著者
田中 孝治 園田 未来 池田 満 堀 雅洋
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.153-164, 2016-12-24 (Released:2017-03-23)
参考文献数
32
被引用文献数
5

情報モラルに関する知識を有していたとしても,その知識を行動として具現化しようとする意図が形成されなければ,実効的な意味で知識を習得したとは言い難い.本研究では,一般的な知識として正しい行動を問う知識課題と自身が実際に選択する行動を問う意図課題を用いて,高校生を対象に知識と行動意図の不一致を定量化した.実験1・2では,意図課題の正答率の方が知識課題の正答率よりも低く,実験参加者が適切な知識を有しているにもかかわらず情報モラルに反する行動をとることが示された.また,実験2では,実験参加者はクラスメイトが情報モラルに反する行動をとる割合を高く推定していることが示された.これらの結果は,知識と行動の不一致を認識させ適切な行動意図の形成を促す情報モラル教育の重要性を示すものである.
著者
石川 奈保子
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
2021

<p> 本研究では,大学オンライン課程における学生からの援助要請に対応する際の学習支援者の態度と配慮事項を調査した.その結果,以下の2点が明らかになった.(1)態度に関して,自律的学習者の育成を目指す態度と手厚い情報提供による学びの促進を目指す態度とが見出された.(2)配慮事項に関して,自律的学習者の育成を重視しているかどうかによって違いがみられた.重視している学習支援者は,問題解決のための助言をわかりやすい言葉で伝えるよう心がけていた.一方,重視していない学習支援者は,学生の背景や理解レベル,要請内容の正確な把握や,学習意欲を削がない声がけに配慮していた. </p>
著者
中村 康則 向後 千春
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
pp.S44042, (Released:2020-08-28)
参考文献数
11

本研究では,セルフ・ハンディキャッピング(SHC)とハーディネスの特性に注目して,社会人学生を類型化し,その成績・学習時間との関係について検討した.クラスター分析によって分類した結果,学生は「高SHC 型」「時間不足SHC 型」「低SHC 型」の3タイプに類型化された.これらの3タイプにおける成績・学習時間の差を検討したところ,「高SHC 型」の成績は,他にくらべ有意に低いことが示された.また,「低SHC 型」は,学習時間が他にくらべ有意に長く,成績は「高SHC 型」よりも有意に高いことが示された.本研究で示された学生の類型を用いることにより,成績や学習時間の傾向を予測できる可能性が示唆された.
著者
石川 貴彦 赤間 清 小池 英勝 三高 康嗣
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学雑誌 (ISSN:03855236)
巻号頁・発行日
vol.27, no.suppl, pp.33-36, 2004-03-05 (Released:2017-10-20)
参考文献数
5

プログラミング教育は,情報の科学的理解という観点から,情報教育の中核を成す内容であると考える.しかしながら,従来の学習では,あるアルゴリズムを特定の文法にしたがって記述することが多く,いかにアルゴリズムを作るかを重視した学習は少ない.また,その学習に適したプログラミング言語も少ないと思われる.本研究では,プログラムの記述からアルゴリズムの構築への転換を図り,その能力を育成することを目的に,等価変換型言語ETを導入した学習を計画し,授業実践を行った.その結果,ルールの段階的な構築によるプログラムの作成を通して,アルゴリズム構築のプロセスや考え方を,学習者に意識させることができた.
著者
松田 岳士 近藤 伸彦 渡辺 雄貴 重田 勝介 加藤 浩
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
pp.S44122, (Released:2020-08-28)
参考文献数
8

本研究の目的は,大学生の履修科目選択支援システムの改善を目指す評価の結果を検討し,表示内容の理解度や,システム利用の効果を確認することを通して,追加の機能開発や改善に寄与する示唆を得ることである.4大学から51名の学生が参加したヒューリスティック評価の結果,学生の多くは表示内容をおおむね理解できたと考えており,システムの有用性も認めていたことが示唆された.また,自らの弱点である能力を獲得することを促進する効果や,学生自身の自己管理学習レディネスや獲得したい能力に応じた科目選択に導く効果がみられた.一方で,ユーザビリティを損なう表示内容や,理解度が低い用語があることが指摘され,改善の余地が示された.
著者
岡田 涼
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.53-63, 2019-07-10 (Released:2019-07-10)
参考文献数
20

