著者
道場 親信 丸山 尚
出版者
和光大学現代人間学部
雑誌
和光大学現代人間学部紀要 = Bulletin of the Faculty of Human Studies (ISSN:18827292)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.175-242, 2013-03-19

本インタビューは、25年にわたって「住民図書館」の館長をつとめられた丸山尚氏のジャーナリストとしての半生を記録したものである。住民図書館とは1976年4月に設立され、日本各地の市民運動・住民運動や個人の発行するミニコミを収集・保存・公開してきた、市民の手弁当による自立的なアーカイヴであった。丸山氏のジャーナリストとしての人生は、1961年に『現代の眼』編集者となることから始まる。丸山氏は1971年に「日本ミニコミセンター」を設立するが、そこに至る10年の編集者時代の経験は、60年代出版ジャーナリズムの世界と深く関わり、広い人脈に連なっていた。同センターは3年の活動の後閉鎖されるが、76年に住民図書館館長となった丸山氏は、25年間この民間アーカイヴを守り続けた。本稿では、日本ミニコミセンター設立以前、ミニコミセンターの活動、それに住民図書館の活動を前期・後期に分け、丸山氏の活動に即して軌跡をたどっている。50年にわたる丸山氏のジャーナリストとしての軌跡を追うとき、市民・住民運動史とジャーナリズム史の交差する場所として氏と住民図書館の姿が見えてくる。
著者
岩本 陽児
出版者
和光大学現代人間学部
雑誌
和光大学現代人間学部紀要 = Bulletin of the Faculty of Human Studies (ISSN:18827292)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.109-128, 2023-03-17

本稿では、主に文献研究の手法により、奈良・平安朝エリートの邸宅という独特の空間に発生し、形を変えながら現在に続く「前栽」(せんざい)、中国に発生した花壇概念と室町期の「花壇」、江戸期の園芸書に見られた「花壇」の実態をまず確認した。次に明治以降を取り上げた。街路樹導入や都市公園建設と並行して、学校の校庭や民家にも花壇が普及した。しかし、街路の緑化は、戦後復興期の都市整備と、戦後創設された社会教育制度が中核的な役割を担った「新生活運動」の一領域である国土を美しくする運動、いわゆる「国土美運動」を待たなくてはならなかった。かくて都市のパブリックスペースに普及した花と緑の景観は、地方行政が新自由主義に転じる中で、新たなマネジメントの段階に入っていった。
著者
古瀬 徳雄
出版者
関西福祉大学研究会
雑誌
関西福祉大学研究紀要 = The Journal of Kansai University of Social Welfare (ISSN:13449451)
巻号頁・発行日
no.11, pp.19-28, 2008-03

エジソンが録音機器を1877年に発明した12年後,ブラームスがピアノで〈ハンガリー舞曲第1番〉をシリンダー録音し,後で「ブラームス」と叫んでいる声を放送で聴いた記憶があるが,この声は自身によるものか,他者が紹介している声なのか判別が難しいとされている.この頃,ドイツ音楽の巨匠の3大Bの一人である彼が,日本音楽と出会い,興味を示したといわれている.白いあごひげを蓄えたブラームスが,妙齢な女性の奏でる『六段』の箏の調べに耳を傾け,楽譜に見入る姿が四曲一隻の屏風に描かれている.プラームスの真髄は,ドイツ音楽そのものの伝統が隅々にまで浸透していることは言うまでもない.慎重な計画性と入念な仕上げは,重厚な表現を生み,絶対的な孤独や諦念に満ちた抒情性と秘められた憧れの表出が,質朴な人間性となじみながら深化し,浄福の味わいを持つに至っている.その彼が,日本文化の到来に刺激を受け,作品構造のひとかけらに,にじませていったものがあるのではないかと,その発見に取り組むことにした.そこで,1888年頃,『六段』をウィーンで聴取した年に一致する彼の作品《二重協奏曲》に焦点をあて,日本文化の作風への波及について論じたものである.
著者
高田 亨 中村 仁 鈴木 勝
出版者
電気通信大学
雑誌
電気通信大学紀要 (ISSN:09150935)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.167-172, 2010-02-15

