著者
領家 由希 森田 直子 中島 正洋
出版者
長崎大学
雑誌
長崎醫學會雜誌 : Nagasaki Igakkai zasshi (ISSN:03693228)
巻号頁・発行日
vol.81, pp.250-252, 2006-09

1945年8月9日,長崎にプルトニウム型原子爆弾が投下され多くの犠牲者が出た。原爆の放射線が人体に及ぼす影響を示すものとしてDS86やDS02という線量推定方式があるが,放射能に汚染された食料を摂取することなどで生じる人体放射能の影響については現在でも厳密な評価が難しいとされている。目的は長崎原爆被爆者の米国返還試料であるホルマリン固定臓器とパラフィンブロックを用いて,原爆放射線が人体に及ぼす内部被ばくの影響を病理学的に検討することであり,今回はその一環として,急性被爆症例における内部放射能の検出法について検討した。米国返還資料は被爆直後,アメリカと日本の科学者によって被爆者の病理標本や記録などが収集されたが,米軍によってアメリカに送られ日本にはほとんどのこらなかった。しかし,1973年,約2000点の資料が返還され,現在,長崎大学原研2号館に保存されている。その中に,旧大村海軍病院の剖検例5例のホルマリン固定臓器とプロトコールを見つけることができた。
著者
谷村 晋
出版者
長崎大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

いわゆる小児科医不足は深刻な社会問題であるが、小児科医総数で見るとむしろ微増傾向にあり、地理的偏在などにより小児科医への受療機会が不均等になっていることが問題の本質であると考えられる。我々は、街区面積に対する小児人口密度と小見科医療機関の分布は非常によく一致していた一方で、小児人口が多いが近隣に小見科医がいない地域がいくつかあることを示した。しかし、医療機関には診察時間があり、常にアクセスできるわけではない。そこで、診察時間に基づく時間帯別アクセシビリテイマップを作成し、アクセシビリティの曜日別時間的変動を検討した結果、月火水金の診察パターンはほぼ同様であったが木土日は他の曜日とは異なるパターンを示した。月曜日の受療可能な小児医療機関の数は、0:00-6:00は1、6:30-7:30は0、8:00は2、10:00は83、12:00は30、14:00は71、16:00は79、18:00は8、18:30-19:30は0、20:00-24:00は1であった。アクセシビリティ指標が高い(アクセスが悪い)地域は、朝と夕方ではパターンが異なったが、一日を通じでアクセスの悪い地域も見られた。少数の医療機関が診察している時間帯では、その医療機関の地理的分布によつてアクセシビリティの分布が大きく異なるため、近隣の医療機関において診療時間を相互に調整することにより全体のアクセシビリティが向上する可能性が示唆された。6:30-7:30及び18:30-19:30は、どこも診察をしていないため、共働きの家庭が子供を診察に連れて行く際には困難が伴うことが予測された。本研究は、住民側の受療機会に着目した医療計画評価手段を提案するものであり、今後の小見科医不足問題に貢献するものと考えられる。
著者
山本 太郎 市川 辰樹 片峰 茂 矢野 公士
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、G型肝炎ウイルスの二重感染が成人T細胞白血病ウイルス(HTLV-1)の母子感染に与える影響と同時に、HTLV-1感染症の自然史を明らかにすることも同時に目指している。G型肝炎ウイルスに対し、RT-PCRでの検出系を確立した。また、日本に存在するHTLV-1には、二つのサブグループ(日本型と大陸横断型)があり、南北に行くにしたがい、日本型が優勢になること、分岐は、おそらく日本以外の場所で起こったこと、HTLV-1が日本に持ち込まれた年代が約2万年から4万年前であることなどが示唆される結果を得た。
著者
橋爪 真弘
出版者
長崎大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2009

