著者
堀江 薫 村上 雄太郎
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、日本語、韓国語、ベトナム語という「漢字文化圏」に属し、「膠着語」(日韓語)、「孤立語」(ベトナム語)という異なる形態類型論的特徴を持つ3つの言語における、語彙・文法構造に反映した言語接触現象の実態を明らかにすることを目的として3年間の研究を行ってきた。3年間の研究活動は、(I)「ベトナムにおける現地調査」(II)「国内、国際学会における研究発表」(III)「国内外の学術誌、論文集における成果発表」という3点を中心に行われた。(I)に関しては、SARSの流行などのため、当初の計画通り毎年共同で実施することはできなかったが、平成17年3月には代表者(堀江)、分担者(村上)でホーチミン、フエにおいて共同調査、資料収集を行うことができた。(II)に関しては平成15年11月8日に「東アジア言語・東南アジア言語の多機能化の共通性と相違点」フランス語談話会ワークショップ「文法化をめぐって」(京都会館)で共同の研究発表(招聘)を行った。また、この他に、関西言語学会、日本言語学会、社会言語科学会、言語処理学会、言語科学会(JSLS)、日本認知言語学会(JCLA)等での研究発表(招請を含む)を行った。国際学会としては、国際日韓言語学会(JK)、概念構造・談話・言語学会(CSDL)、国際認知言語学会(ICLC)、国際語用論学会(IPrA)、国際文法化学会(NRG3)、国際実用日本語学会(ICPLJ)等での研究発表を行った。(III)に関しては、「11.研究発表」にあげたものをその一端とする論文発表を国内、国外において行った。これらの研究活動の結果、日韓語とベトナム語の間には、言語接触、借用語、文法化に関して形態類型論的な相違を反映した顕著な相違が見られることが分かった。他動性(transitivity)という現象を例に取ると、日韓語は「対格助詞」という助詞に関して「対象」である名詞(句)をマークする用法から「逆接」の名詞節をマークする用法を派生するプロセスが見られるのに対して、ベトナム語や中国語においては、基本的には語順によって目的語をマークするが、それに加えて、「物理的動作」を表す他動詞が「介詞」的な品詞に機能的に転じるという現象が見られるという平行性が観察された。この研究成果は「11.研究発表」の最後にあげた「堀江・村上(印刷中)」として公表することになった。
著者
山田 努
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2002

本研究計画の最終年度に当たる平成16年度には,石垣島およびニューカレドニアで行っていたシャコガイ飼育実験を終え,水槽内のシャコガイを採取した.石垣島での飼育実験は,平成14年夏から平成16年夏までの約2年間,ニューカレドニアでは,平成15年春から平成16年冬までの約1年半行った.ニューカレドニアのシャコガイ(シャゴウ2個体,シラナミ3個体,ヒレジャコ2個体)は,CITESに従がって日本に輸入し(CITES PERMIT No.:2004-NC-7329および7330),これらのシャコガイ殻について,成長線解析や同位体比分析を行った.パラオでの飼育実験は,パラオがCITESに加盟しておらず,シャコガイ殻の輸入ができないため断念した.代わりに,マレーシアで飼育実験を行う計画を立てたが,相手機関の協力が得られず実施できなかった.また,平成16年夏には,沖縄県与那国島で化石シャコガイ殻を採取した.石垣島吉原で飼育・採取した2個体のシャゴウの成長線解析・同位体比分析を行った.まず,全体の傾向をみるために,サンプル約10個毎に同位体比分析を行った.その結果,(1)日輪幅の変化の主な規制要因が日射量変化であること,(2)日輪幅変化に見られる負のスパイクが大雨や台風に襲来を反映している可能性が高いこと,(3)殻の炭素同位体比の変化は,水温・日射量・日輪幅と負の相関を示すが,共生藻の光合成活動やシャコガイ類の代謝活動などの生理学的過程が複雑に関与していること,(4)殻の酸素同位体比の変化は,水温変化と極めて強い負の相関を持ち,また,殻はほぼ酸素同位体平衡下で形成されること,が明らかになった.残りの同位体比分析を進めたところ,上記の成果をさらに支持する結果を得た.
著者
齊藤 伸
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2005

