著者
町田 匠人 真野 洋介
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.1310-1317, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
14

本研究では新宗教に根ざした都市として天理を取り上げ、天理の都市の誕生から現在までの一連の中心市街地の変容を明らかにすることを目的としている。信者数や宗教施設の建設数など定量的な天理教の教勢の変化は、第二次世界大戦やオウム真理教地下鉄サリン事件などの出来事を境に3つの時期に区分されるが、天理の中心市街地の変容もそれらの時期区分毎に特性が異なるため、本研究では天理の都市の誕生から戦前までを第一期 : 「信者過多期」、戦後から1980年頃までを第二期 : 「都市発展期」、1990年頃から現在までを第三期 : 「教勢衰退期」と定義して、教勢の変化と新宗教都市の変容との関係性を考察している。また、統計資料や地図等の定量的な分析に加えて、商店街歩行者、商店主、宿泊施設経営者等様々な主体に対するヒアリング調査を行うことで、宗教都市の変容を多視点から考察している。結果として、天理の中心市街地は天理教の教勢に牽引されて発展し、天理教の信者も非信者も利用する都市へと発達したことが明らかになった。また近年では天理教の教勢の衰退に伴って宗教に依存するだけの産業は衰退傾向にあることも明らかとなった。
著者
五島 寧
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.513-518, 2013-10-25 (Released:2013-10-25)
参考文献数
66

本研究は,日本統治下の京城(現;韓国ソウル)市街地建設において,日本人居留地の与えた影響を分析した。日本人居留地では優先的にインフラが整備されたと説明されることが多いが,本研究は,実証的な分析を通して,全く異なる結論を導きだしている。朝鮮総督府は,インフラの平準化を目指していたため,既に一定の都市基盤を備えていた日本人居留地への社会資本整備に消極的で,日本人住民の要望にも冷淡だった。そのため,本研究では,日本人居留地の存在は,都市計画や市区改正における与条件として機能しなかったと結論している。
著者
土肥 真人
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.37-42, 1992-10-25 (Released:2019-12-01)
参考文献数
7
被引用文献数
1

THE POLITICAL, ECONOMIC, AND SOCIAL MODERNIZATION HAD OCCURRED AT THE TRANSITION PERIOD FROM EDO ERA TO MEIJI ERA IN JAPAN. IT IS THE PURPOSE OF THIS THESIS TO CONSIDER HOW THAT MODERNIZATION HAD EFFECT ON SPATIAL CHANGE OF URBAN OPENSPACE OF EDO TO TOKYO. OUKAN OF EDO, WHICH SPATIALLY CORRESPONDS TO PRESENT ROAD, HAD WORKED AS AMUSEMENT QUARTERS OR SOCIAL COMMUNICATION PLACES. BECAUSE OF THE CHANGE OF LANDOWNING-SYSTEM FROM FEUDALISM TO MODERNISM AND THE INTRODUCTION OF VEHICLES FROM WESTERN EUROPE AT MEIJI ERA, THE CHARACTER OF OUKAN HAD ALTERED TO A ROAD WHICH IS MAINLY FOR TRANSPORTATION UNDER OFFICIAL MANAGEMENT. AND SOME FUNCTION ELIMINATED FROM OUKAN HAD BEEN ALLOTTED FOR THE PUBLIC PARKS ALSO UNDER OFFICIAL MANAGEMENT. IT COULD BE CONCLUDED THAT THE PUBLIC PARKS HAD EMERGED AS VERY MODERN SPATIAL APPARATUS.
著者
前田 菜緒 太田 尚孝 新保 奈穂美
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画報告集 (ISSN:24364460)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.20-23, 2023-06-09 (Released:2023-06-09)
参考文献数
16

