著者
早川 美徳
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

大変形したゴム膜と粘性流体層との複合的な系を構成し、そこで見られる音速に較べて十分に遅い破壊現象を解析した。この系では、歪みの量によって、蛇行する亀裂と直進する亀裂のパターンの転移が存在することを見いだした。こうした亀裂の不安定性は、従来の線形破壊力学では説明できない現象であって、その起源が、大変形に伴う非線形弾性にあることを、実験と数理モデルのシミュレーションの両面から理由付けた。
著者
佐々木 聡
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

前年度から引き続き、優秀若手研究者海外派遣事業による助成を受け、中国・復旦大学古籍整理研究所にて本研究に従事した(2010年2月~本年1月)。派遣中は、陳正宏教授(書誌学)・余欣副教授(敦煌学)らの指導を受け、特に資料の基礎的検討に力を入れて本研究を遂行した。先ず、前年度の『白澤圖』の研究を受け、関連資料である敦煌本『白澤精怪圖』の資料的性格を明らかにするため、6月にフランス国家図書館にて原本の実見調査を行った。この調査により、従来知られていなかった複雑な来歴や書名の問題点などを指摘し、資料的性格の解明に繋げた。その成果については、復旦大古代史研究班ワークショップでの報告(11月3日)を経て、海外学術誌に投稿した(「法蔵『白澤精怪圖』(P.2682)考」、審査中)。また、平行して本研究遂行上重要な資料である唐・瞿曇悉達『開元占經』についても、書誌的調査を行った。本書は、先行研究では海外所蔵資料の調査が不十分であったが、報告者は日本・中国・台湾の各研究機関が所蔵する抄本の大部分を調査し、抄本の流布系統を明らかにした。中でも、復旦大所蔵の明憲宗御製序本の発見は、従来不明であった写本系統の解明に繋がるだけでなく、本書のテキスト校訂研究にも裨益する重要な成果と言える。派遣終了後、日本中国学会若手シンポジウム「中国学の新局面」(3月26日、東京大学)にて、本研究の総括的な成果を報告した(「『白澤圖』をめぐる辟邪文化の広がりとその鬼神観」)。本報告では、『白澤圖』を一例に、神仙道の志向性の強い辟邪書が、時代が下るにつれ、形式を変え、人々の基層文化の中に浸透してゆく過程と鬼神観の変遷を明らかにした。また、前年度に行った初期道教経典に見える鬼神観及び辟邪文化と対比・比較しうる視点も提示した。
著者
中藤 亜衣子
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

【プロセス3:小惑星の熱変成】1・2年目の研究により,40個のCMコンドライト隕石から,20個の加熱脱水を経験した試料を同定した.これらの試料に対して,微細組織観察,微量元素定量分析,極微細組織観察・極微小領域の化学組成定性分析を行い,岩石学的にCMコンドライト隕石として分類できる8個の試料について更に詳細研究を行った.特に熱に敏感な層状珪酸塩鉱物の観察と,主要構成鉱物組み合わせに基づいて,これら8個の隕石の熱変成の程度と推定経験温度領域を以下のように分類することができた.《強い加熱(750-1000度),中程度の加熱(500-600度),弱い加熱(300-500度)》強い加熱を経験したグループの隕石は,層状珪酸塩鉱物の化学組成,全岩の酸素同位体組成が,弱い加熱を受けた隕石とは大きく異なっていた.この結果は,強い加熱グループに属する試料が,母天体上で水質変質を経験した際,その水溶液の化学組成がCMコンドライト隕石母天体とは異なっていたことを示唆している.また,これらの試料に関しては,マトリクス中に部分溶融したトロイライトと非溶融トロイライトが点在している組織が観察されている.この観察結果は,これらの隕石の最高到達温度が,試料内で不均一であった証拠である.加えて,珪酸塩鉱物に弱い衝撃組織が認められることから,強い加熱グループの熱源として,世界で初めて「衝撃加熱」であると特定することができた.また,韓国極地研究所にて,全岩の酸素同位体組成分析のシステム改良にも引き続き取り組んだ.このシステムを使用した結果に基づくと,弱い加熱を経験したグループ属する2つの隕石について,非常に興味深い結果が得られた.そのデータによると,これまで推測されてきた太陽系始原水の組成に,大きなばらつきがある可能性が示唆される.これは,始原的小惑星の進化のみならず,太陽系の進化にも直結する非常に大きな意味を持つ.この結果は,2011年8月にイギリスで開催された,国際隕石学会で発表するとともに,現在論文を準備中である.【プロセス1:惑星の形成】2年目に引き続き,探査機はやぶさの回収した小惑星イトカワの表面試料の初期分析を行った.この結果は,2011年3月の国際月惑星科学会議,2012年8月の国際隕石学会,科学雑誌サイエンスで報告された.この分析の結果,これまで広く研究されてきた隕石が,確かに小惑星から飛来したものであると初めて確認された.また,地球に飛来する最も一般的な隕石である普通コンドライトと,その母天体であるS型小惑星の表面の反射スペクトルの違いは,試料表面に宇宙線照射による宇宙風化が生じるためであるとした従来の定説が,正しいものであったと確かに立証することに成功した.これは隕石研究にとって歴史的な成果である.
著者
伊藤 修 森 信芳 上月 正博
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

