著者
加藤 貴
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.155, pp.59-85, 2010-03-15

江戸市民にとっての名所は、自然との交流と神仏との交感によって、「延気」を約束してくれる場所であった。江戸市民は、一八世紀以降になると、名所をめぐる広範な行楽行動を展開するようになっていき、江戸の近郊では、新たに多彩な名所が成立していった。その多くは、日本橋からほぼ半径二里半(約一〇キロメートル)の範囲におさまっている。ところが、本稿でとりあげた半田稲荷社は、江戸から四里の距離にある葛飾郡東葛西領金町村に所在しており、日帰りが不可能ではないが、江戸市民にいわば小旅行をさせたのは、それだけの利益を半田稲荷社が約束してくれたからである。当時の医学では対症療法しかなく、しかも罹患すると死亡率の高い疱瘡除の利益である。こうした半田稲荷社と江戸市民との関係を、信仰主体・願人坊主・江戸出開帳などからみていった。半田稲荷社の疱瘡除の利益を江戸で宣伝して回ったのが願人であり、板東三津五郎が歌舞伎の舞台で踊ってみせたことで、さらにその存在が江戸市民に周知されていった。しかし、江戸市民からの信仰を集め、多くの参詣者があったものの、それほどの潤いを半田稲荷社や金町村にもたらさなかったようである。ここに同じく江戸市民から信仰を集めた王子稲荷社や王子村との大きな違いがみられる。江戸からの距離が、王子稲荷社は二里半、半田稲荷社は四里と、それほどの違いにはみえないが、江戸市民にとってはこの一里半の違いが大きかったようである。また、王子が四季を通じた行楽地として、多くの江戸市民を集めたのに対して、半田稲荷社が疱瘡除の強力な利益を与えても、それだけで江戸市民を常時魅きつけることはできなかったようである。王子稲荷社と半田稲荷社の違いは、江戸市民の名所をめぐる日帰り行楽行動の範囲が、日本橋を中心に一〇キロメートルの範囲にとどまったことを再確認させてくれる。それでもなおかつ江戸市民が半田稲荷社に参詣したのは、疱瘡除の強力な利益を約束してくれたからである。
著者
岡本 眞理子 Mariko Okamoto
雑誌
日本福祉大学経済論集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.1-12, 2015-09-30

少額の融資をあつかうマイクロファイナンス機関は,発展途上国の農村住民,とりわけ女性達に金融へのアクセスを可能にし,金融インフラを実質的に提供してきた.しかし,その中には,メキシコのコンパルタモス銀行のように,実効年利子率が100%を超える高金利で無担保融資を行ってきたところがある.それらの金融機関の利子率はなぜそれほど高いのかについて,想定される諸要因を他のマイクロファイナンス機関と比較しつつ検討した.その結果,極めて小額であり短期貸し付けであることや,融資方法と地域特性のゆえに運営費が極めて高くなることが主たる要因であることを明らかにした.また,借り手にはなぜそれが受け入れられているのかについて,現実に支払われる利息額の小ささ故に事業を圧迫するものとはならないことを示し,また短期ローン利子率の年利換算が借り手にとっては重要ではない可能性を示唆した.
著者
佐々木 梨菜 鈴木 優
雑誌
エンタテインメントコンピューティングシンポジウム2017論文集
巻号頁・発行日
vol.2017, pp.100-104, 2017-09-09

これまで多くの人々がペットと共に生活してきたが、その生活環境は「人が快適に生活できること」が前提である場合が多い。本研究では、人がPCを用いた作業をしていると、ペットである猫がキーボードに上がるという例を採り上げ、飼い主がPCを使用しているそばで、猫がタブレットに触れて遊べるシステムを開発した。実際に複数の猫に試用実験を行い、その有用性を検証した結果、システムが有効に機能する猫の属性があることが示唆された。
著者
西川 治光
出版者
名古屋工業大学先進セラミックス研究センター
雑誌
名古屋工業大学先進セラミックス研究センター年報 = Annual report Advanced Ceramics Research Center Nagoya Institute of Technology (ISSN:21876738)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.17-22, 2015-07-31

The photo-induced activity and the thermally-induced activity of hydroxyapatite(HAp) were reviewed. It was shown that the trapped electron was generated in oxygen vacancy by UV irradiation or heat treatment. The organic pollutants can be oxidatively decomposed by the reaction with these active radical species. The similar properties of titanium dioxide were also discussed.
著者
土井啓成 戸田智基 中野倫靖 後藤真孝 中村哲
雑誌
研究報告音楽情報科学(MUS)
巻号頁・発行日
vol.2012-MUS-96, no.5, pp.1-9, 2012-08-02

