著者
谷口 建速
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、三国呉代の簡牘群である長沙走馬楼呉簡を基本資料とし、当時の地方財政システムを解明・復元すること、またその成果を、秦漢代の簡牘の研究から得られる当該時代の地方財政の諸相と比較検討し、地方財政史中に位置付けること、である。本年度は特に、銭や布帛等を集積する「庫」の財政について研究を進めた。まず、前年度より引き続き走馬楼呉簡の竹簡群の整理・分類およびデータベース化の作業を行なった。その成果に基づく検討により、以下の成果を得た。1「走馬楼呉簡所見庫関係簿与財政系統」では、庫に関連する各種の簿の構成を復元し、その中にみえる納入・搬出・移送等の財政システムを復元した。特に、吏民の賦税を受領する「庫」の他に、郡に関わる「西庫」が設置され、うち郡庫の物流には穀倉と同様「邸閣」が関与したことが明らかとなった。2「長沙走馬楼呉簡所見孫呉政権的地方財政機構」では、上記の庫に関わる財政システムと前年度に検討した穀倉の財政システムとを併せて検討し、資料中の財政システムの全体像を復元した。各々の物流について、郡県のみならずより上級の機構(「邸閣」・中央)の関与が明らかとなった。また穀倉の財政について、3「長沙走馬楼呉簡にみえる「貸米」と「種〓」」では、当時の地方穀倉による穀物貸与について検討した。食料目的の貸与と種籾目的の貸与の両種の存在が明らかとなったことは、唐代や古代日本、朝鮮半島における「出挙」制度の淵源の実例といえる。以上はいずれも学会発表を基に論文化したものであり、うち2の掲載雑誌は2010年中に発行予定である。
著者
能上 絢香
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

(1)研究背景・目的強相関電子系における光誘起ダイナミクスの研究では、電荷、スピン、軌道、格子の自由度と光誘起ダイナミクスの相関が注目されている。本研究では、軌道整列系V酸化物AV_<10>O_<1>5(A-Ba,Sr)に着目した。BaV_<10>O_<15>では、T_c=123Kで軌道整列しV三量体を形成する構造相転移が起こるが、SrV_<10>O_<15>は、そのような構造相転移は起こらない。これまでの研究で、BaV_<10>O_<15>では、三量体相から三量体のない相への光誘起相転移が起こったが、SrV_<10>O_<15>では、格子歪みと結合した電子の励起状態が弾性波でサンプルの奥行き方向へ進むことを明らかにした。この結果を踏まえ、本研究では、BaV_<10>O_<15>の壁開面における光誘起ダイナミクスの温度依存性を測定した。(2)研究方法フェムト秒反射型ポンププローブ分光測定を行った。光源はTi:sapphireレーザー(パルス幅:約130fs,エネルギー:1.56eV)で、プローブ光の反射率変化を観測した。プローブ光は循環水に集光して波長変換し、0.9eV-2.5eVで測定できる。(3)研究成果ポンプ光照射後の反射率変化は、T>T_cでは時間に対する振動が現れて、振動の周期はプローブ光の波長に依存するという時間依存性が観測された。これより、BaV_<10>O_<15>でも転移温度より高温では、格子歪みと結合した電子の励起状態がサンプルの奥行き方向へ進んでいると考えられる。また、振動の振幅は、高温から転移温度へ向かって温度を下げていくと、減少していくことが観測された。転移温度より高温においても局所的にV三量体が形成されているため、格子歪みと結合した電子の励起状態が進んでいくことが妨げられていると考えられる。
著者
田辺 洋二
出版者
早稲田大学
雑誌
早稲田大学日本語研究教育センター紀要 (ISSN:0915440X)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.1-26, 1990-03-25