Wistar-Kyotoラット(WKY)と高血圧自然発症ラット(SHR)において、長期的な運動による大動脈のnitric oxide (NO)合成酵素(NOS)発現増強効果はNADPH oxidase依存性であり、腎のNOS発現増強効果はWKYではNADPH oxidase依存性、SHRではxanthine oxidase依存性であることを明らかにした。食塩感受性高血圧ラットにおいても、長期的な運動は腎保護作用を有することを明らかにし、その作用機序は 血圧とは独立したものであり、運動による酸化ストレスの軽減、NO産生系、腎アラキドン酸代謝の改善が関与している可能性が示唆された。
著者
永広 昌之 遅澤 壮一 吉田 武義 蟹澤 聰史 越谷 信 川村 寿郎
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

日本列島における異地性地塊の起源を明らかにするために,南部北上古陸を中心にしつつ,東北日本や西南日本の付加体をも含めた地体について,テクトニクス・古生物地理・化成活動などの観点から検討した.南部北上古陸では,オルドビス紀末期〜シルル紀初期に,氷山花崗岩類や正法寺閃緑岩などに代表される,沈み込みに関連する深成火成活動が広範囲にわたってあった.南部北上古陸と西南日本の黒瀬川古陸は,前期古生代以来,同一のテクトニックセッティングの,近接した(同一の?)大陸縁辺域をなしていたと考えられる.南部北上古陸や黒瀬川古陸は,前期石灰紀には古テチスと古太平洋の連結海域にあり,ぺルム紀〜三畳紀には南部北上古陸は華南に近接した低緯度地帯にあったことが,それぞれサンゴおよびアンモノイドの古生物地理データから推定された.飛騨外縁帯の古生物地理や構造発達史は南部北上古陸のそれと大きく異なり,両者は異なった位置やテクトニックセッティングにあった.付加体に伴われる緑色岩類の産状や起源について,変質の影響を見積もった上で,主元素・微量元素組成にもとづき検討した.四万十帯のin situ玄武岩類は,海溝-海溝-海嶺三重点近傍での,海嶺沈み込みにともなう火成活動の産物と考えられる.海嶺が沈み込むと島弧火成活動が中断することに注目すると,in situ玄武岩の活動年代から三重点の移動経路と移動測度が決定できる.このことから,北上・阿武隈帯の白亜紀火成岩類は,115Ma以前に現在の北九州付近で形成されたと推定された.また,北上山地における白亜紀前期の大島造山運動はこの三重点通過にともなう島弧の大規模上昇を示唆している.
著者
浪間 孝重 中川 晴夫 海法 康裕
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

