著者
村上 保壽
出版者
山口大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1988

1.空海の密教思想における超越論的構造をさぐるために、今年度は十住心思想の論理的展開の構造に中心を置いて研究した。その結果、第一住心から第十住心までの展開構造が、二重の意味で三段階の展開になっているという知見を得た。2.すなわち、空海の十住心思想は、従来、竪横の二元的二重構造によって理解されてきたが、この構造では、その論理的展開が充分に把握することができない。すなわち、住心間の展開の必然性がダイナミックに説明できないからである。そこで、世間心の三住心の論理が否定の論理であることに注目した結果、十住心思想の論理が弁証法的な三段階の展開になっていることが分かった。3.以上の知見から、世間心の三住心は、閉ざされた世界-開かれた世界-閉じられた世界の三段階の世界構造であると把握することができた。その結果、この三段階の世界構造は十住心世界全体においても妥当し、世間心-出世間心-第十秘密荘厳心という三段階の心の展開であり、その世界は、閉ざされた-開かれた-閉じられた世界構造になっているという知見を得たのである。4.この研究のさらなる発展のためには、第十住心の世界が世間心と出世間心との総合であること、しかしその論理がたんなる否定の論理ではなく、最高の肯定の論理であることを論証する必要がある。それとともに、空海に大きな影響を与えた『釈摩訶衍論』の研究と「不二」概念についての考察の必要がある。
著者
吉野 朋美
出版者
中央大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

3年間の研究で、本研究での一つの目的であった院政期の歌人源俊頼の自撰家集『散木奇歌集』の全訳注として春・夏・悲嘆部・雑部上に取り組むことができ、俊頼詠の特徴を考察する機会を持てた。また、俊頼歌論のテキストデータ化、抜書本の調査もおこなうことができた。もう一つの目的であった、後世における源俊頼享受の実態については、中心に扱った後鳥羽院における俊頼の位置づけについて論文にまとめることができ、また和歌作品以外での俊頼享受の実態を示す新資料二点を報告することができた。
著者
大島 慶一郎 小野 純 清水 大輔
出版者
日本海洋学会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.115-124, 2008-02-29

オホーツク海の陸棚上の流速場をよく再現している3次元海洋循環モデルを用いて,粒子追跡実験を行った.モデルは日々の風応力と月平均の海面熱フラックスで駆動されている.アムール川からの汚染物質等の漂流・拡散を想定して,アムール河口に起源を持つ海水の0m層と15m層における粒子追跡実験を行った.15m層では,粒子を投下する月・年に拘らず,10月一気に東樺太海流が強まるのに伴って粒子はサハリン東海岸沖を南下し始め,12〜1月に北海道沖に到達する.表層0mでは,海流だけでなく風によるドリフトの効果が加わり,粒子の挙動は年によって異なる.沖向きの風が強い年ほど,粒子は東樺太海流の主流からはずれてしまい,北海道沖までは到達しない傾向が強くなる.2006年2〜3月に知床に漂着した油まみれの海鳥の死骸の起源を探るため,後方粒子追跡実験を行った.その結果,海鳥は北方から,おそらくはサハリン東岸のどこかから東樺太海流に乗って知床に漂着したであろうことが示唆された.
著者
日野 秀逸 吉田 浩 尾崎 裕之 関田 康慶 藤井 敦史 佐々木 伯朗
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

