著者
阿萬 裕久 天嵜 聡介 佐々木 隆志 川原 稔
雑誌
ソフトウェアエンジニアリングシンポジウム2015論文集
巻号頁・発行日
vol.2015, pp.69-76, 2015-08-31

ソフトウェア開発において,潜在フォールトの早期検出と除去は重要な課題であり,そのための支援技術の一つとしてプログラム中のコメントに着目する手法が研究されている.コメントはプログラムの理解容易性を高める上で有用な要素であるが,複雑で分かりにくい部分に対してその可読性の低さを補う目的で追記されることもある.これまでにJavaプログラムを対象とした調査がいくつか行われ,メソッドの中にコメントが書かれている場合にそのメソッドのフォールト潜在性は他のメソッドに比べて高いという傾向が確認されている.本論文では,コメントに着目したフォールト潜在予測の精度向上に向け,新たな視点としてメソッドにおけるローカル変数の名前とスコープの長さに着目した調査(データ収集と分析)を行っている.三つの著名なオープンソースソフトウェアを対象とした調査の結果,コメントのみならず変数の名前の長さとスコープの長さも考慮した分類を行うことの有効性が確認されている.
著者
金 松美 Song-mi Kim
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.125, pp.55-75, 2018-05-31

本稿の目的は、日韓の社会福祉学分野の文献において、「カルチュラルコンピテンス」に関する概念がどのように取り上げられているかについて検討し、今後の研究課題を提言することである。対象は日本の文献11件、韓国の文献22件であった。分析の結果、カルチュラルコンピテンスは文化的認識・文化的知識・文化的技術・文化的センシティビティーなどの内容が含まれる「包括的概念」、同僚・上司・組織及び多文化教育や訓練に関連する「連携的な概念」、業務の経験が重なりつつ肯定的な方向に発展していく「成長的な概念」であることが明らかになった。また、日本の文献は障がい者・児童など支援対象がより広範であり、韓国の文献は外国人に関する論文に集中していた 。日本の文献の主な内容は「教育」や「実践」などであったが、韓国の文献には「影響を与える要因」や「尺度開発」などが見られた。この結果を踏まえて今後の研究のための提言を行った。

1 0 0 0 学芸志林

出版者
東京大学
巻号頁・発行日
vol.2, 0000

1 0 0 0 学芸志林

出版者
東京大学
巻号頁・発行日
vol.2, 0000
著者
村山 良之 小田 隆史 佐藤 健 桜井 愛子 北浦 早苗 加賀谷 碧
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2019, 2019