本稿の目的は, 和製英語の形態を特性によって分類することにある.資料はカタカナ辞典, 辞書, 現代用語辞典などから和製用語と見なされる単語と, 和製英語と表示のある複合語を摘出したもので, さまざまな特性によって分類を試みた.語数は2191語である.分類には, まず 1)単語型と複合語型, 2)同義型と異義型, 3)完全形型と省略形型の3対を基本とした.次いで, 完全形型と省略形型の下位類型特性として音声借用, 文字借用, 帰化, 混種, 略語, 接頭辞や接尾辞, 置き換え, 倒置などの特性を設定した.同義型と異義型は, 意味構造のための特性であるが, 和製英語の形態分類には, 帰化や混種などを含めて, 意味の関与から逃れることが出来ない.また, 英語及び英語らしい語句を日本語として使う特殊性からも意味の確認が必要になるのである.複合語型の中の単独の特性として, かぱん語型と頭字語型を置いた.これらは, 省略形型の中でも, かぱん語は省略形, 頭字語型は中・後省略形に関わるもので, 和製英語をつくり出す強力な能力をもつ特性である.それと比較し省略は非常に少ない。頭字語型では,ちょうど「早稲田大学」が頭を摘みとって「早大」となるように, 漢字合成語と同じ造語法をとる.和製英語には複合語の形態のものが多いが, その多くのものが後省略, 中省略, それに中・後省略である.これは和製英語の複合語の特徴的形態と言って過言ではないだろう。本分類は和製英語が持つ形態的多面性を基準に行ったものなので, 同じ例が2特性以上に関わることがしぱしばある。トラペンなどの不規則型については, ほとんどのものが頭字型に準じるが, 不規則型をひとつの分類特性と考えることは不可能ではない.
著者
坂野 雄二 久保 義郎 神村 栄一
出版者
早稲田大学
雑誌
早稲田大学人間科学研究 (ISSN:09160396)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.11-18, 1993-03-25

The purpose of this study was to examine the effects of individual differences in an imaginal ability and presentation of prompting film on self-regulation of peripheral skin temperature and heart rate. Two hundred and fifty students completed Sophian Scale of Imagery (SSI), and 32 students who had extremely high or low imaginal ability participated in an experiment, in which they were asked to regulate their peripheral skin temperature and heart rate using mental imagery. Ss were assigned to one of the following four groups: high imaginal ability with warm film presentation (HW), high imaginal ability with neutral film (HN), low imaginal ability with warm film (LW), and low imaginal ability with neutral film (LN). The major findings were as follows; (a) warm film had significant effects on the increase of skin temperature, (b) the difference of imaginal ability had no effect on both temperature and heart rate regulation. These results indicate the response-specificity of regulation-prompting imagery.
著者
藤本 一勇
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

『存在と出来事』と『世界の諸論理』を研究対象とし、両者の連続性と差異を研究した。『存在と出来事』では数学的存在論の領域に議論が限定されており、たとえその限定作業が後の拡張に必要不可欠なものだったとはいえ、バディウの究極目標である主体化や出来事性にまでは届いていなかった。世界における出来事と主体化の論理を展開する『世界の諸論理』こそ、バディウが真に目指していた地点だということを解明した。
著者
小松 香織
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、オスマン帝国において海洋活動にたずさわった人々のパーソナルヒストリーを、人事関係等の史料を分析することにより集積し、近代オスマン帝国の社会構造を見直そうと試みたものである。結果、オスマン帝国末期に海事に関わった人々の出自 (民族、宗教、出身地、社会階層等)、キャリアパターンについて、一定の法則性を見出し、海事における黒海沿岸出身者の重要性が明らかとなった。
著者
田邉 新一 秋元 孝之 岩下 剛 堤 仁美 松本 隆
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

人間の快適性、建物の室内環境制御及びエネルギー消費の効率化、空調システムの運用性能向上を考慮した統合制御の最適化を目的とした。環境要素をVRとHDRを用いて提示することの有効性、建築に有用な臭気評価法の提案と性能試験、高顕熱型空調のエネルギー対比快適性能の優秀性を示した。また、個別分散システムを対象とニューラルネットワークを用いた冷媒物性値近似法を提案・出力精度を評価した。空調シミュレーションにおいて、オープンソース化と再利用性を高めるためオブジェクト指向言語を用いたスケジューラ抽象化及びモジュール形式シミュレーションを制作し有効性を検証した。
著者
寺崎 秀一郎
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