70歳以上の高齢者に対する疫学調査を行い、夜間頻尿と骨折の発生・死亡率との関連を調査した。5年間の追跡期間中、骨折について、関連する因子を補正した後の夜間頻尿を有する群のハザード比は2. 01(1. 04-3. 87, p=0. 04)であり、転倒による骨折のハザード比は2. 20(1. 04-4. 68, p=0. 04)であった。5年間の死亡率は、夜間頻尿を有する群で高く、補正後のハザード比は1. 98(1. 09-3. 59, p=0. 03)であった。70歳以上の高齢者では夜間頻尿は骨折発生と死亡率上昇の独立した危険因子であった。
著者
野崎 寛
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

ユークリッド空間,またはその球面上の有限個の点の配置において,どのようなものが"良い"と言えるかという問題は,代数的組合せ論の主問題のひとつである."良い"有限集合としてs距離集合,求積公式(球面デザイン,ユークリッドデザイン)等があげられる.また特に良い有限集合に対しては,代数的構造(アソシエーションスキーム,コヒアラント配置)が付随することが知られる。Delsarte,Goethals,Seidel(1977)は球面上の有限集合に対して,s距離集合,球面デザイン,アソシエーションスキームを結び付ける極めて美しい理論を確立させた.本研究の目的の一つは,その理論(DGS理論)をユークリッド空間へと拡張させることであった.篠原雅史氏(鈴鹿高専)との共同研究により,その問題の部分的解決にあたるユークリッド空間上の2距離集合とユークリッド2デザインの関係について,DGS理論を拡張することに成功した(投稿中).また関連する話題として,複素球面上の2距離集合の概念にあたる2コードに対して,実球面で知られている結果の類似を与え,最大2コードの存在性が良く知られたskew Hadamard matrixの存在性と同値であることを示した(須田庄氏との共同研究).その中で,付随する有向グラフの固有値に関する特徴づけも与えている(投稿中).また実既約鏡映群の軌道から得られる球面デザインの最大の強さに言及した澤正憲氏(名古屋大)との論文がCanad.J.Math.に掲載されることが決まった.
著者
駒井 三千夫 伊藤 道子 古川 勇次
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

ラット生体内におけるK_1(フィロキノン=PK)からメナキノン-4(MK-4)への変換に関するトレーサー実験(1)と、各臓器で生成するMK-4の単離・精製と同定に関する実験(2)を行い、以下の結果を得た。(1)PKからMK-4への変換に関するトレーサー実験^<14>C標識PK(側鎖に標識したものとナフトキノン骨格に標識したものを別々に用いた)を用いたin vivoならびにin vitroの実験から、PKからMK-4への変換は各組織において行われることと、PKはそのイソプレン側鎖がはずれて一度K_3になってから別のイソプレン側鎖(ゲラニルゲラニル基)が付加すると考えられる結果が得られた。すなわち、PKのイソプレン側鎖は3カ所が不飽和化されてそのままMK-4になるのではなく、各組織において一度K_3になったものにゲラニルゲラニル基が付加して生成される機構を明らかにすることができた。また、この変換能は肝臓でよりもむしろ他の臓器(膵臓、唾液腺、腎臓、精巣、脳、等)で高いことが示され、MK-4は肝臓における凝固因子としての作用の他に、多くの臓器においてこの他の未知の生理作用を発揮しているものと予測される。(2)の単離・精製と同定に関する実験昨年度の結果からMK-4生成能が最も高いと考えられた膵臓(MK-4を増やすためにK含有固型飼料を8日間与えた)を用いて、HPLCにおけるMK-4の画分を分取し、不純物(他の脂溶性ビタミン類)を取り除いた後、質量分析装置によって物質の同定を試みた。その結果、PKを経口投与後に各臓器において増えるHPLC上でMK-4様物質であると予測された物質は、MK-4であると同定された。
著者
中島 信博 松野 将宏
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

