著者
佐藤 健一 冨田 哲治 大谷 敬子 佐藤 裕哉 原 憲行 丸山 博文 川上 秀史 田代 聡 星 正治 大瀧 慈
出版者
長崎大学
雑誌
長崎医学会雑誌 (ISSN:03693228)
巻号頁・発行日
vol.87, pp.186-190, 2012-09

平成20年度に広島県・市が主体となり黒い雨を含む原爆被爆体験による心身への健康影響や黒い雨の体験状況に関するアンケート調査が行われ,平成22年に「原子爆弾被爆地域の拡大に関する要望書」が厚生労働省に提出された.しかしながら,「黒い雨」そのものを危険因子として死亡危険度を評価した疫学的研究は未だない状況である. 一方で,黒い雨を含む放射性降下物などによる間接被爆あるいは内部被爆の影響を評価する試みとして,被爆時所在地の位置情報を用いた死亡危険度の評価が考えられる.
著者
西浦 博
出版者
長崎大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2006

ヒトの行動がどのように感染症流行に影響を与えるかについて、現存するデータを系統的に収集し、数理モデル及び統計モデルを利用して分析した。有用な天然痘及び肺ペストのデータについては、昨年より個別データベース構築を継続した。論文報告をした特定研究成果として、まず潜伏期間を利用した統計モデルが挙げられる。発症時刻に基づいて伝播能力や感染時刻を推定する理論疫学研究を報告した。同研究手法の発展によって、通常は発症時刻しか記録されていない観察データを分析しやすい感染時刻データに変換する方法を提案した。また、最近データ採集が実施されたブタE型肝炎の血清調査結果を対象にして、本研究計画で提案した感染力推定モデルの応用事例を報告した。感染力が高く、流行がまん延している感染症について、どのように集団レベルでの感染力を推定できるかについて、データ特性に対応した手法を提案した。インフルエンザの研究成果としては、プルシア(ドイツ)における1918年の流行データを数理モデルを用いて分析し、論文報告した。流行時刻によってインフルエンザ伝播が変化する様を検討する単純化モデルを構築し、流行途中にヒト行動がどのように変化したのかを客観的に分析・解釈する方法を提案した。スペイン風邪流行途中ではヒトの接触回避行動が伝播動態に大きく影響した可能性が高く、パンデミックインフルエンザ発生時には適切なヒトの危険回避行動が流行抑止対策になる可能性が示唆された。
著者
松尾 洋介
出版者
長崎大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

茶葉の焙煎処理による茶葉ポリフェノール成分の化学変化の詳細を解明することを目的として、実際の茶葉の焙煎処理を模倣した、試験管内におけるモデル実験を行った。茶の主要アミノ酸のテアニンと、茶カテキンのエピガロカテキンガレートの混合物を加熱した結果、テアニンとエピガロカテキンガレートが縮合した6種の化合物が得られた。これらの生成物のうち、2種はp-キノン型構造を持つ赤色色素であった。本色素は茶葉の焙煎による色調の変化に大きく寄与していると考えられる。続いて、茶葉に含まれる遊離糖の一つであるグルコースとエピガロカテキンガレートの混合物を加熱処理したところ、エピガロカテキンガレートのA環6位または8位にグルコースが結合したものなどが生成した。さらに、EGCg、テアニン、グルコースの三種類を混合して加熱したところ、二種類を混合した場合とは生成物が大きく異なることが分かった。三種混合の場合、まずテアニンとグルコースとの間でアミノ・カルボニル反応が起こり1-エチル-5-ヒドロキシ-2-ピロリジノンが生成後、EGCgのA環8位(及び6位)と縮合して生成したと考えられた。
著者
連 清吉
出版者
長崎大学
雑誌
長崎大学総合環境研究 (ISSN:13446258)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.135-147, 1998-12
著者
ムサジャノワ ジャンナ
出版者
長崎大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

甲状腺乳頭癌は一般的には予後良好な疾患であるが、一部の症例に再発、転移をきたすため、そのポテンシャルを有する症例の拾い上げが重要である。予後を規定する有力な因子としてBRAF変異とTERT promoter変異を二つ持つ腫瘍は予後が悪いことが報告された。本研究ではこれらの分子マーカーと形態学的形質との関係を明らかにし、日常の甲状腺がん病理診断学に汎用できる高悪性度の組織像を明らかにする。日本人とカザフスタン人の甲状腺がんを同一基準で比較することで、ヨード摂取量や人種の違いによる甲状腺がんの組織像の多様性による影響も評価する。分子異常をエビデンスとした高リスク乳頭がんの形態学的特徴を定義づける。
著者
カーン カレク 北島 道夫
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

