著者
白石 美雪
出版者
国立音楽大学
雑誌
音楽研究 : 大学院研究年報 (ISSN:02894807)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.17-32, 2012

本論文は、1898(明治31)年の『読売新聞』に掲載された署名入り音楽関係記事を読解することによって、明治期における「音楽批評」の形成を活写しようとするものである。明治初期から新聞雑誌では政治的、道徳的な観点による音楽改良が論じられ、さらに専門雑誌『音楽雑誌』では音楽理論や音楽研究をテーマとした論文が発表されてきた。しかし、音楽会での演奏そのものを対象とした「批評」が成立するためには、外在的な価値観だけでなく、批評家と音楽そのものの間の内在的関係が必要となる。具体的には「批評家」自身が音楽の専門知識をもち、演奏家や作曲家の専門性を批評しようとする態度が生まれて初めて、「音楽批評」が成立するといえよう。このような認識のもとに、具体的には「演奏批評」を意図して計画的に長文で執筆し、さらには「楽評」自体を批評する論考が執筆される段階となった1898(明治31)年の『読売新聞』の音楽批評全19点を取り上げ、「批評」、「批評家」という認識、批評家としての姿勢、演奏の評価基準等を分析した。『読売新聞』を対象にしたのは文芸批評、演劇批評、美術批評の連載評論の伝統をもっていたからであり、とくに1898年に注目したのは、同声会や音楽学校の演奏会、慈善演奏会のほか、1月から明治音楽会の演奏会が定期的に開催され、日本音楽会の活動も再開して、西洋音楽を含む演奏会の数が格段と増えた年だったからである。その結果、年頭に「明治三十年の音楽界」を書いた会外生から、「演奏批評」を書いた神樹生、霞里生、楽石生(伊澤修二)、四谷のちか、なにがし(泉鏡花)、藤村(島崎春樹)、そして楽評を批評した聰耳庵まで、「音楽批評」が自覚的に形成されたことを確認することができた。すなわち、会外生は洋楽の知識と聴取経験による音楽観にもとづいて音楽会を「論評」し、神樹生は身体化した西洋音楽の音感覚から「音楽会批評」「演奏批評」のスタイルを確立し、自ら「批評家」を名乗って「素人評」と区別した。神樹生の共同執筆者である霞里生や、神樹生の執筆機会を継承した伊澤修二は、その批評スタイルを踏襲している。「素人」を自称した泉鏡花や音楽学校選科生の島崎藤村、四谷のちかもまた、自らの知識と経験を生かしつつ、神樹生の批評スタイルを意識した。聰耳庵または坂部行三郎と伊澤修二との論争は、東京音楽学校とその関係者の評価をめぐる内容ではあったが、そこで展開されたのは文字通りの「音楽批評家」批評であった。
著者
小澤 健志 間 晃郎 古宮 照雄
出版者
木更津工業高等専門学校
雑誌
木更津工業高等専門学校紀要 (ISSN:02857901)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.45-52, 2010-02

16世紀末になると、魔女狩の非合理性を批判する懐疑主義が台頭し、レジナルド・スコットらが著作を世に問うた。これに対して、ジェイムズ一世は、スコットランド王時代の1597年に『魔神論』で応え、17世紀初期英国民の間に魔女熱を昂揚させた。続くチャールズ一世治下では、魔女に関する出版は低調だったが、清教徒革命期に論争は再燃し、妖術に関する著作も盛んに刊行された。しかし時代の潮流はすでに逆転しており、やがて懐疑派が実在派を凌ぐようになった。
著者
古賀 崇
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント : 記録管理学会誌 (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
no.64, pp.67-76, 2013-03-31

筆者は2011年6月に共著書として『研究ベース学習』を上梓した。本書は「おもに大学1年生向けに研究を体験してもらうための指南書」として書かれたが、その内容は記録管理の領域で研究に取り組もうとする人々、特に現場での業務に従事しながら論文執筆を行いたいと考える人々にとっても有益なものと考える。そこで本稿では、『研究ベース学習』での筆者担当部分などに基づき、「研究活動に際しての学術文献の探索・読解・評価」と「論文執筆の方法」を概説する。
著者
邱 静
出版者
[出版者不明]
巻号頁・発行日
2007-09

