著者
作道 信介 羽渕 一代
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

ホールド仮説とは、戦後青森県において出稼ぎが「地域を形成し人を留め置く力」として働いたという仮説である。本研究はホールドの実態を下北半島の漁村での生活史調査によって検討した。出稼ぎ者は高賃金を求め、縁故就労によっておもに土木作業に長期継続で稼働した。出稼ぎ維持の背景には経済的動機だけではなく、漁業への愛着、職場での重用、仕事の魅力、出稼ぎを組み込んだ人生設計といった心理的要因があることがわかった。
著者
佐々木 長市 松山 信彦
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

客土をもつカドミウム汚染水田模型を作製し、湛水条件下で、すき床層(汚染土)が開放浸透で酸化層となる閉鎖浸透模型において、稲体のカドミウム濃度および水稲の生育収量を調査した。カドミウムの濃度範囲は、玄米で0.000~0.200mg/kgとなった。開放浸透層模型の値が閉鎖浸透模型より大きな値となった。浸透型の差により生育には大きな差異は認められなかった。穂数、玄米重は開放浸透模型より閉鎖浸透模型で上回った。
著者
東 信行 泉 完画 佐原 雄二 野田 香 小出水 規行
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

流域単位の生態系評価を行うことを目的としたため,岩木川という一級河川の中下流域の大半を対象とする比較的大規模な研究地を設定した。これにより,従来から進められているマイクロバビタット評価に加えて,マクロな視点の調査・解析を行うことができた。第1に,(1)水田-小水路,(2)溜池,(3)河川-幹線の用水路-承水路-排水路-河川のそれぞれにおいて,水域ネットワークとしての連続性と環境の空間配置の視点から解析を行った。TWINSPAN解析の結果,大きな水路網では,水路構造そのものよりその水路がどの様な位置に存在するかが魚類群集を決定する要因となっていることが明らかとなった。加えて,重回帰分析ではマイクロバビタットの相当する構造にも関連性を示す魚種も見られ,異なるスケールの要因を同時に考えなければならない当初の仮説を支持する結果が得られた.魚種ごとの具体的な特性を双方の結果から把握し,保全に生かすデータが得られたと考えられる。この際,水系の連続性にも注目し,水系の連続性を補償する魚道や流速条件に対する魚類の遊泳能力にも研究を展開した。第2に,多様な生態系を維持してきた溜池の生態的特性を溜池構造や浚渫の方法それらに関連した植生構造から明らかにすることにした。さらに,生物生息に関連する物理化学要因について詳細な調査を加えることとし,特に溜池の貧酸素が生物群集に与える影響に注目し,またそれがどの様な条件で発生するかについても検討を深めることにした。本研究では具体的な問題点の抽出や環境デザインの提案まで行い、農業水利事業に生かすことを目的とし,この成果はその目的を一定程度達成したものと考えている。
著者
高橋 龍一
出版者
弘前大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010

以下の2つの成果が得られた。それぞれについて以下で記述する。1.重力レンズを受けた宇宙背景輻射の疑似マップ(温度&偏光ゆらぎ)の作成まず、重力レンズを受けていない宇宙背景輻射の2次元マップを用意する。面積は4πの正方形(全天と同じ)、温度と偏光揺らぎの2次元マップである。宇宙背景輻射の揺らぎのパワースペクトルからガウス揺らぎを仮定し作成した。次に、N体シミュレーションを用いて、宇宙の大規模構造を作成した。最終散乱面から我々に届くまでの光の経路を、非一様宇宙を伝播する光の重力レンズシミュレーションを使って計算した。そこから10度×10度の領域を取ってきて、重力レンズを受けた宇宙背景輻射のマップ(温度&偏光ゆらぎ)を作成した。揺らぎのパワースペクトルを計算し、理論モデルと比較し、完全に一致していることを確かめた。現在、2次元マップから手前の構造形成の情報を引き出す計算も始めている。2.宇宙背景輻射の温度揺らぎに対する重力レンズの影響の再計算ダークマター(暗黒物質)による宇宙の大規模構造の揺らぎのパワースペクトルを最新のN体シミュレーションを用いて計算した。その結果、計算の分解能が上がった影響で、これまで考えられていたよりも小スケールで揺らぎが大きくなることを見出した。この結果を用いて温度揺らぎのパワースペクトルを計算すると、小スケール(約1分角以下)で10%程度これまでの計算よりパワーが上がることが示された。
著者
古川 照美 西沢 義子 中路 重之 木田 和幸 梅田 孝 高橋 一平 高橋 一平
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

