著者
根岸 淳二郎
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

第一に、絶滅危惧種であるイシガイ類二枚貝は下流河川との連続性が高い農業用水路に高い確率で生息し、同所的に豊かな魚類相の生息が確認された。また、そのような生息地は、開発地割合の低い景観構造を有する地域に存在した。第二に、河跡湖における水草種数は水草繁茂面積と正の相関を持ち、生息地の質は、人工的にショートカットされた水域で最も低かった。第三に、湧水河川には特徴的な水生昆虫相が確認され、流域スケールでの分類群多様性に貢献していた。これらより、地形や湧水に着目して景観スケールで流水環境をタイプ分けすることで効率的な水生生物多様性保全が行える可能性が示唆された。
著者
朝倉 利光 村崎 恭子 OTAINA Galin RAMSEY Rober REFSING Kirs DE GRAAF Tje AUSUTERLITZ ロバート 佐藤 知巳 井上 紘一 中川 裕 池上 二良 村崎 恭子 AUSTERLITZ R 朝倉 利光 切替 英雄
出版者
北海道大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1990

戦前までサハリンで健在だった少数民族,サハリンアイヌ,ウイルタ,ニブフの人々の多くは,終戦後は北海道に移住したが,現在はその言語の土着話者は絶えつつある。一方,ロシアサハリン州においては現在もこれら少数民族の人々が一部健在と聞く。本研究は,世界に数少ないこれらの言語の専門家が北海道に集まって日本側研究班を構成し,ロシア側研究者と共同して,サハリンに住む少数民族の言語-アイヌ語,ウイルタ語,ニブフ語-の土着話者を尋ね,これら三言語の音声資料を採集,収集し,その言語事情を言語学的に明らかにすることを目的とする。初年度,1990年の夏のサハリン現地調査によって,サハリンにおける当該少数民族の言語,アイヌ語,ニブフ語,ウイルタ語の言語状況が明らかになった。即ち,アイヌ語の話者はすでに絶えているが,ニブフ語は約2千人,ただし伝統口承文芸の伝承者は10人以下,ウイルタ語は2百人程度の話者がいて,そこでは言語調査の可能性が十分にあることがわかった。平成3年度は以下のような,研究調査を行った。1991.8.14-9.7 ニューヨークからアウステルリッツ氏がニブフ語調査研究のために来日。前年度収集した資料の整理分析を行った後.オタイナ氏と一緒にニブフ語テキストをチェック。1991.9.1-9.17 ウラジオストックからオタイナ氏がニブフ語調査研究のために来日。アウステルリッツ氏とニブフ語テキストをチェックおよび資料整理分析。1991.8.10-9.15 池上,井上,中川,佐藤の4名がサハリンでウイルタ語,ニブフ語などの少数民族の言語の調査を行った。1991.10.28-11.9 村崎,朝倉,井上がユジノサハリンスクへ向い,ピウスツキ生誕125周年記念シンポジウムに出席,発表し,アイヌコタン跡の調査を行った。1991。10。13-11。13 オランダのクローニンゲンからデグラーフ氏が少数民族の言語音声資料の調査のためにレニングラード,ノボシビルスクを訪れ,その後,サハリンでのシンポジウムに参加,発表を行った。その結果は,村崎恭子編「サハリンとB.ピウスツキ」(ピウスツキをめぐる北方の旅実行委員会,1992年3月)として刊行した。最終年度1992年には以下のような調査,研究を行った。1992.7月-8月 池上,井上の2名が,サハリンでウイルタ語の特定調査を行った。1992。9月から1993。3月までは,これまで収集した資料をそれぞれ,整理,分析し,最終研究成果報告書刊行の準備にかかった。その結果.1993年3月末日までには,研究成果報告書『サハリンの少数民族』(284頁)が刊行される見込である。この研究成果報告書に掲載される論文の殆どは各研究分担者が,この研究プロジェクトでえられた結果執筆したオリジナル論文であることは,まだ殆ど手が付けられていない「サハリンにおける少数民族の言語研究」という分野において,極めて貴重な研究成果と言える。以下に,掲載論文のリストを掲げる。1。研究概要ABSTRACT OF PROJECT 村崎恭子2。THE ETHNO LINGUISTIC SITUATION ON THE ISLAND OF SAKHALINTjeerd de Graaf3。A PELIMINARY REPORT ON SAKHALIN KOREAN S.Robert Ramsey4。A BRIEF HISTORY OF THE STUDY OF THE UILTA LANGUAGEJiro Ikegami5。ウイルタ語テキスト 池上二良6。UILTA AND THEIR REINDEER HERDING Koichi Inoue7。BEROBANIYA I ObRYADI ULiTA C.B.bEREZNITSKII(ウイルタの信仰と儀礼)8。NIVKH FOLKLORE G.A.OTAINA9。ANIMAL TAXONOMY AND SAMPLE ANALYSES(INSECTS) R.AUSTERLITZ10.サハリンにおけるニヴフ語基礎語彙の地域差 中川裕.佐藤知巳.斎藤君子11。N.B.RUDANOBSKI'S AINU DICTIONARY B.M.LATISHEB
著者
上木 政美
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.63-79, 2004-09-09