2003年度、2004年度にホンジュラス共和国コパン県に位置するロス・イゴス遣跡、エル・アブラ遺跡、エル・プエンテ遺跡の3遺跡において発掘調査をおこなった。本研究における発掘調査の目的は、古典期(AD250〜AD900)に南東マヤ地域最大のセンターであるコパン遺跡の周縁部において、地方センターがどのようなプロセスを経て形成されていくのかを明らかにすることである。上記3遺跡は、コパン遺跡北東約60kmに位置するラ・エントラーダ地域に分布する8箇所の地方センターの一部であるが、発掘調査の結果、少なくともフロリダ谷に位置するエル・アブラ遺跡とエル・プエンテ遺跡の起源はほぼ同時期と考えられる資料を得た。一方、ロス・イゴス遺跡は斜面を利用して構築されていることから層位学的に良好なサンプルを得ることができなかったが、二次堆積層から原古典期の年代を示す放射性炭素年代測定結果が得られている。本年度は、現地において、出土土器資料の予備分類を現地スタッフを中心に進めた。予備分類については、メソアメリカ地域の考古学研究で広く採用されているタイプ・ヴァラエティ・システムに準じておこなうが、適宜、周辺地域では唯一土器編年が整備されているレネ・ヴィエルによるコパン編年を参考にしている。また、図面も現地スタッフの協力の下、データ化を進行中である。これらの成果の一部は、2005年12月に開催された古代アメリカ学会第10回研究大会において報告した。本研究では、地方センターの起源に重点を置いた発掘方法を採用したが、より詳細な都市形成過程の解明には建造物のシークエンス研究が必要不可欠であり、そのための集中的な調査が望まれる。本年度はこうした視点も含め、ホンジュラス国立人類学歴史学研究所所長リカルド・アグルシア氏と本研究が対象とするラ・エントラーダ地域での今後の考古学調査研究の展開についても協議をおこなった。
著者
田中 愛治
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、日本の政治システムについて日本の一般有権者の態度を、世論調査データと選挙結果のデータを時系列に分析することによって、解明しようとしたものである。本研究の目的は、日本国民がどの程度、日本の民主主義政治システムに対する支持態度(システム・サポート)を持っているのかを、1970年代後半から2000年までにわたり時系列に分析し、そのシステム・サポートの源泉となる要因を探ることにあった。本研究は、レヴァイアサン・データバンクから提供された学術的全国世論調査データ(1976年JABISS調査、1983年JES調査、1993年JESII調査)と、研究代表者(田中愛治)自身が実施に参加したJEDS96調査(1996年)、JEDS2000調査(2000年)、JSS調査(2001年:文部科学省科学研究費特定領域研究(B)「世代間利害調整に関する研究」領域代表者・高山憲之のA7班「世代間利害調整の政治学」研究代表・北岡伸一による全国世論調査)のデータを時系列に分析した。1976年〜2001年までの25年間の時系列分析によって、日本人の政治不信に関する政治意識と、政治システムに対する信頼感(system support)の変化を分析し、以下の3点が明らかになった。第1に、日本人の一般的な政治信頼はもともと低いもの(40%程度)であったが、1996年から2000年にかけて急速に悪化し(2001年3月の森内閣の退陣直前に最低の11.1%)、2001年も十分に回復していない(小泉内閣時でも23.6%)。第2に、日本の政治システムを支える民主主義的政治制度(選挙、国会、政党)の機能に対する信頼感は1976年〜1996年までは非常に高いレベル(選挙への信頼は1993年に82.3%)にあったが、これすらも2000年には急激に低下し(32.3%)、2001年にも十分に回復していない(42.7%)。日本の政治システムの政治・経済の業績の悪化が、政治不信のみならず政治システムへの信頼感も低下させている。第3に、政治システム(すなわち、民主主義政治制度)への信頼は世代間に差異はなく、どの世代の日本人も時代と共に信頼感が低下しているが、国の政治への信頼は、世代間の差異が大きい。
著者
藤澤 まどか
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、美術館と公共性の関わりについて、美術館建築による開放性の創出に着目し、来館者の観点も取り入れながら考察することを目的とした。そこで、"様々な人々が訪れやすく、人々や社会に開かれた活動(状態)"を開放性として定義し、美術館の公共性の保障にむけて美術館建築の果たす効果や役割を分析した。そのさい、公共性の理論的枠組みの整理等の理論研究を行うとともに、美術館の事例調査を行い、理論と実践を照らし合わせながら考察した。
著者
竹中 晃二
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

