著者
野口 雅弘
出版者
岐阜大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2007

「ウェーバー的な官僚制論」といわれるものは、マートンの逆機能など、多くの批判を受けてはきたが、それでも官僚制論の基本とされてきた。それは、大規模組織に、多くの構成員を包摂し、彼らをきびしく規律化することで成り立ち、そうして達成された効率性ゆえに拡大を続ける「鉄の檻」という官僚制理解である。しかしこれは、グローバル化と新自由主義化の傾向において「リキッド・モダニティ」(バウマン)がいわれるなかで、大きな修正を求められている。ところが、「官から民へ」、「小さな政府」、住民との〈協働〉(「新しい公共」論)などの、近年の官僚制をめぐる議論では、旧来の官僚制理解を前提にしつつ、「大きすぎ」で、「抑圧的」な官僚制を攻撃するという論法がしばしば使われている。本研究は、こうした状況に対して、政治理論の古典文献を再読解することを通じて応答しようとする試みであり、その成果は、以下の二つのテーゼにまとめることができる。ひとつは、「脱政治化された秩序」と官僚制の相関性であり、いまひとつは、官僚制とアソシエーションのジレンマである。前者の「脱政治化」とは、政治的な抗争関係が顕在化しないように作用する言説を問題化しようとするタームである。政治的な抗争が封印されると、現状において自明視されている「慣習」が批判的に検討され、熟慮され、そうして変容するという可能性が閉ざされてしまう。このような「脱政治化」は、ある意味での経済的「合理性」を一元的に貫徹しようとする新自由主義から調和的な秩序構想のなかで政治的コンフリクトの契機を根絶しようとする儒教システムにまで見いだすことができる。以上のような観点からすると、官僚制的な組織が「小さく」なったとしても、それで問題が解決するわけではなく、さまざまな政治的抗争が政治のシーンから見えにくくなることにともなう問題があることが見えてくる。本研究は、ウェーバーの『儒教と道教』を「脱政治化された秩序」の分析の書として受け止め、そこにおける官僚制支配の機制を検討した。後者の観点(官僚制とアソシエーションのジレンマ)からすると、(抑圧的で、画一的な)官僚制という「悪」に対して(自発的な)アソシエーションという「善」が対抗するという思考では、自由なアソシエーション、あるいは〈民〉の活動によって(何らかの形で保持されるべき)「普遍性」が底割れするという連関を見落としかねないということになる。たしかにマルクスのヘーゲル批判にあるように、官僚制による「普遍性」の僭称にともなう問題も大きいし、実際「日本官僚制」批判ではこの側面が強調される十分な理由があった。しかし、今日、〈官〉の縮小のなかで別の問題状況が出てきている。こうしたなか、ウェーバーのアメリカ論を、官僚制とアソシエーションのジレンマを引き受けながら思考しようとした議論として検討することは重要になってきている。
著者
桜井 宏紀 後藤 研也 武田 享
出版者
岐阜大学
雑誌
岐阜大学農学部研究報告 (ISSN:00724513)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.37-45, 1983-12-15

ナナホシテントウの野外における発生状況を知るため,翅鞘の色彩および卵巣の発達度の季節的変化を中心として,成虫個体数の年間の変動を検討した。新成虫は晩春(第1世代),秋(第2世代)および初冬と3回の発生がみられた。第1世代成虫は6月下旬より一斎に夏眠に入り,雑草の根元で休眠した。一方第2世代成虫は12月下旬より越冬に入るが,真冬でも晴れた温暖な日には活動個体が野菜畑の周囲で観察された。翅鞘の色彩および卵巣の発達度から,初冬にみられる新成虫の発生は少数個体によるもので,第3世代個体とみなされないように思われた。そして翅鞘の色彩の程度とアラタ体の大きさの間には相関がみられることから,世代の重なり合う時期における成虫の令を推定するのに,翅鞘の色彩は卵巣発育とともに有効な指標であることが示された。
著者
林 進 伊藤 栄一 岡田 正樹 塚本 睦 中川 一 野平 照雄 山口 清 横井 秀一
出版者
岐阜大学
雑誌
岐阜大学農学部研究報告 (ISSN:00724513)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.9-26, 1992-12-25
被引用文献数
1