中小企業に限らず大企業においても合併あるいは提携といった形で企業が結びつき競争力を高めようとする動きが活発である。企業間連携を考える場合、核になる企業が中心となって連携を形成するという一般的なイメージがあるが、核になる企業を持たない企業間連携(ハブレスカンパニー)という独創的な概念がある。この核になる企業を持たない企業間連携のあり方について理論と数値例を交えて検証する。テーマは「集積から発生する効果と企業の個性化」「情報の交換・共有」の2点である。
著者
松島 俊也
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

鶏雛(ヒヨコ)を対象として実験心理学的に統制された行動実験を実施し、動物の採餌選択における文脈依存性に関して、以下の3点の知見を得た。1. ヒヨコはリスク感受性を示し、量のリスクを嫌う。2. 収益逓減の強さに応じて、餌パッチからの離脱を決定している。3. 競争採餌の条件は、異時点間選択における衝動性を亢進する。このように、ヒヨコは採餌状況の文脈に応じて採餌決定を適応的に変化させることが判明した。
著者
佐野 嘉拓 田畑 昌祥 浦木 康光 篠原 邦夫 岸本 崇生 久保 智史
出版者
北海道大学
雑誌
地域連携推進研究費
巻号頁・発行日
1999

シラカンバは寒冷地に大量に存在する早生広葉樹であるが、有効利用されずに放置されている。北海道には他にも、多くの除・間伐材、わら類などの農業廃棄物が存在する。これら未利用資源を有効利用できるバイオマス変換産業を北海道に創出するための基礎的・応用的研究を行った。更に、シラカンバ外樹皮に特異的に存在するベチュリンを生分解性ポリマー、界面活性剤、生理活性物質など高度な用途に利用する技術の確立を計った。シラカンバ木材、農業廃棄物などをバイオマス変換産業の原料に利用するために、主要成分であるセルロース、リグニンとヘミセルロースの無公害・省エネルギー・省資源型簡易成分分離技術(常圧酢酸法とHBS成分分離法)を新たに開発した。50%を占めるセルロースは製紙、糖化・発酵によるバイオケミカルス、機能性セルロース誘導体など広範な用途に利用できることを明らかにした。ヘミセルロースとリグニンもほぼ定量的に単離され、ヘミセルロースはバイオケミカルス、食料添加物、医薬品、リグニンはクリーンで高熱量の燃料シックレス接着剤、環境浄化資材など高度な用途に使用できた。ベチュリンを簡易に単離・精製し、生分解性プラスチック、医薬品、天然界面活性剤などに利用する技術を確立した。これらの結果は北海道にベチュリン(シラカンバ外樹皮成分)、低質木材、農業廃棄物を有効利用したバイオマス変換産業を創設できることを示唆した。
著者
新田 義修 志賀 永一 黒河 功 ソイルカム バトゥール
出版者
北海道大学
雑誌
北海道大学農經論叢 (ISSN:03855961)
巻号頁・発行日
vol.61, pp.119-132, 2005-03-11

This paper focuses on the number of domestic livestock kept by nomads in Mongolia. The economic conditions of nomads in Mongolia changed during the transition of a centrally planned economy to a market economy, and as a result of harsh climatic conditions (referred to as Dzud in Mongolian). We have divided the nomads into two categories : Before and after the Dzud. First : From 1991 to 1999, the number of domestic livestock had been increasing along with the increase of family members. During this period, nomads increased the number of their sheep and goats. Second : After the Dzud, it appears that respective farmers had between 51 and 100 livestock and about 65% of the families had less than 100 livestock. A comparison of data in 1999 and 2003, illustrated that in most categories, the nomads reduced in number where the reduction ratio depended on conditions, such as resistive livestock, weak livestock and labor conditions in respective families.
著者
有賀 早苗
出版者
北海道大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

