著者
林 〓 江本 祐子 福田 五月 伊藤 修宏
出版者
岐阜大学
雑誌
岐阜大学農学部研究報告 (ISSN:00724513)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.117-130, 1987-12-25
被引用文献数
1

都市近郊里山地帯の土地利用については,利用内容の設定,維持管理手法の策定いずれの面からも,在来型の農林業の枠では律し切れない現実にある。各都市において都市化の進展度,パターンの相違はあっても,それぞれ里山森林地帯の維持管理に,新しい試みか行い,定着させる必要性に,共通して直面している。本報告では里山地帯の農業の安定形態と森林利用の高度化を達成するための方式を明らかにするために,鶴岡市,山形市,栃木市,尾道市,高松市,宇和島市,日田市,長崎市の8都市について分析した。その結果,森林のみに限れば,利用・保全の基本的枠組みは,(1)区域設定のもとに基本的な枠組みがされる,(2)条例制定による制度体系により枠組みがされる,(3)市街地緑化と連動して里山森林地帯の保全を図る,という3方式を確認し得た。
著者
林 〓 江本 祐子 福田 五月 伊藤 修宏
出版者
岐阜大学
雑誌
岐阜大学農学部研究報告 (ISSN:00724513)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.93-116, 1987-12-25
被引用文献数
1

都市近郊の里山地帯は,都市成長のインパクトによって変貌させられて行くが,森林及び農地としての利用と都市化のベクトルとは,相互に交錯する場合と,画然と区分されて働く場合と,二通りのタイプがある。前者の場合は,両ベクトルの連関を調整し,どのように併存ネットワークを形成するか他都市空間構成上の問題となるのに対して,後者の場合は,両者の均衡点をどう設定するのかが問題となる。本研究では,鶴岡市・山形市(山形県),栃木市(栃木県),尾道市(広島県),高松市(香川県),宇和島市(愛媛県),日田市(大分県),長崎市(長崎県)の8都市を選んで,都市域内における土地利用の変化,農地及び森林の減少過程,土地利用パターン,都市域発展ベクトルの解析を行った。その結果,土地利用区分の配置モデルとして,次の5モデルを設定し得た。(1〜3は従来得ていたモデルである)1.森林と農地とが大きく2分割され,その間に混在地が介在する。3.森林と混在地とが2分割されて配置される。3.新興住宅地が広く配置され,高密な都市化が進展し,森林はその外側に残置される。4.市街地・混在地・新興住宅地(都市部)を農地が囲み,その外側を森林が囲む。5.都市部を森林が囲む。以上の5つのモデルによって,わが国の都市の空間構成の典型を示すことができよう。
著者
川上 紳一 小嶋 智 小井土 由光
出版者
岐阜大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

岐阜大学附属中学校と長良中学校の生徒を対象に、天体望遠鏡(スピカ)による金星の満ち欠けの観察を取り入れた授業を実践した。この間、岐阜大学では天気の良い日は可能な限り金星の観察を行い、得られた画像をその日のうちにホームページで公開し、生徒たちの観測への動機づけや観察結果の確認のため使用した。まとめの授業では、継続的な観察結果を踏まえ、モデルによって観察事実が合理的に説明できるか検証した。また、宵の明星の観察を基に、明けの明星になった金星の姿を予想し、さらなる観察で確認を行った。今回の実践では内合通過前後で観察を行うことで、有意義な授業を展開できた。一方、月の満ち欠けについては、岐阜大学附属小学校4年生を対象に、天体望遠鏡(スピカ)と双眼鏡による月の観察を行った。天体望遠鏡の視野の中に月を導入すること、望遠鏡のピント合わせなど、小学4年生には困難な課題を提示したが、多くの子どもが観察に成功した。とりわけ、せっかく月が見えるようになったのにすぐ月が視野からはずれることに気づいた子があり、授業での交流で月が動いているかどうかが問題となった。その結果、次の授業までにもう一度観察して確かめる課題へと発展した。結局、多くの子どもが月が東から西へ動いていること、日ごとに東へ移動すること、月の地形やクレーターの存在に気がついた。岐阜大学のホームページでは、月の満ち欠け、地形やクレーターを紹介したホームページを作成し、興味をいだいた子どもたちにより深い学習へと発展できるようにした。天体望遠鏡による月の観察を取り入れた指導法については、今後も授業で実践し、改良していく必要がある。このほか、小中学校で学習する理科(特に2分野)の学習や高等学校「理科総合B」の学習を支援する教材をホームページに多数掲載した。
著者
野村 幸弘
出版者
岐阜大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