The report management system was introduced into the Physics Laboratory class in the first-year curriculum. This class is a compulsory subject, and plays an important role in the education of our university. However, the management of students’ reports puts a heavy load on staff, associated with the lack of experience on experiment. We developed a new management system in order to reduce the load of report management. This system also enables us to grasp the status of students’ activities for the Physics Laboratory class in real time.
著者
小林 愛
出版者
麻布大学
巻号頁・発行日
2017-03-31

人と動物の関係に関する研究は、人と動物の心的つながりや、動物からの恩恵など今日までに様々行われている。特にコンパニオンアニマルからもたらされる恩恵は人と動物の日常的な関係から生じると考えられている。適切な社会化、人との良い経験、身体的接触は人と動物の関係の基礎であり、人と動物の情緒的つながりである絆の形成に寄与する。社会性の高い犬と比較し、猫は単独行動をする動物であることから、人から自由気ままな動物で、人に対して社交性がないという印象を受けている。しかし、近年人と猫の相互作用に関する研究が発展し、猫も人に対する社交性があり、人と直接的に関わりをもつことが明らかとなってきた。例えば、大人は猫に話しかけ猫が近づいてくるのを待つが、子どもは積極的に猫に近づくため、猫は子どもよりも大人を好むことが示されており、人側の関わり方により猫の行動が変化することが示されている。また、シェルターから猫を譲渡された飼い主に猫を選んだ理由を調査した研究では、猫の活発で友好的な行動を理由に挙げた飼い主が多く、猫の行動が飼い主の猫との関わりの起点となっていることが示唆されている。これらのことから猫との直接的な関わり方が人と猫の双方に影響し、関係性を変化させていくことが考えられた。そして関わりの場面における両者の行動学的ならびに生理学的な評価を得ることが、人と猫の関係の理解に重要と考えた。そこで本研究は人と猫の日常的な関わり方、特に人が猫をなでるという行為に着目し、人が猫をなでることによる人と猫への影響を生理学的に明らかにすることを目的とした。1章 日常的な人と猫の関わり方の調査と人から猫への愛着に関与する関わり方の抽出 愛着は幼児と母親の間で形成される情緒的絆の起点であり、個体間の関係性の根本をなす。人と猫においては、猫への愛着が高い飼い主は飼育放棄することが少ないことが報告されており、人と猫の間においても愛着を介した絆が存在する可能性がある。このことから、人と猫の両者の関係の評価として愛着に着目した。猫と飼い主の交流時間や交流内容が、家族構成や飼育環境の違いにより異なることが明らかとなっているが、どのような日常的な関わり方が猫への愛着に関係するかを明らかにした研究はない。第1章では猫の飼い主と猫の日常的な関わり方の調査研究を行い、飼い主の猫に対する愛着に関与した関わり方を明らかにすることを目的とした。猫の飼い主を対象にウェブにてアンケート調査を行なった。調査項目は4部構成であり、第一部は年齢や性別などの猫に関する基本情報17問、第二部は「猫に話しかけるか」、「猫は近づいてくるか」などの猫と飼い主の普段の関わり方についての21問、第三部は飼い主の猫に対する愛着34問、第四部は年齢や性別などの飼い主自身の基本情報の10問の回答を得た。有効回答数は602部であり、最も多かった関わり方は飼い主が「猫に話しかけること」(97%)であり、次いで「猫は飼い主になでられることが好き」(90%)であった。「飼い主が猫の要求を受け入れること」は61%、「猫とコマンドによる交流をする」は14%であった。「猫をなでる」と「猫の要求を受け入れる」は飼い主の猫への愛着に強く関与していた。この他にも「交流時間」、「猫が飼い主の近くにいる」、「コマンドによる交流」が愛着に関与しており、全て正の関連があった。第2章 猫をなでることによる人のストレス緩衝作用 第1章で明らかにした人の猫への愛着形成に関与する日常的な関わり方のうち、「猫をなでる」に着目した。これまでの研究でペットをなでることを含んだ交流は、人の血圧と心拍数の減少をもたらすことが報告されている。この効果が心疾患のリスクの軽減に寄与していると示唆されており、心疾患リスクの軽減の要因としてストレスの緩衝作用が考えられる。このことから猫との「なでる」を介した交流が人のストレスを軽減させると仮説を立てた。そこで第2章では、猫との交流が人のストレス負荷に与える生理的影響を調べた。 心疾患と猫アレルギーのない大学生11名(男性8名、女性3名、平均年齢21.1±0.3歳)を対象にした。