我々はPAP-1の結合因子を質量分析により網羅的同定を行ったところ、これまでに5種類の結合タンパク質を同定した。驚いたことにその中の一つに前述のEPB41L5が同定されたことから、劣性型RPの原因遺伝子Crb1と優性型RPの原因遺伝子PAP-1が共通の結合因子EPB41L5を持つことが明らかとなった。EPB41L5にはC末端が異なるL、Sの2種類のスプライシングアイソフォームが存在するが、PAP-1結合因子として得られたのはC末端側が短いアイソフォーム(EPB41L5-S)だけであった。また、EPB41L5-Sは通常細胞質に局在するが、PAP-1の存在下では核内に蓄積することを観察しており、PAP-1はEPB41L5-Sを核内にリクルートできると考えている。これらの知見は、劣勢、優勢の網膜色素変性症に共通な分子基盤が存在することを意味しているのかもしれない。更に、PAP-1のスプライシングターゲット遺伝子の探索を行い、複数の候補遺伝子を同定した。
著者
高田 礼人
出版者
北海道大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

フィロウイルスは霊長類に重篤な出血熱を引き起こし、その致死率は90%近くに及ぶこともある。マクロファージや樹状細胞および肝細胞はウイルスの生体内における標的細胞であり、これらの細胞への感染が病原性発現に関与していると考えられている。フィロウイルスの表面糖蛋白質GPはこれらの細胞に発現しているC型レクチンと結合してウイルスの侵入効率を上げることが知られている。本研究では、フィロウイルスのプロトタイプであるマールブルグウイルス(MARV)のC型レクチン介在性細胞侵入機構について、病原性の異なる2つの株を用いて解析を行った。MARVのGPを持つシュードタイプウイルスを、ヒトのガラクトース型C型レクチンhMGLまたは樹状細胞に発現するC型レクチンDC-SIGNを発現させたK562細胞に接種し、フローサイトメーターを用いてGFP陽性のウイルス感染細胞数から各細胞に対する感染価を測定した。霊長類に強い病原性を示すAngola株のGPを持つシュードタイプウイルスは、比較的弱い病原性のMusoke株のGPを持つものよりもレクチン発現細胞への感染性が高いことが判明した。また、547番目のアミノ酸(Angola株 : グリシン、Musoke株 : バリン)がレクチン介在性の細胞侵入効率を決定していることが明らかとなった。MARVの病原性とレクチン発現細胞への感染性との間に相関が見られたことから、C型レクチン介在性の細胞侵入効率はMARVの病原性に関与する因子の一つである可能性がある。同定された547番目のアミノ酸は細胞への吸着に重要とされているレセプター結合領域とは離れているが、fusion peptideの近傍である。したがって、レクチン介在性細胞侵入において、このアミノ酸がfusion peptideが露出するための立体構造変化や膜融合活性に重要であることが示唆された。
著者
鈴木 啓助 石井 吉之 兒玉 裕二 小林 大二 Jones H.G.
出版者
北海道大学
雑誌
低温科学. 物理篇 (ISSN:04393538)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.93-108, 1993-03
被引用文献数
6

融雪におよぼす森林の影響を検討するために,カナダ東部北方針葉樹林地において,融雪水の流出機構に関する調査を行なった。森林内外に気象・融雪に関する観測機器を設置し,その他の測定方法も内外で同一にして調査を行なった。その結果,森林内外の降水中のNH_4^+とNO_3^-の窒素化合物濃度については林内で林外より低濃度になっており,生物活動による化学変化および消費が推察された。また,積雪下面融雪水中の溶存物質濃度は,林外でのみ日変化が明瞭であり,日変化のパターンはH^+とNO_3^-が同じで,Ca^2^+とSO_4^2-はそれと逆の変動パターンを示す。林外での積雪下面融雪水の水量とH^+濃度による流出成分分離の結果,各融雪日の融雪初期には,積雪下層の積雪内部融雪水が,押し出し流によって流出し,その後に積雪表面から供給された当日の融雪水が流出すると考えられる。
著者
下田 和孝 中野 繁 北野 聡 井上 幹生 小野 有五
出版者
北海道大学
雑誌
北海道大学大学院環境科学研究科邦文紀要 (ISSN:09116176)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.17-27, 1993-03-30
被引用文献数
9