国指定天然記念物「臥龍桜」は,岐阜県宮村にある推定樹齢一千年の,淡墨桜に次ぐ県下第二位の老大樹である。その姿には,一千年という時間の厳しさ,またそれを生き技いてきた樹自身の生命力の強さが表されている。しかし,近年腐朽が進み樹勢維特上不安が持たれている。このため早急に何らかの対策を講じなければならない。樹木保護に当たっては総合的な対策が必要であるが,現在そのための調査方法や,対策技術が未確立な状況にある。そこでそれらの確立に向けて基礎調査研究を行った。調査は,現状を把握するため,桜本体の形状,腐朽部,成長状況,葉・花・根の様子,病虫害について行った。調査の結果から,臥龍桜の樹勢は旺盛である点,しかし,腐朽が強度に進行している部分もありそれらに対しての防腐対策,さらには,樹形保存のための外科手術など,多くの保護対策を講じる必要がある点などが考えられる。これらの保護対策は,それぞれ個別の対策ではなく,総合的に実施されること必要である。そのため,臥龍桜の保護管理サポートシステムを確立すること,モニタリングを長く継続して行うことが必要となる。以上のことから体系的樹木医学の確立へのステップとなり得る研究として報告する。
著者
永田 知里 清水 弘之 武田 則之 藤田 広志
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

乳がんリスクの指標としての血中・尿中エストロゲン値と生活環境要因の中からサーカディアンリズムに関わる睡眠・夜間照明・夜勤・生活リズム等、サーカディアンリズムの指標である尿中メラトニン値との関連性を成人女性、妊婦、幼児を対象に評価した。成人女性において、夜間照明への暴露あるいはサーカディアンリズムの乱れが内因性エストロゲン値を変化させ、ひいては乳がんリスクに影響を及ばす可能性を示唆した。
著者
早川 万年
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

平成9・10年度の二カ年にわたり、岐阜県内の各遺跡において出土している古代の文字資料(墨書土器・ヘラ書き土器)の調査・検討を試みた結果、約180点の資料を見出すことができた。それらのうち三分の一程は、報告書等に未掲載のものである。岐阜県の出土文字資料の特色は、次の二点である。(1)、美濃須衛窯に代表されるように、有力な古代の窯があり、土器の生産地側の資料が比較的多く見られること。(2)、官衙・集落からの出土例は数少ないが、それでも8世紀後半から9世紀の資料が比較的多く、吉祥語句を書くものがしばしば見られる。(1)については、とくに各務原市・関市の資料に注目でき、焼成前にヘラ書きで人名を記す例として、関市の榿ノ木洞窯出土の「御使連」「馬使貞主」などがある。土器の製作主体となったと思われる氏族の居住が判明した。(2)については、美濃国府(垂井町)・推定武義郡衙(関市)などからそれぞれ数点、「里刀自」墨書土器が東山浦遺跡(富加町)、「東」墨書土器が三井遺跡(各務原市)が出ていることに注目できる。研究報告書においては、榿ノ木洞窯の「馬使貞主今日卅上」から、律令制以前に美濃に置かれた馬飼の存在を想定し、灰釉陶器が焼かれた時期である9世紀後半頃に、中央政府との結びつきからこの地に官営工房的な施設が設けられていたこと、また、三井遺跡の「東」については、住居の竈にこの墨書土器が置かれていたことから、大陸伝来の道教的な思想から竈の祭祀がなされていた可能性があること、さらに、御嵩町の「岡本」銘須恵器から、尾張からのヘラ書き土器の流入について論じた。
著者
永田 知里 清水 弘之 服部 淳彦
出版者
岐阜大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