数10μm〜サブμmにパターン化された磁性材料では試料内各場所での磁気特性がその性能を左右することから、パターン試料内部の磁区構造観察に対する需要が高まっている。そこで本課題ではこれまでに確立した白色光の高倍率磁区構造観察技術を発展・応用し、ピコ秒オーダーの磁化過程を一括して観察できる高倍率高時間分解能縦カー効果顕微鏡を実現することにある。2年目に当たる平成18年度はレーザ光を光源として用いることにより(高時間分解能観察)、磁化ベクトル方向の検出が可能な磁区観察顕微鏡を作製することを目標として研究を行った。磁化方向の特定のためには、対物レンズ入射瞳の直交方向の辺縁部に微小スポットの入射光を落斜させて、各軸方向の磁化ベクトル成分に比例したコントラストを付すことが有効である。各落斜光軸からのプローブ光の入射タイミングをズラしながら試料を照明し、照明のタイミングと同期をとってCCDカメラのシャッタを切ることにより(時分割法)、磁界掃引時の磁化ベクトル履歴動画像の撮影に成功した。さらに得られたベクトル履歴動画像に対して、色合いの割付、局所領域の輝度ヒステリシスループ(磁界引加方向、直交方向)の抽出も可能であることを確認した。尚、本研究の成果は、2006年10月16日に同学会の広報部による技術情報サービス第28号が学会員向けに配信された。28.01 カー効果を利用した局所的磁化ベクトル測定の試み(抜粋)学術講演会にて、東北大学斉藤らのグループから薄膜試料の局所における磁化ベクトルを定量的に計測できるカー効果顕微鏡が提案された。新しい計測方法へ発展するものと期待される。http://www.wdc-jp.com/msj/information/061016/061016_01.html
著者
鈴木 孝幸
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2007

私たちは5本の指を持っており、それぞれの指は親指から小指にかけて異なった特徴ある形態をしています。今回、この形の違いが生み出されるメカニズムをニワトリの受精卵を使って調べました。その結果、発生中に指先の先端に指を造るために重要な細胞群を見いだし、PFR(指骨形成領域)の細胞群を新たに命名しました。さらにこの細胞群は指原器の後側の指間部からBMP(骨形成成長因子)を受け取っており、それぞれの指原器のPFRが受け取るBMPシグナルの量的な違いによって指の個性が決定されていることが分かりました。
著者
大江 知行 後藤 貴章 李 宣和
出版者
東北大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

MALDIにおける負イオン検出の検討および活用●負イオン化のためのマトリクス条件を最適化した。●負イオン化を併用した新規peptide mass fingerprinting法を開発した。●ヒト血清アルブミン上の網羅的化学修飾スクリーニング法を開発した。ESIにおける負イオン検出の検討および活用●負イオンのための溶媒条件を最適化した。●各種化学修飾ペプチドのフラグメンテーションを精査した。●負イオンの特徴的フラグメンテーションを利用する化学修飾スクリーニング法を開発した。
著者
安藤 晃
出版者
東北大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

地球極域における発散磁場を利用し、磁気ノズル加速を人為的に行うことで二酸化炭素など温室効果ガス種を地球外に排出することを目的として、磁気ノズルによるイオン加速とディタッチメント効果の研究を実施した。二酸化炭素と質量の近いアルゴンのほか、種々の希ガスを動作ガスとして、高周波を用いたプラズマ生成実験とともに、磁気ノズルにおけるイオン加熱・加速効果を検証した。さらに磁気ノズル場中におけるプラズマ流のイオンマッハ数、アルヴェンマッハ数の変化を観測し磁力線からの離脱現象について検討を行った
著者
鳥谷部 祐
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

