著者
福島 澄也 イア リムセアン 松浦 健治郎
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.925-930, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
17
被引用文献数
1

本論文は、千葉県館山市布良地区における令和元年房総半島台風による建物の外壁被害と風向・風速の関係を明らかにすることを目的とする。また、影響要因として地形要因や隣棟間隔が成立するか検証することも目的とする。調査結果は次のとおりである。第一に、風向・風速と外壁損傷の関係については、強風が予想されなくても外壁が損傷する可能性がある。海に面した外壁は損傷を受けやすい。第二に、被害率の変動は地形の影響を受けることが考えられる。第三に、隣棟間隔と外壁損傷との関係については、隣棟間隔が1m 以下だと被害が少なくなることが明らかになった。
著者
中村 優里 片桐 由希子
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.268-275, 2019-10-25 (Released:2019-11-06)
参考文献数
21

全国都市緑化フェア(以下、緑化フェア)は緑のまちづくりへの継続的な効果を得ることを狙いとした、1983年から続く自治体持ち回り式のイベント事業である。本研究では、過去に緑化フェアを開催した9都市の担当者へのヒアリング調査を通じて、緑化フェアの実施による効果とイベントレガシーとしての定着を把握した上で,その評価の視点を整理した。緑化フェアのレガシーと明確に評価されたのは、会場である都市公園を中心とした公園の利活用の促進、緑化活動の活性化と人材育成に関する事業・制度、関係組織の設立や活性化であり、シティープロモーションの効果も認識されていた。一方、レガシーとしての効果の定着は、フェアの企画・実施の体制の、施策としての展開と連動の有無に依存する。緑化フェアが多様な立場の主体にとっての社会実装の場として、都市における緑の可能性を見出す機会となるためには、緑化に対する意識醸成やライフスタイル、イベントの実施のプロセスを通じた協働の場の構築など社会的な効果など、現状では前後を知る担当者が実感する状況の変化や、他業種の事業者の視点での経済的な効果など、分野を横断し共有するための評価が求められる。
著者
峰嵜 悠 菊池 雅彦 土川 豊 大沢 昌玄
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.918-924, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
22
被引用文献数
1 2

東日本大震災の被災地域における防災集団移転促進事業の移転元地を含む低平地では、土地活用が課題となっており、市町村が土地利活用促進に向けた土地情報の提供を行っているが、その提供方法や留意点については明らかになっていない。本研究では、防災集団移転促進事業を実施する岩手県、宮城県、福島県の移転促進区域を対象に、土地情報の提供の取り組みの分析を行った。その結果、1)対象地は公有地・民有地が混在している地区が存在するが、土地情報を積極的に公開し、特に、周辺の民有地も一体的に、売却、貸し出しの候補として公募するという工夫が見られたこと、2)土地情報の公開にあたり、情報の調査、整理を行うため費用や時間を要すること、民有地の情報の整理、公開に向けては意向調査を行う必要があり、これらに作業時間、人員、費用を要することが明らかとなった。これらのことから、今後の災害復興においても早期に土地情報を整理していくこと、事前復興として、地籍調査や土地利活用の方向性を調査していくことが重要であること、空き地が増加する地方都市においてもこの取り組みが参考になる可能性があることを示すことができた。
著者
橋戸 真治郎 蕭 閎偉 嘉名 光市
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.1451-1458, 2021

<p>日雇労働者のまちとして栄えた大阪市西成区の北東部に位置するあいりん地区は、日雇労働者の生活拠点であった簡易宿泊所が近年、観光客向けのゲストハウスに転用されることに伴い、外国人観光客を惹きつける観光地へと変容しつつある。他方で、観光関連ビジネスは地域活性化の重要な起爆剤とされている一方で、それに伴う施設開発は既存の居住空間の喪失や外部資本の無計画な流入などを引き起こし、地域の持続可能性への課題も指摘されている。本研究の目的は、あいりん地区における建物用途の変容に着目した空間的な分析と、地域関係者の観光化への意見や各主体の関係性に着目した人的側面の分析から、あいりん地区における観光化に伴う地域変容の実態を明らかにすることである。空間的分析の結果から、あいりん地区では観光需要の拡大と地域の住宅用途の建物の老朽化により、空き家を建て壊して宿泊施設へと用途変更する物件が増えつつあることが明らかとなった。また、人的側面の分析から、地域内の店舗が観光客には利用しにくい現状や、簡宿に宿泊する観光客は地域外に滞在する時間が長いことから、観光による経済効果が地域に波及していない現状の課題を解明した。</p>
著者
市古 太郎
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.910-917, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
16

