著者
高橋 勇希 小口 純矢 高道 慎之介 矢野 昌平 猿渡 洋
雑誌
研究報告音声言語情報処理(SLP) (ISSN:21888663)
巻号頁・発行日
vol.2020-SLP-132, no.22, pp.1-3, 2020-05-30

音響インパルス応答(IR)の測定には,Maximal Length Sequence や Time Stretched Pulse などの測定信号の利用が一般的である.通常,被測定系に人間が含まれるかどうかは考慮されないため,これらの測定信号が人間に与える聴覚印象が無視されている.他方,新たな生体認証として,人間の外耳道の音響インパルス応答が提案されており,個人に応じた音メディア提示などへの応用が期待されている.この被測定系は人間の聴覚器官を含むため,受聴者の心理的ストレスが小さい測定信号を利用すべきである.そこで本研究では,人間にとって心地よいとされる自然環境音での IR 測定手法,クラウドソーシングを利用した主観評価と周波数分析を用いた評価指標を提案する.実験的評価結果より,(1) 測定信号としての妥当さと聴覚的な心地良さを両立する自然環境音が存在すること,(2) 板倉斎藤擬距離に基づく測定信号選定は,雑音環境下の高精度IR測定にあまり寄与しないことを明らかにする.
著者
柴嵜 雅子 シバサキ マサコ Masako Shibasaki
雑誌
国際研究論叢 : 大阪国際大学紀要 = OIU journal of international studies
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.111-129, 2005-10-31

Eichmann is usually considered a colorless bureaucrat who unthinkingly followed criminal orders. Hanna Arendt's report on his trial has been mostinstrumental in coining this image. Drawing on newly found documents, however, a number of historians criticize her for misrepresenting the willing accomplice aswell as the process of the Holocaust. This paper first depicts Adolf Eichmann in contrast with the portrayal by Arendt. He was actually an eloquent and highlycompetent team leader who traveled very often to fend off or iron out conflicts with other authorities involved in the deportation. Secondly, I will examine thecomplexities of convicting him, for his murderous acts were <legal> in the Third Reich and the modern criminal law, based on abrogating vengeance, keeps thevictim out of the loop.
著者
伊津野 重満
出版者
文教大学
雑誌
文教大学国際学部紀要 = Journal of the Faculty of International Studies Bunkyo University (ISSN:09173072)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.19-30, 1993-01-01

After the USSR was dissolved, circumstances have qickly changed politically, economically and ideologically.Austria and Switzerland, permanently neutral states, which have been member states of the EFTA, have wanted to become member states of the EC since 1961. The USSR, Czechoslovakia and so on have, however, objected to their becoming member states of the EC because it would violate their legal status as neutral states. So permanently neutral states above mentioned and Sweden, ocasionally neutral states, could not become member states of the EC notwithstanding their wishes. That is because, if neutral states obtain membership in the EC, in the future they may be obliged by the EC to apply economic sanctions against belligerents due to it's common economic policy.But nowadays the concept of permanent neutrality ― immerw?hrende Neutralit?t ― and occasonal neutrality ― gelegentliche Neutralit?t ― is strongly affected by the dissolution of USSR and is changing.As is widely known, today the Republic of Russia as a successor of USSR is no longer a super power which could prevent neutral states from becoming member states of the EC, and has not the political motive to do so. It is therefore essential to consider for the future what the legal obligations of neutral states at present are.From the viewpoint of traditional international law, the auther tries to describe the obligations of occasonal neutral states in war time and permanently neutral states in peace time.
著者
中山 遼 寺田 努 塚本 昌彦
雑誌
エンタテインメントコンピューティングシンポジウム2017論文集
巻号頁・発行日
vol.2017, pp.123-130, 2017-09-09

着ぐるみの動作練習において,事前に装着して練習できる環境は少ないため,演者は着ぐるみを装着せずに練習をすることが一般的である. しかし,着ぐるみの構造は人間と異なっており,装着経験の少ない演者にとって,着ぐるみの動作練習をすることは難しい. そこで本研究では,ユーザが効果的な着ぐるみの動作練習ができるように,ユーザのポーズに応じて,着ぐるみ装着時のポーズを視覚提示するシステムを提案し,システムの有用性を検証する評価実験を行った.
著者
安達 祥子 笠井 陽介 熊野 七絵
出版者
国際交流基金
雑誌
国際交流基金日本語教育紀要 = The Japan Foundation Japanese-Language Education Bulletin (ISSN:24359750)
巻号頁・発行日
no.19, pp.15-30, 2023-03

「いろどり日本語オンラインコース」は、教材『いろどり生活の日本語』をオンラインコース化したもので、様々な制約により日本語学習の機会が得られない学習者が自学自習できるコースである。開発のコンセプトは、①生活場面で必要な日本語が学べる、②学習者が必要なところだけカスタマイズして学べる、③ストレスなく学べるの3点とし、これらを実現するため、動画や練習コンテンツの制作などを行った。また、コースサイトやページを、だれでも迷わず使えるようにデザインした。コンセプトが実現できているか確認するため分析を行ったところ、ユーザー属性から、想定していたユーザー層が利用していること、ユーザーの行動フロー分析やユーザーアンケートの回答から、それぞれのコンテンツがねらい通りに利用されていることが確認できた。また、ページの閲覧回数やアプリのインストール数から、動画や練習コンテンツのアプリが活用されていることもわかった。
著者
熊谷 公男
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.179, pp.229-268, 2013-11-15