【目的】長崎において黄砂が死亡率に及ぼす影響を明らかにするため、以下のデータを収集した。【方法】1)黄砂データ:「気象庁」長崎海洋気象台において1990年-2006年に観測された黄砂日。「ライダー」長崎市において2003年-2006年にライダーで観測された高度120-900mの黄砂消散係数の日中央値をもとに黄砂日を定義した。2)気象データ:同気象台で観測された同時期の気象データ。3)大気汚染物質濃度:長崎市内の大気汚染観測局(一般局)におけるSPM、光化学オキシダント(Ox)、二酸化窒素(NO2)の日平均濃度。4)死亡データ:被爆者コホート(長崎市居住)から死亡日・性・年齢・死亡原因・既往疾患・喫煙などの情報を抽出した。統計解析:一般化線形ポワソン回帰モデルを用いて時系列解析を行った。黄砂日を指標変数、大気汚染物質(SPM,Ox,NO2)を連続変数、気象(気温、湿度)のnatural cubic spline、年・月・曜日・休日を指標変数としてモデルに投入した。【結果】総死亡は黄砂により4.1%(95%信頼区間:-8.4,18.4)増加(当日)、循環器系疾患死亡は13.8%(同:-9.4,42.9)増加(当日)、呼吸器系疾患死亡は1.6%(同:-25.9,39.1)増加(当日)を認めた。いずれも統計学的有意差はなかった。年齢、慢性疾患、喫煙習慣によるサブグループ解析ではいずれも統計学的有意差のあるリスク上昇は認めなかった。ライダーによる黄砂日を用いた解析では、総死亡は黄砂により12.9%(同:-24.6,69.1)増加(ラグ2日)、循環器系疾患死亡は-3.2%(同:-55.4,110.0)増加(ラグ2日)、呼吸器系疾患死亡は40.6%(同:-39.9,228.9,増加(当日)を認めた。【結論】黄砂日では循環器疾患死亡および呼吸器疾患死亡の増加を認めたが、統計学的有意差はなかった。ライダーまたは気象庁の黄砂定義により推計値が異なり、いずれにおいても死亡との関連のエビデンスは得られなかった。
著者
森田 直子 高村 昇 工藤 崇
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本課題研究期間において、小型加速度・温度・心電図感知機能に線量モニタリングを搭載したの個人用モニタリングセンサーの開発を行い、システム構築を完成させた。このモニタリングセンサーを用いて、2011年3月11日発生した東北地方太平洋沖地震に端を発して発生した福島第一原子力発電所事故における本学からの救援活動の際、現地で活動した本学から派遣の医療関係者の生体情報管理に応用した。また、本学内に設置の精密型ホールボディ-カウンターを用いて、福島に滞在した長崎からの派遣者の内部被ばくを測定した。特に、事故後初期に測定した被験者からは、短半減期のヨウ素-131をはじめ、ヨウ素-132やテルル-132も検出され、初期の段階での内部被ばくの状況を判断するための非常に重要な結果が得られた。
著者
川崎 浩二 高木 興氏 飯島 洋一
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