本研究は豊島区を対象に,東日本大震災を挟んで10年間,8地区の復興まちづくり訓練で導出された<事前>復興まちづくり計画について,豊島区の事前復興まちづくりの経緯を事前予防型の防災まちづくり経緯と合わせて整理した上で,アクションリサーチとして進めてきた復興まちづくり訓練の一連の成果を,(1)区が提案した復興まちづくり方針,(2)時限的市街地に関する提案内容,(3)地域主体のくらしとまちの再建に向けた営みアイディア,の3つの視点から分析し,復興訓練地域参加者の意識調査結果も交えて分析考察を行ったものである.
著者
李 瑾 周 霏
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.896-901, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
18

多くの水害ハザードマップでは、紙面での表現が限定されているため、浸水想定区域内のみを示すケースが多い。しかし、浅い浸水想定区域でも、最大流速が速い場合は、避難が困難になる。住民が正確に避難判断を行うためには、最大浸水深、最大流速、浸水到達時間などの複数の情報を掲載することがよいが、すべての住民に高度な情報解釈能力が備わっているとは限らない。ハザードマップを判読する際に、正しい情報を読み取れにくいことから、誤解を招く可能性がある。本研究では、いすみ市ため池(名熊ダム)ハザードマップ作成を事例として、最大浸水深、最大流速、浸水到達時間を掲載しつつ、数値情報への理解が困難な場合でも、より現地に適した災害リスク情報を反映するバッファゾーンの設定を試みる。バッファーゾーンの設定は、簡易氾濫解析データをもとに、国土地理院で公開されている基盤地図情報を用いて、現地調査を行い、浸水想定区域が広がると思われるケース、浸水想定区域が広がらないと思われるケース、標高の観点から簡易氾濫解析データの精度の確認、浸水想定区域の浸水深を消去したケース、既往豪雨時の浸水実績の反映の5つの視点から、現地調査の結果から浸水想定区域の妥当性を判断した。
著者
中野 卓 木内 望
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.888-895, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
20
被引用文献数
2

気候変動により水害リスクが益々高まる中、都市計画分野においても浸水可能性の高い地域の土地利用規制や誘導等を含む水害対策の検討を迫られている。水害リスクを都市づくりで考慮する際に、今日では水防法に基づく洪水浸水想定区域が広く利用されるが、同区域は住民避難の観点から作成され、災害予防を目的とした土地利用の誘導等への活用を目的としたものでない。そこで、本稿では、作成方法と実際の指定状況から浸水想定区域の性格を整理すると共に、地理情報データを用いた浸水想定区域と都市計画の区域・人口集中地区等の重複関係、水害統計調査基本表から洪水による被害実績と浸水想定区域との対応状況を解析し、その結果を踏まえ、土地利用規制・誘導に向けた水害リスク情報としての浸水想定区域の活用可能性と課題を検討した。
著者
奥澤 理恵子 窪田 亜矢
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.872-879, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
12
被引用文献数
2

原発被災地域である福島県南相馬市小高区の中心部であるまちなかを対象に、被災地の再生という観点から被災後も価値をもつ交流の場としての側面に着目し、被災から8年の小高区まちなかにおける新たな交流空間の設置経緯、特徴、利用状況を調査した。立地や外部空間、所有や管理、利用の状況といった特徴から、交流空間の効果として避難指示下の町でも人が集まる空間を作り交流を創出したこと、その後も地域に人を呼び込む仕掛けとなったことなどが考えられる。原発被災地域のまちなかにおける交流空間の意義には、人の活動の可視化、避難指示下であってもまちを訪れる人としての人間関係の構築、様々な人が地域に関わりを持つ契機をつくることが挙げられる。
著者
齋藤 悠介 廣井 悠
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.880-887, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
33