本研究は、各種アミノ酸やDNAメチル化に関与するメチオニン、葉酸、ビタミンB6、B12の食事からの摂取推定を可能とし、がん罹患との関連性を一般住民における前向き研究のデザインで評価することを目的としている。前年度では、岐阜県のがん登録および高山市医師会の飛騨がん登録より、高山市に1992年に開始されたコホート(高山コホート)内におけるがん罹患データを得たが、コホート内における死亡者、転居者の情報が把握出来ず、本年度、高山市での住民票閲覧、除票情報の提供、法務局への戸籍閲覧などを依頼した。未だ一部の情報が入手できておらず、また国の食品成分委員会による各食品中アミノ酸含有量改訂発表が遅れているが、まず、葉酸、ビタミンB6、B12摂取と大腸がんと乳がん罹患についての関連性を評価した。対象者は1992年9月前向き研究開始時にがん既往があると回答した者あるいはがん登録情報からこの時点でがんに罹患していたことが判明した者を除き、男性14,185名、女性16,560名であった。2005年末までの期間に新しく大腸がんと診断された者は男性277名、女性233名、乳がん罹患(女性のみ)は134名であった。年齢、喫煙歴、BMI、アルコール摂取量で補正後、男性におけるビタミンB12の上位1/3の高摂取群は下位1/3の低摂取群に比べ大腸がんハザード比が1.39と統計的に有意に高く(p=0.03)、またビタミンB6摂取も高摂取群はハザード比が1.37 (p=0.056)と高かった。しかし、これらの関連性は肉・肉加工品類摂取の補正により低下した。大腸がんリスクと葉酸摂取との関連性は認められなかった。女性では大腸がん、乳がんともこれらの栄養因子との関連は有意でなかった。多重共線性の問題に配慮しつつ、アミノ酸を含み、各栄養素、食品群の交絡の影響もさらに考慮する必要があると考えられる
著者
川上 紳一 小井土 由光 小嶋 智
出版者
岐阜大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

本研究の究極の目的は,初等中等教育現場で使われる教科書に添ったデジタル学習教材を開発し,実際の授業で活用して評価し,より洗練された教材として完成させることである.今年度の主な成果は次のようである。(1)天文分野については,岐阜市立伊奈波中学校、岐阜県加茂高等学校と連携して,天体望遠鏡(スピカ)の製作を取り入れた授業実践を行った.今年は月面の継続観察をテーマにし、まとめの授業ではクレーター形成実験を行った。また、人工衛星の観察を取り入れた星座学習に関連したコンテンツ開発として,国際宇宙ステーションから見た地球の3Dシミュレーションに衛星雲画像を表示できるようにした.(2)気象分野については,平成17年度に岐阜大学構内に設置されたインターネット百葉箱を活用し,天気の移り変わりに関する教材を開発した.(3)地質分やでは,すでに開発している「デジタル偏光顕微鏡」で表示できる岩石や鉱物の種類を大幅に増やした.(4)チョウの食草を植えた花壇を整備し,さまざまなチョウの生態や幼虫の成長のようすを教材化した.とりわけ、昆虫図鑑の充実をはかり、1500種類の昆虫の生態図鑑を作成した。(5)沖縄珊瑚礁の生物の画像を収集し,無せきつい動物の生態に関するコンテンツを開発した.掲載した動物種は100種類に達した。(4)地質分野では、伊豆大島、ハワイ諸島の火山地形や地質を取材し、火山学習用web教材を作成した。歯科印象剤とココナツパウダーを用いた火山噴火モデルを作成し、岐阜市立長良中学校で授業実践を行い、地学現象の空間スケールや時間スケールを理解することができる教材の有効性を実証した。
著者
王 道洪 渡邉 貞司 高木 伸之 王 道洪
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