子宮内膜症はエストロゲン(E2)依存性の慢性炎症性疾患である.内膜症には不明な点が多く,その病態をひとつの因子で一元的に説明することは困難である.私どもは過去3年間(H21-23),内膜症でのLPSとマクロファージ(Mφ)の役割について検討を重ねてきたが,内膜症の病態を説明する仮説として,生得免疫を司るLPSとTLR4を介した「bacterial contamination hypothesis」に至った.内膜症の月経血においては,非内膜症コントロールに比して有意に大腸菌(E. coli)のコンタミネーションが多く,内膜症の月経血あるいは腹水中ではエンドトキシン(LPS)濃度が有意に高いことが認められた(Fertil Steril 2010 ; 94 : 2860-3).また, TLR4を介した内膜症の増殖では, LPSとストレス蛋白であるHsp70との分子クロストークが存在することを見いだした(7^<th> FAOPS Congress,台北, 2011).また, LPSとE2が協働的にERおよびTLR4を介してマクロファージが惹起する局所炎症を誘導することを報告した(第55回日本生殖医学会,徳島市, 2010)
著者
吉村 俊朗 中野 治郎 本村 政勝
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

抗アセチルコリン受容体抗体(抗AChR抗体)および抗筋特異的チロシンキナーゼ抗体(抗MuSK抗体)共に陰性で筋無力症が疑われる患者の中に筋萎縮性側索硬化症もある。誘発筋電図でもWaningが認められ、テンシロンテストも陽性と判断されることがあり、抗体陰性の重症筋無力症の鑑別に重要と結論した。運動終板に補体C3の沈着が認められ、postsynaptic foldの減少も認められた。αバンガロトキシンの減少も認められる例もある。意義付けが困難であるが、眼筋型MGでは、AChR抗体が陰性のことが多く補体の沈着があることがある。測定感度以下のAChR抗体が関与する可能性や、AChR抗体以外の抗体の関与が考えられる。補体の沈着もなく、postsynaptic foldの減少があり、臨床像は、四肢近位筋の筋力低下があり、他の抗体もしくは、先天性の可能性など、今後の検討が必要である。ヒト抗MuSK抗体は、ラットの再生筋の運動終板においてもいても、ヒト運動終板と類似の変化をもたらす。 抗MuSK抗体は Postsynaptic areaの形成に影響を及ぼす。抗ラミニン抗体は抗体陰性の筋無力症の原因でありうる可能性を否定できないが、電気生理学的な検討も含めて、今後の検討が必要である。ラミニンも運動終板の形成に関与している可能性がある。
著者
片岡 千賀之 亀田 和彦
出版者
長崎大学
雑誌
長崎大學水産學部研究報告 (ISSN:05471427)
巻号頁・発行日
vol.94, pp.29-55, 2013-03

汽船トロールはその発祥から第二次大戦までの40年弱の期間を,社会経済情勢や許可隻数と漁獲高の推移から4期に分けることができる。(1)明治41年から第一次大戦まで 明治41年に汽船トロールが英国から導入されて確立する。それ以前の木造船はもとより,同時に国内で建造された鋼船もその性能において大きく劣っていた。漁獲成績が良かったことから漁船数が急増し,国産技術として確立するのも早かった。参入してきたのは,漁業と無縁な投機家や造船所,汽船捕鯨の関係者などであった。造船所は日露戦後の沈滞を打破する業種として,汽船捕鯨は隻数が制限されて新たな投資先として同じ汽船漁業のトロールに注目したのである。投資規模,漁業技術ともに在来漁業とは隔絶しており,経営方法も会社組織による資本制経営がとられた。トロール漁業者は大きく九州勢と阪神勢に分かれ,互いに反目し,統一行動が出来なかった。トロール経営は漁労中心主義で経営を考えない粗略なものが多かった。初期の汽船トロールは規制がなく,沿岸域で操業したことから沿岸漁民・団体の猛反対を受け,政府も該漁業を大臣許可漁業とし,沿岸域を禁止漁区にするとともに遠洋漁業奨励法による奨励を廃止した。禁止漁区の設定で,漁場は朝鮮近海に移るが,新漁場が次々発見されて漁獲量が増大し,魚価も維持されたので明治42・43年には早くも黄金期を迎えた。トロール漁業の根拠地は,漁場に近く,漁港施設,漁獲物の鉄道出荷に便利な下関港を中心に,長崎港,博多港に収斂した。トロール漁業誘致のため,漁港施設・魚市場の整備が進められ,魚問屋の中からトロール漁獲物を扱う業者が現れた。トロール船の急増で漁場が狭くなり,禁止漁区の侵犯が頻発すると,禁止区域が拡大され,漁場は東シナ海・黄海へ移った。漁場が遠くなって経費が嵩む一方,魚価が低下するようになってトロール経営は一転して不振となった。ただ,漁船は惰性で増加を続け,大正2年には最大となる139隻に達した。苦境を脱する方法として,多くの経営体は合同して経営刷新を目指した。その代表が阪神勢を中心とした共同漁業(株)である。これら業者は第一次大戦が勃発して船価が急騰すると欧州などへ売却してトロール漁業から退散する。一方,生産力を高めてトロール漁業に留まった田村市郎率いる田村汽船漁業部は第一次大戦中の魚価の暴騰による利益を独り享受しつつ共同漁業を掌中に収める。
著者
添野 光洋 澤瀬 隆 平 曜輔 伊藤 修一 江越 貴文
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

