著者
大矢 俊明
出版者
筑波大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

本奨励研究では,ドイツ語における能格構文(1a,b),中間構文(2),結果構文(3),非人称構文(4)の考察を通じ,ドイツ語では外界をどのように切りとって統語構造にとりいれているのか,具体的には外項ないし内項の選択の根底に潜む認知意味論的原理を明らかにしようと試みた.(1)a.Die Tur offnet sich.ドアが開く b.Das Eis schmilzt.氷がとける(2)Zur Front marschiert es sich noch schwieriger.前線に進軍する方がより困難である(3)Es schneit das Auto zu.雪が降って車が埋まる(4)Das Auto schneit zu.雪が雪に埋まるまず,自発的事態をあらわす(1)であるが,a.では再帰代名詞が用いられているのに,b.では自動詞が用いられている.この相違は事態が外部からのエネルギー(=動作主)がなくても生起可能であるかという点から捉えることができる.すなわち,氷は自然にとけていくことは容易に想定できるが,ドアは放っておいても開くとは考えにくい.すると,ドイツ語では「開ける」という他動詞が基本にあり,「開く」という自発的事態の表現に生起する再帰代名詞は,その主語である動作主の代わりとして具現していると想定できる.また,(2)で用いられている移動様態動詞には方向規定詞が付加されており,このような動詞は(1)と同様に非対格性を有すると指摘されることがある.しかし,一般に非対格動詞からは中間構文を形成することはできず,ドイツ語では移動様態動詞は非能格動詞であると考えられる.この根底には,事態を統御することができる実体は常に外項として,また事態に否応なく巻き込まれてしまう実体は内項として投射されるという規則があると仮定できる.そのため,(3)のような非人称動詞の主語は真の外項としての条件を満たさず,(4)のように非対格動詞に期待される結果構文の形成が可能になると考えられる.
著者
加納 千恵子 衣川 隆生 小林 典子 酒井 たか子 小野 正樹
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

非漢字圏学習者の漢字語彙処理能力を字形識別力、意味理解力、読み処理能力、書き処理能力、用法処理能力、音声処理能力などの観点から測定するための標準テストを開発した。平成12年度は、筑波大学留学生センター及び米国カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)において予備テスト(第1版テスト)の実施・検討を行い、本テストに関する資料を準備し、次年度以降のテスト実施に協力してくれる機関、教育関係者に連絡を行った。平成13年度は、本テスト(第2版テスト)を完成し、筑波大及びUCSDにおいて実施、受験者のデータを収集した。また、テスト資料および実施マニュアルを作成し、本研究の協力校として米国ハワイ大学の日本語教育担当者に配布、3月に打合せと研究成果報告を行った。平成14年度は、第2版テストの結果の分析・考察を行って標準化を図り、その研究成果を米国カリフォルニア大学サンディエゴ校で7月11日〜14日に開催された第3回「日本語教育とコンピュータ」国際会議『CASTEL/J2002』において発表した。またその成果に基づいて、テスト問題の形式、内容を修正・改訂し、WEB上で受験可能な漢字語彙力測定テストのプロトタイプ版(第3版テスト)を完成した。そして筑波大の日本語コースにおいてこのWEB版テストを実施し、受験データを収集した。さらに、3月に韓国の慶熙大学校国際教育院を訪問し、現地の日本語教育関係者との意見交換および情報収集を行って、テスト受験者として想定している非漢字圏学習者の中に韓国人学習者を含めるかどうかを検討した。平成15年度は、WEB版テストの外部公開を目指し、筑波大においてさらに受験データを収集、テスト画面および内容の改善を行った。WEB版(プロトタイプ版)漢字語彙力測定テストは、海外の協力機関においては動作環境の確保が難しくまだ実施できていないが、最終年度に当たり、研究成果報告書および「受験のためのマニュアル」資料を作成して印刷した。
著者
小場瀬 令二 斎尾 直子 吉田 友彦 吉田 友彦
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