目的:1)小・中・高校生における顎関節症状の実態を明らかにする。2)生活習慣・習癖などの諸要因と顎関節症症状との関連性を明らかにする。3)定期的な習慣習癖の改善を目的としたカウンセリング等の指導によって,顎関節症状がどのように改善するかを把握する。調査対象と方法:1)長崎市内の小・中・高校生4502名を対象に,Helkimoの顎関節問診をベースにして習癖の実態も含めたアンケートを実施した。2)中・高校生を対象に実施した顎関節症の7自覚症状ならびに習癖等に関するアンケートから,各自覚症状の有無を目的変数に習癖等の18項目を説明変数として多重ロジスティック分析を用いて自覚症状に関わる要因分析をおこなった。3)某女子中学校生徒全員291名を対象に,4月に顎関節に関するアンケートを実施し,自覚症状を有する合計53名に対して7月,10月,2月の年3回,顎関節に関する保健指導を実施しながら,症状の経過を経時的に評価した。結果:1)顎関節に自覚症状を有している者の割合は,小学校低学年で3.5%,小学校高学年で7.7%,中学生で19.8%,高校生で22.8%であった。2)顎関節症の7自覚症状のうち6つが「顎を動かして遊ぶ」という習癖と有意な関連が認められた。中学生においては4自覚症状が「くいしばり」と有意な関連が認められた。3)調査開始の4月における顎関節自覚症状を有する者の割合は中学1年生:13.1%,2年生:16.1%,3年生:29.3%であった。1年間の指導後の予後は治癒,改善,不変,進行の順で1年生:54.5%,27.3%,9.1%,9.1%,2年生:18.8%,62.5%,18.8%,0.0%,3年生:61.5%,15.4%,15.4%,7.7%であった。指導による治癒・改善率は約75%〜80%であった。
著者
園田 健二
出版者
長崎大学
雑誌
長崎大学医療技術短期大学部紀要 (ISSN:09160841)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.7-14, 2001-03

begin(start)to-Vとbegin(start)V-ingの意味の相違について,最初はDeclerck(1991)が示した双方の間の相違について批判し,その後,potentialityとperformance,a point in time とduration in timeなどの観点から双方の相違を検討した.このpoint of timeとduration in timeはbegin(start)to-Vとbegin(start)V-ingの意味の根本的な相違を示すもので,point in timeを示すbegin(start)to-Vはsuddenly,all at onceのような語と共起し,duration in timeを示すbegin(start)V-ingはalways,often,usually,regularlyなどと共起している.Regarding the difference between begin (start)+infinitive and begin (start)+gerund, there are some who simply dismiss it by saying that there is not much difference between the two. There are, however, cases in which there certainly exist some differences in meaning between the two. This article explores, first, the validity of Declerck's differentiation between the two, and then discusses some major differences that exist between the two: the differences in terms of potentiality and performance, and in terms of a point in time and duration in time, All in all, I am sure that I was able to make a number of important new discoveries in this study that had not been made by the grammars in the U. S. and the U. K.
著者
橘 勝康 原 研治 野崎 征宣 槌本 六良
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

ふ化直後のマダイとトラフグにカロテノイド(マダイ:β-カロテンあるいはアスタキサンチン,トラフグ:β-カロテン)で栄養強化した初期餌料を投餌し無投薬で生産を試みた。マダイでは、ふ化後20日の飼育で,β-カロテン及びアスタキサンチン強化区の生残率が対照区と比較して高くなった。トラフグでは,ふ化後28日の飼育でβ-カロテン強化区の生残率が対照区と比較して高くなった。両魚種ともに全長からみた成長にはカロテノイド強化による有意な差は認められなかった。飼育最終日の仔魚より脾臓を採取し,リンパ球の幼若化反応を検討したところ,両魚種ともにPWM20μg/mlあるいはCon A 100μg/mlの刺激で,カロテノイド強化区が対照区に比較して有意に高い幼若化の反応性を示した。これらの強化初期餌料でマダイやトラフグの種苗を飼育することにより,種々の感染症に対して抵抗力の高い健康な種苗の無投薬での生産の可能性が考えられた。引き続いてβ-カロテン強化モイストペレツトでブリ一年魚の飼育を2-3ヶ月間無投薬で行い飼育開始と飼育終了時の血液値と免疫防御能の比較を行った。飼育終了時における血液値では,両区とも飼育開始と飼育終了時では顕著な違いを認めず,実験期間を通じて健康であったと考えられた。実験終了時の免疫防御能をリンパ球の幼若化能を比較すると,β-カロテン区がマイトーゲン添加培養の全てで対照区より高い幼若化を示し免疫防御能が高いと考えられた。以上より,β-カロテン,アスタキサンチン共に免疫賦活作用を持ち,これらを餌料に添加することで無投薬飼育が可能となることが分かった。
著者
小坂 光男 大渡 伸 松本 孝朗 山下 俊一
出版者
長崎大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1989

