著者
石井 健一
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

2005年に上海、2006年に北京および口本でアンケート調査を実施し、同時に人民日報と朝日新聞の内容分析を通して、中国のナショナリズムに関して次のようなことが明らかになった。まず、共産党が宣伝をしている愛国主義的英雄は中国人(特に高齢者)の間に浸透していた。しかし、若者の間では浸透は低かった。しかし、愛国主義教育の効果については明確な証拠は得られなかった。年齢が低いほど、また学歴が高いほど愛国心が低い傾向があった。心理尺度を用いて分析した結果、愛国心と自民族中心主義は、異なる変数として区別する必要があることがわかった。また、前者は生活満足度と正の相関があるのに対して後者は負の相関があり、両者には異なる心理的なメカニズムが背後にあることを示唆している。若者は高齢者よりも反日意識が弱い。一方、日本でも同様に若者は反中意識が弱く、この点は日中で共通であった。上海での調査からは、上海の反日デモにおいて、デモ関連の情報は、新聞やテレビではなく、インターネットや携帯電話によって伝えられたことがわかった。また、ナショナリズム意識の心理的背景として、経済発展した中国への自信や中国文化への自信があるようである。また、反日意識が日本の製品を避けるという意味での影響を持つことがわかった。ただし、通説に反してインターネット接触が、反日意識を高めるという影響も認められなかった。新聞報道の内容分析からは、2005年の新聞報道は、日中関係を歴史認識との文脈で多く取り上げているこがわかった。また、日本でのアンケート調査の結果からは、日本人の反中意識も、メディア接触の量によっては説明することはできないことがわかった。今後はこれらの分析を精緻化するとともに、調査データの分析だけでなく、時系列変化を考慮に入れた日中間の相互的な影響過程をモデル化することが必要である。
著者
中尾 憲司
出版者
筑波大学
雑誌
筑波フォーラム (ISSN:03851850)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.101-104, 2001-03

白川英樹名誉教授が昨年の3月まで奉職されていたのが物質工学系というためであろうか、学系長の私に白川先生のノーベル化学賞受賞について何か書くようにとの依頼があった。既にこのことに関連した多くの文章が出ており、 …
著者
葉山 大地
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本年度は,冗談に対する聞き手の反応(迎合的反応,回避的反応,感情表出反応)と冗談の不達の関連を検討した。まず,大学生203名を対象として,日常生活において,つまらない冗談や怒りを感じる冗談に対する反応傾向が過激な冗談(聞き手の外見や悩みをからかう冗談や性的・倫理的タブーを含む冗談)を友人から言われる頻度に及ぼす影響を検討した。その結果,迎合的反応と感情表出反応をする頻度が多いと,過激な冗談を言われる頻度が高まることが示された。次に,大学生417人を対象として,日常生活で,怒りを感じる冗談に対する反応傾向を規定する要因として,パーソナリティ要因(拒否感受性),動機づけ要因(個人志向性・社会志向性)を取り上げ,その影響を検討した。その結果,個人志向性が高くなると,迎合的反応の頻度を低下させる一方、回避的反応の頻度を高めることが示された。また,社会志向性が高くなると、迎合的反応の頻度を高める一方、回避的反応をする頻度を低下させることが示された。拒否感受性が高くなると,迎合的反応の頻度を高める一方、感情表出反応の頻度を低下させることが示された。迎合的反応をする頻度が高いと,自尊心が低いことが明らかとなった。さらに,冗談に対して怒りを感じた場面を取り上げ,聞き手の反応が状況的要因(話し手との関係性,周囲の友人の反応)や拒否感受性によってどのような影響を受けるのかを場面想定法によって検討した。その結果,拒否感受性が高い回答者は,親友が話し手で,かつ周囲の友人が笑っていない状況において,迎合的な反応を行なわないと評定することが示された。冗談の聞き手に関する研究はほとんど行われていないため,本研究により,聞き手が迎合的反応をすることによつて冗談の不達が起こる可能性が高まるという知見や,冗談に対する聞き手の反応が状況要因やパーソナリティ要因によって異なるという知見が得られた点は,意義があるといえる。
著者
本田 靖 西保 岳 鍋倉 賢治
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