初年度から開発してきた超音波システムが完成し、液体金属の超音波キャビテーションを標的にした原子核実験を実施することが可能となった。液体及び気体Li標的に対して30-70keVの重陽子ビームを照射し、標的中で生起する^6Li(d,α)^4He及びD(d,p)T反応を測定することで、液体及び気体中での核反応率の違いを実測した。実験を行ったあらゆる条件下で超音波による^6Li(d,α)^4He反応の増大は観測されなかった。裸の原子核状態から液体状態へ変化させた時の反応の増大分は重心系のエネルギー差分で543±38eVと決定した。これは絶縁体標的の報告値よりも大きいが、液体LiがLi^<1+>とe^-に電離していることによって生じるデバイ遮蔽を考慮すれば妥当である。固体標的で報告された大きな遮蔽効果は観測されなかった為、大きな反応増大は固体状態に特有であると考えられる。これに対して、特定の条件下では超音波ON状態でD(d,p)T反応が数十%程度増大することが判明した。しかし、反応増大は標的の表面状態に著しく依存し、試行毎のばらつきが非常に大きい。そこで、比較的安定な条件を探索し、その条件下で増大率のエネルギー依存性を測定することで反応機構を推定した。この結果、反応の増大は遮蔽効果ではなく、気泡内の高温が原因であると判明した。表面での気泡の存在割合は約65%であり、気泡内温度は590±54eV(約680万度)である。本研究により、これまで分光によってのみ測定されてきた気泡内温度を世界で初めて原子核反応により決定した。気泡内でLi温度は低く、D温度のみが高いと予測されるが、この温度差と気泡内温度は分子動力学的な数値計算結果と定量的に一致している。本研究結果から、最適な条件が決定できれば、超音波キャビテーションによって核融合反応を生起させることが可能であると示唆される。
著者
大泉 丈史
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究における骨吸収抑制剤ビスフォスフォネートの抗腫瘍作用に関して,骨吸収抑制作用が最強のzoledronateと窒素非含有ビスフォスフォネートのetidronatの併用投与により,zoledronateの抗腫瘍作用をetidoronateが抑制したことを明らかにした.また,顎骨壊死モデルマウスの作製に関しては,マウス顎骨では作成が困難と考えられた.
著者
新堀 雄一 千田 太詩
出版者
東北大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では、地層処分システムのコンパクト化を目的として、マイクロフローセルや充填層を用い、また、セメントの溶出による高アルカリ地下水の存在をも想定し、再冠水過程の特徴を整理した。その結果、再冠水過程は、液相への気相の物質移動速度ではなく、液相側に溶け込むガス成分の拡散や地下水流による液相自体の置換に大きく依存することが明らかになった。また、残留している気相を考慮した地下水流速の分布を設定し、地層処分のガラス固化体1本当たりの必要面積を数値解析により求め、地層処分の占有面積が従来の設定されている面積より1割程度小さくなる場合を示すとともに、今後の課題を整理した。
著者
佐藤 喜根子 片岡 千雅子 佐藤 祥子 桜井 理恵 小山田 信子 高橋 貞子
出版者
東北大学
雑誌
東北大学医療技術短期大学部紀要 (ISSN:09174435)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.101-108, 1998-09-01
被引用文献数
1

教育体験学習妊婦疑似体験
著者
尾辻 泰一 ヴィクトール リズィー 末光 眞希 末光 哲也 佐藤 昭 佐野 栄一 マキシム リズィー 吹留 博一 渡辺 隆之 ボーバンガ-トンベット ステファン 鷹林 将 高桑 雄二 吾郷 浩樹 河原 憲治 ドゥビノフ アレクサンダー ポポフ ヴィチェスラブ スヴィンツォフ ディミトリ ミティン ウラジミール シュール マイケル
出版者
東北大学
雑誌
特別推進研究
巻号頁・発行日
2011

本研究は、グラフェンを利得媒質とする新規なテラヘルツ(THz)レーザーの創出に挑んだものである。第一に、光学励起したグラフェンの過渡応答におけるTHz帯誘導放出の室温観測に成功し、自ら発見したレーザー理論を実証した。第二に、グラフェン表面プラズモンポラリトンの巨大利得増強作用を理論発見し、独自の光ポンプ・近接場THzプローブ分光法により初めて実証に成功した。第三に、独自開発した高品質エピタキシャルグラフェン製膜技術とレーザー素子加工技術を用いて電流注入型グラフェンレーザー素子を試作評価し、100Kの低温下ながら、5.2THzの単一モード発振に初めて成功した。第四に、グラフェンTHzレーザー設計論を構築するとともに、より高利得化が可能な独自構造を理論実験両面から明らかにし、室温THzレーザー発振実現の見通しを得た。
著者
宮澤 陽夫 仲川 清隆 都築 毅 及川 眞一 岡 芳知 荒井 啓行 下瀬川 徹 木村 ふみ子
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2008

生体の脂質は酸化されると過酸化脂質(脂質ヒドロペルオキシド)を生じる。これが細胞や臓器機能の低下、動脈硬化、認知症の要因になることを、化学発光分析、質量分析、培養細胞試験、動物実験、ヒト血液分析で証明した。食品からの、ビタミンE 、ポリフェノール、カロテノイドの摂取は、これらの脂質過酸化を抑制し、老化性の疾病予防に有効なことを明らかにした。
著者
田邉 洋一
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