「地域密着」という概念を検討するため、プロサッカークラブのベガルタ仙台を事例として、質的データから分析を行った。特に、創設期に地域の多様なアクターが、どのように関与したのかについて史的に捉え、その上で全体の特徴を指摘した。仙台では、大企業が主導するビッグなクラブとは異なる様相を示していた。まず、県サッカー協会というボランタリー・セクターが先導し、行政への働きかけが、スタートであった。初期段階では、市民の運動やマスメディアのキャンペーンも後押しすることになる。その後に、地元の経済界が具体的に参加し、最終的に、多くのアクターが参加する形でスタートにこぎ着けた。
著者
山元 大輔 木村 賢一 小金澤 雅之 鳥羽 岳太
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2011-04-01

動物は種によって独特の行動を示す。本研究では、求愛行動様式に歴然たる相違のあるショウジョウバエ2種、Drosophila melanosgaterとD. subobscuraに着目して、なぜ行動の違いが生まれるのかを解明した。あらゆる行動は、特定のニューロンが決まった順序で活動することによって生み出される。研究の結果、fruitlessという遺伝子のスイッチがどのニューロンでオンになるかが変わることによって、種ごとの行動の違いが生まれる可能性が示された。
著者
斎藤 峻 和泉 博之
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究では、嚥下反射と同様な反射経路を持つと考えられる、顔面における体性-副交感神経反射性血管拡張反応の中枢機序を検討した実験方法としては、ネコを全身麻酔導入後、ウレタン-クロラロース-パンクロニウム-人工呼吸下にて麻酔を維持した。脳定位固定装置に固定後、開頭し、三叉神経脊髄路核に同芯円電極を挿入して、三叉神経脊髄路核に電気刺激を行った(2ms、100μA、10Hz、20s)。反射性血管拡張反応は舌神経を中枢性に電気刺激(2ms、30V、10Hs、20s)して起こした。血管反応は下唇をレーザードップラー血流計で測定した。その結果、1)三叉神経脊髄路核の電気刺激は下唇の血流を増加させた。2)舌神経刺激による反射性血管拡張反応は三叉神経脊髄路核へのLidocaine(2%;1μ1/site)注入により可逆性に抑制されkainic acid(10mM;11μ1/site)により非可逆性に抑制された。しかし、下唾液核電気刺激(2ms、30V、10Hs、20s)で生じる反応はこれらの薬剤注入では全く抑制されなかった。3)唾液核にLidocaineを微量・注入すると、反射性血管拡張反応は可逆的に抑制された。4)舌神経及び三叉神経脊髄路核刺激によって起こる下唇の血管増加反応は共に自律神経節遮断薬(Hexamethonium,1mg/kg)により有意に抑制された。以上の結果から、三叉神経脊髄路核は舌神経刺激により生じる体性-副交感神経反射性血管拡張反応を中継していることが示唆された
著者
武田 賢 角谷 倫之 佐藤 清和 土橋 卓 伊藤 謙吾 千葉 瑞己
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