<p>1 はじめに</p><p> 様々な自然災害の土地条件(物理的素因)として「地形」の指標性が高いことが,地理学界以外にも広く理解されるようになっている。学校防災や地域防災の基盤として,当該地域の地形を理解することが,学校教員と児童・生徒,地域防災のリーダー層と住民に求められている。しかし,地元の地形ひいてはハザードマップの理解は難しいとされてきた。防災のための最低限の地形の知識と,それを伝えるための取組が求められている。</p><p> 発表者らは,石巻市教育委員会が主催する防災主任研修会(宮城県では各学校に防災主任が置かれている)のうち2時間をいただき,「学校区の地形に基づく災害リスクの理解」のためのワークショップを行う機会を得た。参加者には,地形や地図について得意ではない先生方が含まれる想定される。本発表は,その内容について報告し,防災のための地形ミニマム・エッセンシャルズとそれを伝える方法も含めて,検討するものである。</p><p>2 ワークショップの準備:地形と地図群</p><p> 地形や地図に関する基礎知識を有する者と教育を専門とする者を含む発表者らが協議を重ねて,防災のために理解すべき地形要素として,以下を特定した。山地・丘陵地については傾斜の大小と崖および谷線,低地については微高地(自然堤防,浜堤・砂丘)と後背湿地や旧河道である。言うまでもなく,これらは,土砂災害や洪水に関連する。</p><p> 上記の把握のために,以下の地図群を準備した。①作業用基図として,電子地形図25000に国土数値情報の小中学区境界を重ねて中学校区ごとにプリントアウトしたもの。学区によって異なるが,その縮尺はおよそ1/1~2万。②低地部の微地形を把握するための,治水地形分類図または土地条件図(地理院地図からプリントアウト)。③石巻市に関するハザードマップ:土砂災害(石巻市サイトからウェブGISで公開),北上川水系北上川および旧北上川洪水浸水想定区域図(国土交通省サイトからpdfで公開),津波避難地図(東日本大震災時の浸水深と避難場所等を示した地図,石巻市サイトからpdfで公開)。</p><p> 各学校から1名参加で,中学校区ごとにグループワークを行うこととした。上記の地図のうち②と③は中学校区ごとに関連するもののみ,グループに配付した。地図群の他には,中学校区別の避難所(緊急避難場所,避難所)リスト,ポストイット,カラーシール類,個人用ワークシートが配付された。</p><p>3 ワークショップ「学校区の地形に基づく災害リスクの理解」</p><p> ワークショップは以下のとおり進められた。①学区のハザードマップと地形図からわかることを考える(事前アンケート),②地形図を読み取るためのポイントを知る:読図の基礎として,地図記号(学校),等高線(混み合ってるところとあまりないところ),崖記号,等高線形状からわかる谷線等についてミニレクチャー,③微地形の理解を深めるために地形分類図の使用が有効なことを知る:等高線では地形がわからない低地部について地形分類図が有効であること,微高地(自然堤防,浜堤等),後背湿地,旧河道についてミニレクチャー,④学区の地形を読み取る:各グループの地形図上で学校の位置,山地と低地,崖,谷,微地形を確認してポストイット添付等グループ作業,学区の地形の特徴をワークシートに各自記入,⑤ハザードマップを読み取るためのポイントを知る:災害の種類とそれぞれの想定条件を確認した後,ハザードマップと地形(微地形)の関係についてミニレクチャー,⑥学区のハザードマップと地形図との関係を読み取る:起こりうる災害をグループで確認して,その種類と場所をワークシートに記入,⑦学区の緊急避難場所と地形との関係を理解する:災害種別ごとの緊急避難場所にシールを貼り,地形の特徴を踏まえて,ワークシートに記入,⑧研修のまとめ。⑨事後アンケート(記名と匿名)。</p><p>4 おわりに</p><p> 参加者の反応等から,複数の改善点が既に明らかになっている。さらに,事前,事後のアンケート結果に基づく詳細な検討を行い,防災のための地形ミニマム・エッセンシャルズの特定とその伝達方法の改善に努めたい。</p>
著者
湯田 ミノリ
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.2, 2007

<BR> フィンランドでは2005年より小中高において新カリキュラムがスタートした.そのカリキュラムでは,高等学校において,大変特徴的な変化が見られる.それは,地理(maantiede)の授業「地域調査(Aluetutkimus)」において,教員,生徒ともに地理情報システム(以下GIS)を必ず使わなければならなくなったという点である.この科目は,専門科目(syventävä kurssi)であり,選択科目ではあるものの,どの高校においても開設しなくてはいけない科目である.言い換えれば,すべての生徒たちにGISを使って学ぶ機会が与えられているのである.<BR> GISが高等学校でカリキュラムに組み込まれるようになった背景には,教科としての地理の位置づけと小学校低学年から行われている徹底した地図教育がある.<BR> フィンランドの学校教育において,地理は生物,科学,物理と同じ自然科学の分野に位置づけられている.中でも,生物と地理は同じカテゴリとされ,教員養成の場でも,互いに主専攻,副専攻としなければならないほど,密接な関わりを持つ.地理の位置づけは,初等中等教育におけるカリキュラムにも大きく影響している.<BR> 森と湖に囲まれたフィンランドにおいては,身近な環境としての自然環境を理解することから科学分野の学習が始まる.小学校1年から4年まで学ぶ「環境・自然科学(ympäristö- ja luonnontieto)」という教科では,身の回りの自然環境を題材に,科学的な知識を得ていくとともに,地図を読み,使う学習を行う.<BR> 小学校1年生から,空間認識を養うため,街の鳥瞰図に触れ,立体図形の認識が登場する.地図は,小学校2年生で登場し,普段使っている部屋の地図化,そして近隣から地球規模までさまざまな縮尺の地図に触れる.そして3年生では,実際の地形図の読み方,コンパスの使い方を学ぶ.そしてその地図と周辺地域を同一視できるようになる.低学年からあらゆる縮尺の地図とともに学習をしてきた児童たちは,その後,学年があがるに従い,地理が地理という独立した教科に派生していいき,学習の範囲が自分の住む州,国,北欧,ヨーロッパと広がり,人口移動や地域的な特徴や差異へと移っていっても,そのなかで自分たちの地域がどこに位置づけられ,それがどのように他と関連しているのかを理解していく.これらの一連の地図を読み解く学習,そして,すべての位置には情報があるという,GISの基礎的な考え方を学んだ上で,高等学校で,ソフトウエアの操作を授業に取り入れている.<BR> フィンランドの高等学校でGISを導入する理由は,生徒たちの空間的思考を涵養する,コンピュータの技術的知識を身につける,身の回りの問題を題材にした教授法の実施といった,世界的な地理教育の発展の傾向もあるが,フィンランドが教科横断的なテーマを多く扱っていることも大きな要因としている.<BR> そして,カリキュラム以外の部分でも,他のヨーロッパの国とも連携してGIS教育プロジェクトを行っていること,大学,そして現役の教員に対するGIS教育の充実などにより,GISを使った授業ができる環境を整えている.
著者
横山 秀司 中村 直史
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.98, 2007

