著者
中村 一樹 大矢 周平 木野村 遼 藤井 翔太
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.769-776, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
15

リニア新幹線整備は,広域な観光ネットワーク形成に貢献することが期待されるが,沿線の大都市から周辺地方都市への周遊観光のような波及効果を生み出すかは疑問である.これは,地域交通の交通利便性の問題だけでなく,地域観光の拠点整備や情報提供の問題にも起因すると考えられる.そこで本研究は,リニア駅の近隣県となる三重県を対象に,都市別の余暇活動の特徴をSNSから整理し,リニア開通を想定した周遊観光の潜在的な選好を調査から把握する.まず,位置情報付きのSNS投稿データを用いて,三重県における観光資源の空間特性を把握する.そして,これらを含めた観光地情報を用いて,関東圏の住民を対象とした周遊観光の選好をWEBアンケートで調査する.最後に,周遊観光による各観光地の来訪意欲を,リニア整備の有無を考慮して明らかにする.
著者
成田 茉優 落合 知帆
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.761-768, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
16

昨今、地域経営や地域運営組織などが掲げられ、コミュニティや共同による地域資源の活用が進められている。地域の歴史を遡ると日本では入会による資源の活用がなされていた。現在、滋賀県大津市の南小松入会地管理会が保有する近江舞子浜も、かつては村中共有の入会地であり、一部が財産区となっていた経緯を持つ。近江舞子浜は、毎年数十万人が訪れる滋賀県内有数の水泳場且つ琵琶湖八景にも指定されている景勝地でもある。本研究は、南小松において約120年に渡り引き継がれてきた地域組織による観光開発と景勝保全活動を実例とし、共同管理の要因を探るため、土地所有形態と管理体制の歴史的変遷を明らかにすることを目的とした。文献調査、聞き取り調査、現地踏査から、目的に則った事業及び活動を機能させるための組織編成が地域内で可能であり、公益的な利益配分を前提とした財産保全の母体組織が存在したことが、共同精神での持続的な管理及び運営を可能にしてきたことが分かった。
著者
腰塚 武志
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.37-42, 2002-10-25 (Released:2017-11-07)
参考文献数
5

In the present paper, we discuss the measure of the point pairs whose distance are less than a distance r in a given area. By differentiating this measure with respect to r, we get the function f(r) which is called by distance distribution. Using formulae in Integral Geometry, we get an approximate polynomial for the distance distribution in an arbitrary convex region. The approximate expression consists of the area S and the perimeter L of the region and have good fitness to the numerical distributions of governmental districts in Tokyo.
著者
石川 幹子 カビリジャン ウメル 黎 秋杉 横山 紗英
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.753-760, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
16
被引用文献数
1

本研究は、2008年5月に発生した四川汶川大地震における都江堰市の復興緑地計画の考え方と10年間の復興のプロセスを検証し、巨大災害の復興における自然環境を生かした社会的共通資本(グリーン・インフラストラクチャー)の特質を明らかにしたものである。第一に復興の目標は、2300年の歴史を有する古代水利工により網の目のように発達した水路網を基盤として、世界遺産生態都市の再構築をめざしたものであり、生態系の回廊が創り出された。農村地域の再生は途上であるが、文化的景観として、継承されてきた「林盤」の保全・再生が大きな課題となっており、本研究では、詳細なフィールド調査に基づく、データベースを作成し、現地調査を踏まえて、林盤の構造と特色を明らかにし、これを踏まえて、保全・再生に向けた基本的視座の提示を行った。
著者
守谷 修
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.737-744, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
30
被引用文献数
1

20世紀後半以降、人口減少や地域経済の衰退等による都市の縮退は、日本のみならず欧米の各都市で発生している。都市の縮退に伴って生じる低未利用地が課題となっている一方、これらを都市において新たな緑地を創出するための好機と捉え、積極的に活用していく必要性が指摘されている。そこで、本研究では、都市の縮退を経験したイギリスの産業都市の中でも特にリバプール市を事例に、低未利用地の緑地的活用施策の現状を把握・整理し、日本への示唆について整理することを目的としている。文献調査や市担当者等へのヒアリング、国内事例である柏市のカシニワ制度との比較分析から、本研究は主に以下の点を明らかにした。(1) コミュニティガーデン等による低未利用地の緑地的活用に対する行政の支援は、助成や土地所有者と市民団体等との仲介があり、基本的に住民に近い区単位で実施されている。(2)財政的支援は多様であり、行政だけでなく、宝くじ基金、健康医療機関、企業等から行われている。(3)市民団体等への技術的支援は、社会的企業やNPO等の中間支援組織により提供されている。
著者
竹田 彩夏 川原 晋 野田 満
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.729-736, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
12

