,恐怖条件付けを受けた早期離乳マウスでは消去学習過程における消去の抵抗性が増加し,前頭葉のBDNF III mRNA及びBDNFタンパク質が低下した.さらに,これらの間には負の相関もみられたことから,早期離乳による恐怖記憶の消去抵抗性には,前頭葉におけるBDNF III mRNAの発現低下を介したBDNF作用の減弱が関わっていることが予想された.これらの知見は,幼少期の早期の母子分離が永続的な前頭葉のBDNFを介した機能不全を導くことを示唆し,早期離乳マウスがヒトにおける前頭葉の機能不全のモデルとなる可能性を示した.
著者
舛屋 圭一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.148, no.6, pp.322-328, 2016 (Released:2016-12-01)
参考文献数
15
被引用文献数
3

現在,臨床現場で使用されている薬剤は主に低分子と抗体医薬品であり,ペプチド医薬品(古典的ペプチド医薬品)はインスリンやリュープロレリンなど極めて限られた数の薬剤しか使用されていない.その理由は,主に古典的ペプチド医薬品には弱点が多く,創薬研究のツールとしては有用なものの,創薬研究開発の最前線では敬遠されてきた歴史がある.しかし,昨今の低分子医薬品創製の行き詰まり感と抗体医薬品におけるターゲット枯渇や経済合理性の問題を背景に,中分子医薬品として特殊環状ペプチドが脚光を浴び始めている.その主な理由は,①ペプチド一つ一つを化学合成しなくても生物学的評価を行えるシステム(in vitro selection)が確立された,②非天然型のアミノ酸を組み込んだ〝特殊ペプチド〟が容易に調製でき,低分子・抗体医薬品の長所を併せ持たせることが可能となった,からである.本稿では,特殊環状ペプチドがどのように創薬研究開発全体に貢献できるかを論じる.
著者
大原 常晴 廣内 雅明 岡 美智子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.144, no.1, pp.34-41, 2014 (Released:2014-07-10)
参考文献数
30

レグテクト®錠333 mg(有効成分:アカンプロサートカルシウム)は,「アルコール依存症患者における断酒維持の補助」の効能・効果,「通常,成人にはアカンプロサートカルシウムとして666 mg を1 日3 回食後に経口投与する.」を用法・用量として2013 年3月に承認された.アカンプロサートカルシウムは,ラットのアルコール(エタノール)自発摂取ならびにエタノール離脱効果を抑制した.さらに,エタノールへの条件づけ場所嗜好性(CPP)を獲得したマウスに対し,本薬はエタノールCPP の発現を用量依存的に抑制した.また,エタノールの持続曝露によりグルタミン酸作動性神経活動が亢進したラット大脳皮質初代培養神経細胞では,グルタミン酸刺激による細胞障害が増悪した.本薬はこの作用を顕著に抑制し,エタノール依存で生じた過剰なグルタミン酸作動性神経活動を低下させることでエタノールへの渇望を抑え,自発摂取やCPP 発現の抑制につながると考えられた.一方,国内第Ⅲ相臨床試験ではアルコール依存症患者を対象にプラセボを対照としたランダム化二重盲検並行群間比較試験を実施した.アルコール依存症の治療目標は断酒であり,主要評価項目である治験薬投与期間中の完全断酒率は本剤群47.2%(77/163 例)およびプラセボ群36.0%(59/164 例)であり,本剤群が有意に高かった(P=0.0388,χ2 検定).本剤群のプラセボ群に対する完全断酒率の差(95%信頼区間)は11.3%(0.6~21.9%)であった.投与期間中の有害事象発現率は本剤群77.9%(127/163 例)およびプラセボ群68.3%(112/164 例)であり,本剤群の方が高かった(P=0.0498,χ2 検定).死亡およびその他の重篤な有害事象は,すべて治験薬との因果関係は否定された.因果関係が否定できない有害事象(副作用)発現率は本剤群17.2%(28/163 例)およびプラセボ群13.4%(22/164 例)であり,両群間に有意な差は認められなかった(P=0.3444,χ2 検定).投与期間中に認められた有害事象および副作用はほとんどが軽度または中等度であった.最も発現率が高かった副作用は下痢であり,本剤群12.9%(21/163 例)およびプラセボ群4.9%(8/164 例)であった.下痢は無処置または整腸剤等の投与で回復可能であり,本剤に重大な安全性所見は認められなかった.さらに,本剤による薬物依存性は認められなかった.以上より,アルコール依存症の断酒治療において心理社会的治療に加えて本剤を使用することで断酒維持効果が高まり,一人でも多くの患者がアルコール依存症からの回復につながることが望まれる.
著者
橋本 聡子 本間 さと 本間 研一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.129, no.6, pp.400-403, 2007 (Released:2007-06-14)
参考文献数
12
被引用文献数
1 4