最北の城柵秋田城は,古代城柵のなかでも特異な存在であり,また歴史的にも大きく性格が変化する点で興味深い存在である。本稿は,秋田の歴史への登場から元慶の乱まで秋田城の歴史をたどり,秋田城の歴史的特質を明らかにしようとするものである。秋田城の起源は天平五年(733)に出羽郡から秋田村に移転した出羽柵である。この秋田出羽柵は,律令国家の版図のなかで北に突出した場所に位置し,北方交流の拠点であったが,通常の城柵とちがい領域支配は著しく未熟であった。その後,仲麻呂政権の城柵再編策によって桃生城・雄勝城が造営されると,出羽柵は秋田城と改称され,陸奥国と駅路で結ばれて,孤立した立地はある程度改善されるが,領域支配の強化が蝦夷との対立をまねいて防備が困難となり,宝亀初年には出羽国から秋田城の停廃が要請される。中央政府もそれを承認するが,まもなく三十八年戦争が勃発し,城下住民が南の河辺郡への移住を拒んだために廃城は先送りされる。山道蝦夷の制圧を前提とした桓武朝の城柵再編が秋田城の歴史の大きな転機となる。胆沢城・志波城の造営によって陸奥国の疆域がようやく秋田城と同じラインまで北進し,また払田柵(第二次雄勝城)が造営されたことで,秋田城の孤立した立地が解消される。さらに秋田郡が建置されて,通常の城柵のように城司―郡司の二段階の城柵支配が行われるようになる。その後,城司の支配がおよぶ「城下」が米代川流域にまで拡大され,秋田城の支配体制が飛躍的に強化される。その結果,百姓の「奥地」への逃亡や,城下の蝦夷村の収奪強化などの新たな矛盾が生まれる。これは一方で「奥地」(米代川流域・津軽地方)の社会の発展を生み出すが,もう一方で城下の蝦夷村の俘囚たちの反発をまねき,やがて元慶の乱が勃発する。
著者
和田 誠 古賀 聖治 野村 大樹 小達 恒夫 福地 光男 Makoto Wada Seizi Koga Daiki Nomura Tsuneo Odate Mitsuo Fukuchi
雑誌
南極資料 = Antarctic Record (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.271-278, 2011-11-30

2009年に就航した新「しらせ」には,改造した20 ftコンテナを船上実験室として搭載するスペースが確保された.第51次日本南極地域観測隊では,このコンテナ実験室の内部に大気中の硫化ジメチル濃度を測定するためのプロトン移動反応質量分析計を収納し,観測を実施した.本稿では,コンテナ実験室の概要と今後改良すべき点等について報告する.
著者
石井 玲真 深井 貴明 品川 高廣
雑誌
研究報告システムソフトウェアとオペレーティング・システム(OS) (ISSN:21888795)
巻号頁・発行日
vol.2023-OS-159, no.12, pp.1-10, 2023-05-09

近年の IaaS 型クラウドでは,ユーザーが独自のハイパーバイザを実行できるネステッド仮想化がサポートされるようになってきた.ネステッド仮想化では,クラウド事業者のハイパーバイザが,CPU のハードウェア仮想化支援機能をエミュレートすることにより,ユーザーのハイパーバイザを実行可能にするが,仮想化支援機能は非常に複雑であるため,ネステッド仮想化の実装にもしばしば脆弱性が発見されている.脆弱性を発見する手法としてはファジングが有効であることが知られているが,ネステッド仮想化に単純にファジングを適用すると,(1) 入力として特殊な CPU 命令列が必要,(2) 仮想マシンの状態空間が膨大,(3) CPU 機能の有無による挙動変化,といった問題によりカバレッジを向上させることが難しい.本研究では,ネステッド仮想化のファジングにおけるカバレッジ向上に向けて,(1) 異なる特権レベルで指定した命令列を実行できる特殊な小型ハーネスの導入,(2) 適切な仮想マシンの状態を生成できる有効状態判定器の導入,(3) ハイパーバイザの起動時パラメータのミューテーション,といった手法により,正しい状態と不正な状態の境界領域を効率的にファジングすることでカバレッジを向上させる手法を提案する.実験により,提案手法は syzkaller と比べてネステッド仮想化のコードカバレッジを 17.9% 向上させることができることを確認した.また,提案手法を用いて KVM をファジングしたところ,ネステッド仮想化における未知の脆弱性を発見し CVE ID が割り当てられた.
著者
打田 素之
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
神戸松蔭女子学院大学研究紀要. 文学部篇 = Journal of the Faculty of Letters, Kobe Shoin Women's University : JOL (ISSN:21863830)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.31-42, 2019-03-05

Boys Love をテーマとするマンガは、過激な性行為を描きながらも、男性向け成人マンガとは明らかな相違を見せる。性行為の場面において、男性向けマンガが常に女性の裸を提示することに専心するのに対して、BL ジャンルは〈受け〉と〈攻め〉の両方の身体を描写する。これは女性が両者に感情移入可能な性であるばかりでなく、〈攻め〉=男性としてふるまいたいという欲望を持っていることも示している(ファルス願望)。この欲望は、精神分析学的には、〈父〉の登場によって母の独占を禁じられた女児が、父に「変身」することによって、父が母を所有していたように母を得ようとしているのだと考えられる。しかし、母と同じ性である彼女にそれがかなうはずがない(=彼女がまとっている父の性は「仮装masquerade」でしかない)。そこで、娘は性的体制が確立する以前(=前エディプス期)の母との関係の回復を目指す。そうすることで、彼女は母との合一を果たし、性器体制の外にある愛を成就しようとする。ここにBL ジャンルが同性愛をテーマとした理由がある。女性達は、ファルス願望の実現を通して、実は「非性」という「同性愛homosexual」の物語を楽しんでいるのである。