<BR>1.はじめに<BR> 本研究は,福岡県の御笠川流域を例として,高度経済成長期以前の都市から山地までの景観構造を景観生態学的に明らかにし,現在との比較を試みたものである。まず,大正期に測図された1:25,000旧判地形図の土地利用をデジタル化し,それにデジタル化されたゲオトープ図(地形と地質)上に重ね合わせて,大正期の景観生態学図を作製した。そこで出現したポリゴンをエコトープとして判断した。それを,同様に平成10年測図の地形図から作製したエコトープと比較・検討する。<BR><BR>2.景観変遷<BR>2-1 大正時代の景観生態学図<BR> まず,前回作製した「福岡圏域の景観生態学図」から御笠川流域の地形・地質分類図を抜き出した。これをベースにして,大正時代の土地利用図をオーバーレイした。ただし,地形・地質分類図は平成時代のものであるので,人工改変地はすべて周囲の地形に合わせて,山地・丘陵,ないしは台地・段丘に修正した。「大正時代の景観生態学図」とも称すべきこの図では,11のエコトープに分類することができる。<BR> エコトープ1:流域の花崗岩からなる山地・丘陵部であり,森林で被われている。御笠川最上流部の宝満山周辺,牛頸川上流部の牛頸山地などに分布する。<BR> エコトープ2:花崗岩からなる山地・丘陵部であり,草地(茅場)として利用されていた。四王寺山地,三郡山地,高尾丘陵などでかなり広い面積を占めていた。<BR> エコトープ3:Aso-4火砕流堆積物に被われ山地・丘陵で,森林であるもの。二日市市街地から石崎付近までの西鉄大牟田線東側の丘陵部分に典型的に現れている。<BR> エコトープ4:Aso-4火砕流堆積物や段丘堆積物で形成された台地・丘陵上に立地した集落がのる。御笠川上流部の北谷集落,太宰府天満宮とその周辺,中流部の白木原,筒井,雑餉隈,井相田,上麦野・下麦野,諸岡,板付などの集落がこれに該当する。<BR> エコトープ5:Aso-4火砕流堆積物や段丘堆積物で形成された台地・丘陵上を森林が被う。御笠川上流部の北谷,水城の近くに位置する国分集落南に広がる緩斜面,二日市市街地の西などに見られていた。<BR> エコトープ6:台地・丘陵上の畑・桑畑である。エコトープ4の周辺や混在して島状に分布する。<BR> エコトープ7:台地・丘陵上の森林。春日原から雑餉隈付近,諸岡・牟田付近に島状に分布していた。<BR> エコトープ8:沖積平野上の集落域であり,御笠川の下流域に点在していた。特に,現在は福岡空港の敷地になっている地域に見られた。<BR> エコトープ9: 沖積平野の水田。御笠川とその支流の沖積低地および谷底平野に広く分布していた。<BR> エコトープ10:沖積平野の畑・桑畑。下流部の野入付近などに若干分布していた。<BR> エコトープ11:海浜・砂丘上の集落・市街地であり,博多の旧市街地はここに形成されていた。<BR> 2-2 現在の景観生態学図<BR> 大正時代のエコトープは現在どのように変化したであろうか。平成10年の景観生態学図からエコトープ毎に見てみたい。<BR> エコトープ1:御笠川最上流部の宝満山周辺,牛頸川上流部の牛頸山地などに残存する。<BR> エコトープ2,3,4,6,7,10:消滅ないしはほとんど消滅した。<BR> エコトープ5:御笠川上流部の北谷,水城の近くに位置する国分集落南に広がる緩斜面,二日市市街地の西などにわずかに残存。<BR> エコトープ8:大規模に拡大。<BR> エコトープ9: わずかに点在するのみとなった。<BR> エコトープ11:ほとんど変化なし。<BR> 以上のように,農業的土地利用はわずかに残存するのみとなり,森林も半減した。減少した部分は市街地に変化した。また,大正期にはなかったエコトープとして次のエコトープが新たに生じた。<BR> エコトープ12:火成岩地の人工改変地の市街地。春日市や大野城市の牛頸川上流山地・丘陵地のうち標高約150mまでの地域,および太宰府南の高尾山付近はほとんどが人工改変され市街地となった。<BR> エコトープ13火成岩地の人工改変地のゴルフ場・その他。12とほぼ同じ山地・丘陵域が人工改変され,ゴルフ場や霊園として造成されたエコトープである。<BR> その他,山地地域にはダム湖が造られ,河口には埋立地に市街地・工場等ができた。<BR><BR> 今後は,この景観生態学図の精度を高めることと,現地での景観生態学的調査を実施して,景観の構造と機能を詳細に明らかにしていきたい。
著者
グエン カオ・フアン 野間 晴雄 グエン ドック・カー チャン アイン・トゥアン
出版者
人文地理学会
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.588-605, 2006
被引用文献数
2

