著者
今津 海
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画報告集 (ISSN:24364460)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.389-393, 2023-03-10 (Released:2023-03-10)
参考文献数
22

今日、大学における「地域社会への貢献」の重要性が高まっており、さらには、地域社会が求める人材の育成も急務となっている。とりわけ、地方公共団体が設置する公立大学においては、地域人材育成の役割が大きいとされ、いわゆる「地域系学部」を有する公立大学も多い。本稿では、公立大学の「地域系学部」が掲げる教育目標に焦点を当て、その内容を概観しながら、今日の公立大学の「地域系学部」における人材育成の特性を把握することを目的として調査を行った。結果として、公立大学の「地域系学部」における人材育成の特性として、都市・地域が抱える諸課題の解決や、持続可能な都市・地域づくりに貢献できる人材の育成を目指している点に一致が見られたほか、都市・地域づくりの現場における「中心的な役割」を担うことができる能力や学際的な知見に基づく実践力、各種ステークホルダーとの連携を図る能力の習得に重点が置かれていることを指摘した。
著者
小関 玲奈 羽藤 英二
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.674-681, 2022-10-25 (Released:2022-10-25)
参考文献数
21

巨大災害や紛争後の避難は長期に及ぶプロセスとなるため,住宅再建支援政策を時空間制御する枠組みが必要である.そこで本研究は,発災後の長期避難プロセスを不確実性下における再帰的経路選択問題としてモデル化し,動学的ネットワークデザインにより補助政策の時空間配分を最適化することで,復興政策の修正に向けた枠組みを構築することを目的とする.また,復興期の居住地選択における地域コミュニティの相互作用を次時点の期待人数としてモデル化(外部性項)し,構造推定により内生的に推定することで,推定バイアスを軽減することを試みる.実データによる東日本大震災のケーススタディでは,外部性項は正に有意な値として推定され,集団移転等の正の外部性を促進する政策の有用性と人口転出地域ではさらに転出が加速する可能性が示唆された.動的居住地選択モデルをもとに人口移動配分を行い,家賃補助を時空間ネットワーク上で最適化するネットワークデザイン問題を定式化した.ケーススタディでは発災直後のデータのみで最適化した計画と,5年後に新たなデータをもとに計画修正を行うケースとを比較し,補助政策の時空間制御の可能性と計画修正の有用性を示した.
著者
十代田 朗 渡辺 貴介 安島 博幸
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.331-336, 1985-10-25 (Released:2020-09-01)
参考文献数
31

This paper tries to explain the evaluating process of the seaside resorts in Shona region and Boso region since Meiji era. For this purpose, chronological information on the introduction of sea-bathing activities into Japan, the location of seaside villas, and the change of their land use was analyzed. This paper revealed the emerging process of Japan’s modern seaside resorts, the characteristics of their site location in a physical sense, and their subsequent development and transformation.
著者
小林 里瑳 羽藤 英二
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.524-531, 2021-10-25 (Released:2021-10-25)
参考文献数
16

本論文は,土地所有者による土地の売買と来訪者による逐次的滞在場所選択を離散的選択モデルで定義したサブモデルからなる地区スケールを対象とした土地-交通モデルを提案した.特に土地売買行動は,売手地主と買手地主それぞれの推定購入額と推定売却額を効用関数に導入することで,相互推論によるマッチング行動を仮定し,従前の土地市場モデルで扱われてきた均衡価格を明示しない取引構造の記述を試みた.構築したモデルは,2時点の実データを用いた実証分析及び構造推定を用いた推定により,計算可能であることを確認した.提案モデルは,都市開発や都市政策が歩行者の行動や土地所有者の土地取引行動に与える影響の測定やシミュレーションに応用可能性を持つと考える.
著者
泉山 塁威 宇於﨑 勝也
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画報告集 (ISSN:24364460)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.265-270, 2022-12-08 (Released:2022-12-08)
参考文献数
9

本研究では、都心と駅をつなぐ空間であるデッキに、イベントに利用できる空間があるかを把握するために、駅前広場にデッキがあるか、また、それが線状デッキか面状デッキかを判断した。さらに、面状デッキに着目し、デッキ上の空間を分析した。そして、広場型デッキに着目し、デッキ運営の特徴や課題を明らかにした。
著者
鄭 一止 辻原 万規彦
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.569-576, 2019-10-25 (Released:2019-11-06)
参考文献数
19