【緒言】暑熱順化の形成過程における個体レベルの反応は急性の神経性・亜慢性の内分泌性調節変化に引き続いて器質性変化の誘発がある。この器質性変化と言えども細胞レベルにおいては温度刺激後の比較的早期に誘起される可能性は否めない。温熱生理学的手法に加えて、昨今、がん温熱療法のハイパ-サ-ミア分野で脚光を浴びている温熱感受性・熱耐性に関連の深い熱ショック蛋白(Heat shock proteins:HSPs)の誘導の有無を検索し、暑熱負荷時の生体反応、特に暑熱順化機序を個体および細胞レベルで解析・究明することを研究の目的としている。【方法】ナキウナギ、ラット、家ウサギに熱ショック(直腸温:42℃,15分)や寒冷ショック(直腸温:20℃,30ー120分,平成2年度はさらに筋肉・脳温を42℃,15分間加温負荷)を加え、各種体温調節反応を記録、動物は20時間後 10%SDSーPAGEによって、肝・腎・脾・副腎・脳・筋肉の各組織のcytosol fractionに新しい蛋白質(HSPs)の誘導の有無を検索、一部、HSP 70抗体によるWestern Blotting法によって詳細な分析を加えた。【結果】1熱ショック負荷方法(直腸温42℃に到達時間20ー30分が至適)で多少結果に差異が生じるが、2家ウサギで肝の cytosol fraction に 68KD の HSP の誘導、3ラットでは殆んど全組織で HSPs 70KD の誘導、4ナキウナギでは5例中1例において肝ーcytosol frction で 70KD 誘導、他の組織では HSPs の誘導困難、5寒冷ショックによる Cold shock protein(CSP)の検出に関してはラットの肝の cytosol fraction で 32KD の蛋白質が寒冷ショックによって消失する1例を観察している。6すべての動物の筋肉および脳のcytosol fraction で HSP の誘導はやや困難であるが、熱ショック負荷方の改善筋および脳(被殼)温度を42℃,15分間、直腸温43℃によって陽性の結果を得ており、今後更に検討を行う。【まとめ】熱耐性に関連の深い熱ショック蛋白(HSPs)が暑熱負荷20時間以後には細胞内に誘導される本研究結果は暑熱順化機序解明に光明を与える快挙である。
著者
野上 建紀 エラディオ・テレロス
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

アジア・太平洋海域の有田焼交易ネットワークについて、考古学的な研究によって明らかにした。近世の有田焼がいわゆる「鎖国」政策下にオランダ船や唐船によって長崎からアジアやヨーロッパへ輸出されていたことは知られている。その一方、長崎で交易が許されなかった船も有田焼を運んでいたことはあまり知られていない。太平洋を越えて、アジアとアメリカを結んでいたガレオン貿易を担ったスペイン船もその一つであった。今回の研究により有田焼が中米・カリブ海周辺にも広く流通し、ペルーやコロンビアなど南米にまで輸出されていたことが明らかになった。特に芙蓉手皿とよばれる皿類やチョコレートカップが広く流通していたこともわかった。
著者
山下 利佳 黒木 唯文 江越 貴文 小関 優作
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

Candida albicansに対して抗菌効果を有する植物精油の義歯用歯磨剤への応用について検討した。ティートゥリーオイル(TO)とレモングラス(LE)を使用し,床用レジンに付着したバイオフィルムに対する除去効果について調べた結果,1.0%TO,0.5%LEおよび1.0%LEの義歯清掃への利用は,C.albicans バイオフィルムの除去に有効であることが示唆された。また,これらの精油溶液を用いて磨耗試験を行った結果,水のみでのブラッシングよりも,精油を使用した方が表面粗さは小さかった。以上より,精油は義歯清掃に有効である可能性が示唆された。
著者
佐藤 伸一 小川 文秀 小村 一浩 岩田 洋平
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