地球温暖化の進む今日、夏期スポーツ時の熱中症等への安全対策を含めて、暑熱環境に対する順化のメカニズム速やかに順化する方法開発への期待が高まっている。本研究では、体温上昇時の体温調節と換気亢進反応に着目して、そのメカニズムとトレーニング効果、過去の生活環境の影響に関して検討した。得られた結果は、1)安静時および運動時における、体温上昇に伴う換気亢進割合と体温上昇に対する前腕血流の増加割合との間の関係は、安静時と運動時の両条件にいて見られること、また、最大酸素摂取量と安静時及び運動時に得られた換気亢進割合の大きさおよび前腕血流の増加割合との間にも有意な相関関係がみられ、体温上昇に伴う換気亢進割合は、暑熱耐性を評価する際の新しい生理学的指標となる可能性が示唆された。2) 7日間の暑熱トレーニングによって、皮膚血流量増加に関する体温調節反応は顕著な向上が見られたが、体温増加に対する換気亢進反応に対しての効果は見られなかった。3)安静時において、体温上昇時の換気亢進反応に対する末梢化学受容器の貢献度は2割程度であること、体温上昇時の換気亢進に伴う血中二酸化炭素分圧の低下は、換気反応には影響しないが、脳血流量には影響すること(体温上昇時の脳血流量低下の3割程度を説明する)が示唆された。4)過去の生活環境や運動経験と現在の暑熱反応との間で有意な関係は見られなかった。その理由の一つは対象集団がやや小さいこと(40名),もう一つは対象者のほとんどがスポーツを日常的い行っており,ここ数年あるいはそれ以上の間,暑さに対してのトレーニングを積んでいるために差が検出しにくくなっていたことが考えられる.
著者
松井 健一 増田 美砂 杉藤 重信 伊藤 太一 渡邉 和男 西川 芳昭
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

環境ガバナンスに資するデータベースの概要を研究代表者が管理するウェブサイトに構築するとともに、伝統知とその法的問題点について査読入り学術図書1冊と当該課題に関する査読入り学術論文を4本出版した。学会発表は7回行った。また、毎年著名な研究者を筑波大学と国連大学高等研究所へ招へいし、シンポジュウムと研究者交流を行い、オーストラリア、カナダ、アメリカ、ドイツ、インド、ブラジルの研究者との共同研究へとつなげることができた。当該課題に関する修士論文を3本主査として指導した。
著者
白木 賢太郎
出版者
筑波大学
雑誌
筑波フォーラム (ISSN:03851850)
巻号頁・発行日
no.79, pp.60-61, 2008-03
著者
牧野 昭二 ルトコフスキ トマシュ 宮部 滋樹 寺澤 洋子 山田 武志
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本プロジェクトでは、人が音の空間性を認識するときの脳活動に着目し、基礎研究を行なうとともに、このような空間性を有する音の聴取時に観察される特徴ある脳活動を利用したブレインマシンインタフェースの開発を行なった。今年度は、空間聴覚刺激に対する事象関連電位の統計的特徴に基づいた電極と潜時の選択手法を提案し、識別率を向上させた。音の出力法の試みでは、スピーカによる実音源と仮想音源でP300反応に個人差があること、視覚刺激より振幅が小さいこと、頭部伝達関数を利用した空間聴覚刺激が後頭部にP300を誘発させることを確認した。
著者
渡邊 淳也
出版者
筑波大学
巻号頁・発行日
2003

【要旨】
著者
倉持 将也
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2023-04-25

異常気象の理解と予測精度向上に向けて、冬季東アジアモンスーン変動機構の解明を目的とする。冬季東アジアモンスーンの一翼を担うアリューシャン低気圧に着目し、全球再解析データを用いて、その変動性や日々の移動性低気圧との関連について解析を行う。等温位面で定義される対流圏中上層のラグランジュ的運動を記述する上層暖気質量フラックスに関する定式化と力学構造の解明を進めた上で、アリューシャン低気圧変動の解析への適応し物理過程を考察する。また、熱帯海洋大陸付近の積雲対流活動によって強制される遠隔影響パターンについて、季節内スケールで移動する積乱雲群との関係についてデータ解析および数値実験から明らかにする。
著者
吉本 尚
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2023-04-01