近年、短時間強雨の発生回数の増大により洪水発生リスクが増大している。本研究では対策としてグリーンインフラの一種である雨庭を取り上げ、先進的に整備の進んでいる京都市における雨庭の導入、整備のプロセスと維持管理の成果・課題を主体間の関係性と防災・減災効果と共に明らかにすることを本研究の目的とした。GISを用いた立地分析、文献調査、ヒアリング調査、現地調査を通し、本研究では以下の三点が明らかになった。1.現状では日常的なレベルの降雨には対応できるが極端な水災害との関係性は薄いといえる。2.京都造園建設業協会からの提言があり京都市が主体的に整備することで雨庭整備が実現し維持管理を地域ボランティアが担っている。3.整備は途中段階であり、維持管理に際して行政とボランティア間のズレがある。
著者
秋間 弘貴 後藤 春彦 山村 崇
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.644-649, 2015-10-25 (Released:2015-11-05)
参考文献数
14

本研究では、わが国の代表的なアニメ産業集積地である東京西郊を分析の対象地として、アニメ制作企業における立地選好の変化をデジタルに伴う作業工程の変化に着目して分析を行う。具体的には次の2点を明らかにする。(1)デジタル化に伴う作業工程の変化 。(2)デジタル化前後における立地要因の変化。近年、コンテンツ産業はその高い成長性から注目されている。その中でも、アニメ産業地域経済の牽引役として期待されている。デジタル化に伴うアニメ産業の立地要因とその変化を分析することは、産業集積の展開を推定する事になるほか、ポスト工業化時代における地域経済の牽引役として重要性を高めつつある、コンテンツ産業の立地特性を理解するためにも重要である。
著者
北崎 朋希
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.583-588, 2011-10-25 (Released:2011-11-01)
参考文献数
7
被引用文献数
6 3

本研究は、都市再生特別地区による公共貢献と規制緩和の実態と課題を明らかにしたものである。都市再生特別地区は、2010年12月末時点で全国51件指定されており、約7割が東京都、大阪市、名古屋市において活用されている。事業者から提案された公共貢献には、制度創設初期は従来の規制緩和手法で用いられていた「広場・通路」などのハード面の取組みが中心であった。しかし近年では、「防災、環境・景観」などの社会的要請の高まりに対応した取組みが増加しており、さらに「地域貢献施設」のようにソフト面の取組みを重視するものが増加している。一方、規制緩和によって同水準の不動産価値が付与された事業の公共貢献を比較すると、公共貢献と不動産価値との間には一定の関係性がみられなかった。この公共貢献の評価と規制緩和の決定は、非公開の事前協議において実質的な審査が行われており、第三者が審査経緯を把握することは困難となっている。そのため、正式提案後の審査手続きである都議会都市整備委員会や都市計画審議会においても、事前協議の審査内容は公開されておらず、規制緩和の公平性及び公正性の担保不足が指摘されている。
著者
筈谷 友紀子 阿部 大輔
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
日本都市計画学会関西支部研究発表会講演概要集 (ISSN:1348592X)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.37-40, 2020 (Released:2020-07-25)
参考文献数
16

本研究では、被爆遺構でありながら、強制連行された中国人や朝鮮人などを収容していた歴史を持つ長崎刑務所浦上支所を事例に、悲劇の記憶に関する叙述の変化を明らかにすると共に空間の残存が集合的記憶の形成・継承にどのような影響を与えるのか考察を行った。本研究から、1)浦上支所跡地に平和公園が建設されたのちも、浦上支所に関する記憶は当事者らにより鮮明に叙述されていること、2)戦後すぐにおける浦上支所跡地をめぐる叙述は説明的要素が強かったのに対し、近年にかけてはその印象を俯瞰的に叙述したものが多く見られたこと、3)1991年に明らかとなった浦上支所の遺構は、継承すべき記憶とは何かということに大きく揺さぶりをかけたことが明らかとなった。
著者
福地 健治
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.1378-1385, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
30

本研究はドイツ・ボン市におけるスイミング施設の全体計画をめぐる住民投票とプラーヌンクスツェレの新鮮な事例研究である。研究方法は現地での参与観察の手法を用いた。プラーヌンクスツェレは日本でも試されてはいるが、まだ現実的課題についての実践事例は少なく、実験段階であり、ドイツでの本事例を紹介することには意義があると考える。また本事例に着目したのは、ボン市初の住民投票であり、二度の住民投票を繰り返したのちにプラーヌンクスツェレが実施されるという経緯の特異性にある。政治的に複雑な地域課題への解決策として住民投票とプラーヌンクスツェレの現代的意義を考察し、将来の日本の自治体における課題解決の方法として示唆を与えたいと考える。
著者
谷崎 将吾 大沢 昌玄 中村 英夫
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.1022-1028, 2018-10-25 (Released:2018-10-25)
参考文献数
9