郊外に立地する社宅街の場合、当企業が撤退すると同時に衰退するか、または住宅地として変容するのが一般的であり、これらを例にした関連研究は多く行われている。一方、熊本市健軍エリアにつくられた三菱重工業熊本航空機製作所の社宅街は、戦後すぐとも寮の跡地に店舗が立ち並ぶなど、店舗が集積する大きな商店街として成長した。工場の跡地には陸上自衛隊が駐屯し、近くに県庁も移転し、新しい需要も生まれたこともあり、1960年代から70年代にかけて商店街はピークとして繁盛した。本論文は、社宅街の形成史をまとめるとともに既存の都市基盤施設をもとに、健軍エリアが熊本市東部の中心地としてどのように成長したのかについて、土地利用の変遷に着目し、以下の点で明らかにした。 (1) 近代都市計画的な要素が多く反映された熊航と社宅街のまちづくり史をまとめた。(2) 戦時中に建設された都市基盤施設との関連に着目して、健軍エリアの戦後の変容過程をまとめた。(3) 戦後の社宅街を対象に、建物用途と街区の変遷を詳細に分析した。
著者
溝口 萌 池田 采可 泉山 塁威 宇於﨑 勝也
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画報告集 (ISSN:24364460)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.251-257, 2022-09-09 (Released:2022-09-09)
参考文献数
17
被引用文献数
2

人口減少や大都市圏への人口集中により、中心市街地は衰退の一途をたどっている。一方で、中心市街地の活性化は地方都市にとって依然として課題である。そこで、本稿では、基本計画で実施された事業の分析とアンケート調査を行った。その結果、中心市街地活性化システムは、ソフト事業への支援が不十分であり、事務負担も大きいことがわかった。その充実により、自治体が制度を利用しやすくなり、継続的な賑わいを創出することができる。
著者
今村 洋一
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.44.3, pp.817-822, 2009-10-25 (Released:2017-01-01)
参考文献数
8
被引用文献数
1

本研究は、戦災都市指定を受けた師団設置8都市を考察対象として、戦災復興計画における旧軍用地の位置づけや、旧軍用地で実施された公園・緑地整備について、各都市の実態を考察したものである。旧軍用地を都市計画緑地として決定するという戦災復興院の方針を受け、7都市において、当初計画では19箇所の旧軍用地が公園として決定された。計画面積の大きさ、計画された箇所数、計画された各公園の規模、さらに整備された各公園の規模や位置から、戦災復興公園計画における旧軍用地の役割を明らかにしている。また、他用途への転用による計画変更、残存建物との関係、戦前計画との関係についても明らかにしている。
著者
橋本 成仁 今村 陽子 海野 遥香 堀 裕典
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.827-833, 2021-10-25 (Released:2021-10-25)
参考文献数
15
被引用文献数
1 3

近年、「サードプレイス」という概念が浸透してきている.サードプレイスとは,家と職場以外の第3の居場所とされ,1989年に孤独感やコミュニティの欠如などの課題を低減させるためにその必要性が提唱された.また,コロナによる影響により,サードプレイスの利用形態が変化していると考えられ,それは都会と地方の地域差も大きいと考えられる.そこで本研究では,東京と地方でサードプレイスを持つことと幸福感の関連性,またコロナ前後の比較をし,その関連性の違いを明らかにすることを目的とする.結果として,コロナ前の東京と地方では,サードプレイスの保有率や交通手段,幸福感,コロナ前後の幸福感の変化に関して違いが見られ,サードプレイスの有無と幸福感の関連性は,現在の東京では見られなかったが,コロナ前の東京とコロナ前と現在の地方にて関連性があることが示された。
著者
江口 慶 佐久間 康富
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画報告集 (ISSN:24364460)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.28-35, 2022-06-08 (Released:2022-06-08)
参考文献数
31

育成対象の段階に応じた経験を起業家育成講座や新富町役場・こゆ財団からの仕事の委託を通じて作り、その支援をすることで、起業までの流れを作り出そうとしている。自己認識と知識を深める段階では、外部からの刺激を与えられる支援が効果的であり、外部から刺激を受けても、思考をきちんと整理できる支援することが課題である。仕事として実行する段階では、試行の機会・幅を広げる、人との繋がりや相談の機会の提供が効果的な支援であり、広がった試行の機会を、目的と手段を明確化して取捨選択できるような支援を広げることが課題である。
著者
高橋 朋子 遠藤 新
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.1283-1290, 2019-10-25 (Released:2019-11-06)
参考文献数
14