本研究の目的は、生活習慣病のリスクを高める量の飲酒を行っている過剰飲酒者に対して、微アルコール飲料の提供でアルコール摂取量が減るのかを介入試験で検証することである。過剰飲酒は危険な飲酒パターンの一つであり、生活習慣病以外にもアルコール依存症、がんなどの慢性的な健康障害が惹き起こされる。本研究では、地球規模課題である過剰なアルコール摂取の改善を図るための有用な資料を世に提供することで、政策提言を含む効果的な対策を行うことが可能となる。新型コロナ流行に伴い、飲酒量の増加とアルコール関連問題の増加が世界中で確認されており、本研究のテーマは非常に重要であり、かつ喫緊の課題と考えられる。
著者
大林 太朗
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究の目的は、関東大震災(1923年)からの復興に向けた日本のスポーツ界の対応を明らかにすることであった。文献資料(文書、雑誌、新聞等)の収集・分析を通して、震災直後に大日本体育協会(現在の日本スポーツ協会・日本オリンピック委員会)が帝都復興院・東京市当局に対して提出した「願書」の内容や、各大学の運動部学生による復興支援活動・チャリティマッチの記録、さらには上野公園における被災者(主に避難民)を対象とした「慰安運動会」の内容と文化的特徴が明らかとなった。
著者
滝沢 誠 菊地 吉修 渡井 英誉 佐藤 祐樹 笹原 芳郎 笹原 千賀子 田村 隆太郎 戸田 英佑
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究では、伊豆半島における前期古墳の調査をつうじて、半島基部に形成された古墳時代前期の政治拠点と東日本太平洋岸域における広域的なネットワークとのかかわりについて検討した。あらたに確認された瓢箪山古墳(前方後円墳)の発掘調査では、同古墳の立地や墳丘構造が伊豆半島の基部を横断する交通路を強く意識したものであることを明らかにした。また、同古墳が築かれたとみられる古墳時代前期後半には、周辺域において集落規模の拡大や外部地域との交流が活発化する状況を把握することができた。これらの成果をふまえ、古墳時代前期後半には、伊豆半島基部の交通上の役割が高まり、その拠点的性格が顕在化したものと結論づけた。
著者
山海 嘉之 京藤 康正 安信 誠二
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

歩行障害者(要歩行リハビリ者、寝たきり高齢者、脊髄損傷者)の方を対象として、自律制御およびパワーアシスト制御の両機能を有する超軽量外骨格系パワードスーツに組み込み障害の程度(筋力の個人差やリハビリ状況)に応じて適応的かつ自律的装着者と協調して歩行支援を行なうパワードスーツを開発することを目的として、研究を実施し以下のような研究成果を得た。現時点で世界最新鋭のシステムである。1)本パワードスーツを軽量化のため部分的にシェル構造として製作し、完成度の高いメカニカルシステムとすることが出来た。2)完全自立システムとするために、搭載型小型コンピュータのオペレーションシステムをRT-Linuxで構築し、安定かつ信頼性の高い計測・制御系を開発する事ができた3)運動学的・機構学的観点からシステム設計を実施するため、シミュレータを用いて適応的運動制御系の検証および制御アルゴリズムの実装を行った。4)人間の意思を反映したシステムであることが求められる為、新たなアルゴリズムを開発するとともに、カセンサ、筋電信号(EMG)、COGセンサによる自律制御系およびパワーアシスト系が混在する複合システムを構築し、実験によりその有効性を示すことが出来た。5)予測制御を組み込み、更に、人間との親和性を高めるため、人間の動作パターンのデータベース化を行い、これを用いた自律・パワーアシスト複合系を開発することができた
著者
下條 信弘 山内 博 熊谷 嘉人 吉田 貴彦 相川 浩幸 石井 祐次
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

