著者
田中 究
出版者
神戸大学
雑誌
神戸大学医学部紀要 (ISSN:00756431)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.337-350, 1997-03

幻覚,特に幻聴は,通常,分裂病を中心に精神病症状の病理を典型的に現すとされているが,外傷後ストレス障害,境界性人格障害,身体化障害,あるいは解離性同一性障害をはじめとする解離性障害など,神経症圏の疾患にみられることもまれではない。シュナイダーの一級症状による鑑別では分裂病とこれらの神経症性の疾患が誤診されることがある。しかし,かれらの幻聴を観察すると知覚性が高く意味性に乏しいこと,幻聴の他者を世界内に位置づけ得ることで分裂病性の幻聴から区別することができる。こうした神経症性の幻聴は観察によれば聴覚性のフラッシュパック,想像上の友人によるもの,交代人格によるものの三種類に分類され,これらの鑑別が診断に結びつく。しかし,これには注意深い観察と面接を要する。また,幻聴を有する神経症圏内の患者には健忘,離人症,現実感喪失,同一性の混乱や変容といった解離症状が認められる。これは心的外傷,小児期の虐待の後遺障害と考えられる。幻聴はこの解離に関係しており,幻聴を持つ神経症患者においては解離症状を疑い,その背景にある心的外傷に注目することが治療の端緒になる。またこうした幻聴には薬物がほとんど無効で治療の中心は精神療法である。
著者
川嶋 太津夫
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

高等教育が量的に拡大し、経済や文化のグローバル化が進展するにつれて、日本のみならず世界各国で高等教育の質に関する関心が急激に高まっている。とりわけ、知識社会の到来は、政府や産業界を大学卒業生の質に関心を向けさせた。大学を卒業して、卒業生は、何を理解し、何ができ、どんな価値観を持つようになっているのか。つまり、ラーニング・アウトカム(学習成果)とそのアセスメントが大きな政策課題となり、OECDのAHELOプロジェクトに代表されるような、アウトカムを重視した高等教育改革が進行することとなった。
著者
伊藤 和彦 中川 成男
出版者
神戸大学
雑誌
神戸大学農学部研究報告 (ISSN:04522370)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.537-546, 1985-01-31

印伝革の素材となる脳漿なめし白革はどのような革か, 走査型電子顕微鏡と光学顕微鏡で皮練維の分離及び脂質の分布状態を観察した。なめし剤となるウシ脳については, 新鮮脳を1年間貯蔵して腐敗させた脳漿について, これらの一般組成と共に, 貯蔵中の酸敗による脂質の変性成分を溶剤分画法によって分離すると共に, 特に低分子のアルデヒド成分についてはガスクロマトグラフィーによって分離同定した。脳漿なめし白革の特性に関しては, この革と類似の姫路白革, セーム革などと比較して, 熱収縮温度, 熱溶脱窒素, 耐酸, 耐アルカリ性, トリプシン消化性などの相違から検討し, 最後に革の機械的強度についても試験を行った。得られた主な結果は次の通りである。1) 脳漿なめし前後のへら掛けの効果が, 皮線維の分離の状態から認められた。2) 新鮮脳と脳漿との比較で, 一般分析, 脂質の特数, 脂質の溶剤分画及びアルデヒドの同定などの結果から, ウシ脳の脂質は酸敗により, 低分子のアルデヒド, 遊離脂肪酸などに変性されているのが認められた。3) 脳漿なめし白革の特性を, これと類似の姫路白革, セーム革などと比較すると, 耐熱, 耐酸, 耐アルカリ, 耐酵素性などから, 姫路白革, 鹿生皮とよく似た性状で, これらの結果からみて, なめしの効果はかなり少ない。印伝革の柔軟性は鹿皮線維の特別な性状とコラーゲン線維束のほぐれによるものであり, 特有の滑る様な感触は脳の貯蔵中に生じたリン脂質分解産物の影響が大きいものと思われる。特に有効な鞣皮成分はなく, 油脂を用いて, 単に機械的に皮線維をもんで柔らかくするのが原始的製革法の一つのあり方である。
著者
寺内 直子
出版者
神戸大学
雑誌
国際文化学研究 : 神戸大学国際文化学部紀要 (ISSN:13405217)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.51-80, 2007-02

Gagaku 雅楽, which is the oldest genre of Japanese traditional music preserved in the Court rituals, has experienced a rapid and drastic change after 1970s. This article will study the new movements of gagaku as artistic music by analyzing the National Theatre's activities in the last four decades and evaluate them in the history of gagaku and western contemporary artistic music. There are three new streams in gagaku for a wider public appreciation after 1970s ; 1) surviving traditional repertoire, which can be found in the standard score Meiji sentei-fu 明治撰定譜 kept by Kunaicho gakubu 宮内庁楽部 (Music Department of Imperial Household Agency) and 'reconstruction' of the lost pieces, 2) collaborative works with western artistic music ; and 3) a fusion with pop music. Kokuritsu gekijo 国立劇場, or National Theater Japan, produced a series of Gagaku kouen 雅楽公演, or gagaku concerts, as one of the important programs, in which 'reconstruction' of ancient pieces and instruments have been staged as well as the traditional (classical) repertoire since its open in 1966. Gagaku concerts tried various new experiments under the name of 'reconstruction' and made a great contribution to the development of contemporary artistic music, as opposed to the generally accepted image of gagaku such as 'eternal classics' or 'noble unchanged music'. This paper will clarify how Theater's gagaku concerts have provided an important place for collaborative creation of traditional gagaku and western avant-garde music, focusing on the contents of and the producer's intention for the 'reconstruction' project of the Theater.
著者
三上 剛史
出版者
神戸大学
雑誌
国際文化学研究 : 神戸大学国際文化学部紀要 (ISSN:13405217)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.93-116, 2007-12