子どもの生活環境を考えた場合、家庭での生活習慣は重要である。本研究では、中学生時期の親子に対しての生活習慣改善を促す介入プログラムの検討を目的に、親子関係と子どもの生活習慣の関連、及び親子の身体特性の関連について検討した。その結果、親子で身体特性及び生活習慣の関連が認められ、さらに親子関係が子どもの生活習慣に影響を与えていることが示唆された。子どもの生活習慣改善のためには、親子関係を見据えながら、親をも含めた支援が必要である。
著者
櫛引 素夫 北原 啓司
出版者
弘前大学
雑誌
弘前大学大学院地域社会研究科年報 (ISSN:13498282)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.79-95, 2005

東北新幹線盛岡-八戸間は2002年12月に開業を迎え、新幹線が青森県に到達した。同区間の利用者は在来線当時に比べて51%増加し、首都圏から青森県内への入り込み客数も大幅に増えて、新幹線開業は経済面で地元に恩恵をもたらしている。しかし、新幹線の経済的効果が及ぶ地域や業種はまだ限定的である上、JR東日本から経営分離された並行在来線の沿線では、運賃の上昇などによって新幹線と並行在来線双方の利用者が伸び悩んだ。高校進学予定者の進路が狭められる不利益も発生している。さらに、新幹線建設費の一部を地元県が負担する建設スキームは、青森県財政の最大の圧迫要因となっている。これらの大きな原因として、整備新幹線構想自体が持つ問題点と、地元側の開業準備態勢の問題が考えられる。2010年度の東北新幹線全通・新青森開業、2015年度の北海道新幹線新函館開業を控え、新幹線によるメリットを最大化し、デメリットを最小化するための対策はますます重要になっている。地域振興のために効果的な対策を講じるには、沿線の鉄道利用実態や新幹線がもたらすとみられる利害を早急に調査するとともに、行政や経済界、NPOなどによる議論や調整の場を設けるべきである。
著者
曽我 亨
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

東アフリカ牧畜社会では、近年、民族紛争が増加している。報道や学術的言説は、こうした紛争を家畜や牧草や水などの稀少な資源をめぐる競合と説明する傾向がある。しかし、こうした紛争は、民族エリートたちによる扇動の結果と思われる。本研究は東アフリカ牧畜社会において民族主義が興隆する以前の時代に焦点をあて、異民族による生態資源の共同利用の諸相を分析した。その結果、異民族間には生態資源と労働力の交換や、生態資源をめぐる棲み分けが行われていたことが明らかになった。
著者
張 樹槐
出版者
弘前大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本研究は,リンゴ果実と葉との体積の違いや光合成作用の相違から,その間に存在する温度差の情報に着目し,赤外線熱画像によるリンゴの検出方法を構築しようと試みた。そのために,まずリンゴ果実と葉の温度を24時間リアルタイムに計測し,その変化の特徴及びそれらが外気温との関係について詳しく調査した。またリンゴ果実と葉の温度差情報を利用して,取得した温度データに基づいてリンゴ果実を検出する方法を提案した。上記の研究結果を踏まえ,遺伝的アルゴリズムによるパターン認識方法を応用し,赤外線熱画像から得られたリンゴの2値画像及び輪郭線画像を基に,リンゴを円として検出することを試みた。検出アルゴリズムは,リンゴの輪郭線画像の情報を基に仮想生物個体の初期設定,検出用円モデルに対する2値画像及び輪郭線の適応度の算出,適応度の高い個体に対するエリート保存,または探索空間の多様性を維持するための突然変異,近親相殺などの遺伝子操作で構成されている。その結果,昼夜の外部環境の相違に関係なく,画像中に存在するすべてのリンゴを検出することができた。しかも検出されたリンゴはおおよそ画像中の位置及び大きさと一致している。またリンゴの一部が葉などに隠れている場合や二つのリンゴが連結されている状態でもよい検出結果を得た。これらの基礎知見は、リンゴのみならず他の果実などにも応用できるものであると考える。
著者
WESTERHOVEN J.N アンソニー・スコット ラウシュ 笹森 建英 畠山 篤
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