ミケランジェロの「扮装像」の表現を受け継いだのが、カラヴァッジョである。カラヴァッジョは大きく分けて、十代と思われる少年、ひげを生やした成人男性として、その初期作品から登場する。《病めるバッカス》、《果物籠を持つ少年》、《聖フランチェスコの聖痕拝受》である。《聖痕拝受》は、ミケランジェロの《サウロの回心》を下敷きにし、《ダヴィデとゴリアテ》もミケランジェロの《最後の審判》における聖バルトロメオの表現を意識して描かれている。カラヴァッジョは、これらの作品で、ミケランジェロの扮装表現を、官能的に解釈し直したり、描かれた人物の視線を通して、交感、感情移入の表現を行い、絵画の心理的表現を実現している。そうした心理的、感情的、主観的な扮装表現を推し進めたのが、アルテミシア・ジェンティレスキである。《ユーディットとホロフェルネス》では、画家自らが、絵の中のいわば脇役に甘んじず、主役として積極的に物語に参加する。この作品で彼女はアブラに扮し、ホロフェルネスの殺害に関与する。それが彼女の実人生と深い関わりを持っているのである。ルネサンス以降、絵画表現が、広く宗教や社会、文化との関係というよりも、むしろ画家個人の性格や人間関係、セクシュアリティ、あるいは実生活上のプライベートな出来事と密接な関係を持ち始めることが、扮装論の視点から見えてくる。扮装は、芸術家の個性、あるいは自意識に関わる問題である。しかし、自作の中で扮装する画家が、作品の言わば「造物主」でありながら、かならずしもそこで神のように振る舞うわけではない点が興味深い。そこには複雑な心理過程や屈折、韜晦があって、ストレートな自己表現や全能感に満ち溢れた表現となっているわけではない。ルネサンスの画家は外界の目に見える世界を正確に認識するために、絵画を描き始め、それはやがて科学的な物の見方へと受け継がれていったわけだが、それと同時に、自己の内面という目に見えない世界を認識しようという欲求が芽生え始めていたのである。
著者
飯原 大稔
出版者
岐阜大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

本研究では、抗がん剤投与に関連する急性(点滴後0-24時間)の悪心・嘔吐の予防効果において5-HT3受容体拮抗薬の注射薬に対する内服薬の非劣勢を証明するために、岐阜大学医学部附属病院呼吸器内科で高・中リスクの抗がん剤を投与された患者を対象とし、アザセトロン錠(アザセトロン群)とグラニセトロン注射液(グラニセトロン群)を用いてオープンラベル無作為化比較試験を実施した。本邦では急性悪心・嘔吐の予防には注射薬が主に用いられているが,内服薬が使用可能となれば薬価が注射薬の約4分の1と安価である(グラニセトロン注射薬:5,667.0円、アザセトロン錠:1,480.4円)ことから医療費抑制においては非常に有利である。現時点で本研究に組み入れられた患者数は106名で、その内の試験が終了した90名について解析を行った。有用性の一次評価項目は急性期に中~高度の悪心なし、嘔吐なし、救済的制吐薬投与なしの3条件を満たす完全制吐率とした。2次評価項目として遅発期(24-120時間)の完全制吐率、全期間(0-120時間)の完全制御率、血液毒性、非血液毒性とした。急性期の悪心・嘔吐おけるアザセトロン群およびグラニセトロン群の完全抑制率はそれぞれ97.7%および97.8%となり有意な差は認められなかった。遅発期および全期間における完全制御率はアザセトロン群およびグラニセトロン群の完全抑制率はそれぞれ68.2%および65.2%となり有意な差は認められなかった。副作用の評価においては、血液毒性および非血液毒性共に両群間に有意な差は認めなかった。これまでの結果より医療経済的に優れているアザセトロンの経口投与はプラチナ製剤を含む肺がん化学療法において有用な薬剤と考えられた。
著者
堀内 孝次 高橋 敬一郎 林 三喜子
出版者
岐阜大学
雑誌
岐阜大学農学部研究報告 (ISSN:00724513)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.1-8, 1987-12-25
被引用文献数
1