近年,鉄道の廃止が全国各地で発生している.鉄道駅の廃止により,駅前広場は機能不全となり利用転換が求められる状況にある.しかし,このような駅前広場が全国にどの程度存在し,鉄道廃止後にどのような活用がされているのかといった実態は明らかとなっていない.また,都市計画決定された駅前広場について,鉄道廃止後に都市計画の取り扱い(維持,変更,廃止)の対応が必要となってくる.さらに,鉄道廃止後も未整備の部分がある都市計画駅前広場は,駅前広場を整備する理由づけがない状況において,都市計画の変更または廃止の検討も必要となるが,都市計画駅前広場について,親となる鉄道の廃止に伴い都市計画に変更が生じたかなどの実態は明らかとなっていない.そこで本研究は,まず全国の都市計画駅前広場のうち鉄道が廃止となった駅前広場を把握する.その上で,対象の駅前広場が鉄道廃止後にどのように活用されているのか実態を明らかにすることを目的とする.最後に,鉄道の廃止に伴い駅前広場における都市計画の取り扱いの実態について明らかにする.その結果,鉄道が廃止された都市計画駅前広場は全国54箇所52駅存在することが判明した.
著者
廣橋 碧 三島 伸雄
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.1-9, 2017-04-25 (Released:2017-04-25)
参考文献数
24

本研究の目的は、千葉県印旛郡に位置し明治8年から昭和15年の間に開墾会社永沢社によって開発された八街開墾地の特質を地目と等級の観点から明らかにすることである。永沢社は、佐賀藩士によって明治維新後に武士の地位を失った人々に対する窮民授産のために設立された。本研究では、近年発見されたために今日まで学術的研究に用いられたことのない『明治三十二年 土地?帳 印旛郡八街村八街』(土地台帳)を資料として用いる。土地台帳より、当時の各敷地の状況を復元させた地図を作成し、明治政府によって定められた地目と等級と比較した。結果として、街道筋宿駅の短冊状の伝統的地割りを踏襲して開発されたこと、明治半ばの鉄道開発が土地の等級付けにも影響したと考えられることなどが明らかになった。
著者
伊藤 聖樹 松本 幸正
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
日本都市計画学会中部支部研究発表会論文集 (ISSN:24357316)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.25-28, 2021 (Released:2021-10-05)
参考文献数
3

リニア中央新幹線は最短で2037年に東京-大阪間の全線が開通予定となっており,三重県へも駅の設置が予定されている.目的地までの移動時間短縮は時間的余裕を生み,観光においても訪問箇所数の増加や範囲の広域化が期待される.そこで本研究では,リニアの全線開通が三重県での観光行動にどう影響するかを把握するため,まず,現在の三重県の人気エリアをSNS投稿データから抽出した.次に,WEBアンケートの結果に基づき,リニア全線開通後の観光地間の関連の強さを算出し,想定される周遊ルートを明らかにした.その結果,リニア全線開通後の三重県内の周遊ルートとしては,伊勢,鳥羽,志摩の組み合わせが最も選ばれることになった.また,広域周遊する場合,大阪や奈良,京都も訪問先として選ばれる可能性があることもわかった.他にも,東京在住者は熊野への周遊が増加する可能性が,大阪在住者は名古屋まで観光範囲が広がる可能性も示唆された.
著者
篠永 信一朗 松村 暢彦 片岡 由香
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.1047-1054, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
27
被引用文献数
1