<p>本稿の目的は,ベトナム地理学の歴史を前近代の地理的知識の発達から現在の状況まで,その専門分野や方法・手法の変遷と制度や大学での地理学の教育から概観を試みることである。</p><p>前近代は中国の地誌の影響を受け,国家の土地問題や地方行政制度に有用な地理的知識が蓄積され,それらに関連した地図も作成されたが,地誌の体裁は中国の伝統的な形式を超えるものではなかった。</p><p>フランス植民地時代には旧来の地誌の形式を踏襲した自然,経済,歴史・政治地理,統計の4分法が用いられた。マスペロらによる古文書研究所での地名や歴史地理は注目される。自然地理学ではカルスト地形や洞窟学が考古学者や地質学者によって発達した。応用的な地理学分野としては工芸作物の適地利用,灌漑システム,気象観測所の適地調査,フランス人のためのヒルステーション立地などが研究された。</p><p>1930年代になるとフランスの人文地理学の影響が顕著となり,ロブカンやグルーが北部ベトナムの地誌や土地利用研究で活躍した。とりわけグルーの『トンキンデルタの農民』(1936)は空中写真や詳細な地形図を駆使した不滅の業績であるが,第二次世界大戦以後のベトナム地理学では長く忘れられた存在であった。</p><p>現代の地理学は1954年から75年までが一つの画期となる。モスクワ大学を頂点とするソビエト地理学の圧倒的な影響下にあって,地質学,地形学が中心となった。ベトナムの戦後第一世代の多くがこの時期に共産圏諸国の留学生によって占められた。1975年に南北ベトナムの統一が達成されたが,メコンデルタや中部の研究に特色が見いだされる。</p><p>1986年以降のドイモイによる経済開放によって,アングロサクソン系地理学のさまざまな手法や概念が英語メディアを通じて徐々に入ってきたが,その歩みは遅々たるものだった。その間に,リモートセンシングやGISの手法による地域計画が国家事業の観点から重要な役割をにない,地理学の地位を高めた。</p><p>大学における地理学はハノイ大学(現在はベトナム国家大学ハノイ校)の地質学・自然地理学を中心に,景観生態学や地形学,土地管理などの分野が中心の学部と,ハノイ教育大学,ホーチミン大学における経済地理,人文地理学中心のものに大別される。いずれもGIS,リモートセンシングなどを用いたツーリズムや応用地理学的な分野に特色を持つ。</p><p>ベトナムの地理学会は1988年に設立され,ハノイ大学を中心として5年ごと大会を開催しているが,定期刊行物はない。ほかにベトナム国立科学技術アカデミーにも研究者がいて,天然資源,環境,災害が主要テーマとなっている。</p><p>近年は「総合地理学」の名のもとに,人文地理学がベトナムでようやく力を持ち始めている。その対象とするのは人間が作った人文景観や中・小地域でのコミュニティ,都市・農村地理学で,現代ベトナム地理学の台風の目となろうとしている。その一方で,政策・計画や自然地理学と社会経済地理学を重視したソ連流の人文地理学も並存し重要視されている。</p>
著者
青山 雅史 小山 拓志 宇根 寛
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.87, no.2, pp.128-142, 2014
被引用文献数
1