巻頭論文では地域の歴史を概観し、文化の独自性について述べる。次に、高木恭藏作「婆々宿」を踏まえて、ラウシュは津軽地方の文化的・社会的な特徴を五感で分かるような例を利用しながら詳しく分析する。長部日出雄作「津軽じょんから節」は津軽三味線の演奏家の生涯についての物語である。オタゴ大学のジョンソン協力者は津軽三味線の最近の動向について調査し、若者にまで支持される津軽三味線の魅力の理由について明らかにしている。長部日出雄作「津軽世去れ節」は、津軽民謡に多大な影響を与えた伝説的な三味線奏者であった嘉瀬の桃(黒川桃太郎1886-1931)の生涯を追った小説である。これらの小説、また多くの文献に記述される4点の津軽民謡についてウェスタホーベンはその歌詞を英訳し意味を分析する。かつて盛んに歌われていた歌詞が歌われなくなった原因ついても考察している。長部日出雄作「雪の中の声」は霊能者のお告げによって、息子が母親に殺された話である。霊能者ゴミソ、イタコは津軽に特有な民間信仰である。笹森はこの両者の特質・差違を明確に示し、さらに第3の霊能者ヨリについても指摘している。笹森はこれらについて、先行研究を踏まえて、医学・心理学の面から鋭く考察している。畠山篤は津軽の鬼伝説を23の事例から分析することによって、後の大和朝による仏教、神道の鬼概念としてではなく、地域の古層にあった自然宗教の名残として鬼説話が存在していることを明らかにした。逆境に耐え抜く津軽人の精神力の強さを象徴している物語である高木恭藏作「相野」がこの報告書を終える。文献表は、英語による過去の研究にはなかった新しい資料が豊富に収集されており、付録,補遺では人名、地名、その他の語彙が詳細に解説されている。この報告書で始めて示された語彙も少なくない。英訳に関して、「婆々宿」以外はすべて初あての翻訳である。掲載した37点のカラー写真の大半はオリジナルの資料である。
著者
佐野 輝男 千田 峰生 種田 晃人 R.A. Owens
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

ノンコーディングRNA病原体"ウイロイド"の自己複製能と病原性をRNAサイレンシングの観点から解析した。ウイロイド感染植物に誘導されるウイロイドを標的とするRNAサイレンシングにより、ウイロイド分子は少なくとも5箇所のホットスポットが標的となり分解され、多様なウイロイド特異的small RNAが宿主細胞内に蓄積することを明らかにした。ウイロイドは想像以上に複雑な機構でRNAサイレンシングの標的になっていると考えられるRNA配列の類似性を基に2次構造を予測する新しいプログラムを開発し、RNAの自己複製と分子構造の関連性を解析するための基盤を構築した。
著者
長友 克広
出版者
弘前大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2009

中脳黒質網様部GABAニューロンは、高頻度に自発発火をしている細胞の1つであるが、その持続的な自発発火を支える制御機構は明らかではない。本研究では、「代謝」という観点から、急性単離ニューロンを用いて、細胞外グルコース濃度および温度を変化させた時、自発発火頻度がどのように変動するのか解析した。以前報告した脳スライスの結果と異なる結果などが得られ、ニューロンの自発発火はニューロン周辺環境の何らかの因子によって調節されていると示唆された。
著者
上原子 晶久
出版者
弘前大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

