著者
妹尾 麻美 三品 拓人 安田 裕子
出版者
日本質的心理学会
雑誌
質的心理学研究 (ISSN:24357065)
巻号頁・発行日
vol.20, no.Special, pp.S140-S147, 2021 (Released:2022-04-28)

本研究では,予期せぬ妊娠を経験した女性が子どもを「産む」と決めた事例を,キャロル・ギリガンの議論から示唆を受けたケアの倫理を用いて,分析・考察する。これまでの研究は女性の「産まない」決定に焦点を当ててきたが,「産む」決定について十分には論じてこなかった。そこで,いばらきコホート調査による妊娠女性 48人への聞き取り調査のうち,「産む」決定について語られた 1 人の女性に焦点を当てる。女性は不安や苦悩を抱えながらも,身近な他者と話しあい,ときに拒絶もありつつ交渉し「産む」ことを決める。このプロセスのなかで, 女性は自分のこと,周囲の他者のことを考え,自他に配慮しながら責任を引き受けていた。それに対し,周囲の他者も女性の声に応答・配慮しており,ここにはケアの応酬が見られた。本研究では,女性とその周囲のケアの実践によって「産む」ことに対する不安を解消し,それを引き受けていくプロセスを示した。この結論から,互いへの配慮を基盤とする場の形成を促す必要が示唆される。
著者
柏原 全孝
出版者
日本スポーツ社会学会
雑誌
スポーツ社会学研究 (ISSN:09192751)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.51-62, 1996-03-19 (Released:2011-05-30)
参考文献数
11

プロレスはなぜスポーツではないのか。現実にプロレスはスポーツとしての扱いをされることはほとんどない。外見上はいかにもスポーツであり,「プロスポーツ」上として認知されるのにふさわしい人気規模をもっているにもかかわらず, プロレスはスポーツではない。この問題に, プロレスの内的特性から引き出された解答を与えることは簡単ではある。「プロレスは八百長だ」と言い切ってしまえばスポーツとして扱われない解答を得られたかのように錯覚できるからである。しかし, それではプロレスを真に論じたことにはならない。プロレスを「演技」という側面で捉えたところで, 現実にはプロレスが「芸能」として扱われたりしないからだ。すなわち, プロレスがスポーツでも芸能でもない根拠を見いだせない限り, プロレスを論じたことにはならない。そこで, プロレスを外的に, すなわちスポーツの側から位置づける論理を検討する。近代スポーツ成立のメルクマールをルールの明文化という点において捉えることで, 我々は近代スポーツの特有の困難を発見する。それは, 客観的でなければならないはずのルールが, その正反対の性格, 恣意性と偶然性を生まれながらもっていることである。この外傷的要素を抑圧することでルールは権威とともに現れることができる。ところが, 抑圧された恣意性と偶然性はルールを適用する場面において, レフリーの判断, 振る舞いを通じて再び現れる。プロレスにおいても, レフリーの判断, 振る舞いを通じて恣意性と偶然性が現れる。その意味でプロレスは完全にスポーツと同一である。しかし, プロレスはレフリーが過剰に恣意的に振る舞うことで, スポーツにおいて嫌悪される恣意性と偶然性の出現を露骨に暴露する。つまり, プロレスはスポーツに特有の汚点を公然と見せつけるがゆえにスポーツから排除されるのである。そして, プロレスはこの過剰なまでのスポーツ的性格ゆえに, 芸能とも見なされないのである。
著者
東邦電力株式会社 [編]
出版者
東邦電力
巻号頁・発行日
1942

9 0 0 0 OA 電気年鑑

著者
電気之友社 編
出版者
電気之友社
巻号頁・発行日
vol.昭和5年, 1930
著者
菅原 弘貴 藤谷 武史 瀬口 翔太 澤畠 拓夫 永野 昌博
出版者
Kanagawa Prefectural Museum of Natural History (Kanagawa Prefectural Museum)
雑誌
神奈川県立博物館研究報告(自然科学) (ISSN:04531906)
巻号頁・発行日
vol.2022, no.51, pp.47-59, 2022 (Released:2022-03-29)

サンショウウオ属の1 新種を、日本の愛知県西部から記載した。分子遺伝学的および形態学的解析の結果、ヤマトサンショウウオは愛知グループと近畿グループの二つに分けられることが示唆された。このため、ヤマトサンショウウオの愛知グループを、新種Hynobius owariensis sp. nov.(和名:オワリサンショウウオ)として記載した。形態比較の結果、調査した雄個体において、ヤマトサンショウウオが尾の上下縁に明瞭かつ鮮明な黄色線をもつのに対して、本新種ではこの形質が確認できなかった。さらに、雄個体において、体側に沿って前肢と後肢を伸ばした時、本新種は多くの個体が肋皺1 個分よりも離れるが、ヤマトサンショウウオでは多くの個体が肋皺1 個分以内(個体によっては重複する)に収まっていた。その他、両種間には有意に異なる形質が複数存在していることに加えて、判別分析の結果においても、雌雄共に形態的に区別可能であることが示唆された。本新種は愛知県の西部(知多半島から名古屋市周辺部)に固有であるが、既に絶滅したと考えられる集団も複数存在し、現在も開発や乾田化によって、絶滅の危機に瀕している。
著者
大隅 良典 安楽 泰宏 北本 勝ひこ
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本釀造協會雜誌 (ISSN:0369416X)
巻号頁・発行日
vol.80, no.1, pp.11-16, 1985-01-15 (Released:2011-11-04)
参考文献数
23
被引用文献数
1

液胞は酵母を始め植物細胞に存在し, 古くから細胞内の古くなった蛋白の再処理工場として, またアミノ酸などの貯蔵庫としての役割に関与していると言われながら, その単離が困難であったため不明な点が多かった。著者らの研究室では, 世界で初めて酵母液胞膜小胞の調製に成功し, それを用いて液胞膜ATPaseの精製, アミノ酸輸送系の解析等の液胞機能の解明が進んでいる。 本稿では, 最近の液胞に関する研究の現状と, それらと清酒醸造との関わりについて解説していただいた。