<p>2011年東北地方太平洋沖地震で生じた利根川下流低地における液状化被害の分布を詳細に示した.本地域では河道変遷の経緯や旧河道・旧湖沼の埋立て年代が明らかなため,液状化被害発生地点と地形や土地履歴との関係を詳細に検討できる.江戸期以降の利根川改修工事によって本川から切り離された旧河道や,破堤時の洗掘で形成された旧湖沼などが,明治後期以降に利根川の浚渫砂を用いて埋め立てられ,若齢の地盤が形成された地域において,高密度に液状化被害が生じた.また,戸建家屋や電柱,ブロック塀の沈下・傾動が多数生じたが,地下埋設物の顕著な浮き上がり被害は少なかった.1960年代までに埋立てが完了した旧河道・旧湖沼では,埋立て年代が新しいほど単位面積当たりの液状化被害発生数が多く,従来の知見とも合致した.液状化被害の発生には微地形分布のみならず,地形・地盤の発達過程や人為的改変の経緯などの土地履歴が影響を与えていたといえる.</p>
著者
村山 良之 小田 隆史 佐藤 健 桜井 愛子 北浦 早苗 加賀谷 碧
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2020, 2020

<p>1 はじめに</p><p> 学校防災や地域防災の基盤として,当該地域の「地形」を理解し想定外も含むハザードマップの読図が求められる。防災のための最低限の地形の知識と,伝えるための取組が求められている。</p><p> 発表者らは,先に石巻市教委防災主任研修会で「学校区の地形に基づく災害リスクの理解」のためのワークショップを行い,報告した(村山他,2019)。より短時間のワークショップを,酒田市教委防災教育研修会で実践する機会を得た。本発表は,その内容について報告し,防災のための地形ミニマム・エッセンシャルズとその方法について,さらに検討するものである。ワークショップは石巻での実践を基に,酒田化し,一部簡略化した。</p><p>2 ワークショップの準備:地形と地図群その他</p><p> 洪水と土砂災害を想定し,地形要素として,山地・丘陵地については,傾斜の大小と崖および谷線,低地については微高地(自然堤防,砂丘)と後背湿地や旧河道を選択した。</p><p> 使用した地図群は以下のとおり。①作業用基図として,電子地形図25000に国土数値情報の小中学区境界を重ねた,中学校区の地図。縮尺1/1〜2万。②治水地形分類図(地理院地図)。③酒田市の土砂災害と洪水のハザードマップ(同市ウェブサイト)。他に,緊急避難場所リスト,ポストイット,カラーシール類,個人用ワークシートを使用した。ワークシートは,「酒田市学校防災マニュアル作成ハンドブック」の冒頭頁「学校と学区の現状」に対応しており,その改善を期待して設計された。</p><p> 市内の小中学校全29校のうち1校欠席,各校1名(1校のみ2名)参加(合計29名)で,7つの中学校区ごとにグループワークを行った。与えられた時間は,全体で約60分である。</p><p>3 ワークショップのプロセス</p><p> 目的が明瞭になるよう,タイトルを「防災マニュアルのさらなる改善に向けて−地形に基づく災害リスクの理解−」とした。①地形図を読み取るための</p><p>ポイントを知る:方位,縮尺,地図記号,等高線(混み合ってるところとあまりないところ),崖記号,谷。②微地形の理解を深めるために地形分類図の使用が有効なことを知る:低地部の微高地(自然堤防,砂丘等),後背湿地,旧河道。以上はミニレクチャー。③学区の地形を読み取る(グループワーク):地図記号で小中学校の位置を確認し,シールを貼りながら自己紹介。方位と縮尺(モノサシ),山と低地を確認し,崖,微高地,旧河道等にポストイット。④ハザードマップを読み取るためのポイントを知る:土砂災害の種類と発生場所,浸水域や浸水深の分布について,ハザードマップと地形(微地形)の関連について,ミニレクチャー。⑤学区のハザードマップと地形図との関係を読み取る(グループワーク):起こりうる災害を確認して,その種類と場所をシール,ポストイット貼り付け。⁶学区の緊急避難場所と地形との関係を理解する(グループ,個人ワーク):緊急避難場所にシールを貼り,地形の特徴を踏まえて,ワークシートに記入。⑦研修のまとめ:地形をふまえたハザードマップ読図法。</p><p>4 おわりに</p><p> 匿名の事後アンケート(下の表)によると,短時間のワークショップながらその成果は認められるが,課題も明瞭である。コメント(自由記入)は,おおむね肯定的ながら,地震や津波への期待も提示された。近く宮城県内での計画等があり,改善を重ねてこの取組を広めたい。</p>
著者
瀧本 家康 川村 教一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2021, 2021