歌声の声質には,歌手の個人性が反映されており,他者の声質に自在に切り替えて歌うことは難しい.そこで我々は,歌声の声質を他者の歌声の声質へと自動変換することで,任意の声質での歌唱を実現する手法を提案し,歌唱という音楽表現の可能性を広げることを目指す.従来,統計的声質変換に基づく歌声声質変換が実現されていたが,提案手法では様々な声質に少ない負担で変換可能にするため,多対多固有声変換を導入する.これにより変換時に数秒程度の少量の無伴奏歌声さえあれば,任意の歌手の歌声から別の任意の歌手の歌声への声質変換が実現できる.しかし,その声質変換モデルの事前学習データとして,ある参照歌手の歌声と多くの事前収録目標歌手の歌声とのペアから構成されるパラレルデータセットが必要で,その歌声収録は困難であった.そこで提案手法では,歌唱表現を模倣できる歌声合成システム VocaListener を用いて目標歌手の歌声から参照歌手の歌声を生成することで,その学習データ構築を容易にする.実験結果から提案手法の有効性を確認した.
著者
林 英一
出版者
獨協大学国際教養学部言語文化学科
雑誌
マテシス・ウニウェルサリス (ISSN:13452770)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.一-四一, 2015-11

The legend or the tradition of the island that sank in the sea is strongly related to “Kami” and is explained. Particularly, in "Heshima" of Kochi Prefecture and "Kanmurijima" of Kyoto Prefecture, an epiphany is connected with an island sinking in the sea. In "Heshima", an island sinks by intention of worshiped “Kami”, and, at this time, "Kami" begins to flow, but appears again afterwards. In "Kanmurijima", "Kami" gets down on the place where an island sank in the sea, and it is considered to be ancestor assumed ancestor Kami of “Kaifu-shi”, and the island comes to be recognized as “Tokoyo”. In "Okameiso" of Tokushima Prefecture, the next world was conscious of to the trace which an island sank in the sea, and after all existence of “Kami” was conscious of. These "Kami" was taken to explain a disaster or to explain the divine nature that was tired to the disaster, not “Kami” as the faith. Therefore we can think with "Kami" as the logic.
著者
末吉 春一 佐藤 喬
雑誌
第78回全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2016, no.1, pp.897-898, 2016-03-10

ビジュアルプログラミング言語は文法エラーが発生しないよう設計されている。このため、ビジュアルプログラミング言語はプログラミング初学者の入門教育に適している。実社会ではテキストベースのプログラミング言語が主流となっているため、プログラマにはテキストベースのプログラミング言語の学習が必須である。しかし、ビジュアルプログラミング言語の学習からテキストベースのプログラミング言語の学習への移行手段が少ないため、初学者はテキストベースのプログラミング言語を一から学習しなくてはならない。この問題を解決するために、本研究ではビジュアルプログラミング言語の学習からテキストベースのプログラミング言語の学習への移行を支援するシステムを開発した。
著者
加藤 修 飯塚 博幸 山本 雅人
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.57, no.11, pp.2354-2364, 2016-11-15

二人零和有限確定完全情報ゲームにおいてすでにAIは人間に匹敵する強さとなっており,最近では麻雀や人狼など,多人数ゲーム,不完全情報ゲーム,不確定ゲームが新たな研究対象として注目を集めている.そのような中で不確定ゲームとしてデジタルカーリングがある.デジタルカーリングはカーリングの二人用コンピュータゲームであり,AIどうしを競わせカーリングの戦略を解析することを目的とした不確定ゲームのテストベッドとして開発された.本研究ではデジタルカーリングにボードゲームの探索手法を適用し,投球目標座標と回転方向を候補手,盤面状態を局面としてデジタルカーリングにExpectimaxによるゲーム木探索を適用する手法を提案する.Expectimaxではゲーム木内で確率的に推移するノードを用いており,ゲームの不確定性を考慮した探索が可能となっている.提案手法の有効性を検証するため,不確定性を考慮する場合としない場合それぞれにおいて探索の深さを変化させ既存AIとの対戦実験を行った.その結果,提案手法による不確定性の考慮を行った場合に勝率が上昇し,また不確定性を考慮した場合のみ探索の深さを増やすことで勝率が上昇したことから,デジタルカーリングにおける提案手法による不確定性を考慮した先読みの有効性が明らかとなった.
著者
溝口 博幸
出版者
近畿大学工業高等専門学校
雑誌
近畿大学工業高等専門学校研究紀要 = Research reports Kinki University Technical College (ISSN:18824374)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.81-88, 2014-03-01