本研究では,異学年集団での学習活動に対する積極的な参加が促される心理的プロセスについて,協同的な学習に対する動機づけとピアモデリングの点から検討した.縦割り学級で問題解決型の学習活動を実践している小学校において,児童を対象とする調査を行った.パス解析の結果,協同的な学習に対する自律的動機づけが,学習活動における積極的参加構造の認知に影響することが示された.また,中学年の児童においては,協同的な学習に対する自律的動機づけが異学年の級友に対するピアモデリングを介して,積極的参加構造の認知を促していた.高学年の児童においては,協同的な学習に対する統制的動機づけが積極的参加構造の認知を低めることが示された.以上の結果から,異学年集団での学習活動における動機づけとピアモデリングの重要性と,児童の学年によって異学年集団での学習に対する積極的な参加を支える要因が異なっている可能性が示された.
著者
青山 郁子 高橋 舞
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.113-116, 2016

本研究は, 大学生のインターネット依存傾向,ネット上での攻撃性を,「他者の能力を批判的に評価・軽視する傾向に付随して得られる習慣的に生じる有能さの感情」である仮想的有能感の視点から検討したものである. 大学生176名(男性56名, 女性120名, M=19.51歳, SD=.80)を対象に, 仮想的有能感, 自尊感情, インターネット行動尺度(攻撃的言動, 没入的関与, 依存的関与)を測った. その後, 仮想的有能感と自尊感情それぞれの尺度の高低から4群に分類し, インターネット行動について群間差が見られるかどうか検討した. 結果は, ネット上での攻撃的言動では有意差が見られなかった. 没入的・依存的関与ではともに, 自尊型< 仮想・萎縮型となった. 依存的関与に関しては自尊型と全能型の間にも有意差がみられた.
著者
村上 正行 丸谷 宜史 角所 考 東 正造 嶌田 聡 美濃 導彦
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.299-307, 2010-12-01 (Released:2016-08-07)
参考文献数
17
被引用文献数
2

本稿では,授業映像シーンへのコメントの付与及び授業映像の要約が可能なシステムSceneKnowledgeを開発し,本システム及び授業デザインの有効性を明らかにするために,2年間の授業に対して,質問紙調査を行った.その結果として,(1)授業映像がシーンに分割されていることによって,受講生が授業に関するコメントをを読み書きする際や授業映像の要約を作成する際に有用だった(2)受講生は,コメントを書くことを通して,授業内容を振り返り,自分の意見について考えることができた.また,他人のコメントを読んで,自分の考えと相対化させ,より深く考えることによって,授業に対する関心が高まった(3)授業映像の要約を作成することを通して,新しい観点を発見し,自分なりの考えをまとめることによってモチベーションを高めていた,の3点が分かり,高次な学習活動に結びついていると考えられる.
著者
中川 博満
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.393-400, 2010-02-20 (Released:2016-08-06)
参考文献数
9

2008年4月22日に全国の小中学校で一斉に「平成20年度全国学力・学習状況調査」が行われた.本研究では,公表された都道府県ごとの学力と学習状況に関する調査結果と,この調査とは別の統計から抽出した様々な社会構造を表すデータを使って正準相関分析を行った.その結果,社会環境や家庭環境などの社会構造が総体として,子供達の様々な力の基となる学力,規則正しい生活習慣,学習への取り組み姿勢などに大きく影響していることが示された.即ち,子供達が様々な力を身に付けるには学校だけでなく,社会環境や家庭環境などの社会構造の改善が必要と思われる.そして,これらの社会構造自体の改善や整備としては,地方の過疎や疲弊と大都市への過度の資源集中を抑制し,日本全体の調和を図ることが,子供達の教育という視点からも大切である.
著者
石原 浩一 泰山 裕
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.105-113, 2020-07-10 (Released:2020-07-10)
参考文献数
19