制度:新 ; 文部省報告番号:甲2555号 ; 学位の種類:博士(学術) ; 授与年月日:2008/3/15 ; 早大学位記番号:新4699
著者
橋本 千代子 松本 安代
出版者
日本国際保健医療学会
雑誌
国際保健医療 (ISSN:09176543)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.87-92, 2012-03-20 (Released:2012-04-10)
参考文献数
16

バングラデシュにおいて、看護・助産教育のカリキュラム作成や看護・助産師の認可はBangladesh Nursing Council (BNC)が行うと法的に定められている。BNCは看護・助産師教育カリキュラムの改訂を行い、2006年よりDiploma Nursing Courseとして新カリキュラムで教育を行っている。新カリキュラムでは、患者中心のケア、クリティカルシンキングのできる看護・助産人材の養成、コミュニティ中心の看護・助産のニーズに合わせて、看護・助産人材の能力強化を行うことを目標としている。しかしながら、Diploma Nursing Courseのみでは保健人材不足を補えず、民間の行う看護・助産教育もCertificate Nursing Courseとして存続している。看護・助産教育の移行期にあるバングラデシュでは、今後看護・助産の質向上のための教育の強化とともに、保健人材の量的不足へどのように対処していくかが課題である。
出版者
日経BP社
雑誌
日経情報ストラテジ- (ISSN:09175342)
巻号頁・発行日
vol.20, no.5, pp.35-37, 2011-06

計画停電や福島第一原発の放射能漏れ事故など、東日本大震災は東北地方や北関東だけでなく首都圏も巻き込み、企業の事業活動に甚大な損害をもたらした。特に企業を悩ませたのが計画停電だった。多くの企業が事業計画の練り直しを迫られた。ここまでの事態を想定して事業継続計画(BCP)を立てていた企業は恐らく皆無だろう。
著者
吉川 俊夫 岩田 博之 中原 崇文
出版者
愛知工業大学
雑誌
総合技術研究所研究報告 (ISSN:13449672)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.11-17, 2003-07-20

The use of waste chips from high-speed grinding processes was examined as an electrically conductive filler in an epoxy resin. The chips were mixed with the liquid epoxy resin, and the mixture was magnetized by being passed through a solenoid coil. The mixture was then cured in an oven. High content of the chips, strong magnetizing currents and high precure temperatures increased the final conductivity of the cured product. By this method, cured products having electrical resistivity of 10^2Ω・cm were obtained.
著者
牧 勝弘 木村 敏幸 勝本 道哲
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. EA, 応用音響 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.111, no.89, pp.71-76, 2011-06-16
参考文献数
7

バイオリンは,様々な方向に音を放射している。我々は,これらの音を全て直接的ではないにしろ聞いている(部分的には,壁等からの反射音として到来)。本研究では,演奏者の周囲に球状マイクロホンアレイを設置することでバイオリン演奏者を記録し,バイオリン音の聴感に重要であると考えられるそれらの空間放射特性を解析した。その結果,バイオリン演奏者の放射方向は,水平面では概ね前方斜め左,矢状面では周波数に依存して真下から真上まで広い範囲に分布していることが分かった。また楽曲演奏中は,同じ分析周波数であっても時間により放射方向が大きく変化し,プロ演奏者間での差異は主に放射指向性の強さに現れることが明らかとなった。
著者
日高 友郎 水月 昭道 サトウ タツヤ
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1208, (Released:2014-03-28)
参考文献数
29
被引用文献数
1 1

本研究では市民と科学者の対話(科学コミュニケーション)の場であるサイエンスカフェでフィールドワークを行い,両者のコミュニケーションの実態を集団研究の文脈から検討した。目的は第1 にサイエンスカフェの記述的理解,第2 に集団の維持要因についての検討である。結果は以下の2 点にまとめられた。第1 に参加者の関心の多様性(KJ 法による),第2 に科学者―市民間の会話は,第三者であるサイエンスカフェ主催者(「ファシリテーター」)が介入することで維持されていたこと(ディスコース分析による)である。集団成員間に専門的知識や関心などの差がありながらも,ファシリテーターの介入によって,両者の「双方向コミュニケーション」が実現され,集団が維持される可能性がある。これはサイエンスカフェにとどまらず,専門家と一般人のコミュニケーションが生起する場の理解,またそのような場を構築していくにあたって示唆的な知見となるであろう。
著者
ゲラー ロバート 河合 研志
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