日本の津波伝承において、津波碑は古くから広く使われてきた伝承手段である。本研究では、南海地震津波被災地域の事例を用いて、津波伝承における津波碑が人々の災害前の防災意識に与える影響について考察した。文献をもとにした調査やアンケート調査を通じて、津波碑は強力な情報源としての役割はなく、また人々の具体的で直接的な行動の喚起には繋がりにくいことが分かった。このことから、津波碑は具体的なメッセージを伝える手段としては限界があると考えられる。一方で、即地性が高く永続性のある記録の手段として有効であり、視覚的効果に伴う防災意識の啓発には一定の効果があると考えられる。以上より、「記録」と「啓発」の点に関して人々の防災意識に影響を持つと考えられる。
著者
讃井 知 雨宮 護
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.858-863, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
23

特殊詐欺抑止において,市民が特殊詐欺と思われる事案に遭遇した場合に,その事実を迅速に他者に伝えることの有効性が指摘されている.そこで本研究は,詐欺電話等の接触があった際に,警察,行政,地縁組織,近隣住民に対する市民の情報提供意図を高める要因を明らかにすることを目的とした.特に,情報提供行動と平時における備えを検討するために,日常の地域や家族との関わりが情報提供行動を促進する可能性を検討した.特殊詐欺における情報提供行動が期待できる世帯類型である高齢者夫婦のみ世帯を対象とする質問紙調査を行い,874世帯の夫婦それぞれから回答を得た(n=1748).マルチレベルSEMによる分析を行い,情報提供の意図を高める心理プロセスのモデル検証した.その結果,平時におけるまちづくりへの参加意識が情報提供意図を高め,また夫婦間のコミュニケーションがまちづくりへの参加意識を高める可能性があることを明らかにした.
著者
片野 裕貴 赤松 一澄 田村 将太 田中 貴宏
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.851-857, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

近年、我が国では、降雨の集中化、激甚化が進んでおり、全国各地で毎年のように大規模な豪雨災害が発生している。中でも、平成30年6月28日から7月8日にかけて、梅雨前線と台風7号が引き起こした豪雨は、西日本を中心に甚大な被害を広域にもたらした(平成30年7月豪雨)。豪雨災害による被害拡大の要因としては、降雨強度の増大以外にも、危険性が相対的に高いエリアの都市化(市街地縁辺部へのスプロール、低平地の農地転用による宅地開発など)があると考えられ、これによる土砂災害や水害の危険性増大も指摘されている。そのため、豪雨災害対策としては、堤防やダム等の防災施設整備に加え、土地利用のコントロールや危険性の高いエリアにおける建物の建て方の工夫等も必要と考えられる。そして、そのためには、被害を受けやすいと考えられるエリアや建物の特性を把握する必要があると考えられる。そこで本研究では、実際の建物被害データとして罹災証明書発行のための調査データ(罹災証明書データ)を用い、土砂災害、水害を合わせて対象とし、被害を受けた建物の特性やその立地特性を把握することを目的とした。
著者
土屋 依子 伊藤 史子 田頭 直人 池谷 知彦 馬場 健司
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.46-57, 2016-04-25 (Released:2016-04-25)
参考文献数
15
被引用文献数
1 4

本研究の目的は、電気自動車の地域別の普及可能性を明らかにすることである。まず、2011年1月に実施したアンケート調査により収集した自家用車の利用データにより、自家用車の利用実態と、それらを規定する要因を特定した。次に、関東圏を対象に作成した地域類型を用いて、地域類型別の自家用車利用の比較分析を行った。自家用車利用の規定要因では、自家用車の保有台数や年間走行距離、1日当たりの最長走行距離は、世帯・個人属性と居住地特性や車両属性などの影響をうけ、利用頻度は、長距離では年齢と鉄道の利便性、短距離では世帯属性よりも居住地特性・車両属性による影響をうけることがわかった。また、人口や住宅等の居住状況による「居住類型」を用いて、EVの走行可能距離や経済的な優位性、充電利便性の条件を総合的に分析した結果、EV適合車両の比率は、近郊外・外郊外と都心から外縁部にいくほど高まる傾向があることが明らかとなった。
著者
柿本 竜治 吉田 護
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.843-850, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
13