魚類群集への人為的影響を評価する目的で,知床半島の8河川で魚類相を調査し,標識再捕獲法による個体数推定を行なった.さらに,3河川では,知床半島の淡水域における優先魚種であるオショロコマについて,個体群構成を調査した.これらの調査の結果,国立公園に指定されているために,比較的良く自然状態が維持されてきた知床半島においても,魚類群集は砂防・治山ダムや遊魚などの人為的を受けていると考えられた.1.3科5属8種の魚類を確認した。これらの魚類は遡河回遊魚(カラフトマス,サクラマス,シロサケ),両側回遊魚(カンキョウカジカ,エゾハナカジカ,ウキゴリ,ミミズハゼ)および陸封魚(オショロコマ)の3タイプに大別された.2.遡河回遊魚は,堤高の小さい落差工の上流域においても生息が確認されたが,その上流に位置する堤高の高い落差工によって,遡上が制限されていると推定された.3.小型の底生性魚類である両側回遊魚の分布域は,主に最下流に位置する落差工よりも下流域に限定され,遡河回遊魚は遡上可能な堤高の小さい落差工であっても,両側回遊魚の遡上を制限している可能性が大きい.4.オショロコマの生息密度は,堤高の大小にかかわらず,落差工の上流・下流間では差異は認められなかった.しかしながら,砂防・治山ダムの設置にともなう土砂堆積のため,河床地形が改変されている場所では,オショロコマの生息密度は,自然河川に比べかなり低かった.5.遊魚漁獲による影響を受けやすいと考えられる河川のオショロコマは,河床地形が自然状態を維持している場合であっても,そうでない河川に比べ,生息密度が低いかあるいは,個体群構成が小型低年齢であった.
著者
秋田谷 英次 成田 英器 小林 俊一 和泉 薫 対馬 勝年 石坂 雅昭 楽 鵬飛
出版者
北海道大学
雑誌
低温科学. 物理篇 (ISSN:04393538)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.51-61, 1994-03
被引用文献数
2

中国黒竜江省は冬期の降水は少なく寒冷な気候帯にある。現地で冬期間の気象観測,さらに3月には積雪調査と道路状況を視察した。その結果次の事が明かとなった。積雪が少なく寒冷なため,積雪はしもざらめ雪の発達が著しい。また,しもざらめ雪は結合力が弱いため,いったん堆積した雪が強風下で大陸性地吹雪と呼ばれる吹雪となる。この吹雪が堆積すると寒冷な気象の下で硬しもざらめ雪を形成する。近年,中国では道路交通の重要性が増したが,道路の維持管理や車の性能が冬道には不十分である。そのため,道路上の吹き溜りは量が少なくて大きな交通障害となったり,大事故の恐れがある。その対策には吹き溜り防止工,道路の維持管理および車の冬期装備を考慮しなければならない。
著者
栗原 秀幸
出版者
北海道大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

食後高血糖抑制効果を期待できるα-グルコシダーゼ阻害物質を水産食品中に見いだす研究はほとんどなされていない。その萌芽的研究として、本研究により海藻食品のヒジキからα-グルコシダーゼ阻害物質を初めて単離し、構造、阻害活性および様式を明らかにした。まず、寒天平板を用いたα-グルコシダーゼ阻害性試験を指標として、阻害成分の分画をおこなった。市販乾燥ヒジキの含水メタノール抽出物から各種クロマトグラフィーにより分画し、二種類の阻害物質を単離した。得られた両阻害物質はともに糖および含硫化合物呈色試験に陽性で、GCにより脂肪酸残基の存在が明らかとなった。各種臓器分析(IR、UV、MS、NMR)の結果から、両阻害物質の構造を植物の主要な糖脂質である6-スルホ-α-キノボビラノシルジアシルグリセロール(SQDG)およびそのリゾ型の6-スルホ-α-キノボビラノシルモノアシルグリセロール(SQMG)と決定した。速度論的解析により、SQDGの酵母α-グルコシダーゼに対する阻害物質定数(Ki)を3.0μMと、阻害様式を拮抗型阻害とそれぞれ明らかにした。SQMGの単離量が少なく、Kiを求めることができなかったので、SQMGとSQDGの同濃度での酵素阻害率を比較したところ、SQMGの阻害活性が2.5倍強かった。以上のように、ヒジキから新タイプのα-グルコシダーゼ阻害物質として糖脂質を得た。本研究では、SQDGとSQMGの酵素阻害性は始めて明らかにされ、糖脂質研究の中でも遅れていたグリセロ糖脂質を対象とした研究発展の端緒となるに違いない。今後、スルホキノボ-ス類縁体の酵素阻害性や単離した阻害物質のin vivoでの有効性を検討する必要がある。