著者
天畠 大輔
出版者
立命館大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

科研研究の最終年である今年度は、博士論文のデータ収集だけでなく分析枠組み作り、分析、そして考察執筆に着手した。博士論文では、アウトプットが困難な重度障がい者と介助者との関係性に焦点を当てるため、不足するデータを補う為に追加インタビューも実施した。具体的には、兵庫県に在住したS氏とその介助者への聞き取り調査を4月に実施した。これと並行して、今年度の研究目的の一つであるアウトプットが困難な重度障がい者を支援する支援機器について、国内外の情報を収集・整理した。具体的には、他者と円滑に意思疎通ができる手段として注目される「BMI(Brain-Machine Interface)」の最新技術と臨床現場を知る為にフランスのロックトインシンドローム協会を訪問し、専門家および患者家族へのインタビューを行った。これは、脳と外部機器を直結して意思疎通を可能にする最新技術である。医療技術の進歩によって脳障害をおった患者の生存率は上がった。しかし、回復後のコミュニケーション支援は不十分であることもわかった。本研究の意義は、コミュニケーションが困難な障がい者が生活するために「通訳者」の養成と制度化、および支援機器が行き渡ることが急務である事を明らかにした点である。この点が大きな社会的意義があると言える。
著者
二宮 周平 田中 通裕 村本 邦子 渡辺 惺之 櫻田 嘉章 中野 俊一郎 佐上 善和 渡辺 千原 山口 亮子 松本 克美 立石 直子 松村 歌子 廣井 亮一 酒井 一 織田 有基子 長田 真理 高杉 直 北坂 尚洋 黄 ジンティ 加波 眞一 樋爪 誠 中村 正 団 士郎 佐々木 健 松久 和彦
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

家事紛争の中でも未成年の子のいる夫婦の紛争は、当事者の葛藤の程度に応じて3段階に分けることができる。葛藤が低い場合には、情報の提供や相談対応で、合意解決の可能性があり、中程度の場合には、家裁の家事調停において、調停委員や家裁調査官の働きかけによって合意解決の可能性がある。DVや児童虐待など高葛藤の場合には、家裁の裁判官が当事者を説得し、再度の和解や付調停により合意解決を図るとともに、監視付き面会交流など公的な場所、機関によるサポートや養育費の強制的な取り立てなど裁判所がコントロールする。当事者の合意による解決を促進する仕組みを葛藤の段階に対応して設けることが必要である。
著者
園田 耕平
出版者
立命館大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

本年度において国際動物行動学会(Behaviour2015)で行った研究発表は、オカヤドカリが貝殻の大きさを知覚するのに慣性モーメントを用いていることを明らかにした実験についてである。これは、無脊椎動物であるオカヤドカリが人間と同様に、「ダイナミックタッチ」を用いて身体の大きさを知覚していることを示唆するものである。以下、その意義についての説明である。これまでの研究により、ヤドカリが貝殻の大きさを知覚できることが明らかになった。これは人間における「車体感覚」に近いと考えられる。生態心理学においては自動車を用いた通過可能性[Shaw 1995]に関する実験が行われたが、申請者が行ったヤドカリの実験と直接に対応するだろう。車体感覚は日常経験からもわかるが、その知覚基盤は解明に至っていない。しかしながら、生態心理学のダイナミックタッチ[Turvey 1995]が有力な候補と考えられる。この概念は手に持った物体を振り、その振り方によらない普遍的な知覚情報として慣性テンソルを参照し、物体の形状を知覚するものである。そして、自動車の形状を広義のダイナミックタッチで知覚していることが考えられる。ヤドカリも貝殻を後脚で保持しており、歩行による振動を通してダイナミックタッチにより貝殻の形状を知覚しているといえる。本研究は、その可能性を実験的に示したものであり、動物行動学ならびに心理学において重要な成果といえる。
著者
中谷 友樹 矢野 桂司 井上 茂 花岡 和聖 伊藤 ゆり 田淵 貴大 埴淵 知哉
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の目的は(1)日本社会を対象としたADI指標(地理的剥奪指標)の提案と、(2)小地域(近隣地区レベル≒町丁字スケール)におけるADIと健康指標との関連性を近隣環境要因の媒介に着目した評価、の2点である。ADIについては、貧困・剥奪に関連した国勢調査の小地域統計資料を利用して算出し、各種の健康指標との関連性を分析した。結果として、主観的健康感やがんの生存率など、各種の健康指標の悪化と地理的剥奪の高さとの関連性を報告し、その背景となる近隣環境との関係を考察した。これらを通して、健康の地理学における学際的研究の推進とともに、日本における小地域統計を利用した統計の高度利用について検討した。
著者
矢藤 優子 孫 怡 安梅 勅江 安田 裕子 吉 げん洪 Park Joonha
出版者
立命館大学
雑誌
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
巻号頁・発行日
2020-10-27

本研究は日本・中国・韓国3ヵ国における社会心理学・発達心理学・臨床心理学の研究者と連携し,多様な研究手法を用いた大規模な文化比較研究を通じて, 1)就労女性の産後復帰の実態および早期育児支援,養育スタイルのあり方を比較し,2)3ヵ国において異なる育児支援・養育スタイルが社会・家庭・個人要因と絡みながら,親子のwell-beingおよび乳幼児の発達に影響を及ぼすメカニズムを解明,3)各育児支援スタイルの利点と欠点および文化差を明らかにした上で,働く母親に有効な育児サポートと支援策を提供し,女性の就労・育児の両立,および子どもの健やかな成長に貢献することを目指す。
著者
織田 康孝
出版者
立命館大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2015-04-24

今年度は、戦中から戦後の連続性をキーワードに日本・インドネシアの関係に着目し研究を行った。具体的にいうと、戦中において軍政に関わっていた日本人、とりわけ清水斉(元第十六軍宣伝部所属)の戦後の動向、彼が設立した日本インドネシア文化協会の役割、スカルノの動向の三者を軸に考察したものである。戦後においてスカルノは「革命」の名の下インドネシア国内における自らの地位・正当性を表現しており、反オランダ活動を展開していた。彼の反オランダ活動は政治的・経済的両側面より展開された。まず、政治的側面においては、オランダの手中にあった西イリアンをインドネシアに返還するよう求め、経済的側面では、オランダ資本を追い出し、それらを自国民族の資本に変更することを遂行した。このスカルノの政策は、インドネシア国内を困困窮の道へと導いてしまう。そこでスカルノは、戦後賠償を紋切りに日本から経済協力を引き出すのであった。その際彼は軍政期の話を持ち出し、日本=兄、インドネシア=弟といったいわゆる「大東亜共栄圏」的発想で日本からの援助を求めていくのであった。しかし、オランダ資本に代わり、外国資本である日本資産がインドネシア国内に入ってくることでスカルノの同政策は自身の正当性を担保しきれないものとなっていく。この状況を打破していくのが日本・インドネシア文化協会であった。その設立者である清水斉の論考をみると、軍政期の日本中心的な考えを否定し、かつ、スカルノ政権では西イリアン問題が非常に重要な問題となっているので、同協会を利用し西イリアンの解放運動までも行おうと試みていたのである。これがインドネシア国営通信社であるアンタラ通信にて報道され、インドネシア国内にも認知されるようになった。これらの活動が当該期における日本・インドネシアの関係において潤滑剤となっていたことが推察できる。以上が今年度の研究実績である。
著者
陳 根発
出版者
立命館大学
雑誌
立命館国際地域研究 (ISSN:09172971)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.25-36, 2013-10