エンドウの連作障害回避対策を検討する目的で,地力維持に関する現地調査と現地より採取した土壌を用いて,1)前作株元からの採土距離別土壌と2)耕うんによる土壌攪はんを想定した採取土壌間の土壌混合によるエンドウの生育を土壌の種類毎に比較検討し,以下の結果を得た。現地(岐阜県下,主として中山間地)で見られる連作障害対策としてa)別の畑に移す(畑地が複数枚あるか,やや規模の大きい場合),b)同一畑地内で栽培する場合は前作跡から一定の距離(1畦〜5m)をおく方法が取られる。なお,エンドウの休閑年数は通常,3年間が最も多かった。前作株元からの採土距離別にみた連作エンドウの生育は土壌の種類によって異なり,壌土の30cm区で最も生育が劣った。砂壌土と埴壌土では採土距離の影響は明瞭ではなかった。採取土壌の混合についてはいずれの土壌の種類においても前作株元から70cm離れた地点での混合であれば連作による生育抑制などの悪影響はでないことが明らかとなった。
著者
伊藤 昭 寺田 和憲
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

1.「心を読む」ことをアルゴリズムとしてとらえ、利害の輻輳する状況下での人の「心を読む」行動の分析と、学習アルゴリズムとしての実現手法の研究を行った。具体的には、協調と競合が絡み合った問題として1・2・5じゃんけんや3カード問題を作成し、相手がこちらの行動を読むことを予想して、それを自己の目的を達成のために利用するという、再帰的な心を読む行動の発現を調べた。また上記と並行して、自己の利益を最大化することと矛盾しない形で、最適な行動を計算機が自動的に生成(学習)するアルゴリズムを検討した。その結果、履歴を考慮した適切な学習アルゴリズムを用いることで、利益が輻輳する状況下で、双方が納得できる良い解を発見できることを示した。2.コミュニケーションにおける視線や表情の果たす役割に注目し、そのメカニズムの解明と人とロボットのコミュニケーションへの応用を目指した研究を行った。具体的には、人の視線方向を検出し、また自ら視線を制御できるロボットと人とのインタラクション実験を通して人の振る舞いを分析、視線を適切に制御することで、人がロボットに対して「意図スタンス」を取りやすくなることを確認した。また表情を単に基本表情に分類するのではなく、表情を目の動きを含めて顔の与える「心の状態」へのメッセージととらえ、その検出方法を検討した。3.人工物を「心を持つもの」とみなして、その意図を読むことでコミュニケーションを実現することを目指した研究を行った。最初のステップとして、Dennettの物理、設計、意図スタンスの分類に従い、人のとるスタンスの評価方法を検討した。具体的には、自律移動椅子、自律移動立方体を用いて、人がそのような未知な物体と出会ったとき、どのように行動するのかを観察、分析して、人の採るスタンスを評価すると共に、人が人工物に対して意図スタンスをとるための条件を明らかにした。
著者
橋本 慎吾
出版者
岐阜大学
雑誌
岐阜大学留学生センター紀要
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.3-9, 2005-03