石川県内灘町の大型風車を対象に平成17年度から19年度にかけて雷総合観測実験を行った。観測したデータ総合的に解析し、以下の研究成果を得ることができた。1.風車・鉄塔への落雷はトリガー形態別に二つの種類に分け、タイプ別の特徴をいくつか発見した。タイプ別の発生割合はタイプ1が4割、タイプ2は6割となった。鉄塔と比較した場合、風車がタイプ1の雷を発生しやい。この結果から、風車の防雷対策の一つとして、雷雲が風車上空に来たときに風車を停止したほうが良いと分かった。ビデオカメラの映像から落雷の持続時間にはタイプ別で大きな違いが確認でき、タイプ1は平均約452ミリ秒と長いのに対し、タイプ2は299ミリ秒と短かった。また、落雷の進展角度を調べた結果、風車の避雷鉄塔側には防雷効果が確認できた。しかし、3割の雷は風車に落ちているのでまだその効果は十分とは言えない。それぞれのタイプの落雷について別々の対策を取るべきであることも分かった。2.発電施設への落雷直前の地上電界は全て±4.5[kV/m]あったことから、発電施設への雷撃開始条件を地上電界値のしきい値によって設定した結果、±5.0kV/m以下に設定した場合には、発電施設への落雷時、落雷前に必ずしきい値を超えていることが分かった。一方、しきい値を超えた場合において、発電施設へ落雷する確率は、設定値を下げれば減少していくが、±5.0kV/mで90%程度である。雷撃開始条件を地上電界値で設定し、何らかの防雷対策を行う場合、雷撃をなるべく避けつつも、成功率もある程度高くなければならない。よって、雷撃開始条件のしきい値は、±5.0kV/mが一番望ましいと思われる。3.風車に対する落雷電流に、落雷時前数秒前から、数十Aレベルの電流上昇を確認した。このような報告例は現在まで一例もない。一方、20m離れて隣接する避雷鉄塔に対する落雷電流には、このような現象がないことを確認した。
著者
柴田 早苗
出版者
岐阜大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

イヌのアトピー性皮膚炎の免疫病態には、ケモカインであるCCL17/TARCが重要な役割を果たしていると考えられている。イヌケラチノサイトにおいて、CCL17 mRNA転写は主にTNF-αによって誘導されることが明らかになっている。しかしながら,その制御メカニズムは明らかにされていなかった。そこで、イヌADに対するケモカインを標的とした治療法の開発に向けて、ケラチノサイトにおけるTNF-α誘導性CCL17mRNA転写の制御メカニズムを明らかにすることを目的に研究をおこなってきた。その結果、イヌケラチノサイト細胞株であるCPEKにおけるTNF-α誘導性CCL17 mRNA転写は、p38によって正に、ERKによって負に調節されていることが示唆された。このことから、研究代表者はERKがイヌAD治療の標的分子として有用となりうると考えた。そこで、本研究では、ADにおいて特異的に発現増加あるいは低下しているERK関連分子をAD新規治療法の候補分子とするために、ADと診断されたイヌの皮膚病変部・非病変部および健常皮膚におけるp38、ERKの活性化およびERKの活性化に関与する分子群の発現を比較検討することとした。当該年度においては、EGFファミリーおよびEGFR mRNA転写量について、リアルタイムRT-PCRを用いて検証するために、EGFファミリーおよびEGFRに対する特異的プライマーを設計した。これら特異的プライマーを用いて、各分子のmRNAを定量することに成功した。また、EGFRに対する特異的抗体を用いたウエスタンブロッティングにも成功した。これらにより、今後はアトピー性皮膚炎病変皮膚を用いた解析が可能となった。
著者
島倉 省吾 葛谷 光隆 鎌数 眞美恵 吉田 徹也 奥田 恭之 津久美 清 福士 秀人 平井 克哉
出版者
岐阜大学
雑誌
岐阜大学農学部研究報告 (ISSN:00724513)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.209-216, 1984-12-15