筑波研究学園都市はTXの開発により、中心地区は再び活性化したが、開発当初のニュータウンの環境的ストックを食いつぶす超高層大規模マンションが乱立する結果となった。他方駅勢圏から遠い超郊外住宅地においてTX効果はない。今後、持続性を保持していくには、住環境の維持を手がける組織の立ち上げが必要であり、そうでないとすでに衰退の段階に突入しており、現状のままであれば持続性はない
著者
角田 延之
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

今年一年間の研究を通して、明らかになったのは以下のことである。まずフランス革命におけるフェデラリスムのディスクール分析を行う上で当然重要となる「フェデラリスム」という語そのものは、研究対象地域であるマルセイユの各革命勢力によっては、ほぼ使用されていない。「フェデラリスム」はマルセイユにとっては他者の言葉であった。次に、先行研究は、いわゆる「フェデラリストの反乱」を起こした諸セクション集会にとっての重要な理念は「人民主権」であるとしているため、諸セクションのみならず、対抗勢力であるクラブについても「人民主権」および「国民主権」の理念についての調査を行ったが、双方の勢力による語使用に顕著な差異を見出すことはできず、反乱を起こした諸セクションのみに「人民主権」の理念を負わせることは正当ではないことが明らかとなった。そこで、両勢力の地域意識を調査するために、「マルセイユ」、「マルセイユ人」、「パリ」、「パリ人」、「フランス」、「フランス人」の6つの語彙について、詳細に使用状況の調査を行った。その結果、地域主義は存在したが、それは即座に反乱に結びつくものではなかったことがわかった。現地で収集した一次史料の調査は以上であるが、この分析を導くにあたっては、既存の革命史研究が大いに参考になった。例えば、解説付きの国王裁判議論集は、人民への判決の委託、いわゆる「人民上訴」が、敵対勢力に抵抗するための戦術的方便であるという認識を与えてくれた。ゆえにマルセイユのジャコバン・クラブの、「人民上訴派」への態度は硬化したのである。また逆に、リン・ハントの『人権を創造する』からは、革命期には様々な対立がありながらも、各勢力は絶えず融和の道を探っていたことへの着想を得た。地方史を研究する上では、地方ごとの差異、中央との敵対、という側面が強調されがちであるが、共通点も踏まえて考察しなければ一面的なものになるのであり、そのような認識を導くのは常に様々な先人による諸研究の読解であることを改めて認識することができた。
著者
首藤 文洋
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

ヒトに心地よさを感じさせる音を被験者に提示すると、被験者の前頭葉酸素ヘモグロビン量の変動が相対的に小さくなる。被験者はその音を「気分がよい」と評価したと考えられる。これらの音のうち、川のせせらぎの音をマウスに提示すると、情動に深く関与するセロトニンやノルアドレナリンの脳内濃度が変動していた。これらのことは音刺激には本能システムにはたらくことで心地よさを感じさせる脳機能メカニズムに作用するモノがあることを示唆しており、これらの音を使うことで多くの人が安らぎを感じられる音環境が設計できる可能性が示された。
著者
仲澤 眞
出版者
筑波大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

プロスポーツ観戦者のセグメントマーケティング戦略の策定に有効な情報を開発するために、日本プロサッカーリーグの公式戦(平成11年、平成12年)及び第3回FIFA女子ワールドカップ大会(平成11年)の観戦者を対象とした社会調査を実施した。観戦者のセグメントファクターとして、ジェンダー、観戦動機、観戦歴、観戦頻度、組織化の有無、競技会場の立地、競技会場の収容規模などの有効性が示唆された。各々のファクターについて、マーケティングレコメンデーションを含め、論文化を進めた。一方、それらレコメンデーションのフィジビリティースタディーとして、2つのプロサッカークラブのマーケティング担当者と共同で、いくつかの試験的な事業を行った(平成12年)。日本プロサッカーリーグの観戦者調査からは、Vicarious Achievement、Drama、Community Attachement、Player Interest、Team Interestの観戦行動に関係の深い6つの社会心理的特性が抽出された。それら社会心理的特性と観戦行動の関係についての分析は、北米スポーツマネジメント学会で報告した(平成11年)。国内では、日本体育学会及び日本スポーツ産業学会において、社会心理的特性と観戦者特性との関係について報告した(平成11年)。第3回FIFA女子ワールドカップ大会のデータからは、女性アスリートの観戦者の社会心理特性について、北米スポーツマネジメント学会で報告した(平成12年)。
著者
大久保 一郎 大日 康史
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