本研究では,フィードバックと振り返りが学習者の認知欲求に及ぼす影響を明らかにするため に,中学生を実験群と統制群に分け,2群比較を通してその効果を検討した.社会科歴史的分野 の授業を2単元行い,その前後における認知欲求尺度の回答を分析した結果,毎単元末にレポー ト課題に対する評価結果のフィードバックと振り返りを行った群の方が認知欲求が高まる傾向 が確認された.また,実験群の振り返りを分析した結果,振り返りを具体的に記述できていた群 は認知欲求が有意に高まり,抽象的な記述にとどまっていた群は有意な高まりが認められなかっ た.研究を通して,認知活動の評価結果を学習者に返却し,振り返りを具体的に書かせることで 認知欲求が高まる可能性が示唆された.
著者
遠海 友紀 岸 磨貴子 久保田 賢一
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.36, no.Suppl., pp.209-212, 2012-12-20 (Released:2016-08-09)
参考文献数
4
被引用文献数
5

本研究の目的は,初年次教育の学習活動において学生自身が到達目標を設定することが,学生の自律的な学習態度へどのような影響を与えるのかを明らかにすることである.初年次教育の授業において学生がルーブリックを作成し評価に用いる実践を行った.質問紙調査の結果,ルーブリックを自分達で作成することにより,多くの学生が目標と省察を意識しながら学習活動を行ったことが分かった.また,学生の自由記述を分析した結果,ルーブリックを自分達で作成することは「目標への意識」「課題に対する動機づけ/責任感」「課題の成果に対する省察」「評価に対する公平感」「多様な評価の観点の気付き」と関連していたことが分かった.
著者
吉岡 敦子
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.115-123, 2007-10-20 (Released:2016-08-04)
参考文献数
15

インターネット情報検索は,検索テーマに関する既有知識と検索したサイトから得られる知識を体系化させながら検索を進めていくことから,本研究では,インターネット情報検索を知識構築過程と捉えて,知識構築を促すメタ認知とメタ認知活性化のための支援の効果について,特徴的な事例を挙げて質的に検討した.その結果から,「検索テーマについての既有知識や検索経験を検索のリソースにするためのメタ認知」と「サイトの文書から有効な情報を得て検索のリソースにするためのメタ認知」が有効なことが明らかになった.求める情報を得ることができた検索者は,これらのメタ認知を促して確認したり理解するなどの認知活動を行っている一方,求める情報を得ることができなかった検索者は,メタ認知を活性化できないために判断できず迷っていることが示唆された.また,これらのメタ認知を促す支援を与えることの有効性も示唆された.今後の課題として,検討した事例数が少ないことから,量的なデータにもとづいた分析を行うことと,本研究で与えた支援だけでは効果がみられなかった検索者に対する支援方法について解明することが挙げられる.
著者
清水 康敬 山本 朋弘 堀田 龍也 小泉 力一 横山 隆光
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.293-303, 2008-12-20 (Released:2016-08-05)
参考文献数
4
被引用文献数
6

授業でのICT活用による学力向上を実証するために,全国の教員に依頼して,ICTを活用した授業と活用しない授業を実施した結果を報告してもらい,それらを総合的に分析評価した.まず,授業を実施した教員が決めた評価の観点に基づいて分析し,ICTを活用した授業を実施した教員は,ICT活用によって児童生徒の学力が向上すると実感していることを示した.また,授業後に,児童生徒の意識調査に関するアンケートを実施してもらい,因子分析を用いて因子を抽出し,因子ごとにICT活用の有無による差を調べたところ,授業にICTを活用した場合の方がいずれの因子においても有意に高い効果が得られることを示した.さらに,授業後に実施した児童生徒に対する同一の客観テストの結果を総合的に分析評価し,ICTを活用した授業の方が,活用しない授業よりテストの成績が有意に高いことを示した.
著者
松田 岳士 山田 政寛
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.33, no.Suppl., pp.113-116, 2009-12-20 (Released:2016-08-06)
参考文献数
5
被引用文献数
3