家禽及び野鳥の大腸菌による感染症については多くの報告がある。しかし,愛玩鳥における報告は少ない。著者らは,1982年4月から1983年12月までの間に愛知県内の某卸売業者へ輸入され,輸入後3週間以内に斃死した愛玩鳥911羽を検査した。これらの愛玩鳥は,ヨーロッパ及び北米以外の世界各国から輸入され,特にアジア及びオセアニアからのものが大半を占めていた。大腸菌は,検査した911羽中345羽(38%)の肝臓,肺臓及び肺から純粋に分離された。分離大腸菌191株についてOK血清型別をした。病原大腸菌OK血清では,01:K51に3株,025:K1に4株,0119:K69に2株,0125:K70に7株及び0148:K[○!+]に1株,計17株が,アルカレッセンス・ジスパーOK血清では,01:K1に1株,02:K1に17株及び04:K3に3株,計21株,合計38株(20%)が血清型別された。腸炎毒産生性は,LTを139株及びSTを61株について調べた両画毒素共にその産生性が確認された菌株はなかった。191株について薬剤感受性を調べたが,155株(81%)が耐性で,この155株のうちTC耐性をもつ菌が153株あった。なお,単剤耐性菌は84株,多剤耐性菌は71株で,単剤耐性菌の検出数が多かった。愛玩鳥由来大腸菌の血清型別及び毒素原性について調べた報告は極めて少ない。これらの愛玩鳥は捕獲後,人の生活環境で感染し捕獲,輸送などのストレスが発症,斃死の誘因となったものと考えられた。従来わが国では報告されていない血液型の病原大腸菌が検出され,公衆衛生及び家畜衛生の両面から深く憂慮されるから,今後愛玩鳥の衛生管理に格段の留意を要する。
著者
佐藤 節子
出版者
岐阜大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

私は1994年度、液全体が半透明の糊状に固化するという状況が示される硫酸水素テトラメチルアンモニウムと水の二成分系で、共融点以下の温度で存在しているガラス状態あるいは凍っていない液体状態について、さらに詳しくこの系の特徴付けを行なうために、示差熱解析により上記の塩と重水の二成分系の相図を調べた。これにより、重水との二成分系では、軽水との二成分系と異なり、ガラス転移とそれに引き続き起こる低温結晶化を示す熱異常は現われず、明らかな重水素効果が存在することを突き止めた。これについては、さらに軽水素と重水素の割合を変えた場合についての結果とともに、分子構造総合討論会(1994年9月、東京)で報告している。以上のように、軽水との二成分系において状態の変化が起こる場合の、ミクロな内部の動的構造に関わっている水分子とH^+イオンの運動と、中に溶けているテトラメチルアンモニウムイオンの再配向運動の励起過程について、また、重水との二成分系の場合のそれらの運動の在り方を調べるために、^1HNMRのスピン-格子緩和時間、スピン-スピン緩和時間の測定を行なった。その結果、軽水との二成分系では、共晶点以下でも、中に溶けている陽イオンと共にプロトンはかなり動いており、"液体的"とも言える状態であるのに反し、重水との二成分系では、その様な挙動とはなっていないことが明らかになった。これらの結果については、近々、投稿する予定である。本研究により、生体内部に存在する水の動的構造への重水素の影響に関して、手掛かりが得られた。
著者
長瀬 清
出版者
岐阜大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

ペントバルビタールで麻酔した日本白色ウサギに頭窓を作成した。,ネックターニケットを装着し、二酸化炭素応答とアセチルコリンに対する脳軟膜動脈血管の反応を、生体顕微鏡を用いて直接観察できるように設定した。生体顕微鏡可の観察により一過性全脳完全虚血に維持されていることを確認した。6分間の一過性全脳完全虚血により、二酸化炭素応答は完全に消失した。一方で、アセチルコリンに対する応答は維持された。これは、血管内皮細胞の昨日は残存しているにもかかわらず、神経細胞機能が消失しているために一酸化窒素の放出が消失しているためと考えられた。一方、低体温を導入しても、二酸化炭素応答は消失したにもかかわらず、アセチルコリンに対する反応は維持された。また、その程度は、常温の時と比べて差を認めなかった。これは低体温を導入したにもかかわらず、虚血になると脳神経保護効果が必ずしも発揮されない可能性があることを示唆している。一方、ニトログリセリンなどのNOドナーの投与を併用しても一過性全脳虚血後の脳血管応答は回復しなかった。これは神経細胞から放出されるNOの障害だけではなく、血管内皮細胞の機能低下が背景にあると考えちれた。吸入麻酔薬のような血管内皮細胞と神経細胞の両方に作用する脳血管拡張薬を投与した場合も、常温において、全脳虚血前後では明らかに血管拡張応答の消失を認めた。これらの知見は従来から指摘されたMCA閉塞法による一過性局所虚血モデルに一過性全脳虚血モデルも類似しているが、必ずしも完全に一致していないことも明らかになった。
著者
冨岡 卓博
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