「平成30年7月豪雨」では,西日本を中心に多くの地域で河川の氾濫や浸水害,土砂災害が発生し,死者・行方不明者232人の甚大な災害となった.気象庁から注意報や警報,市町村から避難勧告や避難指示など様々な情報が発信されたが,多くの避難遅れが発生した.豪雨時の避難遅れの一つの要因として,住民の災害対応に状況認識の失敗が推察される.災害時の状況認識の失敗には,人々の避難行動の意思決定のための災害情報や周辺環境に対する認知的な限界の存在があろう.そこで,本研究では2018年7月の西日本豪災害で被災した地域を対象に避難に関するアンケート調査を行い,気象情報,避難情報の取得から豪雨時の避難行動までの流れを「思考の負荷が低く,直観的,自動的ですばやく行動に結びつくシステム1」と「意識的思考を駆使し,負荷が高く,分析的で論理的なシステム2」を考慮したフレームに整理することを目的とする.具体的には,気象情報や避難情報の取得から避難まで流れを,防護動機理論に基づいて整理するとともに,そこにヒューリスティックな意思決定の一つである自然主義的意思決定の考え方,その中の状況認識理論を援用する.
著者
坂本 淳
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.836-842, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
17
被引用文献数
1

本研究は,中心市街地の広範囲が津波浸水想定区域となる都市においては,津波災害リスクに対する意識が高い者ほど,そのリスクおよび公共交通の利便性が低い郊外に居住し,自動車に依存した生活になる傾向にあるという仮説を立て,それを検証することを目的とするものである.高知市における住民の居住実態,津波災害リスクに対する意識,家族の日常の交通行動,および転居前後の交通利便性を把握する調査を実施し,得られたデータを分析したところ,本研究の仮説を支持する結果が得られた.定量的な分析の結果,防災面を重視して,以前の居住地よりも郊外の居住地に転居した者の割合は,それを重視していない者と比較して28%高いことが示された.
著者
岩見 達也 室崎 益輝
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.847-852, 1996

The purpose of this paper is to clarify the cause origin of the fire after HANSHIN-AWAJI earthquake. The hearing research to the residence around the fire was carried out to find out the mechanism of fire outbreak caused by earthquake-"origins of fire", "burned things", "process". Following things beome clear; (1) The fires related with electricity were concerned with the recover of the power failure, (2) The gas appliance and the oil heater were conspicuous as soon as the earthquake occurred, (3) In burned things, the one which was caught fire from gas is overwhelmingly. So We must think the planning and restorations of life line.
著者
三木 怜 松本 邦彦 澤木 昌典
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.829-835, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
10

本研究は、商店街に立地し、地域との関わりを持つ小規模宿泊施設(以下、対象施設)に着目し、これらの交流機能や周辺店舗に依存する性質等が、商店街の活性化に寄与すると仮定を立てた。対象施設へのアンケート調査や、対象施設・商店街組織へのヒアリング調査から、対象施設が商店街へどのような影響を与えているのかを明らかにすることを目的とする。アンケート調査より対象施設の運営主体は、商店街への帰属意識や商店街関係者との協力の程度が、開業時と比較して強くなっている傾向があることが明らかになった。また対象施設は4類型に分類でき、主要な開業目的が商店街や地域の活性化である商店街主導型3件と地域活性化主体型5件、地域活性化を目的としない多機能型5件と宿泊機能重視型10件であった。商店街主導型と地域活性化主体型では、宿泊者向けの商店街他店舗との交流を誘発するサービスを提供しているが、地域住民の商店街利用が増加するような影響はあまり確認できなかった。一方、多機能型は宿泊者以外の商店街利用が増加する効果もみられる等、結果的に商店街活性化に寄与していることが明らかになった。
著者
新保 奈穂美 太田 尚孝
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.799-805, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
38