路上喫煙を区内全域で禁止している東京都千代田区、港区、世田谷区では、喫煙所に対する助成制度を設け喫煙可能な場所の確保に努めている。本研究では3区へのインタビューおよび実態調査をとおして、助成制度の課題や助成喫煙所の設置状況を明らかにした。設置の条件として住民の合意を得なければならないことが、喫煙所数の増加を困難にしていることが確認された。また助成喫煙所の立地特性と助成喫煙所が入居している建物の特徴が、千代田区と港区では異なっていた。助成制度は屋外全面禁煙である3区において分煙環境の整備に一定の役割を果たしていると考える。
著者
今村 洋一
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.194-209, 2022-04-25 (Released:2022-04-25)
参考文献数
91

本研究では、東京都区部所在の大学及び専門学校等が、終戦直後にどのような旧軍施設に対して使用希望を出していたのかと、使用希望が実現したケースの実態を考察した。そして、旧軍施設の使用希望は、罹災した学校が8割を占めたこと、校地から離れた旧軍施設の希望も多く寄せられていたこと、旧軍の学校、兵営、研究所に対する希望が多かったこと、使用希望は15%しか実現していなかったこと、使用希望実現の背景には旧陸軍将校とのコネクションや不法占拠という実態があったこと、使用希望が取りまとめられた10月頃までにその多くが実現していること、旧軍施設の恒久使用は校地の大幅な拡大を伴い、将来的な発展に寄与したことが明らかになった。
著者
坂井 文
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画. 別冊, 都市計画論文集 = City planning review. Special issue, Papers on city planning (ISSN:09131280)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.643-648, 2008-10-15
被引用文献数
6

景観法の活用を促すうえで、自治体への技術的なサポートや、住民参加のためのアドバイスを提供するシステムの構築について議論する必要があると考えられる。本論においては、良好な景観を形成する開発計画のデザイン誘導を試みる英国中央政府の外郭団体である建築・都市環境委員会(Commission for Architecture and Built Environment)の活動とその役割に着目しながら、特に、その組織の構成と、地方自治体のデザイン政策の指導方法、またデザイン審査の方法について明らかにし、日本の景観法の活用をすすめるサポート組織の構築と、サポート手法について考察することを目的とする。本論を通して、中央に情報を集中させ専門的に分析し情報公開することによって、情報の共有化が図られ、各自治体の負担を軽くしていることがわかった。同時に、各地の状況に対応したアドバイスを行う地域組織の存在と、そのネットワーク化による横の連携を構築することにより、現場における適切な対応や、地域間での情報の共有が可能となることが明らかとなった。
著者
吉村 佳津司 後藤 春彦 山村 崇
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.1365-1371, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
25

近年、子ども達の遊びの貧困化や受動化が進み、子ども達の心身の成長に悪影響を及ぼす事が危惧されている。本研究では子どもの成長の観点から、非認知能力の一つである自己効力感に着目し、自己効力感と遊びの関係性を検討した。その結果、地域で活発に展開されている外遊びが自己効力感と強い正の相関関係を持つことが明らかになった。また、該当する外遊びと遊び場の関係性を検討した結果以下の2点が明らかとなった。 1)遊び場に対して単に物理的要素だけではなく、「遊び場に行けば友達がいる」や、「友人と集合しやすい」等社会的要素が重視されている。 2)子どもが遊び場に対して多様な解釈を行い、自分なりの遊び方や遊び場を創造している。
著者
飯塚 卓哉 羽藤 英二
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.682-689, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

防災計画において,避難行動を正確に予測する手法が必要とされている.本研究では災害が発生してから避難を完了するまでの一連の動的意思決定をモデリングする.避難行動データはパラメータ推定において課題となる点が2つある.1つ目は過去の災害での行動データは犠牲者の回答を含まない点,2つ目は仮想の災害を想定した避難行動調査データは正常性バイアスを含む点である.本研究では,活動経路選択モデルを用いて避難行動をモデル化し,避難データに含まれるバイアスを除去してパラメータ推定を行う手法を提案する.この手法により,避難開始地点や避難経路上の中継地での避難以外の活動による滞在時間,および避難遅れを合理的に評価可能となる.本手法の有効性は数値実験とケーススタディにより示された.
著者
高津 俊司 佐藤 馨一
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画. 別冊, 都市計画論文集 = City planning review. Special issue, Papers on city planning (ISSN:09131280)
巻号頁・発行日
no.39, pp.553-558, 2004-10-25
参考文献数
11
被引用文献数
1