睡眠に関する悩みを持つ人の割合は,日本においても増加の一途である.体内時計は,自然な睡眠を駆動しており,体温やホルモン分泌と同様,サーカディアンリズムを示す.このリズムの中枢時計は視交叉上核にあり,24時間/1日に同調するためには光が最も重要な因子であることが知られている.睡眠覚醒リズムに関連した振動体仮説には,2振動体仮説と2プロセス仮説が上げられ,同調機序が異なる.近年,哺乳類において,サーカディアンリズムに関する時計遺伝子の研究が進んでおり,ヒトにおいても睡眠相前進症候群にこの関与が示唆されている.
著者
杉本 忠則
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.144, no.6, pp.287-293, 2014 (Released:2014-12-10)
参考文献数
16

Wavelet 解析は比較的新しい解析手法であり,時間周波数解析ができる.これまで,時間周波数解析の手法としてはFourier 解析が知られていたが,解析結果に時間情報が含まれないことより研究者にとって満足できる解析結果とはならないことが多かった.一方,wavelet 解析では,解析結果に時間情報が含まれるため,特定の時点での周波数情報を知ることができる.それゆえ,現在wavelet 解析は幅広い分野で利用されている.しかし,薬理学で紹介される機会が少なかったため,詳しくない研究者も多いと思われる.本論文では,wavelet 解析の簡単な理論説明を行い,いくつかの簡単な時間連続データにおけるFourier 解析とwavelet 解析との解析結果の比較を行うことにより,wavelet 解析を理解して頂くことにした.また,実際の薬理データ(ラットの脳波)に対し,Fourier 解析とwavelet 解析とを実施した.Fourier 解析ではデータを分割解析することにより途中で起きるパターン変化が検出できたが,その分割が最適かどうかの疑問が残った.一方,wavelet 解析ではデータ分割することなく解析でき,より細かな変化も検出可能な解析結果が得られた.その中には研究者が求めたい情報が含まれていることより,wavelet 解析が生体の状態を解明する上での強力な手段となりうることが示された.このようにwavelet解析はFourier解析に比べ優れた解析手法である.しかし,Fourier 解析が不要と言うわけではない.解析対象となるデータの性質や着目点によってはwavelet解析よりもFourier解析の方が適切な場合もあるので,解析目的によりwavelet 解析とFourier 解析とを適切に使い分けて欲しい.
著者
小川 真実 森貞 亜紀子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.120, no.6, pp.398-408, 2002 (Released:2003-01-28)
参考文献数
26
被引用文献数
1

リバビリン(レベトール®)はC型慢性肝炎の治療にインターフェロンα-2b(IFNα-2b)と併用して使用される抗ウイルス薬である.本薬は主にRNAウイルスに対して幅広い抗ウイルス作用を示すことが報告されており,C型肝炎ウイルス(HCV)の代替ウイルスとしてウシウイルス性下痢症ウイルスを用いた感染細胞系において,IFNα-2bと併用することにより増強作用が認められた.本薬の作用機序として,宿主のイノシン一リン酸脱水素酵素の阻害作用,RNAウイルスのRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)の阻害作用等が報告されていた.最近,リバビリンがHCVと同じRNAウイルスであるポリオウイルスのRdRpによりRNAに取り込まれ,新生RNAの鋳型となり,突然変異を誘導することが明らかにされた.更に,リバビリンにより誘導される突然変異のわずかな増加により,ウイルスの感染能が激減することが証明された.このRNAウイルスに対する変異原としての作用は本薬の新規機序であり,本薬は新しいクラスの抗ウイルス薬として分類されるものと考えられる.
著者
金子 恵美 和田 智之 南川 洋子 井上 優
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.140, no.4, pp.177-182, 2012 (Released:2012-10-10)
参考文献数
34
被引用文献数
3 4

アイファガン®点眼液0.1%(AIPHAGAN®)は,アドレナリンα2受容体作動薬であるブリモニジン酒石酸塩を主成分とした新規の緑内障・高眼圧症治療薬である.その眼圧下降効果は,房水産生の抑制およびぶどう膜強膜流出路を介した房水流出の促進という2つの機序に基づくと考えられている.このことからアイファガン®点眼液0.1%は,房水産生を抑制するアドレナリンβ受容体遮断薬(β遮断薬)や房水流出を促進するプロスタグランジン関連薬(PG関連薬)等との併用効果も期待できる.第III相臨床試験では,原発開放隅角緑内障(広義)および高眼圧症患者でPG関連薬の併用におけるさらなる眼圧下降効果が,また52週間の長期投与試験でも安定した眼圧下降効果が示されている.承認時までに実施した臨床試験における副作用は,総症例444例中122例(27.5%)であった.主な副作用は結膜炎(アレルギー性結膜炎を含む)38例(8.6%),点状角膜炎30例(6.8%),眼瞼炎(アレルギー性眼瞼炎を含む)20例(4.5%)および結膜充血17例(3.8%)であった.なお,本剤では点眼剤の保存剤として本邦で初めて亜塩素酸ナトリウムを使用している.
著者
山田 久陽 池田 明子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.133, no.2, pp.73-77, 2009 (Released:2009-02-13)
参考文献数
30
被引用文献数
1 3