The purpose of this paper is to clarify the sociological significance of "Liebe als Passion" written by Niklas Luhmann. Luhmann, a sociologist, is known for having opened up a new type of systems theory. Though he wrote many enlightening books, reference is rarely made to "Liebe als Passion" in sociological research. On the one hand, as love research, this book was probably too complicated. On the other, it was peculiar as a practical example of systems theory. But Luhmann himself considered this book central to his work. Indeed, this book might be rather eccentric as love research. However Luhmann's study of love is highly suggestive when forecasting future society and the relations between individualized persons. There are many points in this work meriting study especially with regard to the nature of individualized consciousness.
著者
神野 雄
出版者
神戸大学
雑誌
神戸大学発達・臨床心理学研究
巻号頁・発行日
vol.14, pp.18-28, 2015-03-31
著者
深尾 隆則
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2005

1. 屋外型飛行船システムの構築初年度購入した全長12mの屋外型飛行船にGPS,IMU,風速・風向センサを装着し、組み込み型の小型計算機などにより自律飛行船ロボットに必要なシステムの構築を行っているが、今年度は送受信機系の信頼性を高める改修を行った。2. 実地試験8月初旬から4週間を北海道大樹町の多目的航空公園で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の協力の下、実機実験を行った。今年度は特に、高度維持制御に関する実験を集中的に行い、旋回時や風が強い時に見られたピッチングの変動が抑えられ、また支持した高度への移動も可能になった。3. データ解析、シミュレータ構築空力特性に関する理論モデルの構築を行った。これは風洞試験なしで飛行船モデルを構築するためであり、将来の飛行船開発に役立つものである。また、JAXAの協力下で、実機実験により得たデータを用い、比較検討を行った。さらに、この理論モデルや風の理論モデルを導入した飛行船シミュレータの作成を行った。4. 情報収集システムの開発画像情報収集システムに関しては、ステレオカメラを回転させる回転型ステレオカメラを考案し、建造物などを高解像度に撮影できるシステムを開発した。収集された情報の多さなど、通常のステレオシステムよりも非常に有効な情報収集手段であることが明らかとなった。
著者
寺崎 正啓
出版者
神戸大学
雑誌
鶴山論叢 (ISSN:13463888)
巻号頁・発行日
no.9, pp.83*-97*, 2009-03
著者
五百籏頭 真 品田 裕 久米 郁男 伊藤 光利 中西 寛 福永 文夫
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

本研究は、宏池会(自民党池田派の系譜)に関する資料収集・インタビューを行い基礎資料を整備すると共に、分担者による研究、報告および議論、論文の執筆を行ってきた。1 資料収集およびインタビュー 宏池会研究の基礎的データの最終的な整理完成が本年度の第1の成果である。宏池会所属議員の役職、経歴、選挙などのデータを収集し、利用可能な形にデータベース化した。このデータに基づき、宏池会という派閥がいかなる特性を持つものかが分析された。また、前年度までに収集された宏池会機関誌「進路」の記事データを整理し解題を行った。また宏池会を解明するためのインタビューを行った。本研究代表である五百籏頭教授は、宮沢喜一元総理に対するインタビューに加えて、非宏池会政治家である中曽根康弘、橋本龍太郎両元総理などへのインタビューを行い、その結果を研究会でメンバーと共有することを行った。また、伊藤昌哉氏、神谷克己氏、桑田弘一郎氏、田勢康弘氏、松崎哲久氏、長富祐一郎氏、畠山元氏、森田一氏らを研究会に招いて聞き取りを行った。また中村隆英先生からは経済史に関し貴重なお話しをいただいた。2 研究報告 分担者である品田、福永が、宏池会系政治家の特性を解明する分析を行った。そこでは、宏池会系議員の部会所属が池田時代以降徐々に変化してきたことが明らかにされた。村田は、宏池会系政治家から防衛庁長官が輩出しているという事態の政治的意味を分析した。中西、久米は、宏池会の経済政策の分析を行った。中西の分析は、池田内閣の政策的ブレーンであった下村治の経済思想を政治学的に分析するものである。久米は、池田内閣期と佐藤内閣期の経済財政政策の策定を実証的に検討し、アイデアの政治という観点から分析を行った。五百旗頭は、これらの分析をふまえつつ、宏池会という政策色の強い派閥が戦後日本にとっていかなる意味を持ったのかを考察した。3 成果発表 以上の研究成果は、PHP出版から年内に研究書として公刊される予定である。