目的:individual based modelは、近年の感染症モデルとして最もパワフルなモデルであり、新型インフルエンザ対策では広く用いられている。しかしながらモデルはあくまでモデルあり、実際の人の所在、移動を表現したものではない。モデルをより現実的に近づける努力は重要であるが、それでもやはり現実性は乏しい。本研究では逆に、実際の人の所在、移動のデータからモデルを構築した。方法:1998年10-12月に実施された、首都圏在住の約88万人の1日の移動、所在が記録された抽出率約2.7%のデータを用いる。所在は、自宅、学校等の別、1648カ所のゾーンで表示され、鉄道の乗降駅、時間も記録されている。まず、このデータを用いてまず接触回数を求め、実際の社会での接触がscale freeであるかどうかを検討する。新型インフルエンザの自然史、感染性を有する期間、無症候比率、無症候の場合の感染性、受診率は先行研究によった。感染性は家庭および社会での感染性がR0=1.5になるように調整した。シミュレーションは、海外での感染者が、感染3日後に帰国、八王子の自宅に帰宅後感染性を有するとした。職場は丸の内としてJR中央線で通勤するとした。結果:無作為に抽出した638名で計測された社会,家庭,電車でのべき乗bはいずれの場合でも有意に正であった。感染者数は、最速で対応の意思決定がなされた場合の感染7日目で3032人と少ないものの、首都圏全域、特に鉄道沿線に拡散していることが明らかになった。考察:本研究で示された実際の移動データを用いての数理モデルは、現実的な対策立案に活用できるモデルを提示できたと言えよう。今後、新型インフルエンザ対策のガイドライン策定においては有用なツールになると期待される。
著者
江守 陽子 前原 澄子 工藤 美子 森 恵美
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

母子相互作用において、近年もっとも注目されているのは母子の行動心理学的な作用であろう。見つめあい、タッチング、抱いて揺するなどは効率よく子供の注意を喚起する効果が認められている。こういった相互作用によって母と子がしっかりと結ばれ、また、それによって子供の成長が促進されるのであれば、看護者はできるだけ長く、かつ有効にその機会を持つような援助を考えるべきであろう。本研究では母親が子どもを抱いてあやすという行動に着目し、それが児にどのような影響を及ぼすのかを観察した。その結果は以下の5点に要約できた。1.抱くという刺激は児を泣きやます効果が認められる。2.たて抱きは、刺激直後の児の覚醒状態を急激に下げ、その後、穏やかに下降させる。すなわち、児を泣きやますには即効性があり、敏活な状態にする効果が認められる。3.横抱きは、刺激直後の児の覚醒状態は穏やかに下降し、その後(40〜80秒後)、さらに下降する。4.抱き上げずに布団を掛けるだけでは児の覚醒レベルの変化は認められなかった。5.啼泣の中止や敏活性を高める目的では運動感覚に対する刺激が有効である。
著者
林 史典
出版者
筑波大学
雑誌
文藝言語研究. 言語篇 (ISSN:03877515)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.165-183, 1983
著者
鳥越 皓之
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