鉄ニクタイド超伝導体のディラックコーンに特徴的な輸送現象の観測と不純物置換効果を明らかにすることを目的として、Ba(Fe_<1-x>TM_xA_s)_2(TM=Ru,Mn)において磁場中輸送特性の測定を行った。その結果、ディラックコーンの量子極限の出現に起因する線形な磁気抵抗効果を観測した。さらに、非磁性・磁性不純物に対してディラックコーンが安定であることを磁気抵抗効果から観測し、ポテンシャル散乱体による後方散乱が抑制されていることを確認した。さらに、磁性不純物とディラック電子の近藤効果に起因したバンド繰り込みと理解できる有効質量の増大を見出した。
著者
萩野 浩一
出版者
東北大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-04-01

中性子星内部で起こる核融合反応に関して、連星中性子星からのX線スーパー・バーストで重要となる 12C+12C 系の核融合反応の研究を行った。クーロン障壁以下のエネルギーにおけるこの系の核融合反応断面積には複数の共鳴ピークが観測されている。また、最近になり、非共鳴エネルギーにおける核融合反応断面積が 12C+13C 系及び 13C+13C 系の断面積に比べて著しく小さくなっていることが見出された。これらの実験的な事実を説明するために、核融合反応で生成される複合核の準位密度の観点から核融合反応断面積のエネルギー依存性を議論した。具体的には、虚部の強さが複合核の準位密度に比例する光学ポテンシャルを用いて結合チャンネル計算を行い、核融合反応断面積を求めた。このアプローチにより、12C+12C 系でできる複合核は12C+13C 系及び 13C+13C 系でできる複合核より比較的低温状態になること、及び12C+12C 系でできる複合核の24Mg は中性子及び陽子ともに偶数である偶偶核のため準位密度がそもそも小さいこと、の2つの要因から12C+12C 系の核融合反応断面積が小さくなることを明らかにした。この課題に加え、12C+12C 系及び 28Si+28Si 系に対する核融合反応断面積の振動現象を解析した。その際、よく核融合反応断面積に対してよく知られている Wong 公式の拡張を提唱した。これは、Wong 公式で用いられるクーロン障壁に関するパラメータを「かすり角運動量」において評価しエネルギー依存性を持たせるように拡張したものである。この拡張した Wong 公式が量子力学的な求められた核融合反応断面積の数値解をよい精度で再現することを明らかにした。この成果を原著論文にまとめ、Physical Review C 誌に発表した。
著者
ワグナー トーステン
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

本研究の目的は、光アドレス電極(light-addressable electrodes)とlight-addressable potentiometricsensor(LAPS)を融合した新たな測定系を構築する事である。両測定系は光源の移動や形状により関心領域を定義可能であり、本研究は、両者をひとつの測定系として融合させた初めての試みとなった。測定系の構築において、digital light processing(DLP)を照射領域可変の光源として使用し、マイクロ測定チャンバ内において、光アドレス電極によって局所的に生成したpH変化を、LAPSによって検出することに成功した。本研究によって、光アドレス電極とLAPSを融合した新規測定系の有用性と可能性を示すことができ、さらに両測定系のより深い知見を得ることもできた。
著者
高梨 弘毅 YANG Fujun
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

前年に引き続き、B_4Cにスピン注入するための高スピン注入源としてのハーフメタルホイスラー合金薄膜の作製を行った。通常、強磁性材料のスピン偏極率を評価するためには、トンネル磁気抵抗素子などの磁気抵抗から評価するか、アンドレーフ反射やトンネル分光を用いる方法や光電子分光などの方法が用いられる。本研究では、強磁性体の一般的な磁気抵抗効果として知られる異方性磁気抵抗効果(AMR)を用いて、スピン偏極についての情報が得られるのかについて評価した。Co_2MnSiやCo_2FeSi等のホイスラー合金を合金組成や熱処理温度を変化させて作製し、そのAMR効果を系統的に調べた。その結果、Co_2Fe_xMn_<1-x>Si合金薄膜では、x<0.6以下のときにAMR比の符号が負となり、それ以上では正となることを見いだした。古門らによる理論モデルによれば、AMR効果の起源となるsd散乱がs↑からd↑の場合はAMRの符号が負になるが、s↑からd↓だと正になることが報告されている。すなわち、Co_2Fe_xMn_<1-x>Si合金においてはx>0.6において、ハーフメタルギャップ中のフェルミ準位上にd状態が現れるために、AMR効果が正に変わったと推測される。この結果は、第一原理による状態密度計算とも非常に良く一致するものであり、AMR効果からハーフメタル性を検証できる可能性を示唆する成果である。AMR効果は面倒な微細加工プロセスや高度な評価技術が不用な簡便な電気測定で評価できることから、新たなハーフメタル材料探索に応用されることが期待される。
著者
熊谷 龍一
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