傷が治る過程には、様々な因子が関与するが、B細胞と呼ばれる免疫担当細胞が関わっているとは従来考えられていなかった。しかし、今回の研究で、このB細胞に発現する重要な分子であるCD19の発現を欠くマウスでは、傷の治りが悪くなり、逆にCD19を過剰に発現したマウスでは、傷の治りが良くなることから、B細胞が傷の治る過程に重要な役割を担っていることが明らかとなった。
著者
今村 明 吉浦 孝一郎 黒滝 直弘 小澤 寛樹
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究で我々は、統合失調症のrare-risk variantを同定することを目標として、統合失調症の多発大家系を対象として、遺伝学的解析を行った。統合失調症多発大家系に属する10名に全エクソン解析を行った。同定された2つの候補遺伝子に関して、統合失調症288名、健常者419名のtarget sequencingを行った。その結果、候補遺伝子はGene Aだけに絞られた。Crispr-cas9にて作成した遺伝子改変マウス(Gene Aのノックインマウス)の行動解析を行った。行動解析の結果、遺伝子改変マウスは活動性が低いまたは運動機能が減衰している可能性が示された。
著者
澤瀬 隆 熱田 充 柴田 恭明 馬場 友巳
出版者
長崎大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

我々はリン酸カルシウムを貝殻の成分として有するミドリシャミセンガイの貝殻-貝柱間の強固な接着機構に着目し,バイオミメティックス技術を応用することで,生体材料であるチタンに同様の軟組織との結合能を付与することを目的として研究を開始した.平成17年度においてはチタン表面へのアパタイト/ラミニンの析出及びラミニン含有アパタイトコーティングディスクを用いたin vitroにおける細胞培養に関する研究を行い,その結果は昨年の報告書に記載した通りである.引き続き本年度はファイブロネクチンコーティングディスクにより線維芽細胞を用いたin vitroでの検討,ならびに同様の処理・コーティングを行ったスクリューインプラントを用い,ラット口蓋粘膜への埋入実験を行い,in vivoでの検討も加えた.その結果接着タンパクであるファイブロネクチンの存在により線維芽細胞の有意なケモタキシスが観察され,またインプラントに直行する線維の走行を可能とした.しかしながらバイオミメティックスという本題に振り返ると,貝殻-貝柱間において観察された,貝殻内面再表層と貝柱筋線維を繋ぐような10-15μm程度の膜様構造を再現することは困難であった.この膜様構造は,興味深いことに歯根表面と歯槽骨とを繋ぐ歯根膜と類似の構造を呈し,独立した組織を連結するためには,この2層構造が鍵となるのではないかとの仮説に至っている.今後,発展の一途をたどる再生医療とのコラボレートも視野に入れ,本研究を一層深めることが必要である.
著者
好井 健太朗
出版者
長崎大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2021-07-09