現在、私たちの国では、さまざまな環境保全の試みがなされている。とりわけ本研究のような人工的自然環境の研究の場合、いわゆる「まちづくり」の活動とたいへん強く関わっている。ちなみに、本研究でいう人工的自然環境とは、人間が手を加えた自然環境を意味し、いわゆる純粋な自然環境と対置する用語である。本研究の期間、奈良県吉野山を中心としつつも、かなりの地域を実地に調査することができた。とりわけまちづくりについて熱心に取り組んでいる地域を訪問し、それが結果的に人工的な自然環境-田畑やせせらぎ、里山、公園など-の保全に関わっている実態をつぶさに調査できたことは大きな収穫であった。吉野山の調査においては、どうして吉野山は千年以上も、桜の山を保全できたのだろうかという疑問のもとに、そのノウハウ、価値の体系、歴史的経緯などを、かなりの調査期間をとって調査をした。そして、信仰から始まった桜の保全が花見の隆盛などを経て、明治以降のいまでいうNPOの成立までの変化を追った。またこのNPOが時代の状況の変化のなかでどのような「生き残り作戦」をとっていったのかという事実も明らかにすることができた。一言でいえば、軍国気分の高いときにはそれに合わせた論理を、民主主義が評価されると、一般国民の意見を入れるというような対応をしつつ、桜を保全するNPO組織を保持することで桜の山を維持できたことが分かった。とりわけ特筆しておきたいことは、この研究を通じて、たんに人工的自然環境の研究にとどまらず、この研究が応用・政策的研究であるために、結果として「社会学の応用可能性」を探るという社会学そのものへの貢献もできたことであった。
著者
石田 志穂
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

宋代までの内丹における「性功」とは一般的に、欲望を除去して静浄な心境を保つという仏教的精神修養であった。しかし、宋学の影響を内丹も受け、明清に至ると「性功」を「気質の性」が気の偏倚のために偏ってしまわないよう保つこととする例があらわれた。ただし、多くの内丹家は、「理」には言及せず、あくまでも「気」に即する「気質の性」のみを「性功」の対象としていた。内丹思想は純粋な理念としての「理」へと向かう可能性を帯びつつも、「気」の操作体系である以上「気」を越えられないというジレンマを抱えていたのである。このような思想的状況にあって、清の劉一明は、「陰陽交合」を陰気と陽気の交合とはとらえず、「性」と「情」の交合とした。つまり、劉一明は煉気に取って代えて、修性を内丹の主要功法としたのである。内丹はもはや「気」の操作体系ではなくなり、人間の精神のみを対象として操作し、それを修煉するものとなったのである。劉一明が最終的に目指すのは、「天賦の性」(朱子学における「本然の性(理)」にあたる)のみの人間となること、人間の「理」化であった。人間の「理」化とは、具体的には人間が気の影響を受けない純粋な理念としてとらえられることを指す。劉一明は「玄竅」という論理的概念装置を設定し、その力動性によって、気としての人間を理念・思惟としての人間へと位相転換・次元移動するのである。劉一明は、人間の質料的気としての側面をもはや重視せず、人間の本質を純粋な理念・思惟それ自体にあると考えたのである。明清思想史は、ふつう心学から経世致用の学へ、ないし理学から考証学へと転換したと説明されている。しかし、内丹思想の世界においては、人間の精神活動・知的営為を純粋化・抽象化して考える思索・思弁が展開されていたといえるのである。しかもそれは禅や心学のように直観・直覚に帰結するものではなく、いくつかの概念装置を準備しつつ、論理的に方法として追求されるものであった。明清の思想には、従来考えられてきた思想史的展開とは異なる、もう一つの道が存在していたのである。
著者
久野 節二 野上 晴雄 首藤 文洋 大島 直樹 山中 敏正
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

快い匂い情報の受容が感性を発現する脳活動に与える効果について、本能の上位機構としての前頭葉と実行機構としての視床下部を中心に研究した。ヒト脳に関する光トポグラフィ解析では柑橘類の匂いの受容が前頭葉の神経活動を鎮めることが示唆された。また、動物実験では同種の匂い受容が視床下部のストレス反応を調節する神経細胞の活動を鎮静化することが示された。今後は、人間のストレス反応に対する効果を検証する必要がある。
著者
秋山 学
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