本研究の目的は、ケーススタディとして伊勢神宮内宮を用い、口話による観光ガイドツアーとの比較に基づいた手話による観光ガイドツアーの特徴や傾向を明らかにすることである。その上で、ユニバーサルツーリズムの推進を見据え、手話による観光ガイドツアーにおける情報提供の量及び質の向上に向けた考察を行う。本研究では以下の3点が明らかになった。1)手話による観光ガイドツアーを実施する組織には、手話による観光ガイドツアーのみを行う組織と、口話による観光ガイドツアーも実施する組織の2種類が確認されたが、いずれも数は極めて少ない。前者組織内における手話のレベルが一定ではないことや、観光ガイドツアーの実施において、ガイドの説明を視覚的に妨げる障壁の存在が明らかになった。2)口話による観光ガイドツアーに比べて、手話による観光ガイドツアーは話題の数が少なく、そのカテゴリーにも偏りがみられることがわかった。3)同じエリアを対象としていても、手話による観光ガイドツアーと口話によるガイドツアーは経路や停止地点、情報の提供場所等に差異があることが明らかになった。以上より、手話による観光ガイドツアーにおける考察を示した。
著者
植田 直樹 村上 暁信
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.713-720, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
14

本研究の目的は,都市緑地の評価認証制度と緑化条例等との相補関係を明らかにすることである。近年,都市緑地の評価認証制度がいくつか開発されており,企業活動においても利用される機会が増えているが,緑化誘導のための緑化条例のような公共関与の施策と認証制度の関係は研究がされていない。そこで実際の認証取得事例を用いてそれらの評価項目とその内容を分析した。その結果,緑化条例を満足するだけでは認証を取得することはできないこと、そして緑化条例は事業単独での緑地の価値発揮を誘導するものであり,緑地の複合的な価値や緑地の利用価値の発揮については評価認証制度が担うという相補関係を見出すことができた。またそうした相補関係の今後の展開には複数のパターンが存在することが検証できた。それをもとにこれからの緑化条例に関する議論が可能になることが明らかになった。
著者
蕭 閎偉
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.705-712, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
30
被引用文献数
1

本稿では地域住民の提案により地域内に存在する遊休空間を改造して活用するOSを「地域住民提案型OS」と定義し、台北市において2014年から推進されてきた「オープングリーン」(OG)事業の中で創出された地域住民提案型OSに着目する。本稿では、以下2つの仮説を検証することを目的とする:仮説1) 台北市ではこれまでの一連のまちづくり関連施策と住民主体による空間提案の経験蓄積から、台北市の全域に地域住民による活発なOGの提案がなされている:仮説2) 住民主体によるOGの提案により創出された地域住民提案型OSでは、多様な空間利用が実現されている。本稿ではまず、背景としての台北市のまちづくりと遊休空間の活用をめぐる動向を整理した。本稿の成果を以下に示す:仮説1)の検証からOGの提案件数、立地条件、面積などに地域差があったものの、OGは今までのまちづくりの成果の継承のみならず、今後の新たな担い手の出現の契機にもなっていると解明した。仮説2)の検証から、住民主体のOG提案により地権者や既存空間の現状に縛られず多くの遊休空間の活用に成功し、更にOGでは1件あたり4種類もの多様な空間利用が共存し、「地域住民提案型OS」の多様性と可能性を明確に示唆した。
著者
平野 一貴 田中 貴宏
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.697-704, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
78

近年、地球の環境問題として、化石燃料の枯渇や地球温暖化が挙げられており、その対策の一つとして再生可能エネルギー活用が求められている。一方、我が国の島嶼部では多くの地域で人口減少や高齢化、およびそれに伴う地域社会の衰退が課題となっている。本研究の対象地を含む瀬戸内海の島嶼部においてもこれらの課題が見られるが、その一方、温暖な気候や豊かな森林、豊富な果樹園などの自然資源に恵まれており、冒頭の課題解決の方策の一つとして木質バイオマスエネルギーの活用が考えられる。木質バイオマスの利用はカーボンニュートラルであり、また、その利用過程において雇用創出や地域内経済循環を生み出すことも可能と考えられる。以上より、瀬戸内海の島嶼部における木質バイオマスエネルギー活用可能性を検討する必要があると考えた。本研究では瀬戸内海の大三島を対象に、地形や、森林多面的機能を考慮した伐採エリアを抽出し、そこから得られる木質バイオマス量を推定する。その後、経済性、CO2排出削減を考慮した木質バイオマスエネルギーの活用シナリオを作成し、評価することにより、その活用可能性を明らかにすることを目的とする。
著者
谷本 翔平 氏原 岳人
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.1253-1259, 2019