RNAウイルスの多様性獲得と進化において、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)による遺伝子RNAの複製と変異の蓄積が重要だと考えられているが、その詳細には不明な点が多い。近年、ウイルスだけではなく、様々な生物種も独自のRdRpを持つ事が分かってきた。本研究では、宿主RdRpのウイルス感染における生物学的意義を明らかにするために、宿主RdRpによるウイルスの排除または増殖促進作用の分子機序を明らかにするとともに、ウイルスの多様性獲得や宿主への適応・伝播への影響を解析する。
著者
正本 忍
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究では絶対王政期、とりわけ18世紀前半期のオート=ノルマンディー地方の警察・裁判組織マレショー一セ(marechaussee)について、主としてセーヌ=マリティーム県古文書館、陸軍歴史課古文書館で収集した原史料に基づいて実証研究を行った。マレショーセとは、絶対王政期フランスにおいて、主として田園地帯、幹線道路上の治安維持を担う軍隊組織であり、同時に、プレヴォ専決事件を最終審として裁く裁判組織(プレヴォ裁判所)でもある。18世紀前半期のオート=ノルマンディー地方のマレショーセについて、これまで得られた研究成果は主として以下の4つである。第一に、当該時期の当該地方のマレショーセの隊員名簿を作成し、"Liste des hommes de la marechaussee en Haute-Normandie (1720〜1750)"として公刊した。第二に、当該地方の治安維持はどのような人物によって担われていたのかを明らかにすべく、上記の隊員名簿から得られる情報(年齢、身長、退職理由など)を分析し、「18世紀前半におけるオート=ノルマンディー地方のマレショーセ隊員(1720〜1750年)」と題して学会・研究会で報告した。第三に、プレヴォ裁判の主要な担い手であるマレショーセの将校及び裁判役人について、その兼職や勤務実態に注目し、「アンシァン・レジーム期の国王役人の実像-18世紀前半オート=ノルマンディー地方のマレショーセの事例から-」と題する研究報告を行った。第四に、地域住民の国王権力の受容についてマレショーセと地域住民の関係から検討し、「地域住民とマレショーセ -住民の保護者あるいは抑圧者?-」と題して報告した。上記の3報告は近く論文として学会誌に投稿する予定である。
著者
和田 実 荒川 修 高谷 智裕 柳下 直己 井口 恵一朗 太田 貴大 宇都宮 譲
出版者
長崎大学
雑誌
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
巻号頁・発行日
2020-10-27

メコン川流域における淡水フグの有毒性は広く知られているものの、野生の淡水フグにおける毒性の強弱や組成に関する知見は著しく断片的なままである。メコン側流域各国では、地元自治体が危険性を啓発しているにもかかわらず、流域住民のフグ食は止まらず、中毒による健康被害が社会問題化している。本研究は、フグ食中毒被害が顕著なカンボジアにおいて、被害多発地域に位置する新設大学と連携し、淡水フグの種類と毒性の季節変化、毒化機構、ならびに住民のフグ食に対する潜在的な需要を明らかにし、淡水フグの無毒化養殖を試行する。
著者
中村 乙水
出版者
長崎大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2016-04-22

海洋は鉛直方向に変動が激しく、特に表層から深度数百メートルまでは温度環境が大きく変化する。外洋性魚類の中には表層を主な生活圏としながらも、深海で餌を食べるものが多く知られており、外洋性魚類の鉛直移動パターンを解釈するためには、採餌だけでなく温度環境を利用した体温調節も含める必要がある。本研究は、外洋性魚類の鉛直移動パターンと体温および採餌行動を野外で計測し、体温調節と採餌戦略から鉛直移動パターンの要因を探ることを目的としている。今年度はサメ類とマンボウ類を対象に野外放流実験を行った。マンボウ類では、台湾水産試験所と共同でヤリマンボウの放流実験を行った。装着期間の関係で摂餌行動は記録されなかったが、世界初記録の詳細な行動と体温データが得られた。ヤリマンボウの体温は海面水温30℃に対して16~24℃と低く保たれており、体温を調節するために好適な深度帯を選んでいることが示唆された。サメ類では、かごしま水族館と共同でジンベエザメ1個体に行動記録計、体温計とビデオカメラを装着して放流し、摂餌行動と体温変化のデータを得ることができた。ジンベエザメは主に海面付近に滞在し、時折深度200mを越えて潜降していたが、摂餌行動は海面付近でしか見られらなかった。水温は海面が30℃、深度400m付近で10℃と20℃の差を経験していたが、体温は26~29℃と狭い範囲に保たれていた。また、海面水温30℃よりは体温は常に1~3℃低く保たれていた。海面付近でしか摂餌行動が見られなかったことと併せて考えると、海面水温が高い海域では、餌が豊富だがジンベエザメにとって暑すぎる海面付近に滞在するためにジンベエザメは潜って体温を下げていることが示唆された。