本研究は,eラーニングコースの学習支援担当者にとって進捗管理の重要なポイントであるメッセージ発信タイミング決定の判断基準を探るものである.具体的には,大学が提供する非同期・分散型のeラーニングコースにおいて,学習計画を立てる習慣がある学習者とそのような習慣がない学習者が,実際の学習活動においてどのような差異を示すのかについて調査した.その結果,学習計画を立てる習慣のある学習者は,習慣のない学習者に比べると深夜に学習することが少なく,また,コース実施期間の中期にも学習するといった特徴があった.
著者
高橋 純 内海 裕介
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.43, no.Suppl., pp.65-68, 2020-02-20 (Released:2020-03-23)
参考文献数
3

小学校での保護者からの欠席連絡について,従来の電話の利用に加えて,ICT による連絡を行えるようにした.そこで本研究では,ICT を活用した保護者からの欠席連絡の状況を事例から明らかにすることとした.その結果,約20ヶ月間に,システムを経由して3,680件の欠席連絡が行われていた.土日や夏休みも含めて平均を求めると,1日あたり6.0件であった.曜日別,時刻別でみると,朝7時台にピークがみられ,土日や真夜中など,電話であれば連絡が難しいタイミングや,教員の勤務時間外での欠席連絡も数多くみられた.電話に代わり,本システムが活用された割合は32.4%であると試算され,教員にとっても,保護者にとっても,利便性の高い仕組みであることが示唆された.
著者
小山 義徳
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.87-94, 2010-11-20 (Released:2016-08-07)
参考文献数
11

英文速読訓練により英語リスニングスコアが向上する学習者にはどのような特性があるのか検討した.分析1では英文速読訓練を行った群が統制群よりも英語リスニングスコアが伸びることを確認した.分析2では,速読訓練前のディクテーションスコアの高低でリスニングスコアの伸びを比較した.その結果,速読訓練前の時点でディクテーションスキルが高かった学習者も低かった学習者も,訓練後に継時処理課題のスコアが伸びていた.しかし,訓練前の時点でディクテーションスキルが高い学習者の方が,低い学習者よりもポストテストにおけるリスニングスコアが高かった.このことから,訓練前の時点で既にディクテーションスキルが高い学習者の方が,英文速読訓練により継時処理スキルが向上した場合に,リスニングスコアが高くなることが明らかになった.
著者
北村 智 岡本 絵莉
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.95-103, 2010
参考文献数
20
被引用文献数
2

本研究の目的は工学系大学院生の研究室教育に対する満足度および成長の自己評価と研究業績の関係を検討することである.本研究では工学系研究室に対する層化無作為抽出による質問紙調査を実施し,73研究室からデータを収集した.本研究でのデータは学生レベルと研究室レベルを含む階層的データであるため,学生レベルのモデルと研究室レベルのモデルに分けて相関係数を算出した.分析の結果,次の2点が示唆された.(1)研究室レベルで修士課程大学院生に査読有りの研究発表を求めていくことと,学生の学術コミュニケーション能力との間にはポジティブな関係がある一方で,満足度との間にはネガティブな関係がある,(2)修士課程大学院生に自分が第1著者となる研究以外の共同研究にも参画させていくことと,学生の満足度や成長の自己評価の間に研究室レベルでみてポジティブな関係がある.
著者
向後 千春 冨永 敦子 石川 奈保子
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.281-290, 2012-12-20 (Released:2016-08-09)
参考文献数
14
被引用文献数
5

eラーニングと教室でのグループワークを週替わりで交代に行うブレンド型授業を設計し,3年間に渡って実践した.1年目は通信教育課程向けのeラーニングコンテンツを流用し,2年目以降はブレンド型授業用に新規に開発した.ブレンド型授業導入以前の対面授業,ブレンド型授業の1年目,2年目,3年目の成績分布を比較したところ,1年目はほかに比べて成績高群が有意に少なく,成績中群が有意に多かった.しかしながら,2年目以降は,対面授業と有意な差はなかった.また,学習者のブレンド型授業に対する好みは,1年目よりも2年目以降が有意に高くなった.このことから,ブレンド型授業用に授業を設計すれば,対面授業と同程度の学習効果を上げることができ,かつ受講生からも受け入れられることが示唆された.しかしながら,一方で,対面授業に比べて,ブレンド型授業は不合格者が有意に多く,ブレンド型授業に馴染めない学習者が一定の割合で存在していることが示唆された.