本研究では、第1に高齢化社会に対応した福祉・経済社会システムの事例研究として、最も福祉水準が高い北欧のリーダー的存在であるスウェーデンを事例として取り上げた。ここでは、日本との対比もしながら、スウェーデンの1990年代改革を分析し、スウェーデンの福祉国家再生・発展における地方分権と協同組合の役割を検討した。第2に、高齢者福祉に関する地域モデルの構築に関し、具体的には宮城県の市町村の福祉財政に焦点を当て、介護保険制度における介護者の意識と実態に関する研究として、在宅サービス提供者に対するアンケート調査を行った。その結果、「介護の社会化」、「在宅サービスの市場化」などに介護者の意識が変化していること、介護サービスに関するニーズが変化していることなど、行動学の面から介護者の現状が明らかになった。第3に、福祉NPOの実態を調べるため、阪神高齢者・障害者支援ネットワークの事例を通してNPOにおける<市民的専門性>の形成について検討した。また、神戸のコミュニティ・ビジネスと社会的企業に関して、神戸市において、主として対人サービスを行うコミュニティ・ビジネスに関してフィールド・ワークを行った。その結果、神戸のコミュニティ・ビジネスが、幅広いソーシャル・キャピタルを基盤として成立している一方、行政委託への依存体質が強いことなどが明らかとなった。第4に、高齢社会における財政の役割を、財政社会学の観点から評価を行った。現代国家はいずれも憲法やその他の法律上では公共の福祉を尊重しているが、日本においては、福祉政策に適した財政システムと、現実の福祉政策との間に大きなギャップが存在する。こうした現象の説明として、新制度学派の説く制度の「補完性」原理は有益ではあるが、国家の相対的自律性を説明するには不十分である。ドイツ財政学から生じた「財政社会学」はこの点を既に指摘していた。深刻な財政危機が生じている現在の日本で、財政社会学の再評価は不可欠である。第5に高齢社会における世代間の不均衡の問題を定量的に検討するため、社会保障をはじめとした世代間の拠出、受給の状況、生涯純受給の格差について、所得再分配調査のデータに基づき世代会計の手法を援用して検討した。その結果、今後100年間の政府の財政収支を均衡させるためには、将来世代に現在世代に比して1.5倍あまりの一世帯当たり約4,900万円の追加的な負担が必要であるという結果も得られた。この世代間の格差を公平にするため、より早い時点で受益を削減する改革が将来世代に望ましく、2005年で改革する場合は、およそ35%の受益を削減すれば良いという結果が得られた。また2期間の世代重複モデルを用いて高齢化と財政政策、社会保障政策を動学的にシミュレートした結果によると、短期の減税、ベビーブーム世代の存在の中で高齢化、世代間所得移転政策の存在は、資本蓄積に大きくかつ長期のネガティブな効果を及ぼすことがわかった。
著者
高村 誠之
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告オーディオビジュアル複合情報処理(AVM) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2006, no.102, pp.71-76, 2006-09-29
参考文献数
21
被引用文献数
6

Distributed Video Coding (DVC) は、近年主に欧米において研究の高まりをみせている新しいパラダイムのVideo符号化方式である。H.264/AVC等従来の符号化の枠組みでは、符号化側が冗長性を削減した結果をエントロピ符号化し、情報圧縮を実現しているのに対し、DVCの枠組みでは、従来方式と同じ符号量を伝送しつつ、復号側で動き補償を行い従来方式と同等の復号品質を得ようとする。その理論的裏づけは1970年代のSlepian、WolfおよびWyner、Zivらの研究に端を発する古典的なものであるが、近年のDVC要素技術の性能向上、ネットワーク環境の変化に伴うDVC応用先の広がりなどが契機となり、シーズ・ニーズの両面から研究者の注目を集めることとなった。本稿では、DVCの理論、実装方法、研究動向を述べた後、性能改善や符号量制御等のDVCが抱える課題およびそれらの解決策を述べる。Distributed Video Coding (DVC), a new video coding paradigm, has recently been attracting researchers' attention, particularly in the West. Opposed to traditional coding frameworks such as of H.264/AVC, in which the encoder reduces the redundancy mainly by motion compensation, the decoder takes care of motion compensation in DVC framework, while maintaining both transmitted bit amount and decoded picture quality the same. The theoretical foundation of DVC dates back to the works of Slepian-Wolf and Wyner-Ziv in early 70s. Encouraged by recent advances of DVC-related technologies and of ubiquitous networking environment, more and more research effort has been devoted to DVC field. In this paper, after describing the theory behind DVC, its practical implementation and research trends, we will discuss its future-work items that deserve further improvement, which includes coding efficiency, rate control and so on.
著者
小笠原白也 著
出版者
春陽堂
巻号頁・発行日
1914

