著者
今村 洋一
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画報告集 (ISSN:24364460)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.598-603, 2024-03-11 (Released:2024-03-11)
参考文献数
47

本研究では、甲信越三県の国立大学(山梨大学、信州大学、新潟大学)を対象に、旧軍施設の転用実態を整理する。山梨県では、罹災した山梨師範学校と山梨工業専門学校が、近隣接する旧軍施設(旧歩兵第49連隊)に移転し、新制移行後、その校地と元の校地の一帯に集約移転した。長野県では、非罹災の松本医学専門学校が、郊外の旧軍施設(旧歩兵第50連隊)に移転し、新制移行後、松本市内に限っては、その校地及び隣接地に集約移転した。新潟県では、新潟第二師範学校が、隣接する城址の旧軍施設(旧第13師団司令部)に女子部を開設して校地を拡張した。また、非罹災の新潟青年師範学校や新潟県立農林専門学校は、他都市の旧軍施設(旧歩兵第16連隊、旧歩兵第16連隊第3大隊)に移転した。新制移行後は、新潟市郊外の新たなキャンパスへの集約移転が進められた。
著者
齊藤 広子 中城 康彦
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.820-826, 2016-10-25 (Released:2016-10-25)
参考文献数
13

定期借地権マンションの立地、建物概要や借地契約・費用負担の実態、管理上の課題とそれへの対応実態などを明らかにした。定期借地権マンションは都市のコンパクト化や土地入手困難地域での立地、公的主体所有の土地の有効利用、さらに住戸面積のゆとりのあるマンションの供給に一定寄与している。しかしながら、供給時の設定された法的関係、それに対する対価の設定、維持管理計画においては根拠が不明確なものがあり、現行法においての課題がある。さらに、契約関係が明確になっていない、契約内容が承継されていない、解消に向かってのプロセスプランニングがない、底地の買取の対応策がないという問題がある。また、借地契約関係への管理組合・管理会社の関与が現行法では困難と考えられているが、実態では多くの関与があり、関与が求められている。こうした実態を踏まえ、今後の課題として管理組合・管理会社の借地契約関係の関与の立法的対応、利用期限のある建物の計画修繕や解体準備のあり方、底地の買取制度等を検討し、供給時から体制を整備することが都市部の土地の有効利用につながると考えられる。
著者
岡 絵理子 鳴海 邦碩 ウィトメン トメンジャルガル
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.637-642, 2002-10-25 (Released:2017-11-07)
参考文献数
5

1990年以降、社会主義体制下にあった多くの都市は、民主主義体制へと移行しつつある。社会主義化では、土地や住宅は国家のものとされていた。しかし民主主義下において土地や住宅は個人の所有となり、その概念にも変化が生じているものと考えられる。本論文は、このような都市の1つとしてモンゴルの首都ウランバートルを取り上げ、2つの異なるタイプの住宅地に見られる土地と住宅の変容を調査した。その結果、個人の所有する土地と公的な空間の境界はあいまいで、前者が後者を侵食しつつあり、公的空間の明示と基盤の整備、さらには公共意識の醸成が必要である事が明らかとなった。
著者
田中 優大 阿部 大輔
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
日本都市計画学会関西支部研究発表会講演概要集 (ISSN:1348592X)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.97-100, 2019 (Released:2019-07-22)
参考文献数
15

1960年代、京都市では高度経済成長による都市問題の解決や行政運営の効率化に向け、総合計画の作成を試みた。本研究は、その総合計画の試行過程における都市像の変遷と経緯を整理・概観し、1960年代の京都市における都市計画の思想の一端を明らかにすることを目的とする。京都市では、1960年代に三度総合計画の作成が試みたが、各総合計画で構想された都市像は、動態著しい社会構造の変化や市政の変化を受け、形を変えた。その過程では、大規模な事業を行い、都市構造を根本から転換させようとする壮大な都市像も構想された。当時構想された都市像は、その後の京都市における都市像に大きく影響を与えている。
著者
西成 典久 斎藤 潮
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.39.3, pp.907-912, 2004-10-25 (Released:2017-08-02)
参考文献数
26
被引用文献数
1