1.塩害と凍害が複合作用する環境下を再現するため,ASTM-C-672法を参考に以下の凍結融解試験を行った.連続繊維シートを接着した上面に3%塩化ナトリウム水溶液を湛水し,凍結サイクル(-15〜-20℃で約17時間)と融解サイクル(+20℃で約7時間)で構成される1回の凍結融解サイクルが約24時間で完了する環境下に80日間暴露した.その後,連続繊維シートとコンクリートとの付着試験と塩化物イオンの浸透量の測定を行った.2.連続繊維シートの種類を炭素繊維,アラミド繊維,ならびにコンクリートの空気量を実験水準として試験体を作製した.試験体は,高さ100mm,縦200mm,横400mmのコンクリートブロックの一面に連続繊維シートを接着したものである.連続繊維シートの接着工程は一般的に採用されているものとし,シートとコンクリートとの接着にはエポキシ樹脂を使用した.3.付着試験の結果,凍結融解による損傷や塩分浸透を受けた場合の連続繊維シートとコンクリートとの付着特性を代表する界面破壊エネルギーは,健全時よりも3割ほど低下する結果が得られた.これについては以下が原因である.すなわち,凍結融解試験においてシート上面に湛水している塩水の影響により母材が過冷却され,それが主因として凍結融解作による母材の劣化をさらに促進しているものと推定される.以上は,試験時において母材内部の温度を計測し,それに基づく温度応力解析の結果からも確認することができた.4.母材への塩化物イオン浸透量を分析した結果,シートの種類によらず塩化物イオンの浸透は認められなかった.以上より連続繊維シートの物質遮蔽性能が優れていることを確認した.
著者
菅野 幸宏
出版者
弘前大学
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
vol.89, pp.147-157, 2003-03

集団によるふり遊び・ごっこ遊びの社会的発達面における意義を検討するため,家庭において観察した4歳児3名の遊びを分析した。観察された遊びは一見して再現的模倣的であったが,実は創造的即興的な性格も十分盛り込まれたものであった。これまで,遊びの創造的即興的側面は見逃されてきており,したがってその発達的意義の検討も乏しい。そのため,創造的即興的遊びの社会的発達に関わる意義としては,会話における即興技能の促進が考えられるものの,その詳細は今後を待たなければならない。
著者
笹川 和彦 坂 真澄
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

得られた成果を以下にまとめて示す。1.折れ曲がり/テーパ付き形状の配線を想定し,損傷予測を行った。形状の異なる配線の各々でEM損傷のしきい電流密度を予測した。折れ曲がった配線のしきい電流密度の方が直線形状のそれよりも大きいことがわかった。2.上記1の形状の試験片を用いて通電実験を行い,予測結果から得た配線構造・形状によるEM損傷への依存性を確認するとともに,予測法の妥当性を示した。3.配線長が一定の下で折れ曲がり位置やテーパ方向を変化させることにより,配線構造・形状と損傷予測パラメータとの関連性を抽出した。配線内のマクロな電流密度分布が配線の許容電流に影響を及ぼすことがわかった。これより,配線構造・形状に関する長寿命化の設計指針を獲得した。4.Al積層配線に対しTEOSあるいはポリイミドの保護膜材料を組み合わせた配線を想定し,EM損傷予測を行った。同じ保護膜厚さに対してポリイミド保護膜配線の方が長寿命となる結果を得た。5.上記4の試験片を作製し加速通電実験を実施した。予測結果の十分な検証に至らなかったが,意図したとおりの損傷が発生し予測結果の傾向を確認した。6.Al配線に対しTEOS,ポリイミド,SiNを保護膜とした組み合わせ配線を作製し,ナノ押し込み試験を実施した。弾性率はSiN,TEOS,かなり離れてポリイミドの順に小さくなった。またこの順に付着強度が大きいことが示唆された。7.ナノ押し込み試験より得た機械的特性を損傷予測パラメータであるEM特性定数と比較検討した。配線の長寿命化には,弾性率が小さく配線との付着強度が大きい保護膜との組み合わせが有効であることが示唆され,これらの関連性から保護膜の材料・厚さに関する長寿命化の設計指針を獲得した。今後,保護膜機械的特性と予測パラメータ「有効体積弾性率」との関連性も考慮して,より総合的に長寿命化への検討を行う予定である。
著者
田中 重好 中村 良二 柄沢 行雄
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