11名のうち6名は供試猫と、5名は供試犬と普段から関わりがあった。実験の流れは20分の安静(pre)ストレス負荷として暗算(MA)5分、猫との交流、犬との交流、交流なしのいずれかを行う20分間の交流(Int)、15分安静(post)であった。3つの交流の順序はランダムであり、全て異なる日に行なった。本研究室で飼育している猫と犬各1頭が実験に参加した。人は唾液中コルチゾール濃度と心拍変動(HRV)、心理尺度(POMS2)、猫と犬をなでた時間を評価指標とした。また、猫と犬の評価も行いHRVと人になでられた時間を評価指標とした。HRV解析では時間領域解析を行いRR間隔であるRRI、自律神経全体の指標であるSDNN、副交感神経活性の指標であるRMSSDを算出した。RRI、SDNN、RMSSDはすべてpre、Int、post、に比べMAが有意に小さくなった。交流20分間のSDNNは交流なしよりも猫との交流で有意に小さくなった。唾液中コルチゾール濃度に有意差はなかった。POMS2の活気スコアの変化量は交流なしと比較し猫と犬との交流後で有意に高くなった。猫は人になでられていない時よりなでられている時にRRIが長くなった。猫のSDNNとRMSSDは人になでられている時となでられていない時で有意差はなかった。猫とは反対に、犬はなでられていない時はなでられている時に比べRRI、SDNN、RMSSD全てで有意に大きくなった。人になでられている時間と猫のRMSSDに正の相関がありSDNNとの相関関係はなかった。 以上の結果から、ストレス負荷課題は人にとってストレスとなり自律神経系を活性化させた。交流なしに比べ猫との交流でSDNNが小さかったことは、副交感神経活性には差がなかったため交感神経活性が抑制されたことが考えられた。従って猫との交流はストレス軽減効果がある可能性が示された。さらに猫や犬との交流により活気が増加したことから、猫と犬の交流は人のポジティブな気分を増加させることが示された。猫はなでられている時間が長いほどリラックスする、またはリラックスしているほど猫は人になでられることを受け入れることが考えられた。猫にとって人になでられることは、猫同士で行う相互グルーミングの役割となる可能性が考えられた。一方犬では、人になでられている時にリラックスせず自律神経系が活性化した。これは普段行なっている遊びやコマンドによる交流を期待していたことが考えられた。第3章 猫をなでることによる人の情動中枢への影響 2章で猫をなでることを含んだ交流により人のポジティブな気分の増加が示された。人は猫をなでるとき、猫の様子や行動を読み、猫のリラックスした状態を感じ「柔らかくて気持ちいい」などの情動が付随して起こることが予想される。このことから、猫をなでることは人の社会的情動の中枢に影響する可能性がある。社会的情動に関連のある脳部位として下前頭回に着目した。3章では猫をなでることが人の情動制御中枢に与える影響を明らかにすることを目的とした。 右利きで猫アレルギーのない麻布大学に在籍中の学生30名(男性10名、女性20名、平均年齢20.0±1.6歳)を対象に実験を行なった。猫は2章と同じ猫を用いた。頭部前頭葉に16ヶ所の血流量を評価できるNIRSを装着し、同時に胸部に心拍計を装着した。6つの接触課題(猫のぬいぐるみの背中に手を置く(TP)、猫のぬいぐるみを一定の速さでなでる(SP)、猫のぬいぐるみを自由になでる(FP)、本物の猫の背中に手を置く(TC)、本物の猫を一定の速さでなでる(SC)、本物の猫を自由になでる(FC))をランダムに行なった。各課題後に感情評価を行い、心拍データは心拍変動解析に用いRMSSDとSDNNを算出し自律神経活性を評価した。その結果、女性の右下前頭回ではぬいぐるみよりも猫に接触したときに活性が高くなった。さらに女性の右下前頭回の活性は人のRMSSDと正の相関、SDNNと負の相関があり、感情価はぬいぐるみよりも猫に接触したときに高かった。右下前頭回は表情やジェスチャーを見たときに活性することが報告されており、猫に触れたことにより活性した可能性がある。女性にとって猫に触れること、猫をなでることは快情動とリラックスを伴うことが示唆された。総合考察 猫をなでることは日常的に多く行われており、人の猫への愛着に関与することが示された。さらに、猫のリラックス状態と人になでられる時間は正の関係があった。これより猫がリラックスしている時になでることは直接的な関わりを長くすることにつながること、またはなでる時間が長いほど猫はリラックスすることが考えられた。そして人は猫をなでると快感情とリラックスを伴うことが示され、相互に作用していることが明らかとなった。人との良い経験と身体的接触は人と動物の絆形成に寄与することがいわれており、リラックスを伴う猫をなでる関わり方を繰り返すことは、人と猫の情緒的結びつきを生じさせる要因となる可能性が示された。男性への影響は検討の余地があるが、日常的に猫をなでることは人と猫の友好的な関係構築に有用であると考察した。
著者
冨田 幸祐
出版者
日本体育大学
雑誌
日本体育大学紀要 (ISSN:02850613)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.2013-2026, 2022