パラ言語情報は、言語情報に比べ、一回性が強い(再現性が弱い)と言われている。このパラ言語情報を定量的に分析するために、「3番テーブルの客」というテレビドラマを分析した。このドラマは、毎回同じ脚本を、異なる演者、異なる演出でドラマ化するというもので、異なる演者、異なる状況で発せられる同じセリフを数多く抽出することができる。本稿ではその中の「俺は遊びじゃ歌わない」というセリフを取り上げ、全長持続時間、基本周波数(以下F_0)最大値、F_0平均値、F_0最大値の位置を計測し、共分散分析を行った結果、持続時間とF_0の間に相関は見られなかったが、F_0最大値とF_0平均値の間に強い相関が見られることがわかった。
著者
テイラカラタネ ラール 今井 健 柳田 洋吉
出版者
岐阜大学
雑誌
岐阜大学農学部研究報告 (ISSN:00724513)
巻号頁・発行日
vol.63, pp.37-53, 1998-12-26

米はスリランカの主食であり,家族農業経営によって担われた水稲栽培はほかの食用作物の栽培に比べ,スリランカの気候条件にマッチしているため優位性がある。また稲作部門は全人口の10%以上をしめる季節労働者を雇用しているが,全ての商品作物の中で単位面積当たりの労働時間がもっとも少ない。1997年の8月,アヌラダプラ地域の110戸の農家を対象とした調査でスリランカの水田農業における様々な実態を明らかにした。本研究の主要な結果は次の通りである。1.アヌラダプラ地域の世帯主の57%は,年齢が40歳以下であり,この地域の農家は若い人が多いことを示している。また,農家の人々の本業は,伝統的農村では94%は農業であり,新入植農村ではそれは73%で月日入植農村では83%となっている。農業以外に商業などの自営を行う人が近年では増加している。2.アヌラダプラ地域の一戸当たり平均耕地面積は3.7acre(1.48ha)であり,一戸当たりの水田面積は2.2acre(0.88ha)で,したがってこの地域は60%は水田である。また,栽培作物の構成は,水稲65.1%,その他畑作物などが34.9%であり,水稲の割合がもっとも高い。3.伝統的農村の4acre(1.6ha)以上の大きな農家についてみると,そのうちの48%は様々な形態の借地となっている。たとえば,分益小作,抵当システム,政府所有地の借入れなどである。大規模農家は小規模農家からの借地が容易に行えるため,農地を購入するより安価な借地の方が多く借地に様々な形態がある。4.稲作の費用の48%は労働費で占められている。労働力利用方式には,家族労働力,共同手間替え,お手伝い,雇用労働,請負耕作賃労働など,様々な様式がある。農繁期にはどの農家も労働力が不足しており,雇用労働や農家同士の共同作業や協力して助け合うことで労働力を補充している。そのため,このような様々な様式がある。5.標準的な稲作農家(2.5acre(1.6ha)経営)の1シーズン1acre(0.4ha)当たりのコストは約1万4千ルピー(2万8千円)であり,利潤は約6325ルピー(1万2650円)である。新規参入農家には政府が規定する最低規模2.5acreを保証し,標準的な稲作農家としている。一般的な他産業就業者の利潤は5000ルピー(1万円)程度で,標準的な稲作農家の利潤は2635ルピー(5270円)で比較すると他産業就業者の半分程度の利潤しか得られていない。
著者
平山 晴子
出版者
岐阜大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

