- 著者
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野田 朱美
宮内 崇裕
佐藤 利典
松浦 充宏
- 出版者
- 日本地球惑星科学連合
- 雑誌
- 日本地球惑星科学連合2015年大会
- 巻号頁・発行日
- 2015-05-01
房総半島南端部には沼Ⅰ~Ⅳ面と呼ばれる完新世海成段丘が発達している.このうち最低位の沼Ⅳ面は1703年元禄地震の際に離水した浅海底地形(波食棚から海食台付近)であることが知られており,元禄段丘面とも呼ばれる(松田ほか, 1974).この元禄段丘面と高位の沼Ⅰ~Ⅲ面の高度分布パターンが良く似ていることから,従来,沼Ⅰ~Ⅲ面も昔の元禄型地震によって離水したと考えられてきた(Matsuda et al., 1978; Shimazaki & Nakata, 1980; 宍倉, 2003).しかし,プレート境界地震の場合,地震時にすべった領域(震源域)はやがて再固着するが,それ以外のプレート境界では地震間を通じて非地震性すべりが進行するため,地震時の隆起・沈降パターンは時間と共に徐々に失われていき,最終的に残るのはプレートの定常沈み込みによる変動だけである(Matsu'ura & Sato, 1989).従って,沼Ⅰ~Ⅲ面の形成は元禄型地震の発生とは関係なく,その成因は太平洋プレートとフィリピン海プレートの沈み込みによる房総半島南端部の定常的な隆起運動と完新世の海水準変動に帰すべきものである(松浦・野田,日本地震学会2014年度秋季大会講演予稿集,D11-03).こうした考えの妥当性を検証するため,本研究では,波浪による浸食と堆積,地盤隆起,及び海水準変動を考慮した海岸地形形成モデルを構築し,房総半島南部の完新世海成段丘発達の数値シミュレーションを行った.海岸地形の形成過程は概念的に次のような式で記述される:標高変化=-浸食+堆積+地盤隆起-海面上昇.海岸での海-陸相互作用のモデル化に際しては,浸食レートは波浪エネルギーの散逸レートに比例し(Anderson et al., 1999),浸食によって生産された浮遊物質の堆積レートは岸から遠ざかるにつれて指数関数的に減少していくとした.また,房総半島完新世海成段丘の発達シミュレーションでは,地震性の間欠的な隆起運動は考慮せず,プレートの沈み込みに起因する定常的な隆起運動(Hashimoto et al., 2004)のみを考慮し,酸素同位体比記録に基づく平均海面高度の時系列データ(Siddall et al., 2003)を3次スプライン関数の重ね合わせでフィッティングした海水準変動曲線を用いた.海食崖と海食台は海水準変動曲線の変曲点(山と谷)付近で発達する.1万年前から現在までの海水準変動曲線には7つの変曲点(4つの山と3つの谷)があるため,7つの海成段丘が形成される.しかし,隆起速度が遅いと,形成された段丘の殆どは現海面下に沈んでしまい観測されない.隆起速度が早い場合でも,古い段丘と新しい段丘の重なり合いや逆転が生じ,段丘面の形成年代と現在の高度の対応関係は単純ではない.このことは,房総半島南部の完新世離水海岸地形の詳細な調査に基づいて,既に指摘されている(遠藤・宮内,日本活断層学会2011年度秋季大会講演予稿集,P-06).今回のシミュレーションでは,隆起速度を3~4mm/yrとすると沼Ⅰ~Ⅳ面に相当する明瞭な段丘面が発達することが分かった.但し,その場合でも,古い段丘と新しい段丘の重なり合いや逆転が生じているため,最高位の段丘面の形成年代が最も古いわけではないことに注意する必要がある.