歌舞伎町及びコマ劇前広場は戦災復興期に石川栄耀によって設計された。本研究の目的は、石川の言説とコマ劇前広場及びその周辺空間との関連を精査することにより、石川の広場設計思想およびコマ劇前広場創出の背景を明らかにすることである。結論は以下の3点である。1)石川は日本に広場がないことを指摘し、「広場は民主社会の表現であり、文化の進んだ都市が持っている」としたが、広場の社会的機能(市民交歓)においては、西欧の広場と日本の商店街に共通性があることを見出している。また、将来的に日本の市民交歓は広場の形態に移ると考え、コマ劇前広場はその為の布石であったと考えられる。 2)石川は計画案において自身の設計論を広場に反映したが、 GHQの建築統制により計画案が頓挫し、広場に盛り込まれた石川の設計手法(Terminal vista)は実施案において実現されなかった。3)広場を導入するにあたり、石川は単純に西欧広場の形態を模倣したわけではなく、広幅員街路のネットワークの終端部に広場を布置することにより、歌舞伎町の土地利用や街路ネットワークと有機的に関係した広場を歌舞伎町において実現しようとした、と考えられる。
著者
饗庭 伸 西 昭太朗 伊藤 武仙 山田 沙知 加茂 春菜 田野 哲也 石原 滉士 伊藤 若菜 小園 茉初
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.1282-1287, 2023-10-25 (Released:2023-10-25)
参考文献数
5

市民参加型で空間計画を検討するワークショップにおいて、コミュニケーションを活性化し、検討の内容を充実させるための媒体として、地図、図面、模型が活用されている。本稿では、これらの媒体をデジタル情報で作成し、MR(Mixed Reality)技術でフィジカル媒体と組み合わせるワークショップの技術について報告する。筆者らは、東京都の下水処理場跡地利用の基本構想の検討プロセスにおいて、3つのMRアプリケーションと10回のワークショップの技術を開発した。開発における主な課題は、デジタル媒体とフィジカル媒体をいかに組み合わせるかということであった。本稿ではこのアプリケーションとワークショップの技術を報告し、そこでどのように情報が伝達され、コミュニケーションが活性化されたかを、参加者へのアンケート調査の評価に基づいて考察する。
著者
後藤 吉彦 木下 光 丸茂 弘幸
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 第38回学術研究論文発表会 (ISSN:1348284X)
巻号頁・発行日
pp.124, 2003 (Released:2003-12-11)

本研究は篠島における漁村集落の空間構成の特性および、その特性がどのように形成され、変容してきたかを考察するものである。また、全国的に多くの地方都市がその個性を失いつつある中で、篠島が現在でもその個性的な集落を維持している要因を考察する。篠島の漁村集落は特徴的な住居表層とセコと呼ばれる狭く曲がりくねった街路空間の形成に代表される。そして住居表層はカコイと呼ばれる壁面の板張り、デマドと呼ばれる街路上に突き出した開口部、色彩豊かな外壁塗装の三要素によって特徴づけられている。
著者
吉城 秀治 辰巳 浩 堤 香代子
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.380-386, 2016-10-25 (Released:2016-10-25)
参考文献数
8

幼少期の思い出や経験、体験は一般的にその後の生き方に影響を及ぼすものとされている。商業地を指向させる上でもその重要性が示されつつある幼少期の思い出は、都心商業地と郊外型SCの競合が生じている昨今での商業地の選好意識を理解する上でも重要と考えられる。そこで本研究では、幼少期における都心ならびに郊外型SCでのポジティブな思い出およびネガティブな思い出について調査しその実態を明らかにした後、それら思い出と商業地の選好意識との関係を明らかにした。その結果、それぞれにおける関わりの実態や今も記憶に残っているポジティブな思い出およびネガティブな思い出を把握できている。そして、都心で遊ぶといった楽しい経験が思い出になく、さらに都心で退屈な時間を過ごした経験や怒られるといった経験が今なお記憶として残っていることが、都心ではなく郊外型SCを選好させる要因になり得ることを明らかにできている。
著者
竹下 博之 加藤 博和 林 良嗣
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 第44回学術研究論文発表会 (ISSN:1348284X)
巻号頁・発行日
pp.78, 2009 (Released:2009-10-30)