グレリンは、胃から主に放出されるペプチドホルモンで、成長ホルモン分泌亢進など中枢に対する作用がよく知られている。作用発現には脂肪酸修飾が必要であることがグレリンの構造上の特徴であり、脂肪酸修飾を持たない型をデスアシルグレリンという。これまでに申請者の所属研究室では、中枢からの消化管運動への影響も検討できるin vivoの実験系を用い、非ペプチド性グレリン受容体アゴニストが脊髄排便中枢に作用し大腸運動を亢進させることを報告した。この結果に基づき申請者は、ペプチド性グレリンは脊髄排便中枢への投与により用量依存性に大腸運動を亢進させること、また、デスアシルグレリンは単独投与によっては大腸運動に変化は起こさないものの、グレリンの効果に対しては抑制効果をもつことをこれまでに明らかにした。さらに脊髄におけるグレリンおよびグレリン受容体のmRNA発現が確認され、グレリンが神経伝達物質として作用する可能性が示唆された。前述の結果をふまえ、申請者は当該年度、グレリンの大腸運動亢進作用をさらに詳細に検討し、脊髄から大腸運動を亢進させるに至る経路が骨盤神経であることを特定した。また、この脊髄を介するグレリンの大腸運動亢進作用は、大腸内腔圧を上昇させることにより誘発される蠕動亢進には必須ではないことを明らかにした。本研究の最終的な目的であるグレリンと病態との関与について検討するために、覚醒下の実験条件の検討を行い、無麻酔下のラットへのグレリンの脊髄腔内投与方法を確立した。また、ストレス下の状況は既存のコルチコトロピン放出ホルモン投与による手法を用いた。グレリンとストレス、そして消化管運動の相互関係について確定的な結論を導くまでの結果は得られなかったが、予備的な実験は進んでおり、近い将来に結論が導かれ、過敏性腸症候群などの消化管疾患の病態解明に寄与すると期待される。
著者
吉野 純
出版者
岐阜大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

昨年度に引き続き,構築されたバランス台風モデルを用いて,台風強度と環境場との関係についての統計的解析を行った。その結果,台風の十分な強度発達のためには,高い海水面温度環境のみならず,定常に達するまでの十分な経過時間(台風発生から140時間以上)を要することが理解された。経過時間の不十分な台風は,陸地や強い風の鉛直シアーの影響を受けて定常に達する前に減衰してしまうことが明らかとなった。すなわち,台風の発生位置や進路までもが,間接的には台風強度に影響を及ぼしていると言い換えられる。また,これらの統計解析の結果に基づき,個々の台風のピーク時の強度を台風発生時に瞬時に推定できる回帰関係式を提案し,リアルタイム台風災害ハザードマップの構築が可能となる画期的な結果を得た。更に,これらの知見に基づき,非定常な台風強度変化を評価できる台風強度予測システムを構築した。気象モデルMM5から得られる台風の環境場(海水面温度,対流圏界面温度,水蒸気プロファイル,風の鉛直シアー,海洋混合層深等)に関する情報を入力値とすることで,低い計算機資源の下で台風の内部構造とその強度が予測可能となった。本システムを用いて実事例として1999年の全台風の強度予測実験を行い,精度検証することで,平均バイアス誤差±5hPa以内で台風強度予測が可能であることを実証した。以上より,今日まで台風予測において問題となっていた1)空間解像度の問題,2)モデル定式化の問題,3)初期値の問題,のうち1)と2)の問題が本研究により解決され,高精度かつ経済的に台風予測が可能となった。依然として3)の問題が残されるが,更なる高精度化のための今後の最重要検討課題であると言える。
著者
吉野 純
出版者
岐阜大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では,独自開発した大気-海洋-波浪結合モデルと台風渦位ボーガスを用いることで,伊勢湾における現在・将来気候における可能最大高潮の力学的評価を行った.現在気候においては,伊勢湾台風時の太平洋上の海水面温度29.0℃を設定することで,紀伊半島上陸時の可能最低気圧は930hPaとなり,名古屋港での可能最大高潮(潮位偏差)は4.5mとなることで,伊勢湾台風時に観測された潮位偏差3.55mを大きく上回ることが明らかとなった.また,将来気候においては,2099年9月(A1Bシナリオ)の太平洋上の月平均海水面温度30.2℃を設定することで,上陸時の可能最低気圧は905hPaとなり,名古屋港における可能最大高潮は伊勢湾台風の倍近い6.5mとなるとこと明らかとなり,現状の計画潮位を大きく上回る可能性が示唆された.
著者
川上 紳一
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は,国際宇宙ステーションなどの人工衛星を活用した科学教育プログラムの開発である.これまでに科学研究を目的とした明るい人工衛星の飛行経路や到来時刻を予報したホームページを公開し,運用を続けている.今年度は「人工衛星観測ナビゲータ」に掲載されている人工衛星の明るさを観測し、予測式を導いて、予報値を公開するためのプログラム開発を行った.また、米国の情報セキュリティ強化にともなって、従来のような人工衛星軌道情報の取得が困難になり、軌道情報自動更新ソフトを新たに開発する必要が生じたため、ソフトの開発を行った.国際宇宙ステーションから見た地球のシミュレーションソフトについては,平成16年度に静止画版を公開したが,本研究では,3D動画配信版の開発に関する技術的検討を行った.このソフトの開発には,MatrixEngineというゲームエンジンが有効であり,このソフトで表示するための3D地球オブジェクトの開発が必要であることを明らかにした.これらのソフト開発についても本研究と密接に関連するプロジェクトとして進め,2005年9月の段階で,試作版をweb公開した.このソフトをさらに魅力的なものにするには、気象衛星の雲画像を取得して一定時間ごとに更新するようなシステム開発が望まれる.この課題についても,気象衛星画像の入手方法について調査を行い,複数の気象衛星の画像からコンポジット画像を合成して表示することは技術的に可能であることを明らかにした.一方,こうしたソフトを活用した天体観察会についても実施し,星空のなかを飛行する国際宇宙ステーションが,児童・生徒の学習の動機づけとして有効であるというデータを取得した.このように,本研究は当初の予定を上回る成果を挙げることができた。科学教育プログラムとしての完成のためには,当初想定していなかった雲画像の表示ならびに更新システム開発、地球情報とのリンクの確立など,新たな課題が明確にできた.
著者
松井 永子
出版者
岐阜大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