マントルの地震学的構造とその地球化学的性質を明らかにすること、特に、核-マントルの相互作用と共進化の理解に貢献することを目指し、我々はより高解像度の地球内部構造を推定するための独自の手法(波形インバージョン)を開発してきた。波形インハージョンは走時などの2次データではなく、地震波形そのものをデータとして用いて情報を最大限抽出し、これまでになく高い解像度でD”領域の構造を推定する手法である。本研究ではその手法を三次元不均質構造に適用できるように拡張し、同手法を使用して中米下及び西太平洋下のD”領域の局所的3次元S波速度構造を推定した。

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著者
大蔵省印刷局 [編]
出版者
日本マイクロ写真
巻号頁・発行日
vol.1913年10月18日, 1913-10-18
著者
野木 恵一
出版者
海人社
雑誌
世界の艦船
巻号頁・発行日
no.594, pp.70-75, 2002-04
著者
芝崎 厚士
出版者
財団法人 日本国際政治学会
雑誌
国際政治 (ISSN:04542215)
巻号頁・発行日
vol.2002, no.129, pp.44-60,L9, 2002-02-28 (Released:2010-09-01)
参考文献数
56

This article aims at introducing a brief overview of the theoretical perspective of International Cultural Relations (ICR, Kokusai Bunka Ron). ICR employs two meanings of “culture”, one is culture sensu stricto (CSS), the other is culture sensu lato (CSL). In order to understand ICR as one of the new fields of study in International Relations, one would have to elucidate how CSS and CSL are applied into international relations respectively and how these two analyses could be integrated as ICR.The study of ICR based on CSS has two traditions. Both regard ‘culture’ as elements from which the actor or some relations (composed of these actors) are constructed. Students of ICR use CSS in order to examine how ‘culture’ is used inside the reality of international relations.One tradition generated by the study of diplomatic history in the United States from 1970s, was conducted by Akira Iriye and his successors. They insisted on the need to interpret international relations as intercultural relations, rejecting the realist, power oriented approaches which dominated the field. They also tried to change diplomatic history into ‘international history’, which seeks to overcome the somewhat narrow-minded nationalistic view of diplomatic history.The other tradition was initiated in the study of International Relations in Japan from 1970s, launched by Kenichiro Hirano and his disciples. They borrowed their approach from anthropology, especially acculturation theory, which captures culture's dynamic changes and reconstructing processes. Basically they perceive international relations as cultural relations, which implies that international relations need not only to be interstate relations, and international relations are only one part of many cultural relations. They seek to establish ‘mobile International Relations’, which opposes traditional ‘immobile International Relations’.CSL studies consists of two parts. One is ‘international relations (ir) as culture’; the other is ‘International Relations (IR) as culture’. Students of ICR use CSL when they want to understand how ir or IR would look like from outside of the IR discipline, from the historical point of view. Unfortunately, the research stock is not so abundant in the study of ICR based on CSL. However, some recent studies indicate that CSL will be one of the most important future fields of study.Thus, ICR students have to deal with two notions of cultures. Sometimes they apply CSS, which focuses on how international relations could be explained by culture as elements of actors or groups of actors. Sometimes they adopt CSL, which explicates how and why international relations are generated in the history of mankind and International Relations invented in the history of ideas. ICR must deal with these two tasks, which could be accomplished both by the work of a single individual or though collaboration.
著者
中沢 次夫 稲沢 正士 小林 節雄
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー (ISSN:00214884)
巻号頁・発行日
vol.28, no.6, pp.491-494, 1979

カエルの体成分に起因するアレルギー症状(気管支喘息, 皮膚炎)を呈した稀有な1症例を経験したので報告する.症例は31才, 女性, 実験助手, 昭和42年, 食用ガエル(bull frog;Rana catesbeiana)の脳波壊実験を開始し1年後からカエルにさわると皮膚〓痒感出現, 昭和52年9月, 実験中に脳の付着した注射針を右中指に誤刺したところその部が腫脹, 20分後, 喘鳴呼吸困難が出現した.脳破壊実験に使用したbull frog 3匹から脳をとり出し作製した抗原液を用いて行つた各種アレルギー検査では, PK反応が陽性で, RAST値はscore 3であり, 特異的IgE抗体を証明しえた.一方, モルモットのheterologous PCA反応やゲル内沈降反応を用いて検索した特異的IgG抗体は検出できなかつた.これらのことから, 本例のアレルギー症状はbull frogの体成分に起因するものであり, それに対する特異的IgE抗体との反応, すなわちI型アレルギー反応の結果生じた症状であることが考えられた.