「都市は社会的生活の中心的機能の所在地である」という視点から、鈴木栄太郎の都市結節機関説、矢崎武夫の統合機関説などによって、都市が具備する機能が議論されてきた。こうした理論からは、どの地域においても妥当する、中心都市と各地域との序列的な機能分担のあり方が提示される。しかし、弘前の広域市町村圏の地域づくりの調査から導き出された結論は、地方都市の機能は実に「個性的であり」、個性を生かした形で、地方中心都市の機能と整備のあり方を構想して行くべきであるという点にある。したがって、地方都市の整備のあり方を、個性を無視して一律に議論することはできない。地方中心都市の都市機能や都市基盤は基本的に、周辺の各市町村の「地域づくりの志向性」を尊重しながら、整備されるべきである。いいかえれば、各市町村のこれまでの地域づくりの方向性・地域づくりのベクトルを尊重し、各地域の個性を生かしながら、それに連動・共振しうる弘前市の都市づくりがされなければならない。岩手県県南地域の三つの都市、一関市、水沢市、江刺市を事例とした調査からは、中心都市の政策的な判断および条件によって、地方都市の整備方針が異なることを見てきた。三つの都市ごとに、高速交通体系の整備にともなう地域社会の変化の仕方が異なっていた。その差異は、各都市が選択した施策によってもたらされたものである。
著者
齋藤 捷一 高畑 美代子
出版者
弘前大学
雑誌
弘前大学大学院地域社会研究科年報 (ISSN:13498282)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.37-61, 2004

英国の女性旅行家イザベラ・バードの書いた『日本奥地紀行』( Unbeaten Tracks in Japanの一部)の青森県碇ヶ関村での記述を当時の公文書やそれに近い時代に書かれた紀行等を読みながら辿っていく。彼女が越えた矢立峠を、江戸時代にそこを通り過ぎて行った人々(菅江真澄や吉田松陰等)の紀行と比較対照して、西欧文化を基盤にした視点と日本文化に基づいた視点の差異を考察した。 またバードが記したオベリスクを検証し、オベリスクと青森県大鰐町にある「石の塔」との関係について検討した。次に、彼女が青森県に入った日の大雨を公文書や当時の家日記等の文書を用いて、事実確認をした。 さらに、当時の村の宿屋や産業、公共施設などの状況を調査した。同時に、万延元年(1860)に書かれた紀行等から彼女の止宿先を後の葛原旅館と認定し、江戸時代の旅籠宿葛原から彼女の止宿した其の後までを追跡できた。また、彼女の碇ヶ関でのコミュニケーションを考察する資料を発掘し、宿の亭主(house-master)や彼女の出会った戸長(Kôchô)の人物像に迫ることができた。バードの記述から出発し、江戸末期から明治時代にかけての碇ヶ関を文書資料と多角的視点で、当時の碇ヶ関の復原を試み、再びその情報をバードに返すことにより、より深いイザベラ・バードの理解に繋げられると考えた。
著者
沢田 信一 葛西 身延 荒川 修
出版者
弘前大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