アレルギーの遺伝的要因として、アレルギー疾患で高値となることが多い血清IgE産生に関わるサイトカインシグナル伝達系の中で、特にIgE産生の抑制系に関与する蛋白質の遺伝子に着目し、アレルギー疾患発症の原因遺伝子について検討した。1、IgE産生抑制系に関与する遺伝子変異の同定アレルギー患者においてPHA刺激によるPBMCsから産生されるIFN-γ産生量を検討したところ、IFN-γ産生量は血清IgE値と負の相関関係を示すことが明らかになった。さらに、PHA刺激によるIFN-γ産生量とIL-12やIL-18などのサイトカインで刺激した場合のIFN-γ産生量を比較すると、IFN-γ産生量に解離がみられるアレルギー患者が存在した。そこで、Th1サイトカインのシグナル伝達系のなかでIL-12Rβ1鎖、β2鎖、IL-18Rα鎖、IFN-γR1鎖遺伝子の遺伝子配列を検討したところ、9つの変異が検出された。2、インベーダーアッセイ法による各変異遺伝子の検出検出されたIL-12Rβ1鎖、IL-12Rβ2鎖、IL-18Rα鎖、およびIFN-γR1鎖遺伝子における変異の出現頻度を検討した。IL-12Rβ1鎖遺伝子における3つのミスセンス変異において、M365T変異、およびG378R変異の出現頻度はアレルギー群に有意(p=0.023)に高く、R361W変異はアレルギー群にのみ変異が検出された。IL-12Rβ2鎖遺伝子の4つの変異において、A604V変異の出現頻度はコントロール群に比較して、アレルギー群において有意(p<0.002)に高く、R313G変異、1856 del 91変異、およびH720R変異はアレルギー群のみに検出された。Il-18Rα鎖遺伝子950 del 3変異においてはアレルギー群に有意(p=0.035)に高く変異が出現していた。IFN-γR1鎖遺伝子L467P変異はアレルギー群のみに変異が検出された(p=0.007)。今後、アレルギー素因となる遺伝子変異をパネル化し、組み合わせることにより、同定された遺伝子異常に対応した治療方法を選択することができる。このことにより、より効果的なアレルギー疾患の治療を行うことが可能であると思われる。さらには原因遺伝子異常がアレルギー疾患を惹起するメカニズムを明らかにすることにより、かかるメカニズムに対応した、アレルギーの治療薬の開発することも可能であると考える。
著者
杉浦 隆
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