The purpose of this study is to analyze “Karafuto-yakyushi” to determine the history of baseball in Kara-futo. “Karafuto-yakyushi,” authored by Shojiro Ono, was published in 1940. The book contains records of baseball in Karafuto from 1929 to 1938. It primarily focuses on the performance of baseball teams in the city of Toyohara. However, it also includes records of youth baseball and baseball in cities other than Toyohara. Additionally, the book also contains critiques written by Ono, making “Karafuto-yakyushi” not only a collection of records, but also a reflection of the landscape of the Karafuto baseball from Ono’s perspective.
著者
姜 鶯燕
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 (ISSN:09150900)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.163-200, 2008-03-31

本稿は、須藤由蔵の手記である『藤岡屋日記』を素材に武士身分の売買と思われる事例を抽出し、近世中後期における武士身分の売買の実態について検討したものである。『藤岡屋日記』の中で十七の武士株の売買の事例が見つかった。分析の結果を下記のようにまとめる。
著者
佐藤 孝雄
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.107-134, 1993-03-25

アイヌ文化の「クマ送り」について系統を論じる時,考古学ではこれまで,オホーツク文化期のヒグマ儀礼との関係のみが重視される傾向にあった。なぜならば,「アイヌ文化期」と直接的な連続性をもつ擦文文化期には,従来,ヒグマ儀礼の存在を明確に示し,かつその内容を検討するに足る資料が得られていなかったからである。ところが,最近,知床半島南岸の羅臼町オタフク岩洞窟において,擦文文化終末期におけるヒグマ儀礼の存在を明確に裏付ける資料が出土した。本稿では,まずこの資料を観察・分析することにより,当洞窟を利用した擦文文化の人々がヒグマ儀礼を行うに際し慣習としていたと考えられる6つの行為を指摘し,次いで,各行為について,オホーツク文化の考古学的事例とアイヌの民俗事例に照らして順次検討を行った。その結果,指摘し得た諸行為は,オホーツク文化のヒグマ儀礼よりも,むしろ北海道アイヌの「クマ送り」,特に狩猟先で行う「狩猟グマ送り」に共通するものであることが明らかとなった。このことは,擦文文化のヒグマ儀礼が,系統上,オホーツク文化のヒグマ儀礼に比べ,アイヌの「クマ送り」により近い関係にあったことを示唆する。発生に際し,オホーツク文化のヒグマ儀礼からいくらかの影響を受けたにせよ,今日民族誌に知られる北海道アイヌの「クマ送り」は,あくまでも北海道在地文化の担い手である擦文文化の人々によってその基本形態が形成されたと考えるべきである。
著者
安念 潤司
出版者
中央ロー・ジャーナル編集委員会
雑誌
中央ロー・ジャーナル = Chuo Law Journal (ISSN:13496239)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.139-167, 2020-12-20

受験界で広く知られる「LRAの基準」について、薬事法違憲判決が述べているところをできるだけ厳密に再構成し、その上で、2012年の司法試験(論文式)の憲法の問題(設問は、筆者が適当に修正した)に適用する手順を解説した。