男性型脱毛症(Androgenetic alopecia, AGA)は,遺伝的背景および男性ホルモンによって主に男性に生ずる病態で,頭頂部や前頭部の毛髪が細く短くなり,外観上,薄毛と認識されるようになる.AGAは生死に関わる疾患ではないが,薄毛に悩むヒトは多く,AGA治療薬の開発に注目が集まっている.AGA治療薬開発のターゲットとしては,STAT3,BMP,WNTおよびSHHなど毛周期の休止期から成長期への移行,すなわち発毛促進作用に関係する分子と,男性ホルモン受容体およびTGF-βなど,短縮した成長期を本来の長さに戻し,太い毛を育てる作用に関係する分子が考えられる.治療効果を有する化合物は,in vitroの系で毛乳頭,毛包上皮あるいはそれらの共存培養系,毛包の器官培養によりスクリーニング可能である.in vivoではマウスで休止期から成長期への誘導あるいは成長期の延長が評価でき,ヒトに酷似したAGAの病態を発症するベニガオザルを用いた評価も行われる.
著者
石井 直人 脇田 久嗣 宮崎 和城 高瀬 保孝 浅野 修 草野 一富 白戸 学
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.144, no.4, pp.154-159, 2014 (Released:2014-10-10)
参考文献数
16

日本皮膚科学会によるとアトピー性皮膚炎(AD)の定義は「増悪と寛解を繰り返す,痒みを伴う湿疹を主病変とする慢性に経過する疾患」とされており,今なお患者数が増大する傾向にある.AD では重度な痒みを伴うことが特徴であり,既存薬では十分な痒み抑制作用が得られているとは言えず,痒みのコントロールが治療の課題の一つと考えられている.そこで改めてAD 病態を振り返り,治療薬開発の現状を纏めた.その中でphosphodiesterase 4(PDE4)阻害薬に注目し,E6005 を題材としてPDE4 阻害薬のAD 適応を目指した取り組みを紹介する.E6005 は無細胞 PDE 活性測定系において選択的なPDE4 阻害作用を示し,ヒト末梢血リンパ球・単球からのサイトカイン産生を抑制したことから,PDE4 阻害に基づくE6005 の抗炎症作用を確認できた.ハプテン誘発接触皮膚炎型マウスモデルにおいて,E6005 を連続塗布すると有意な皮膚炎抑制効果が得られ,かつ皮疹部におけるサイトカイン・接着分子の発現抑制効果が認められた.さらにAD マウスモデルであるNC/Nga マウスに E6005 を連続塗布するとAD 様皮膚炎抑制効果が得られたほか,単回塗布による即時的な掻破行動抑制効果も認められた.PDE4 阻害作用に基づく嘔吐誘発に関してキシラジン・ケタミン麻酔覚醒モデルを用いて検討したところ,E6005 は第一世代PDE4 阻害薬シロミラストと比較して嘔吐誘発性が低いことが分かり,治療濃度域の広さが認められた.E6005 は血液中で速やかに代謝され,中枢神経系への分布が非常に少ないこ とから嘔吐誘発性の低下に繋がった可能性がある.これらの結果より,E6005 は全身的暴露を最小限に抑えた局所投与型薬剤として,抗炎症作用のみならず痒み抑制作用を併せ持つアトピー性皮膚炎治療薬として期待される.
著者
相原 一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.135, no.4, pp.129-133, 2010 (Released:2010-04-13)
参考文献数
32

緑内障は特徴的な視神経乳頭障害とそれに伴う視野障害を有する慢性進行性視神経症であり,緑内障性視神経症と捉えられ,その原因は多因子性である.その中で眼圧が最大の危険因子であり,また唯一の治療方法が眼圧下降治療である.眼圧下降治療薬は大きく,房水産生抑制と房水流出促進をターゲットとする薬剤に分かれている.房水産生抑制薬は交感神経β遮断薬,α2刺激薬,および非選択性交感神経刺激薬,また,炭酸脱水酵素阻害薬が存在する.房水流出促進薬としては主としてプロスタグランジン(PG)関連薬があり,その他にはα1遮断薬,副交感神経刺激薬が存在する.PG関連薬は世界的に5種類存在するがそのうちプロスト系と呼ばれる4種類が強力な眼圧下降効果を持ち,1日1回点眼であること,副作用が局所であること,β遮断薬と異なり昼夜の日内変動に関係なく一定の眼圧下降効果を有すること,高いアドヒアランスが期待できることから,第一選択薬となっている.また,点眼薬という特殊な剤型と眼表面からの特殊な眼内薬物移行,ならびに特に緑内障に特徴的な長期にわたる点眼治療を必要とする点から,緑内障治療薬は主剤の特徴のみならず,製剤そのもの,また基剤の防腐剤などの添加剤の眼表面への影響に留意して開発,処方が行われている.また今後上市予定の合剤,将来的には眼圧下降以外の緑内障治療手段として注目されている神経保護薬の開発も待たれる.
著者
生方 公子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.141, no.5, pp.287-289, 2013 (Released:2013-05-10)
参考文献数
12
被引用文献数
1 2