3年間に及んだ本科研では,狭義の「西洋古典学」に関わる当地の現況把握のみならず,様々な伝承形態のうちに現在なお中欧諸国に息づいているギリシア・ローマあるいはビザンツ,さらにはルネサンス期文化の諸相を捉えることに努めてきたが,その成果は同題目による研究成果報告書(A4版124頁)のうちに集約されている.同書は全5部より成り,各章題は1.中欧・ハンガリー地域研究,2.ギリシア・カトリック教会研究,3.教父学,4.西洋古典学,5.仏教・比較思想研究となっている.ここでは特に「ギリシア・カトリック教会」が維持してきた伝承を強調しておきたい.すなわち,中東欧域に広く展開する同組織は,ビザンツ神学・典礼,および東方教会法を護持しながらヴァティカンと一致し,ラテン語や西方教会法,教皇史などに関する知的水準を維持し,古代中世東西地中海文化の結節点として現在なお機能している.その中でもハンガリーのものは,同地の言語がアジア系でもあることから,今後わが国の西洋古典教育に対しても大きな裨益をなすものであろう.研究代表者はこれまで主としてギリシア教父の視点を活かしながら,西洋古典を賦活化するために「予型論」の視座を用い,これを古典解釈の基軸とする試みを行ってきた.今回の科研で,その視点を現代に継承するものとして「ギリシア・カトリック教会」を位置づけることが叶い,昨今衰退の甚だしい古典古代文化教育に対しても新しい視点を提供することができるのではないかと期待している.この他,特に15世紀マーチャーシュ王治下のハンガリーに開花した高度な人文主義的文化は「ヴァティカンに次ぐ」とまで評された絢爛たる蔵書に集約されるものであり.往時の文化水準は,ほぼ旧ハンガリー王国の故地とも重なる現中欧諸国にあって,なお衰えることなく継承されている.未知であった中欧は,今後の欧州文化研究にとって不可欠な一地域となるであろう.
著者
新井 邦二郎 飯田 浩之 藤生 英行
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