現在,糖尿病を中心とする生活習慣病罹患者の数は増加の一途をたどり,この増加傾向はとどまるところを知らない.従来,運動処方の名のもとに,運動やスポーツの推奨が行われてきたものの,運動を実施する人口は増加していないのが現状である.本研究は,これらの現状に鑑み,運動と言わないまでも,日常生活における人々の身体活動量をいかに増加させるかという問題を,1)行動変容理論・モデルの活用,および2)多様な介入デリバリーチャンネルの使用という2つの観点で多様なプログラムを開発し,評価を行うことを目的としていた.実際には,自治体健康保健センターと連携を保ちながら,特に中高年者のライフスタイル改善を目的とした健康行動カウンセリング・プログラムをソフトおよびハード面から支援できる地域型システムの開発を行った.研究期間の初期では,中等度の強度(4メッツ以上に相当)の身体活動を行った数とその時間を提示させる簡易機器を開発し,また主観的身体活動量の測定尺度の開発を試みた.その後,これらの機器,および尺度も一部使用しながら,自助冊子,郵便による通信教育,およびインターネットプログラムを開発し,その評価を行った.プログラムの内容は,対象者に同一の介入を行うことを避け,トランスセオレティカル・モデルをもとに,初期ステージ者と後期ステージ者に分け,それぞれに異なる情報を送るように勤めた.その結果,ステージ・マッチドが行われていない統制群と比べて,ステージ・マッチド群の方が大きな身体活動量改善を示した.本研究では,地域における職域の健康づくりにも注目し,健康行動変容プログラムの開発とそれを配信するチャンネルとの組み合わせに関して検討を行った.地域介入を職域にも広げていった本研究は,そのプログラム開発だけでなく配信などの現実的実践方法の検討を行い,包括的観点から議論を行えた.
著者
荒尾 孝 稲山 貴代 北畠 義典 劉 莉荊 仲里 佳美 根本 祐太 大滝 裕美
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

小学5年生を対象に身体活動の促進および正しい食事の知識とスキルの習得を目標とした教育介入を実施した。その結果、介入終了直後では介入校で遊びに対する積極的な態度や、放課後に友人と遊ぶ頻度が増加し、総エネルギー消費量では対照校に比べて介入校は有意に高い水準が維持された。食生活については、食事バランスガイドの知識が増え、望ましい食事をとることの結果期待や自己効力感が向上した。しかし、介入終了1年後では、これらの変化のうち行動に関する効果は維持されない傾向が示された。
著者
柴田 重信
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