本研究では,テストの公平性を担保するアプローチの一つとして,DIF(differential itemfunctioning:特異項目機能)分析を利用した方法について検討を進めた。従来のDIF分析に対して,対象集団数や順序付き多値型項目への対応といった理論的拡張が進められ,分析を実行するためのコンピュータプログラムの開発,公開を行った。さらに,性格検査やうつ評価尺度といった心理尺度,英語教育や日本語教育の現場で広く利用されているcan do statement尺度への適用例を示し,その方法の妥当性を示すことができた。
著者
吉田 正志
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

近世国家の犯罪処理は、決して国家のみによって担われれているのでなく、領民の経済的・労力的諸負担がその不可欠の一環として構成されている。従来の刑事法研究では、このような観点が希薄であった。本研究は、その具体的あり方を仙台藩を素材にして考究し、それらが領民の「役」としての性格をもっていたことを指摘した。1.捜査及び被疑者の逮捕段階城下及び村方それぞれの捜査機関につき新たな知見を得るとともに、同心や目明しが村方に於いて捜査することにより、彼らの宿泊や被疑者の暫定的拘禁が領民に対し負担を強いるものであることを明らかにした。2.評定所への護送段階村方で逮捕した被疑者を審理のため城下の評定所へ護送する際、その宿泊や見張り人、さらには護送人をその道中の宿駅が負担する場合があり、この点も無視できない。3.審理段階藩・領民双方にとって最も関心のある問題は、被疑者を牢に拘禁している間の諸費用を誰が負担するかである。仙台藩で「牢米」と呼ばれるこの制度をはじめて本格的に追究し、さらに五人組の負担の大きさを実証的に示した。また、関係者召喚費用についても検討し、とくに村役人の場合は村の負担として現れることを指摘した。4.刑の執行段階死刑及び晒刑の検討はかつて行ったので、ここでは流刑について考察し、とくに流刑地までの陸路輸送において、その道中宿駅の負担が深刻であったため、天保期に海上輸送に変更されたことを確認した。
著者
西原 大輔
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

Pax6は眼の「マスターコントロール遺伝子」とも呼ばれ、その所以の一つは、ショウジョウバエやアフリカツメガエル胚においてPax6遺伝子やmRNAの強制発現によって異所的な眼の形成が誘導されたという知見によるものである。脊椎動物の場合、眼の複数の組織の正常形成がPax6遺伝子の機能喪失によって乱されることから、Pax6は眼の形成過程で多面的な機能を担っていると考えられている。従って、眼の形態形成過程を理解し、また将来の展開が予想される眼の組織再生に発生学的な知見を活かす上でも、Pax6のin vivoでの機能解析は必須の課題と言える。本研究では、共通の発生起源から形成される網膜色素上皮(RPE)と神経網膜の2つの眼の組織の形成過程に着目し、1)Pax6という1つの因子が、異なる2種類の組織の形成に関わっているかどうか、2)またその過程でPax6がどのような分子メカニズムを介して機能するのかを解析した。解析の結果、1)については、Pax6が実際にRPEと神経網膜の両方の形成を促すことを、一つのin vivo実験系内で観察できた。RPEと神経網膜の発生過程では、それぞれのプロセスを異なる転写因子が動かしている。本解析では、構成的活性化状態のPax6をコードする遺伝子を眼杯に導入することで、Pax6の機能が亢進した場合にRPEと神経網膜のそれぞれで特異的に発現する転写因子の両方が発現誘導されることが分かった。さらに2)について、RPEと神経網膜のそれぞれで働く転写因子の発現誘導が、Pax6タンパク質内の異なるドメインを介して活性化されることも明らかにした。これらのデータはPax6の多面的な機能メカニズムの一端を明らかにするものであり、現在論文投稿の準備中である。