<p>本報告では、スポーツ観戦者に対するMM(Mobility Management)として、Jリーグのファジアーノ岡山の試合観戦者を対象として、自家用車から徒歩や自転車、公共交通などに行動変容させるための複合的な施策を提案し、実施した。その結果、2017年(初年度)は自家用車来場者かつMMに関する本プロジェクトを認知している試合観戦者のうちの10%(全自家用車来場者の7%)が自家用車以外の手段に転換した。転換者の属性は、30代~40代が多く、サポーター歴が長いこと、単独での観戦者である傾向があった。また、手段転換のきっかけとしては「ワンショットTFP」が最も多く挙げられていた。その一方で、二年目には、プロジェクト認知度と手段転換者割合ともに減少しており、継続的な効果につなげるための課題も見えた。</p>
著者
清水 哲夫 川原 晋 片桐 由希子
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.782-787, 2017

本研究は,高尾山地区の観光地マネジメント構想をサポートする駐車場マネジメントシステムの提案に向けて,事前予約制駐車場を配備した場合の駐車料金に対する支払意思額の特性を,来訪者への意識調査から詳細に分析した.自動車来訪者には,当日利用した駐車場をベースに,それが事前予約制になったり遠隔地になったりする場合に支払ってもよい予約料を,公共交通来訪者には,駐車料金を仮想的に与え,それが事前に予約できる場合に支払ってもよい予約料をそれぞれ尋ねた.分析の結果,平均的には駐車料金の半額相当が予約料として支払意思があると認められ,予約料に対する支払意思が高い層として, リピーター,子供連れ,駐車場確保の確実性を重視する層などを抽出した.
著者
細江 美欧 桑野 将司 森山 卓
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.690-696, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
12

近年,ビッグデータの新たな分析手法として,クラスタリング手法の1つであるグラフ研磨が提案されている.グラフ研磨はグラフに属する頂点を類似指標に基づいてグルーピングする方法である.本研究では,グラフ研磨を用いて交通系ICカードの乗降履歴データに基づくOD表から乗降パターンが類似する駅を抽出する.具体的には,香川県で運行されている鉄道路線「ことでん」において利用可能な交通系ICカード「IruCa」の2013年12月1日から2015年2月28日までの15カ月間に得られた乗降履歴データを用いる.この期間に蓄積されたデータは9,008,709件であり,得られるOD表にグラフ研磨を適用した.得られた結果からは,利用件数の大小に関わらず類似した乗降パターンを持つ駅を抽出できることが明らかとなった.このような本研究の成果により,交通需要分析におけるグラフ研磨の有用性が確認された.
著者
山本 和也 薄井 宏行 浅見 泰司
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.688-695, 2019-10-25 (Released:2019-11-06)
参考文献数
11
被引用文献数
1

今日では、高齢者の生活の質を維持するため、高齢者の歩行距離を軽減してモビリティを確保することが重要な課題の一つとなっている。公共交通機関の利用に伴う歩行距離を軽減する施策の一つとして、路線バスのフリー乗降制の導入が挙げられる。本研究では、フリー乗降制が導入されているバス路線における利用者の総所要時間を求めるモデルを構築した。また、都市部を走行する横浜市青葉区のみたけ台線に対してモデルを適用し、利用者の総所要時間を最小化するフリー乗降区間の配置を求めた。モデルの適用結果から、時間帯ごとにフリー乗降区間の配置を変えることで、総所要時間と総歩行時間を共に短縮できることが明らかになった。
著者
田淵 景子 福田 大輔
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.666-673, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
10
被引用文献数
1

本研究では,再帰ロジット型交通モデルを用いてサブスクリプション型MaaSの設定を評価する方法を提案した.提案方法は,与えられたMaaSの条件(サブスクリプション型MaaSに含まれる交通手段やその範囲等)に対して,利用者が支払いたいと考える最大の定期利用料金を交通行動理論と整合的に算出し,適切なMaaSの範囲設定と料金水準の関係を定量的に明らかにすることができる.ケース・スタディとして,東京都市圏パーソントリップ調査データを用いてマルチモーダル再帰ロジット交通行動モデルのパラメータ推定を行い,良好な結果を得られたことを確認した.その上で,構築したモデルを東京都市圏の特定地域に適用してMaaS導入評価のシミュレーションを行ったところ,MaaS導入前の現状の交通サービスの料金設定と比べて,MaaS導入後には妥当な許容定額料金が算出されることを確認した.これにより提案する評価手法に一定程度の妥当性があることを明らかにした.
著者
田中 康仁 小谷 通泰 寺山 一輝
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.659-665, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
16
被引用文献数
1