我々の体内時計は24時間よりずれており24時間に合わせる機構として同調がある。同調刺激には光と食事が重要であることが分かっている。そこで、マウスを用い、朝・昼・夕食のいずれが、同調刺激として有効であるか、また、食事の内容によって同調刺激に差が見られるか否かについてマウスを用いて調べた。その結果、長い絶食の後の食餌(ブレイクファスト)が、血糖値を上げ、インスリン分泌を引き起こしやすい食事内容が体内時計を同調させやすかった。
著者
齋藤 美穂 野嶋 栄一郎 松居 辰則 石川 真 野嶋 栄一郎 松居 辰則 石川 真
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究では、小学校の一斉授業場面において、教師と生徒のノンバーバルなコミュニケーションの手段であり、また教師のソーシャル・プレゼンスの一要因でもある表情を分析することにより、表情が学級風土に与える影響を検討した。教師の特徴的な表情や表出程度、印象などを多角的に検討した結果、表出される表情や程度は教師によって様々であったが、教師の表出する表情は、教師自身の印象や児童との一体感、学級風土に影響を与えることが明らかとなった。
著者
北村 歳治 吉村 作治 佐藤 次高 山崎 芳男 店田 廣文 長谷川 奏
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、イスラム社会の変動を科学技術の視点から分析することを目的とする。具体的には、1)イスラム世界を歴史と現代に至る技術革新の流れの中で概観し、2)IT等の科学技術がもたらす「一様化」と個別化がもたらす「多様化」の双方からイスラムの社会経済・文化の問題を分析する。1)では、マムルーク朝の文献資料を基に農業分野の技術革新を分析し、エジプトが砂糖産出国に変貌していった過程に焦点をあて、イスラム文化が実践性と受容性に富んでいる背景を明らかにした。また、今日のイスラム系のウェブサイトが英語とアラビア語を駆使して双方向性のコミュニケーションに成功している事実を明らかにした。2)では、イスラム地域でのワークショップやフィールド調査等を通じて、以下の成果を得た。(1)経済・ビジネス関連:民主化推進派と保守強硬派がせめぎあう中で、科学技術を意識した湾岸諸国は、石油依存経済からの脱却と産業の多角化を進め東アジア等との経済関係を強化したが、イスラム地域全体としては取組みが停滞している点、トルコでは経済改革を通じEU加盟を現実化させる方向に進んでいることが逆に西欧キリスト教国に対しイスラム的努力をどれだけ受容できるのかという新たな問題を提起した点、また、イスラム金融が東アジアの金融取引において看過できない動きとなっている点等を明らかにした。(2)情報・技術関連:ITの進展とともに、インターネットが過激派のサイバー・テロ手段となる傾向も顕著となった点を具体的に捉えた。(3)社会・文化関連:エジプトでは、電子化政策の推進が文化財保護行政にプラスしている点、東南アジアでは、インドネシアのユドヨノ政権の成立過程でイスラム団体を含む民主化勢力の貢献が見られた点、マレーシアでは海外からの投資を梃子にした人材育成やハイテク産業の育成及び中等教育に主眼を置いた教育体系も科学技術と経営を重視してきた点等を明らかにした。
著者
森川 嘉一郎
出版者
早稲田大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

本年度は、前年度に都内の男子高等学校で実施した調査よりも統制された条件で、かつ男女にまたがる標本を用いることにより、個室に反映された趣味の実態や因子をより精密に測定することを目標とした。前年度の調査ならびにそれに先立つ予備調査から得られた諸々の尺度に基づき、岡山の大学(国立・共学)にて、講師の協力を得て、学生に授業の一環として調査票を宿題の形で配布・集票した。調査内容は予備調査で有効と判断された諸項目の中から本人や両親の学歴、所得階層、職域などのフェイスシートを構成する質問7項目、並びに個室の和/洋、広さ、生活時間、ポスターやヌイグルミなど装飾品の種類別数量、電話やパソコンなどそこで使用されている電化製品の品目や使用時間、来客の頻度、清掃の頻度、物品の整頓状態などの個室の様態や使用状況に関わる質問27項目を抽出した。さらに個室の写真に代わる資料として、個室に飾られているポスターに描かれた人物・キャラクターなどの固有名・国名を書かせる記述回答式の質問を2項目と、幾つかの尺度に沿って順序づけられた典型的な個室の状態の図版と自分の個室を見比べて測定させる質問を4項目加え、計40項目で質問紙を構成した。結果において特徴的だったのは、個室におけるホビーの反映とテイストの反映とで男女の平均の相対的関係が逆になっており、男性はホビーを主体として自らの趣味を部屋に反映させるのに対し、女性はむしろ、テイストを主体とする傾向にあったという点である。これは自室の中の立体的装飾品の点数にも表れており、女性の方が男性より多い平均値が出ている。またこうした装飾品や部屋に反映されたホビーのモチーフについての記述解答をみてみると、マンガ・アニメ・ゲームなどの国内産キャラクターに関連する趣味では男性の方が女性より記述数が多く出ているのに対し、海外のキャラクターやスターの記述では逆に女性の方が多い。
著者
寒川 恒夫 杉山 千鶴 石井 昌幸 渡邉 昌史
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