[Abstract] There are several institutes which use songs when teaching Japanese language. It seems, however, research on the effect of music in teaching Japanese seldom occurs. Therefore, to verify its effects, an investigation was conducted on affective strategies and memory strategies expected in the use of music (songs) at schools in which music was being used to teach Japanese language education. A questionnaire to students in Japan and South Korea was conducted to analyze the personal feelings toward Japanese study with music, and a skills test was conducted to evaluate the effectiveness of music when studying Japanese. The results of the questionnaire showed that students have a favorable impression toward the use of music teaching materials in Japanese language education, and that using music is an effective teaching method. This paper shows and considers the results of the investigation.
著者
秋山 一文 斉藤 淳 Kazufumi Akiyama Atsushi Saito 獨協医科大学精神神経医学教室 獨協医科大学精神神経医学教室
雑誌
Dokkyo journal of medical sciences (ISSN:03855023)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.207-212, 2006-10-25

脳には視床下部-下垂体-副腎皮質系(hypothalamiic-pituitary-adrenocortical axis, HPA系)とノルアドレナリン系というストレス反応を担う2つの系が存在する.急性のストレス反応を終焉させるためにHPA系全体に負のフィードバックが作動する.しかしストレス反応は長期化すればいわば「両刃の刃」としての性質をもつようになる.その引き金になるのがストレスの反復による海馬神経細胞への障害で,これにはbrain derived neurotrophic factor(BDNF)の減少が関与しているかもしれない.またストレスの反復によって脳内ノルアドレナリンの放出は感作される.精神障害は何らかの意味でストレスの影響を被るが,特にストレス反応を担うHPAの制御の障害が示唆される精神障害としてうつ病.外傷後ストレス障害(posttraumatic stress disorder, PTSD),摂食障害を取り上げた.いずれも遺伝的要因を含む脆弱性を有する個人に何らかのストレス負荷が加わり発症するという図式に共通点がある.しかしデキサメサゾン抑制試験で評価したHPAの制御障害の方向性はうつ病では非抑制,PTSDでは過剰抑制と相反している.MRIによるうつ病の画像研究では海馬の萎縮を認めた報告が多い.これがいつから始まるかという問題はストレスによる海馬神経細胞への障害の時間的経過という点で興味深いが更に今後の検討が必要と考えられる.近年,児童虐待が社会問題化しているが,被虐待児が後年になってうつ病,あるいはPTSDなど深刻な精神障害を高率に発症することが見いだされている.このようにストレスと精神障害との関係は大きな広がりを見せつつある.
著者
角田 博保 石畑 清 中谷 多哉子 Hiroyasu Kakuda Kiyoshi Ishihata Takako Nakatani
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告. コンピュータと教育 (CE) (ISSN:21888930)
巻号頁・発行日
vol.2015-CE-132, no.39, pp.1-12, 2015-11-27

2013 年 12 月,米国にて ACM/IEEE-CS によるコンピュータ科学カリキュラム標準 CS2013 が公表された.それまでの標準だった CC2001 の刊行後 10 年以上が経ち,その後継として作成されたものである.日本では,情報専門学科カリキュラム標準 「J07」 が 2008 年に公表されているが,現在,改訂への活動が始まりつつある.J07 は,CC2001 を元として作られたものであるので,CC2001 が CS2013 にどのように改訂されたかを知ることは重要である.本報告では,CS2013 と CC2001 を比べ,知識体系 (BOK) を中心に,どのように改訂されたのかを比較,考察する.
著者
飯塚 健介 武者 千嵯 天野 英晴
雑誌
研究報告システム・アーキテクチャ(ARC) (ISSN:21888574)
巻号頁・発行日
vol.2018-ARC-230, no.33, pp.1-6, 2018-02-28

高精度な画像認識や,物体検出を実現する畳み込みニューラルネットワーク (CNN : Convolutional Neural Network) は一躍注目されている.CNN は認識精度向上を目指し様々なモデルが提案されているが,計算量が増加する傾向にあり,より効率的な演算処理が求められている.しかし,汎用プロセッサではその要求を満たすことが困難なため,専用のアクセラレータの需要が高まっている.日本でも国立研究開発法人新エネルギー ・ 産業技術開発機構 (NEDO) が複数の FPGA,GPU,メモリなどの異種ノードを接続した大規模人工知能計算基盤 Flow-in-Clowd (FiC) を開発している.FPGA ノードは多数の高速リンクが接続され,FiC の高速通信のスイッチングを担う.FiC システムにおいて主演算を行うのは GPU ノードであるが,FPGA ノードもスイッチを実装した上で余った計算資源を利用して AI エンジンとしての役割を担うことができる.本研究ではマルチ FPGA システムに CNN モデルの 1 つであるGoogLeNet を実装し,評価することで GoogLeNet の高速化を図るとともに,マルチ FPGA システムの深層学習アクセラレータとしての活用ができるかを検討する.GoogLeNet が持つネットワークモデル特有の計算並列性,畳込み演算の計算並列性を利用したマルチFPGAシステムへの実装を行った結果,シミュレーション上で CPU の約 9.1 倍の高速化を達成した.