本研究は、神戸市の都心商業地域において、自動車による来街者を対象に実施された駐車場の利用実態調査の結果を用いて、駐車場の選択行動に影響を及ぼす要因を分析することを目的としている。この結果、まず、提携駐車場の利用者は非利用者に比べて、滞在時間、移動距離、訪問先など、都心での活動が制約されていることがわかった。非利用者については、駐車場所と駐車時間の選択行動を離散-連続選択モデルであるTobit Model(TypeⅡ)により記述し、両者の選択行動の相互依存関係とともに駐車料金、目的地への歩行距離などの選択要因を明らかにした。また、駐車時間別に駐車場所の選択行動モデルを多項ロジットモデルにより推定し、駐車時間が長くなるほど、目的地までの距離よりも駐車料金に対するウェイトが高まることを示した。
著者
玉井 香里 三好 庸隆
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
日本都市計画学会関西支部研究発表会講演概要集 (ISSN:1348592X)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.13-16, 2018 (Released:2018-07-25)
参考文献数
7

昭和30年代以降に建設された住宅団地では居住者の高齢化、建物の老朽化の他様々な問題を抱えている。 本研究では大阪府住宅供給公社の茶山台団地でのアンケート調査結果から、居住者がどのようなこと関心をもち、不安を感じているかを明らかにすることを目的としている。 茶山台団地では高齢者が住みやすいまちづくりが望まれている。特に配食や買い物支援について、今後対策すべき課題と考えられる。併せて災害時への備えや避難に対しての不安を感じている居住者が多いことから、防災組織を整備する必要もあると考えられる。
著者
柿本 佳哉 津々見 崇 十代田 朗
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.1320-1327, 2019-10-25 (Released:2019-11-06)
参考文献数
9
被引用文献数
1

全国各地の自治体レベルでは、独自の価値基準を設け選定を行う地域遺産の取組みが見られる。本研究では選定から年数の経過した全国16地域の地域遺産を対象に活用実態を明らかにした。さらに、継続的・多様な活用が行われている二戸市・にのへの宝、長岡市・地域の宝、沼津市・ぬまづの宝100選を対象に地域遺産の活用と関連がある行政計画で想定された活用方法を明らかにした。最後にこれらの地域が継続的・多様な活用に至った要因を考察した。本研究の結論は以下の通りである。①地域遺産の活用内容は幅広く、保全に取り組むものから教育への採用も見られる。選定後2年を境に新たな種類の活用はあまり見られない。②継続的・多様な活用をしている地域の行政計画には、観光産業への活用を図る旨の記載が見られ、地域外への宣伝を意図した活用が計画されていることが分かった。③継続的な活用には資源の価値を共有し、地域住民の参加を促した後、地域外へ情報発信して観光に活用するという段階移行が有効であることが分かった。地域住民の参加を促す際には、参加しやすい活動から取り組むことで、地域遺産に対する意識が徐々に育成され、継続的な活用に繋がるものと考えられる。
著者
森本 米紀
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画. 別冊, 都市計画論文集 = City planning review. Special issue, Papers on city planning (ISSN:09131280)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.859-864, 2003-10-25
被引用文献数
2