全4年度研究の最終年度に当たる本年度は、東アジアにおける民族スポーツの観光化変容補充調査及び、本研究の目的である"民族スポーツに観光化変容をもたらした要因の分析"及び、本研究活動を報告書にまとめる作業にあてられた。補充調査は、日本にあっては、北海道最大規模の観光イベントであるよさこいソーラン祭り、また沖縄県最大規模の観光イベントである那覇祭りの民族スポーツ(大綱引き、エイサー)、韓国においては忠清北道忠州市の忠州世界武術祭と慶尚南道の晋州闘牛、中国においては新彊ウイグル自治区ウルムチの少数民族民族スポーツ、また広東省広州市で2007年11月に催された第8回中国少数民族伝統体育運動会、それに北京市及び河南省温県陳家溝の武術について実施された。民族スポーツの観光化変容については、当該地域の経済活性化が最大要因として指摘されるが、担い手が少数民族である場合、経済要因に加え、民族の存在主張・文化主張の動機が無視し得ない。また、観光化に当たっては当該地の行政が大きく関与する事も全体的に認められる。特に中国の場合、1990年代の改革開放政策後に民族スポーツの観光化変容が開始するのが、その良い例である。それまで中国の民族スポーツは当該民族の伝統文化保存と健康という目的に存在根拠が求められていたが、改革開放後は「文化とスポーツが舞台を築き、その上で経済が踊る」のスローガンのもと、全国的規模で民族スポーツの観光化が進行して現在に至っている。観光化する民族スポーツの種目は多岐にわたるが、今回の調査で、これまではもっぱら修行や教育の枠内で展開し、経済や観光とは無縁であった武術に観光化の熱いまなざしが注がれていることが大いに注目される。
著者
柿崎 京一 矢野 敬生
出版者
早稲田大学
雑誌
早稲田大学人間科学研究 (ISSN:09160396)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.71-89, 1991-03-25

The Bay of Tokyo was once full of fishery resources and there used to be a number of fishing villages along the coast. Since 20th century, however, because of the overdevelopment of the seaside industrial zone and the expansion of urban area, the environmental pollution has gotten worse and the reclaimed land over the sea has steadily progressed. Because of the worsened environment for fishing ground, the inshore fishery has rapidly declined, along with disappearance of these fishing villages, as a result. This research was conducted in Kaneda district in Kisarazu City, Chiba Prefecture and that is the only fishing village area along the Bay of Tokyo where people still depend their living mainly on fishery. We particularly chose Nakano rural community located inland area. We mainly look through the conflict with other fishing villages around that community, considering some of the incidents after the mid-19th Century and describe the historical development and analyze it. To be more concrete, we would like to examine the historical process of Nakano rural community from two aspects. 1) The change of the land reform projects concerning the farm land and the water for irrigation. 2) The process of how the Fishing Cooperatives were developed. In addition, we would like to make clear of the structure of the changing fishing village by analyzing the self-government organization and social stratification of the rural community.
著者
神尾 達之
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

ラーヴァーターは学問の手前に位置していた観相学を学問に格上げしようとした。ラーヴァーターの観相学とその受容史を追うことで、次の二点を確認することができた。(1)学問がその条件として内包している客観的な観察という方法と、観察主体の透明性という前提は、近代の発明である。(2)観察主体が自覚しないままに自己特権化し、それを可能にするテクノロジーが開発されることによって、レヴィナスのいう「他者」の顔は隠蔽され続ける。
著者
河合 望
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、古代エジプト新王国時代の王墓の副葬品を総合的に研究し、葬制の一端を明らかにすることを目的とした。中でも早稲田大学が1991年より調査を継続している王家の谷・西谷のアメンヘテプ3世王墓出土の副葬品の研究を中心にエジプトおよび欧米の博物館・美術館で調査研究を実施した。また自らが発掘調査を手がけたラメセス2世の孫娘イシスネフェルトの墓出土の副葬品の研究等も実施した。これらの研究により、新王国時代の王および王の埋葬にかんする理解を深めることができた。