本研究は、就学前幼児の描画での色使用の実態調査とその分析により、幼児における描画特性をとらえるとともに、色彩がもつ表現上の意味を明らかにすることにある。平成7年度8年度に受けた科学研究補助金によって、平成元年度より継続的に行ってきた調査のうち、平成3年度から平成8年度までののべ6年間で得たデータの整理をおこなった。その結果、美術教育においても感覚や性格、嗜好など測定する基礎的研究の可能性と妥当性を示すことができると再確信することができる情報を得ることができた。すなわち今年度は、6年間8学級グループ(年間延べ園児数で381名)のパス使用量測定のデータ整理をおこない、確たる規準値規準値を設定するための作業をし、年少(3歳児)、年中(4歳児)、年長(5歳児)の男児及び女児それぞれの規準値として扱う数値を得ることができた。調査対象の幼稚園が「園児自らが選ぶ活動」を軸としたカリキュラムで、描画することも含めて自由な活動からのデータである。ただ、こうした規準値設定の目的に対し、あらたに障碍となる問題として浮上したのが、測定対象のパスの消費しない、あるいはほんの僅かにとどまる子が予想以上に多い実態が示されたことである。そのため全体として、70%の多くを規準値対象児からはずさざるをえないと判断をした。こうした傾向の結果、各規準値の母数を目標としてきた100以上とすることができなかった。データ処理の上でも「描画活動をする子」の定義が課題となっている。また、規準値設定の対象園児とは別に、異なる教育カリキュラムの実践園を選び調査対象とした園児約50名について同様な調査方法をおこなって今年度末に3年間のデータを得た。今回、そのデータについてもさきに設定した規準値と直接比較研究ができることを確かめることができた。
著者
川村 尚 海老原 昌弘 辻 康之
出版者
岐阜大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1994

金属原子間結合電子系と配位子π電子系の間の共役を利用して、酸化還元電位の制御されたクラスター錯体を創製し、これを機能性材料としての応用する可能性を探ることを目的として本研究を進めた.1.ロジウム複核錯体カチオンラジカル塩の合成と物性解析.[Rh_2(mhp)_4](mhp=2-oxo-6-methylpyridinato)と[Rh_2(mmap)_4](mmap=2-methylamino-6-methylpyridinato)のCVは化学的に可逆な1電子酸化波をそれぞれ0.48,-0.49V vsFc^+/Fcに示した.この結果は,金属原子間結合と配位子間のσ-π共役が化学的意味をもつことを示している.カチオンラジカルの塩[Rh_2(mhp)_4]SbCl_6・o-C_6H_4Cl_2の結晶において隣接ラジカル分子のピリジン環が互いに重なりあった3次元的相互作用系が形成されていた.一方,[Rh_2(mmap)_4]SbF_6・2o-C_6H_4Cl_2の結晶構造においては,ラジカルの2次元配列が見いだされた.前者結晶のペレットの室温における電導度は8×10^<-8>S/cm^<-1>であって、セレンと同程度の電導度をもつ半導体であることが示された。2.第10族,11族元素複合錯体の構成,構造,分子物性.新規複合錯体[M(mnt)_2{Ag(PR_3)_2}_2],(M=Pt,Pd;R=Bu,Ph;mnt^<-2>=maleonitriledithiolate)の生成を見いだし,それらの構造と電気化学的挙動等を調べた.これらの錯体は,結晶内で平面状のM(mnt)_2の上下に2つのAg(PR_3)_2が結合した3核錯体構造をもつ.これら錯体のCVは,化学的に可逆な1電子酸化波を示したが,生成カチオンラジカルは単離できるほどには安定ではなかった.^<195>Pt-NMRはAg核による分裂を示さず,Pt-Ag結合距離が短いにも拘わらず,Pt-Ag間には化学結合の存在しないことが示された.
著者
海老原 昌弘 川村 尚
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