子どもの自己決定権意識の構造を解明するために,小学生(5年生),中学生(2年生),高校生(2年生)と小学生・中学生の保護者(親)を対象に質問紙調査を行った.調査内容は,自己決定権意識(子どもが自分のことは自分で決定してよいと考える程度),自己決定欲求(自分で決定したいと考える程度),自己決定能力(自分で決定する自信の程度),自己決定環境(自分に決定が任されている程度)の4つである.その結果,次のような結果が見い出された.【子どもの結果】1 小学生・中学生・高校生とも,自己決定権意識よりも自己決定欲求のほうが高いレベルにある.(2)小学生・中学生・高校生とも,自己決定能力を自己決定欲求よりも,低く認知している.中学生・高校生は自己決定能力を自己決定権意識よりも低く認知している.(3)小学生・中学生・高校生とも,自己決定欲求や自己決定権意識よりも,自己決定環境を低く認知している.自己決定能力との関係では,小学生は自己決定能力よりも自己決定環境を低く認知し,中学生ではそれらを同レベルに捉えるが,高校生では自己決定能力よりも自己決定環境を高く認知している.【保護者の結果】(1)小学生・中学生の保護者は,子どもの自己決定権意識よりも自己決定欲求を高めに認知している.(2)小学生・中学生の保護者は,子どもの自己決定能力を自己決定欲求よりも低く,自己決定権意識とほぼ同レベルに認知している.(3)小学生・中学生の保護者は,子どもの自己決定欲求や自己決定権意識ならびに自己決定能力よりも,自己決定環境を低く認知している.以上のように,日本の小・中・高等学校の子どもに自己決定欲求が特に日常生活上の身近な出来事について高く見られるが,自己決定権意識はそれほどの高さではなく,自己決定能力は低く認知されている。このような結果をふまえて、小学校高学年までに放任ではなく指導的観点から自己決定環境を用意し,自己決定能力を身につけ,この自己決定能力とバランス(調和)のとれた自己決定権意識を発達させることが重要と思われる。
著者
大高 泉 鶴岡 義彦 江口 勇治 藤田 剛志 井田 仁康 服部 環 郡司 賀透 山本 容子 板橋 夏樹 鈴木 宏昭 布施 達治 大嶌 竜午 柳本 高秀 宮本 直樹 泉 直志 芹澤 翔太 石崎 友規 遠藤 優介 花吉 直子
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究プロジェクトは、日本、ドイツ、イギリス、アメリカ等のESD(持続可能性のための教育)としての環境教育の展開を探り、実践、効果の一端を探った。具体的には、ドイツの環境教育の40年間の展開を探り、持続可能性を標榜するドイツの環境教育の動向を解明した。また、ESDとしての環境教育政策やその一般的特質、意義と課題を解明した。さらに、12の事例に基づきイギリスや日本の環境教育の広範な取り組みの特質を解明した。
著者
岡上 雅美
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、刑罰目的の観点から行う量刑事実の「選別」すなわちどのような量刑事実がどのような理由において量刑上考慮されることができるのかの問題を、刑罰論その他犯罪論の知見を通じて検討しようとするものである。(1)刑罰論の再構成および(2)犯罪後の量刑事実を取り扱う。(1)では、ドイツの議論を中心にして、「法の回復」論からする応報刑論の立場から、一定の構成要件外の事実について、それが刑罰論に反映されるべきことを論証した。同時に、予防目的は刑罰の正当化根拠ともなりえないことからそもそも量刑事実として重視することが妥当ではなく、量刑の指針としては不安定であるものと考える。(2)については、いわゆる王冠証人規定について検討を加え、これをさらに発展的に捉えるために、真実発見のための協力的態度のみならず、他の問題としても「被害者との関係」が同じく「規範の妥当性の回復」という刑罰の正当化根拠に基づいて、正当な量刑事情となりうることについて検討した。いわゆる修復的司法に関する研究が近時盛んに行われているが、それを量刑論に応用しようとする試みである。これについてもまた、刑罰目的論との照らし合わせが出発点となる。なお、これらの成果は論文集として今年度中に公刊する予定である。
著者
柴田 政子
出版者
筑波大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究最終年度の今年度の成果は、ロンドン大学教育大学院図書館(英)及びゲオルク・エッカート・インスティテュート(独)において、初年度に調査した教科書と、二年目に行った教科書内容に重要に関わる政府による指導指針の文書について、不足していた部分や補足したい資料について集中的に調査したことである。このことで、技術的問題等で欠損していた部分や、コピーやスキャン文書が不鮮明であった部分、また調査の当時に文書が不在であったなどの理由で欠けていた箇所を補充することができた。この研究の意義は、ヨーロッパにおける第二次世界大戦の戦勝国と敗戦国が、各々いかなるアプローチでその歴史を公教育という場で解釈し伝えてきたかということを探るとともに、両国の事例を比較検討することを通して、アジアにおける歴史対話という重要な政治的・教育的課題を抱えるわが国の歴史教育のあり方について再考するひとつの手がかりを提示することであった。よって、本年度の論文・口頭での研究発表は、上記調査結果を踏まえ、日本の歴史教育への取り組みについて議論をする内容となった。この三年間の研究を通して発見できたことは、当初の予想とほぼ同様で、ドイツの教科書記述の詳細さ・綿密さ・分量の多さからして歴史教育に対する重点政策が読み取れ、イギリスに関しては第二次世界大戦とはナチス・ドイツが中心的アクターとして理解できる記述がほとんどであった。独英両国の大戦に関わる歴史教育の実態を詳細に調べられたことは、全体として大きな成果であったと考えるが、一方で、前期・後期中等教育の教諭であった本研究者は、活字で認識する歴史としての教科書が、各学校・各教室・各教員により様々な環境・解釈で用いられ、当然のことながら教育内容を把握する上ではひとつの方法・側面に過ぎないことを現場で強く認識してきた。よって、本研究に今後つながる研究として、学校の教室外であるが広い意味で公の場で行われている歴史教育について、本件と同様とくた第二次世界大戦の歴史において、わが国と深く関わる国々を対象に調査したいと考える。
著者
宇陀 則彦 松村 敦 寺井 仁
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は学習と情報資源(教材、図書、学術論文、Web情報)の相互作用に焦点をあてた。思考と情報資源は連動しており、理想的な環境は適切な情報資源が思考に追随してくれることである。本研究では、電子図書館システムと密に連動することで図書館の豊富な情報資源をオープンコースウェアと連携させ、学習者の思考に情報資源が追随する非定型学習環境を構築した。研究を通じて得た知見は、学習における情報資源の役割は予想以上に大きいこと、思考と情報資源の相互作用は補完的であること、情報資源を提供するサービスは学習プロセスと乖離しており、改善を要することの3点である。