本研究は、開発者負担金による鉄道整備の事後評価を目的として、都市開発と一体的に整備が進められた臨海副都心線(りんかい線)を事例として、開発者負担金について開発者にアンケート調査を行い、開業後の輸送実績を元にして鉄道計画支援システム(GRAPE:GIS for Railway Project Evaluation)を用いて鉄道整備効果を分析し、開発者負担方式の評価と今後の課題を考察した。その結果、次のような知見が得られた。(1)事後アンケート調査によれば、鉄道に対する評価としては、広域、大量、高速などの特性を評価し、約8割の会社が「受益があるのである程度の負担はしかたない」と回答している。費用負担の額についても、計画時点より現時点の方が、「ほぼ妥当である」との回答が増加している。(2)りんかい線の整備による開発区域内の利用者便益(割引後 30年集計)を GREPEで推定すると、開発者の費用負担金の額を上回った。(3)これらの結果から、鉄道整備の財源方式として、請願駅方式で駅周辺の開発者からの負担金を徴収する方式は、一定程度の妥当性があると想定される。
著者
中島 直人
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画. 別冊, 都市計画論文集 = City planning review. Special issue, Papers on city planning (ISSN:09131280)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.901-906, 2009-10-25
参考文献数
25
被引用文献数
1

本研究の目的は、1900年から1930年頃までのイギリス近代都市計画成立期における都市協会運動の性格について、当時の都市協会論と先導的な都市協会の活動の展開を明らかにすることで、理解を深めることである。当時の都市協会論からは、都市協会の役割が行政の補完であり、また地方分権の促進者であったことが明らかになった。また、リヴァプール都市協会、ロンドン協会、バーミンガム都市協会の活動の変遷からは、この時代における行政と都市協会との関係の変化が、都市協会運動の性格を決定付けたことが示唆された。
著者
平井 紗夜子 氏原 岳人
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.623-630, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
6

本研究では,Jリーグの試合観戦者を対象としたMM施策を展開し,経年的な効果を検証した.分析の結果,1)2019年のプロジェクト認知度は79%,1試合あたりの自家用車からの転換率は11%であった.いずれも初年度を上回る数値であった.また,「ファジウォーカー」というキーワードの認知率も極めて高く,ブランディングが功を奏した.2)本プロジェクトでは数多くの施策を展開したが,行動プラン法によるワンショットTFPが転換に最も効果的であった.3)ファジアーノバスの内装リニューアルや試合時刻に合わせた運行,国道情報板の標語掲示,JRの駅構内・車内広告といった交通機関と連携した施策が,プロジェクト認知のきっかけとなっていた.4)公共交通機関の利用者は,沿道商店への立ち寄り頻度が相対的に高い.したがって,公共交通の利用促進が地元消費の増加に有効である.
著者
本間 裕大 白濱 篤
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.475-481, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
24
被引用文献数
1

人や物,情報によってなされる地域間交流は,社会活動の特徴を把握するための重要情報である.それらは空間的に離れた地域間で生じるが,その交流はいくつかの圏域に分割されている場合も多い.このような交流圏域の存在は,同一圏域に属する地域間交流を活発にし,また,異なる圏域に属する地域間交流を阻害する要因となり得る.この交流圏域と地域間流動データとの因果関係を逆に捉えると,地域間流動データから暗黙的な交流圏域を推定することも可能と思われる.そこで本研究では,人口移動や物流の地域間流動データから,その交流圏域を数理最適化手法によって推定することを試みる.交流圏域同士の重なりを明示的に考慮することによって,社会的変化と交流圏域の空間的特徴との関係を考察する.本研究の特色としては,主に以下の3点が挙げられる;(i) 同一圏域内における交流のみならず圏域を隔てた交流にも着目していること,(ii) 交流圏域同士の多層的重なりを明示的に考慮していること,(iii) それらを汎用数理最適化ソルバで求解できるよう定式化していること.
著者
中岡 暖 後藤 春彦 山村 崇
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.235-242, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
15

昨今、就業者の精神的疲労は深刻な問題であり、その疲労の蓄積が健康を損なうことが懸念される。就業者の健康と生産性を下支えする労働環境への関心の高まりから、オフィス内部空間の環境改善を中心として研究が進められているが、外部環境のありかたについての議論は不十分である。本研究では、業務市街地のオープンスペースに着目し、利用者の精神的疲労度に与える影響を明らかにすることに加え、精神的疲労を低減させる歩行空間の環境特性を記述することを目的とした。その結果、オフィス足元のオープンスペースが一般的な業務市街地とは異なり、精神的疲労を低減させることが明らかになった。また、被験者が知覚した空間構成要素に対する評価理由から、歩行空間の一体的な整備が高い評価を得ていること、またベンチやその利用者の様子を知覚することで、自らの利用シーンを想像し、歩行空間への評価を高めていることも伺えた。