本研究は、鉄軌道線廃止後の代替交通網整備の検討方法について示唆を得ることを目的としている。2006年10月に廃止となった桃花台新交通桃花台線(愛知県小牧市)を対象として、その廃線前後の沿線における交通利便性変化を、土地利用を考慮した評価が可能なポテンシャル型アクセシビリティ指標を用いて評価した。その結果、代替公共交通網により名古屋市方面への交通利便性は維持されているものの、小牧市内へのそれは大きく低下していることが明らかとなった。この結果と、独自に実施した廃止に伴う住民の交通行動変化に関するアンケート調査結果とを比較したところ、おおむね合致していることがわかった。このことから、鉄軌道廃止後の公共交通網検討のための評価指標として、アクセシビリティ指標を用いることが可能であると考えられる。
著者
金森 有子 有賀 敏典 松橋 啓介
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.1017-1024, 2015-10-25 (Released:2015-11-05)
参考文献数
12
被引用文献数
4 5

現在,日本全国で空き家率の増加が大きな社会問題となっている.本研究では,空き家率の増加につながる社会的要因を重回帰分析により明らかにするとともに,それに基づき2035年までの空き家率を推移を推計した.推計の際には,自治体レベルで容易に利用可能であるデータを用いることで,自治体別の空き家率の推計が可能になることを意識した.推計の結果,住宅の着工と滅失のバランスが現状ペースのまま続いた場合,2035年には日本全国の空き家率が約20%に達し,都道府県別の空き家率が広がることが明らかになった.また,着工と滅失のバランスを見直し,各都道府県が2023年には余剰着工率が0となるようにした場合でも,2035年には全国の空き家率は13%程度となり,依然として山梨県では空き家率が16%近くになることが推計された.
著者
吉城 秀治 辰巳 浩 堤 香代子
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.753-760, 2015-10-25 (Released:2015-11-05)
参考文献数
7

我が国における路線バスは、はじめて利用する路線やそもそも普段からバスの利用に慣れていない方にとってはしばしば使いにくい公共交通機関となってしまっている。その原因の一つとして、バスの乗り方にはローカル性が存在することが考えられる。さらに、バスの利用に関する基本的な情報をはじめこの多様化した乗り方については必ずしも十分に案内されているとは言い難い状況にあるなど、公共交通機関として、誰にでも利用しやすくわかりやすいバス利用環境の創出が求められている。そこで本研究では、全国のバス事業者を対象にアンケート調査を実施することで全国のバスの乗り方の状況について把握し、さらに路線バスの乗り方並びに案内内容と地域性の関係を明らかにした。
著者
八尾 修司 山口 敬太 川崎 雅史
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.1152-1159, 2016-10-25 (Released:2016-10-25)
参考文献数
46
被引用文献数
1

本研究は,総合大阪都市計画(1928)における公園系統計画の成立過程について,関与した主体の動向に着目し明らかにするものである.大阪市区改正設計(1919)の認可後,大阪府都市計画課により,さまざまな種類の公園を公園道路により連絡させる公園系統計画が,都市計画放射路線とあわせて考案された.これは,大阪府兼都市計画大阪地方委員会技師であった大屋霊城が,公園道路のネットワーク機能の重要性に着目し,郊外の大公園と都市中心部を大道路により結ぶ「放射分散式公園系統」という考えを反映したものであった.ここで考案された公園計画案は,関東大震災後,避難路としての機能を付加した道路公園の整備という拡張点がみられたが,財政状況から多くが成案には至らなかった.第二次市域拡張(1925)後には,府が大公園の開設,市が主に市内小公園の経営にあたるという「府市共同」の体制がとられ,市域拡張部分の公園計画は大阪府都市計画課案が引き継がれることで,総合大阪都市計画公園計画として成立した.
著者
廣井 悠
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.902-909, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
7
被引用文献数
5 17

COVID-19対策としてロックダウンを行った多くの国では,大規模な失業を含む大きな経済的・社会的コストに直面している.これに対して日本では,2020年4月7日に政府が東京や大阪など7都府県に非常事態宣言を出し,可能な限り外出を控えるようにというメッセージを発した.本研究は,このCOVID-19に対する非常事態宣言の外出自粛に関する影響を調査した。結果として調査時点では,何らかの目的で外出を控えた人は9割いることや,「食事・交際・娯楽」のために外出を控える人が7割、「買い物」のために外出を控える人が5割、「通勤」のために外出を控える人が3割いたことが明らかになった。また、外出目的によって自粛を促す施策が異なることがわかった。
著者
伊藤 亮 大沢 昌玄 岸井 隆幸
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.1041-1046, 2014-10-25 (Released:2014-10-25)
参考文献数
13
被引用文献数
2