本研究の目的は、祭礼活動への関与度と地域コミュニティに関する意識の関連性を明らかにすることである。本研究では、地域コミュニティに関する意識として「地域愛着」、「時間的展望」、「ソーシャル・キャピタル」の3つを指標とし、祭礼活動への関与度に着目しながら、調査・分析を行った。調査方法は次のとおりである。:(1)祭礼活動が地域に与える影響に関する既往研究の文献調査、(2)対象地域での事前調査、(3)祭礼活動と地域に関するアンケート調査の実施、である。アンケートの分析の結果、祭礼活動への関与度が大きい人は、関与していない人よりも「地域愛着」、「未来に関する時間的展望」、「ソーシャル・キャピタル」が高いことが明らかになった。
著者
五島 寧
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.41.3, pp.893-898, 2006-10-25 (Released:2018-06-26)
参考文献数
54

本論説では,景福宮および満州国執政府の改変・建設事例に着目し,伝統的な計画原理と日本の都市計画との間の関係を検討した。景福宮では,計画原理は意図的に破壊すべき対象という認識にすら達しないほど軽視されたと考えられ,執政府では,溥儀の意向に抗えなかった結果南面が表出したが,意識的な周礼の適用は考えがたいと結論した。計画原理の作為的破壊あるいは尊重という相矛盾した評価は,いずれも植民地都市計画の一面に対する過大評価とするのが筆者の見解である。
著者
伊藤 瑞季
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.1336-1342, 2019-10-25 (Released:2019-11-06)
参考文献数
8

電気は現代都市の人々にとって必要不可欠なエネルギーである。これまで電気事業の成立や技術的進展に関する研究は多く存在していたが、電気を使用する需要者の視点と実際に電気を消費する都市や建築の視点から検討した研究は稀であった。本研究はそのような問題意識を背景に、明治中期、我が国最初の電気事業者である東京電燈会社が東京市内において行なっていた電気供給と配電網、そしてその顧客であった需要者について、東京電燈会社の営業に関する文書史料を中心に復元・分析を行いその実態について明らかにしたものである。東京市内における電気供給には大口の需要者が市内各所に存在し、電気を要求する用途や機能も多岐にわたっていたことを明らかにし、そしてそれらの需要が配電網建設の要因となっていたことを示した。
著者
坂本 淳 山岡 俊一
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.270-276, 2017-10-25 (Released:2017-10-25)
参考文献数
12
被引用文献数
6 1

わが国の地域鉄道は危機的な状況にある.2000年以降,全国で38路線の地域鉄道が廃止され,現存する地域鉄道においても厳しい経営状況に直面している.一方で,地域鉄道は単に交通手段という役割だけでなく,地域活性化等の便益があるといわれている.このことから,地域にとって鉄道を維持することの意味を整理することが求められている.そこで本研究では,2000年以降に廃止された地域鉄道に着目し,国勢調査データを用いた分析を行った.まず,廃止された鉄道の駅周辺における人口,居住期間,住居種別,年齢,利用交通手段の2000年~2010年の間の変化を,現存する地域鉄道のそれと比較した.次に,廃止された地域鉄道について,廃止前後5年間の人口変化率を比較した.分析の結果,廃止された地域鉄道の駅周辺の若年人口や定住者の減少率が,現存する鉄道駅周辺のそれと比較して有意に大きいことがわかった.さらに,廃止された地域鉄道のうち特定地方交通線については,廃止前後で人口減少率が増加していることが確認できた.
著者
鈴木 亮平 西村 幸夫 窪田 亜矢
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.691-696, 2012-10-25 (Released:2012-10-25)
参考文献数
14

第二次世界大戦で壊滅的な被害を受けたワルシャワ歴史地区は、戦後市民の手によって復原され、現在まで継承されている。ワルシャワの戦災、そして戦時下での都市を巡る動きを捉えた上で、戦後復興の社会的背景や復原のプロセス、デザインの実態を整理し、歴史地区の復原の実態を記述した。さらに、戦後から現在に至るまでの、その継承の過程と歴史地区をめぐる議論のプロセスを整理し、いかなる継承がなされてきたのかを明らかにした。その上で、現在進行している歴史地区をめぐる動きを捉え、今後の継承のあるべき姿や課題に言及する。文化財としての都市空間の、空間だけでなくそこに投影された過去の時代の意志をも含めた価値に着目し、歴史的都市空間の継承のあり方への知見を得ることが本研究の目的である。
著者
小関 玲奈 羽藤 英二
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.745-752, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
35