有機質コラーゲンを化学的に除去した象牙質表面に対する、ビタミン剤含有新規プライマーを開発し、その作用機序を明らかにするとともに、コラーゲンを高分子材料で置換することによって、接着耐久性が改善できることを証明した。そして、長期的な歯質の保存可能な表面処理法の臨床応用を実現した。
著者
永井 智香子
出版者
長崎大学
雑誌
長崎大学留学生センター紀要 (ISSN:13486810)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.53-76, 1997-03-25

戦後50年以上たった今も中国から残留邦人が肉親探しのために来日している。そして,その多くは故国日本への永住帰国を希望している。家族を伴っての"帰国"となるが,その中に自分の意思ではなく,家族に伴って来日する学齢期の子供たちもいる。国際化という言葉が市民権を得て久しいが,中国から来た子供たちが学校で差別されたり,偏見の目に晒されたりするという報告が少なからずある。それらの差別や偏見は非行の引き金となることもあるという。そこで,インタビューという方法を用いて,中国から来た若者たちが受けてきた差別や偏見とそれにともなう心の動きや痛みを明らかにした。
著者
宮原 春美 相川 勝代
出版者
長崎大学
雑誌
長崎大学医療技術短期大学部紀要 (ISSN:09160841)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.61-64, 2001-03
被引用文献数
3

知的障害養護学校であるK高等養護学校の保護者を対象に,知的障害児・者の家族のセクシュアリティに関する質問紙調査を実施し,セクシュアリティ確立のための課題について検討した.知的障害児の性的発達,性教育についての考え方では,約8割の人が「普通に発達する」「性教育は必要である」と回答しており,保護者は知的障害をもった子どもの性的発達を認め,性教育の必要性も認めていた.しかし,結婚や出産,性行動についての対応,意識には戸惑いがみられ,現実的な性に関する心配事もあげられていた.従って,知的障害児・者の家族に対する認知領域,感情領域,行動領域における支援の必要性が示唆された.
著者
高谷 智裕
出版者
長崎大学
雑誌
長崎大學水産學部研究報告 (ISSN:05471427)
巻号頁・発行日
vol.84, pp.1-38, 2003-03

麻痺性貝毒(paralytic shellfish position、PSP)は、主としてAlexandrium属などの有毒渦鞭毛藻が産生する神経毒で、その毒力はフグ毒(Tetrodotoxin、TTX)に匹敵し、青酸ソーダの1000倍という猛毒である。PSPは、昔から北米やカナダの太平洋および大西洋沿岸ではよく知られており、これまでに多くの犠牲者を出している。Ha1stead(1965)は、1689~1965年の間に世界各地で900名以上の麻痺性貝中毒が発生し、うち200名以上が死亡したとしている。
著者
正本 忍
出版者
長崎大学
雑誌
長崎大学総合環境研究 (ISSN:13446258)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.169-186, 2007-08

Get article s'interesse a l'utilisation du film americain << Soleil vert (Soylent Green) >> comme materiel pedagogique. Ce film de Richard Fleischer, avec Charlton Heston et sorti en 1973, a pour cadre la ville de New York en 2022. La, les maux sont nombreux: surpopulation, tarissement des ressources naturelles et pollution de la nature, d'ou une penurie de vivres, d'electricite, de biens divers, un mauvais foncionnement des reseaux de communication et de distribution, un dementelenient des corps sociaux, une degradation du cadre de vie, un declin de la culture, de la civilisation et de I'humanite, etc. Nous avons d'abord envisage le declin de la culture du point de vue de la courtoisie, de la culture alimentaire et de l'alphabetisation, puis le declin de l'humanite au regard de la dignite de l'homme et de sa vie. <<Soleil vert>> presente de maniere tres concrete et tres diverse les milieux sociaux et culturels du futur, destructure par la surpopulation, par le tarissement des ressources naturelles et par la pollution de la nature. Nous pensons que ce film peut etre tres utile a une education a l'environnement d'autant que ses messages sont encore plus d'actualite de nos jours que dans les annees 1970.
著者
古川 恵利 草野 可代子 宮下 弘子 西山 久美子
出版者
長崎大学
雑誌
長崎大学医学部保健学科紀要 (ISSN:09160841)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.77-81, 2003-12

医療依存度の高い患者とその妻が在宅で療養生活を送る事を強く希望した.患者の状態は不安定であり在宅で療養する事は困難であるように思われた.しかし,患者と妻の思いを尊重し,介護者である妻の介護負担の軽減を考慮しながら,在宅で療養できるよう支援した.その結果,患者は在宅療養に至る事ができた.この事例への関わりの中で,自分自身も高齢であり弱視というハンディキャップを抱えながらも夫を連れて帰りたいという一心で努力する妻の姿から,在宅療養に至るには家族の存在がとても重要である事を学んだ.また,私たち医療従事者は患者だけでなくその家族を支える援助を行う必要性がある事を学ぶ事ができた.