- 著者
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油尾 聡子
- 出版者
- 名古屋大学
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2010
社会的迷惑行為とは,歩行を妨げる駐輪など,周囲の他者に不快感を与え,不便さをもたらす行為である。研究1では,「きれいに駐輪していただきありがとうございます」など,感謝を表した上で社会的迷惑行為の抑止を求める感謝メッセージの効果と抑止プロセス,調整要因を検討した。感謝の言葉で丁寧にお願いをされると,受け手はその好意に対するお返しを動機づけられ,感謝メッセージに従って社会的迷惑行為を抑制しようとする。研究1を通して,受け手のこのような心理的プロセスが"互恵性規範"(Gouldner,1960)によるものであることを提唱した。こうした互恵性規範の喚起による社会的迷惑行為の抑止方法は,受け手の反発心を招くことなく自発的に当該行為を抑制させる点で有用な方法と考えられる。研究1に関して,2012年度では,(1)感謝メッセージの受け手における心理的プロセスが互恵性規範以外のものでは代替不可能であることを明らかにした。この結果は,国内外の学会にて発表した。また,(2)社会的迷惑行為の抑止者にも焦点を当て,抑止者は,受け手に比べて,感謝メッセージや周囲の他者を配慮するよう求めるメッセージを好ましく評価していることを示唆する調査データも得られた。研究2では,対人場面での好意の提供(飲み物をおごる,面倒な仕事をやってあげるなどの親切行為)でも社会的迷惑行為が抑止されるかどうかを検討した。その結果,そうした好意の提供であっても,研究1の感謝メッセージ同様に,互恵性規範の喚起によって社会的迷惑行為が抑止されることが示された。ただし,その効果を補強するための条件が必要であることも明らかとなった。研究2の成果に関して,2012年度では,2011年度に投稿していた論文の審査対応などをし,掲載決定に至った。これらの2つの研究を進めることに加え,2012年度では学位論文の執筆を行い,これまでに実施した一連の研究成果をまとめた。