高密度区のダイズ植物は相互遮蔽状態にあり、植物個体間で互いに光要因に対して競争状態にあった。これに対して、低密度区のダイズ植物は孤立個体状態で存在し、個々の葉は常に充分な光を受け光合成を行える条件にあった。そして、高密度区の植物の上層部の充分な光を受けている葉の光合成速度は午後も午前と同様な高い光合成速度を維持していた。しかし、低密度区の植物の午前の光合成速度は高密度区と同様に高かったが、午後には大きく低下する傾向が認められた。以上の結果から、高密度区の植物は個体全体として制限された光条件下にあり、個体として充分な光合成生産を行う事が出来ずにsource能がsink能よりも低下(source-limit)していたために、群落上部の充分な光条件下に有った葉は常に高い光合成能を維持していたものと考えられる。これに対して、低密度区の植物の全ての葉は常に充分な光条件下で光合成生産を行う事が可能であった。それにも係わらず、午前に比べ、午後の平均の光合成速度が大きく低下した理由は低密度区の植物においては、source能がsink能に比べて大きかった(sink-limit)事によると考えられる。また、高密度区に比べて、低密度区の植物の平均のsucrose含量が高かったこと、RuBPcaseのInitial activityが低かったこと、RuBP含量が高かった事は、これまでの研究において、ダイズ初生葉から作られたsource-sinkモデル植物をsink-limit状態に置いた場合に認められた実験結果と一致した(Sawada et al,1986,1987,1989,1990,1992,1995a,b)。しかしながら、光合成速度、RuBPcase活性およびsucrose,RuBP含量の個々の値には大きな固体差が認められた。また、これらの個々の値の間の相互関係についてみると、これまでsink-limit状態に置いたモデル植物において認められたこれらの値の相互関係とは必ずしも一致しなかった。これらの理由として、次の事項が考えられる。1)この種の実験には、全日晴天の日が数日つずくことが必要である。2)植物体の生長が均一であることが必要である。3)光合成速度その他の測定及び葉の含有物を定量する葉のage、および植物とその葉の置かれた環境条件が均一であることが必要である。以上の点を充分に配慮してこの種の実験を継続する事を考えている。
著者
鳥丸 猛
出版者
弘前大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2009

近年顕著に認められる急激な気候変動によって樹木個体群の死亡と加入パターンの間の不均衡(すなわち、非平衡状態)の程度は増大している。この現象により、これまで集団遺伝学が仮定してきた動的平衡にある個体群動態に基づく理論モデルでは樹木集団内の遺伝子動態を十分に予測できない可能性が考えられる。したがって、今後も急激な気候変動に曝されることが予想される森林群集の遺伝資源の保全のためには、自然現象の変動性を組み込んだより現実的な集団遺伝学モデルに基づく遺伝子動態の予測(すなわち、判断基準の提供)が課題となっている。本研究では、台風による撹乱を受けてきた鳥取県大山ブナ老齢林の森林群集を対象に個体群統計学的調査と遺伝分析から収集されるデータおよび気象データを用いて、非平衡状態にある個体群動態を基礎にした樹木集団の遺伝的構造の形成過程(遺伝子動態)を記述する集団遺伝学モデルを開発し、台風撹乱体制が森林群集の遺伝的多様性に及ぼす影響を予測する。本年度は、既設の固定調査区(面積4ha)内で0.5haサブプロットを設定し、ブナ林の主要構成樹種であるコミネカエデ、ハウチワカエデ、ブナの稚樹(樹高30cm以上、胸高直径5cm未満の幹)の毎木調査を行った。その結果、サブプロット内には、コミネカエデ、ハウチワカエデ、ブナの稚樹の幹密度(haあたり)は、それぞれ648本、1548本、3420本であった。また、マイクロサテライト遺伝マーカーによって遺伝子型を決定するために、毎木された稚樹から葉を採取した。以上のように、本年度は、個体群統計学と遺伝分析を実施するための研究基盤を確立した。
著者
片岡 俊一 佐藤 俊明 宮腰 淳一 早川 崇 佐藤 俊明 宮腰 淳一 早川 崇
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

1923年関東地震の余震のうち連携研究者が所属する機関で保有している13個の余震記録を整理し、地動を推定した。ついで、大規模な余震の一つである1924年1月15日に発生した丹沢を震源する地震の震源モデルを復元地動を参考に求めた。さらに、この震源モデルから首都圏各地の広帯域の地震動を予測した。その大きさは現行設計レベルよりも概ね小さいものであることが分かった。また、数値実験により今村式2倍強震計の飽和記録の復元の精度を確認した。