酢酸を架橋配位子とし一酸化炭素と塩化物イオンをエカトリアル配位子に持つイリジウム(II)複核錯体[Ir_2(O_2CCH_3)_2Cl_2(CO)_2]を原料として,この錯体の軸位にアセトニトリル,ピリジン,ジメチルホルムアミド,ホスフィン,アルシンなどを結合させた化合物[Ir_2(O_2CCH_3)_2Cl_2(CO)_2L_2]を合成した.この内7種の化合物についてX線構造解析を行いIr-Ir距離がその配位子の違いによってアセトニトリル錯体の2.569(1)Åからトリシクロヘキシルホスフィン錯体の2.6936(7)Åまで約0.12Å変化することがわかった.また,どの錯体も化学的に可逆な酸化波が確認され,その電位は配位子の種類に依存してトリシクロヘキシルホスフィン錯体の0.21Vからアセトニトリル錯体の1.30Vまで変化することがわかった.ホスフィンを軸配位子とする錯体はそのg_⊥とg_<//>の値,およびそれぞれの超微細構造のパターンからそのHOMOはσ_<Ir-Ir>軌道であることが明らかとなった.[Ir_2(O_2CCH_3)_2Cl_2(CO)_2](酢酸イオンを架橋配位子とし一酸化炭素と塩化物イオンがエカトリアル配位子)の架橋配位子の置換を目的として合成を行った.この錯体を原料として,2-ヒドロキシイソキノリン(Hhiq)と反応させることにより錯体の酢酸架橋がhiq^-に置換した錯体を合成した.この錯体のアキシアル位にメチルピリジン(mpy)およびトリフェニルホスフィン(PPh_3)を結合させた化合物[Ir_2(hiq)_2Cl_2(CO)_2L_2]を合成しX線構造解析を行った.Ir-Ir距離は酢酸架橋の錯体とほぼ同じでそれぞれ2.5928(7),2.634(2)Åであった.また,4-メチル-2-ヒドロキシピリジン(Hmhp)と[Ir_2(O_2CCH_3)_2Cl_2(CO)_2]を封管中,130℃で反応させると3つの架橋配位子を持つ[Ir_2(mhp)_3(CO)_2Cl(Hmhp)]が生成した.Ir-Ir距離は架橋配位子が2つの錯体と比べて短く2.5491(3)Åであった.[Ir_2(hiq)_2Cl_2(CO)_2(mpy)_2]は不可逆な酸化波のみが観測された.[Ir_2(hiq)_2Cl_2(CO)_2(PPh_3)_2]および[Ir_2(mhp)_3(CO)_2Cl(Hmhp)]はスキャン速度を速めると0.53,0.95Vにそれぞれ可逆な波が観測された.
著者
山田 雅博 石渡 哲哉 愛木 豊彦 竹内 茂 米田 力生 下村 哲
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究では,テプリッツ作用素の有界性に関する研究を行った。特に,${\bf R}^{n}$の上半平面で定義された調和バーグマン空間におけるテープリッツ作用素の有界性に関連したカールソン不等式の解析を行った。テープリッツ作用素の可逆性に関する研究に関連して,調和ベルグマン空間における接導関数と非接導関数との関連性に関する研究を行い,それらの関数のノルムが同値となることを示した。また,カールソン不等式と呼ばれる積分不等式の性質の解析を行い,申請者が過去に行った研究結果を含んだより一般的な結果を得た。ここでは,考えるベルグマン空間も調和関数によって作られるバナッハ空間とし,そこにおける$(A_{p})$条件に相当する新しい概念を導入した。具体的には,$n-$次元ユークリッド空間の上半平面で$P-$乗可積分な調和ベルグマン空間を考える。一方の測度の任意の調和関数の$p-$乗積分が他方の測度の調和関数の$p-$乗積分で上から押さえられるための必要十分条件を,他方の測度が$(A_{p})_{\partial}$条件を満足するときに特徴付けた。$\alpha$--ベルグマン空間という新たな概念が提示され,通常のベルグマン空間を放物型作用素の解空間の一種と見なし,より統一的にベルグマン空間を研究するという方向が示された。これに関連して$\alpha$--ベルグマン空間上のカールソン不等式を考察し,カールソン不等式が成立するための特徴付けを行った。この特徴付けは,ある種の微分方程式の基本解をもとに構成した再生核を用いて行った。また,その際に必要十分条件を記述するため,$\alpha$--カールソンボックスという概念を導入し,再生核の境界挙動や評価を行い,その性質を明らかにした。
著者
大橋 慶介
出版者
岐阜大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2007