2 0 0 0 OA 見はてぬ夢

著者
小笠原白也 著
出版者
青木嵩山堂
巻号頁・発行日
1910

2 0 0 0 OA 南朝山河の秋

著者
小笠原白也 著
出版者
盛文館書店
巻号頁・発行日
1926

2 0 0 0 OA 白也文庫

著者
小笠原白也 著
出版者
白也文庫
巻号頁・発行日
vol.第2編 (その夜), 1926

2 0 0 0 OA

著者
小笠原白也 著
出版者
青木嵩山堂
巻号頁・発行日
1910
著者
岩井 圭司 冨永 良喜 鈴木 啓嗣
出版者
兵庫教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本来、防災教育はその災害時における実効性にとどまらず、ひろく精神保健、サイコエデュケーション、さらには人権教育、道徳教育につながるパースペクティヴを有している。しかし、防災教育と実際の防災計画との連携はこれまでのところ乏しいものであるし、その連携についての提言もほとんどなされていないのが実情である。そこで本研究では、防災計画と防災教育の統合をめざして、実効ある防災計画・防災マニュアルを同時に防災教育の教材としても活用可能なものとする方途をさぐった。昨年度われわれは、都道府県および政令指定都市の教育委員会の防災計画・防災マニュアルを収集し、その分析につとめた。その結果、教育委員会の防災計画は、自治体首長部局が作成した地域防災計画に比べて、通読可能性・携行性にすぐれるとともに、精神保健ないし「こころのケア」への配慮もより多く為されていた。しかし、一部を除いて防災教育との連携統合はまだまだ十分ではないことがうかがわれた。そこで今年度、われわれは、防災計画と直結した内容をもち、しかしただ単に防災計画の内容を覚えるだけではなく、児童・生徒たちが自分の安全を守るために自ら考え行動するための思考力とスキルを身につけるための教材を試作した。今回試作したのは、小学校3〜4年生向けに災害時の正しい避難の仕方を"イメージトレーニング"によって問題解決指向的に考えさせるための教材で、「イメトレで考えてみよう、避難のしかた」と題したカラー版8頁(表紙別)のものである。
著者
小佐古 敏荘 志田 孝二
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

研究は以下の2つの項目にわけて行なわれた。1.原爆爆発地点からの中性子の自由空気中の輸送現象の評価中性子の空中伝播特性を線量評価の観点から、主として大型計算機による中性子輸送計算法により評価した。計算に際してはレイエフェクト等の計算法に基づく誤差をさけるため最近のモンテカルロコードMCNPを用いた。2.広島の残留放射能の測定結果の解析評価広島の岩石中に残留する【^(152)Eu】の放射能測定を広島大学グループと共同でおこない、この結果を解析し原爆爆発時の中性子情報を得た。これらの結果は(1)広島大との共同の論文(1)形で米国Health Physics誌に投稿,印刷中(2)米国政府NCRP(放射線防護審議会)第23回年会で招待講演(1987年4月)(3)解析結果を中心とした論文とし米国Health Physics誌に投稿準備中である。(3)の論文の要旨を示すと‥‥「広島原爆の中性子線量再評価を元安橋橋柱の花崗岩中41.5cm深さの【^(152)Eu】残留放射能を用いておこない、爆心よりSSW方向1.32m地点における中性子線量(空気中ティシュカーマ)を15.5Gyであると実験的に評価した。これは従前のT65Dの値121Gy/12.5kt,Loeweらの値65.2Gy/15kt,Kerrらの値24.6Gy/12.5kt,DS86システムの値31.4Gy/15ktよりもさらに小さいものであった。これに対して広島原爆の弾頭部からの放出中性子の異方性を示す【IV】halenの実測データを用いた補正をおこなえば、これらは各々60.3Gy,27.1Gy,12.3Gy,13.1Gyとなることがわかり、地上での線量評価にはソース点での非等方効果を正しく評価する必要性が示された。また、ここでの実測値に元づくデータ、15.5Gyと、DS86のデータとから広島原爆の線源強度を推定すると17.7ktとなり、Kaulの最近の推定値17ktに近い数値となった。」‥‥となっている。
著者
小佐古 敏荘 志田 孝二 杉浦 紳之 岩井 敏 東郷 正美
出版者
東京大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1993