【目的】砒素は自然界に存在し、地下水等への浸入に由来する生体影響が懸念されている。特にアジア諸国のうち、中国やバングラディシュ等では高濃度の砒素を含む地下水汚染が頻発している。砒素を高濃度含んだ井戸水の慢性飲水により手足の角化症や皮膚の色素沈着、脱失等の砒素中毒症状を呈する。そこで我々は、中国内モンゴル自治区の飲水型慢性砒素汚染地域において、飲料水の改善による慢性砒素暴露住民の砒素中毒症状の回復等について調べた。【方法】中国内モンゴル自治区包頭市の慢性砒素汚染地域住民50名(男性22名,女性28名)を対象とした。これらの住民に対して中国の環境基準以下の砒素を含んだ井戸水を1年間供給した。【結果・考察】飲料水改善前の砒素暴露住民の8割程度が手足の角化症や皮膚の色素沈着、脱失等の典型的な慢性砒素中毒症状を呈していた。尿中無機砒素濃度は39±53μg/g of Cr.だった。しかし介入研究1年後に対象住民の尿中無機砒素濃度を測定した結果、介入前のそれの19%まで低下した。一方、無機砒素の代謝物であるメチル化体の生体内濃度は改水前と後では、有意な差は認められなかった。砒素中毒患者の約半数以上が角化症や皮膚の色素沈着、脱失の改善が観察された。また、慢性砒素暴露により、低下した生体内一酸化窒素濃度も改水により約2倍上昇することも明らかとなった。以上から、飲料水改善により慢性砒素暴露による砒素中毒症状は回復することが示唆された。
著者
飯田 崇史
出版者
筑波大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2022-04-01

ニュートリノを放出しない二重ベータ崩壊が発見出来れば、ニュートリノの粒子-反粒子同一性(マヨラナ性)が判明し、物質優勢宇宙の謎に決着がつく。二重ベータ崩壊は、通常のベータ崩壊がエネルギー、スピンにより禁止・抑制されている特定の原子核でのみ観測可能である。核種による遷移確率(核行列要素)の理論的不定性もあるため、様々な原子核で実験することが必要となる。本研究では、既存の技術を応用して大型かつ高純度のCe:Gd3(Ga,Al)5O12(GAGG)結晶を開発し、それを用いてGd-160の二重ベータ崩壊探索の研究を高感度で行う。
著者
岡 瑞起
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

コンピュータシステムで集積された情報の分析結果を,セキュアシステム構築のために活用するためには,結果をユーザに分かりやすく可視化して提示することが必要不可欠である.可視化する際に重要な要素である「色」に注目し,画像に使用されている色の組み合わせが自動的に調和的に変更する技術の開発を行った.既存の手法では,画像の色を変更した際に,大域的な色の整合性が保たれないという問題があり,色の具合に不自然さが残るという問題があった.この問題を解決し,より大域的な空間整合性を確保する手法の提案を行った.この成果は,電子情報通信学会論文誌に採録された.また,Microsoft Research Asia(MSRA,北京)にて6ケ月間の研修を行い,セキュリティ強化のために一般に広く使用されているユーザ認証技術に関する研究を行った.ユーザ認証技術としてユーザの自由な描画(スケッチと呼ぶ)を用いた認識技術を提案した.スケッチをしてもらう絵を用いる,という新しいアイディアの提案を行った.システムのユーザビリティを高めることを第1の目的とし,ユーザが署名を書くときのように絵を書いてもらっても高精度に認識できる方向性パターンという特徴を用いた.方向性パターンとは,スケッチを画像として扱い,検出されるエッジをいくつかの方向に量子化した特徴を指す.方向性パターンを特徴として用いることにより,スケッチの揺らぎを吸収し,精度よく認識を行うことが可能となることを実験データにより示した.この成果を米国特許として申請中(2008年4月現在)である.
著者
綾部 早穂 山田 一夫 青木 佐奈枝 一谷 幸男 松井 豊
出版者
筑波大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

3つのアプローチからにおいのトラウマ記憶を探求した。臨床心理士への面接調査から、五感に示されるPTSD症状で、嗅覚に関する症状は当事者・治療者ともに認識が低いこと、味嗅覚は特定の被害とは結びつかないが、フラッシュバックで体験されることが示された。人間のにおい嫌悪条件づけ実験では、条件づけられたにおいへの主観的不快感には変化はなかったが、連続提示した場合に強度減衰が生じにくいことが示され、不快臭に対して注意が継続的に向けられることが示唆された。また、PTSDモデル動物に関しては、無臭の装置にラットを入れ、その後においと電撃を対提示した場合でのみ、においに対する恐怖反応がみられ、方法を確立した。