<p>近年,日本では各地で豪雨や台風による災害が頻発している.大雨による災害である浸水域や浸水深は概ね沖積平野の微地形の分布や特性から説明が可能である.したがって,生徒に平野における気象災害と土地の特徴を関連付けて考察させるためには,地形図に加え,河川の周囲の地形分類図や地形断面図などを適宜併用させることが必要である.これらの地形分類図や地形断面図を見るには,国土地理院が運用しているウェブ地図「地理院地図」を用いることが有用である.そこで,本研究では,中等教育段階の生徒を対象とした地理院地図の基本的な機能の紹介と水害の自然素因の一つである小地形・微地形を見出させて,水害のリスクを認知させる実習教材を開発し,試行実践を行った.本実習では地理院地図の機能のうち,「標準地図」に加えて,「地形断面図」,「地形分類図」,「浸水推定段彩図」を用いて,これまでに起こった2つの水害を事例とした2つの実習教材を開発した.2つの実習教材ともに水害をテーマとして,地理院地図を用いて土地の特徴を捉えた上で,浸水被害の状況の差異や想定される洪水リスクの分析を行う課題である.実践の結果,ほとんどの生徒が地理院地図の断面図,重ね合わせ機能を適切に利用することができていた.実習直後に,地理院地図の使い勝手や本実習の意義等について調査した結果,ほとんどの生徒が地理院地図の使いやすさを実感したとともに,本実習を通して,河川地形や地形と水害の関係などについて興味関心が高まったと回答した.</p>
著者
岡谷 隆基 研川 英征
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2021, 2021

<p>1.はじめに</p><p> 10年前に発生した東日本大震災は東北地方太平洋岸を中心に未曾有の災害をもたらし,津波が想定浸水範囲を超えて発生したことなどから「想定外」という言葉が多く用いられた。しかしながら,地震や豪雨などに伴う災害は現在の地形や地盤をもたらした土地の成り立ちを強く反映して発生するものであり,地形分類図などの地理情報は人々に起こりうる災害への想像力を「想定外」を超えて働かせることに寄与すると考える。国土地理院はそうした情報を従前より整備してきた。</p><p> 他方,国土地理院は地理空間情報当局として,前身を含めて1世紀以上,地形図を作成,刊行している。当該地形図は,小中学校の社会科や高等学校の地歴科などにおいて,地図を学習する基盤としても長くその役割を果たしてきている。他方,20世紀末からはウェブ地図やカーナビの地図など,我々が普段目にする地図には情報通信技術の急速な発展を背景としたデジタルのものが急速に増えている。国土地理院でもデジタル化の流れに対応すべく,数値地図などのデジタルプロダクトの作成・刊行,電子国土Webシステムや地理院地図などのウェブ地図の整備・公開に取り組んできた。先述した地形分類図なども地理院地図の主要なコンテンツの一つである。</p><p> 本発表は,国土地理院が重点的に改善を行ってきた地理院地図の取組の経緯等について,地理教育や防災教育への波及などを念頭に置きながら報告するものである。</p><p></p><p>2.地理院地図の進化</p><p> 国土地理院は,国土に関する様々な地理空間情報を統合し,コンピュータ上で再現する仮想的な国土として「電子国土」の概念を提唱し,この概念を実現するためのツールとして,平成 15 年に電子国土Webシステムを公開した。以降も改良を重ねる中で,オープンソースソフトウェアの積極的な採用を進め,平成25年に「地理院地図」を公開し,ウェブブラウザのみならずスマートフォンや PC 用の地図表示ライブラリからも地図データが利用できるようになった(北村ほか,2014)。</p><p> 以降も,様々なコンテンツや機能が追加実装され続けているが,地理教育や防災教育に活用できる機能の強化も進んでおり,例えば以下のようなものが追加された(国土地理院,2021a)。</p><p>・空中写真の全国シームレス化,地下震源断層モデルの3D表示の実現(平成28年度)</p><p>・断面図作成,標高段彩機能の実装(平成29年度)</p><p> 地理院地図はhttps://maps.gsi.go.jp/から利用できる。また,教育における活用事例なども地理院地図の使い方ページ(国土地理院,2021b)に示している。地理院地図のコンテンツの拡充や機能強化の取組を通じ,今後起こりうる災害への想像力を働かせることに寄与できると考える。このような取組を通じて,今後も防災・減災に寄与していきたい。</p><p></p><p>参考文献等</p><p>北村京子・小島脩平・打上真一・神田洋史・藤村英範(2014):地理院地図の公開.国土地理院時報,125,53-57.</p><p>国土地理院(2021a):過去のお知らせ.</p><p> https://maps.gsi.go.jp/help/notice.html(最終閲覧日:2021.1.10)</p><p>国土地理院(2021b):地理院地図の使い方.</p><p> https://maps.gsi.go.jp/help/intro/(最終閲覧日:2021.1.10)</p>
著者
小林 茂 渡辺 理絵
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.58, 2005