(1)自然界にはバックグラウンド放射線が存在し、キャリブレーションファントムの測定においてはバックグラウンド放射線の安定化を図ることが、精度の良いホールボディカウンタ測定のためには極めて重要である。このため、自然放射線のうち変動幅が大きいと考えられるラドン(気中放射能)をとりあげ、ラドン濃度の変化がホールボディカウンタ測定値に及ぼす影響、気象条件や測定室・鉄室の換気条件とラドン濃度の関係を検討した。この結果、大地からの影響を受けにくい建屋屋上に呼気口を設け、高性能Hepaフィルターを通す形で十分換気を行うことにより、安定したバックグラウンド測定条件を得ることができることが判明した。(2)体内被曝線量評価システムは、昨年度、開発したデータ処理プログラムのアウトプットとして得られる核種、体内負荷量の情報に加え、体内動態モデルとして国際放射線防護委員会(ICRP)が刊行物No.30で提示したモデルを採用し、そこから得られる初期負荷量、線量換算係数を組み合わせて構築した。(3)本計測システムの実用条件への適用性の評価のため、点線源、人体模擬ファントム(K-40,Cs-137)および人体についてそれぞれ測定し、放射性物質の位置・分布状態の違いによる16本の光電子増倍管を通して得られるエネルギースペクトルへの影響について検討を行った。その結果、点線源の測定結果から得られたスペクトル形状の変化、人体模擬ファントムと人体の測定結果の比較から、広く低濃度で分布する人体内の放射性物質の定量が可能であり、詳細な位置情報もある程度推定できることが明らかとなった。
著者
安藤 大 渡辺 浩志 林 泰仁 小谷野 浩 椎名 高之
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会ソサイエティ大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.1997, 1997-08-13
被引用文献数
2

近年, インターネットにおいて双方向のリアルタイム音声通信を行うインターネット電話という種類のアプリケーションが普及し始めている. また, インターネットと既存の電話網間でプロトコル変換を行い音声通信を可能とするゲートウェイ(GW)を用いて, <電話-GW-インターネット-GW-電話>の通信リンクを確立し, 通信料金を節約するサービスなども提案されている. しかし, これらのアプリケーションやサービスは, 基本的に独立したサービスとして提供されているため, インターネットと電話網を統合して扱える音声通信サービスが求められていた. 本報告では, インターネットと電話網を統合して音声通信を行うシステムの構成方法について検討し, 本システムの有効性について考察する.
著者
石光 泰夫
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

その初演形態が失われたロマンティック・バレエの代表作『ジゼル』の原初の振付を再現するために、初演以外の場所(ベルリン、ミュンヘン、ウィーン、コペンハーゲンなど)で資料調査を行った。その結果、初演当時の振付の再現にまでは至らなかったが、この作品の舞台面をさまざまな意味で構成していた文化史的・思想的・文学的な背景、また踊りの根本的性格そのものも、その多くを明らかにすることができた。
著者
大城 トモ子 国吉 和子 田中 寛二
出版者
沖縄大学
雑誌
地域研究 (ISSN:18812082)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.117-125, 2005-06-30

沖縄本島内の家族による老人介護の様子を実態調査した。介護負担は、要介護者の状態のみならず、介護内容によっても異なっていた。また、介護者は敬老の精神を持っており、ストレスに認知的対応をしていた。そして、介護負担過剰の時の虐待の危険性も否めず、介護者は支援を求めていた。