本考察の目的は、旧都市計画法における受益者負担制度の展開を、実務的・具体的都市レベルにおける主体・制度・実践・思想の相互作用として捉えることにある。方法として、神戸市を対象に、各都市個別に制定された実施細則である受益者負担規程の制定段階・実践段階・再検討段階、以上3段階について、それぞれ分析する。神戸市を対象としたのは、1)全国2番目の受益者負担規程制定都市であり、2)初期的・典型的な負担者による反対運動が発生・長期化し、3)神戸市規程が全国に普及版的な役割を果たしたためである。制定段階においては、受益者負担制度の制度的特質が、旧法体制の意思決定手順を通して、都市レベルにおける諸主体(内務官僚・都市官僚・市会議員)の合意のもと、受益者負担規程上で確立したと言える。その制度的特質とは以下の4点。特質(1)官僚勢力による負担義務決定過程の独占、特質(2)負担義務遡及基準の明確化、特質(3)負担金短期回収方針、特質(4)「著しい利益」に対する広義の解釈及び「著しい利益」と負担義務の数値的整合性追究の不必要性。実践段階において、負担者による反対運動が特に問題としたのは、既設路線に対する負担義務の正当性、及び、負担義務の根拠となる「著しい利益」の解釈であった。前者は特質(2)、後者は特質(1)及び(4)の不当性を問題化していた。しかし負担者らの主張は、官僚勢力に全面却下され、負担者らの代表となり得る市会議員勢力が対応策として提示し得たのも、負担金回収期限の延長、つまり特質(3)の改善のみであった。実践段階におけるこの主体間の主張の食い違いは反対運動を継続・発展させる。このような反対運動の発生とその長期化における諸主体の対立は、1920年代半ば以降、受益者負担規程制定都市において多発する。その解決は旧法下における都市計画事業推進上の全国的共通課題となり、受益者負担規程は再検討段階に至る。特に内務官僚の一部から提案された対応策には以下の2つの方向性が存在した。(1)「著しい利益」の限定的解釈と土地評価委員制度の導入、(2)回収期限延長など暫定的措置と思想善導・啓蒙策の実施。(1)の方向性は、多発・長期化する反対運動が問題とする、特に特質(1)と(4)に転換を迫る受益者負担規程の改正を実現化させようとするもので、直接的な対応により、運動の収束を企図したものであった。「著しい利益」を、金銭的(数値的)に算定し得る個別的な特別利益に限定し、その範囲内での数値的精密度を追究した負担義務とすべしとされ、また、その上で、官僚のみならず負担者も加入した土地評価委員制度の設置により、負担義務決定過程への負担者の介入が構想された。対して(2)の方向性は、既往の受益者負担規程運用の絶対性の強化による特質の遵守によって、受益者負担制度の実効力を高めようとするものであった。負担者の不満に対しては、思想善導・啓蒙策で対応し、負担者の負担義務決定過程への介入排除の徹底化をはじめとする、官僚勢力の独占的主導性の再強化によって、負担金回収成績の向上を図ろうとした。結局、悪化する都市計画事業財源逼迫状況によって、受益者負担金の早期かつ確実な回収の緊要性がさらに要求された、神戸市をはじめとする実務的・具体的都市レベルにおいて選択されたのは、後者(2)の方向性であった。「著しい利益」の限定的解釈により、賦課し得る負担義務の可能性を狭め、また、負担者も介入する土地評価委員制度の導入により、負担義務決定までに長期間の複雑な協議を要する事態は、採用し得なかったのである。それに伴い、神戸市においても、反対運動への対応策として、新聞・雑誌上で積極的な思想善導・啓蒙活動が展開される。また規程改正案としても、回収期限延長の提案程度に止まり、反対運動は収束することなく、より長期化する。神戸市が、反対運動が言及する制度的特質の転換に踏む込む規程改正を成し得なかったことで、実態との矛盾は拡大、受益者負担規程は失効し、受益者負担制度そのものの地位が低下する。同様の傾向は、他の規程制定都市でも見られ、旧都市計画法上の受益者負担制度の衰退に至る。以上、本考察を通して明らかとなった、受益者負担制度の展開における、実務的・具体的都市レベルの主体・制度・実践・思想のあり方が、都市空間にいかに反映したのか、また、以降の都市計画事業・都市計画制度の展開に、神戸市内部及び全国的にいかに影響したかについてを、今後の課題としたい。
著者
三瀬 遼太郎 井原 雄人 森本 章倫
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.652-658, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
25
被引用文献数
1

パリ協定で定められた温室効果ガス削減目標を達成するためには、特に影響が大きい交通環境負荷の低減が不可欠である。そこで、複数の低炭素な次世代交通機関を導入することで、交通環境負荷を削減する試みが注目されている。本研究では、電気自動車(EV)、次世代型路面電車システム(LRT)、自動運転車、電動バスに着目して、交通量、EV普及率、発電構成比の観点から、実際の交通流の想定下で次世代交通が及ぼす環境改善効果を定量的に評価した。その結果、対象地である宇都宮市においてLRTが開通した際に環境負荷を低減するには、10%以上の自動車交通量の削減が必要であることを明らかにした.さらに、宇都宮市を対象に、次世代交通の導入を想定したうえで、公共交通を推進する政策や太陽光発電を推進するエネルギー政策の導入を仮定し、交通環境負荷の将来推計を行った。その結果、現状では公共交通を推進することで大きく環境負荷が低減するが、将来的に自動車のEV化が進み、かつ電力のCO2排出係数が小さくなると、その利点は薄れることを明らかにした。