酸化チタンは、光触媒などの光機能材料として様々に応用されている。以前の研究において焼結体や単結晶の酸化チタン電極にフォトエッチング処理を行うことで結晶配向に依存した特徴的なエッチングパターンが形成されることを見出している。しかしその場合、表面処理の効果は数百マイクロメートルの厚さの電極の表面のみに限られ、薄膜電極をフォトエッチング処理できれば、光触媒などへも応用も可能となると考えられる。そこで本研究では、酸化チタン薄膜を作製する方法としてチタン板を熱酸化する方法を試み、薄膜の評価を行った。さらに作製した酸化チタン薄膜電極にフォトエッチング処理を行い、その表面構造や光誘起親水特性を評価することで酸化チタン薄膜の作製条件が及ぼすこれらの特性への影響についての検討を行った。フォトエッチング処理をした電極の表面SEM像から、薄膜電極の場合においても酸化チタンの結晶配向に依存したエッチングパターンが形成可能であることを見出した。フォトエッチング処理前後の電極の光誘起親水特性評価を行ったところ、ブラックライト照射下でフォトエッチング処理前の試料は2500分間の照射で限界接触角が70°であったのに対し、処理後の試料は120分間の照射で0°と超親水性を示し、短い照射時間で限界接触角が大きく減少したことがわかった。これはフォトエッチング処理により光誘起親水化しやすい酸化チタンの(100)面が選択的に露出したためであると考えられた。
著者
高塚 直能 長瀬 清
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、乳がん手術の待機期間に影響する要因について検討した。病期分類3の場合、病期分類0、1 、2に比べて待機期間の最大値が短く、我が国では重症例に対し先延ばしにしないという傾向を示唆するものであった。ただし、多変量解析では病期について有意な係数は得られなかった。また待ち行列理論の適用しモデル化を試みたが、流入率が流出率を上回ることがあり、流入率が流出率を上回らないとする理論から逸脱するため、適用は断念した。
著者
杉山 道雄 畦上 光弘
出版者
岐阜大学
雑誌
岐阜大学農学部研究報告 (ISSN:00724513)
巻号頁・発行日
vol.50, pp.409-421, 1985-12-15

鶏卵のG.Pセンターの分析,とりわけその販売管理の分析は少なかった。本報告では,農協型G.Pセンターの4事例の事例研究により,その概要,農家からの鶏卵買収価格,G.Pセンターの販売活動,販売戦略について検討した。その概要を述べ,考察したものである。NSGPは経済連型で地域流通型である。そのため全県下からの広域集卵であるが,岐阜市内などのスーパーマーケットに直売する(地域販売)ので配送費は少ないが集卵黄は多く要している。UGPは60名の専門農協で団地型のG.Pである。したがって集卵黄は不要である。鶏卵は全農経由でスーパーマーケットに出荷し,マーケティング活動は余り行なっていない。YGPは歴史の深い養鶏専問農協で,ダンボール詰めで東京出荷を行なう一方,地場出荷も行なっている。IGPはコンピューターにより農家からの買上げ価格を決定し,パック卵として東京出荷を行なっている。G.Pセンターの赤字経営が多いといわれる今日,利益をあげるために,いくつかの重要だといわれるマーケティング戦略を述べれば,以下のとおりである。(1)鶏卵をパック卵として小売機関に直売する一方,粉,液卵等加工卵として保管し,加工業者に廻すこと。(2)パック卵比率を高め,原料卵比率を低めること。(3)パック卵として地場・地域流通を増大させ,遠距離出荷を減少させること,これは配送費の節減のためでもある。