第二次世界大戦において、全国各地で空襲による市街地火災延焼防止のため、建物を除却し空地を確保する建物疎開が行われた。全国279都市で実施され、61万戸除却された。各都市における建物疎開の実態を扱ったものとして、大都市である名古屋、京都、広島を扱った研究や地方都市である長崎市や旧徳山市を対象としたものは確認できる。その中で、横浜市の建物疎開の実態は明らかになっていない。そこで本研究は、第二次世界大戦時の横浜における防空計画を示した上で、建物疎開の実態を解明することを目的とする。そして現在、建物疎開跡地がどのように利用されているか把握する基礎とする。調査の結果、神奈川県立公文書館に建物疎開の実態を収録した文書が保管されていることが判明した。その文書を解読した結果、建物疎開として1944年2月から11回376箇所が指定され、除却面積は173ha、21,603戸に及んだことがわかった。そして建物疎開跡地は現在、道路として利用されているものが多く、磯子区の掘割川周辺には「疎開道路」と呼ばれる5つの道路が存在し、また現在の鶴見区の汐入公園は建物疎開跡地を活用したことが読み取れた。
著者
城所 哲夫 福田 崚 増田 耕平 蕭 閎偉
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.740-747, 2018-10-25 (Released:2018-10-25)
参考文献数
22
被引用文献数
2 4

本論文の目的は、低家賃の住宅を含む多機能でクリエイティブな場としていくことで、その都市のライフスタイルを彫琢すると同時にクリエイティブな人材を呼び込み、都市のイノベーション力を高め、活性化を図るというまちづくりのプロセスを示した仮説である「イノベーティブ・タウン仮説」が大都市のイノベーション力の醸成に対して妥当性を有することを論じることである。具体的には、東京23区を対象として、(1)国勢調査、経済センサスを用いた東京23区のクリエイティブ都市の観点から見た空間構造の分析、(2)東京都GISデータを用いたクリエイティブ・コミュニティの形成を促す多様性のある市街地特性の分析、(3)インタビュー調査に基づいたクリエイティブ・コミュニティ形成の様相の検討を行った。結果として、東京インナーエリアはクリエイティブ・コミュニティ形成にとって望ましい空間構造と市街地特性を有しており、クリエイティブな産業・文化のインキュベーションの場となってきたことが示された。
著者
王 爽 藤井 さやか
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.954-961, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
12
被引用文献数
1

近年、外国人人口が急増しており、今後も増加する可能性が高い。本研究では、全国の外国人集住がすすむ公的住宅団地を抽出し、外国人集住の実態と課題、対策の現状と効果を把握し、今後の対応策の検討を目的とする。団地の抽出は2015年の国勢調査小地域集計を利用して110の外国人集住団地を抽出した。外国人集住団地は、300戸以下の小規模かつ外国人率20%以下のものが多いが、一部に外国人率45%以上の団地もあった。半数以上は中部圏に立地している。次に外国人集住の実態と課題を調査するために110団地の118管理者にアンケート調査を行った。半数以上の団地で特定の国籍住民の集住があり、騒音問題、ごみ問題、無断転居、無断駐車といった管理上の問題と自治会不参加、コミュニケーションといったコミュニティ上の問題が発生していた。集住している国籍ごとに問題傾向の違いがあった。トラブルへの対応を進めている団地は半数で、一部の改善はありつつも、抜本解決には至っていない。外国人のコミュニケーションに苦労しており、新しいツールの活用や担い手との連携が必要なことが分かった。
著者
嘉名 光市 増井 徹
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.685-690, 2011-10-25 (Released:2011-11-01)
参考文献数
24