コミュニティガーデン(CG)は社会問題の解決に資する多機能的な空間として認知されている。しかし、その運営は不安定なことが多く、行政支援が必要である。本研究はドイツの社会都市プログラムに着目し、ベルリン市のCGが地域・地区の住環境向上の名目のもとどのように支援されているのかを明らかにする。関連主体のインタビュー調査により明らかになったのは、同プログラムは新規CGのためにコーディネーターとなる企業・組織を確保し、初期費用を助成していたことである。一方、既存CGへは発展的な活動に使える資金を助成していた。結論として、社会都市プログラムは新規あるいは既存のコミュニティガーデンプロジェクトに対して資金や関係主体調整の面で支援をしていたといえる。
著者
多田 裕樹 村上 暁信 手塚 勇太
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.791-798, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
20

本研究は都市内に生じる生物季節の実態把握を目的に,東京都心の半径約2kmの範囲内にある,58カ所(169本)のソメイヨシノ(Cerasus x yedoensis ‘Somei-yoshino’)の開花日・満開日の時空間的特徴を2か年にわたり調べたものである。さらに,その差をもたらす都市特有の要因として気温と日射量に着目し,その影響を分析した。本研究により,東京都心部の半径2kmという範囲におけるソメイヨシノの開花および満開の早晩の空間的特徴が明らかとなった。さらに,ソメイヨシノの開花と満開は,経年的に安定した動態を示すものであること,半径2kmの限られた範囲内でも範囲のなかにも大きな生物季節の差が生じ得ることが示された。移動観測により把握した気温分布と,開花日の早晩は必ずしも一致しなかったが,気温のばらつきの多い調査地点には,広幅員道路付近あるいは大規模緑地と市街地の境界付近という特徴が見られた。日射量と生物季節の間に明確な関係は確認されなかった。
著者
西谷 麟 植田 直樹 村上 暁信
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.783-790, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
12
被引用文献数
1

建物が密集する都市部において緑を創出していく上で、公共空間を新たに確保することは困難であることから民有地緑化が重要視されている。そこで本研究では、民有地緑化の緑化計画と実際の緑化の実態を明らかにし、現行の緑化規定の有用性を評価するとともに望ましい誘導策について考究することを目的として、現地の状態、緑化空間の分類、そして3Dモデルを用いて緑視率とMRTを分析した。その結果、計画段階において緑の維持が困難であり実効果も低い緑化空間が見られた。現行条例はあくまでも緑化空間の面積基準に留まっており、本来期待されている景観の向上効果や都市環境の改善効果の低い、緑化基準を満たすための緑化空間が創出されうるという実態が明らかとなった。
著者
福本 優 大平 和弘 藤本 真里 赤澤 宏樹
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.777-782, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
13

本研究は、神戸市の緑地協定に基づく自主管理型開発公園について、空間的特徴と協定に基づく管理や責任に関する所有者意識の実態について文献調査とアンケート調査により明らかにした。調査の結果、自主管理型開発公園は空間的特徴から「エントランス型」「分離型」「裏型」の3つに類型され、それらは開発規模や接道条件により影響されることがわかった。「エントランス型」「分離型」として計画されると公園の自主管理意識が増加し自分たちで実施できる管理項目については自主的に管理している一方で、「裏型」として計画された自主管理型公園は維持管理が外注され自主管理意識が減少することが明らかとなった。加えて、「エントランス型」「分離型」では自主管理型開発公園を地域へ開放する意識は高いが、「裏型」になるとその意識も低下することが明らかとなった。また、自主管理自体の課題も多く所有者が開発公園を自主管理するための支援の必要性も明らかとなった。今後は開発協議の時点でのデザイン誘導や維持管理の支援の仕組みを検討することで都市空間の質的な向上に寄与し、持続的な管理が可能な自主管理型開発公園の在り方が必要であると考えられる。