ヒト頭頸部模型をCT撮像したデータをソフトウェア上で加工し、3次元(3D)プリンターに転送して頭頸部固定具を作製した。比較対照として、放射線治療用固定具として実用化されている熱可塑性素材を用いて従来法(手作業)により頭頸部固定具を作成した。3Dプリンターで作製した頭頸部ファントムの固定具は、固定精度と線量特性の点で、従来法で作成した固定具と同等の性能を示し、臨床上、実用化できる可能性が示唆された。然しながら、CT撮像からデータを加工する迄に約2時間、3Dプリンターで出力するまでに約100時間程度の時間を要しており、今後の課題として、固定具の作成過程を効率的に短縮する必要があることが分かった。
著者
田中 英道 尾崎 彰宏 有賀 祥隆 松本 宣郎
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究では、研究代表者が日本と西洋の古典主義を比較検討する作業を行っている。とくに、本年度は、代表者がドイツに長期で滞在する機会を得たため、ドイツ・ゴシック美術と日本美術の関係について詳細な報告をおこなった。古典主義が美術表現にどのような形で表れてくるのか、研究分担者が、それぞれの専門領域からアプローチし、それぞれの成果はやはり研究報告書にまとめられた。古代を担当する松本宣郎は、「古代ローマの美術政策」に光を当てている。ローマ美術、わけてもアウグストゥスの元首政の時代のローマ建築や美術に関する最近の研究に依拠して、「古典美術」が元首・皇帝の政策と関わって展開した状況を概観している。イタリアを担当する森雅彦は、「プッサンとアカデミー」の問題に絞り、古典主義の美術理論とプッサンの芸術との関連性をアカデミーという場に求め、詳細な分析をおこなった。足達薫は、パルミジアニーノの作品における古代に焦点を当て、マニエリスムと古典主義の関係に新たな視点を提供した。元木幸一は、ドイツ美術の古典主義美術の大御所、デューラーの芸術表現にいかに古代が強く作用していたかを改めて検証している。尾崎彰宏は、17世紀オランダ美術の代表的画家、「レンブラントのメランコリー」に絞った検討を行った。古代ギリシアに端を発するこの「メランコリー」理論は、ルネサンスに隆盛を極め、バロックの時代にまでその影響は残っている。その代表格がレンブラントの作品である。この視点は長らく等閑に付されてきた。
著者
佐藤 伸宏 加藤 達彦 高橋 秀太郎 土屋 忍 野口 哲也 畑中 健二 森岡 卓司 山崎 義光
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

「小品」とは、明治時代の後半期に成立した短小な散文テクストであり、近代長篇小説の確立の傍らで、それとは異なる脱ジャンル的で多面的な性格を備えた特異な散文として、非常な隆盛を示すことになった。この「小品」に関して、先行研究の蓄積はほとんど皆無に等しい状況であったが、本研究では、雑誌メディアを対象とした文献調査をとおして「小品」という枠組みの成立と展開を跡付けるとともに、北原白秋や水野葉舟その他が生み出した「小品」の様式的特徴を明らかにすることによって、「小品」の性格と意義を解明した。
著者
筒井 健一郎
出版者
東北大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2014-04-01

グループ逆転学習課題を遂行中のサルの前頭連合野の諸領域(背外側部(DLPFC)、背側部(DPFC)、腹外側部(VLPFC))の神経活動を、低頻度反復経頭蓋磁気刺激(低頻度rTMS)によって抑制したときの、課題遂行行動の変化を調べた。グループ逆転課題は、我々が独自に開発した課題であり、モデルベースおよびモデルフリーの行動制御過程を分離することができる。8つの抽象図形によって構成される刺激セットを、4つの刺激からなる2群に分け、それぞれの群は異なる結果(ジュースあるいは食塩水)を予告する条件刺激として、パブロフ型条件づけを行った。数十試行ごとに、刺激と結果の関係をすべて逆転させる「全体逆転」を繰り返すと、サルは常に同じ意味をもつ4つの刺激を「カテゴリ」(刺激の等価性に基づいたグループ)として認識するようになり、1つの刺激について逆転を察知すると、その他の刺激については、あらかじめ結果との関係が逆転することを予測して行動するようになった(モデルベース行動)。一方で、8つの刺激のうち4つしか刺激と結果の関係を逆転させない「部分逆転」においては、このカテゴリの情報が使えず、個別の刺激について新たに刺激と結果の関係を、時間をかけて学習するストラテジーをとった(モデルフリー行動)。DLPFC、VLPFC に低頻度rTMSを与えた時には、全体逆転における課題成績が低下したが、部分逆転の課題成績には影響がなかった。一方、DPFC に低頻度rTMSを与えた時に、全体逆転、部分逆転ともに、課題成績への影響は認められなかった。この結果により、DLPFC および VLPFC は、モデルベース行動の制御に重要な役割を持っていることが明らかになった。一方、モデルフリー行動の制御には、前頭連合野を必要としないことが示唆された。
著者
小助川 博之
出版者
東北大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2013-08-30