本研究では船場センタービル建設における、事業手法検討段階で提示された数多くの基本構想(案)に着目し、その検討に至る経緯、および複数提示された案について、その内容を比較し、各案の考え方を示す。さらに、中層ビル案に決定した後の、建物の配置検討を行った実施計画(案)の変遷を把握し、船場センタービルの計画思想を明らかにすることを目的とする。基本構想(案)の段階では幹線道路を建設するにあたって、近代的なビルを建設する高層ビル案、中層ビル案に対し、既成市街地にはできるだけ手をつけずに幹線道路を通すトンネル案も存在した。また道路法の改正を必要としない平面街路案も存在した。これらの案は、通過交通を排除するという計画思想が共通していた。また、案の多くが再開発により市街地を刷新する計画思想であった。しかし、実施計画(案)の段階では、筋の連続性をできる限り残すための変更がなされ、隣接市街地との関係について一定程度の配慮する計画思想があった。具体的には、変更によって筋の連続性が保たれたこと、東西方向沿道に歩廊を設置したことが挙げられる。
著者
小嶋 一樹 松本 邦彦 澤木 昌典
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.1313-1319, 2018-10-25 (Released:2018-10-25)
参考文献数
11

近年、地上設置型太陽光パネルの設置行為を条例に明文化し立地や意匠形態の適正化を図る自治体が増えている。本研究ではこれら116の条例を対象に、立地規制および景観保全への有効性を明らかにすることを目的に当該自治体へのアンケート調査を実施した。その結果、土地用途や都市計画法上の区分に関係なく多くの自治体が「眺望景観への影響」、「立地場所」を地上設置型太陽光パネル設置の課題点として挙げた。条例の運用効果では、60.7%の自治体が立地状況の把握が可能になった点を挙げたが、立地規制・誘導は24.6%と比較的低い。また、景観保全への効果は、設備の規模が大きいほど効果の認識は薄れる傾向にある。修景策のうち、隣地や道路からのセットバック距離やフェンスの種類・色彩、植栽といった付加的な修景策の順守度合と景観保全効果への評価が高い自治体の多くは、行政の内部資料としての指導手引きや専門家との協議制度を保有していた。そのため、景観保全には行政による景観の目標像や修景策の提示、専門家の派遣による技術的支援が有効であると考えられる。立地規制については、上位法の整備を望む回答が40.5%の自治体から聞かれ、上位法の整備の検討も必要と考えられる。
著者
山本 安里 木下 光
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.1077-1083, 2015-10-25 (Released:2015-11-05)
参考文献数
19

大阪市臨海部には今なお8ヶ所の渡船が運航している。その内の7ヶ所が大正区と他地区を渡しているものであり、住民の生活に欠かせない交通手段のひとつとして日々利用されている。本研究は、現地でのアンケート調査を実施し、大正区の渡船がどのような要因で住民の生活道路として成り立っているのか明らかにした上で、今後の都市における新たな水上交通の可能性を見出すことを目的とする。得られた結果は以下の3点である。1)人々の利用実態は7つのカテゴリーに分類され、90%の利用者が自転車に乗って渡船を使っていた。また、大正区を中心として平坦な臨海部3キロがその行動範囲であった。2)他方、10%の利用者は渡船を二つ以上、あるいは他の公共交通を乗り継いで、長距離移動していた。3)大阪の渡船は、市民の生活を支える公共交通であるとともに、地域アイデンティティとして捉えられていることがアンケート調査を通して明らかになった。
著者
齋藤 晋佑 姥浦 道生
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.445-450, 2012
被引用文献数
4

水害常襲地である日本では、水害を軽減するような都市づくりは重要な課題である。これまでは、そのために国が戦後から全国的に治水事業を行ってきた。しかし、都市化とそれに伴う資産価値上昇により、水害密度や一般資産被害額はむしろ高まってきており、市街地形態を含めたより根本的な対策が必要とされてきている。特に、近年頻発している内水氾濫や都市内河川の溢水は、破堤を前提としないため、その危険性が高い地域を空間的に限定しやすく、そのような土地利用コントロールを通じた対策が適している。他方で、近年は地方都市を中心に人口や世帯の減少が進行してきており、それに伴い開発圧力も減少してきていることから、選択的に都市化を進めていく可能性も高まってきている。そこで本研究では、出水や洪水等に対応する目的で定められた建築基準法39条に基づく災害危険区域制度の全国的な適用実態を明らかにすると共に、宮崎県を対象としてその開発に与えた影響を明らかにすることを目的とする。