河川流域への降水の位置エネルギー年平均値と, 流域から流出する土砂量の年平均値との間に相関があることが確かめられているが, 河口地点すなわち流域全体のエネルギーのみが明らかであった. 本研究では, 流域内の任意地点でのエネルギーを明らかにし, 土砂流出量分布を得るために, 支川の合流順序を反映した解析方法を提案してそれを実現した.
著者
安部 力
出版者
岐阜大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

過重力環境下飼育によって引き起こされる摂食抑制の改善過重力(3G)環境下でラットを飼育すると摂食量の低下が見られ,この原因として,前庭系を介する酔いが考えられる。実際,前庭系を破壊したラットでは,摂食量低下の改善が見られた。今回,我々はセロトニンの5-HT2A受容体に注目した。5-HT2A受容体のアンタゴニストであるketanserinは,前庭器からの入力を受ける前庭神経核の神経活動を低下させる。そこで,ketanserinを慢性投与しながら過重力環境下で飼育し,摂食量の測定を行った。Ketanserinを投与したラットでは,前庭系を破壊したラットには及ぼないものの,有意な摂食量低下の抑制がみられた。このことから,過重力環境におけるラットの摂食量低下には前庭系が関与しており,その改善にketanserinが有効であることが示唆された。起立時の動脈血圧調節における前庭系の関与起立時には,血液が下方シフトし,静脈還流量・心拍出量が低下し,その結果動脈血圧の低下が生じる。この動脈血圧の低下は圧受容器反射により緩衝され,動脈血圧は維持される。また,姿勢変化時には前庭系に入力が入る。我々は,起立によって生じる動脈血圧低下の影響を小さくするために,前庭系がフィードフォワード的に働いているのではないかと仮説を立て,自由行動下ラットの起立時の動脈血圧を測定した。圧受容器および前庭系を破壊したラットでは,圧受容器だけを破壊したラットに比べ,起立時には有意な動脈血圧の低下が見られた。また麻酔下の実験では,前庭系が正常なラットではhead-up tilt時に交感神経活動が増加し動脈血圧の低下を防いでいることがわかった。このことから,姿勢変化時の動脈血圧の調節には,前庭系が関与していることがわかった。
著者
太田 孝子 福田 須美子 福田 須美子
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

植民地下朝鮮にあった高等女学校を卒業後、内地に留学した経験を持つ7名の朝鮮人女性にインタビュー調査を実施し、留学の経緯及び内地での留学生活に関する具体的証言を得た他、11校分の高等女学校史の翻訳、主要人物の伝記等の翻訳により、高等女学校毎の内地留学の実態を把握した。また、「鴻嬉寮」(主に李王妃が創設した淑明高等女学校と進明高等女学校からの内地留学生のために、李王家が東京市渋谷区若木町に開設した寮)に関する文献や入寮者2名に対するインタビュー調査により、鴻嬉寮の概要を究明した。