演者らはここ数年来、第2次世界大戦終結まで日本がアジア太平洋地域で作製してきた地図について、地域環境資料として評価するとともに、その作製過程にアプローチしてきた。近代国家における地図作製への関心のたかまりに応じて(Edney, 1997; トンチャイ, 2003)、日本についても関連の研究を展開する必要が大きいと判断されたからである。この結果、日本の旧植民地における地形図作製は、土地調査事業と密接に関係しつつ展開されたこと、さらに陸地測量部と密接な関係がもちつつも、非軍事的色彩がつよいことが注目された。本報告では、この概要を紹介し、共通する特色について検討する。1. 植民地における土地調査事業の展開 日本の植民地では、初期より土地所有の近代化にむけて土地調査事業が積極的に推進された。台湾では臨時台湾土地調査局(1898-1905年)、朝鮮では朝鮮総督府臨時土地調査局(1910-1918年)、さらに関東州でも関東庁臨時土地調査部(1914-1924年)によってそれぞれ実施され、土地台帳や地籍図が整備された。この意義については、多方面から検討される必要がある(宮嶋, 1994)が、いずれでも地籍図作製に際し三角測量により図根点が設定され、それにもとづく地籍原図を縮小しつつ地形図の作製にいたっている。2.三角測量の導入と地形図の作製 地籍図作製への三角測量の導入は、沖縄土地整理事務局による同種の事業(1899-1903年) が最初であり、台湾では沖縄の事業の視察後にこれを決定した(江, 1974, p. 135)。ただし朝鮮・関東州の場合は、事業当初より導入を決定していたと考えられ(『朝鮮土地調査計画書』1910年、「関東州土地調査事業概要」1923年)、これが標準化していったことがうかがえる。他方沖縄県で実施に至らなかった地形図作製については、台湾・朝鮮・関東州いずれでも当初予定していなかったが、事業開始後しばらくして付帯的な事業として実施することにした点は注目される。3.目賀田種太郎(1853-1926)の役割 沖縄県の土地整理事業における三角測量の採用は、これを指揮した当時の大蔵省主税局長、目賀田種太郎の指示によるものとされている(『男爵目賀田種太郎』1938, pp.250-251)。目賀田はこれ以前に大蔵省地租課長などとして地価修正と地押調査を推進しており、この指示はその時の体験をふまえたものである。また目賀田は、のちに韓国財政顧問(1904-1907年)として朝鮮の土地調査事業の準備に関与し、三角測量の導入を指示している(p.498-499)。くわえて目賀田は、1901年台湾総督府に赴任する宮地舜治(殖産局長)に地図をつくるようすすめたという(p.253)。台湾の地形図(堡図)作製のための作業は1902年から開始され、時期的にも符合するので、これが土地調査事業にともなう地形図作製の発端になった可能性がある。なお、目賀田はベルギーとフランスにおける類似の事業に関心をもっており(pp. 168, 253-255)、これらの指示や勧誘との関係をさらに検討する必要が大きい。4.植民地における地図作製の非軍事的性格 上記のように、大蔵官僚のイニシアティブにより、非軍事機関によって作製された地形図の刊行には、台湾の場合は台湾日々新報社、朝鮮の場合は朝鮮総督府、関東州の場合は関東庁が関与し、要塞地帯などをのぞいて、各地域で最初の本格的近代地形図となった点も留意される。