樹脂と炭素繊維で構成される炭素繊維強化複合材料は、優れた比強度と比剛性のために鉄鋼やアルミ合金に代わる構造材料として期待されているが、その非破壊欠陥診断の方法は未だ確立されていない。本研究では、電気化学的手法を用いることで構造体自身が欠陥の発生を自己検出するスマートな炭素繊維強化複合材料の開発に成功した。このような複合材料は、構造体内部にセンサを埋め込む必要がなく内部欠陥の発生を誘発することがないため、構造物としての高い信頼性を示すことができる。
著者
小柳 義夫 永井 美之 増田 貴夫 岡本 尚 塩田 達雄 志田 壽利 足立 昭夫 高橋 秀宗 生田 和良
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

小柳はウイルス感染個体内でCD4陽性T細胞がアポトーシスに陥るのに関わる細胞性因子であるアポトーシス誘導シグナルとしてFasLでなくTRAILが関与することをSCIDマウスにヒト細胞を移植した感染系を用いて明らかにした。さらに神経組織にウイルスが侵入すると同じTRAILが中枢神経細胞を殺すことを見出した。塩田はウイルスのコレセプターであるCCR5にアジア人特有の遺伝子変異をみつけ、この変異によりこの分子の細胞表面への輸送が低下しHIVに対する感受性が低下することを見つけた。さらにIL-4の遺伝子変異が起こるとエイズ発症が遅延することも見出した。岡本はHIVの転写に必須の細胞性因子としてNF-κB p65のトランス活性化領域に結合してコレプレッサーとして働くAES/TLEとコアクチベーターとして働くFUS/TLSを発見し、ウイルス発現調節機構の新たなメカニズムを明らかにした。増田はHIVインテグレースの細胞核内への移行シグナル部位が従来考えられていたものと異なることを見つけ、この分子移行に関与する細胞性因子の同定を目指している。志田はウイルスRNAの核内から核外へ移行に必須であるウイルス蛋白質Revに結合するCRM1の機能ドメインを明らかにし、Revの多量体化にCRAM1が必要であること、さらにマウス細胞内でも機能を発揮することを見つけ、マウス細胞へのヒトCRAM1遺伝子の導入は意義のあることがわかった。
著者
岩渕 弘信 早坂 忠裕 岡本 創 片桐 秀一郎
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

地球の放射収支に重要な上層雲の変動実態を全球規模で把握するため,衛星データから上層雲の特性を推定する手法を開発し,雲量と光学特性,微物理特性の変動を解析した。熱帯域では光学的に厚い上層雲の分布は対流活動が活発な地域とよく対応していた。巻雲の分布域は対流雲の分布域よりも高緯度側に広がっており,対流活動の活発な地域の季節変動に対応して,巻雲も変動していた。上層雲の雲量と雲頂高度の経年変動は特にエルニーニョ南方振動と密接に結びついていることがわかった。また,静止気象測衛星ひまわり8号のデータを用いた雲解析アルゴリズムを開発し,雲の時間的な変化を詳細に捉えられるようになった。
著者
松永 翔雲
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

本研究課題では,「More than Moore」に代表されるような新デバイスの採用および回路機能の多様化による集積回路のパフォーマンス向上を想定し,強誘電体や強磁性体などの不揮発記憶素子の特長を活用し,ゲートレベルの論理演算機能と不揮発記憶機能をコンパクトに一体化し,低電力性と高速性を両立できる不揮発性の細粒度パイプライン演算システムを構築した.応用例として,動画像圧縮等に利用する動きベクトル検索用絶対差分和演算回路,及び並列データ検索用連想メモリを取り上げ,パワーゲーティング機能を組み込んだ不揮発性の細粒度パイプライン演算システムにより,大幅なパフォーマンス向上を実現した.