本研究の対象である松江には,城下町の街路構造や城濠などの歴史的な都市構造が残存しているが,近代化以降,交通インフラの変化や近世から繰り返し経験している大火や洪水といった外的圧抑を受容してきた.そこで本研究は,(1)社会基盤,(2)社会構造(人口・地価),(3)地割,の3つの視点により近代以降の松江の都市形成過程を分析し,近代化と災害を受けてどのように都市構造を変化させ,あるいは松江の歴史的基盤を継承してきたのか,その過程と要因を明らかにすることを目的とする.都市計画・基盤整備の歴史と地区ごとの人口・地価動態の分析により,大火と洪水という災害が中心市街地内部の地区改良と大橋近傍の拠点性と城濠の温存,中心部からフリンジ部,郊外部へという人口の流動に影響を与えたことが明らかとなった.こうした近代化と災害を契機としたマクロな都市構造の変化はミクロな地割形態の変容過程にも影響を与え,現在の地区ごとの特徴や歴史的資源の残存の程度に違いをもたらしていることを,字図を用いた地割分析により示した.
著者
相 尚寿
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.407-414, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
12
被引用文献数
1

本研究では、小地域単位での人口増加の有無に、複数の住環境指標が複合して与える影響を考慮して指標化する住環境得点の概念に着目し、既存手法の改良を試みる。具体的には、指標のうち、駅や医療施設などへの距離に関する4指標と、店舗数や事業所数の2指標について、小地域の面積や形状による影響の抑制を目指す。距離に関する指標は施設位置までの距離計算の基準を小地域外周から重心に変更し、店舗数と事業所数は密度に変更した。若年層と生産年齢層に分けて住環境得点を算出した結果、既存手法と比較して若年層では住環境得点がよりよく人口増加を説明できるようにならなかったものの、生産年齢層では若干の改善が見られた。さらに、算出した住環境得点と実際の人口増加傾向との関係を整理し、地図上に可視化することで、若年層と生産年齢層の各々について、住環境得点と人口増加がより整合するために検討すべき事項を整理した。
著者
松原 康介
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.945-952, 2017-10-25 (Released:2017-10-25)
参考文献数
22

シリア第二の都市アレッポは、アレッポ城を中心にヘレニズム時代のグリッド型街路とイスラーム時代の稠密な街路網が複合して形成された旧市街を擁する。2011年以降の内戦による被害が大きいアレッポでは、戦後復興にあたって日本等の国際協力に基づく都市計画が必要とされることが期待されている。本研究では、た日本人計画家・番匠谷堯二が中心となって策定された1973年の「アレッポ旧市街空間整備計画」の計画思想と計画技術、方法論を計画図書及び関連資料から明らかにした上で、計画図と古地図との比較による妥当性を検証し、本計画の計画論的特徴を明らかにすることを目的とする。2章では、番匠谷の参画など、本計画の歴史的経緯を既往研究も踏まえて明らかにする。3章では、本計画の主要な一次資料である雑誌記事「アレッポ旧市街空間整備計画」の全テキスト・図版を対象に内容の注釈を行い計画的特徴を明らかにする。4章では、注釈から見いだされた特徴の一つである「進化型計画」の、番匠谷のそれまでの計画論との関連を議論する。5章では、主として計画図を当時の旧市街地図と対比する作業を通じて、本計画の妥当性を明らかにする。。
著者
渡辺 俊一
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.673-678, 2011-10-25 (Released:2011-11-01)
参考文献数
15
被引用文献数
1 3

本稿は、日本語「まちづくり」の定義の論理構造の解明にむけられています。まず予備作業として、用語の定義に関する論理的議論をおこないます。ついで、都市計画・建築系の4人のまちづくり論者の言説による「まちづくり定義」の論理分析をおこない。それらは、西山夘三、田村明、佐藤滋、澤村明の4氏(6例)です。その結果をうけて、これら多様な「まちづくり定義」を体系的に整理する方法として、定義語に「次元」と「広義・狭義」の概念を導入することによる仮説枠組を提起してむずびとします。